あれから数日、俺とパネトーネさんとダルキアンさんとでの紋章術の練習は続いていた。
「では、渉殿」
「はい………閃!」
ブリオッシュさんに促され、俺は神剣を振る。
次の瞬間、轟音と共に光に包まれる。
そして、それが薄れ周辺の状況が見えてきた。
「やっと地形が変わらなくなってきたでございますな。さすがは渉殿でござるよ」
「………それはどうも」
完全に嫌味だろと思いながら、お礼をいう事にした。
特訓をするごとに、周辺の地形を大きく変えてしまったため、パネトーネさんの言葉に反論できない。
だが今回は、周辺の地面は多少抉れているが、それほどひどくはない。
「うむ。これも進歩でござるよ」
「ありがとうございます。師匠」
特訓の間だけ、俺はダルキアンさんの事を師匠と呼んでいた。
何故かはわからないが、彼女にはそれほどの威厳のようなものがあるのだ。
それを知ったパネトーネさんも、何故か教えると言い張ったのは、また別の話だ。
その為、僕は彼女たちに教えてもらった紋章術は、少しずつマスターできていた。
「それでは、行くでござる」
「はい! お館さま」
ダルキアンさんの声に、俺達は彼女の後をついて行くのであった。
旅を始めて早7回目の朝を迎えた。
目的地であるビスコッティ共和国までは、まだかなり遠いらしい。
そして、彼女たちの旅の目的。
なぜ彼女たちは旅をするのか。
それが分からなかったが、ようやくそのことが分かる時が訪れた。
「「「ッ!?」」」
”それ”を感じたのは、俺達全員だった。
体中を続々と震え上がらせる負の気配。
それが俺の感じたものだった。
「お館さま」
「うむ………渉殿どうやら魔物の類がこの周辺にいるようでござる」
「なるほど………やっぱりこの気配はそうか」
ダルキアンさんの言葉から、やはり魔物だったようで、俺はそう呟いた。
「渉殿のは、この魔物の気配が分かるのでござるか!?」
「……? 何かおかしいか?」
俺の言葉に慌てた用に聞いてくるパネトーネさんに、俺は首を傾げて聞き返す。
「い、いや。おかしくないでござるよ」
「渉殿、力を貸してくれるでござるか?」
ダルキアンさんが、いつになく真剣な様子で俺に聞いてくる。
だが、俺の答えなど既に決まっていた。
「当然だ。色んな恩が二人にはあるからな。この小野 渉、微力ではあるが、助太刀する」
「うむ、感謝するでござる。では、ユキカゼ、渉殿行くでござるよ!」
そして、俺達は魔物がいるであろう方向に向けて駆けだした。
「これは驚いたでござる」
「ああ、まさか広範囲に散布して生息しているとは」
崖の上から、魔物がいるであろう下の方を見ると、そこには四方八方に魔物がうろついている様子を感じた。
下は森林部、その姿を見ることはできないが、いることは間違いない。
「手分けした方がいいでござるな」
「だったら、こっから半分は俺一人でやる。残りの半分は二人で」
ダルキアンさんの呟きに、俺は神剣を使って位置を示した。
「そ、そんな!?」
「渉殿一人では危険すぎる! ユキカゼと二人で――「馬鹿にしないでください。あんな小物程度に敗れるほど、俺は弱くはありません。それは二人がよく知っていると思いますが」――……分かったでござるよ」
「お館さま!?」
俺の言葉を聞いたダルキアンさんが、俺の提案を認めるとパネトーネさんが驚いた様子でダルさんの名を呼ぶ。
「そのかわり、絶対に生きて合流するでござるよ?」
「分かってるさ。それじゃ、行ってくる」
ダルキアンさんの言葉にそう答え、俺は森林部に飛び降りようとする。
「渉殿!」
「何、ダルキアンさん?」
俺を呼びとめたダルキアンさんの方を見ると、何故か視線を泳がせていた。
「その……気を付けて」
「どうも」
頬を染めながらのその一言に、俺は首を傾げながらも、崖を飛び下りたのであった。
とうとう、俺の最初の戦いが幕を開けようとしていた。
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