「っと!」
俺は崖から飛び降りて、静かに着地した。
そして、立ち上がりながら辺りを見る。
「グオオオオオ……」
「おいおい……とんだお出迎えだな」
俺を囲うようにして、犬のような魔物たちが唸り声をあげていた。
「まあ、そうじゃないと張り合いがない」
俺は、こんな絶対的に不利な状況でも、笑っていられた。
何故か……それは、おそらく俺が勝つことはもう疑うべくもなかったからなのか、それとも別の何かがあったのか。
どちらにしろ、俺は神剣を構える。
「華麗に、優雅に朽ち果てろ!」
「グオオオオ!!!」
俺の言葉に反応して、魔物達が一斉に飛び掛かってくる。
「よっと」
それを俺は軽やかなステップで避けると、魔物たちの囲っている輪から抜け出した。
「グオオオ!!!」
「ッと、こっちにもいたか」
抜け出した先には、どっかに身をひそめていた魔物が飛び出してきた。
「行くぞ……紋章術」
俺は、この時のために練習していた、紋章術もどきを使う。
「閃!」
神剣二本を横に振りかぶる。
次の瞬間、轟音と閃光が走った。
それらは、少ししてゆっくり薄らいでいき、やがて元の薄暗い森の光景に戻った。
「魔物たちにはちゃんと聞いているようだ。しかも地形が変わってない」
俺は、その結果にまあまあだなと思いながら、頷く。
「グオオオオ!!!」
「まあ、唯一の欠点は、殲滅しきれない事だが、なっ!」
俺は背後から襲いかかってくる魔物を前方に移動することで躱す。
背後には、先ほど撃ち漏らした魔物がぞろぞろと俺の方に来ていた。
「奏でよう、この歌を」
神剣を二本とも大きく振り上げる。
散らばっている魔物を効率よく殲滅できる位置を探し出す。
(今だ!)
そして、俺はその瞬間を見つけて、一気に動く。
「レクリエム!!」
一気に剣を振り下ろす。
その瞬間、神剣から放たれた白銀の光によって、俺の視界は遮られた。
その光も、時間が経つにつれて徐々に薄くなっていく。
そして、目の前にあったのは、魔物の姿もいた形跡さえもない、ただの森林部だった。
「よし、上出来だ。周囲に魔物は……っと」
俺は慌てて周囲にいるマイナスの気配を探す。
だが、周囲にはそのような気配は感じられなかった。
おそらく、今ので最後だったのだろう。
「ん? これは弓か?」
そんな時、俺が見つけたのは一つの弓だった。
念のために、それを精査すると案の定、邪気が染みついていた。
「ここに放置していたら、また変なのが出てくるよな。仕方ない………レクリエム!」
俺は、もう一度必殺級の神術を行使して、弓を浄化することにした。
「よし、これでどうだろうか……」
俺は、もう一度弓を調べた。
だが、今度は変な気配はしなかった。
「よし、これは戦利品として持って行ってダルキアンさん達と合流を―――っ!?」
弓を手にした瞬間、俺の頭の中に情報が流れ込んでくる。
ゆっくりとだが、人影が見える。
それは、ダルキアンさんとパネトーネさんのように見えた。
二人は、魔物たちと戦っている。
少しばかり大きな魔物を倒した二人の背後から、別の魔物が現れ、そして………
――――魔物に切り刻まれる二人。
「はッ!?」
気が付くと、俺は弓を片手にしゃがみ込んでいた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
息切れするほど動いてもいないのにもかかわらず、俺は息を切らしていた。
(今のは、一体)
俺はさっき見た映像のような物に混乱を隠せなかった。
もしかしたらただの夢か、ジョークのようなものかもしれない。
だが、俺の中に微かに嫌な予感として募っていた。
「行ってみるか」
俺は、ゆっくりと立ち上がり、弓を異空間にしまう。
そして俺は、二人の担当区域の方へと駆け出した。
さっきの映像が、単なるジョークのようなものであることを願って。
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