健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-H 第13話 選択

姫君のコンサートが行われた翌日、俺とシンクそしてユキカゼに姫君はパレードで外を歩いていた。
リコッタは途中で学院の方に行くとのことで、先に抜けて行った
シンク達はとても楽しそうだったのが、印象深かった。










「ふぅ」

夜、夕食とお風呂を済ませた俺は、浴衣の上に黒いマントを羽織って風月庵から出た。
それは、夕方にリコッタから夜に、図書館の方に来るように言われたからだ。
ユキカゼ達には散歩と嘘をついてしまったが、まあ、いいだろう。
どのような要件かは、想像がついていた。

(まあ、行くしかないか)

そう結論を出して、ビスコッティ城へと向かうのであった。










「小野だが、いるか?」
「渉様、こんばんはであります」

図書館に突いた僕を待っていたのは赤い目をしたリコッタだった。

「どうしたんだ? 目が赤いが」
「え……あ、あの、実は渉様に伝えないといけないことがあるのであります。実は――――」

リコッタの目がかすかに赤くなっている理由を尋ねた俺に、リコッタは本題に入ろうとするがその先の言葉がすでに分かっていたため、俺はリコッタの言葉を遮った。

「勇者送還の儀の事だろ?」
「え!? な、何で渉様がそのことを」

俺の予想は正しかったようで、リコッタが驚いた様子で俺に尋ねてきた。

「それは秘密だ。でも間違ってはないだろ?」
「は、はい」

俺の言葉に戸惑ったように応えた。
俺はリコッタの答えを聞いて一息つく。

「しかし、ここでの記憶をすべて失って、ここには来れないなんて何ともひどい話だよな」

俺は苦笑い交じりに呟いた。

「まあ、この勇者送還の儀は、召喚された勇者がその役を断った際に行うものだから、当然と言えば当然なのかもしれないが」
「渉様は、本当に何でも知っているんですね」

俺の言葉に、リコッタはどことなく悲しげな声を上げた。

「知っていても、それを伝えることはできないのさ。どう取り繕うと俺は観測者(オブサーバー)だからな。出来るのは人々が自分の力で道を切り開くのを見ているだけさ」
「それでもすごいでありますよ、渉様は」
「渉」

俺は、今まで気になっていたことをリコッタに言う事にした。

「え?」
「俺には様付けは不要だ。何だか背筋がぞくぞくして居心地が悪いんだ。いっその事呼び捨てにでもしたらどうだ?」

俺の言葉に、リコッタは鳩がまめ鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。

「で、では渉さんで」
「はい、よろしく」

呼び方を直したところで、俺はもう一度話を戻すべく口を開いた。

「俺は母国に戻る」
「ですが、渉さんはこちらに来てからもうかなりの年月が経っています。送還の儀は16日以内です」

俺の言葉に、リコッタが反論する。
確かに、俺が見たのではそうなっていた。

「かなり乱暴だけど、時間経過を誤魔化す紋章を描いて置けば問題ない」
「そ、そんなことが可能なのでありますか?」
「ああ。とは言え、ものすごく複雑でミリ単位でずれれば動かないし、描くのに数年の時間が掛かるという代物だから実用には程遠いが」

目を見開かせて聞いてくるリコッタに俺はそう返す。
だが、それは嘘だ。
本当は数時間もあれば描くことはできる。
この技術を悪用すれば、何が起こるかは想像するに難くない。
この世界にそういった者がいないことを願いたいが、万全を期す方がいいだろう。

「それでは、姫様にお伝えして――「ちょっと待ってくれるか?」――はい、何でありますか?」

俺はリコッタを呼び止めてあるお願い事をした。

「ユキカゼとダルキアンにはこのことを言わないでほしいんだ。姫君との別れに水を差したくはないから、場所もシンクとは別の所にする。送還の儀の術式の方はこっちで何とかするから大丈夫だ。これも姫君に伝えて貰えるか?」
「………分かったであります」

俺の願い事に、リコッタは複雑な表情を浮かべて頷いた。
そして俺はその場を後にするのであった。










「はぁ……」

風月庵に戻る道中、俺は静かにため息をこぼした。

(いまさらだな。分かってたことじゃないか)

リコッタの様子がおかしかったので調べたら送還の儀の事が出てきたのだ。

(記憶も失うのか………想像が出来ないな)

記憶を失うという言葉の実感がいまだにわかない。
冗談とさえ思えてくる。
だが、冗談ではないと、俺の中では告げていた。

「俺だって嫌だよ。二人の事を忘れるのは」

何だかんだあってユキカゼ達は、俺の世界で一番大事な人になった。
その人の事を忘れることに、俺は耐えられない。
それは、向こうも同じはず。

(二人が知ったらこの世界に留まってって言いそうだよな)

それが分かっていたから、俺は二人に隠すことを決めた。
勿論、ここに戻る気満々だ。

「俺だって、ずっとここにいたい」

暗闇の中でつぶやく。
それが出来ない理由があった。

(少しずつ、力が弱まっている。ここの世界に居続けるのは………)

消滅と同意義だ。
フルパワーを出したからなのか、それとも物質へと変わり始めるのを元に戻そうとする作用からか、神の力の源の”霊質”が異様なほどに弱まって来ていた。
このままこの世界に居続けたら、俺は消滅するだろう。
世界の意志は一つの世界に居続けることは不可能。
もし仮に一つの世界に居続けるには、ノヴァに許可を得て術式を施してもらう必要がある。
そうすれば、長期間その世界に留まることが出来る。
ただし、それでも数年に一回は必ず天界に戻る必要がある。
天界で5日間静養すれば、また元の世界に戻れるようになる。
しかし、天界での5日はここでの200日に値する。
半年以上も最愛の人を放っておくのは男として恥だ。

「だから、一回帰るんだ」

この世界に永遠にいるために。
俺は自分の心にそう言い聞かせた。

「渉殿~!」
「遅いでござる!」

いつの間にか風月庵の前に来ていたのだろうか、ユキカゼとダルキアンが駆け寄ってきた。

「悪い。星を見ていたら遠くまで行っちゃったんだ」
「気を付けるでござるよ」
「そうでござる。さあ、渉殿今日こそは拙者らと一緒に寝るでござるよ!」

誤魔化すように告げた俺の言い訳に、ユキカゼは苦笑しながら言い、ダルキアンが俺の腕を引っ張って屋敷の中へと連れて行く。

「はいはい」

俺はそんな二人に苦笑しながら、屋敷の中に入るのであった。





ちなみに、その日の夜

「渉殿ぉ~」
「……苦しい」

ユキカゼの熱い抱擁をされ、色々な意味で寝付くのに時間が掛かったのは、全く関係ないだろう。

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IF-H 第12話 退治の夜

「時に貴様。食事は済ませたか?」
「ううん。まだ」
「向こうに露店が出ている。食べに行くか?」
「え? うわぁ、いいね! 食べに行こうか」

そんなシンクとエクレールのやり取りが聞こえる。
今俺達はユキカゼとリコと共に、木の陰から二人の様子を見ていた。
いや、俺の場合は無理矢理だが。

「ほほぅ、これは興味深げな展開でありますよ」
「ごじゃる」

リコの言葉に、食べ物を食べながらユキカゼが相槌を打つ。
そして二人について行く形で俺達も移動する。
露店の影の方で二人は、シンク達の様子を覗き見ていた。

「エクレが男の人を食事に誘えるようになるとは! リコッタ感激であります!」
「雰囲気も悪くないでござるよ~」
「はぁ……」

二人の言葉を聞きながら、俺はため息をつくと後ろを向いた。
覗き見るのはあまり好きではない。
そんな時、ジェノワーズの三人が近づいてくるのが見えた。

「よぉし、そこでござる。もっと、ぐぐっとぉ」
「ぐ~ッとぉ」

二人の背後に近づいた三人は、ユキカゼ達の肩を叩く。

「ん?」
「お?」

叩かれたことに気付いた二人は、後ろを振り返る。

「はぁい!」
「お二人揃って何されてるんですか?」

クラフティとファーブルタンが二人に声をかけた。
そんな時、ガウルの声がする。

「よぅ! シンク、たれ耳!」
「………む」

声のした方向には、ガウルがエクレールとシンクが座っている場所に向かって行く姿が見えた。
その後、合流した俺達は、色々な食べ物を用意して少し離れた場所にシートを引くと、そこで食事をとることとなった。

「しっかしおめえら、二人して大した活躍をしやがったな」
「いえ」
「まあ、色々ありました」

骨付き肉を豪快に頬張るガウルの言葉に、エクレールとシンクが答えた。

「それに魔物騒動と会見の後、うちの姉上、つきものが落ちたみたいにさっぱりしてしまってな。詳しい事情は聞いてねえけど、後で俺にも教えてくれるってさ」
「そうなんだ」

ガウルの声に、シンクが相槌を返す。

「後、バーナードに聞いたんだけど、戦興業も元のペースに戻すらしいぜ」
「それは何より」

ガウルの知らせに、エクレールが喜びながら答えた。

「戦も終わってごたごたも片付いて」
「魔物も退治されて」
「ビスコッティとガレット領国に再び平和がってことで」

クラフティとヴィノカカオ、ファーブルタンの順にまとめて行った。
………料理を頬張りながらだが。

「そうなれば何よりでござるな」
「ホントであります」

そしてユキカゼとリコッタもそれに続いた。

「戦は中途半端に終わっちまったが、結果よければすべてよしだ」
「だね、ほんとによかった」

そして、俺達は笑いあった。

(ホントに良かった。ホントに)

その光景を見ているだけで、そう思えてしまう。
失ったものもあるが、それ以上に今この光景は価値のあるものだった。

「あ、そうだ渉。ココナプッカ食べる?」
「は?」

何かの料理の名前だろうが、少しばかり意味が分からなかった。
そんな時、リコッタが不意に立ち上がった。

「リコ、どうかしたか?」
「ああ、学院のみんなが緊急で連絡が欲しいとのことで」

エクレールの問いかけに、リコッタはどこか影を落としたような表情で答えた。

「あら」
「勇者さま、ガウル殿下。自分はちょっと野暮用で出るであります」
「はーい」
「おぉ、行って来い!」

リコッタの言葉に、シンクとガウルは快く送り出す。

「………」

だが、俺にはそれが嘘であると言う事が分かった。
どことなく表情が曇っていた。
おそらくは手にしている巻物が原因だろう。
その後、俺達は姫君の臨時ライブを見るのであった。

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IF-H 第11話 終わりと告白

俺達がいるのは、周りが木々に囲まれた森の中だ。
あの後、魔物の元となった妖刀が落ちて行った場所を追いかけたのだ。
目の前にあるのは紅い蔦のようなものを不気味に動かしている妖刀だった。
その妖刀は近づく俺達に気付いてその動きを遅くさせる

「それにしても、我らの姫君と勇者殿には驚かされる。妖刀の贄となった子をああも見事に退治成されるとは」
「拙者は存じ上げておりましたよ。姫様もシンクも、ちゃんとできる子だと」

ブリオッシュの言葉に、ユキカゼが続く。
そう、あの大きな魔物は勇者シンクと、姫君によって退治されたのだ。
正確には元凶に戻すことが出来たということだが。
それでもすごい物はすごい。

「さすがは勇者と言った所か」
「そうであったな。さて、ここからは拙者のお役目でござる」
「「はいっ!」」

大剣を握りしめながら告げるブリオッシュに、俺とユキカゼは答える。
その瞬間、妖刀が牙をむく。
俺達に目掛けて赤い蔦のようなものを使って攻撃してくる。
それを俺達は巧みにかわす。

「天封!」

隙を狙って俺は蔦の攻撃を止める。

「浮き世に仇なす外法の刃。封じて廻るが、我らの努め……大地を渡って幾千里、浮き世を巡って幾百年」

ユキカゼの詠唱が進むにつれて地面に金色の紋章が描かれる

「天狐の土地神ユキカゼと、討魔の剣聖ダルキアン! 流れ巡った旅のうち、封じた禍太刀……五百と九本! 天地に外法の華は無し!」

短剣から放たれた金色の小さな何かが妖刀の蔦に突き刺さる

「……朽ちよ禍太刀!!!」
「神狼滅牙、天魔封滅!!!」

ブリオッシュの大剣に纏った紫色の光によって、辺りは包まれる。
その力でさえも、妖刀は耐えている。

「天高く舞い上がれ」

そこに俺の一撃が加わる。
その言葉と同時に、俺は背中に生えているであろう翼を使い斬り伏せるように動かした。
それだけでも空刃となって届くため、有効な一撃なのだ。

「点に轟く一筋の光は!」

再び、言葉を切り刻みながら両翼で2回切り刻む。

「絶望の闇を打ち消す光となる!!」

そう叫び両翼で一斉に切り込むように動かすと、俺は神剣二本を頭上で合わせる。
次の瞬間、二本だった神剣は一本の大きな剣に姿を変えた。
白銀の光に包まれたそれは、前に使った時よりも膨大な威力を発揮するだろう。

「紋章術、終焉の幻想郷!」

最後の一言を告げると同時に、神剣を妖刀に向けて振り上げる。
その一撃と二人の攻撃が蓄積していき、妖刀は粉々に砕け散った。
それと同時に、暗雲に包まれた空は元の紫色の空へと変わった。

「うむ。無事に済んだか」
「はい、お館さま。封印刀の中に、しっかりと封印しました」

未だ紫色の光を包むブリオッシュの問いかけに、ユキカゼは地面に突き刺さっていた封印刀を掲げる。
見ただけでもわかる。
その封印刀に秘められた力が。

「うむ」

その答えに、ブリオッシュは満足げに頷くと手にしていた剣を振る。
それを合図に、今までその体に纏っていた紫色の光はまるで殻のように破れて消えた。

「砦にいる姫様たちにご報告に向かわなければな」
「はい! 拙者が行ってまいります」

ブリオッシュの言葉に、ユキカゼがそう答えるとブリオッシュが頷いた。

「ちょっと待ってくれ」

そこで、俺は割って入るように声をかけた。
きょとんとした表情でこっちを見てくる二人。

「その前に、大事な話がある」
「そ、そうであったな」
「う、うう………」

俺の言葉に、二人は頬を赤く染めて答える。
俺は深呼吸をする。
問題はない。

「俺は一人の女性として、ユキカゼとブリオッシュの事が好きだっ!」
「「ッ!?」」

俺の告白に、二人が声にならない悲鳴を上げる。

「でも、俺は一人を選ぶだなんてことはできない。だから――――」
「「渉殿!」」

俺の告白は、二人の声によって遮られた。

「い、今の言葉に偽りはないでござるか!?」
「本当に拙者の事が好きなのでござるか!?」
「あ、ああ。嘘偽りはない」

その俺の言葉を聞いた瞬間、二人の表情が笑顔に包まれた。

「拙者は嬉しいでござる」
「拙者もでござる。どっちか一人だけだったら拙者は泣いていたでござるよ」
「そ、そうか。それならよか…………はい?」

二人の嬉しそうな表情に頷き掛けた俺は、思わず固まってしまい聞き返した。

「拙者とユキカゼも、”渉”が一人の男として大好きでござるよ」
「うわぁ!?」

そう言って二人して抱き着いて来たので、少しばかりよろけたが頭の中は大混乱だ。

(ど、どうして俺は二人と付き合うことに!?)

俺としては、二人は選べないので、もう少しだけ時間を欲しいというつもりだったのだ。
でも、二人は完全に勘違いしている。
こっちの方がよっぽど男としてまずい。

「わ、渉!」
「は、はい!?」
「その拙者と口づけをしてほしいでござる」
「はいぃ!?」

ブリオッシュのストレートな言葉に、俺が慌てる番だった。

「そ、その好きな者どうしで最初にするのが口づけだと聞いているでござる。だから」
「それとも、やはり渉のさっきの言葉は嘘だったのでござるか?」

最初にするのが口づけって、何かおかしい。
いや、俺も声を大にして言えるような経験をしていないが。
しかしこれはまずい。
もはや、正しく説明する事は不可能な状態になっていた。

(ええい! こうなったら覚悟を決めるしかない)

俺は今後訪れるであろう非難を受け入れる覚悟を決めた。

「ブリオッシュ」
「ぁ………ん」

俺はブリオッシュに口づけを交わす。
時間にしてほんの数秒。
だが、それは俺にとっては数十秒にも感じられた。

「うぅ~、お館さまばかりずるいでござる!」
「む……」

大きな声で不満を訴えるユキカゼの声に、俺はブリオッシュから唇を離すとユキカゼの方に向き直る

「んぅ………」

そして、俺はユキカゼに口づけを交わすのであった。
こうして、俺とユキカゼ、ブリオッシュは恋人となるのであった。

………絶対に何かがおかしい。

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IF-H 第10話 真名解放

走り出してどのくらいたっただろうか?
少しずつグラナ砦に近づいて来ていた。

「曇り空に雷………明らかに何かが出る気配全開だな」
「……そのようでござるな」

俺の軽口に、ブリオッシュの声は緊迫感に包まれていた。
俺でもわかる。
今まで数は少ないものの、何体もの魔物と対峙していた俺でも。

―――今回出てこようとしている魔物は、今まで対峙してきた中で最強であると。

『グラナ浮遊砦攻略戦に参加中の皆様にお知らせします』
「ん?」

突然聞こえてきたアナウンスに、俺は耳を傾ける。
若干聞こえずらいが、聞こえないことはない。

『雷雲の影響か、付近のフロニャ力が、若干ではありますが弱まっています。また落雷の危険もあることから、いったん戦闘行動を中断してください。繰り返します――――』
「これも……」
「うむ、魔物が出てくる前兆でござる。急ぐでござ――「止まれッ!」――ッ!?」

フロニャ力の低下が魔物出現の前兆であると告げてさらに速度を上げようとしたところで、俺は二人に留まるように大きな声で叫んだ。
それは本当にとっさの判断だった。
二人は驚きはしたものの、徐々に速度を落として止まった。

「どうしたでござるか? 渉殿」
「良くは分からないが、これ以上進んだらまずい気がしたんだ」

突然の俺の言葉に戸惑いを隠せない二人が顔を見合わせる中、俺は一点を見つめる。

「それに、あれが魔物何だよな?」
「うむ。おそらくは」

俺の疑問にブリオッシュが答えるのと、地を揺さぶるような雄たけびが響き渡るのとはほぼ同時だった。

「ッ!?」
「おいおい」

雄たけびの次の瞬間に、あちこちで立ち上がる火柱に俺は冷や汗をかいてしまった。

「風神!」

俺は慌てて神剣を地面に突き刺す。
それと同時に俺達が立っている場所が白銀の光で覆われる。

「渉殿、これは?」
「守護結界……フロニャ力をさらに濃くしたようなもので、この中にいれば魔物の類は俺達に手も足も出せない」

ユキカゼの質問に、俺は答えながら次の一手を打つ。

「星流風神砲!」

上空に向けて神剣を掲げてそう叫んだ瞬間、空に向かって白銀の光が放たれる。
その白銀の光は空で弾け、星のように降り注ぐ。
だが、それでも……

「フロニャ力に変化はなし。下がり続けているだけか」

フロニャ力の減少は止まらない。

(どうする? どうすればいい)

俺は必死に考える。
だが、考える必要などなかった。
答えなど最初から出ていたのだから。

(真名解放……)

真名解放をすれば、神の力を完全に開放することのが出来る。
そうすれば、この事態はすぐに解決するだろう
解決できなかったとしても、この土地の浄化が出来、フロニャ力を従来の値にまで増加させて魔物を弱らせることくらいはできる。
だが問題は二つ。

一つは俺の余力。
真名解放は強大な力を解き放つとともに、膨大な霊力を必要とする。
今の状況で、それを行うのは自殺行為。
霊力を込めておいた、霊力石を使えば持つかもしれない。
石の数は二つで余裕もある。

そして二つ目が、俺自身の問題。
真名解放は神としての力を前面に出すこととイコールだ。
つまり、どう取り繕っても俺の正体が二人に知られる。
ブリオッシュは若干ではあるが勘づいているようだが、それでも正体が分かって距離を取られるのが怖いと思う俺がいる。

(はは、本当に変わったな俺って)

自分の思考に、苦笑を浮かべる。
今までは、『正体を知られてはいけない』という掟の為に言いたくはなかったのが、それが今では二人に嫌われるのが怖いからという物に変わっているのだ。

「渉殿」

ブリオッシュの静かな声で俺は思考の海から抜け出す。
目に見えた光景はものすごく巨大な魔物が歩いている姿だった。

「大丈夫でござる」
「拙者もお館さまも、渉殿がどんな存在であったとしても受け入れるでござるよ」

俺の心の不安を見透かしたようなその言葉に、俺の心の中にあった”何か”がゆっくりと崩れて行った。

「はははっ!」

そして口から洩れたのは笑いだった。
魔物がいて世界全体が負のオーラに満ちているかもしれないこの状況で、笑えるのはもはや異常だろう。

「本当に変わったよ、俺は!」

俺は首にかけていた巾着袋から霊石を一個取り出すと、それを口に入れ飲み込んだ。
すると、体中に霊力が満ちて行くのを感じた。

「ふぅ………我が、世界統括せし三神が一人、小野 渉の名の元に命ず。真名解放!」

その力強い言葉と同時に、体の中にあった霊力が一気に弾けた。
体中が熱い。
何でもできるという、根拠のない気持ちが溢れだす。
体中の熱がふっと下がったのは時間にしてほんの数十秒程度でも、俺にはその倍以上の長さに感じられた。

「二人とも、大丈夫か!」
「う、うむ」
「なんとか………」

真名解放時の突風で吹き飛ばされたのか、最後に見た時よりも距離がある二人に声をかけたが、無事のようだった。
風神が衝撃緩和の役割を果たしたのかもしれない。

「ブリオッシュ、ユキカゼ」
「何でござるか? 渉殿」

俺に声を掛けられて要件を尋ねてくる二人に、俺はゆっくりと告げた。

「これが終わったら、話したいことがある」
「「………ッ!?」」

俺の言葉に、二人が息をのんだ。
俺の言葉の意味は二人には伝わったようだ。

「分かったでござるよ」
「その話を聞くためにも、早く終わらせるでござる!」

何だか二人に闘志が漲っている。
しかも何だか不純な理由で。
そんな二人に苦笑を浮かべながら、俺はもう一度神剣を空に向けて構える。

「わが名のもとに、この地に祝福の恵みを。天宝の恵み!」

その言葉と同時に、神剣から白銀の光が天空に目がげて放たれる。
その光は荒々しい物ではなく、周りを包み込む柔らかい物へと姿を変え地面に降り注ぐ。

「これで、周囲の危険なものは排除できたな」

周囲の安全を確認しながら俺はそう呟く。
フロニャ力も、少しではあるが上昇したようだった。

「すごいでござるよ渉殿」
「ああ。ユキカゼ、渉殿、次にやるべきことをするでござるよ!」
「はい!」
「御意」

そして、俺達は魔物を退治するべく動き出すのであった。

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IF-H 第9話 予兆

戦も中盤となってきた。
俺やユキカゼ、ブリオッシュは周囲の敵を倒して行っていた。
とは言え一番倒していたのはブリオッシュだが。
そして今俺達ビスコッティ3番隊は、橋の入り口前で止まっていた。
前には大量にいるガレット兵士。

「さあ、この橋を抜ければ本陣もすぐでござるよ。どんどん参られよ!」

セルクルに乗りそう啖呵を切るブリオッシュに、ガレット兵士たちが大声で叫んだ。
そして大勢でブリオッシュの所へと突っ込んでいく。

「しゅんこうれんてんほう」

しかし、それを冷静な面持ちで紋章を背面に出すと紫色の光を纏った剣を振り下ろした。
その瞬間、大勢のガレット兵士たちは猫玉化する。

(いつ見てもすごい)

その光景を見ながらそう思っていると、突破は無理だと判断したのか次々と撤退していく。

「追撃でもする?」
「いや、しなくてもよいでござろう」

神剣を構えて追撃態勢に入る俺の問いかけに、ブリオッシュはそう答えながら剣を肩に担ぐように持ちながら答える。

「ダルキアン卿! 騎士団長より、作戦の伝令でございます!」

そんな時、ビスコッティ部隊の一人がこちらに向かって駆けてきた。
どうやら作戦の変更があるらしい。

「ダルキアン卿とパネトーネ筆頭3番隊は、前方2番隊の応援に向かって欲しいとの事」
「うむ心得た」

兵士の言葉に、そう返すとブリオッシュは深呼吸をする。

「敵陣は薄く伸びておるな。駆け抜けるが早かろう」

そう告げるのと同時に、ブリオッシュは俺達に指示を飛ばす。

「ユキカゼ、渉、ビスコッティ3番隊一同、拙者に続け! 敵陣を抜け2番隊に向かうぞ」
「はっ!」
「御意!」

ブリオッシュの指示に俺達は頷くと、行動を開始しようとするが俺達の前に立ちはだかる人物がいた。

「お待ちくだされ、ダルキアン卿」
「おぅ、久しいの。バーナード将軍」

どうやら相手は将軍のようだった。
ボスの前の中ボス的存在が現れたようだ。

「ご無沙汰です。申し訳ありませんが、ここはお通しできません」
「ふむ……それは一騎打ちのご提案と受け取ってよろしいかな?」

バーナード将軍の言葉に、ブリオッシュは剣を持つ手に力を込めながら好戦的に返す。

「ご無礼でなければ是非に」

バーナード将軍が頷いて、辺りに自然と満ちていた緊迫感が弾ける瞬間だった。
上空から何かが将軍とブリオッシュのに割って入るかのように振ってきた。

「その勝負待ったぁ!!」

その声の先には、セルクルに乗っているロラン騎士団長の姿があった。

「その一騎打ち、私が受けよう」
「ロラン……」
「マルティノッジ卿」

突然現れたロラン騎士団長に、驚きを隠せない二人。
尤もそれは俺もだが。

『おぉっと、状況が二転三転。ここで指揮官対決。両軍の騎士団長同士の対決か!?』

上空からナレ―ターの声が聞こえる。

「すまんな、ここは預かる。行ってくれ、ダルキアン卿」
「うむ、心得た。3番隊、行くでござるよ!」
「はい!」

ブリオッシュに続いて、俺達も動く。










「ッ!?」

俺がこの土地の異変に気付くのと笛の音のようなものが鳴り響くのはほぼ同時だった。

「お館さま!」
「ああ。コノハ、砦の方角でござるな?」

その笛の音を聞いたユキカゼがブリオッシュに声をかけると、ブリオッシュはコノハに訪ねる。

「あの、ダルキアン卿、パネトーネ筆頭。この音色は一体」
「まあ、その……危険警報のようなものでござる」

ユキカゼと並んで先頭を走っていたいた3番隊の兵士の疑問に、ユキカゼが答える。

「一般参加の兵たちが戦を楽しめなくなってしまう危険がある故、拙者らが先導して危険を排除してまいるが、隊の先導や指揮預けるでござる」
「はっ!」

兵士が応えるのを聞いてブリオッシュやユキカゼ、そして俺も走る速度を上げた。
向かうのはグラナ砦だ。

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