あの後、俺が目覚めた場所に移動して、パネトーネさんと、ダルキアンさんの二人に話を聞いた。
それによると、俺が戦っていた怪物は、魔物と言うらしい。
そして、彼女たちはその魔物を狩る狩人のようなものらしい。
「あなた方の事はよく分かりました。俺は、どうしてここに?」
「それでじゃな、たまたまここに戻っていたら、渉殿が倒れていたのでござる」
「あの辺りは魔物の類が出やすい土地……だから、私たちがここまで運んで守っていたでござるよ」
俺の問いかけに、パネトーネさんとダルキアンさんの二人が答えた。
どうやら、あの後気を失った俺が辿り着いたのが、あそこだったようだ。
それにしても、よく魔物が出てこなかったよな。
眠っている間に襲われて強制帰還だ、なんてことになったら世界の意志として恥ずかしい。
「そうか……二人ともありがとう」
なので、俺は二人にお礼を言った。
”ありがとう”その5文字の言葉は、生前に何度も使っていた。
だが、この時ほど心がこもっていたのは初めてだろう。
「気にしなくていいでござるよ」
「して、渉殿の方も事情を聴かせて貰いたい」
俺のお礼に応えるパネトーネさんに続いて、ダルキアンさんが話を切りだした。
「分かりました」
そして、俺は困らない程度で事情を説明した。
色々な世界を旅する者で、その移動中に変な陣に飲み込まれて気づいたらここにいた。
これが、俺の二人にした説明だった。
「そうであったか」
「おそらくは、渉殿の話が間違いでなければそれは、勇者召喚用の紋章のようじゃな」
「勇者召喚?」
聞きなれない単語に、俺は思わず聞き返してしまった。
「ああ、そうだったでござるな。勇者召喚と言うのは、所謂助っ人のようなものの事でござる。それを呼ぶためのもの儀式が勇者召喚でござるよ」
そんな俺に、パネトーネさんが説明してくれた。
何の助っ人なのかはよく分からないが、まあ今はそれで納得しておくのが良いだろう。
「その紋章じゃが、どのようなものであったか覚えてはおらぬでござるか?」
「えっと………ちょっと待ってください」
ダルキアンさんの問いかけに、俺は近くにあった焚火に使っていた木の枝を取ると、それを浸かって地面にあの時に見た紋章を描く。
「これでどうです?」
「見事じゃ」
「まるで本物そっくりでござるよ!」
出来上がった絵を見た二人が、口々に賞賛する。
そして、真剣な面持ちで紋章を見た。
「ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティ」
「注意、これは勇者召喚です。召喚されると帰れません」
どうやら紋章に書かれている文字なのだろうか、二人が読み始めた。
「拒否する場合はこの紋章を踏まないで下さい」
意味のほうはさっぱりわからないが、帰れない事だけは分かった。
「すまぬが、この紋章はビスコッティのものと見て間違いがないでござる」
「ビスコッティには知り合いが何人もいるでござるから、任せてほしいでござるよ」
二人の説明はよく分からないが、どうやらその”ビスコッティ”という国のせいらしい。
「この世界を出るには、ビスコッティに行くのが先決でござる。拙者らもそこに向かってる故、もしよければ一緒に行かぬか?」
「駄目でござるか?」
ダルキアンさんの申し出は非常にありがたい。
こんな右も左も分からない世界で、一人になったら永遠に迷子になる。
だがしかし、パネトーネさんや、そんな捨て犬(捨て狐?)のような目で俺の事を見ないでくれ。
「お願いします」
「うむ、こちらこそでござる」
「あー! お館さま! 拙者も渉殿と握手をするでござる!」
俺とダルキアンさんさんが握手をしているのを見たパネトーネさんが、ジャンプしながら抗議していた。
何だろう……今パネトーネさんの精神年齢が、5,6歳ぐらい下がったように見えたのは。
その後、俺とパネトーネさんも(強制的に)握手をした。
「渉殿は、一緒に寝ないでござるか?」
「自分はここで結構です」
ダルキアンさんの言葉に、俺はそう答えた。
樹に寄り掛かるダルキアンさんとパネトーネさんそして、俺はそこから少し離れた場所で胡坐をかいていた。
「膝枕でもしてあげようと思ったのでござるが、どうでござる?」
「結構です」
どことなく何かを企んでいるような笑みを浮かべるダルキアンさんの提案を、俺はバッサリと切り捨てた。
「むぅ……」
そんな俺に、ダルキアンさんは頬を膨らませてこっちをじっと見てくる。
その視線にも、俺は微動だにしない。
すると、諦めたのか眠ったようだ。
(俺も寝るか)
それを確認した俺も、寝ることにした。
明日から来るであろう、長い旅を予想しながら。
[1回]
PR