健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-Y 第5話 星詠みと夢

とある夜、ガレット獅子団領にて。
その中のある部屋から何かが割れる音が響いた。
その音が響いた部屋の中では、レオ閣下が悔しさと苛立つ表情で立っていた。

「くそ、またか!」

レオ閣下はいら立ちをあらわにしながら呟く。

「戦を済ませて帰っても、やはり何も変わらん。いや、かえって悪くなった!」

レオ閣下はそう言いながら悔しそうな表情で上を見た。
その拳は、固く握られていたことから、その悔しさ、苛立ちがどれほどの物であるかが分かる。

「さして強くもないはずの儂の星詠み、なのになぜ、こうまではっきりと未来が見える!」

レオ閣下のやっていたこと、それは星詠みであった。
そしてレオ閣下の前にある映像版に映し出されていた物は、血を流して地面に倒れている勇者シンクと、ミルヒオーレ姫だった。

「ミルヒだけでもなく勇者も、この世界の者も死ぬ」

映像版の下に文字が書かれていた。

『「エクセリード」の主ミルヒオーレ姫と「パラディオン」の主勇者シンク、およびフロニャルド王国にいる者、30日以内に確実に死亡。この映像の未来はいかなることがあっても動かない』

そこには、最悪な未来が記されていた。

「星の定めた未来か知らぬが、かような出来事、起こしてなるものか!」

レオ閣下はそう啖呵を切ると部屋の一角へと向かう。

「貴様を出すぞ、グランヴェール! 天だろうが星だろうが、貴様とならば動かせる!」

レオ閣下の視線の先にあるもの、それは神々しいオーラを纏った一本の斧だった。
そして、それが起こるのは翌日の事であった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


その日、俺は夢を見ていた。
目の前にいるのは暴れる俺と同じ背丈の九尾の狐だった。
おそらくは魔物だろう。
その狐の周囲には人魂のような青白い炎が揺らめいていた。
それと対峙するのは俺自身とダルキアン。
おかしいのは、俺達がボロボロであること。
なぜだ?

「――――です!! 早く起きてください!!」
「わぁあああ!!?」

そんな夢を遮るようにに、突然耳に聞こえてきた少女の声に、俺は思わず飛び起きた。

「渉様!! 大変でありますよ!!」
「な、何事!?」

思考に耽っていると、リコッタの叫び声に引き戻された。
その後、リコッタから伝えられたことをまとめると次のようになる。
まず、突然レオ閣下が、ビスコッティに宣戦布告をした。
そしてそれの懸賞をガレットの宝剣、『魔戦斧グランベール』と『神剣エクスマキナ』が賭けられたとのこと。
しかも、それにはこっちもそれに見合うものをかけなければいけなくなり、それは宝剣であるということ。

「話は分かった。とりあえず、着替えたいから外で待っててくれる? 2分で終わらせる」
「り、了解であります!」

俺はリコッタが出て行ったのを確認すると、一息ついた。

(一体なんだったんだ? 今の夢は)

「今回の宣戦布告とあの夢が、関係がなければいいんだが」

俺は不安を感じていた。
俺が視たあの夢。
それは”予知夢”かそれともただの絵空事の夢かのどちらかだ。
後者であれば、笑い話になるだろう。
だが、前者の場合は笑い事では済まない。
なぜなら、予知夢で見た内容は必ず現実に起こり、変えることはできない・・・・・・・・・と言われている。
もっとも俺の場合、視ることはかなり少ないため、それが正しいかの判断はできない。
だが、もし言われている通りだとすれば、あのような魔物が現れるということだ。
そしてその魔物に俺達は苦戦する。

(しかし、なぜ苦戦するんだ?)

俺とダルキアンの二人ならば、よほどのことがない限り魔物には対応できるという自信がある。
それだけに疑問だった。

(それはともかくとして)

「………それだけは防がなくちゃ」

俺はそう口に出すと再びため息をつき、着替え始めた。
そして、着替えが終わった俺は、急いで部屋を後にした。

(最悪の事態だけは回避しないと)

そんな、俺の思いと共に。

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IF-Y 第4話 決意

あれから、俺はベッドで横になっていることが出来ず、上着を着て部屋を後にしフィリアンノ城を歩いていた。
あんな事があった後で寝れるのは、相当の鈍感馬鹿か無神経な奴だけだ。

「はぁ……」

そして思わずため息をついてしまった。
俺らしくもない。
ユキカゼの告白、キス……他にも色々と考えなければいけないことがあるはずなのに、さっきからこの二つの事が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
まるで呪いの言葉のように、俺に付きまとう。

(一体全体、俺はどうしてしまったんだ)

「はぁ……」
「何ため息をついているのでありますか? 渉様」

再度ため息をつくと、突然女性の声が聞こえてきた。
その声の方を見ると、そこには何かの本を腕に抱え、不思議そうな目をして俺を見るリコッタの姿があった。

「何だ、リコッタか」

俺の言葉をを聞いたリコッタは頬を膨らませる。

「何だとは酷いであります!」
「……すみません」

リコッタの怒りよう(そんなに怖くはないが、何故か怖いと感じてしまうのはなぜだ?)に、俺は素直に謝ることにした。

「怪我の方はよろしいのでありますか?」
「ああ。おかげさまで何とか」

謝ったことでリコッタはため息をつきながら、心配そうに聞いてきた。

「そうでありますか。ダルキアン卿にユッキーが、とても心配していたであります。あまり無茶は禁物でありますよ」
「善処します」

俺のお礼に、リコッタは満足げに頷いた。

「そう言えば先ほどユッキーが顔を赤くして走って行ったでありますが、どうしてなのか渉様はご存じでありますか?」
「ッ!? ちょっとな」

リコッタの問いかけに、俺は息をのんだがぼかして答える。

「渉様、顔色が悪いでありますよ。大丈夫でありますか?」
「あ、ああ。ちょっと疲れてるだけだ」

どうやら、深く追及はしないようだ。
心配そうに問うてくるリコッタに俺は肩をすくませながら答えた。

「でしたら、大浴場でゆっくりするであります! あそこなら疲れもすぐに取れるでありますよ」
「そうだな。そうする」

リコッタの提案に、俺は頷く。
少しばかりゆっくりとした方がいい。
そうすれば、少しは考え事もなくなるだろう。

「あ、でも一応言っておくと、今は男の人の入浴時間でありますがあまり長湯をしていると、女性の入浴時間になるであります。気を付けて欲しいであります」
「り、了解」

頭の中に、何故か関係ない親衛隊長のエクレールに追い掛け回される自分の姿を想像し、頷いた。
もしかしたら、後ろにはもっと追う人物がいるかもしれない。
取りあえずそれだけは防がなくては。
そして俺はリコッタと別れると、足早に大浴場へと向かった。










「ふぅ……久しぶりにゆっくりできる」

それもどうだとは思うが、俺はのんびりとお湯につかっていた。
念のために言うが、俺は体を一通り洗い終えている。

(やっぱり”世界”からは逃れられないか)

俺は自分の手を見つめながら心の中でそう呟いた。
俺の一連の症状、それは世界と契約をしているがために起こったものだ。
物質化抵抗現象と同じだが、このままでは大変なことになる。

「それだけは防がないと」
「それとは、何でござる?」
「それはだな…………」

俺の呟きに答える少女の声に、普通に答えようとして俺は固まった。
そしてゆっくりと横を見てみた。

「うわぁ!?」
「ひゃっ! い、いきなり大きな声を出してどうしたんでござる?」

俺の横には、俺の悩みのある種の種でもある、ユキカゼが同じようにお湯につかっていたのだ。

「どうしてッ! なんで、ユキカゼがここにいるんだよッ!?」
「ちょっと頭を冷やそうと思っていたでござる」

俺の半ば叫びながらの問いかけに、ユキカゼは顔を赤くしながら答えた。

「冷やそうとしてどうして温まってるんだ?」
「頭に水をかぶったら逆に寒くなったので、こうして温まっているでござるよ」
「………お前馬鹿だろ」

思わずそう口にしてしまった。
”頭を冷やす”というのはあくまで比喩表現。
それを本気にして(しかもまだ薄っすらと寒さが残る気候で)やるのはそうそういない。
だから、口にするのも仕方ないと言えば言える。

「む、拙者は馬鹿ではないでござる!」
「はいはい。ユキカゼは天災なんだな」
「絶対に本心ではないでござる! というより”天才”違いでござるよ!!」

今日のユキカゼは何時にもましてスロットル全開だな。
まあ、俺のせいでもあるが。

「にしたって、まだ男の入浴時間中に……」
「大丈夫でござる。この時間帯に入るのは渉殿ぐらいでござるから」

ユキカゼの言葉に、俺はあたりを見回してみた。
確かに、人の姿は見当たらない。

「………」
「……」

今までの喧騒はまるで嘘だったように静まり返っていた。

「そういえば、この間の”あれ”だけど」
「……っ」

俺が口を開くと、隣で息をのむ声が聞こえた。

「返事はもう少し待ってほしい」
「…………」
「実は、もう返事は決まってるんだ。でも、その返事は雰囲気に流されているだけだと思うんだ」

俺の言葉に無言のユキカゼをしり目に、俺は言葉を続ける。

「だからもう少し待ってほしい。しっかりと答えが返せるようになるまで」
「……分かったでござる」

俺が言い切って少しだけ沈黙が続いた後、ユキカゼが口を開いた。

「拙者、渉殿の答えを待っているでござるよ」
「すまない」

俺はユキカゼに謝ると、深呼吸を一回する。

「さて、そろそろ俺は上がるとする。聞いてくれてありがとう」
「また明日でござるよ。渉殿」

ゆっくりと湯銭から上がり大浴場を後にする俺の背中に、ユキカゼはいつもと変わらない声色で言ってきた。
そんなユキカゼに、俺は片手をあげて答えるのであった。

(俺も、覚悟を決めるか)

まだ、他の問題が解決はしていない。
でも、この問題……ユキカゼから逃げてはいけない。
そう思ったからこそ、俺はしっかりと心の中で気持ちを固めようと決意した。
そして俺は服を着ると、そのまま自室へと足を向けるのであった。

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IF-Y 第3話 目覚めのハプニング

「ぅ………」

目が覚めるとそこは天界ではなく、よく見る天井だった。
周囲を見回すと、やはりフィリアンノ城内の俺に宛がわられた部屋だった。

「ッつ!?」

体を動かすと、体中に痛みが走るがそれを無視して起き上がるとベッドから出た。
額にはタオルのようなものがあった。
(俺は風邪なんてひいてないぞ)
そんな事を思いながら、服を探すべく辺りを見渡す。

「服は………あった」

俺はベッドの横に置かれた椅子の背もたれに掛けられていた服(とはいっても勇者が来ているジャージと、色違いの物だが)を着込んだ。
すると、扉が開く音がしたので、その方向を見る。
そこには桶のようなものを手にしたユキカゼの姿があった。
そしてユキカゼは俺の姿を見るや否や、信じられない物を見たように目を見開いた。

「渉殿ッ!」
「ユキカゼか」

そして大きな声で叫ぶ彼女に、顔をゆがめながら声を上げた。

「何をしているでござるか!! 今日は絶対安静でござる!」

どうやら目を見開いたのは、俺が立っていたからのようだ。

「それは結構。もうほとんど完治し………分かった」

俺の言葉を遮るように、ユキカゼから無言のプレッシャーが襲う。
それに勝てるような俺ではなく、素直に従うことにした。
ベッドに横になった俺を見て、安心したのかほっと安堵の息を漏らすと、ベッドの横に会った椅子に腰かけた。

「渉殿が目覚めてくれてよかったでござる。突然渉殿が倒れたから、心配したでござる………」

ユキカゼの表情は見えなかったが、両手が力強く握りしめられていた。

「すまなかった。体調管理もできていないとは、まだまだだな」
「そんな事はないでござる!!」
俺の謝罪に、ユキカゼが大声で否定した。
「渉殿はとても強いでござる! だから、拙者は渉殿の事が……」
「……」
ユキカゼは途中まで言うと口を閉ざした。
何を言いたいのかは、俺には何となくだが分かった。

「あ、今果物を持ってくるでござるから少し待っていて欲しいでござる」
「あ、ああ」

徐に椅子から立ち上がったユキカゼに、俺は何と返したらいいのかが分からずに生返事をしてしまった。

(………悪くないな。こういうのも)

ユキカゼが去っていったドアを見つめながらそう心の中でつぶやくと、俺は戻ってくるまで待とうと思い目を閉じた。










「渉殿……」

まどろみの中、俺を呼ぶ声がした。

「っ!?」

そして唇に何か柔らかい物が触れた。
俺は慌てて目を開けると、そこには目を閉じたユキカゼの顔がすぐ近くにあった。
俺の唇に当たっているのはユキカゼの唇だった。
俺はそれが分かったが、ユキカゼを引き離すことが出来なかった。
まるで金縛りにあったかのように、体が固まってしまったのだ。

「ッ!? わ、わわわわ渉殿ッ!?」

俺がの目が覚めていることに気付いた、ユキカゼは慌てて俺から離れた。

「こ、これは……その、えっと……」

慌てた様子で視線を俺から逸らすユキカゼの姿に、俺は声も出なかった。

「も、申し訳ない渉殿ッ! わ、私急用を思い出したので、失礼するでござるッ!!」

そして、そう言って逃げるように部屋を飛び出して行ってしまった。

「………」

俺に出来たのは、逃げるように彼女が去って行った扉を見ている事だけだった。

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IF-Y 第2話 魔物退治

「渉殿」
「……何だ?」

ロランさんに言われた場所へ向かう途中、ユキカゼが俺に声をかけてきた。

「どうして渉殿だけ歩きでござる? セルクルに乗れば楽でござるよ」

(またか)

前に同じ疑問を親衛隊長に投げかけられたのを思い出して、俺は思わずため息をつきそうになった。

「も、もしよかったら拙者のセルクルに乗らないでござるか?」

頬を赤らめながらのユキカゼの提案に、俺はガクッと転びそうになった。

「却下だ! セルクルに乗らないのは、乗ることによって出来る危険を防ぐためだ!」

これ以上続けられて変な方向に話が進む前に、俺は理由を話した。

「危険……でござる?」
「動物の足を狙った攻撃は乗っているものに不意打ちをする、一番手っ取り早い方法。確かに動物に乗れば移動労力は軽減できるけど、危険が伴う」

首を傾げているユキカゼに、俺は出来るだけ分かりやすく説明をした。

「なるほど」
「さて、セルクルはそろそろ降りた方がいいかもな」

俺の説明にすごいとばかりに頷いているユキカゼをしり目に、俺は静かに告げた。

「………そうでござるな。この先は空気が違う……確実に魔物がいるでござる」

ユキカゼも先から漂うよどみを感じているのか、真剣な面持ちで答えた。
そして、少しばかり開けた場所でユキカゼはセルクルから降りた。

「行くでござるよ」
「了解」

ユキカゼの合図に、俺は気を引き締めて返事をした。
そして奥へと足を踏み入れるのであった。










開けた場所から進んだ場所は芝生で覆われ、脇には草木が生い茂るという、一種のジャングルのような場所だった。

「これはいかにも出そうな場所でござるな」

辺りを見回しながらその感想を述べるユキカゼに俺は静かに頷く。

「渉殿、気を付けるでござるよ。今回のは今までの比ではないでござるゆえ」
「分かりました」

ユキカゼから注意され、俺は静かに返事をした。
確かにこちらに向けての敵意を感じる。
だが、分かるのはそこまで。
今の俺・・・に分かるのはそれだけだ。
まあ、普通はそれだけでもすごいと言われるほどのレベルだが。

「無茶だけはしないように」
「その言葉。そっくりそのまま返すでござるよ」

俺の注意に、ユキカゼが反論した。

「拙者は、渉殿の方が心配でござる」

ユキカゼの言葉に、心配かけるようなことをしたかと記憶を遡ってみたが、思い当たるのは一つもなかった。

「渉殿を見ていると危なっかしく感じるでござるよ」

そんな俺の考えが分かったのか、再び口を開く。

「………俺が無茶するのはお前たちを守る時か、仲間を守る時ぐらいだ」
「ッ!? そ、そうでござるか」

俺の言葉に、なぜか頬を赤らめ視線を俺から逸らしながら答える。
その時、ふっと敵意が強まった。

「どうやらあちらさんは、せっかちさんだな。自分から来たようだ」
「そのようでござる」

俺の軽口に、ユキカゼは武器を構えながら返すと、来るであろう魔物に備えた。
そしてその魔物は唐突に俺達の前に躍り出た。

「グゥゥォォオ!!」

その魔物は犬ぐらいの大きさで、色は黒かった。
爪先は非常に鋭利であれで引っ掻かれでもしたら、下手すれば致命傷だけは避けられない。
おまけに鋭い牙ときた。
これも噛まれたら大ダメージだ。
どちらにせよ、”爪”と”牙”の二点にだけ気を付ければいいだろう。

「数は10匹。どうやら、一瞬で片が付きそうだ」
「そのようでござる、なッ!」

俺の言葉にユキカゼが言いきるのと同時に飛び掛かって来た魔物を、やや大きめの手裏剣のようなもので斬りつける。
魔物はそのまま地面に横たわり、動かなくなった。

「お見事」
「えへへ」

その一切乱れぬ動きに称賛の声を送ると、ユキカゼは一気に緩んだ表情で喜びをあらわにした。
するとさらに俺達の背後や周辺に魔物が姿を現した。
どうやら前方にいた魔物と同じタイプらしいが、数がものすごく増えた。
おそらくさっきの2,3倍ほどは。

「どうやら敵は数で攻めてきたようだ」
「うむ、拙者たちはものの見事に囲まれているでござるな」

俺は互いに背中を合わせ、意識を集中する。
勝負は一瞬。
判断を誤ればただでは済まない。
そして……

「グオオオオっ!」

魔物たちは雄叫びを上げると、一気に襲い掛かってきた。
ユキカゼが動き出す中、俺は一歩前に出た。

「紋章剣……」

冷静に、無駄のない動きで神剣に輝力を集める。
後は魔物たちをひきつけるだけ。
俺から見て右側の真横から左側の真横までの魔物を俺が狩る。
それが、俺の導き出した戦術だった。
意識を集中していると、見えるはずのないユキカゼの行動が手に取るようにわかった。
目まぐるしい速さで魔物たちを退治していくユキカゼ。
そして、俺の目の前まで迫る魔物たちの姿。

(今だッ!)

「裂空一文字ッ!!」

一気に正宗を横に薙ぎ払うように振るう。
直撃した魔物たちは、断末魔を上げることなく消滅した。

「ふぅ………渉殿、お見事でござる」
「それを言うなればユキカゼの方がだ」

ユキカゼの労いの言葉に、俺はそう返した。
俺がやったのはあくまで真正面の魔物だけだ。
実際ユキカゼはやや広い範囲の魔物を相手にしたのだ。
だからこそ、俺達はそう返したのだ。

「いやいや、渉殿の方が見事でござるよ。お館さまの使っていた紋章剣を、あそこまで再現できるとは羨ましいでござるよ~」
「そ、そこまですごくはない」

ユキカゼの真正面からの称賛の言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
すると、それを見ていたユキカゼはからかうような目で俺を見てきた。

「いや~渉殿が照れるのを、始めて見たでござるよ。顔、真っ赤っかでござるよ」
「ユキカゼ、人をからかうのも大概に――」

ユキカゼの言葉に、注意をしようとした俺の視界がぐにゃりと歪んだ。

「……? どうしたのでござる?」

俺の異変に気付いたユキカゼが首を傾げて訪ねてくるが、俺はそれに答えることはできなかった。
一気に体が重くなったような感じがした。

(体中を襲うこの倦怠感……まさか)

俺は、その原因に心当たりがあった。
しかし、そんな事を考える時間はなかった。
なぜなら、俺の意識はそのまま途切れたのだから。

「いやあぁぁぁッ!!!」

その寸前に、ユキカゼの叫び声が聞こえたような気がした。

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IF-Y 第1話 渉の選択

来てしまった。
いや、ここに来るのが嫌な訳ではない。
だが、なんとなく嫌なんだよな。

(絶対のこの前の事で文句を言われる)

そう思った時肩を掴む人物がいた。
同時に、ものすごいオーラを背後から感じる。
それは言うなれば怒りのような気もした。
そして振り返った。

「渉殿。拙者に、何か言う事はないでござるか?」

うん、やっぱり怒ってた。
声は穏やかなのに、ユキカゼが放つオーラは全く穏やかじゃない!!

「わ、悪かったって。でもあんな状態で寝られるほど、俺は図太い神経はしてないんだ!」
「……イクジナシ」

いや、ジト目で言わなくても。
それとも彼女は、俺に狼になれとでも?

「それはともかく、ユキカゼに頼みがあるんだ」
「拙者に?」

俺の言葉に、ユキカゼは目を丸くして返した。

「魔物関連の事だ」
「………」

俺の言葉に、二人の表情が変わった。
決して、がっかりとした表情はしていない。
その表情は大げさに言えばヴァルキュリエのようなものだ。

「なるほど……すぐに準備をしてくるでござる」
「ああ」

俺に告げて屋敷に駆けて行くユキカゼを見ながら、一息つくのであった。
そして、俺はユキカゼが戻ってくるのを静かに待つのであった。

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