「ん……」
俺が目を覚ますと、そこは全く知らない森の中だった。
近くには焚火があった事から、俺以外にも人がいた事は確かだろう。
「取りあえず、ここから離れるか」
どうしてここにいるのかはさっぱりわからないが、偶然ここにいたのかもしれなければ、何者かが俺を連れ去ったと考えられる。
そして俺は、その場を離れるのであった。
左右には雑草のようなものが生えている、森の道をしばらく歩いた時だった。
「ッ!?」
何者かの鋭い視線を感じた。
これは、殺気!!
それを理解した瞬間、草を踏みしめる音がしたため、俺はその場を飛びのいた。
そして180度回って後ろの方を見た。
そこにいたのは……
「グオオオオオオ」
雄たけびを上げる、月明かりに照らされた黒っぽい怪物だった。
目が赤く輝いているのが、恐ろしさに醸し出していた。
しかも、数は軽く10を超えていた。
「この怪物……忌わしい気があるな」
怪物から感じ取った邪気に、俺は即座に気付いた。
(どう見ても敵対行動だし、邪気を放っているのであれば浄化をすることが出来るな)
ノヴァから、敵対行動と邪気を放っていない場合の、必殺級の魔法行使は禁止されているのだ。
「それでは始めますか。吉宗、正宗!」
俺は、自分の持つ武器を呼び出す。
相手の攻撃を防ぐ楯の役割の”吉宗”、相手に攻撃を仕掛ける矛の役割の”正宗”の二本ので一本という不思議な剣だ。
「グオオ!!」
その剣を見た瞬間、怪物が一斉に飛び掛かってくる。
俺はそれを横に移動して回避する。
「我と共に奏でよう。レクリエム!!」
そして一気に怪物達に向けて、白く光り輝く剣を振り下ろす。
その瞬間、俺の視界は”白”一色に包まれた。
聞こえるのは、怪物たちの断末魔だった。
やがて光が晴れると、そこに怪物たちの姿がなかった。
「ふぅ……どうやら、終わったようだな」
それを確認した俺は一息つきながら呟いた。
剣はしばらく出しておこう。
そして、もう一度歩き出そうとした時だった。
「そこにいる方~!!」
「待ってほしいでござる!!」
俺の背後から掛けられた声に、俺は振り返った。
そこには、片手を振って向かってきている金髪の少女に、紫色の髪をした女性がいた。
いや、それは問題ではない。
一番の問題は……
(あれって……耳だよな?)
二人の頭には動物の耳のようなものがついていたのだ。
最近はやりのコスプレか?
「はぁ……はぁ」
「ようやく、見つけたでござる」
俺の前にたどり着いた二人は軽く息をきらせていた。
そんな時、俺は気付いた。
二人の背後に俺が相手にした怪物が忍び寄っていることに。
「ッ!! 二人とも、伏せろ!!」
「「っ!?」」
俺の叫び声に驚きつつも、二人は頭を伏せた。
「グオオオオオ!!!」
その次の瞬間、まるで親の仇のように俺に飛びかかってきた。
(今の状況で縦振りのレクリエムは出来ない。ならば)
俺は即座に判断をすると、吉宗と正宗を重ね合わせる。
神剣は、一瞬光を発すると、その姿を弓矢に変える。
「貫け、光矢!」
怪物に照準を合わせ、さらに霊力を込め俺は白銀の光が纏った矢を射た。
「グオオオオオオオ!!??」
まるで断末魔のごとく、貫かれた怪物は消滅した。
「ふん、さっきので浄化されてれば苦しまなかったものを」
「お見事でござる」
静かに呟く俺に賭けられた声は、称賛のものだった。
「二人ともお怪我は?」
「拙者はないでござる」
「私もでござるよ」
紫色の犬耳が生えた女性に続いて、金色のキツネ耳が生えている少女が答えに、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「それはよかった。美人な女性に怪我でもさせたら、大変だからな」
そう言ったのは、ノヴァから”美人な女子に怪我をさせたらそのものは死刑物じゃ”と言われていたからだ。
「「び、美人///」」
しかし、二人はなぜか頬を赤らめていた。
「ところで……だ」
「な、何でござるか?」
未だに頬が赤い女性は俺の言葉に、聞いてきた。
「俺は、小野 渉。あなた達は?」
「あ……」
二人とも、自己紹介がまだだった事に気付いたのか、はっとした様子で顔を見合わせていた。
「これは失礼した。拙者はブリオッシュ・ダルキアンと申す」
「私は、ユキカゼ・パネトーネと申します」
これが、今後俺の人生に大きな変化をもたらす人物たちとの出会いだった。
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