翌日、俺はお城内の庭を歩いていた。
何でも、フロニャルドとビスコッティを救った勇者シンクに、感謝をするお食事会が行われるらしい。
だからこそ、俺は逃げてきたのだ。
俺は危機をもたらした人物だし、やはりああいうのは苦手だ。
(どうしようか)
そして考えるのは、今後のこと。
ここに永住することはすでに決めた。
ただ、それからどうするかが分からないのだ。
(俺は手先が器用ってほどでもないし、戦いしか知らないから、やるとしても兵士ぐらい)
だとしたら騎士団に入れば、エクレと一緒にいられるだろうからいいのだが、俺は人から物を教わったり、5,6人での集団行動は出来ないのだ。
元々、俺はそういうふうに生きていたせいで、三人以上で息を合わせることは難しく、仲間に迷惑をかけることにもなる。
だとすれば、どうすればいいのかと悩んでいたことを、ユキカゼに相談して帰ってきたのが
『でしたら、拙者たちの部隊に入ると言いでござるよ!』
『ユキカゼ達の部隊は確か……隠密部隊だったけ?』
『そうでござる。渉さんにはぴったりでござるよ』
確かに何となくだが、そこの方がいいような気もする。
ただ、それを選べば俺はエクレと離れ離れrになる可能性が高い。
何せ、ユキカゼ達は、魔物封じのために旅に出たりしているのだから。
もし、旅に出るのであれば、俺もついて行かなければならない。
と言うより、実際に誘われていたりする。
果たして、エクレがそれを許してくれるのか。
それが、俺に答えを出させるのを渋らせている要因だった。
「ここにいたか、渉」
「ん? エクレか。どうした?」
声をかけてきたエクレに、俺はそう尋ねた。
そのエクレは、明らかに怒っているような感じがした。
「どうしたではない! 食事会に来るように言ったのになぜまたサボっている!!」
「だから、どうも俺はああいうのが苦手なんだよ。(昔を思い出しちまうからな)」
俺はエクレに、答えながら心の中でつぶやいた。
どうも、ああいう公式の場に出ると、偽善のヒーローの時代を思い出して、気分が悪くなるのだ。
「ええい! 渉がいないと、会が進まないんだ! 泣いてでも連れて行く!!」
「は? それはどういう――――って、引っ張るな!」
俺の問いかけに答えることなく、エクレは強引に俺の腕を取ると、ずんずんと引っ張って行く。
そして、やがてお城内に入り、大きな広間にたどり着いた。
「姫様、渉を連れてきまし、た!!」
「のわぁ!?」
エクレに思いっきり押し出されるように、俺は前に飛ばされた。
そして、浴びせられるのはメイドさん達やジェノワーズ達、そしてシンクやリコッタたちの視線だった。
浴びせられる方としては、何とも居心地が悪かったりする。
「えっと、それでは……」
そう言って話し出したのは、台の上に立つ、姫君だった。
「今回、勇者シンクと一緒にこの国の危機を救ってくれた渉さんが隠密部隊で一緒に頑張ってくれることになりました」
「え゛ッ!?」
俺は、一瞬固まった。
今なんといった?
俺が隠密部隊にで一緒に頑張る?
(な、何で姫君がそのことを? と言うより、俺まだ答えも出してないぞ!?)
俺はそう疑問に思うが、すぐにその理由は分かった。
そう、ものすごい笑顔で俺に手を振るユキカゼを見て。
(あんの野郎……やりやがったなぁ!!)
「つきましては、もう一人の主賓である渉さんにも、一言頂こうと思います。渉さんどうぞ」
「はッ!?」
ものすごい拍手が俺に送られる。
逃げようと後ろを振り向くと、いつの間にか回り込んでいたのか、エクレとユキカゼが立っていた。
「「そうれ!!」」
「うわっ!!?」
二人に押され数歩前に出た俺に、逃げ道はなかった。
(俺、一番苦手なのがスピーチだったな)
現実逃避ともとれる考えをしながら、俺は眼鏡をかけた女性の人からマイクを受け取ると、壇上に上がった。
「えっと……ご紹介に授かりました、小野渉です」
まずは無難に自己紹介から始めた。
「自分は、あまりこういう場でのスピーチは得意ではないので、つまらないかもしれないですが、ご辛抱ください」
俺は、一言一句間違えないように、不慣れな敬語で話す。
それを聞いていたシンク達は、静かに笑っていた。
「姫君の先ほどの紹介に間違いがあるので、訂正します。この国の危機を救ったのは、あくまでも勇者シンクです。自分は、逆にこの国をさらに危機に陥れると言う逆効果をもたらしました」
俺の言葉に、周りがざわついた。
勿論、ここにいるほとんどの人が、俺の起こしたことを知っている。
それを踏まえて言っているのだ。
「他にも、メイドの人達には、セルクルに乗るのらないで言い争ったり、食堂のおばさん達には手伝いをしようとして逆にボヤ騒ぎを起こしそうになったり……重ね重ね、すみません」
自分で思い出しただけで、とてつもない罪悪感に苛まれ、俺は思わず頭を下げて謝った。
そんな俺に、誰かが”いえいえ”と答えると、周りは笑い声で包まれた。
「ですが、その迷惑をかけた分、ここのみなさんに少しでもお返しが出来ればなと思います。みなさん……特に隠密部隊の人には迷惑を掛けますが、よろしくお願いします」
俺はそう言うと、もう一度お辞儀をした。
そして、再び広間は、拍手が響き渡った。
それがとても居心地がよく、楽しかった。
その後食事会となったが、その頃にはすっかり公式の場と言うものに対する苦手意識はなくなっていた。
こうして、お食事会は無事幕を閉じることができたのであった。
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