二人と別れた俺は、砲術師のいるであろう場所の森の中に来ていた。
(あれが、砲術師か)
俺は木の幹の方に追いやられて、白旗を振っている栗色の少女を見ながらそう推測した。
(まあ、とりあえず助けておきますか)
俺はそう思い立つと、神剣を両手に構えた。
「紋章術……」
そう呟きながら、俺は草むらから一気に駆け出す。
そして少女の前で移動した俺は、静かに呟く。
「……疾風!」
「「「うわあああああ!!!!?」」」
その瞬間、周囲にいた歩兵は瞬く間にまん丸の動物になった。
(これが何なのかは気になるが、まあいいか)
取りあえずは無力化できたので、俺は少女の方へと向きなおす。
少女は、突然現れた俺を目を見開いてみているだけだった。
「お初にお目にかかる。私は隠密部隊、臨時メンバーの小野 渉だ。突然失礼した。とりあえずけがはないか?」
「あ、はい。学術研究院をしています、リコッタ・エルマールであります」
俺の自己紹介に、エルマールさんははきはきとした様子で自己紹介をする。
「あの、渉様」
「様付けはいい。寒気がするから」
俺はエルマールさんにそう言う。
様付けは昔を思い出すので、なるべく付けられたくはないのだ。
「それでは渉さんで。私の事もリコって呼んでください」
「…………了解」
彼女が何故かユキカゼさんと、同類のような気がしてならなくなった。
いや、雰囲気的に。
「この先のミオン砦の外壁部分に、ユキカゼがいる。彼女と合流すると良い」
「渉さんは?」
「俺は一仕事残っているから、そっちの方に向かう」
リコの問いかけに、俺はそう答えた。
本当は同じ目的地だから一緒に行けばいいのだが、いた場合には彼女をどのような危険に巻き込むかが分からないのだ。
どうも俺は誘蛾灯のようで、悪いことを引き寄せていくらしい。
「そうでありますか。では、私はユッキーと合流するであります」
「気を付けて」
駆けだす彼女の背中に声を掛けながら、俺は静かに見送った。
「ユッキー……ねぇ」
ユキカゼさんの愛称のようなものらしく、前にこれで呼ばせようとしていたのを思い出した俺は、ため息をこぼしてしまった。
(……今はやるべきことをやるか)
考えに浸りそうになる自分に喝を入れ、俺は次の場所へと向かった。
ブリオッシュさんの元へと。
ミオン砦に続く道を、しばらく走っていた時だった。
「なッ!?」
突然の紫色の光が走ったかと思うと、何かの建物が真っ二つに斬られ、地面に轟音を立てながら崩れ落ちた。
(今の光は、ブリオッシュさんのだよな……彼女に何かあったのか!?)
前に見た彼女の紋章剣の光と、同じなのを思い出した俺は慌てて走る速度を上げた。
その最中に花火が打ちあがったが、それには目もくれずに走る。
「っとぅ!!」
そして足に力を込め、地面を蹴り飛ばす。
すると、まるで鳥になったかのように空へと飛びあがる。
(ブリオッシュさんは……いた!!)
ミオン砦内にいるであろうブリオッシュさんを捜したところ、彼女はすぐに見つかった。
誰かと対峙しているようだった。
その二人の中間地点に、俺は静かに降り立った。
「なッ!?」
目の前の大きな斧を手にするおじさんは、俺がいきなり現れたことに驚く。
そんなおじさんをしり目に、俺は後ろの方に振り返る。
「少し遅れましたが、合流しました」
「うむ、いいタイミングでござる」
何故か爽やかな表情で、俺にそう言う。
それほど急を要する事態ではなかったようだ。
俺はそう考えると再び後ろの方へと向きを変える。
「さてと……自己紹介がまだだったな。俺の名前は小野渉……隠密部隊の臨時メンバーだ」
「俺はガレット獅子団の将軍、ゴドウィン・ドリュールだ」
お互いに自己紹介を済ませる。
これは一応礼儀としてだ。
「こちとら雑魚の相手ばかりで退屈なのだ。少しばかりお相手を」
「言うな小僧……良いだろう、来るがいい!!」
俺の言葉に、ドリュールさんは後ろに鉄球がついている斧を構える。
実際リコの元にいた歩兵の数は圧倒的に少なかった。
理由は分からないが、そのせいで若干味気なさを感じていたのだ。
「ということで、彼の相手は自分に任せて貰っても良いか?」
「勿論でござるよ。怪我には気を付けて」
ブリオッシュさんのお許しが出たところで、俺も神剣を構える。
「………」
「………」
俺達は、お互いに攻撃のタイミングをうかがう。
そして……
「うおおおおお!!!」
「はぁあああああ!!!」
戦いは幕を開けた。
[2回]
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