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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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最終話 旅の始まり

シンクが元の世界に戻ってから一月ほど経ったある日。

「なぜに俺はここの掃除をしてるんだ?」
「よいではないか。これも大事な仕事でござるよ」

俺は縁側に腰掛けて、静かにお茶を飲んでいるダルキアン卿に不満を漏らした。
今、俺は風月庵の庭の掃除をやっていた。
なぜだかこれが毎日の日課となっていた。

「しかし、やはり渉殿は腕がいい、すでに板についているでござるよ」
「お世辞は結構です。と言うよりそれをユキカゼの前で言わないでください」

俺は、ダルキアン卿の称賛する声に、そう返した。
ユキカゼは、なぜか対抗心を燃やして勝負を仕掛けてくるのだ。
しかもそれは俺が負けるまで続けられる、サバイバル勝負とかす。
ユキカゼ曰く、『渉殿は腕がいい凸ござるから拙者も張り合いがあるのでござる』とのこと。
意味が分からない。
そんなこんなで、庭掃除も終わり昼食をとることとなった。

「旅に……ですか?」

おにぎりに舌鼓を打っている時に、ダルキアン卿からそんな話がされた。

「うむ。どうやら遠いところで魔物が出没しているようでな」
「拙者達は魔物退治に行こうか思っているのでござるよ」

ダルキアン卿とユキカゼは、魔物を封じる為に旅をしていた。
それゆえに、俺も旅をするのかと思ったのだが

「いや、旅ではないでござるよ。今回は出没する国に向かった後に封じてすぐに帰るだけでござるから、60日ほどで戻ってこられるでござる」

ユキカゼの説明から、俺の考えは間違っていたことが分かった。

「それで、渉殿も一緒に行くかどうかを、決めて貰おうと思ったでござる」
「拙者たちは来てもらった方がありがたいでござるが、エクレの事もあるから……」
「あー」

ユキカゼの心配そうな表情から、何を言いたいかが伝わった。
つまり、恋人であるエクレを残して旅に出ても良いのかということだ。

「後で、エクレに聞いてみます」
「うむ、そうすると良いでござるよ」

俺の答えに、ダルキアン卿はそう返すとお茶を一口すすっていた。

(まあ、彼女が何て言うかは大体の予想は出来るけど)

俺はそんな事を思いながら、おにぎりを頬張るのであった。










昼食を食べ終えた俺は、フィリアンノ城に来ていた。

「エクレ!」

中に入ってしばらく歩くと、運よく探していたエクレと会うことが出来た。

「む、何をしに来た」
「開口一番にそれはないだろ」

俺は、いつも通りのエクレに苦笑いを浮かべる。

「実はエクレに話したいことが――「旅の事か?」――何でそのことを?」

俺は、まだ話してもいない事を知っていた事に驚き理由を聞いた。

「姫様から聞いた」
「あー、なるほどな」

考えてもみればそうだよな。
普通は旅に出ることは、姫君とかに言うよな。

「知っているのなら話は早い。俺は隠密部隊の一員として行くべきだろうか?」
「何を当り前な事を言ってるんだ? 行くべきに決まってるだろう!」

俺の問いかけに、エクレは怒った様子で、声を上げた。

「それはそうなんだが、お前がな……」
「……? 私がどうかした」

俺がどう言おうかと考えていると、エクレは怪訝そうな表情を浮かべながら聞いてきた。

「ユキカゼ曰く、お前が寂しがるのではないかと心配しててな」
「なッ!? だ、誰が寂しがるものか! わ、私は別に渉がいなくても寂しいなど……」

エクレは途中まで言いかけると、言葉が詰まったのか何も言わなくなった。

「難儀な性格をしているよな、お前は」
「わ、悪いか?」
「いや、悪くはない。素直に”行かないで”と言ってくれれば、俺はここに留まるつもりだったけど」

俺は、そう言いながらエクレの頭に手を置いた。

「安心しろ、60日ほどで俺は必ず戻ってくる。その後にお土産話の一つでも聞かせてあげる」
「………わ、私のことなど心配しなくてもいい」

俺はエクレの完全に強がりと思える言葉を聞きながら、静かに頭を撫でた。
エクレが本当は行って欲しくないということぐらい、俺には分かっていた。
だが、それでもなお、行けと言うのであれば、俺はその意思を尊重したいと思う。
それが俺に出来る唯一の事なのだから。
そして、旅立ちの日を迎えた。










「忘れ物はないか?」
「ああ、これと言ってない」

出発当日、俺は見送りの為に、フィリアンノ城の正門まで付いて来ていたエクレの問いかけに、いつものように答えた。

「落ち着いた場所に着いたら手紙を飛ばすからな」
「ああ、楽しみにしてる」

俺の言葉に、エクレは爽やかな表情で答えた。
これが、俺が考え付いた策だった。
式神を利用して手紙をエクレに届け、そのまま式神によってエクレからのお返事をもらうと言う仕組みだ。
実際問題、式神はそんなに霊力を消費しないため、実にやりやすい物でもあったのだ。
まあ、言ってしまえば、これがエクレの爽やかな表情にさせている理由でもあるが。

「それじゃ、行ってくる」
「ああ、気を付けてな」

俺は見送りに来てくれたエクレに手を振りながらしばらく歩くと、フィリアンノ城に背を向けて歩き出した。
向かうは待ち合わせ場所の風月庵だ。










「お、出発のあいさつは済んだのでござるか?」
「ああ、悪いな。わざわざ待ってもらって」

俺は、エクレとあいさつをするために出発を待ってくれた二人に、お礼を言った。
二人はそろって”気にするな”と答えた。

「では、行くでござる」
「「おー!」」

ダルキアン卿の言葉に、俺とユキカゼは片手を上げると、そのまま風月庵を後にした。
こうして、俺達は魔物封じの旅に出るのであった。

(出来れば、シンク達が来るまでには間に合わせたいな)

そんな事を思いながら





Fin.

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