戦観戦をし始めてしばらく経った。
「砲撃が無くなったようだが……」
「おそらく敵兵に詰められてたのかと」
「砲術師は歩兵に詰められると無力でござる故」
俺の呟いた言葉に、ユキカゼさんとブリオッシュさんが説明する。
(これでも一応戦場に関してはエキスパートなんだが……まあ、初心忘れるべからず、だな)
そう納得して、俺は静かに聞いておくことにした。
そんな時だった。
「わん!」
「ん? どうしたでござるか? ほむら」
突然やってきた茶色っぽいスカーフを首に巻いた犬……ほむらにブリオッシュさんは首を傾げた。
……主にスカーフに括り付けられている巻物に。
「何々………なるほど」
その巻物をスカーフから外すと、ブリオッシュさんは目を通した。
「どうされたのですか? お館さま」
「ユキカゼ、渉殿。朗報でござる」
ブリオッシュさんの様子に、声をかけるユキカゼさんにブリオッシュさんはそう告げた。
「朗報?」
「うむ、この戦に参加できるようでござるよ」
にこやかな笑顔で、俺たちにそう告げてくるブリオッシュさん。
「いや、参加するということはそれほど今現在、こっち側が不利になっているということでは?」
「そうとも言うでござる。でも、渉殿も戦をやりたいと申していたでござるし、ちょうどいいのでは?」
俺の言葉に、ユキカゼさんがそう言ってくるが、記憶にある限り俺はそんな事を言った覚えはないのだが。
(まあ、最近暴れたりなかったし、良い機会か)
そう心の中で考えた俺は、すぐさま思考を切り替える。
「だったら、三手に分かれた方がいいかな。一人はあの城の内部に、一人はその周辺にいる歩兵たちを倒し、そしてもう一人が砲術師の救出」
「なるほど。それも一理あるでござる」
俺の意見に、ブリオッシュさんは賛同した。
「それじゃ、俺は砲術師の救出に向かおう。敵にとって遠距離攻撃のできる砲術師はなんとしてでも抑えたいはずだ。だとすれば歩兵も大量に動員しているはず」
「「………」」
俺の言葉に、二人はなぜか呆然と俺を見ているだけだった。
「な、何だ?」
「渉殿は戦をやったことがあるのですか?」
「あー……昔色々あって少しな。さて、いつまでもこうしているわけにもいかないし、いっちょ派手に行きますか」
ユキカゼさんの問いかけに、少しばかりお茶を濁して答えると、崖際の方に立つ。
「どうしたんだ? ユキカゼさん」
「あ……えっと」
飛び降りようとする俺の服を掴むユキカゼさんに、問いかけるが、視線を泳がせる。
(なるほどな)
俺はようやく理解できた。
今のやり取りは、前に魔物を相手にした時のと同じものだ。
おそらくは、あの時の事を思い出しているのだろう。
「大丈夫だ。あそこにいる歩兵なんぞ、魔物に比べれば取るに足らん。ユキカゼさんなら余裕で倒せられる」
「そ、そうでござるが……」
俺の言葉に、ユキカゼさんは複雑そうな表情を浮かべて返してきた。
その様子を見た俺は、一息つくと提案をすることにした。
「だったら、一緒に下まで降りるか? それならいいだろ」
「一緒……でござるか?」
どうやってと言いたい様子のユキカゼさんに、俺はその手段を告げる。
「まあ、方法は抱きかかえていくことになるけど」
「抱きッ!?!?」
「むっ……」
ユキカゼさんは、頬を赤くしながら目を見開き、何故かブリオッシュさんは目を細めた。
「嫌か?」
「い、いやではないでござる……よ」
そう言いながら頬をさらに赤らめながら、俺の左腕にしがみつくユキカゼさん。
「よし、それでは行くと――「拙者も一緒に降りるでござる!」――あー、はいはい」
もはやそうなることが予想できていた俺は、そう頷くとブリオッシュさんは、頬を赤らめながら俺の右腕にしがみついてきた。
(ものすごく動きずらい)
そんな不満を持ちながらも、絶対に口に出さない。
ノヴァ曰く、それが紳士たるものの振る舞いだとか。
「さあ、行くぞ!」
「う、うむ」
「分かったでござる」
飛んで着地した際に腕を離して怪我をしないように、二人を自分の方に引き寄せる。
そしてそのまま崖を飛び下りると、静かに着地した。
「さあ、戦の始まりだ。二人とも、頑張れよ」
「分かったでござるよ」
「う、うむ」
俺の宣言に、ユキカゼさんとブリオッシュさんは若干顔を赤らめながらも答え、それを見た俺は一気に駆け出した。
着地した際に二人がすんなりと、腕から離れてくれたからこそできた早業だ。
(確か、砲撃はあっちからだったような)
俺は砲撃の発射位置を思い起こすと、その方向にある森林の方へと向かうのであった。
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