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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第16話 絶縁と真の敵(後)

それから数日間、俺はさやかを見つけることが出来ずにいた。
だが、ある日の夜ようやく塔の様な建物の中に、さやかの気配を感じることに成功したため俺はその建物の中に入った。
そしてようやく見つけた。
さやかは疲労しているのか、フラフラと歩いていた。

「よ、久しぶりだな」
「……何よ」

俺の言葉に帰ってきたのは、冷たい声だった。

「いや~この間は殴り飛ばして悪かったな~と思ってな。それに対してのお詫びをしに来たんだよ」
「……いらないわよ。そんなもの」

俺の明るい声に、さやかは暗い声色で答える。

「まあまあ、聞くだけ聞いてって。早速だが、俺と手を組まないか?」

そして俺はさやかに切り出した。

「……どういう意味よ?」
「いやなに、俺もある目的があってここに来たんだ。その目的の情報を探しをしているのだがあいにくと難航している状態でな。そこでさやかにも探すのを手伝って貰いたい。本来であれば、お前のような馬鹿者にはこのような提案はしないのだが、この前の一件のお詫びをかねて誘っているんだ」

俺はどのような目的かをぼかして、さやかに話した。

「もし、俺と手を組むのであればさやか自身の問題を解決してあげよう。どうだ? 悪い話ではないはずだ。さあ、俺の手を取るがいい。そうすれば新しい明日が始まる!!」

俺はそう言ってさやかの前に片手を差し出した。
そして、さやかは手を上げると―――
俺の手を払った。

「いらないよ、そんなもの。あんたの力なんていらない」
「……まだわからないのか?お前には死相が見えるんだ!死相は死神を呼ぶ餌だ。このままだとあんた、死神に取りつかれて死ぬぞ!」
「あたしが死ぬときは魔女を倒せなくなったとき……それって用済みってことだよ」

俺の叫びにも、さやかはそう切り捨てると俺の横を通り過ぎる。

「そうか。そうかよ……お前は今後愚か者と呼ぶ!! もしお前が死んだとき、てめえの亡骸の前で大笑いしてやる!!!」

俺はそう叫んで、その場を後にした。
俺には、見えていた。
黒い鎌を持ってさやかの後を付ける者の姿を。





今俺は塔の建物の屋上にいた。
手には愛用しているスナイパーライフル(バレッドM82A1)を構えている。
そして俺はスコープで遠く離れた噴水のある場所を見ていた。
そこにいたのは、まどかとキュウベぇだ。

「私は……自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた。ずっとこのまま、誰のためになることも、何の役に立つこともできずに、最後までただ何となく生きていくだけなのかなって。それは悔しいし、寂しいことだけど、でも仕方ないよねって、思ってたの」

まどかの声が聞こえてくる。
これも俺の力の一つだ。
どんなに遠くにいても、対象者の声を常に聴くことが出来る。

「現実は随分と違ったね、まどか。君は、望むなら、万能の神にだってなれるかもしれないよ」
「私なら……。キュゥべえにできないことでも、私ならできるのかな?」

まどかはキュウベぇに静かに問いかけた。

「というと?」
「私があなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

俺は、いつでも撃てるように照準を合わせる。
俺の敵、キュウベぇに。

「その程度、きっと造作もないだろうね。その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?」
「さやかちゃんのためなら……いいよ。私、魔法少女に……」

その言葉を聞いて、俺は慌てて引き金を引こうとした時だった。

(ッ時間が!!)

突然時間が止まったかと思うと、キュウベぇの体が撃ちぬかれた。
突如現れた、暁美ほむらによって。
やがて、時間が動き出した。

「わっ!?」

見事に撃ちぬかれたキュウベぇの亡骸を見て驚くまどかだが、その後ろにいる暁美さんはM92Fを地面に落とした。

「ひっ」

銃の落ちた音にまどかは慌てて後ろに振り向く。

「ひ……ひどいよ、何も殺さなくても」
「貴女は、なんで貴女は、いつだって、そうやって自分を犠牲にして」

暁美さんはまどかの方に迫りながらまどかに向かってまくし立てた。
だが暁美さんの声はいつもの冷たいものではなく、悲しみが伺えた。

「え?」
「役に立たないとか、意味がないとか、勝手に自分を祖末にしないで! 貴女を大切に思う人のことも考えて! いい加減にしてよ! 貴女を失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気づかないの! 貴女を守ろうとしてた人はどうなるの!」

暁美さんは一気に叫ぶと地面に膝をついた。

(………まさか)

この時、俺は直感で今回の事の真実が見えたような気がした。
だが、まだ確証がない。

「ほむらちゃん」

暁美さんに駆け寄ろうとしたまどかは、混乱したような表情をした。

「私たちはどこかで……どこかで会ったことあるの? 私と」
「そ、それは……」

まどかの言葉……何より暁美さんの答えで確証が得た。
どうやら俺の仮定は、正しいようだった。

「ごめん。私、さやかちゃんを探さないと」
「待って、美樹さやかは、もう」

カバンを手にしてその場を去ろうとするまどかを引き留めようとする暁美さんだが、まどかは後ずさって行く。

「ごめんね」

そしてまどかは走って去って行った。

「待って! まどか!!」

その後ろ姿を見て暁美さんは嗚咽を上げた。

「無駄な事だって知ってるくせに。懲りないんだなあ、君も。代わりはいくらでもあるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体ないじゃないか」

突然聞こえたのは撃ちぬかれたはずのキュウベぇの物だった。
そしてキュウベぇが現れると、ベンチの上にある亡骸の元に向かった。
そして亡骸を食べていた。
食べ終わる頃には暁美さんは、いつもの様子で立ち上がっていた。

「君に殺されたのは、これで二度目だけれど、おかげで攻撃の特性も見えてきた。時間操作の魔術だろう? さっきのは」

キュウベぇの指摘に暁美さんの表情が険しくなる。

「やっぱりね。何となく察しはついてたけれど、君はこの時間軸の人間じゃないね」
「お前の正体も企みも、私は全て知ってるわ」
「なるほどね。だからこんなにしつこく僕の邪魔をするわけだ。そうまでして、鹿目まどかの運命を変えたいのかい?」

暁美さんの言葉に、キュウベぇは何を考えているかが分からないような表情をして、答えた。

「ええ、絶対にお前の思い通りにはさせない。キュゥべえ……いいえ、インキュベーター」

インキュベーター……孵卵器の事か。
確かにぴったりだ。

(さて、両名から話を聞き出しますか)

俺はそう考えると、すぐに決行した。
このバレットM82A1は射程距離が2キロだ。
それを俺の能力で強化し、十倍の距離まで伸ばしたのだ。
距離はパッと見た感じ、約十数キロ。
完全に射程範囲内だ。
まずはキュウベぇの真横に照準を合わせて引き金を引いた。
次の瞬間、ものすごい音と共に反動が来るが、まったくもって問題ない。
すぐに照準を横にずらして暁美さんの足元(とはいっても数メートルは離してある)に合わせるともう一発撃ち込んだ。
その後、銃をしまうと、屋上から飛び上がり彼女達のいる場所に着地した。

「なっ!?」
「君か、小野渉」

俺の登場に驚きの声を上げる暁美さん。

「いいことを聞かせてもらったぜ」
「あなた、一体どこから」

彼女の”どこから”は狙っていた場所の事だと言うのはすぐに分かった。

「ここから数十キロ先の屋上からな。まあ、射撃に関しては自信があるのでな」

昔射撃をしていたことが、ここで役に立つとは思わなかった。

「なるほど……お前、時間操作の魔法を使うのか。だとすればこの世界が不自然に数回に渡り繰り返している現象を引き起こしたのは、あんたと言う事か?」
「………」

俺の問いかけに、暁美さんは何も答えない。

「だんまりか」

俺は暁美さんから視線を外す。

「小野渉。君はただの人じゃないね。一体何者なんだい? 君は」
「何者って、小野渉……運命を占う、占い師さ。占い師とは言っても占うのは”世界”の運命だが」

俺は遠からずも間違いではないようにぼかして答えた。

「君には感謝しなければいけない。」
「何を言って――――」

俺の言葉に、暁美さんが叫んでくるが、それを遮って俺は話を続けた。

「お前のおかげで俺が打たねばならぬ敵が誰なのかをはっきりさせることが出来た。感謝する」
「………」

相変わらずキュウベぇの表情からは、何を思っているのかが伺えない。

「お前と僕は同じ存在だな」
「君もインキュベータなのかい?」

キュウベぇの問いかけに、俺は首を横に振った。

「お前のように人の感情をすべて斬り捨てて、人間を数として見る所とか、自分の感情がないこととかな。まあ、俺の場合は捨てたわけだが」

それこそ、キュウベぇが俺から生まれたのではないかと思うほどに。

「だからこそな」

俺は右手に銃を展開する。

「これ、本当はこんな風に人に向けたりしちゃダメなんだよね。ま、いっか」

そして銃口をキュウベぇの頭に突き付ける。

「とっととくたばれ! この屑野郎!!!!」

俺は怒りの赴くままにキュウベぇの頭に向けて、三発も連射した。
気づけば、キュウベぇの残骸はおろかベンチに穴が開いていた。

(やりすぎたか)

「全く二人揃って無駄な事をするね」

後ろからキュウベぇの声がしたので慌てて振り返ると、そこにはいつもの姿であるキュウベぇの姿があった。

「っち! 化け物め」

キュウベぇは逃げるように去って行った。

「ところでだ」
「ッ!!」

俺は右手にある銃を今度は暁美さんの頭に突き付ける。

「もう一度聞く。世界を巻き戻したのは、お前か? もしくはお前の知っているものの仕業か?」
「そ、それは……」

俺の問いかけになかなか答えない暁美さんに、俺は一言言うことにした。

「だんまりだったら……この続きは言わなくても分かるよな?」
「…………」

暁美さんは俺の問いかけに無言を貫いた。

「そうか。そんなに死にたいか。なら……」

俺は引き金に指を掛ける。

「死ね!!」
「ッ!!!!」

そして引き金を引いた。

「ヘ!?」
「あはははは!!! 残念でした。キュウベぇに撃ったので最後だったんだよ」

俺の言葉に、暁美さんはヘロヘロと力を失ったように地面に座り込んだ。

「あ~ごめんな。ちょっと演技が過ぎたようだ」

俺は一応謝っておいた。

「まじめな話、本当に言う気はないのか?」
「………」

暁美さんは何も答えない。

「まあいい。お前の目的ぐらい見当はついているしな。そっちが終わってからお前の処置については考えよう」

俺はため息をつきながらそう告げた。
そんな時、体中に鳥肌が立つほどの変化を感じた。

「これって、まさか……」
「魔女の……誕生」

見れば、少し離れた場所から膨大なエネルギーが発せられていた。

「まさか……!!」

暁美さんのつぶやきが聞こえたと思った瞬間には、彼女の姿はなかった。

「……調べてみるか。まどかの運命を」

そんな中、俺は彼女の因果を調べることにしたのであった。

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