健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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ねえ、教えて

あなたは、いつも格好良かった。
何のとりえもない私がうらやましく思うほどに。
一目で会った時から、私はあなたにひかれたのかもしれない。
私が悲しい時もつらい時も、色々と手を差し伸べてくれたのかもしれない。
ねえ、教えて。
あなたは私の事をどう思っていたの?
私はあなたの事が好きだったよ?
でも、そんな事を言う勇気は私にはなくて。
そしたらあなたはみんなを守って姿を消してしまった。
ねえ、教えて。
私の事をどう思っていたのかを。
そして伝えたいな。
貴方への私の気持ちを。

――――大好きだよ

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終わりに

皆さん、初めましての方は初めまして、それ以外の方はご無沙汰しております。

今回はこのような駄文を読んでくださりありがとうございました。
この作品もようやく最終話を迎えることができました。

True エピローグですが前々からやってみようと思っていたことでもあります。
ああいう終わらせ方は賛否両論もあるでしょうが楽しんで頂けたら幸いです。

この作品を書くきっかけは、自分だったらこうするのにと言う妄想からです。
それがここまで形になったので、正直自分でも驚いております。
ただ、各キャラの心情など(マミさんの孤独を恐れるところなど)は完全に理解できていなかったので、キャラによっては原作とはかけ離れた存在になってしまったのが、私の反省すべき点です。

ちなみに、この原作の二次創作は二度と書かないと思います。
これを書き上げる資料の為にかなりの料金を消費しているので、かなりきついという面もあります。
要望があればもしかしたら書くかも・・・ですが。


それでは、最後になりますが、再びお礼を言ってお別れしたいと思います。
本作をご愛読いただき、本当にありがとうございました!!

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True エピローグ 約束

それは全てが終わった後の物語。
場所はどこかのコンサート会場を彷彿とさせる講堂。
そこにまどか達の姿があった。

「すごいよね、コンサートに出れるって」
「うん。恭介あれから猛練習していたからね、出れない方がおかしいよ」

まどかの言葉に笑顔で返すさやか。

「ところで、だ」

そんな中口を開いたのは、さやかの隣に座る杏子からだった。

「どうしたのよ?」
「なんであたし達までが付き合わされてるんだ?」
「まあまあ、佐倉さんも落ち着いて」
「そうよ、もうじき始まるわ。そんな時に席を立つのは失礼よ」

不平を言う杏子に対し、マミとほむらは必至に宥めていた。
ほむらの場合は宥めているかは微妙なところであったが。

「わあったよ」

彼女も諦めたのか大人しく座っていた。

「あ、始まったよ」

そんな中、まどかは壇上に現れたバイオリンを片手にタキシードを着た少年、上条恭介を見つけると小声で伝えた。
今回のはバイオリンのコンクールだ。
演奏者は15人、すでに14人が演奏を済ませていた。
つまり彼は最後の演奏者と言う事だ。

「15番、上条恭介です。課題曲は、アヴェ・マリア」

静かに、しかし周りに聞こえるようにはっきりと伝えると、バイオリンの演奏を始めた。
それと同時に心地よい音色が講堂を満たす。

「これは……」
「中々ね……」

帰ろうとしていた杏子や興味なさげにしていたほむらも、その演奏に舌を巻いていた。

「聴いたり見ていたりするだけでいいのか? さやか」
「……うん。これでいいよ。私はただ、もう一度アイツの演奏が聴きたかっただけなんだ。あのバイオリンを、もっともっと大勢の人に聴いてほしかった」

突然小声で問いかける人物にさやかは頷いて答えた。

「ほぅ?」
「それを思い出せただけで、十分だよ。もう何の後悔もない」

その人物はさやかの言葉を聞いて興味ありげに呟く。

「それは本当なのか?」
「まあ、そりゃ……ちょっぴり悔しいけどさ。仁美じゃ仕方ないや。恭介にはもったいないくらいいい子だし……幸せになって……くれるよね」

古傷をえぐるような問いかけに、さやかは静かに答えた。
しかし頬を伝う雫は、それが本心ではない事を伝えていた。

「………まあ、それだけ立派に言えるのであれば、やっと愚か者から馬鹿者になったと言う事か」
「うるさいよ!………って、あれ?」

その人物のおちょくる声にさやかは首を傾げた。

「今のってまどか達?」
「ち、違うよ!?」

さやかの問いかけに慌ててまどかが否定する。

「でも、今の声って………」

さやかの疑問を打ち消すように再びその人物は声を上げる。

「今は演奏中だ。静かにしたらどうだ?」
「す、すみません………って、渉君!?」

まどかが声のした方を見ると、そこにはまるで神社の人が着るような袴を着ている渉の姿があった。
まどかの言葉に、渉は無言で『静かにしろ』と言っていた。
そしてまどか達は演奏を聴くのであった。










コンクールが終わり、会場を出た渉は感慨深そうに空を眺めていた。

「ふぅ、優勝したかあいつ」
「渉、恭介のこと知ってたの!?」

渉の言葉に、さやかが問いかける。

「ああ、お前がその命をかけて奇跡を起こしたいと思う相手がどんな奴かと気になってな。まあ、何度か会ううちにあいつに色々と演奏者の心構えとかをアドバイスをしていた」
「そ、そうだったんだ」

渉の言葉に、さやかは頷いて納得した。

「どうして渉君は、ここに来れたのかしら?」
「………あいつと約束したのだ。”お前がコンクールかなんかに出ることが出来たら見に行ってやる”とな。その約束を守れないようじゃ、神以前に人として最低だからね」

渉の答えに、全員が相変わらずねと思いながら苦笑いを浮かべた。

「「渉」」
「同時に呼んだりして、どうしたんだ? さやかにほむら」

さやかとほむらに同時に呼ばれた渉は、困惑気味に用件を聞いた。

「貴方からでいいわ」
「ありがと」

用件を話す順番を譲ったほむらに、さやかは軽くお礼を言うと渉を見た。

「前、渉にひどいことを言った。いくら渉が無銘の偉人だと知らなかったとしても、あんなことを言って本当にごめん!」

酷いことと言うのは、渉がさやかを呼び止めた時の一言『私はあんな奴のような馬鹿なことはしない。打算で友達を殺すなんてそれこそ生きる価値ないよ。もしなるとしても私はちゃんとした形で偉人になる』という一言だ。

「ああ、あれか。本当の事だから謝らんでいい。生きる価値のない屑野郎なことぐらい、自分でもわかってる」

渉の自分を蔑む言葉に、さやか達の表情が暗くなった。

「勘違いするな。何も俺はお前たちに同情してほしいのではない。お前たち如きに同情されるくらいなら、まだ見下らされていた方がましだ。俺はただこういう愚か者がいたと言う事を知って欲しかっただけだ」
「渉……」

渉の言葉に、それ以上何も言うことが出来なくなった。
それは渉の強い意志によるものであった。

「それで、あんたは何だ?」
「その、あの時は銃を撃ったりしてごめんなさい」
「あれものすごく痛かったんだからな!?」

ほむらの謝罪の言葉で思い出したのか、渉は何時になく大きな声でツッコむ風に答えた。
どうやら本気で痛かったらしい。

「まあ、ここに来たのは恭介との約束を果たすのと、お前たちに最期の別れを言うためさ」
「え?」
「どういうことだ?! 最期の別れって」

渉の言葉にまどか達は言葉を失い杏子は大声で渉を問い詰めた。

「そのままの意味だ。天界の方で、僕に対する処分が決定したんだ」
「処分?」

渉の答えに、まどかは疑問に思ったのか聞き返した。

「そう。本来死ぬべきものを生かしたり、因果律操作を多用したりして世界その物に多大な負荷をかけたんだ。それに対する僕の処罰が決まったのさ」
「そ、それってもしかして……」
「たぶんお前の予想通りだと思うぞ。人格の抹消……それが僕に下った罰さ」

渉の説明に、いやな予感を感じたまどかの予想を渉は肯定した。

「そ、そんな」
「酷いよ! 渉君は、何も悪いことをしてないよ! 私たちを救ってくれたじゃない!!」
「それが世界と言うものだ。何事も理不尽で不条理の塊だ。こうしてここに来れたのは、かなり無理を言ってお願いをしたからでもあるんだが」

涙ながらに異論を唱えるまどかに、渉は言い聞かせるように口を開いた。

「ねえ、ここに一生いるのはどうかしら?」
「悪いがそれは出来ない。僕はこれでも世界の意志だし覚悟ぐらいはできてたさ」

マミの提案に渉は首を横に振りながら拒否した。

「それに、俺と言う人格が消えても、俺の志はこいつの中で生き続ける」
「それって、最後の魔女の時の剣だよね?」

渉が取りだしたのは紅く優雅に輝く一つの剣だった。

「俺の後継者はこいつを手にするだろう。その時は俺はこいつと共にその後継者を見て行くんだ。だから俺には全く持って悔いはない……それにここに残ったらあんたらにどんな影響が出るかは分からないしね」

渉の強い決意に、誰も反論することが出来なかった。

「皆さん! ここにいらしたのですね」
「あ、仁美ちゃん!」

突然聞こえた声は仁美の物だった。
まどかは手を振って自分のいる場所を相手に知らせた。
彼女の横には引っ張られるようにして走る恭介の姿があった。

「今日は来てくれてありがとうございます」
「お礼を言われることじゃないって」

普通に会話を始めるさやか達に、渉はため息をつくと空を見上げた。

「あら? そちらの方はどなたですか?」
「あ、えっと……」

まどかは彼女たちが渉の事を覚えていない事を思い出した。

「小野渉だ。そっちの人物のバイオリンを昔偶々聞いてな、聴きに来たんだ」
「そうだったんだ。僕は上条恭介、よろしく」

渉の自己紹介に、恭介は何ら疑問も持たずに手を差し伸べた。

「今日のお前の演奏は非常に素晴らしいものだった」
「ありがとう。そう言って貰えるとうれしいよ」

握手を交わしながら渉は感想を述べる。

「だが、満足はするな。まだまだ上がある。それを目指して世界一のバイオリストになれ」
「ありがとう。肝に銘じておくよ」

渉の言葉に、恭介は素直に聞き入れた。

「あ、そ、そうだ! みんなで記念撮影しようよ! 恭介の優勝祝いにさ」
「お、それはいいアイデアだな」
「私も賛成ですわ」

さやかの提案に全員が賛同すると、何処からともなく彼女はデジタルカメラを取り出し、それを近くに立っていた銅像の一か所に設置する。

「それじゃ、みんな固まって」
「お、おい! 押すなって!」

半ば強引に押される渉は左側が恭介、右側にまどかと言う位置についた。

「それじゃ、行くわよー」

さやかはそう言うとセルフモード状態でシャッターを押して自分も位置についた。
ゆっくりと写真が取られるまでのカウントダウンが始まり、いよいよあと3秒と言う段階まで来た。

「はい、チーズ!」

それを見計らい、さやかが合図を送った。
各々がポーズを決めている。

「………ッ!!」

ただある人物だけはシャッターが切られる寸前に思いがけない行動をとった。
そしてカメラはそれを記録した。










「こんなところまで、見送らなくていいのに」
「良いでしょ。私たちを救った英雄だよ? これくらいさせてよ」

渉のため息交じりの言葉に、さやかがそう答えた。

「さて、もう時間だ」

そう言う渉の地面には複雑な模様が描かれていた。
そしてそれは光を発している。

「ありがとね、渉」
「もうお礼は良いって」

お礼を言うほむらに、渉は苦笑い交じりに答えた。

「あ、あの写真現像したらお墓の所に持っていくね」
「出来ればあそこに埋めて置いてくれ」

渉は初めて顔を赤くしながらそう頼んだ。
渉にとってその写真は鬼門であった。

「それじゃ、さようならだ」

渉の言葉と同時に地面に描かれた模様は輝きを増していき、渉を包み込む。

『さようなら。ありがとう!』

全員がそう言って渉を送り出した。
そして、光が消えた時、そこには誰の姿もなかった。















天界には時間と言う概念は存在しない。
なので、期限や日数は個体個体で変わってしまうのだ。

「渉、そろそろ時間じゃ」
「そうか。早かったな」

一人の紳士そうな男が渉に声をかけた。

「そう言うな。これでも最大限引き伸ばしたつもりじゃ」
「分かっている。あんたには感謝しているさ。あいつらに別れをいう事も出来た。もうこれで悔いはないさ」

渉の表情は非常に清々しかった。

「あ、そうだ。俺の後継者が現れたら、時期を見計らってこいつを渡してやってほしい」
「………確かに引き受けた」

渉が渡した紅い剣を創造の神、ノヴァは大切そうに受け取った。

「全く、俺は幸せ者だ」
「その写真は何じゃ?」

覗きこもうとするノヴァだが、それは渉が写真を隠したことで叶わなかった。

「この写真は永久封印物さ」

そう言いながら渉は写真を見る。
そこには恭介の腕に自分の腕をからめる仁美、そしてその後ろでは写真が苦手なのか視線をそらすほむらと杏子。
二人の左側にいるさやかとマミは万弁の笑みを浮かべていて、その前にいるまどかは渉の頬に唇を付けていた。
その写真を紅い剣に入れた。
それと同時に渉の表情が引き締まる。

「さあ、逝こうか」

そして渉は歩き出した。










世界は何時でも回る。
それが例えどのような物でも時間は経っていく。
渉の人格が抹消されてから数百年後。










「答えよ」

創造の神、ノヴァが一人の青年に呼びかける。

「世界の意思よ、答えよ」
「何の用だ? 神」

二回目の呼びかけに、青年は答えた。

「実はお主の管轄する世界で、理不尽な要素が発見されたのじゃ」
「何だと!?」

ノヴァの言葉に、青年は驚きをあらわにする。

「だったら、今からこっちで修正を――――」
「それが無理のようなのじゃ。この要素は完全な形として固定されている。我々とて手を出すことはできないのじゃ」

青年の言葉を遮るようにして、ノヴァが否定した。

「俺にどうしろと?」
「そう急かす出ない。お主にやって貰いたいのは、その世界に降り立ち不安定な状態を、修復して貰いたいのじゃ」

青年の問いかけに、ノヴァは答えた。

「了解だ。俺が降り立つ場所の情報と、俺の正式な名前を」
「ああ、お主が降り立つ場所は海鳴市内の公園だ。名前やそのほかの詳しい事は、降り立ってから伝えるとしようかの」

青年にノヴァはその地名を告げた。

「分かった、それでは、世界の意思。行ってまいります!」

そして青年、世界の意志は姿を消した。

「………あ奴を見守っておくれよ、渉よ。そして頑張るのじゃぞ、小野渉の後継者、鈴木隆介よ」

そのノヴァの言葉を聞いたものは、誰もいない。
今ここに、新たなる世界の意志による新たな物語が幕を開けようとしていた。


Fin.

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第20.5話 「どうしてこんなことになるんだ?」

ワルプルギスの夜が来るまであと数日。
早速だが、だれか俺の疑問に答えてくれ。

「どうしてこんなことになるんだ?」

一人でとぼとぼと道を歩く俺の手にはスーパーのレジ袋があった。
中身は食料品(お菓子)だ。
ちなみに反対の手にある紙袋の中身は、二人の少女の着替えやら服だったりする。
これを頼んだのは、二人の”元”魔法少女だ。

「ホントにやってくれるな、あの二人は」

まさか俺をパシリにするとは……
俺は、二人をどういびろうかと考えながら拠点地へと戻る俺であった。










「だから、それがおかしいんだって!」
「いいや、あんたの方がおかしい!」

拠点地に戻った俺を出迎えたのは、さやかと杏子の口論だった。

「あ、おかえりなさい」
「ああ、ただいま……でこの状況はなんだ?」

俺は奥から出てきたマミさんに、今の状況説明を頼むことにした。

「何だかわからないけどお菓子のことで言い合ってるみたい」
「はあ?」

俺は久々に首を傾げた。
と言うより何だよお菓子についてってどういう事だよ?

「「渉!」」
「な、何だよ」

首を傾げていると、二人が俺の真ん前に仁王立ちして大きな声で呼んできた。
俺はそれに若干たじろぎながら尋ねた。

「渉は洋菓子が好きだよね!」
「違うよな、和菓子だよな!」

二人して問いかけてくる言葉で、俺はようやく趣旨が分かった。
要するに二人は和菓子と洋菓子の、どっちがいいかで言い争っていたのだ。

「くだらん」

俺は二人の質問をそう一刀両断した。
と言うより本当にくだらない。

「そんな低レベルな事で言い争う暇があったら少しは鍛錬でもしろ。ワルプルギスの夜までもうそう日はないんだぞ」
「そんなことは分かってるよ」

俺の言葉に、さやかは反論する。

「あ、それとこれ頼まれてたものだ。言っておくが俺は便利屋じゃないからな?」
「あ、ありがとう」
「悪いね」

俺はレジ袋を杏子に、紙袋をさやかに渡した。

「でも、これ全部どうやって持ってきたんだよ」
「今日このについては店員を洗脳して払ったように思わせて、さやかのについては家にいる人全員を眠らせて侵入……と言った所かな」

杏子の問いかけに答えると二人の表情がこわばった。

「ん?どうした?」
「それって犯罪じゃない!!」

さやかが叫んだ。
言いたいことはよく分かる。

「まあ、少しばかりの横暴は許してほしいかな。一応許容範囲内でやってるんだから」

俺はそう言うと、奥の方に向かって行った。

「ワルプルギスの夜。必ず終わらせて見せる」

俺は窓から差し込む月の光を眺めながら決意を固めた。
俺の後ろに二人がいるがそんなことは関係ない。
どちらにせよ、すべてはあと数日で終わる。

「それまでは持ってくれよ?」

こうしてまた一日が過ぎて行った。

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13.5話 「自惚れるなよ?」

「やあ、来たぞ恭介」
「ああ、君か渉」

俺は上条邸へと足を運んでいた。
全ては彼のバイオリンを聞くためだ。

「これは退院祝いだ。受け取れ」
「ありがと」

中身はクラシックCDと譜面だったりするが、それはどうでもいいだろう。

「さて、早速で悪いがお前のバイオリンを一度聞いてみたい。弾いてくれるか?」
「もちろんだよ。逆に君に聞いて貰いたかった位さ」

俺の頼みごとに、恭介は嫌な顔一つせずに答えると、戸棚に置かれているケースを開けてバイオリンを取り出した。
そしてそれを構えた。

「それでは……」

そして恭介はバイオリンを弾き始めた。
俺はその音色に耳を傾ける。
曲名は知らない。
そして彼はバイオリンを弾き終えた。

「どうだった……かな?」
「話にならん」

俺は恭介に包み隠さずに感想を言った。

「お前のは演奏する音色に中身がない」
「中身?」

恭介は分からないのか素で聞き返してきた。

「つまりは心がこもってなくて技術だけだと言う事だ。心を込めて弾くんだ。お前にとって人の不幸や喜び、悲しみ怒りはすべて餌だ。精進すると良い」
「なるほど………ありがとね、渉」

俺の指摘に恭介は考え込むと、俺にお礼を言ってきた。

「別に礼を言われることはないさ。俺のやったことは余計な事だからな。まあ、参考にして貰えるのは有難いが」
「……今でも信じられないんだ」

恭介はバイオリンを見つめながら呟いた。

「何がだ?」
「動かないはずの腕が突然動くようになったんだよ。医者も奇跡だって言っていた。ねえ、もしかして誰かが僕の腕が動く様に奇跡を起こしたのかな?」

恭介は俺に聞いてくる。

「そうだとしたらどうなる?」
「誰がそれを起こしたのかを教えてほしいんだ」
「それを知って何をする気だ? お礼でもするのか?」

恭介の頼みごとに、俺はそう告げた。

「それはもちろんだよ。だってまたバイオリンを弾けるようになったんだから。お礼だって言うよ」
「なるほど。ならば、仮にその人がお前の事を心の底から好きだと思っていたとしよう。お前はそいつと付き合って結婚でもすると言うのか?」
「そ、それは……」

俺の鋭い指摘に恭介は答えるのをためらった。

「………自惚れるなよ? 人一人の人生を狂わせる代償を払って起きたお前の奇跡ならば、お前は己が人生をかけてそいつと付き合わなければ公平じゃないだろ」
「だったら、僕は何をすればいいんだ!」

恭介が半場喚くように俺に問いただしてきた。

「何もしなくていい。お前には唯一の取り柄であるバイオリンを弾くだけだ」
「そんなんでいいの?」
「言いに決まってる。そのバイオリンの音色で、お礼をすればいい」

不安げに聞いてきた恭介に、俺はそう伝えた。

「………ありがとう。もう一つだけいい?」
「ホントに質問するのが好きだよな…なんだ?」

俺は苦笑いを浮かべながら尋ねた。

「僕の腕を動かせる奇跡を起こしたのって、まさかさや――――」
「さあな、俺は知らないし、仮に知っていたとしても答えないぞ。名前をいう事は、そいつにとっては最大の侮辱だろうからな」

俺は恭介の推測を遮ってそうつ得ると、立ち上がって出口であるドアの前に向かった。。

「帰るのかい?」
「ああ、長居するのも悪いしな」

訪ねてくる恭介に俺はそう答えた。

「何も出来なくてごめんね」
「何、気にするな」

俺は恭介にそう答えるとそのままドアを出て玄関へと向かう。

「お前のバイオリンだが、さっき言ったのを直せば世界一のバイオリストになれるぞ」
「ありがとう」
「まあ、コンサートの約束はちゃんと守ってあげるからその時までに頑張るんだな」

俺は最後にそう告げて上条邸を後にした。

(ホントに鋭いやつだこと)

俺は内心で苦笑いを浮かべながらそう思っていた。
空は、ゆっくりと夜の闇が広がり始めていた。

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