健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第123話 迷走

「それじゃ、そろそろ帰るか」

色々と騒動もあったが自由行動の時間は、澪の言葉によって終わりを告げようとしていた。
なぜならば、リミットである夕食の時間が迫ってきていたからだ。
青空だった空もオレンジ色の光に染められているので、今の時間帯が夕方であるのは時計を見なくても明らかだった。

「帰りは電車にしましょう」
「そうだな」

ムギの提案に反対する者はなく、僕たちは律の案内の元駅に向かって歩き出した。
色々とあわただしかったが、それでいていい思い出になったと余韻に浸りながら旅館に戻る。





―――はずだった

「あれ?」

それはふいに立ち止った律の一言から始まった。

「まさか迷ったなんて言わないよな?」
「……迷ってない」

僕の問いかけに、僕たちに背を向けたまま律が応えるが、その様子だけで答えているのは明らかだった。
何となくおかしいとは思っていた。
律について行くとだんだん住宅街へと街並みは変わっていくのだから。

「あははっ、もう駄目だよ~」

そんな中、突然聞こえてきた陽気な声に、後ろにいたであろう唯のほうへと視線を向ける

「そんなに舐めたらくすぐったいよ~」

飼い犬であろうブルドック(たぶん)に頬を舐められている唯の姿があった。

「なんだかこっちはものすごく平和だよね」

色々な意味で唯は平常運転だった。

「律」
「だから迷ってなんかいないぞ」

ふと律のほうを見た僕が声を掛けると、律がやかましそうな声色で返事が返ってきた。

「いや、そういうことを言いたいわけじゃないんだけど」

僕はそう言いながら、人差し指を律の後ろのほうに向ける。
その先にいたのは買い物帰りだろうか、手に白いビニール袋を持ちながら歩く女性だった。
ここは住宅街。
買い物帰りの主婦がいてもおかしくはない。

「あの人に駅までの場所を聞いてみたらどうだ?」
「……迷ってないからな」

いまだに迷っているか否かにこだわる律に”はいはい”と適当に相づちを打ちながら行くように促す。

「あ、あの! すんまへんっ」
「な、なんで京都弁?」
「まだ続けてたのか、京都弁ゲーム」

何故か京都弁(?)で話しかける律に首をかしげる僕に続いて、やれやれと言わんばかりの声を上げる澪。
まるで異国の地に来たようにたどたどしく道を尋ねる律に、買い物帰りの女性は困惑した様子でジェスチャーを交えながら駅までの道を律に教えるとそのまま去っていった。

(絶対に変人に思われてるよな、あれ)

「~~~っ、通じたよ~!」
「律ちゃんおめでとう!」

そんな僕の不安など知る由もなく、抱き合う唯と律の二人のもとに、澪が歩み寄る。

「それで、場所は分かったのか?」
「もちろんさ。さあついてこーい!」

自信たっぷりに答えた律の導きの元、僕たちは今度こそ駅に向かって歩いていく。





「……迷った」
「……今更認めなくてもいい」

先ほどよりも小さな声で迷ったことを認める率に突っ込む僕の声にはどことなくため息が混じっていた。
それもそのはずだ。
律についていくこと数分、たどり着いたのは一軒家の前だったのだ。
しかも駅のえの字も感じられない雰囲気の住宅街。
これで迷っていなかったら、確実に故郷に連れて行っていることだろう。
……悪い意味で。
それはともかくとして、問題はここからどうするかだ。

(そういえば、今朝迷った時の対処法を言われていたっけ)

あの時、朝の一件があって、よく聞いていなかった自分をぶん殴りたい。

「あ、そうだ!」

そんな中、唯が何かを思い出したのであろうまるで彼女から光が周囲を照らしているのではないかと思うほどに、笑みを輝かせる。
そんな彼女がおもむろに取り出したのは、何の変哲もない携帯電話であった。

「おぉ!」

どうやら山中先生の携帯に連絡して助けを求めるようだ。

(というより、それを思いつかない僕って……しかも携帯忘れてるし)

ふと気になってバッグの中やらポケットの中を確認してみると、案の定携帯を忘れていた。
携帯などなくても魔法などを使えば簡単に連絡ができるため、持ち運ぶ癖が未だについていないのだ。
どちらにせよ思いついていても、唯の力を借りることになっていたみたいだ。
それはともかくとして、携帯を取り出した唯はそれを耳に当てる。
相手は引率者である山中先生だ。

「――――あ」

しばらくの沈黙ののち、唯の表情が和らぐのを見て、山中先生が電話に出たんだと悟った。
きっとこの後、一言二言注意を受けることになるんだろうなと思いながら、電話が終わるまで待つことにする。

「あ、もしもしあずにゃん? 私たちね今迷子に――――」
「「梓に電話をしてどうする!!」」

予想外の名前に前にずっこけながら唯にツッコミを入れた。

「梓は魔法少女とかじゃないんだから」
「あ、そうか」

澪と同時にツッコミを入れたことが功を奏したのか、唯はなるほどといった表情で頷くとそのまま電話を切った。

(なんとなく、梓が呆れているような気がする)

きっと電話口では半目になって呆れたような表情を浮かべていたに違いない。

(まあ、梓にはあとでフォローを入れとくとして、問題は今この場をどうやって乗り切るか……か)

結局のところ、どうやって駅まで向かうのかという話になってしまう。

「唯ー、澪―!」
「あ、和ちゃん!」

詰んでしまった僕たちに声をかけてきたのは、真鍋さんだった。
まさに救世主のように頼もしく見えた。
それは他のみんなも同じだったようで、澪たちの表情に希望のようなものが満ちていた。
律に至っては感極まって真鍋さんたちのもとに駆け出すほどだ。
だが、この時の僕はあることを失念していた。
このような入り組んだような場所の住宅街に、真鍋さんたちがいるのは不自然だということに。

「助かっ―――」
「駅まではどうやって行けばいいのかしら?」

真鍋さんの問いかけに返ってきたのは、律がヘッドスライディングする音だった。

「そっちも迷ったんだ」
「ということは、高月君たちも?」

律の行動ですべてを悟ったのだろう、真鍋さんは困ったような表情を浮かべながら聞き返した。

「こうして一緒になったのも何かの縁。一緒に駅まで行かないか? というより、行ってください」
「そうね……そのほうがいいようね」

このままだと半永久的に迷子になるという嫌な予感がした僕の懇願が通じたのか、苦笑しながらも聞き入れてくれた。

「ということだから、いい加減起きろ」
「……なんだか、扱いがひどいぞー」

力尽きたといわんばかりに倒れ伏している律に声をかけた僕は、抗議の声を上げる律をしり目に時計を確認する。

(もう時間がないな)

切羽詰まっているというわけではないが、あまり時間をかけることができない状態の時間になっていた。

「和ちゃんについていけば安心だね」
「……ですね」

いつの間に来ていたのであろう、唯がハンカチで律のスカートや顔の汚れた場所をぬぐっていた。
見ると真鍋さんたちは澪とムギを交えて、地図をそれぞれが手を伸ばして指示しながら駅までの道を話し合っているところだった。
確かにこの人たちに任せていれば大丈夫かもしれない。

「ところでさ、浩介」
「何?」

そんな光景を見ていると、律から声をかけられる。
その口調はとても真剣そうだった。

「浩介の力なら、これ一瞬で解決できるんじゃないのか?」
「そうだね! 浩君は魔法使いだもんねっ」

魔法のことをぼかして聞いてくる律と、まるで太陽のように明るい笑みを浮かべながら声をすぼめる唯。
確かに二人の言うとおりだ。
こういう時こそ魔法の出番だと思うのが普通だろう。
この状況でおあつらえ向きなのは転移魔法だろう。
A点とB点の二か所を一直線に結んだ空間(亜空間)を移動することによって可能となる魔法で、僕たち魔法使いが習得する魔法の一つだ。
ちなみにこの転移魔法も、人によってさまざまでA点とB点の空間を強引にくっつけて(亜空間を使わないで)移動するものもある。
亜空間は一瞬で形成でき、それほどのリスクがないのが特徴だが、非常に不安定で出口である軸がぶれやすいデメリットを持っている。
軸がぶれる要因は様々で、対象地点が複雑に移動していたり亜空間の形成・移動時に外部から何らかの干渉を受けたりなど等々があげられる。
ちなみに、”VS”を用いた転送システムによる移動は、このリスクが軽減されているだけで、リスクがなくなったわけではない。
何せ同じ亜空間形成型なのだから致し方がない面もあるが。
 
閑話休題。

「確かにそうだけど、この状況でそれを行うことはできない」
「え? なんでだよ」

納得できないといった様子で首をかしげる率に、僕は軽くずっこけそうになった。

「あのね……いったい何のためにあの宣誓書を書いたと思ってるんだ?」
「それは、浩介を受け入れるという証明のためだろ?」
「浩君もそう言ってたよ」

僕の問いかけに対する二人の答えに、僕は昨年のことを思いだす。

(確かにそんなことを言っていたかも)

自分ではちゃんと言っていたつもりだが、聞きようによっては本来の目的が分からないかもしれない。

「すまない。少々説明が足りなかったみたいだ」
「どういうこと? 浩君」

僕が謝ったことに不安を感じたのか、唯が心配そうな表情浮かべる。

「僕たちの世界では魔法文化のない場所で、魔法が使えない人たちに故郷や魔法のことを知られるのが固く禁じられているんだ」

原因は魔法文化のない世界で受けた”魔女狩り”にある。
魔法のことを恐れた者たちが魔法使いを化け物と決めつけ、魔法使いたちを根絶やしにするため(理由についてはいろいろと諸説がある)に行われた惨い事件。
これによって魔法が使えない人たちへの怒りは計り知れぬほどに膨れ上がったのだ。
一時期は魔法が使えない者たちを根絶やしにする”人魔戦争”なるものまで計画されていたらしい。
もっとも、それはさすがにまずいと判断したのか、魔法連盟によって阻止されたので起こってはいないが。
そのような経緯もあって、何十年も時間が経った現在でさえ、魔法が使えない人間に対する風当たり(差別ともいうが)は強く、魔法が使えない人間(厳密には魔界に住んでいない人だが)と魔法が使えるものが、同じ経緯で罪を犯してもその刑罰は天と地の差があるのがいい例だ。
ちなみに、僕にケンカを売った探偵野郎は、魔法が使えない人たちを滅ぼせといまだに言い続けている者たちの怒りを和らげる目的で生贄として捧げたが、その後の消息は明らかになっていない。
何の情報も入ってこないが、あの男が生きている可能性は皆無であることはなんとなくではあるが悟っていた。

閑話休題。

「魔法を使っているところを見られた場合は、その人物の記憶から魔法に関することを消去しなければならない」
「でも、私たちは消されてないよ」

首をかしげる律だが、それもそうだろう。
そのための宣誓書なのだから

「宣誓書にサインをした者は例外。記憶を消す必要がない」
「なるほど。だから私と律ちゃんは大丈夫なんだね」

納得した様子で相槌を打つ唯を見て、僕はさらに話を進める。
唯が理解できていれば律もちゃんと理解できていると思ったからなのだが。

「ここは住宅街。何時人が来てもおかしくはないし、それに真鍋さんたちもいるからおいそれと魔法は使えない」
「そっかー。残念ですわね、唯隊員」
「なぜにそこまで残念がるんだ……と、どうやら向こうも終わったみたい」

どうしてそこまで残念がるのかが分から図に首をかしげていると、どうやら澪たちのほうも駅までの道を確認し終えたのか、こちらのほうに向かってくるのが見えたため僕は話をいったん終わらせる。

「それじゃ、行きましょ」

そう告げて歩き出す真鍋さんはどことなく頼もしく見えた。

(やっぱり、魔法なんてものがなくても十分やっていけるんだな)

少し前の僕であれば、魔法が使えない人に完全に任せるということはしなかったであろう。
見下しているつもりはないが、どのようなことに対しても魔法にはかなわないと思っていた。
だが、最近は時頼人のみでありながら魔法の効果と同等の……いや、それ以上の効果をはっきりしている場面を見ていて考えが変わり始めていた。
そしてそれは同時に、僕自身がこの場所世界に、馴染み始めている証でもあるような気がした。

(まあ、それよりもまずは旅館に戻ることを考えようか)

僕はいったんそこで考えることをやめると、地図を片手に歩きだす真鍋さんたちの後をついていくのであった。





いろいろと大変ではあったが、何とか駅にたどり着いて旅館に戻ることができた。

「……あれ?」
「さっきの場所だね」

わけがなかった。
僕たちがいるのは、先ほど真鍋さんたちと合流した場所だ。
そう、僕たちは見事に元の場所に戻ってきてしまったのだ。
僕たちの間に何とも言えぬ重苦しい雰囲気が漂い始めた。
唯と律にムギの三名はいつも通りだが

「和ぁ」

澪のほうは涙目になっていた。
誰がどう見ても、僕たちはいまだに迷っている。

「ちょっと待って。もう一度地図を確かめるわ」

そういってもう一度地図を確かめ始める真鍋さんを見ながら、どうしたものかと考え始めると

「しゃれこうべ」

と、全く関係のない単語が聞こえてきた。

「っく……くく」

その関係のない単語に顔をうつむかせながら肩を震わせる澪の様子は、必死にこらえているようではあるが笑っているようにしか見えない。

「しゃ」
「っぷ……あはははは」

その単語を口にした律が再び口を開くと、今度は笑い出した。

「み、澪ちゃんが壊れた」

驚いた様子でつぶやく唯のその言葉はある意味的を得ていた。

(うーん。どうするべきか)

彼女たちに任せておけば大丈夫。
僕の出る幕はないと思っていたが、少々雲行きが怪しくなり始めた。
腕時計のほうにふと目をやると、人知を超えた力でも使わない限り、どうやっても食事の時間までに戻ることは絶望的な時間だった。
要するに、魔法を使うしかないということだ。
だとするとどうやって使うのかが問題になる。

場所は住宅街。
どこから見られているのかがこちらからでは分かりづらいという、魔法を使う上ではあまりいい環境ではない。

人員は魔法のことを知っている人物に加えて、魔法のことを知らない人が数名。
人数的には何人になろうが問題はない。

基本的に増えれば増えるほど消費する魔力量も大きくなるが、そうそう魔法を使わない現在の状況下ではさほど問題はない。
あるとすればやはり魔法の存在を隠匿するという部分だろう。
魔法という文化が存在しない世界において、魔法や故郷の存在を知られることを禁じている法律はどこにも存在はしない。
いわゆる、不文律というやつだが、これを守らないといろいろと面倒なことになる。
主に魔法連盟長からの”ありがたいお話”をいただくという意味で。

(さすがに修学旅行帰りに何時間も説教されるのは勘弁だ)

父さんが一度説教を始めると、軽く10時間位続くというのが、魔法連盟内ではある意味有名な話だ。

(それだとしたら、どうしようか)

真鍋さんたちに魔法の存在を知られずに魔法を使う方法を見つけようと、僕は必死に考えを巡らせる。

(そうだっ)

そこでふと思いついたアイデアが、僕の頭の中にすさまじい速さで作戦を組み立てさせた。

(あれだったらそうそう問題もないだろうし……よし。これでいこう)

こうして僕は、夕食に間に合うように旅館へ戻るべく作戦を開始するのであった、

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