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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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プロローグ

それは無価値の物。
人々にとっては存在する意味のない物。
ならば、私がそれに意味を持たせよう。
無価値の物が存在する意味を。
私の手で周りにある価値ある物すべてを奪ってしまおう。
”無”という力の名の下に。





『次は終点、澄之江学園都市、澄之江学園都市です。どなた様もお忘れ物ございませんよう、ご注意ください』

上ヶ瀬市街の方から、バスで約30分ほどかかったが、何とか目的地に到着したようだ。

(さすがに”向こう”からここに来るのは骨が折れる)

来るだけでも疲労感を感じたような気がした。
実際には片道2時間という距離だが。

(まったく、何で出発前日に来るかな)

疲労感を感じながら、僕は愚痴をこぼす。
そんな僕の心境とは裏腹に、窓の向こう側に青色の空が見えた。
それから程なくして、バスは僕の目的地である『澄之江学園都市』に到着した。
海面上昇により、水没した上ヶ瀬市の沿岸部を埋め立て、そこに作られた複合型の場所が今僕がいる『澄之江学園都市』だ。
ちなみに、正式名称は『上ヶ瀬市澄之江学園都市町』らしい。
都市なのか町なのかどっちなんだと思わずツッコんだので、よく覚えている。
僕は、明日からその澄之江学園に転入することになっている。
それに至る経緯は少しばかり特殊だ。
半年ほど前、この学園都市付近を散策する機会があったのだが、その時にある女性に呼び止められたのだ。

『澄之江学園に転入しませんか?』

正確には違うが、その女性の説明は要約するとそんな感じだった。
最初は返事を保留にさせてもらっていたが、色々な事情で転入を決めたのだ。
正直半年も保留にしていたので、ダメかとは思ったが向こう側は快く受け入れてくれたのがとても意外だった。

「確か、この辺りで案内をする人が待ってくれているはずなんだけど……」

当然だが、この場所や学園のことをよく知っているわけではないので、案内人が必要となる。
僕をスカウトした人は多忙のようでそれができないため、代わりの人にお願いをしているそうだ。

「あの、すみません」
「あ、はい」

そんなことを考えていると、ふいに呼び止められた僕はその声の方に向き直った。
そこに立っていたのは橙色の髪をした少女だった。
おそらく100人いれば100人ともが振り返るほどの美少女であった。

「人違いでしたらすみません。あなたが、転入生の高月 浩介さんですか?」

(僕のことを知っているということは、彼女が案内人かな)

もしかしたら人さらいの可能性もあるが、そんなことをする意味もないし、制服も来ているので案内人で間違いはないはず。

「す、すみません! 人違いでした。本当に申し訳ありませんでした」
「あ、こちらこそすみません。ボーっとしてただけですから、人違いではないです。自分が高月浩介です」

少女の姿に思わず見とれてしまった自分に、恥ずかしさが込み上げてきた。

「良かったです。また人違いかと思ってしまいました」

ほっと胸をなでおろす少女だが、僕は”また”という単語が気にかかった。

(一体何人間違えたんだろう)

ふとそんなことを聞きたくなったが、初対面の人に聞くのも失礼なので、心の中だけにとどめておくことにした。

「澄之江学園へ、ようこそ。私は姫川 風花といいます。高月君が転入する2年A組のクラス委員です。よろしくお願いします」

改めてこちらに向き直った姫川さんは自己紹介をすると僕に右手を差し出してきた。

(な、なかなかにフランクな人なんだ)

普通であれば、もう少し事務的な態度をするかと思っていたが、まるで昔からの知り合いなのではないかと思わせるような感じで接してくるので、驚いていた。
驚きはしたが、別にいやではない。

(とはいえ、可愛い美少女と握手をするというのも……恥ずかしいな)

そんなことを考えること数秒。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

僕は姫川さんの握手に応じた。

「……ッ!」
「どうかしました?」

手から体に走った静電気みたいな”何か”に、僕は思わず息をのんでいると不思議そうに姫川さんが訊いてきた。

「い、いえ。なんでも」

どうやら、この不思議な感覚は僕だけしか感じていないようだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします。姫川さん」
「はい♪」

とりあえずは何とか最初の挨拶をすることができた。

(そう言えば、情報によれば転入生はもう一人いるらしいけど………)

姫川さんに怪しまれないように、周囲に視線を向けた僕はもう一人の転入生の姿を探すが、なかなか見当たらなかった。

「申し訳ないんですけど、転入生がもう一人来るので、ここで待っていてもらっていいですか?」
「ええ、別にかまいませんよ」

どうやらもう一人は僕の後に来るようだったので、申し訳なさそうに言ってくる姫川さんに僕はそう返した。

「あの、失礼」

僕は小一時間待たされることを覚悟したが、数分ほどしたところで誰かに声を掛けられた。

「貴方たちが学園を案内してくれる人ですか?」

その人物は紫色の髪に人当たりの良さそうな表情をする青年だった。

「いえ、自分は貴方と同じ転入生です。案内をするのはこちら」
「姫川風花です。速瀬君達が転入する2年A組のクラス委員をしています」

僕の言葉を引き継ぐように先ほどと同じように人当たりのいい笑みを浮かべた姫川さんは、速瀬君に手を差し出す。
それに応じた速瀬君だったが、一瞬驚いた表情を浮かべた。

(速瀬君もあの感覚を感じたのかな? いや、余談は禁物)

もしかしたら勘違いの可能性もある。

「二人とも、荷物はそれだけなんですか?」
「必要な荷物は送ってるので」
「自分は荷物自体が少ないので」

不思議そうに僕たちを見ながら聞いてくる姫川さんに、僕は速瀬君に続いてそう返した。

「ふふ、寮の部屋ってあんまり広くないですもんね」
「ええ、まあ」

やわらかい笑みを浮かべながら話す姫川さんに速瀬君が応じた。

(こういうところで差が出るものか)

僕は人付き合いが苦手だ。
どうしても相手の裏側にまで考えをめぐらせてしまうため、深い人づきあいができないのだ。
そして、自分の本心を悟られないようにガードしてしまう。
その原因は数十年前の”あること”にあるが、今はそんなことはどうでもいいだろう。
僕の目標は人付き合いができるようになるという、しごく当たり前のモノだったりもするのだ。

「それでは、このままご案内しますね。本当は職員室に行って、担任の先生を紹介しなければいけないのですが、今職員会議があるので、先に後者の方を案内しますね」
「分かりました」
「自分も構わないです」

少し申し訳なさそうな姫川さんの言葉に、今度は僕も相槌を打つことができた。
こうして僕たちは姫川さんの後に続く形で校舎内へと入っていくのであった。

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