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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第17話 第2の悲劇/葛藤

三人称Side

とある駅のホーム。
そこの椅子に座っているさやかの姿があった。
不気味なほどの静けさに包まれた駅のホーム内に、突然足音が響き渡った。
それは杏子の物だった。

「やっと見つけた……」

杏子はそう呟くと、さやかの横に座り、どこから取り出したお菓子を食べ始めた。

「あんたさ、いつまで強情張ってるわけ?」
「悪いね、手間かけさせちゃって」

杏子の言葉に帰ってきたのは、いつにもなく弱々しい声だった。

「何だよ、らしくないじゃんかよ」
「うん。別にもう、どうでも良くなっちゃったからね。結局私は、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか、もう何もかも、わけ分かんなくなっちゃった」
「おい」

杏子の言葉をしり目に、さやかは自らのソウルジェムを取り出した。

「あっ!?」

さやかのソウルジェムを見た瞬間、杏子の表情は驚きで染まった。
さやかのソウルジェムは、にごり始めていたのだ。

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく分かるよ。確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって。一番大切な友達さえ傷付けて……」
「さやか、あんたまさか!?」

さやかの言葉に、杏子の中で嫌な予感が満ちて行った。
それはまるで、もう二度と取り返しがつかない事態になるのではないかと言うものであった。

「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。私達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだね」

さやかの目からは涙が流れていた。

「あたしって、ほんとバカ」

そしてさやかの涙がソウルジェムに当たった瞬間、突風が吹き荒れた。
さやかのソウルジェムは砕け散り、それは魔女の卵でもある”グリーフシード”へと姿を変えた。
それと同時にさやかの体は人形のように崩れ落ちると、突風に吹き飛ばされた。
姿を変えたグリーフシードは、一気に孵化した。

「さやかぁぁっ!!」

杏子の悲痛な叫び声が、突風の中で響き渡っていた。

Side out





午前2時。
俺はまどかと共に、線路を歩いていた。

「まどか、さすがに線路は危ないと思うぞ」
「………」

さやかを探しているのだが、さすがに線路は危険だ。
しかし、先ほどから俺の言葉に反応を示さない。
そんな時、前方から誰かの歩く足音が聞こえた。
顔を上げると、そこには……

「あっ」

暗い顔をした佐倉杏子と、暁美さんそして、佐倉杏子に抱きかかえられているさやかの姿があった。

「さやかちゃん!? さやかちゃん、どうしたの?」

まどかがさやかの元に駆けよる。
さやかの体は、まるで死人のようにぐったりとしていた。

「ね、ソウルジェムは? さやかちゃんはどうしたの!?」
「彼女のソウルジェムは、グリーフシードに変化した後、魔女を生んで消滅したわ」
「え……」

暁美さんの衝撃的な言葉に、まどかが地面に力なく座った。

「嘘……だよね?」
「事実よ。それがソウルジェムの、最後の秘密。この宝石が濁りきって黒く染まる時、私達はグリーフシードになり、魔女として生まれ変わる。それが、魔法少女になった者の、逃れられない運命」

今起きている状況を信じたくないまどかに暁美さんの冷たい言葉が降り注ぐ。

「嘘よ……嘘よね? ねぇ」

まどかは信じを飲み込めずに立ち上がり、佐倉の杏子の前まで歩いていく。
その時、ちょうど電車が通過して行った。
それがまた、空しさを醸したてていた。

「そんな……どうして……? さやかちゃん、魔女から人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ?なのに…」

まどかは地面に膝をついて俯いた。

「その祈りに見合うだけの呪いを、背負い込んだまでのこと。あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを祟りながら生きていく」

暁美さんは冷たくそう答えた。
そして俺は……。

「ふんっ。正義の味方が聞いて呆れる」

さやかの亡骸を冷たい目で睨みつけてそう言い放つだけだ。
すると、唐突に佐倉杏子がさやかの亡骸をまどかの前に横たえると、暁美さんの胸ぐらをつかんだ。

「てめぇは……何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいのか? 何でそう得意げに喋ってられるんだ。こいつはさやかの……さやかの親友なんだぞ!!!」

佐倉杏子は一瞬まどかに泣きつかれているさやかを見て、暁美さんを睨みつけると俺の方を睨みつけてきた。

「てめぇもなんで、そんなことが言えるんだ。お前もさやかの親友なんだろ!!」
「生憎と俺は屑のために泣く涙や優しさなど、微塵も持ち合わせてなどいない!! まあ、そんな高等な物が俺にあればの話だがな」

俺は佐倉杏子にそう言い放った。
その瞬間、彼女から殺気が飛んできた。

「だったら聞くが、俺はちゃんとあいつに救いの手を差し伸べたり、数度に渡って忠告もしたりもした。それを無下にしたり聞かなかったのはあいつ自身だ。それでもお前は俺が悪いと言えるか?」
「そ、それは……」

俺の問いかけに、佐倉杏子は答えられなかった。

「今度こそ理解できたわね。貴女が憧れていたものの正体が、どういうものか………わざわざ死体を持って来た以上、扱いには気をつけて。迂闊な場所に置き去りにすると、後々厄介な事になるわよ」

暁美さんは泣いているまどかに冷酷にもそう言い放つ。

「てめぇそれでも人間かっ!?」
「もちろん違うわ。貴女もね」

佐倉杏子の言葉に、暁美さんが冷たく言い返すと、そのまま姿を消した。
俺は、暁美さんの後を追った。










「おい、暁美さん」
「……何かしら? あなたに話すことは―――――」

俺は暁美さんの言葉を遮って話した。

「鹿目まどかは100%魔法少女になる」
「ッ!!!」

俺の宣言に、暁美さんが息をのんだ。

「どんなふうに計算しても、彼女が魔法少女にならなければ、この世界は破滅する。そこで相談――――――」

俺が協力をお願いしようとした時だった。

「ッぐ!!?」

どこから取り出したのか、銃を俺にめがけて撃ってきた。
銃弾は見事に俺の心臓に命中し、俺は衝撃のあまり跳ね飛ばされた。

「勝手な事を言わないで!! 絶対にまどかだけは魔法少女にはさせない!!!!」

いきなり銃を撃ってきたと思ったら、暁美さんはそう叫んで走って行った。

「……やれやれ。いくら俺が人間じゃないからって、痛いものは痛いんだぞ」

俺は文句を言いながら撃たれた部分に手を当てて修復させた。

「………帰ろう」

俺は帰路に着こうとしていたが、気づいた時にはファミレスにいた。
そこは、待ち合わせ場所などで使っていた場所だった。

『いやいやいや!?! あんたの方がよっぽど物騒だよ!! と言うより真剣!!?』

適当な席に座っていると、魔女退治の体験ツアーの時の事を思い出す。
あのころは、とても楽しかった。
俺もこれほど捻くれてはいなかった。

『それ以上いちごケーキを食べると体に毒だよ?』
「ッ!!!?」

俺は次々と思い出すさやかとのやり取りの記憶を振り払うように、ファミレスを後にした。
その後、俺は日が昇るまで走って走って走り続けた。
それでも、この心の中のもやもや感は消えなかった。










俺とまどかはいつものように通学路でもある川辺を歩いていた。

「まどかさん、渉さん。今朝は顔色が優れませんわ。大丈夫ですの?」
「うん……ちょっと寝不足でね」

まどかの表情は暗かった。

「はっ!! もしかしてついに渉さんと一線を!? いけませんわ!! 不純異性交遊ですわよ!!!」
「えぇ!?」
「話が飛び過ぎだ!!!」

相変わらず大げさに解釈してしまう仁美を何とか落ち着かせた。

「それにしても、今日もさやかさんはお休みかしら? 後でお見舞いに行くべきでしょうか……でも私が行っていいのか。今ちょっと、さやかさんとはお話しづらいんですが」

困ったように仁美は言った。
その原因を知っているだけに、俺は何も言えなかった。

「仁美ちゃん。あのね―――」

まどかが仁美に何かを話そうとした瞬間、

『昨日の今日で、のんきに学校なんて行ってる場合かよ』
「あっ?!」

突然佐倉杏子のテレパシーが聞こえてきた。
まどかはあたりを見回すと、あるビルの屋上を見た。

「まどかさん?」

まどかの見ている所には、人影があった。

『ちょっと話があるんだ。顔貸してくれる?』

佐倉杏子のテレパシーに、何かを決意した表情をすると、仁美の方を見た。

「仁美ちゃん、ごめん。今日は私も……学校お休みするね」
「え?!そんな、まどかさん、ちょっと」

まどかは仁美にそう言うと走って行った。

「だぁもう!! まどかが心配だから、俺も欠席する。何か良い言い訳をよろしく!!!」

俺は無責任な事を仁美に言うと、まどかの後をついて行った。

「え!? 待ってください!! 渉さん!!」

後ろから聞こえる声を無視して。

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第16話 絶縁と真の敵(後)

それから数日間、俺はさやかを見つけることが出来ずにいた。
だが、ある日の夜ようやく塔の様な建物の中に、さやかの気配を感じることに成功したため俺はその建物の中に入った。
そしてようやく見つけた。
さやかは疲労しているのか、フラフラと歩いていた。

「よ、久しぶりだな」
「……何よ」

俺の言葉に帰ってきたのは、冷たい声だった。

「いや~この間は殴り飛ばして悪かったな~と思ってな。それに対してのお詫びをしに来たんだよ」
「……いらないわよ。そんなもの」

俺の明るい声に、さやかは暗い声色で答える。

「まあまあ、聞くだけ聞いてって。早速だが、俺と手を組まないか?」

そして俺はさやかに切り出した。

「……どういう意味よ?」
「いやなに、俺もある目的があってここに来たんだ。その目的の情報を探しをしているのだがあいにくと難航している状態でな。そこでさやかにも探すのを手伝って貰いたい。本来であれば、お前のような馬鹿者にはこのような提案はしないのだが、この前の一件のお詫びをかねて誘っているんだ」

俺はどのような目的かをぼかして、さやかに話した。

「もし、俺と手を組むのであればさやか自身の問題を解決してあげよう。どうだ? 悪い話ではないはずだ。さあ、俺の手を取るがいい。そうすれば新しい明日が始まる!!」

俺はそう言ってさやかの前に片手を差し出した。
そして、さやかは手を上げると―――
俺の手を払った。

「いらないよ、そんなもの。あんたの力なんていらない」
「……まだわからないのか?お前には死相が見えるんだ!死相は死神を呼ぶ餌だ。このままだとあんた、死神に取りつかれて死ぬぞ!」
「あたしが死ぬときは魔女を倒せなくなったとき……それって用済みってことだよ」

俺の叫びにも、さやかはそう切り捨てると俺の横を通り過ぎる。

「そうか。そうかよ……お前は今後愚か者と呼ぶ!! もしお前が死んだとき、てめえの亡骸の前で大笑いしてやる!!!」

俺はそう叫んで、その場を後にした。
俺には、見えていた。
黒い鎌を持ってさやかの後を付ける者の姿を。





今俺は塔の建物の屋上にいた。
手には愛用しているスナイパーライフル(バレッドM82A1)を構えている。
そして俺はスコープで遠く離れた噴水のある場所を見ていた。
そこにいたのは、まどかとキュウベぇだ。

「私は……自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた。ずっとこのまま、誰のためになることも、何の役に立つこともできずに、最後までただ何となく生きていくだけなのかなって。それは悔しいし、寂しいことだけど、でも仕方ないよねって、思ってたの」

まどかの声が聞こえてくる。
これも俺の力の一つだ。
どんなに遠くにいても、対象者の声を常に聴くことが出来る。

「現実は随分と違ったね、まどか。君は、望むなら、万能の神にだってなれるかもしれないよ」
「私なら……。キュゥべえにできないことでも、私ならできるのかな?」

まどかはキュウベぇに静かに問いかけた。

「というと?」
「私があなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

俺は、いつでも撃てるように照準を合わせる。
俺の敵、キュウベぇに。

「その程度、きっと造作もないだろうね。その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?」
「さやかちゃんのためなら……いいよ。私、魔法少女に……」

その言葉を聞いて、俺は慌てて引き金を引こうとした時だった。

(ッ時間が!!)

突然時間が止まったかと思うと、キュウベぇの体が撃ちぬかれた。
突如現れた、暁美ほむらによって。
やがて、時間が動き出した。

「わっ!?」

見事に撃ちぬかれたキュウベぇの亡骸を見て驚くまどかだが、その後ろにいる暁美さんはM92Fを地面に落とした。

「ひっ」

銃の落ちた音にまどかは慌てて後ろに振り向く。

「ひ……ひどいよ、何も殺さなくても」
「貴女は、なんで貴女は、いつだって、そうやって自分を犠牲にして」

暁美さんはまどかの方に迫りながらまどかに向かってまくし立てた。
だが暁美さんの声はいつもの冷たいものではなく、悲しみが伺えた。

「え?」
「役に立たないとか、意味がないとか、勝手に自分を祖末にしないで! 貴女を大切に思う人のことも考えて! いい加減にしてよ! 貴女を失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気づかないの! 貴女を守ろうとしてた人はどうなるの!」

暁美さんは一気に叫ぶと地面に膝をついた。

(………まさか)

この時、俺は直感で今回の事の真実が見えたような気がした。
だが、まだ確証がない。

「ほむらちゃん」

暁美さんに駆け寄ろうとしたまどかは、混乱したような表情をした。

「私たちはどこかで……どこかで会ったことあるの? 私と」
「そ、それは……」

まどかの言葉……何より暁美さんの答えで確証が得た。
どうやら俺の仮定は、正しいようだった。

「ごめん。私、さやかちゃんを探さないと」
「待って、美樹さやかは、もう」

カバンを手にしてその場を去ろうとするまどかを引き留めようとする暁美さんだが、まどかは後ずさって行く。

「ごめんね」

そしてまどかは走って去って行った。

「待って! まどか!!」

その後ろ姿を見て暁美さんは嗚咽を上げた。

「無駄な事だって知ってるくせに。懲りないんだなあ、君も。代わりはいくらでもあるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体ないじゃないか」

突然聞こえたのは撃ちぬかれたはずのキュウベぇの物だった。
そしてキュウベぇが現れると、ベンチの上にある亡骸の元に向かった。
そして亡骸を食べていた。
食べ終わる頃には暁美さんは、いつもの様子で立ち上がっていた。

「君に殺されたのは、これで二度目だけれど、おかげで攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう? さっきのは」

キュウベぇの指摘に暁美さんの表情が険しくなる。

「やっぱりね。何となく察しはついてたけれど、君はこの時間軸の人間じゃないね」
「お前の正体も企みも、私は全て知ってるわ」
「なるほどね。だからこんなにしつこく僕の邪魔をするわけだ。そうまでして、鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」

暁美さんの言葉に、キュウベぇは何を考えているかが分からないような表情をして、答えた。

「ええ、絶対にお前の思い通りにはさせない。キュゥべえ……いいえ、インキュベーター」

インキュベーター……孵卵器の事か。
確かにぴったりだ。

(さて、両名から話を聞き出しますか)

俺はそう考えると、すぐに決行した。
このバレットM82A1は射程距離が2キロだ。
それを俺の能力で強化し、十倍の距離まで伸ばしたのだ。
距離はパッと見た感じ、約十数キロ。
完全に射程範囲内だ。
まずはキュウベぇの真横に照準を合わせて引き金を引いた。
次の瞬間、ものすごい音と共に反動が来るが、まったくもって問題ない。
すぐに照準を横にずらして暁美さんの足元(とはいっても数メートルは離してある)に合わせるともう一発撃ち込んだ。
その後、銃をしまうと、屋上から飛び上がり彼女達のいる場所に着地した。

「なっ!?」
「君か、小野渉」

俺の登場に驚きの声を上げる暁美さん。

「いいことを聞かせてもらったぜ」
「あなた、一体どこから」

彼女の”どこから”は狙っていた場所の事だと言うのはすぐに分かった。

「ここから数十キロ先の屋上からな。まあ、射撃に関しては自信があるのでな」

昔射撃をしていたことが、ここで役に立つとは思わなかった。

「なるほど……お前、時間操作の魔法を使うのか。だとすればこの世界が不自然に数回に渡り繰り返している現象を引き起こしたのは、あんたと言う事か?」
「………」

俺の問いかけに、暁美さんは何も答えない。

「だんまりか」

俺は暁美さんから視線を外す。

「小野渉。君はただの人じゃないね。一体何者なんだい? 君は」
「何者って、小野渉……運命を占う、占い師さ。占い師とは言っても占うのは”世界”の運命だが」

俺は遠からずも間違いではないようにぼかして答えた。

「君には感謝しなければいけない。」
「何を言って――――」

俺の言葉に、暁美さんが叫んでくるが、それを遮って俺は話を続けた。

「お前のおかげで俺が打たねばならぬ敵が誰なのかをはっきりさせることが出来た。感謝する」
「………」

相変わらずキュウベぇの表情からは、何を思っているのかが伺えない。

「お前と僕は同じ存在だな」
「君もインキュベータなのかい?」

キュウベぇの問いかけに、俺は首を横に振った。

「お前のように人の感情をすべて斬り捨てて、人間を数として見る所とか、自分の感情がないこととかな。まあ、俺の場合は捨てたわけだが」

それこそ、キュウベぇが俺から生まれたのではないかと思うほどに。

「だからこそな」

俺は右手に銃を展開する。

「これ、本当はこんな風に人に向けたりしちゃダメなんだよね。ま、いっか」

そして銃口をキュウベぇの頭に突き付ける。

「とっととくたばれ! この屑野郎!!!!」

俺は怒りの赴くままにキュウベぇの頭に向けて、三発も連射した。
気づけば、キュウベぇの残骸はおろかベンチに穴が開いていた。

(やりすぎたか)

「全く二人揃って無駄な事をするね」

後ろからキュウベぇの声がしたので慌てて振り返ると、そこにはいつもの姿であるキュウベぇの姿があった。

「っち! 化け物め」

キュウベぇは逃げるように去って行った。

「ところでだ」
「ッ!!」

俺は右手にある銃を今度は暁美さんの頭に突き付ける。

「もう一度聞く。世界を巻き戻したのは、お前か? もしくはお前の知っているものの仕業か?」
「そ、それは……」

俺の問いかけになかなか答えない暁美さんに、俺は一言言うことにした。

「だんまりだったら……この続きは言わなくても分かるよな?」
「…………」

暁美さんは俺の問いかけに無言を貫いた。

「そうか。そんなに死にたいか。なら……」

俺は引き金に指を掛ける。

「死ね!!」
「ッ!!!!」

そして引き金を引いた。

「ヘ!?」
「あはははは!!! 残念でした。キュウベぇに撃ったので最後だったんだよ」

俺の言葉に、暁美さんはヘロヘロと力を失ったように地面に座り込んだ。

「あ~ごめんな。ちょっと演技が過ぎたようだ」

俺は一応謝っておいた。

「まじめな話、本当に言う気はないのか?」
「………」

暁美さんは何も答えない。

「まあいい。お前の目的ぐらい見当はついているしな。そっちが終わってからお前の処置については考えよう」

俺はため息をつきながらそう告げた。
そんな時、体中に鳥肌が立つほどの変化を感じた。

「これって、まさか……」
「魔女の……誕生」

見れば、少し離れた場所から膨大なエネルギーが発せられていた。

「まさか……!!」

暁美さんのつぶやきが聞こえたと思った瞬間には、彼女の姿はなかった。

「……調べてみるか。まどかの運命を」

そんな中、俺は彼女の因果を調べることにしたのであった。

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第16話 絶縁と真の敵(前)

さやかが乱暴に魔女を剣で殴り続けていた。
すると突然結界内の周りにひびが入りガラスのように砕け散って行く。
どうやら魔女を倒したようだ。
結界が壊れゆく中、さやかがふらりと立ち上がる。

「やり方さえ分かっちゃえば簡単なもんだね。これなら負ける気がしないよ」

そう呟くさやかに、俺は背筋を凍らせた。
さやかの体中に傷があるが、魔法陣のようなものが浮かび上がると、傷が治って行く。
周りの景色がぐにゃりと揺れながら、元の風景に戻って行った。
そしておもむろにかがみこんでグリーフシードを手にすると、振り向きながらさやかは佐倉杏子にグリーフシードを投げ渡した。

「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」
「オイ……」
「あんたに借りは作らないから。これでチャラ。いいわね」

さやかはこっちに歩いてきながら、佐倉杏子に言い切った。

「さ、帰ろう。まどか」
「さやかちゃん……」

さやかは変身を解くと、よろめいて、倒れそうになる。

「あ、ゴメン。ちょっと疲れちゃった」
「無理しないで。つかまって」

ふらついているさやかの体を支えながら、まどか達は去って行った。
その後に続いて俺もそこを後にした。

「あのバカ」

後ろの方から、そんな佐倉杏子の言葉が聞こえてきたような気がした。





帰る途中で、雨が振り出し俺達は近くの待合室のような場所で雨宿りをすることにしたのだが……。

「………」
「………」

さやかとまどかはベンチに座ったっきり何も喋らない。
そのため待合室に、いやな沈黙が漂っていた。
ちなみに俺の右側にまどか、その隣にさやかと言う順だ。

(こういうの苦手なんだよな)

どうも、静かだと落ち着きがなくなる。
しかも聞こえるのが雨の音だけと言うのも、微妙に気分が沈んでいく。

「雨、止まないな」
「………」
「………」

俺の言葉に、二人は答えない。

(はぁ~)

俺は内心でため息をついた。

「さやかちゃん……あんな戦い方、ないよ」

突然まどかが話し始めた。
その声には悲しみが混じっていた。
そんなまどかの言葉にさやかは何も答えない。

「痛くないなんて嘘だよ。見てるだけで痛かったもん。感じないから傷ついてもいいなんて、そんなのダメだよ」
「……ああでもしなきゃ勝てないんだよ。あたし才能ないからさ」

しばらくしてさやかが口を開いた。

「あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしても、さやかちゃんのためにならないよ」
「あたしの為にって何よ」

まどかの言葉に、さやかの声色がさらに冷たく、冷酷なものに変わる。

「えっ?」

突然立ち上がったさやかは、俺達にソウルジェムを突き付けてくる。

「こんな姿にされた後で、何が私の為になるって言うの?」
「さやかちゃん……」

さやかはソウルジェムをもとに戻すと、俺達に背を向けてさらに話を続けた。

「今の私はね、魔女を殺す、ただそれだけしか意味がない石ころなのよ。死んだ身体を動かして生きてるフリをしてるだけ。そんな私の為に、誰が何をしてくれるって言うの?考えるだけ無意味じゃん」

(………)

さやかの言葉は、昔の俺の姿を思い出させた。

『俺は悪を殺していく、それだけしか意味のない人形……いや機械だ。そんな俺にてめえの幼稚な妄想や理想を押し付けんじゃねえよ』
『お、おい!! 待てよ■■■!!』

あのころの俺は、まさしく生きる価値のない愚か者だった。
あれから数日後、俺は取り返しのつかない過ちを犯した。
そして今、さやかは俺と同じ過ちを犯そうとしている。
それだけは防がなければならない。
”友人”として、絶対に!

「でも私は……どうすればさやかちゃんが幸せになれるかって」
「だったらあんたが戦ってよ」

冷たい言葉と眼差しがまどかに向けられる

「え……」
「キュウべえから聞いたわよ。あんた誰よりも才能あるんでしょ? 私みたいな苦労をしなくても簡単に魔女をやっつけられるんでしょ?」
「私は……そんな……」

さやかの言葉に、まどかはしどろもどろで答えられない。

「私の為に何かしようって言うんなら、まず私と同じ立場になってみなさいよ。無理でしょ。当然だよね。ただの同情で人間やめらるわけないもんね」
「同情なんて……そんな……」

さやかの言葉にまどかが反論する。

「何でも出来るくせに何もしないあんたの代わりに、あたしがこんな目に遭ってるの。それを棚に上げて、知ったような事言わないで」
「さやかちゃん……」

今までにない、恐ろしい形相で睨んでそう言うとさやかは外に出た。
それをまどかも追う様に立ち上がる。

(何を冷静に解説してんだ?俺は)

本当はこんなに冷静ではないのに。

「ちょっと待って、さやか」
「…何よ? わた――――――」

俺の呼びかけに渋々と言った感じで振り返るさやか。
なぜか俺の顔を見て固まっていた。
今、俺は最高の笑顔だろう。
そして一つだけ釈明をさせてもらいたい。
俺は元々冷静だが、許せないことをしているのを見ると、自分をコントロールできなくなるのだ。
だから、だからなのかもしれない。

「ッ!!」

気づいた時には、俺はさやかの事を殴り飛ばしていた。

「さっきから黙って聞いていれば何だ。お前?」

自然に俺の口から言葉が出てくる。

「あんたが死んでいる死んでないはともかくとして、それはあんた自身の気の持ちようだ。それを自分で決めつけて勝手に悲劇のヒロインを演じてんじゃねえよ!!」
「あたしは、悲劇のヒロインなんて演じて―――――」

さやかが立ち上がって俺に反論する。

「してないと言いきれる? ならそれでいいさ。だが、お前は何様のつもりだ。お前に何の権利があって、まどかに魔法少女になれと言える?」
「それ……は」

俺の言葉に、さやかが視線をそらして言いよどむ。
だが、俺はもう止まらない。

「言い方を変えてやろう。お前のやろうとしていたことは、殺人……人殺しだ」
「ッ!!!?」

俺の一言にさやかが息をのむ。

「お前は無名の偉人と同じように友を殺そうとした」

もし、さやかの言う魔法少女になる=死の定義が成り立つのであれば、俺の言っていることはあながち間違いでもない。

「……わかった。もうお前とは絶交だ。どこへでも好きにいけ。二度と俺達の前に姿を現すな」

とうとう、言ってしまった。

「ッ!!」
「さやかちゃん!!」

俺の言葉に、さやかは走って行った。

「渉君。何もあそこまで」
「………優しいんだな。まどかは」
「え?」

俺はまどかにそう言うと、雨の中待合室を出た。

(俺って何をやってんだろ?)

願わくば、この雨が俺の胸の中のもやもやを取ってくれることを願うだけだ。
そして、俺は自宅へと戻るのであった。





「そう……そんなことが」
「ああ」

自宅に戻って、雨にぐっしょりと濡れていたことを咎められた後、今日起こったことをマミさんに話した。

「それで、いつまで落ち込んでいるのかしら?」
「なに?」

マミさんは、あなたらしくもないと言いたげな表情で問いかけてきた。

「あなたなら、この後どうするべきかくらいわかっているはずでしょ」
「………」
「明日でもいいから、美樹さんに謝ってきなさい」

二言は許さないとばかりに告げられた言葉に、俺は驚きながらも答えた。

「謝りはしないが。一応話し合ってくる。俺達の仲間にならないかと」
「ふふ。あなたらしいわね。それ」

俺の宣言に、マミさんは吹き出しながら呟いた。

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第15話 壊れゆく心

翌日、いつもの通りを歩いていると、前方にさやかの姿があった。

「あ、さやかちゃんだ」
「あら、本当ですわ」

さやかの姿に気付いたまどかと仁美がそう言うと、さやかの元に駆けよって行った。
俺も、彼女たちの後をついて行く。

「さやかちゃん、おはよう」
「おはようございます、さやかさん」
「おはよう。さやか」

俺達はさやかに挨拶する。

「あ、ああ。おはよう」

そんな俺達にさやかはぎこちなく挨拶を返す。

「昨日はどうかしたんですの?」
「ああ、ちょっとばかり風邪っぽくてね」

心配そうに昨日休んだ理由を聞く仁美に、さやかはそう答えた。

「さやかちゃん……」
【大丈夫だよ。もう平気。心配いらないから】

まどかの心配そうな言葉に、さやかはテレパシーでまどかに言った。

(立ち直ったみたいだな)

さやかの様子に、俺はほっと一安心した。

「さーて、今日も張り切って―――」

さやかはそう言いかけると前方を見た瞬間、表情が曇った。
そこには、杖のような物を手に歩いている上条の姿だった。

「あら……上条君、退院なさったんですの?」

仁美は、上条の姿を見つけると、驚いた風に言った。
その後、さやかの表情はずっと曇りっぱなしだった。

「よかったね。上条君」
「うん」

教室でも、さやかの表情は曇っていてまどかの言葉に暗い感じで答えた。
俺達の視線の先には、クラスメイトと楽しげに話している上条の姿があった。

「さやかちゃんも行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょ?」
「私は……いいよ」

まどかの言葉に、さやかはそう答えた。
その時、俺は仁美がさやかの事を真剣なまなざしで見ているのに気付いた。





3人称Side

放課後、ファミレスでさやかと仁美は向かい合って座っていた。

「それで……話って何?」
「恋の相談ですわ。私ね、前からさやかさんや渉さん、まどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」
「え?あ、うん」

さやかの言葉を聞いて仁美は、言葉を続けた。

「ずっと前から、私……上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」
「そ、そうなんだ。あはは、まさか仁美がねえ……あ、なーんだ、恭介の奴、隅に置けないなあ」

さやかは仁美の突然の言葉に、動揺を隠せない様子だった。

「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」
「あーまあ、その。腐れ縁って言うか何て言うか」

仁美の言葉に、さやかは視線をそらす。

「本当にそれだけ? 私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって。あなたはどうですか? さやかさん。あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
「な、何の話をしてるのさ」

仁美の言葉に、さやかはそれしか答えることが出来なかった。

「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの。上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」
「仁美……」
「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
「あ、あたしは―――」

さやかの答えを聞かず、仁美は一礼すると、さやかの前から去って行った。
それは、言うなれば、さやかの心の崩壊を始めさせるきっかけであった。

Side out





夜、俺とまどかはさやかのマンションの出入り口の前にいた。

「まどか、渉……」

すると、キュウベぇを引き連れて出てきたさやかが僕たちの姿を見つけた。
その表情は、とても暗かった。

「付いてっていいかな?さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくないの。だから」
「あんた、何で?何でそんなに優しいかな?あたしにはそんな価値なんてないのに」

まどかの言葉に、さやかは俯いて肩を震わせながら呟いた。

「そんな―――」
「あたしね、今日後悔しそうになっちゃった。あの時、仁美を助けなければって。ほんの一瞬だけ思っちゃった。正義の味方失格だよ…。マミさんに顔向け出来ない。仁美に恭介を取られちゃうよ…。でも私、何も出来ない。だって私、もう死んでるもん。ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ」

涙を流しながら悲痛に叫ぶさやかを、まどかは優しく抱きしめた。

(人間か人間じゃないかは、自分で決める物だろ)

俺はそう言おうとしたが、それを口に出すことはできなかった。
それを言う権利は、俺にはなかったからだ。

「俺って、最低だ」

俺のつぶやきが、むなしく感じた。










しばらくたつと、落ち着いたのかさやかは泣きやんでいた。

「ありがと。ごめんね」
「さやかちゃん……」
「もう大丈夫。スッキリしたから。さあ、行こう。今夜も魔女をやっつけないと」
「うん」

さやかの言葉に、まどかは頷いた。

「俺も、微力ながらまどかの守護に徹する」

この時、俺はまだ気づけなかった。
さやかの心が少しずつ、壊れかけているということに。





いつものように結界に入った俺達が見たのは、一面が白くて何かの模様があるところで一番奥の方に赤い何かが立っているものだった。
俺達は、なぜか真っ黒になっていた。
しかし、問題は……

「はぁ……はぁ」

苦しげに息を切らしているさやかだ。

「ふん!!」

俺も助けに行きたいところだが、こっちにくる黒い何かを切ってまどかの方に来ないようにするので精一杯だ。
さやかの方に迫ってきた黒い何かを切ると、さやかは一気に駆け出す。
そしてさやかの周りを取り囲むように現れた黒い何かを、さやかは上空に飛んで回避し、空中で一回転すると一気に魔女へと迫る。

「はぁぁ!!!」

思いっきり切りつけようとしたさやかだが、それは、魔女から出てきた黒い何かによって遮られると、一気にその黒いものに飲み込まれた。

「さやかちゃんっ」

その光景に、まどかが思わずさやかの名前を呼んで、黒い物体に近づこうとした時だった。
何かによって、黒い物体が切り飛ばされた。

「まったく。見てらんねぇっつうの。いいからもうすっこんでなよ。手本を見せてやるからさ」

それは、佐倉 杏子の物だった。
佐倉杏子はさやかを地面に降ろすと、武器である槍を魔女に向ける。
だが、ふわりとさやかが立ち上がると地面に剣を置いた。。

「おいッ」
「邪魔しないで。一人でやれるわ」

さやかは冷たい声でそう言うと、一気に魔女へと迫る。
そして思いっきり魔女を切りつけると、黒いひものようなものによってさやかが地面に叩き付けられた。

「さやかちゃん!?」
「ふふ……ふふふふ」

だが、さやかの口から出てきたのは、不気味でぞっとするような笑い声だった。

「アンタ、まさか……」

佐倉杏子の声を遮るように、一気に黒いひも状のものが吐き出され、それはさやかの体をとらえて持ち上げる。
だが、さやかはそれを剣で乱暴に切り払っていくと魔女の上に馬乗りになる。

「あははは、ホントだ。その気になれば痛みなんて……あはは。完全に消しちゃえるんだ」

気が狂ったかのように笑いながら、魔女を何度も何度も剣で殴りつける。

「やめて……もう、やめて」

まどかの声が、とても悲しげに感じられた。

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第14話 真実

さやかのいる場所に到着すると、、そこにはお互い向かい合っているさやかと佐倉 杏子の姿があった。
佐倉の方はその手に武器の槍を構えて臨戦態勢だ。
対するさやかも手にソウルジェムがあった。
一触即発の雰囲気だ。

「待って、さやかちゃん!」
「まどか。邪魔しないで!そもそもまどかは関係ないんだから!」

顔だけをまどかの方に向けると冷たくそう言い放った。

「ダメだよこんなの、絶対おかしいよ」
「ふん、ウザい奴にはウザい仲間がいるもんだねぇ」

こっちを見ながらそう言い放ってくる佐倉。

「じゃあ、貴女の仲間はどうなのかしら?」
「あっ……チッ」

すると佐倉の背後に、暁美さんが現れた。

「話が違うわ。美樹さやかには手を出すなと言ったはずよ」
「あんたのやり方じゃ、手ぬる過ぎるんだよ。どの道向こうはやる気だぜ」

どうやら二人は手を組んでいるようだ。
それだけは俺にも理解できた。

「なら、私が相手をする。手出ししないで」
「はんッ、じゃあコイツを食い終わるまで待ってやる」

佐倉は暁美さんに口にくわえているお菓子を指さしながら、言った。

「充分よ」
「ナメるんじゃないわよ!」

暁美さんの答えにとうとう我慢の限界が来たのか、ソウルジェムを掲げて変身しようとする。

「さやかちゃん、ゴメン!」

そんな中、まどかは突然走りだしさやかの手からソウルジェムをひったくる。

「ぇい!!」

そしてソウルジェムを思いっきり、車道に向けて放り投げた。

「なッ!?」

俺はその行動に、衝撃を受けた。

「まどか! あんたなんて事を!」

さやかが、怒ってまどかに詰め寄る

「だって、こうしないと――――――」

まどかがそう言いかけた時だった。

「ぇ……さやかちゃん?」

突然さやかの体が人形のように崩れ落ちた。
それをまどかが受け止めた。

「今のはマズかったよ、まどか」

橋の手すりに飛びあがったキュウベぇがまどかにそう言った。

「え?」
「よりにもよって、友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」

信じられないと言った感じにまどかに言った。

「何? 何なの?」

まどかは、何が起きているのかが分からない様子だった。
そんな時佐倉が、俺達の所に駆け寄るとさやかの首根っこを掴んで持ち上げた。

「やめてっ」

まどかの言葉を無視して、佐倉が目を細めると、信じられないと言った様子で目を見開いた。

「どういうことだオイ…。コイツ死んでるじゃねぇかよ」
「えっ?」

佐倉の言葉に、まどかが固まった。

(やっぱりか)

俺は内心で確証を得た。
やはり俺の推測は当たっていたようだ。

「さやかちゃん? ……ねぇ、さやかちゃん? 起きて……ねぇ、ねぇちょっと、どうしたの?ねぇ! 嫌だよこんなの、さやかちゃん!!」

まどかが、地面に横たわっているさやかの体を必死に揺さぶって声をかけていた。

「何がどうなってやがんだ……おいッ!!」

それを見ていた佐倉がキュウベぇに詰め寄る。

「簡単なことだ。精神とのリンクが完全に切れたんだ」
「え?」
「どういう意味だ」

俺の答えに佐倉が目を細める。

「お前たち魔法少女が持っているソウルジェム。それは自分の魂を具現化したものなんだ」
「な……何だと?」

衝撃の事実に、佐倉が目を見開いた。

「これは俺の推測だが、キュウベぇの役割は魂を抜き取ってソウルジェムに具現化させることなんじゃねえのか? 願い事をかなえる代わりにな」

佐倉が睨んできて怖いが、俺は考えを言い切った。

「とまあ、勝手に話したのだが、間違っている箇所、抜けている箇所等があったら修正をよろしく」

俺はキュウベぇにそう声をかけると、二,三歩後ろに下がった。

「まあ、大まかには正しいね」
「おい! これはどういう意味だッ!?」

キュウベぇが俺に答えていると佐倉がキュウベぇに怒鳴り散らす

「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのは、せいぜい100m圏内が限度だからね。普段は当然肌身離さず持ち歩いてるんだから、こういう事故は滅多にあることじゃないんだけど……」
「何言ってるのよキュゥべぇ、渉君! 助けてよ、さやかちゃんを死なせないでっ!!」

まどかが俺達に向けて叫ぶが、いくら俺でも魂の原本がなければどうにもできない。

「はあ……まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって。さやかはさっき、君が投げて捨てちゃったじゃないか」
「え?」

ため息をつきながらのキュウベぇの言葉に、まどかは涙を浮かべながら固まった。

「ただの人間と同じ、壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは、外付けのハードウェアでしかないんだ」

キュウベぇの”元の体は外付けのハードウェア”と言う言葉に、俺は無意識のうちに両手を握りしめていた。
そうでもしないと、冷静でいられる自信がなかったからだ。

「君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できるコンパクトで、安全な姿が与えられているんだ。魔法少女との契約を取り結ぶ、僕の役目はね。君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ」
「テメェは……何てことを…。ふざけんじゃねぇ!! それじゃアタシたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか!!」

キュウベぇの言葉に、佐倉が首根っこを摑まえて盛り上げる。

「むしろ便利だろう? 心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その身体は魔力で修理すれば、すぐまた動くようになる。ソウルジェムさえ砕かれない限り、君たちは無敵だよ。弱点だらけの人体よりも、余程戦いでは有利じゃないか」
「ひどいよ……そんなのあんまりだよ……」

キュウベぇの言葉に、まどかはそう言ってさやかの体にしがみついて泣き出した。

「君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?」
「……悪い。話せと言っておいてなんだがもう黙れ。お前の言葉を聞いてると不愉快だ」

キュウベぇの言葉に、とうとう我慢の限界が近づいたので、俺は冷たい声でキュウベぇに言った。
そんな時だった。

「あっ」

杏子の声に俺達は、さやかの方を見るとそこには若干息を切らしている暁美さんの姿があった。
そしてさやかの手にはソウルジェムがあった。
どうやら彼女が取ってきたらしい。
突然起き上がって俺達を見回した後、

「何? 何なの?」

さやかは訳が分からないと言った様子で言葉を口にした。





「そう……知ってしまったのね、ソウルジェムの秘密を」

対策本部に戻った俺は、マミさんに事の次第を話した。
マミさんは俯いているのでよく分からないが、その声色はとても悲しげなものだった。

「ああ。あいつや佐倉杏子、まどかもかなりショックを受けているようだった」

俺はあの時の事を思い出しながら呟いた。

「それで、渉君は次はどういう手に出るのかしら?」
「そうだな……今は様子見と言った所かな」

俺の方針に、マミさんがそう、と頷いたことで、この話は終わりとなった。
そして俺達は、再び作業を始めるのであった。










翌日、教室にさやかの姿はなかった。
そして昼休み、俺とまどかは暁美さんを連れて屋上に来ていた。
俺達はフェンスに寄り掛かっていた。

「ほむらちゃんと渉君は……知ってたの?」

誰も何も言わない中、まどかが口を開けた。

「………」

俺と暁美さんは何も答えなかった。
だが、それは肯定と受け取ることが出来た。
もちろん俺は知っていたが。

「どうして教えてくれなかったの?」
「前もって話しても、信じてくれた人は今まで一人もいなかったわ」

それもしょうがないことだろう。
何せ、まったくもって確証のないことだ。
もしであった頃の俺ならば、信じなかっただろう。

「どうしてあんなことを私に教えたの?」

まどかが俺に問いかけてきた。

「俺は何も嘘はついていない。さやかの体からあれを離せば、体の動きは止められるしそれ相応の危険もあると言った」

俺は、目を閉じて答えた。

「しかし、まどかがソウルジェムを放り投げるなんて想定外だ。95%の確率でまどかの場合は俺の言った通りに体から離すのだと思っていたのだが」
「確率って………ひどいよ」

まどかが俺にそう非難した。

「……すまない。つい癖でな。何でもかんでも確率で決めようとしちまうんだ」

それが俺の中で一番嫌いな事だった。
人を動かすのは数字ではなく、心だ。
それを知ってもなお、時折こうして数字で考えてしまう。
だからこそ俺は

「生きる価値のない愚か者なんだ」
「えっ!?」

俺のつぶやきが聞こえていたらしく、まどかが驚いた風にこっちを見てくる。

「あ、なんでもない」

俺は平静を装ってそう答えた。

「キュゥべえはどうしてこんなひどいことをするの?」
「あいつは酷いとさえ思っていない。人間の価値観が通用しない生き物だから。何もかも奇跡の正当な対価だと、そう言い張るだけよ」

まどかの疑問に答える暁美さん。
だが、その言葉に俺はキュウベぇが機械生命体ではないかと思った。
なぜなら、言っていることや、やっていることが妙にロボットっぽいものだと感じたからだ。

「全然釣り合ってないよ。あんな体にされちゃうなんて。さやかちゃんはただ、好きな人の怪我を治したかっただけなのに」

するとまどかは暁美さんの方を向きながら言い放つと、下を向いて泣き出しそうになっていた。

「奇跡であることに違いはないわ。不可能を可能にしたんだから。美樹さやかが一生を費やして介護しても、あの少年が再び演奏できるようになる日は来なかった。奇跡はね、本当なら人の命でさえ購えるものじゃないのよ。それを売って歩いているのがあいつ」
「さやかちゃんは、元の暮らしには戻れないの?」
「前にも言ったわよね。美樹さやかのことは諦めてって」

まどかの懇願に、暁美さん冷たい言葉が浴びせられる。

「さやかちゃんは私を助けてくれたの。さやかちゃんが魔法少女じゃなかったら、あの時、私も仁美ちゃんも死んでたの」
「感謝と責任を混同しては駄目よ。貴女には彼女を救う手立てなんてない。引け目を感じたくないからって、借りを返そうだなんて、そんな出過ぎた考えは捨てなさい」

いつもなら、暁美さんのこの言葉に、反論していた俺だがなぜか俺にはそれが出来なかった。
この言葉を否定できるほどの何かを、俺は持っていなかった。

「ほむらちゃん、どうしていつも冷たいの?」
「そうね……きっともう人間じゃないから、かもね」

暁美さんの言葉に、俺とまどかは、何もいう事は出来なかった。










放課後、俺はさやかの反応を頼りに歩いていた。

「ここって……教会だよな?」

しばらく歩くとそこにあったのは、大きな屋敷のような建物だった。
だが、俺にはそこが教会に見えた。

「ちょっとばかり長い話になる」

すると、中から佐倉の声が聞こえてきた。
どうやらこの中にいるとみて間違いないだろう。
そう思い、俺は誰にも見つからないように不可視の術をかけて中に入った。





中は、建物自体が荒れていて、ステンドガラスが割れていたりと、もはやまともに機能していない場所だということがすぐに分かった。

「ここはね、アタシの親父の教会だった。正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ」

そんな中、佐倉の話し声が聞こえてきたので、俺はそれに耳を傾けた。

「新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分だった。だからある時、教義にないことまで信者に説教するようになった。もちろん、信者の足はパッタリ途絶えたよ。本部からも破門された。誰も親父の話を聞こうとしなかった。当然だよね。傍から見れば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいこと、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみ者さ。アタシたちは一家揃って、食う物にも事欠く有様だった。納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言ってなかった。ただ、人と違うことを話しただけだ」

彼女の昔話に、俺はその場を動けなかった。
人と言うのは、新しいことを始めるのに臆病な存在だ。
とくに宗教とかはその予兆が出やすい。
だから、人が離れていくのも当然なのだ。

「5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいこと言ってるって誰にでもわかったはずなんだ。なのに、誰も相手をしてくれなかった。悔しかった、許せなかった。誰もあの人のことわかってくれないのが、アタシには我慢できなかった。だから、キュゥべえに頼んだんだよ。みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますようにって。翌朝には親父の教会は、押しかける人でごった返していた。毎日おっかなくなるほどの勢いで信者は増えていった。アタシはアタシで、晴れて魔法少女の仲間入りさ。いくら親父の説法が正しくったって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからそこはアタシの出番だって、バカみたいに意気込んでいたよ。アタシと親父で、表と裏からこの世界を救うんだって……でもね、ある時カラクリが親父にバレた」

佐倉の声色が少しだけ暗くなった。

「大勢の信者が、ただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はブチ切れたよ。娘のアタシを、人の心を惑わす魔女だって罵った。笑っちゃうよね。アタシは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってのに。それで親父は壊れちまった。最後は惨めだったよ。酒に溺れて、頭がイカれて。とうとう家族を道連れに、無理心中さ。アタシ一人を、置き去りにしてね。アタシの祈りが、家族を壊しちまったんだ。他人の都合を知りもせず、勝手な願いごとをしたせいで、結局誰もが不幸になった。その時心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない。この力は、全て自分のためだけに使い切るって」

そこまで話すと、佐倉は過去の話をするのをやめた。
どうやら今のでおしまいみたいだ。
だが、俺は彼女に何ていえばいいんだ?
ドッチにしても、彼女に声をかけるほど俺は人としてできてはいない。

「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」
「何でそんな話を私に……?」

佐倉の言葉に、目を細めながらさやかが問いただす。

「アンタも開き直って好き勝手にやればいい。自業自得の人生をさ」
「それって変じゃない? あんたは自分のことだけ考えて生きてるはずなのに、私の心配なんかしてくれるわけ?」

佐倉の答えに、さやかは視線を外して問いただす。

「アンタもアタシと同じ間違いから始まった。これ以上後悔するような生き方を続けるべきじゃない。アンタはもう対価としては高過ぎるもんを支払っちまってるんだ。だからさ、これからは釣り銭を取り戻すことを考えなよ」
「あんたみたいに?」
「そうさ。アタシはそれを弁えてるが、アンタは今も間違い続けてる。見てられないんだよ、そいつが」

佐倉の言葉に、さやかの表情からは感情が読み取れなかった。

「あんたの事、色々と誤解してた。その事はごめん。謝るよ。でもね、私は人の為に祈った事を後悔してない。そのキモチを嘘にしない為に、後悔だけはしないって決めたの。これからも」

だが、ふと顔を上げるとその眼には何かしらの決意が読み取れた。

「何であんた……」
「私はね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。この力は、使い方次第でいくらでもすばらしいモノに出来るはずだから。それからさ、あんた。そのリンゴはどうやって手に入れたの? お店で払ったお金はどうしたの?」
「……ッ」

さやかの言葉に、佐倉は何も言えなかった。
それはすなわち肯定だ。

(あのリンゴ、袋付だけどどうやって持ってきたんだ?)

関係ないところで、微妙に恐ろしく思っていた。

「言えないんだね。なら私、そのリンゴは食べられない。貰っても嬉しくない」
「バカ野郎! あたしたちは魔法少女なんだぞ? 他に同類なんていないんだぞ!?」

佐倉に背を向けて教会を去ろうとするさやかに、佐倉が大きな声で叫んだ。

「私は私のやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい。私は負けないし、もう、恨んだりもしないよ」

さやかはそう言うと、教会から去って行った。
それを見ながら佐倉はリンゴをやけ食いするように、がむしゃらに噛みついていた。
俺はそれを見ながら不可視の術を解除すると、声をかけることにした。

「人の心を変えるっていうのは、かなり骨が折れる物だ」
「ッ!? あんたいつからそこにいた!!」

背後にいた俺に、驚くように問いただしてきた。

「最初っからだ。気配を消す術をかけていたんだ」
「何なんだよ一体。あいつと言いあんたと言い」

佐倉の言うあいつは暁美さんだということは何となくだが分かった。

「それで、何の様だよ」
「……お前の父親が信仰した神の特徴とか役割は分かるか?たとえば、人々の恋を成就させるとかそんな奴だ」
「確か……世界を創ったとか言ってた記憶が」

俺は佐倉の答えを聞いて額に手を当てた。

「それがどうかしたのか?」
「おそらく、ぱったりと人が来なくなったのは、その神を信仰したからだな」
「どういうことだ?」
「第一種接触・召喚禁止部族と言う単語を知っているか?」

俺の問いかけに、佐倉は首を横に振った。
どうやら知らないようだ。

「簡単に言えば、会ったり召喚をしたりすると、世界規模で不安定になるような部族の事だ」
「それと、来なくなったのにどういう関係が?」
「信仰する神と言うのは人を選ぶんだ。神社とかも、どういった願い事が成就するのかによって変えたりするだろ? それと同じ」

恋愛成就ならば、そう言った部類の神様を奉っている神社に行ったりする。
それは人が自然にやっているように見えるが、無意識のうちに神によって来る人を選んでいるのだ。
もちろん、この理論が間違いだと言う事もあるが。

「それで、第一種接触・召喚禁止部族と言うのは、信仰されてはいけないんだ。当然だよね。何せ信仰されればされるだけ歪が出るんだ。人の思念の強さによってね」
「……つまり、あたしの親父は信仰してはいけない神を信仰したからこうなったと?」

佐倉の言葉に、俺は無言で頷いた。

「これに含まれる神は、世界を創造する神とされる”創造の神”、世界に影響を与える者がいないかを監視し、いる場合は直接対処に向かう”裁きの神”、そして人々の運命、世界の状態を制御する”世界の意志”の三神だ」
「なんでそんなに詳しいんだ?」

佐倉が目を細めて問いかけてきた。
……ちょっと話すぎたか。

「俺の祖父が神社の神主でな。俺もそう言うのに興味があったから歴史書を読み解くうちにね」

俺はそう答えることにした。

「それと気を付けることだ。あまり強い力を使っていると、世界から排除されるから」
「それってどういう―――――――」

俺は佐倉の問いかけに、答えずに教会を後にした。
今問題なのは、さやかだ。

(まあ、なんとかなるか)

だが、俺はこの時この後に訪れるさらなる悲劇を知る由もなかった。

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