俺は立っていた。
(ここは………またフロニャルドか)
周りを見渡すと、よく見た景色だった。
そう、グラナ砦から少し離れた場所に俺は立っていた。
周りは暗く、よく見えなかった。
いや、声は聞こえた。
『み、見てください!! 暗闇の空に星が!!』
(空?)
ナレーションの声に、俺は上空を見上げる。
その空は真っ黒だった。
そこに流れる数多の流れ星。
はっきり言って不気味であり、恐ろしげであった。
『た、大変です!! 空に何かがうか――――』
そこでナレーションの声が途切れた。
それからすぐに俺が視たのは、暗闇のはずなのにその姿がくっきりと見る事の出来る”何か”だった。
「………ッぐ!」
「あ、目が覚められたんですね!」
突然意識が戻った俺が最初に感じたのは、体中の痛みと、奇襲を仕掛けたメイドの人の声だった。
「レオ閣下は?」
「あ、レオ様は……」
メイドの人の戸惑うような視線の先には横たわっているレオ閣下の姿があった。
腕には包帯を巻いている。
「む、起きたようじゃな」
「ええ、おかげさまで」
空を眺めていたレオ閣下の言葉に、俺は普通に反した。
「………さて、と」
「な!? 動かないでください、あなたは今大けがをされて――――」
「それがどうした? たとえ足がちぎれても、俺は動き続ける」
メイドの人の生死の声を遮り、俺はそう言うとゆっくりではあるが端の方へと向かって歩く。
「行ってはダメだ」
それを止めるのはレオ閣下だった。
「お主が行けば、ミルヒと勇者が死ぬ」
「………それがあなたが視た物ですか?」
レオ閣下の言葉に、俺は驚くこともなく聞き返す。
その問いかけに、レオ閣下は無言で頷いた。
「なるほど。では、いいことを教えましょう。未来は例え過程は変わっても、結果は変えられないものです。変えればそれは、破滅しかないのですから」
「私は! 私は、ミルヒと勇者を死なせたくはない!!」
俺の冷酷な言葉に、レオ閣下は今まで聞いたことのないほどの悲しい声色で訴えた。
「貴方は、素晴らしい。自分には特定の人物を守るなんてことは出来ないんです。出来るのは最悪の事態を回避することだけ」
俺は自分の不甲斐なさに笑うしかなかった。
「レオ閣下、腕輪は一回も使っていませんね?」
「う、うむ。使ってはおらぬが………」
「一応保険は掛けてあります。万が一の時の切り札はエクレールに託してあります。もしもの事態の時は、彼女の背中を押してくれますか?」
俺の言う保険、神をも殺すことのできる剣は、エクレが使おうとしない限り何の意味もないのだ。
だからこそ、俺はレオ閣下にエクレの背中を押す掛を頼んだのだ。
きっと彼女はそれを使う事を戸惑う。
彼女は普段はあれだが、優しい性格だと言うのは俺でもわかるのだから。
「さて怪我の方も癒えた事ですし、行きますか」
俺は気合を入れると胸元から一つの巾着袋を取り出す。
中には普通の石が2つ入っている。
その意志の名前は霊石。
文字通り、この石には純度の高い霊力がみっしりと詰められている。
これをのむことによって、俺は霊力を回復することが出来る。
俺は霊石を一つ取り出すと、徐にそれを口の中に入れて飲み込んだ。
次の瞬間、体中から力が漲るような感覚がした。
「リミットブレイク・ブート2!」
俺は声高々に叫ぶと、封印を2段階解除した。
「きゃ!?」
「ぐ!?」
その風圧に、後ろにいた二人がうめき声を上げた。
「神術・第1章、偽の者には小さき羽が生える」
俺は神術で背中に羽を生えらせる。
空中飛行が出来るようにするためだ。
「待て、お主……渉、お前は何者だ?」
そして一歩踏み出そうとした俺に、レオ閣下が問いただした。
「はぁ………これが終わるまでは名乗るまいと思ったんですが、致し方ありませんね」
俺はそこまで言うと、その場で半回転してレオ閣下たちの方を見た。
「俺………我は、世界を統治せし三神が一人、世界の意志、小野 渉だ!」
俺は声高々に自分の真名を名乗るのであった。
覚醒まで残り、20分
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