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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF第14話 気遣いと告白と

「痛つ……なんで俺まで殴られるんだよ?」

俺は、女性の人に殴られた頭をさすりながら文句を口にする。
いくらなんでもひどい。
俺は完全に今回の戦とは無関係だ。
いや、参加していた時点で俺も共犯なのか?

「頭をさすって、どうしたのでござるか?」
「ああブリオッシュさ――ッて、貴方こそどうしたんですかその格好!?」

ブリオッシュさんに声を掛けられ、声のした方を見た俺は、思わず声を荒げてしまった。
ブリオッシュさんの格好とは、インナーのようなものしか着ていないものだった。

「ふむ、ちょっとレオ姫とやり合ってこうなったのでござる」

(や、やり合ってって……どうすればこうなるんだ?)

そんな疑問を抱きながらも、俺は着ていた礼装の上着を脱ぐと、ブリオッシュさんに羽織らせた。

「渉殿?」
「着ておけ。その姿じゃ寒いだろうし、その……色々と目のやり場に困る」

俺は後半の部分のセリフは、ブリオッシュさんから目をそらして言った。

「せ、拙者はそんなに魅力的でござるか?」
「その問いかけ、”そうだ”以外に見当たらない。それにブリオッシュさんはどう見たって美人だと俺は思う」
「び、びじッ!?」

俺の答えに、ブリオッシュさんが頬を赤らめた。

(そんな表情もできるのか)

そんな彼女を見て、俺はふとそう思ってしまった。

「そうか、拙者は美人でござるか」

ブリオッシュさんが小さな声でつぶやく。

「あ、渉さん!! ダルキアン卿!」
「ん?」

少女の声がしたので、声のした方を見ると、そこには手を振って駆け寄ってくる栗色の少女、リコの姿があった。
そして、その横には俺が対峙していた人物たちと銀色の髪の少年も。

「リコか、その様子を見ると、問題はないようだな」
「ハイであります。渉さんのおかげです」

俺の言葉に、リコは嬉しそうに答えた。

「で、あんたは誰だ」

俺は、横にいた銀色の髪の少年たちに問いかけた。

「お、俺!? って言うか、そっちから名乗るのがセオリーだろ!」
「小野 渉だ。呼び方は渉でいい」

俺は少年の言うことに一理ありと思い、名を名乗った。

「俺はガレット獅子団領の王子、ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ」
「ガレット獅子団領のガウ様直属の隠密部隊、ジェノワーズのノワール・ヴィノカカオ」
「同じく、ベール・ファーブルトン」
「同じく、ジョーヌ・クラフティやで~」

ガウルに倣って、黒髪の少女にウサギ耳の女性、虎柄の髪の少女の順で名前を名乗って行った。
三人とも、微妙に俺に対して視線が痛い。
まあ、あれだけの事をしたのだからしょうがないかもしれないが。

「三人とも、前はすまなかった。戦とはいえ、少々卑劣すぎた」
「え? べ、別にもう大丈夫ですから」
「気にはしていない」
「一緒に戦った者通し、仲良くしていこうで~」

戦でのことを頭を下げて謝ると、三人は慌てながら、そう言って許してくれた。
どうも戦になると、昔の悪い癖が出てしまう。
これは、直さないと。

「ッと、そうだ。二人とも急がねえと姫様の歌が始まっちまうから、聞きたいんなら中に入った方がいいぜ」
「そうでござるな。渉殿も、一緒に行くでござる」

ガウルの言葉に、ブリオッシュさんは、そう答えると俺に声をかけてきた。

「申し訳ない。俺は少しここで夜風に当たりたい。すぐに行くから先に行っててくれますか?」
「う、うむ……分かったでござる」

俺が断ると、ブリオッシュさんは、表情を曇らせて言うとそのまま中へと入って行った。
そして、俺は夜空を見上げるのであった。










それからしばらくした時であった。

「渉殿~!」

俺を呼んだのは、手を振りながら駆け寄ってくるユキカゼさんだった。

「ん? ユキカゼさん。今までどこに行ってたんだ?」
「ちょっと勇者殿にご挨拶を」

俺の問いかけに、ユキカゼさんは、そう答えた。

「勇者って言うと、あの金髪の奴か」

俺は、銀色の髪の女性に殴られていた少年を思い出した。
彼がその勇者なのだろう。

「ブリオッシュさんは、中に姫君の歌を聴きに行っているから、行ったらどうだ?」
「渉殿は?」
「俺は、ここで夜風に当たっている」

ユキカゼさんの聞き返しに、俺は静かに答えた。
それを聞いてユキカゼさんは、建物の中へ向かったが、引き返してきたのか、俺の後ろに立った。

「渉殿」
「何だ?」

ユキカゼさんに声を掛けられた俺は、後ろを振り返ると、俯いて両手をもじもじと動かしているユキカゼさんの姿があった。

「その……えっと……」
「……」

しどろもどろになっている彼女が、言い出せるようになるまで、俺は静かに待った。

「拙者、渉殿の事が………」

ゆっくりと、ユキカゼさんが言いだした。

「好きでござるっ!!!」

その瞬間、俺はまるで時間が止まったような錯覚を感じた。

「えっと、返事は何時でもいいでござるから………それじゃ、失礼するでござるよ!!」

頬を赤らめたままそう言い切って、彼女は走って行った。
残されたのは、突然の事に戸惑う俺だけとなった。

(今のって………告白、だよな?)

混乱している俺がようやく理解できたのは、それだけであった。


こうして、突如舞い込んだ戦は無事幕を閉じた。
――俺自身の問題を除いて。




3人称Side

渉が告白を受けて空を見上げている時、それを見つめる人物の姿があった。

「渉殿……」

その人物は、渉が来ていた青地の上着を手にしていた。

「やはり、”私”では、ダメなのでござるか?」

一人称を変えたその人物は誰に聞くでもなく、ボソリとつぶやいた。
そして、すべてが動き始めるのは、そう遠くはない。

Side out

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IF第13話 ジェノワーズと雷

ブリオッシュさんから言われた俺は、奥の方へと向かって行く。

(向こうから音がするな……そっちに行ってみるか)

必要な時にはフォローをしてみようかなと思いながら、俺はその音のする方へと向かい走った。










(この音は、戦闘時に出る物であることは間違いない……武器は飛び道具か何かか?)

俺は、音を聞きながら武器の種類に目星を付ける。
勿論、あっているとも限らない。
この世界には紋章術というものまである。
それの効果の音だとすれば、特定は難しい。

(いたッ!!)

奥の方、高い塀に囲まれた場所に彼女たちの姿はあった。
そこには緑色の髪で短剣を二本ほど構えている少女と、それと対峙する黒い髪の少女とウサギ耳が印象的な弓矢を構える女性、そして虎柄っぽい髪の少女で大きなおものを構えている三人の姿があった。
俺は、彼女たちに見えない様、上空に留まっていた。
正直に言えばかなりきついが、まあ仕方ないだろう。
緑色の髪の少女が、黒髪の少女からの攻撃を避けたところにウサギ耳の女性が矢を放つ。
それを緑色の髪の少女は剣で防ぐ。
そのまま、少女は矢の起動をそらして背後の建物に命中する。

(体の動かし方は上々、ただ行動の選択に多少甘さがあるな)

俺は、彼女の一連の動きを見てそう解釈をした。
矢のような飛び道具は追尾されていなければ、その場を離れる事で十分。
剣を使って拮抗させた分体力を使ったり、隙が出たりするからだ。
それも単数であればなおさらだ。

(では、俺からも一発派手にやっちゃいましょうか)

そう考え俺は弓矢を具現化させて構える。
狙うは、塀の上に立つウサギ耳の女性。
遠距離系攻撃をするものは出来る限り潰す、それが戦で勝つための掟の一つだ。

「紋章術、封!」

相手の動きを封じる効果を持つ、紋章術もどきの矢を女性にはなつ。

「きゃあ!?」
「ベール?!」
「新手?」

突然の奇襲に慌てふためく彼女たちの隙を狙い、今度は神剣二本を構えて特攻する。
地面に着地した衝撃で、周囲に土煙が漂う。
感覚からして今ので引っかかった者はいないようだ。
さすがにこの状況ではどうしようもないので、剣を払って風を起こして煙を散らした。

「だ、誰や!?」
「ビスコッティの仲間だ」
「ビスコッティだと!?」

目の前にいる、虎柄っぽい髪の少女の問いかけに俺が答えると、背後の方で驚いた声がした。
そこには緑色の髪の少女がいた。

「貴様のようなやつは知らないぞ! 私は」
「そりゃ、今まであった事もないし」

当然だろと言った様子で俺は答えた。

「だったら―――」
「ブリオッシュ・ダルキアンと、ユキカゼ・パネトーネの仲間………こう言えば理解はできるだろ?」

俺は、彼女の言葉を遮り二人の名前を告げた。
途端に少女は口を閉じた。

「さて、ダルキアン卿の指示のもとここに来た。お前は少しばかり休むと良い」
「私に指図するな」

俺の言葉に、少女は苦言を呈する。

(ちょっとばかり壮健すぎたか)

「俺とお前では初対面が故に連携は不可能……おそらくは俺がお前の足を引っ張る。ならば、今まで戦った功労者が休み俺が戦うのであれば、合理的だ」

俺は少女に意見を認めさせるため、半分嘘をついた。
足を引っ張るのは確実に少女も同じだ。
俺と彼女の戦い方がかみ合わなければそうなってしまう。
また、俺自身も相手の戦い方に合わせて協調するのには慣れていない。

「分かった……ただし、戦うからには勝て」
「これ以上ないほどの簡単に条件をどうも」

なんとか折れてくれた少女に感謝しつつ、俺は二人の少女の方を改めてみる。

「いきなり奇襲した恨み……味わってもらうで!」
「二対一だけど、覚悟」

それぞれが武器を構える。

「覚悟するのはお前らだ。自慢ではないが、先ほどゴドウィン・ドリュールを倒した。彼も俺も本気ではなかったがな」
「「「ッ!?」」」

俺の言葉に、敵味方が驚いた風に息をのんだ。

「さて、二人掛かりなのだ。少しは楽しませてくれよ?」

俺はそう言うと同時に駆けだした。
向かうは二人の背後だ。

「閃!」
「ッ!?」

あっさりと取れた背後で、俺は攻撃を放つ。
轟音と共にまばゆい光に包まれるが、俺は結果を視ずにその場から離れる。
次の瞬間、俺が今まで立っていた場所に何かが命中していた。

「なるほど、あのタイミングの攻撃を回避したのか……さすがだ。だが、まだ甘い」

光が消え、前に立っていた黒髪の少女にそう告げながら、俺は背後に向けて神剣を交差させる。

「んなっ!?」
「背後を取ったつもりだが、見え見えだ」

俺が斧の攻撃を防いだことに驚きを隠せない少女にそう告げると、俺は上側になっている吉宗を動かして武器ごと彼女の動きを崩す。

「はぁ!!」

そして片手に握っている正宗で一気に斬りつけた。

「ぐぅぅ!!?」
「ジョーヌ!?」
「安心しろ、この剣は人は斬れん」

俺は、斬られた箇所が痛むのか胸のあたりを片手で抑えてうずくまる彼女に、そう告げた。
神剣正宗は、人を切ることはできない。
まあ、せいぜい痛みを与えるのが精いっぱいだ。
痛みは人にとって行動の抑制にもなる。
痛みの度合いが大きければ大きいほど、抑制の効果は上がる。
かなり道徳的には問題ありだが、手っ取り早かったのでこの手段を取った。

「さあ、残るはお前だけだ。今ここで降参するのであれば、痛い思いはさせないけど」
「………」

俺は黒髪の少女に揺さぶりをかける。
目の前で痛みに苦しむ者の姿と、それをさせた者はその場にいる物の恐怖を増幅させる効果がある。
通じない人もいるが、大抵は屈して降参する。

「ついでに、彼女の痛みを和らげるけど。どうする?」

さらに俺は少女を揺さぶる。
卑怯なような気がするが、素早く解決させるにはこれで十分だ。
何せ、援軍が近くに来ているのだから。

「……分かった」

少女が武器を下したのを確認した俺は、うずくまっている少女に向けて神剣を構える。

「何をっ!?」
「癒せ」

黒髪の少女の声を無視して、俺はそう告げると淡い銀色の光が虎柄の髪の少女を包み込む。
光が消えたのと同時に、少女はゆっくりと立ち上がった。

「い、痛みが無くなっとる」
「ジョーヌ、大丈夫?」
「大丈夫ですか!?」

いつの間にか”封”を解いたのか、ウサギ耳の女性も心配そうに彼女の元に駆け寄った。

「なんとか大丈夫や」
「もう許しませんよ!」

そう言って、ウサギ耳の女性が怒り心頭な様子で俺に弓矢を構える。
その瞬間、木製の扉が強引に開けられた。

「へ?」

突然現れたのは長い銀色の髪の女性とドリュールさんの二人だった。

(援軍か!?)

そう思い、俺が臨戦態勢を整えるよりも早く―――

「この愚か共ものが!!」
「「「うわぁ!?」」」

大きな声と共に、拳骨と言う鉄槌が下った。
俺は、あまりの事に呆然と立ち尽くす。

「すまなんだな、たれ耳。この3馬鹿が迷惑をかけた」
「い、いえ、そんなことは」

女性の言葉に、緑色の髪の少女は慌てながら答えた。

「して、貴様は誰だ? ここでは見ない顔だが」
「えっとビスコッティの非公式の協力者の、小野 渉です」

女性の問いかけに、俺は即座に答えた。
何となく”非公式”と言っておいた方がいいような気がした。

「さて、この向こうにいる馬鹿二匹共を止めるとするかの」

そう言うと、女性は壁の前まで移動すると足でけり飛ばした。

(ただのキックで壊れる壁って……相当耐久性がないのか、それとも彼女の強さなのか……)

俺は、前者であることを願った。
そして、今気づいたが、壁の向こう側には銀色の少年と金髪の少年の二人がいた。

「ガぁウルぅ、それにビスコッティのへっぽこ勇者!」
「あ、姉上!?」
「へ、へっぽこ!?」

二人が、女性の言葉に驚きを隠せないでいた。
そんな状況で、女性は俺に指で二人の横に立つように指示された。
今の彼女の指示に従わなければ、痛い目を見るような気がしたので、俺は素直に従った。

「はぁ………餓鬼共ぉ! 戦で何を遊んでおるかぁ!!」
「「「は、はいぃ! ごめんなさいぃ!!」」」

女性の素様じい声に、俺は条件反射的に謝ってしまった。
そして、その後俺達に”雷”が落ちた。

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IF第12話 対決! ゴドウィン

「うおおおおお!!!」
「はぁあああああ!!!」

最初に仕掛けてきたのは、ドリュールさんだった。
ドリュールさんは俺に向けて鉄球を投げてきた。
どうやら斧と繋がっているようだ。
俺はそれを神剣二本を交差させて防ぐと、真横に逸らした。
次の瞬間、ものすごい音と共に、鉄球が地面に命中した。

(ものすごい威力だ。あんなの一度でも喰らってらひとったまりもない)

俺は、地面にめり込んでいる鉄球を見ながらそう考えると、改めて気を引き締める。

「俺の攻撃を防ぐとは、中々やるな小僧」
「それはどうも。貴方も、とてもお強い」

ドリュールさんの言葉に、俺も答える。
お互いに視線は逸らさない。
目の前に立っている人は、ただのガタイのいい人ではない。
完全な武人だ。

(少しは楽しめそうだな)

「でも……」
「「勝つのは俺だ!!」」

俺とドリュールさんの声がそろった。
そして一気に動き出す。
俺は、持ち前の機動力を生かして彼の背後を取る。

「ッ!?」
「せいやぁ!!」

背後を取り、さらに不意を突いた一撃。
決まるかと思ったが、ドリュールさんは前方に移動することでこの一撃を回避した。

「貰ったぁ!!」
「しまッ!?」

空振りしたことで完全に体勢が崩れた俺に、ドリュールさんは斧を振りかざす。

(仕方ない、あれを使うか!!)

俺はそう考えると、即座に左手をかざす。
次の瞬間、目の前まで迫っていたドリュールさんの斧は少しだけ遠ざかった。
その隙を狙って、俺は転がるようにしてその場から離れる。
すると、今まで俺の立っていた場所に斧が突き刺さった。

「何っ!?」

ドリュールさんが驚きのあまり声を上げる。
だが、俺は次の行動に移っていた。

「驚いている場合ではないぞ?」
「ッ!?」

ドリュールさんの真横に移動した俺の言葉に、彼は驚きながら俺の方を見る。

「紋章術、滅」
「ッぐ!?」

それは、ただ純粋に斬りつけるだけの技だ。
だが今の攻撃が通ったようで、ドリュールさんは脇腹を抑えていた。
俺は、それを確認するまでもなく元の位置に戻った。

「中々やるな小僧。この俺にダメージを与えるとは」
「いえいえ。ただのまぐれですよ」

ドリュールさんの称賛の声に、俺は謙虚に答えた。
だが実際には、俺は与えられる自信があった。
ドリュールさんはおそらく攻撃型。
一撃一撃の攻撃力が馬鹿でかいのが特徴の攻撃型は、機動力がないのが欠点だ。
もちろん全員が全員そうだとは言えない。
だが、今目の前にいる人物には言えそうだ。
だとすれば俺の取るべき行動は――――

(攻撃の威力を捨てて、速さで勝負をかける)

地道な戦いになるが、これならば勝率は少しは高まる。

「はあああ!!」
「うおおおお!!!」

そして俺達は再び駆けだす。
ある時は背後を取り、またある時は背後を取られ。
互いに苦戦しあうが、とうとう決着のときは訪れた。

「うおおおおお!!!」

ドリュールさんが鉄球を投げつける。

(今だっ!)

その時を見計らって、俺は再び先ほどやったように左手をかざす。
次の瞬間、ドリュールさんの放った鉄球は少しではあるが俺から遠ざかっていった。
それを確認しながら、俺はドリュールさんの背後を取る。

「何!?」
「紋章術、裂空一文字!!!」

それはブリオッシュさんの使った紋章術だった。
彼女よりはやや劣るものの、弧を描いてドリュールさんを切り裂いた。

「ぐううう!!?」
「拙者の紋章術を……やはり渉殿は」

防具のようなものが壊れ、ドリュールさんは地面に膝をつけた。
この時、軍配は俺に上がった。

「見事だ小僧」
「恐縮です」

ドリュールさんは静かに呟いた。

「お館さま―! 渉殿ー! 大変でございます! 敵増援でございます!」

そんな時、ユキカゼさんからの警告が聞こえてきた。

「数は?」
「それが、一騎のみであります。レオ姫様が一騎掛けでいらしているであります!」

ブリオッシュさんの問いかけに、リコが答えた。

(レオ姫?)

俺は突然出てきた名前に、首を傾げる。

「ふむ……渉殿、すまぬが奥の方に向かってくれないでござるか?」
「分かりました。それでは失礼をば」

ブリオッシュさんの指示に、俺は素直に従う。
こういった場所での上に立つ者の指示には、素直に従っておく方がいい物だ。
まあ、従ってはいけないときもあることにはあるが。

「ドリュールさん、また機会がありましたら、お手合わせをお願いします」
「俺もだ。次こそは俺が勝たせてもらおうぞ!」

ドリュールさんの言葉を聞きながら、俺はその場を後にしたのであった。

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IF第11話 新たな出会い

二人と別れた俺は、砲術師のいるであろう場所の森の中に来ていた。

(あれが、砲術師か)

俺は木の幹の方に追いやられて、白旗を振っている栗色の少女を見ながらそう推測した。

(まあ、とりあえず助けておきますか)

俺はそう思い立つと、神剣を両手に構えた。

「紋章術……」

そう呟きながら、俺は草むらから一気に駆け出す。
そして少女の前で移動した俺は、静かに呟く。

「……疾風!」
「「「うわあああああ!!!!?」」」

その瞬間、周囲にいた歩兵は瞬く間にまん丸の動物になった。

(これが何なのかは気になるが、まあいいか)

取りあえずは無力化できたので、俺は少女の方へと向きなおす。
少女は、突然現れた俺を目を見開いてみているだけだった。

「お初にお目にかかる。私は隠密部隊、臨時メンバーの小野 渉だ。突然失礼した。とりあえずけがはないか?」
「あ、はい。学術研究院をしています、リコッタ・エルマールであります」

俺の自己紹介に、エルマールさんははきはきとした様子で自己紹介をする。

「あの、渉様」
「様付けはいい。寒気がするから」

俺はエルマールさんにそう言う。
様付けは昔を思い出すので、なるべく付けられたくはないのだ。

「それでは渉さんで。私の事もリコって呼んでください」
「…………了解」

彼女が何故かユキカゼさんと、同類のような気がしてならなくなった。
いや、雰囲気的に。

「この先のミオン砦の外壁部分に、ユキカゼがいる。彼女と合流すると良い」
「渉さんは?」
「俺は一仕事残っているから、そっちの方に向かう」

リコの問いかけに、俺はそう答えた。
本当は同じ目的地だから一緒に行けばいいのだが、いた場合には彼女をどのような危険に巻き込むかが分からないのだ。
どうも俺は誘蛾灯のようで、悪いことを引き寄せていくらしい。

「そうでありますか。では、私はユッキーと合流するであります」
「気を付けて」

駆けだす彼女の背中に声を掛けながら、俺は静かに見送った。

「ユッキー……ねぇ」

ユキカゼさんの愛称のようなものらしく、前にこれで呼ばせようとしていたのを思い出した俺は、ため息をこぼしてしまった。

(……今はやるべきことをやるか)

考えに浸りそうになる自分に喝を入れ、俺は次の場所へと向かった。
ブリオッシュさんの元へと。










ミオン砦に続く道を、しばらく走っていた時だった。

「なッ!?」

突然の紫色の光が走ったかと思うと、何かの建物が真っ二つに斬られ、地面に轟音を立てながら崩れ落ちた。

(今の光は、ブリオッシュさんのだよな……彼女に何かあったのか!?)

前に見た彼女の紋章剣の光と、同じなのを思い出した俺は慌てて走る速度を上げた。
その最中に花火が打ちあがったが、それには目もくれずに走る。

「っとぅ!!」

そして足に力を込め、地面を蹴り飛ばす。
すると、まるで鳥になったかのように空へと飛びあがる。

(ブリオッシュさんは……いた!!)

ミオン砦内にいるであろうブリオッシュさんを捜したところ、彼女はすぐに見つかった。
誰かと対峙しているようだった。
その二人の中間地点に、俺は静かに降り立った。

「なッ!?」

目の前の大きな斧を手にするおじさんは、俺がいきなり現れたことに驚く。
そんなおじさんをしり目に、俺は後ろの方に振り返る。

「少し遅れましたが、合流しました」
「うむ、いいタイミングでござる」

何故か爽やかな表情で、俺にそう言う。
それほど急を要する事態ではなかったようだ。
俺はそう考えると再び後ろの方へと向きを変える。

「さてと……自己紹介がまだだったな。俺の名前は小野渉……隠密部隊の臨時メンバーだ」
「俺はガレット獅子団の将軍、ゴドウィン・ドリュールだ」

お互いに自己紹介を済ませる。
これは一応礼儀としてだ。

「こちとら雑魚の相手ばかりで退屈なのだ。少しばかりお相手を」
「言うな小僧……良いだろう、来るがいい!!」

俺の言葉に、ドリュールさんは後ろに鉄球がついている斧を構える。
実際リコの元にいた歩兵の数は圧倒的に少なかった。
理由は分からないが、そのせいで若干味気なさを感じていたのだ。

「ということで、彼の相手は自分に任せて貰っても良いか?」
「勿論でござるよ。怪我には気を付けて」

ブリオッシュさんのお許しが出たところで、俺も神剣を構える。

「………」
「………」

俺達は、お互いに攻撃のタイミングをうかがう。
そして……

「うおおおおお!!!」
「はぁあああああ!!!」

戦いは幕を開けた。

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IF第10話 戦の始まり

戦観戦をし始めてしばらく経った。

「砲撃が無くなったようだが……」
「おそらく敵兵に詰められてたのかと」
「砲術師は歩兵に詰められると無力でござる故」

俺の呟いた言葉に、ユキカゼさんとブリオッシュさんが説明する。

(これでも一応戦場に関してはエキスパートなんだが……まあ、初心忘れるべからず、だな)

そう納得して、俺は静かに聞いておくことにした。
そんな時だった。

「わん!」
「ん? どうしたでござるか? ほむら」

突然やってきた茶色っぽいスカーフを首に巻いた犬……ほむらにブリオッシュさんは首を傾げた。
……主にスカーフに括り付けられている巻物に。

「何々………なるほど」

その巻物をスカーフから外すと、ブリオッシュさんは目を通した。

「どうされたのですか? お館さま」
「ユキカゼ、渉殿。朗報でござる」

ブリオッシュさんの様子に、声をかけるユキカゼさんにブリオッシュさんはそう告げた。

「朗報?」
「うむ、この戦に参加できるようでござるよ」

にこやかな笑顔で、俺たちにそう告げてくるブリオッシュさん。

「いや、参加するということはそれほど今現在、こっち側が不利になっているということでは?」
「そうとも言うでござる。でも、渉殿も戦をやりたいと申していたでござるし、ちょうどいいのでは?」

俺の言葉に、ユキカゼさんがそう言ってくるが、記憶にある限り俺はそんな事を言った覚えはないのだが。

(まあ、最近暴れたりなかったし、良い機会か)

そう心の中で考えた俺は、すぐさま思考を切り替える。

「だったら、三手に分かれた方がいいかな。一人はあの城の内部に、一人はその周辺にいる歩兵たちを倒し、そしてもう一人が砲術師の救出」
「なるほど。それも一理あるでござる」

俺の意見に、ブリオッシュさんは賛同した。

「それじゃ、俺は砲術師の救出に向かおう。敵にとって遠距離攻撃のできる砲術師はなんとしてでも抑えたいはずだ。だとすれば歩兵も大量に動員しているはず」
「「………」」

俺の言葉に、二人はなぜか呆然と俺を見ているだけだった。

「な、何だ?」
「渉殿は戦をやったことがあるのですか?」
「あー……昔色々あって少しな。さて、いつまでもこうしているわけにもいかないし、いっちょ派手に行きますか」

ユキカゼさんの問いかけに、少しばかりお茶を濁して答えると、崖際の方に立つ。

「どうしたんだ? ユキカゼさん」
「あ……えっと」

飛び降りようとする俺の服を掴むユキカゼさんに、問いかけるが、視線を泳がせる。

(なるほどな)

俺はようやく理解できた。
今のやり取りは、前に魔物を相手にした時のと同じものだ。
おそらくは、あの時の事を思い出しているのだろう。

「大丈夫だ。あそこにいる歩兵なんぞ、魔物に比べれば取るに足らん。ユキカゼさんなら余裕で倒せられる」
「そ、そうでござるが……」

俺の言葉に、ユキカゼさんは複雑そうな表情を浮かべて返してきた。
その様子を見た俺は、一息つくと提案をすることにした。

「だったら、一緒に下まで降りるか? それならいいだろ」
「一緒……でござるか?」

どうやってと言いたい様子のユキカゼさんに、俺はその手段を告げる。

「まあ、方法は抱きかかえていくことになるけど」
「抱きッ!?!?」
「むっ……」

ユキカゼさんは、頬を赤くしながら目を見開き、何故かブリオッシュさんは目を細めた。

「嫌か?」
「い、いやではないでござる……よ」

そう言いながら頬をさらに赤らめながら、俺の左腕にしがみつくユキカゼさん。

「よし、それでは行くと――「拙者も一緒に降りるでござる!」――あー、はいはい」

もはやそうなることが予想できていた俺は、そう頷くとブリオッシュさんは、頬を赤らめながら俺の右腕にしがみついてきた。

(ものすごく動きずらい)

そんな不満を持ちながらも、絶対に口に出さない。
ノヴァ曰く、それが紳士たるものの振る舞いだとか。

「さあ、行くぞ!」
「う、うむ」
「分かったでござる」

飛んで着地した際に腕を離して怪我をしないように、二人を自分の方に引き寄せる。
そしてそのまま崖を飛び下りると、静かに着地した。

「さあ、戦の始まりだ。二人とも、頑張れよ」
「分かったでござるよ」
「う、うむ」

俺の宣言に、ユキカゼさんとブリオッシュさんは若干顔を赤らめながらも答え、それを見た俺は一気に駆け出した。
着地した際に二人がすんなりと、腕から離れてくれたからこそできた早業だ。

(確か、砲撃はあっちからだったような)

俺は砲撃の発射位置を思い起こすと、その方向にある森林の方へと向かうのであった。

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