ブリオッシュさんの問いかけからしばらくして、それは起きた。
「何だ? この地面を駆けるような音は」
突然聞こえた駆けるような音に、俺は首を傾げながら辺りを見回す。
「おそらくは、セルクルと言う動物が走る音でござるよ」
「セルクル……(馬のようなものか?)」
ブリオッシュさんの口から出てきた単語に、首を傾げつつもそう納得することにした。
音のする方を見ると、明かりのようなものが見えた。
そして、セルクルと言う動物は俺達が立つ場所を通り過て行く
その背中には、人の姿もあった。
それを、俺達は崖の上から眺めていた。
「お館さまー! 渉殿ー!」
「ん?」
そんな時、後ろから聞こえてきたユキカゼさんの声に、俺達は振り返った。
そこには、手を振りながら俺達のいる場所に駆け寄るユキカゼさんと、キツネがいた。
どうでもいいこと(ではないかもしれないが)だがブリオッシュさんは犬、ユキカゼさんは狐を同伴させている。
名前は忘れたが。
「何か面白いものでもございましたか~?」
「おぉ、ユキカゼ。どうやら、戦のようでござるよ」
ユキカゼさんの問いかけに、ブリオッシュさんが答えるが、ここでまた一つ新たな単語が出てきた。
「戦?」
「あ、渉殿は知らなかったですよね」
「ちょうどいい機会ゆえ、見晴らしのいい場所に向かいながら戦について説明するでござるよ」
そう告げると、ブリオッシュさんは見晴らしのいい場所へと移動を始めた。
その道中、俺は戦についての説明を受ける。
その説明を聞いた俺の感想は……
「それって、何と言うアトラクションなんだ?」
だった。
俺のイメージしている戦とは大違いだったことに、驚きを隠せなかった。
見晴らしのいい場所に移動した俺は、さらに驚くことになった。
少し離れた森の方から、まるで花火のように放たれる砲撃。
その轟音や、怒号はまさに戦場でのものだ。
だが、これで死人が出ないのだからすごい物だ。
「これはすごい、暗がりゆえ、誰が誰だか分らぬが若い騎士達が頑張っているでござる」
地面に座っているブリオッシュさんは楽しげに言うと、遠くのものを見るための道具をユキカゼさんに渡す。
俺とユキカゼさんは、立ってその光景を見ていた。
「ですがお館さま。ビスコッティとガレットの戦のようですから、我々も加勢をするべきなのでは?」
「若い者同士、楽しく戦をしているのでござろう。いい大人が邪魔をするのは無粋でござるよ」
それを受け取りながら心配そうに聞くユキカゼさんに、ブリオッシュさんはそう告げると、荷物の中から何かの飲み物を取り出し、盃にそれを注ぐ。
「拙者は、のんびり見物をさせてもらうでござる」
そう言い切ると、ブリオッシュさんは盃に注いだ液体を飲んだ。
(大人……ねえ?)
俺は、すでに180度変わった彼女たちの印象のため、ブリオッシュさんの”大人”という言葉に内心で首を傾げた。
「渉殿、どうしたでござる?」
「何でもない」
俺の心を読んだのか、問いかけてくるユキカゼさんをごまかしつつ、こういう時も腕に抱き着いてくる彼女によくやるよなと思う、俺なのであった。
だが、この時俺達がこの戦と大きくかかわりを持つことになろうとは……まだ知る由もなかった。
[2回]
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