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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第43話 帰る日

シンクSide

とうとう、僕が元の世界に帰る日が来た。
不安はないと言えば嘘になるけど、でも必ず僕はここに来る。
それが、僕の誓いだった。

「む……渉はまたか」
「うん、そうみたい」

隣を歩いていたエクレが、いつものように不機嫌な表情を浮かべてため息をついていた。
僕は昨日の夜の事を思い出していた。










『式典に出ない!?』
『ああ、出ない』

夜、廊下で偶々鉢合わせになった渉から、エクレに伝えてほしいとのことで、言われたのが、それだった。

『今朝のあれで、慣れたんじゃなかったの?』
『それでも苦手な物は苦手なのさ。特にお別れ間際の公式な場とかは……な』

悲しげな渉の表情を見て、僕は何も言うことが出来なくなった。
一体何があったのかは、僕に走ることはできないけど、きっとつらい思い出があるのだろう。

『と言うことで、明日は参加しないから、探さないようにあいつに言っておいてくれ。今日のように強引に連れられるのはごめんだからな』
『あはは………』

渉のため息交じりの言葉に、僕は苦笑いを浮かべるしかできなかった。
そして、渉はそのまま僕の前から去って行った。
翌日、渉の部屋に確認しに行くと、すでに誰もいなかった。

(まあ、渉らしくていいや)

僕は、そう思いながら、式典の場所に向かうのであった。

Side out





祭殿がある場所に俺は来ていた。

「もう式典の方は終わったかな?」

俺の呟きに応える者はいない。
なぜなら、ここには誰もいないからだ。

「まだ慣れないもんだ」

口に出すとかなり情けなく思えてしまう。
慣れたとはいえ、ああいう雰囲気の者にはまだ慣れてないのだ。
お別れのときの送別会が良い例だ。

「こんなところにいたんだ」
「………一体何の用だ? シンク」

一人で祭殿を見ている俺に声をかけたのは、シンクだった。
俺は振り返らずに声をかける。

「いや、渉に渡したいものがあってさ」
「渡したいもの?」

シンクの要件に、俺は振り返って尋ねる。

「うん。これをね」
「何だ? これ」

シンクに手渡されたのは、何かのコインのようなものだった。

「記念コインだよ」
「それは分かってる。どういう意図で渡していると聞いているんだ」

俺の問い詰める物言いに、シンクは何も言わなかった。

「俺は元々戦乱期に生きていた人間だ。そう言う人はこれから命をかけた戦いをするための形見分けだと言うことがすぐに分かるんだ」
「そうなんだ」
「別に、これをもらって嫌だと言うことはない。だが、さっきの理由で複雑な心境だ」

俺は、誤解を招きそうなので、軽くフォローをした。

「………こんなことをしている暇があるんなら、とっとと元の世界に帰れ」
「………うん」

そして、俺はシンクに冷たく言った。
これ以上話していると、自分の中の何かがさらけ出されそうな気がしたからだ。
俺が随分昔に封じたつらい過去への何かを。

「またね」
「…………シンク!!」

いてもたってもいられなかった俺は、シンクを呼び止めてしまった。
自分で追い払ってこの扱いは何だと思うが。

「このコインほどではないが、こいつを受け取れ!」
「っと!?」

俺は、シンクに向けてあるものを投げた。
それは、銀色の背景に、金で剣が描かれたエンブレムだった。

「それは、俺が世界の意志であることを示すエンブレムだ。今の俺には不要だ。元の世界に戻って捨てるなり、とっとくなりしておけ」
「ありがとう!!」

シンクのお礼に、俺は背を向けて、片手を振って答える。
そして、今度こそシンクは去って行った。

(俺らしくねえな)

あのまま、シンクを元の世界に返してはいけないと、感じた為の行動だった。

「これで、昔の過ちは拭えたのだろうか? レオン」

俺は静かに、昔の盟友の名を呟いた。
それは、俺に出来た最初の盟友であり、最初に殺した友人の名だった。

「ん? このエネルギーは………」

そんな時、エネルギーの流れを感じた俺は、その方向を見る
そこには、天高くに輝くピンク色の光があった。

「シンクの今後に、希望の光があらんことを」

そして俺は、静かにそう願うのであった。
こうして、勇者シンクは、元の世界へと帰って行った。

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