健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-D 第7話 近づく終わり

戦が始まった当初は、ブリオッシュたちと組んでいたがやはりどうしても気まずくなってしまったため、俺は逃げるようにグラン砦へと向かっているシンクたちの方と合流した。
エクレールからは『勝手に配置を変えるな』というありがたいお叱りを受けたものの、理由などは特に聞かれることもなく、特例と言うことで配置の認めてくれた。
尤も、姫君がOKを出してくれたことが一番大きいのではあるのだが。
そんなこんなで、グラン砦にたどり着いたのだが……

「ここからは私一人で行きます」

先ほど俺たちに向けて出されたレオ閣下の挑戦状を聞いた姫君が、突然そう言い出した。

(自分で話し合う気か。だが……)

俺は何となくっではある物の、嫌な予感がしてならない。
だからこそ、少しだけ意見をすることにした。

「それは認められません、姫君」
「え!?」

俺の言葉に驚いた様子で見てくる姫君。

「私もご一緒に行かせていただきます」
「私一人で大丈夫なので、渉さんは――」
「でしたらお聞きしますが、上に到着した際に攻撃されたらどうするのですか? 奇襲攻撃に対応できるのですか?」

俺はとことん性格が悪いなと思いつつ、姫君を問い詰める。

「今のレオ閣下は宝剣を奪うために躍起になっている。どのような事が起こるかは予測も出来ない。そんな状況で姫君を一人で行かせるのは、大問題です。護衛役として一人つく必要がある」
「おい、渉! 姫様に何ていう事を――「親衛隊長は黙ってろ!」――ッ!?」

俺に怒鳴ってくるエクレに怒鳴り返して無理やり黙らした。

「ということで、護衛には自分が付きます。もし嫌な場合でしたら、申し訳ありませんが姫君には眠って頂きます」
「ッ!?」

俺は神剣の吉宗を展開して、姫君に向けて構える。
吉宗なので、切ることはできない。
よってただの脅しだ。
だが、そのことを知らない姫君にとっては抜群の効果を発揮したようで、

「分かり……ました」

姫君は声を震わせながら了承した。

(こりゃ、後で謝った方がいいな)

姫君が上に向かう準備をするのを見ながら、俺はそう考えるのであった。










昇降機に乗り、武道台へと向かう中、姫君は大剣を手に俺は神剣二本を手に無言となっていた。
俺はそこでひとつ深呼吸をしてから口を開いた。

「先ほどは無礼の数々、大変申し訳ありませんでした」
「え?」

俺の突然の謝罪に、姫君が驚いたような声を上げた。

「俺も衣食住を見て貰っている恩もあるので、これくらいしなければ罰が当たります」
「そんな、もともとは私のせいで……」
「確かにそれはあれですが、色々な人たちとの出会いもたくさんありました。だからこそ今の俺は姫君の懐刀。姫君の身を守り、姫君の命を聞く……それが俺のやるべきことです」

俺は自分に言い聞かせるように姫君に告げた。
そうだ、今の俺は懐刀だ。
相手が向かってくるのであれば、手を汚してでも主を守らなければいけない。

「勿論、二人の話し合いを邪魔する気はありません。到着し次第、自分は離れた場所で待機します」
「ありがとうございます」
「お礼を言われるほどの事ではないですよ」

お礼を言ってきた姫君に、俺は苦笑い交じりに答えた。

「ところで、ダルキアン卿とユキカゼのことですが」

だが、姫君にはどうやら話が残っていたようで続けさまに切り出された話題に、俺は何も言わずに続きの言葉を待つことにした。

「お二人と喧嘩でもされたんですか?」
「別に喧嘩などは……」

していないと言おうとしたが、なぜかそこから先の言葉を口にすることができなかった。
別に姫組が俺を威圧しているわけでもなく、ただそれを口にするのが憚られたからだ。
もしかしたら、ウソをついたところですぐに姫君に本当のことがわかるという予感めいたものを感じていたからかもしれないが。

「理由を聞いても?」
「お二人の班から外れて私たちのところに来たので、そうじゃないかなと思ったんですけど」

俺の疑問に答えるようにして語られた姫君の答えは、実に理に適っているものだった。

「……もしよろしければ、ケンカの理由を教えていただけますか?」

神妙な面持ちで姫君は言葉をつづけた。

「……姫君にお話しするのもおこがましい理由ですよ」

そう前置きを置いて、俺は理由を話すことにした。

「人の気持ちを理解しようともせず、自分の身勝手な言葉で傷つけた……のかもしれませんし、それ以外の理由かもしれません」
「それ以外?」

姫君は俺の後半の言葉に疑問を抱いたようで、深く掘り下げてきた。

「詳しくは言えませんけど、でもこの戦が終わったらちゃんと話してみます」
「頑張ってくださいね、渉さん」
「ありがとうございます」

深く聞こうとしなかったことと、応援してくれたことに、俺は姫君に軽く頭を下げながらお礼を言った。

「貴方とこうしてお話ししたのは初めてですね」
「そうですね、自分も姫君とまともに話すのは、これが初めてです……と、到着しましたよ」

話がひと段落したところで昇降機が一番右側を指示したのを見て、俺は気を引き締めた。
そして、ゆっくりと扉が開く。

「お邪魔いたします。レオンミシェリ閣下」

姫君が前を見据えて声を上げると、昇降機を降りた。
俺も一歩遅れて昇降機を降り、奇襲に対応できる位置に立った。

「レオ様が国の宝剣を賭けて戦われるのであれば、私も宝剣を手にこの場に来ないといけないと思い、失礼ながら勝手に推参しました」

レオ閣下の表情は目が見開かれており、かなり動揺しているようにも見えた。

(俺と姫君の二人で来ることが予想外だったのか、それとも……)

俺が思考に耽っていた時、レオ閣下のそばにいたメイドのような人が、短剣を手に姫君に向かって行くのが見えた。

「はぁ!!」

間一髪のところで姫君の前に立ち神剣二本で防ぐことに成功した。

「分かりやすい奇襲どうも!!」
「無礼なふるまいについてのお叱りは後でいくらでも! 今は説明している時間がありません!!」

神剣と相手の持つ短剣に火花が散る。

「なッ!? しま――――」

俺は支点をずらされ、そのまま前のめりになってしまった。
倒れるのは免れたが、相手は姫君の所に向かって行こうとした。

「きゃあ!?」

その瞬間、姫君から発せられるエネルギーによってメイドの人は少しばかり後ろのほうに吹き飛ばされた。
その姫君の手にはピンク色で二回り小さな短剣が握られていた。
だが、その剣からは異様なものを感じることからそれが宝剣であることはすぐに分かった。
俺はすぐに奇襲を仕掛けてきたメイドの人に剣を突き付け、身動きを制限する。
その間、俺は頭の中で考える。

(どうも嫌な感じがする。これは空模様のせいなのか?)

周りの雰囲気が少しずつではあるが、悪くなっているのに俺は気付いていた。
それは、姫君とレオ閣下が言い合っているからではない。

(まさかとは思うが、プラスのエネルギーが消えかけているのか?)

それならば今の雰囲気にも説明がつく。

(だとすれば――――)

「ッ!?」

突然動悸と激しい眩暈が俺を襲った。
まるで、体の奥底から揺さぶられたかのような気持ち悪さを感じる。
しかしそれも、ほんの一瞬の事だった。

『グラナ浮遊砦攻略戦に参加中の皆様にお知らせします』
「ん?」

そんな中、突然聞こえてきたのはアナウンスだった。

『雷雲の影響か、付近のフロニャ力が、若干ではありますが弱まっています。また落雷の危険もあることから、いったん戦闘行動を中断してください。繰り返します――――』

(フロニャ力が弱まっている………俺の思った通りか)

俺はアナウンスを聞きながら自分の推測があっていたことを確認した。

「あの皆さん、屋根のあるところへ」

青髪のメイドの人が提案するとゆっくりと歩いて行った。

「二人とも」

俺は対峙している二人に静かに声をかけて、移動するように促した。
この時俺は、説明がつかないほど焦っていた。
二人はゆっくりとだがメイドの人のいる所に向かって行く。
そんな時、突如としてマイナスエネルギーが増幅した。

「「「ッ!?」」」

その次の瞬間、地震が発生した。

(これはまずい!!)

増幅し続けるマイナスのエネルギー、総称邪気。
その瞬間、武道台が宙に浮かび始めた。

「ミルヒ!」
「レオ様!」

名前を呼びあう二人だが、俺は空を見ていた。

(あれが、邪気の原因か)

俺の視線の先にあったもの、それは

―――とてつもない邪気と闇の力を秘めている漆黒の球体だった。

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IF-D 第6話 溝

「渉殿」
「何?」

自室へ戻る際中、俺を呼び止めたのはブリオッシュだった。

「ちょっと聞きたいことがあるでござる」

そう言ってブリオッシュは周囲を見回した。
どうやら人には聞かれたくない話のようだ。

「気になっていたのでござるが、ユキカゼと何かあったでござるか?」
「ッ! どうして、そう思う」

ブリオッシュの問いかけに思わず反応しそうになるのを無理やり止めて、俺は平静を装い聞き返した。

「先ほどのユキカゼと渉殿の接し方が少しいつもと違っていたでござるから気になったでござる」
「………」

確かにそうだった。
俺は彼女を袖にし、向こうはされた方だ。
いつも通りに接していること自体がおかしい。
しかも昨日の今日だ。
俺もそうだが向こうも割り切れていないのだろう。

「良ければ拙者に話してほしいでござる。そうすれば何か役に立てるかもしれないでござるし」

確かに、ブリオッシュの言うとおりだ。
一人で悩んでいても仕方がない。
こういう時は第三者の手を借りるしかない。
でも

(その張本人に言うのはな……)

徐々にはっきりとしだした俺の”応え”は、おのずと彼女を関係者にさせている。
だとすれば、当の本人に打ち明けていいような物ではない。

「ダメでござるよ。何でも一人で抱え込むのは渉殿の悪い癖でござる」
「………だよ」

ブリオッシュのその一言は、俺の中にあった何かを切り裂いた。

「な、なんでござるか? あまりよく聞こえなかった―――」
「俺の何を知ってるんだって言ってんだよ!」

思わず口を次いで出てしまった言葉。

「何も知らない癖に、勝手なことを言うなっ!!!」

止めようとしたが、一度口にしてしまった感情は止まることがなかった。

「渉……殿」

俺のそんな罵声に、ブリオッシュは起こるわけでもなく憐れむわけでもなく、悲しげな表情で俺を見ていた。

「っ!!」

ブリオッシュの目元からこぼれる物を目にした俺は、いてもたってもいられずにその場から逃げるように走り去った。





(何をやってるんだよ、俺は)

どのくらい走ったのか、俺は近くにある木の幹に寄りかかった。
こみ上げてくるのは後悔の念ばかりだった。

(今回の件は俺が原因だ。誰のせいでもないのだ。ブリオッシュを責める資格は俺にはまったくなかった)

今すぐに謝りに行くべきだということは、俺にもわかっている。
でも、

「今更、どんな顔して会えばいいんだ」

あれだけひどいことを言ってどうやって合えばいいのかが、俺にはわからなかった。

「くそッ!」

自分への不甲斐なさにいら立つ俺は地面に足を強くたたきつけた。

(本当に、俺って最低)

ため息をつきながら、俺はゆっくりとその場を後にする。
せめて、次にブリオッシュと会ったときは平静を装えるようにするべく俺は散歩をすることにした。
こうして、謝ることもできぬまま、開戦の日を迎えるのであった。

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IF-D 第3話 励ましとキスと

気づけば俺は立っていた。
俺はそこにいた。
”そこ”は、俺が最もよく知る場所。
”そこ”は、俺という存在を確立させる所以になった場所。
”そこ”は、俺にとって尤も思い出したくない場所。
”そこ”の風景が示すものは、きっと……

「ぅ………」

ふと目が覚めると、そこは天界ではなくよく見る天井だった。
周囲を見回すと、やはりフィリアンノ城内の俺に宛がわられた部屋だった。

(なんか変なものを見ていたような……)

俺は目覚める前に見ていたものを思い起こそうと頭をひねるが、記憶のかけらすらつかむことはできなかった。

(まあ、いいか)

重要なものであればいずれは思い出すだろうと思い、俺はそれ以上思い出すのをやめることにした。

「ッつ!?」

体を動かすと、体中に痛みが走るがそれを無視して起き上がるとベッドから出た。
上半身は白い包帯が巻かれていた。

「服は………あった」

俺はベッドの横に置かれた椅子の背もたれに掛けられていた服(とはいってもシンクが来ているジャージと、色違いの物だが)を着込んだ。
すると、扉が開く音がしたので、その方向を見る。
そこには桶のようなものを手にしたブリオッシュの姿があった。
ブリオッシュは俺の姿を見るや否や、信じられない物を見たように目を見開いた。

「渉殿ッ!」
「ブリオッシュか」

そして大きな声で叫ぶ彼女に、顔をゆがめながら声を上げた。

「何をしているでござるか!! 今日は絶対安静でござる!」

どうやら目を見開いたのは、俺がベッドから出て立っていたからのようだ。

「それは結構です。この通りもうほとんど完治したので………はい、分かりました」

俺の言葉を遮るように、ブリオッシュから無言のプレッシャーが襲う。
それに勝てるような俺ではなく、素直に従うことにした。
ベッドに横になった俺を見て、安心したのかほっと安堵の息を漏らすと、ベッドの横に会った椅子に腰かけた。

「渉殿が目覚めてくれてよかったでござる。もし私のせいで渉殿が死んだら、私は………」

ブリオッシュの表情は見えなかったが、彼女の両手が力強く握りしめられていた。

「あれはブリオッシュが悪いわけじゃない。単に俺が気を抜いていただけだ。あ、体調管理もできていなかったも加わるか」

後半はジョークのつもりで言ったが、ブリオッシュの表情は変わることはなかった。

「………はぁ。過ぎたことで後悔するのなら、先の事を考えよ」
「え?」

俺の言葉に、ブリオッシュはどういう意味だと言わんばかりに首を傾げた。

「失敗で後悔している時間があるのなら、しないようにしておけと言う意味。俺にとっての師匠が言った言葉」

本当は少しだけニュアンスが違うのだが、別にかまわないだろうと考えながら意味を説明した

「渉殿は、優しいでござるな」

だが、ブリオッシュを励ますことはほんの少しであっても出来たのだから、考えないでおこう。

「あ、今果物を持ってくるでござるから少し待っていて――キャッ!?」
「あぶなッ!」

徐に椅子から立ち上がったブリオッシュは、何かに躓いたのか前のめりに倒れようとしていた。
俺は慌ててベッドから飛び出ると彼女の前に回り込んで倒れないように支えようとする。

「うわッ!?」

だが、受け止める体制が出来ていなかったためかそれとも体が完治していないために、力が抜けているのか俺共々地面に倒れた。

「不覚でござる……渉殿、大丈夫で――」

ブリオッシュの言葉が、途中で途切れた。
何故かと思えば俺の目の前に、ブリオッシュの顔があったからだった。
眼は潤い頬を赤く染めたその姿は、何時もの大人の風貌を纏わせる彼女には似つかわしくない”一人の少女”を感じさせる物だった。

「渉殿……」

慌てて退くかと思ったが、ブリオッシュは俺の想像を超える行動をとる。
ブリオッシュは俺の名前をか細い声でつぶやくと、退くどころか目を閉じて逆に近づけてきた。

「え? んむっ!?」

驚いた瞬間には、俺の口はブリオッシュの唇に塞がれていた。

(これって、まさか……)

俺はそれが何なのかが分かったが、引き離すことが出来なかった。
まるで金縛りにあったかのように、体が固まってしまったのだ。

「ッ!?」

正気に戻ったのか、ブリオッシュは慌てて俺から離れた。

「こ、これは……その、えっと……」

慌てた様子で視線を俺から逸らすブリオッシュの姿に、俺は声も出なかった。

「も、申し訳ない渉殿ッ! わ、私急用を思い出したゆえ、失礼するでござるッ!!」

そして、そう言って逃げるように部屋を飛び出して行ってしまった。

「………」

俺に出来たのは、立ち上がって彼女が去った扉を見ている事だけだった。

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IF-D 第4話 迷いと決断

あれから俺は、ベッドで横になっていることが出来ず、上着を着て部屋を後にしフィリアンノ城を歩いていた。

「はぁ……」

周りの景色はとてもよく清々しささえ感じさせるほどだった。
だが、そんな中で俺は思わずため息をついてしまった。
俺らしくもない。
ユキカゼの告白、そしてブリオッシュのキス……他にも色々と考えなければいけないことがあるはずなのに、さっきからこの二つの事が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
それはまるで呪いの言葉のように、俺に付きまとう。

(一体全体、俺はどうしてしまったんだ)

「はぁ……」
「何ため息をついてるんだ? 渉」

再度ため息をつくと、聞きなれた女性の声が聞こえてきた。
その声の方を見ると、そこには呆れたような目をして腕を組む親衛隊長のエクレールの姿があった。

「何だ、エクレール――かぁ!?」

俺の言葉を遮るようにして、エクレールに軽く頭を叩かれた。

「何だとは何だッ!」
「すみません」

エクレールの怒りように、俺は素直に謝ることにした。

「……怪我の方はいいのか?」
「ああ。おかげさまで何とか」

謝ったことでエクレールはため息をつきながら、心配そうに聞いてきた。

「そうか。ダルキアン卿やユッキーがとても心配しておられた。あまり無茶はするな」
「御忠告どうも」

俺のお礼に、エクレールは「ふんッ!」とそっぽを向いてしまった。

「そう言えば先ほどダルキアン卿が顔を赤くして走って行ったが、何かよからぬことをしたのではあるまいな?」
「ッ!?」

エクレールの問いかけに、俺は息をのんだ。
確かに何かがあった。
尤も、その何かを”した”のではなく”された”のだが。
それはともかく、俺の反応を見たエクレールの視線がさらに鋭くなった。

「渉、貴様まさか本当にダルキアン卿に―――――」

エクレールの声が、意識が一瞬遠くなった。
まるで双眼鏡で景色を見て外した時のように。

「――――かッ! 渉ッ!」

意識が戻ると、俺は地面にうずくまっており、体を揺すりながら心配そうに声をかけているエクレールの声が聞こえた。

「悪い、ちょっとした立ちくらみだ」
「そ、そうか」

俺はふらつきながらも立ち上がり、大丈夫だと告げる。
エクレールは渋々ではあるが納得してくれたようだ。

「渉、今日は大事を取って大浴場で汗を流し、安静にしていろ」
「そうする」

エクレールの言葉に、俺は素直に頷くことにした。
このまま動き回っていたらまた誰かに迷惑をかけるかもしれない。

「一応言っておくが、今は男の入浴時間だがあまり長湯をしていると女性の入浴時間になる。気を付けろ」
「り、了解」

頭の中に、エクレールに追い掛け回される自分の姿を想像し、頷いた。
取りあえずそれだけは防がなくては。
そして俺は大浴場へと向かった。










「ふぅ……久しぶりにゆっくりできる」

それもどうだとは思うが、俺はのんびりとお湯につかっていた。
念のために言うが、俺は体を一通り洗い終えている。

(やっぱり”世界”からは逃れられないか)

俺は自分の手を見つめながら心の中でそう呟いた。
俺の今回の一連の症状、それは世界と契約をしているがために起こったものだ。
”物質化抵抗現象”と同じだが、このままでは大変なことになる。

「それだけは防がないと」
「それとは、何でござる?」
「それはだな…………」

俺の呟きに自然に答える少女の声に、普通に答えようとして俺は固まった。
そしてゆっくりと横を見てみた。

「うわぁ!?」
「ひゃっ! い、いきなり大きな声を出してどうしたんでござる?」

俺の横には同じようにしてユキカゼがお湯につかっていたのだ。

「どうしてッ! なんで、ユキカゼがここにいるんだよッ!?」
「先回りしてエクレ達を驚かそうと思ったからでござるよ」

俺の半ば叫びながらの問いかけに、ユキカゼは屈託のない笑顔で答えた。

「にしたって、まだ男の入浴時間中に……」
「大丈夫でござる。この時間帯に入るのは渉殿ぐらいでござるから」

ユキカゼの言葉に、俺はあたりを見回してみた。
確かに、人の姿はまったくと言っていいほど見当たらない。

「それで、何を悩んでいるのでござる? 拙者で良ければ話を聞くでござるよ」
「……」

ユキカゼの言葉がきっかけとなったのか、俺は今まで心の中にとどめていた疑問を静かに口にする。

「どうしてユキカゼ達は、俺なんかにそこまで気を許すんだ? 俺に生きる価値なんてないのに、どうして――――」
「それ以上言ったら、さすがの拙者も怒るでござるよ」

俺の疑問を遮ったのは、怒気を含んだユキカゼの言葉だった。

「渉殿は拙者たちを、二回も身を挺して助けてくれたでござる。拙者やお館さまは渉殿の優しい心に引かれたのでござる。だから拙者は渉殿の事が好きになったのでござる」
「でも――」
「だから、渉殿。自分の事を『生きる価値がない』などと言わないでほしいでござる。もっと自分に自信を持ってほしいでござる」

ユキカゼの答えに、反論をしようとした俺の言葉を遮り、ユキカゼはすがるような声色で言ってきた。

「…………善処する」

それに俺が言えたのは、たったそれだけだった。
本当はお礼を言うべきなのに、俺は出来なかった。
自分の愚かさに、俺は悲しくなってきた。

「ところで、渉殿。できれば、その……拙者のこ、こ告白の返事を聞きたいでござるな……」
「………」

どもりながらも、ユキカゼは答えを促してきた。
きっとそういう流れだったのだろう。
聞かれたら応えなければいけない。

だからこそ、俺は答えた。

「ごめん」

それが、答えだった。

「そうでござるか」

その真意を悟ったユキカゼは穏やかな声色でつぶやく。

「もしかして、ほかに好きな人でもいるのでござるか?」
「それは……」

ユキカゼの問いかけに、俺の脳裏には一瞬一人の女性の姿が浮かんだ。
いつもはきりっとした武士のような女性で、時より見せる気が抜けた雰囲気の差が少し激しい女性の姿を。

「わ、悪かったでござる。これは聞いてはいけなかったでござるな」

応えようともしない俺に、ユキカゼは黙秘ととったのか謝ってきた。

「……そろそろ俺は上がるとする。聞いてくれてありがとう」
「また明日でござるよ。渉殿」

ゆっくりと湯銭から上がり大浴場を後にする俺の背中に、ユキカゼはいつもと変わらない声色で言ってきた。
そんなユキカゼに、俺は片手をあげて答えるのであった。

(俺も、覚悟を決めるか)

今、ひとつの問題が解決を迎えた。
だが、また新たな問題が出てきてしまったのだ。
しかもまだ、他の問題が解決はしていない状態だ。
だからこそ、俺は彼女から逃げてはいけない。
そう思ったからこそ、俺は決心をした。
ちゃんと自分と向き合おうという決意を。
そして俺は服を着ると、そのまま自室へと足を向けるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「はぁ……フラれた、でござる」

渉が去っていき、一人になった大浴場の浴場でユキカゼは深いため息を漏らしながらつぶやいた。

「………」

つぶやいたユキカゼは自分の内心に負の感情が渦巻くのを感じた。

―どうして自分がフラれるのか―
―どうして自分ではないのか―

それを振り払うように、ユキカゼは顔を振る。

「はは、まさか拙者がこんな感情を抱くとは」

軽く言うユキカゼだが、その目はうるんでいた。

「おかしいでござるな。どうして拙者は泣いてるでござる?」

首をかしげながらも、頬を伝うものは止まらない。

「あ、そうか……」

そしてユキカゼは悟った。

「拙者は悲しいんでござるのか」

それは至極もっともな結果だった。

「う……うぅ……うあああああ!!」

そして、大浴場に彼女の嗚咽が響き渡るのであった。
それは、フラれたことに対するしがらみをすべて振り払うものなのか、それとも別の何かなのか。
それは定かではない
全てを知るのは当人のみだ。

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IF-D 第5話 夢と宣戦布告

その日、俺は夢を見ていた。
それは、この間のような夢ではない。
目の前にあるのは暴れる巨大な生物。
おそらくは魔物だろう。
周囲には先端が凶器のようなものが付いているツタがひしめき合ていた。
その魔物は何ふり構わず攻撃の手を緩めない。
地面を破壊し、時には森をも破壊する。
まさに地獄絵図。
一瞬、その地獄絵図を醸し出した元凶でもある魔物の姿がはっきりと見えた。

(え?)

俺は動揺を隠せなかった。

(どうして……)

なぜなら、その魔物の姿は

(どうして、■■なんだ?)

■■■だったのだから。










「――――です!! 早く起きてください!!」
「わぁあああ!!?」

夢の中から引きずりだすように、突然耳に聞こえてきた少女の声に、俺は思わず飛び起きた。

(一体なんだったんだ? 今の夢は)

「渉さん!! 大変でありますよ!!」
「な、何!?」

思考に耽っていると、再びリコッタの叫び声に引き戻された。
その後、ドアをけり破るような勢いで中に入ってきたリコッタから、伝えられたことをまとめると次のようになる。
まず、突然レオ閣下が、ビスコッティに宣戦布告をした。
そしてそれの懸賞をガレットの宝剣、『魔戦斧グランベール』と『神剣エクスマキナ』が賭けられたとのこと。
しかも、それにはこっちもそれに見合うものをかけなければいけなくなり、それは宝剣であるということ。

「話は分かった。とりあえず、着替えたいから外で待っててくれる? 2分で終わらせる」
「り、了解であります!」

話を聞き終え、俺がそう告げるとリコッタは慌てた様子で部屋を出て行った。
俺はリコッタが出て行ったのを確認すると、一息ついた。

「今回の宣戦布告とあの夢が、関係がなければいいんだが」

俺は不安を感じていた。
俺が視たあの夢。
それが所謂”予知夢”であるか否かだ。
もっとも俺の場合、視ることはかなり少ない。
しかも見たら俺の場合は必ず現実のものとなってしまう。
つまり、もしあの夢が予知夢だったのなら、あのような魔物が現れるということだ。
その為に周辺はとんでもない状況に陥る。

「………それだけは防がなくちゃ」

俺は再びため息をつくと、着替え始めた。
そして、着替えが終わった俺は、急いで部屋を後にした。

(最悪の事態だけは回避しないと)

そんな、俺の決意と共に。

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