とうとう戦の日が訪れた。
「………うん。快調だ」
俺はフィリアンノ城外で、自分の力を確認する。
その力は、未だ衰える所を知らない。
いや、ここに来る前より快調のような気がする。
「ここが正念場だ」
俺は自分にそう言い聞かせると、フィリアンノ城へと戻った。
姫君から作戦内容を伝えられたのは、戻ってからすぐの事で半分聞き逃したが、重要な事だけは聞くことが出来た。
それは、俺がシンクやエクレ達と同じ隊列であること。
作戦を聞き逃すなど、武人には重大なミスだが、まだ挽回するチャンスはあるだろう。
「む、渉か。準備は出来たのか?」
「お、エクレ。いいところにいた」
不機嫌そうな表情で、俺を見ながら声をかけてくるエクレに俺はそう返した。
「どういう意味だ?」
「いや、これを受け取ってもらいたい」
そう言いながらエクレに差し出したのはガウル達に渡したのと同じ腕輪と、銀色のさやに入った一本の剣の二つだった。
「何だ? これは」
「その腕輪は、3回分どのような攻撃でも9割のダメージを軽減させるか、1回のみダメージやけがを完全回復することが出来る代物さ」
俺は不思議そうに俺の渡したものを見るエクレに、ガウルにしたのと同じ説明をする。
「もう一つの剣は、名称は一応ラグナロク。通称神殺しの剣だ」
「なッ!?」
神殺しと言う言葉を聞いてエクレが目を見開いてこっちを見る。
「その腕輪は姫君やリコッタあとは自分で身に着けておけ。そしてその剣と共にエクレに頼みがある」
「な、何だ……頼みって」
真剣な面持ちで俺の頼みを聞こうとするエクレ。
「もし、俺が姫君やシンクを襲った際は、その剣で」
そして俺はその言葉を口にする。
「この俺を貫け」
「なッ!? で、出来るわけないだろ!」
俺の頼みに驚いたエクレは、猛抗議する。
「それであれば、全員が死ぬことになる。それでもいいのなら、やらなければいい」
「………」
エクレは何とも言い難い表情を浮かべる。
その両手は強く握りしめられていた。
「何、心配するな俺はそれで貫かれても死ぬことはないから」
「渉……お前は一体」
俺の言葉に、エクレールが問いかけてきた。
俺はその問いかけの趣旨に気付いていた。
「それは、この戦が終わった時にすべてを話す」
俺はエクレの問いかけにそう告げた。
「全てを終わりにされるんであれば、俺の一番好きなエクレにして貰いたい」
「ッ!?」
俺の言葉に、エクレが今まで以上に顔を赤くした。
(何を言ってるんだ。俺は?)
俺は自分の口から出てきた言葉に、恥ずかしく思いながらすぐに謝ることにした。
この間のように鳩尾への一突きが来たらたまったものではない。
「悪い。変な事を言ったな」
「いや………」
エクレはそれ以上言葉にすることが出来なかった。
そして少しばかり話をした俺は、そのままエクレに背を向けた。
「あ、姫君やリコッタたちに”有事の際以外では使うな”と伝えておいてくれ」
言い忘れたことを言って、俺はそのまま歩く。
「これで、すべての布石は打ち終わった。後は開戦を待つのみ」
勝負の時はすぐそこまで迫って来ていた。
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