健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-H 最終話 帰還

風月庵では、草むらだった一か所にかがんでいるユキカゼの姿があった。
それは渉がフォロニャルドを去ってからの日課でもあった。

「ユキカゼ」
「……お館さま」

後ろから声をかけたダルキアンに、ユキカゼは地面から視線をそらしてダルキアンの方へと顔を向ける。

「もう二か月でござるな」
「……はい」

横に腰かけたダルキアンの言葉に、ユキカゼは再び地面に視線を落とした。
渉がフロニャルドを後にしてから二か月という月日が流れていた。

「もしかしたら……」
「何でござる?」

口を開くユキカゼに、ダルキアンは先を促した。

「何も思い出してなくて、もうここには………うぅ」
「ユキカゼ……」

涙声だったその言葉は、やがて嗚咽へと変わる。
そんなユキカゼを悲しげな表情で見るダルキアンはそっとユキカゼの肩に手を置く。

「グス……お館さま?」
「大丈夫でござる。大丈夫でござるよ」

涙を流しながらダルキアンの顔を見上げるユキカゼに、ダルキアンは只々それだけを言い聞かせるようにつぶやいた。
ダルキアンも、ユキカゼと同じ心境だ。
だが、彼女はこの二か月間涙を流したことはない。
なぜなら……

「渉は必ず戻ってくるでござる。そう拙者たちが信じなければ、誰が信じるのでござる?」
「……そう、ですね」

ダルキアンは信じているのだから。
渉が必ず戻ってくるということを。
だからこそ、ダルキアンは待ち続けられるのだ。

「渉が戻ってきたらずっとそばにくっつくでござるよ」
「私もでござります。お風呂に入る時だろうとこのユキカゼ・パネトーネ、渉からは離れないでござる」

ダルキアンの宣言に、ユキカゼは涙を拭うと同じように宣言した。
それはある意味すごいことを言っているようなものだが。

「渉が戻ってきたらまずは稽古をするでござろうか?」
「あはは、拙者たちを待たせた罰でござるな。拙者も参加するでござる」

冗談交じり(とは言っても目は本気だが)に物騒な事を言いながら笑いあう。
と、その時一筋の風が流れる。

――それは困るな――

そして風と共に、その声は二人の元に運ばれた。

「え!?」
「っ!?」

その聞き覚えのある声に、二人の方はびくっと震える。

――待たせたことは謝るが、稽古はやめてくれ。確実にリンチになるから――

再び駆けぬける風に運ばれて、その声は二人の耳に入った。
二人は地面にしゃがみ込んだ体制のまま風上……声のした方へと顔を向けた。
そこに立っていたのは。

「久しぶり……よりはお待たせと言った方がいいかな?」

苦笑を浮かべながら立っている渉の姿があった。

「渉っ!!」
「うわっと!?」

先に駆けだしたのは、ダルキアンだった。
渉に抱き着き顔を肩に埋めている。
渉は突然のことに数歩後ろに下がる。

「渉!!」
「っと!?」

次に抱き着いたのはユキカゼだった。
ダルキアンが飛び掛かったことで、心構えが出来たのか次は、渉は後方に下がらずに済んだ。
そして二人は嗚咽を上げていた。

「良かった。会えてよかったでござるよぉ」
「会いたかった、ずっとずっと待っていたでござる!!」

涙ながらに掛けられる言葉に、渉は驚きに満ちていた表情を緩め二人の頭に手をのせると、静かに撫でる。

「二人とも、ごめんな」
「グス……拙者たちが今聞きたい言葉は、それではないでござる」

二人の様子に謝罪の言葉を口にする渉に、涙を拭いながら、ユキカゼは告げた。

「そうだったな。ただいまユキカゼ、ダルキアン」
「「………」」

涙ぐんだままで、ユキカゼとダルキアンは渉を期待しているような目でじっと見つめる。

「大好きだよ」

そう二人の耳元で囁かれた言葉に、二人の表情に笑顔が戻った。

「拙者も渉の事が、大好きでござる!!」
「拙者もでござる」

渉の言葉に返すように大きな声で返事をしながら渉に、飛び掛かるユキカゼに続いて、ダルキアンも渉目掛けてジャンプした。





今、こうして渉は帰還を果たした。
――彼を必要とする本当の居場所へと。

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IF-H 第17話 誓い

「渉! 渉」
「ん……」

目を開けると、俺の前には慌てた様子のノヴァの姿があった。

「どうしたんだ?」
「どうしたではなかろう! 世界の歪みが起こってから何をしておったのじゃ!」

俺の問いに、ノヴァは大きな声で問い詰める。

「何をって………」

俺はあの時のことを思い出そうとした。
ピンク色の紋章の事は覚えている。
だが、それに飲み込まれてからの記憶は全くなかった。
何か、悲しくてそれでいてとてもうれしいことがあったような……。

「何じゃ、覚えておらんのか?」
「ああ、そうみたいだ」

ノヴァの心配そうな問いかけに、俺はそう答えた。

「ちょっと失礼」

ノヴァは右手に神具でもある”創世の杖”を出すと、それを俺に掲げた。
次の瞬間、俺の体は白銀の光のようなものに包まれた。

「特に異常は見当たらぬ。核の方が少々衰弱しておる様じゃが、一日いれば治るじゃろう」

俺に問題がないことがわかると、ノヴァは静かに息を吐き出した。

「ところで、異常な時間の進行現象の方は?」

俺の問いに、ノヴァは”その事じゃが”と前置きを置いて口を開いた。

「どうやら、こちらの干渉は不要じゃったようじゃ。世界は再び正しい動きを始めた」
「そうですか」

俺はほっと胸を撫で下ろす。
俺のせいで世界が滅亡したら、俺は後悔するだろうから。

「しかし一体、九日半も何をしておったのじゃ?」
「九日!?」

ノヴァの口から出た日数に、俺は驚きを隠せなかった。
俺達のいる天界では、時間の経過が人間界などよりはるかに遅い。
その差は40倍とされている。
真意のほどは分からないが。

「だから、驚きたいのは私の方なのじゃが」

ため息交じりに呟くノヴァだが、すぐに表情を引き締めた。

「まあ、少し休むとよい。霊質の方も回復しないといけないしの」
「分かりました」

俺はノヴァの提案に頷いて完全に霊質化する。

――霊質化
それは肉体の姿を解放し、魂のみの状態になること。
それによって、破損した魂の修復が出来るようになる。
ちなみに、今までしていた俺の姿の事は”部分物質化”といったもするが、それは関係ないだろう。
気づけば、俺がここで目が覚めてから1時間が経っていた。
俺は、いったん眠りにつくのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


渉が眠りについたのと、ほぼ同時刻。

「はぁ……」

縁側で掃き掃除をしていたユキカゼはこの日何度目かのため息をつく。

「ユキカゼ、ため息が出ているでござるよ」
「あ、す、すみません!お館さま!」

ダルキアンに指摘されたユキカゼは慌てた様子で謝ると、手の動きを速めた。

「気持ちは分からなくもないでござるよ。実際拙者もいっぱいいっぱいでござる」
「……はい」

ダルキアンの独白に、ユキカゼは静かに頷いた。
その理由は渉が世界を後にした後の事であった。
二人の元を訪れたリコッタによって伝えられたのは、送還の儀を行った場合、記憶を失うという物だった。
それだけでも二人は衝撃を受けたが、さらに追い打ちをかけたのは

『渉さんは召喚主である姫様に、ここに来ることの制約と身に着けていた品を渡されていないのであります。なので、渉さんは………』

リコッタのその一言だった。

「渉、今何をしているのでござろうか」
「……元気にしていますよ。たぶん」

二人はそう言いあいながら、空を仰ぎ見る。
その空模様は曇りのない清々しい感じであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「…………」

俺は目が覚めて部分物質化する。
ゆっくりと静養したことで、何とか核の損傷は修復できた。
だが、俺の心は全く晴れない。

(何なんだ。この気持ちは)

自分でもまったく理解できない感情に、俺は戸惑っていた。
この感情は、まるで小さい子供が親とはぐれて迷子になった時のような感じだ。
親がいない喪失感のような……

(馬鹿らしい)

俺は自分で考えていたことを切り捨てた。
俺には親なんて存在しないんだ。
ならば、この喪失感は何なのか?

「もしかしたら、格納空間に何かヒントがあるかも」

なぜか俺はそう考えていた。
確かに俺は大きいものは何でも格納空間にしまう癖がある。
だが、それは後付の理由のような気がした。
馬鹿げていることを承知で言うののであれば、それは”体が勝手に動いた”という事だろう。
格納空間を開いて、中に合ったものを取り出していく。

「何だ? これ」

中にあったのは二つだけだった。
一つはやや大きい太刀。
それならまだ理解はできる。
だが、もう一つの物が不明だった。

「これ、髪留めか?」

赤いリボンのような髪留め。
どう考えても俺がするものではない。

「一体誰の……」

そんな時だった。

――殿~――
「ッ!?」

突然した女性の声に、俺は周囲を見渡す。
だが、そこには誰もいない。

――待………るよ、…殿――
「誰だ?」

頭に響く声に、俺は問いかけた。

――それ………でござるよ。渉……――
「誰なんだ? お前は俺の何を知っているんだ?」

問いかけても答えなど返ってこない。
全く見ず知らずの女性の声。
俺にとってはどうでもいいはずなのに。

(どうして、懐かしい気持ちがわくんだ? どうして、俺は嬉しいという気持ちを抱くんだ?)

何がなんだかさっぱりわからない中、俺はすべてを振り払うように目を閉じた。

――討魔の……、ブリ……ュ・ダル……ンは、この剣を……って渉殿と共に暮ら……とを誓う――

女性の声が頭の中に響き渡った。
その声は今までのよりも、どこか悲しげな声に感じた。

「あ……」

不意に、俺の頭の中に金髪の少女に、紫色の髪をした女性二人の姿が現れた。
二人とも、何故か耳としっぽがついている。

「渉殿がどんな存在であっても、拙者は渉殿の事が好きでござる」
「拙者もでござるよ!」

そして聞こえてきた女性の声。

「は……ははは」

気づけば、俺は笑っていた。
――それは、居場所がないと覆っていた俺の居場所は、ちゃんとあったから。

気づけば、俺の視界は歪んでいた。
――それは、忘れていたことへの後悔の気持ち。

気づけば、俺の心は温かくなった。
――それはきっと俺が愛しているから。

――ユキカゼと、ダルキアンの二人を――

「………」

全てを思い出した。
そして俺のすることは一つしかなかった。
それは俺のした誓いを叶えなければいけないから。

「叶えるためには、これを使うしかないか」

俺の手にあるのは小ぶりの短剣だった。
だが、その剣に秘められている力は本物だ。
これを自身の胸に突き刺せば、”核”を破壊することが出来る。
”核”が破壊されればよくて天使、悪ければ普通の人間に戻る。
いわば、リタイア装置のようなものだ。
リスクとしてはさしたときの痛みを除けば残るのは、神の力は使えなくなる位だ。

(そんなリスク何て、俺には全く関係ない)

二人との誓いを叶える為であれば、自分の誇りだって捨ててやる。

「何をしているのだ?」
「……ノヴァ」

剣を胸に突き刺そうとするのを遮るように、背後から声を掛けられた。

「その剣を使うとは……余程の事情があるようだな」

俺の手にしているものだけで、ノヴァは俺に複雑な事情があることを読み取っていた。

「話してみな。そこまでする理由を」
「俺が、行方不明になっていた九日間……」

俺は静かに語りだした。
ここでの時間にして九日半の出来事を。





「なるほど。その二人の誓いを叶えるべく、神をやめる、か」
話を聞き終えたノヴァは深々と頷く。

「立派な話じゃ。だが、神をやめる事だけは許さ、ぬッ!」
「なッ!? ナイトメアが」

ノヴァが言い切るのと同時に俺の手にあった短剣、”ナイトメア”は粉々に砕け散った。

「ッ!?」
「私が認められるのは、神としての力を残した状態で世界とのつながりを断つことだけだ」

俺の体に突きつけられた杖に、息をのむ俺を気にした様子もなくノヴァはそう口にする。

「ということは……」

俺のその言葉を聞いて、ノヴァはフッと今まで浮かべていた硬い表情を解く。

「行ってきなさい。渉を待つ、二人の元へ」

俺の体に突き付けられた杖から光が放たれる。
それと同時に、俺と世界の”つながり”のようなものが無くなった。

「もうお主はここに来ることも、意図的に世界に干渉することも出来ぬ。それだけは心得ておくように」
「分かってる」

ノヴァの注意に、俺は頷く。
それはすでに覚悟していたことだ。
ノヴァはそんな俺に深く頷くと、杖をかざして何もない空間にゲートを開けた。
すでに俺はここでの存在権利を失っている。
もうここで俺が何かをすることが、出来なくなっているのだ。

「では渉。よき一生を」
「ノヴァも」

駈愚痴を叩きあいながら握手を交わすと、俺はゲートの前まで歩み寄る。

「ここの生活も、そんなに悪い物じゃなかったよ。ありがとう、ノヴァ」
俺は最後にそう告げて、ゲートに身を投げた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「ありがとう……か」

既に閉じたゲートのあった場所を呆然と立ち尽くしているノヴァは渉の口にした言葉を呟く。

「今まで生きてきて数千年、初めて聞いたな。その言葉」

そう呟くと、ノヴァの姿はゆっくりと消えて行く。

「まあ、幸せに過ごすとよかろう」

そう呟いて、ノヴァは霊質化するのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


次元空間を進むこと数十分、俺は進むのを止めた。

「ここから脇道に入るか」

次元空間が結ばれていない世界の場合は、脇道という場所を通る必要がある。
しかもその脇道は入る場所が一ミリ違うだけで別の世界に行くため、探し出すのが困難なのだ。
故に、滅多な事ではそういう世界には行かない。
だが、俺はその場書で正しいという確信があった。
それがどうしてかと言われれば、”これだ!”と答えられる自身はないが。

「行くか」

俺は正宗と吉宗を重ね合わせ、一本の太刀へと変える。

「はぁぁぁッ!」

そして一気に次元空間に斬りつけた。
次元空間の一部に裂け目が出来る。
俺は躊躇なくその裂け目の中に入り込んだ。
そこは一面”黒”の世界だった。
そこを俺はためらいもなく前に進む。

(待っててくれ、二人とも。必ず戻るから)

その思いを胸に、俺は遥か彼方に見えてきた白色の光へと向かうのであった。

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IF-H 第16話 さようなら

(いよいよ……今日か)

俺は誰もいない風月庵の縁側に腰掛けて、心の中でそう呟いた。
今日、シンクの送還の儀が行われる。
それは俺も天界に戻ることとイコールだった。
ユキカゼ達は、式典でビスコッティ城にいる。
本来は俺も出席しなければいけないらしいが、姫君のご厚意で出席しないことを許してもらった。
俺は徐に立ち上がると風月庵の草むらの方に近づく。

「tixio」

神剣を草むらの一部に掲げて静かに告げた。
すると、草むらだった場所の草が消えた。
そして現れたのは地面に描かれた紋章と円陣が合わさった模様だった。
これが俺が今まで二人に隠れて描いていた送還の儀に使う紋章陣と、時間経過をごまかす円陣だ。
ユキカゼ達にばれないように、草むらの幻影を見せる術をかけていたのだ。

(後はこの円陣が動き出した時に中に入れば、天界に帰れる)

紋章陣を前に、俺はそう頭の中で言い聞かせるが、どうも気分がすぐれない。
別に健康状態が云々というわけではない。
只々、後ろめたいだけだ。

(二人を悲しませるのは本当に申し訳ないが、一生会えなくなるよりはましだ)

そう自分に言い聞かせても、後ろめたさは消えることはない。
二人に正直に言うのも考えた。
だが、正直に言って残った日をぎすぎすとした空気の中で過ごすのは、いやだった。
結局こういう事に結論が言ったのだ。

「ま、どう取り繕っても俺の偽善だが」

そう呟いて、俺は思わず乾いた笑い声をあげた。

「………そろそろだな」

周囲に満ちる”何か”で、俺は送還の儀が行われるまで間もなくなのを悟った。

「何がそろそろでござる?」
「ッ!?」

円陣に向けて歩き出す俺の背中に掛けられた声に、俺は思わず足を止めた。
その声は、ここにはいないはずの人物のものだった。
俺はゆっくりと振り返る。

「ダルキアン、ユキカゼ」

そこにいたのは悲しげな表情を浮かべる、ダルキアンとユキカゼの姿だった。

「どうしたんだ? 式典の方は?」
「もう式典は終わったでござる」
「姫様から渉殿が帰られると聞いて、急いできたでござる」

俺の二つの疑問は二人によって解決された。
通りで二人の息が”若干”上がっているはずだ。

「本当でござるのか?」
「ああ」

ダルキアンの問いに、俺は二人に背を向けて簡潔に答えた。

「嫌だ……嫌でござる」
「……」

ユキカゼの悲しい声に、俺の心は悲鳴を上げる。

「せっかく渉殿と楽しく過ごそうと思ったのに……うぅ……渉殿、拙者たちとずっと一緒にいてほしいでござる」

ダルキアンのその言葉は、とても悲しげな物だった。
気を抜けば俺はすぐに振り返って、ここに残ると言うくらいのものだった。

「それは……できない」

だが俺は、そう答えるしかなかった。
そして、俺は足を紋章陣の方へと進める。

「行ってはダメでござる!」
「渉殿! 拙者たちの事が嫌いになったのでござるか」

ユキカゼの言葉が、僕の心に突き刺さる。

「そうじゃない。二人の事は、心の底から愛している」

俺は言葉を選んで二人に答える。
間違えてしまえば、すべては終わりだ。

「だったら――」
「だからこそ、だ」

ダルキアンの言葉を遮って、俺は言葉を続けた。

「二人とずっといるために、俺は戻らなければいけない。そうしなければ、俺は二人と永遠に会うことはできない」

”しまった!”と思った時にはもう遅かった。

「ッ!?」
「どういう……事でござる?」

俺の一言に、二人の顔がこわばった。
誤魔化すことはできない。
俺は本当のことを告げた。
とても残忍で最悪な言葉を

「俺が世界の意志だということは、前にも話したよな?」

俺は二人が頷いたのを確認して話を進めた。

「俺やユキカゼのような存在は違いはあれど、霊力というものによって維持されている。その源の”核”はそれぞれの神に適した形で、霊力を生み出し続け………というのは置いとこう」

話の趣旨が変わってきていることに気付いた俺は、話を元に戻すことにした。

「ユキカゼの場合は、ここの世界にいてもその姿を、語弊はあるが維持できるようになっている。だが、俺の場合は外の世界に長期間いられるようにはできていない。それもそうさ。世界全体を守る神が一世界だけに長期間留まる必要なんてないんだから」

その土地を守護し、安定化させる”土地神”はその世界に留まることを想定されて核が形成されている。
だが、俺の場合はそんなことは想定されていない。

「………」

二人は無言で俺の言葉に耳を傾けていた。

「その俺が長期間ここに居続けることによって、霊力の生成力が低下しつつある。その状態を物質化抵抗現象……俺の知り合いは”物質化”と呼ぶ。今はまだいい。だが、このままここに居続ければ霊力の生成力はさらに落ちる。そして……」
「どうなるので……ござる?」

ユキカゼの手は小刻みに震えていた。
俺は心が痛みながらも、答えた。

「消滅する。魂ごと」
「「ッ!?」」

俺のその一言で、二人の顔は真っ青になった。

「もう道はないんだ。一旦元の場所に戻って時間はかかってももう一度会えるようにするか、残された時間をここで過ごして永遠の別れをするかの二つ何だ」
「そんな……」
「あんまりでござる」

ダルキアンとユキカゼは目を潤ませながら口を開いた。
俺は二人から顔をそむけなかった。
それは二人に対して止めを刺すようなことだと思ったからだ。
だからこそ俺は、”二人は、どっちを取るんだ?”という言葉を飲み込んだ。

「ごめん」

俺に出来たのは、二人をそっと抱きしめる事だけだった。

「う……うぅ」
「……グス」

何かが決壊したように、二人は嗚咽し始めた。
俺は熱いものがこみ上げてくるのを必死に堪えて、抱きしめ続けた。
いつまでも、長い間。
時間の許すまで。










「もう、大丈夫で……ござる」

ユキカゼのその一言をきっかけに、二人は静かに俺から離れた。
二人の目はとても赤かった。
時間と言うのは有限だ。
俺の後方で送還の儀の紋章が光り輝くのを俺は感じた。
それは、俺達の別れの合図だった。

「……い、いやー。渉殿、戻ってきたら元の世界の土産話をたっぷりと聞かせてほしいでござるよ」
「お館さま」

何時ものように気丈に振舞うダルキアンだが、声が震えていた。、

(なにかないのか)

俺は必死に考えた。
この二人に、少しでも笑ってもらえる方法を。
このまま涙の別れは、俺も嫌だ。

(そう言えば……)

俺は前に交わしたノヴァとの会話を思い起こした。

『お互いの神具ないしは大事な物を交換するんじゃ』
『交換するとどうなるんだ?』
『それはじゃな――――』

「ダルキアン、ユキカゼ」

思い出した俺は、すぐに行動に移していた。

「どうしたで、ござる?」
「何でござる?」

二人が返す中で、俺は自分の神剣吉宗を取り出した。

「これを二人に預ける」
「……何だか忘れ形見のようで嫌でござる」

ユキカゼがポツリと漏らした。
そう言えばそういう意味にも捉えられる。

「いや違う。お互いの大事な物や神具を交換する。それは誓いの言葉となる」

ノヴァから教えて貰ったのは、神が人へ誓いを立てる際に使う行為の事だった。

「世界の意志、小野渉は神剣吉宗を以って、二人の元に戻ることを誓う」
「渉殿……グス」

その誓いの言葉に、ダルキアンは再び目を潤ませてながらも俺の神剣を受け取った。

「討魔の剣聖、ブリオッシュ・ダルキアンは、この剣を以って渉殿と共に暮らすことを誓う」
「天狐の土地神、ユキカゼ・パネトーネは、この髪留めを以って、渉殿と共に暮らすことを誓う」

俺はダルキアンから太刀を、ユキカゼからは髪留めを受け取った。
髪留めを外したことによって、束ねていた髪が後ろに広がった。
それだけでも、印象が変わることには十分だった。

(でも、なんだかおかしいかな)

そう思うと、今まで大人な印象を持ったユキカゼの髪をとかした姿は、背伸びをする子供のようにも思えてきた。
二人からもらった誓いの証を格納空間にしまいながら、俺は紋章陣の方へと歩み寄った。

「それじゃ……二人とも」
「うむ、またでござるよ。渉殿」
「帰ってきたら、拙者と一緒にお風呂に入るでござるよ!」
「了解」

ものすごいことを言われたような気もしたが、俺はそれもそれでありかなと思い、承諾した。

「あ、拙者もでござる」
「あ、あははは」

飛びつくようにダルキアンが言ってきたので、俺は思わず苦笑を浮かべながら紋章陣へと足を踏み入れた。
次の瞬間、体はピンク色の光に包まれていく。

「――――――!」
「―――!!!!」

紋章陣から出る音で、二人の声は聞こえなくても、俺には二人が口にした言葉が何となくだが伝わった気がした。

「またな、二人とも!」

俺が手を振ると、二人も手を振りかえす。
やがて、俺を包む光はさらに増し、次の瞬間俺の意識はブラックアウトし始める


――絶対に戻ってくるでござるよ、”渉”――
――信じてるでござるよ。”渉”――

二人がさっき口にしていた声が頭の中で流れるのを聞きながら。

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IF-H 第15話 食事会

翌日、俺はお城内の庭を歩いていた。
何でも、フロニャルドとビスコッティを救った勇者シンクに、感謝をするお食事会が行われるらしい。
だからこそ、俺はユキカゼ達の目を盗んで、逃げてきたのだ。
俺はあの魔物退治の時に何もしていない。
それにああいうのは苦手だ。
昔を思い出すから。

(どうしようか)

そして考えるのは、今後のこと。
ここに永住することはすでに決めた。
ただ、それをするためには一度天界に戻らなければいけない。
そこでノヴァに、ここでの永住を許してもらう。
許されることで、俺はここでも一定の霊質を保つことが出来るようになる。
だがそれは元の場所にはもう戻れないことを意味していた。
ここで永住するということは、この土地の土地神になるのとイコール。
土地神は天界の神族の中では下級の存在だ。
そんな存在が世界の原点に入れるわけがない。

(まあ、あそこには何の思い残しもないからいいが)

後は、俺が持つかだ。
少しずつ全身の倦怠感が増してきているようにも感じていた。
そして体の力も徐々に出なくなっている。
早くここを出なければ俺の運命はもう確定する。
”消滅”という最悪の形で。

(二人に悲しい思いをさせるのは嫌だが、消滅するよりはましだ)

そう心の中で考えていた時、俺の横に立つ人の気配を感じた。

「ここにいたのか、渉」
「ん? エクレールか。どうした?」

声をかけてきたエクレールに、俺はそう尋ねた。
そのエクレは、明らかに怒っているような感じがした。

「どうしたではない! 食事会に来るように言ったのになぜここにいる!!」
「どうも俺はああいうのが苦手なんだよ」

俺はエクレールに、答える。

「ええい! 渉がいないと、会が進まないんだ! 泣いてでも連れて行く!!」
「は? それはどういう――――って、引っ張るな!」

俺の問いかけに答えることなく、エクールレは強引に俺の腕を取ると、ずんずんと引っ張って行く。

「ところで渉」
「な、なんだ」

引っ張って行く中、エクレールが声を上げた。

「風のうわさで知ったが、お前ユッキーとダルキアン卿の二人と付き合っているというのは本当なのか?」
「ッ!?」

エクレールの口から出た問いかけに、俺は息をのんだ。

(一体誰が流した!?)

「なるほど、本当だったか」

そんな俺の反応から、エクレールはすぐさま答えを読み取った。

「………」

そしてジト目で俺の方を見てくる。

「な、なんだ?」
「不潔」

ジト目に耐えかねて声を上げた俺に、エクレールは一刀両断した。

「俺も疑問なんだ。どうしてこうなったんだ?」
「知るかッ!」

俺の疑問に帰ってきたのは、エクレールの怒号にも似た声と頭の痛みだった。

「痛ッ!? ちょっと今のは本気で痛い―――ッて、だから引っ張るなッ!」

そんなこんなをしているうちに、お城内に入り、大きな広間にたどり着いた。

「姫様、渉を連れてきまし、た!!」
「のわぁ!?」

エクレールに思いっきり押し出されるように、俺は前に飛ばされた。
そして、浴びせられるのはメイドさん達やジェノワーズ達、そしてシンクやリコッタたちの視線だった。
浴びせられる方としては、何とも居心地が悪かったりする。

「えっと、それでは……」

そう言って話し出したのは、台の上に立つ、姫君だった。

「今回、勇者シンクと一緒にこの国の危機を救ってくれた渉さんが、隠密部隊で一緒に頑張ってくれることになりました」
「………は?」

姫君の一言に、俺は一瞬固まった。
今なんといった?
俺が隠密部隊で一緒に頑張る?

(いったん天界に帰ってからここに戻ると姫君に伝えるように、お願いしたはずだぞ)

それがどうして、ここまで話が飛躍しているんだ?

(まぁ、二人が喜んでるからいいか)

俺は万弁の笑みを壁ている二人を見て、そう思った。
これが惚れてしまった弱みという物なのだろうか?

「つきましては、もう一人の主賓である渉さんにも、一言頂こうと思います。渉さんどうぞ」
「はッ!?」

そう解釈していると、姫君の言葉と共にものすごい拍手が俺に送られる。
俺は冗談ではないと思い逃げようと後ろを振り向くと、いつの間にか回り込んでいたのか、ブリオッシュとユキカゼが立っていた。

「「そぉれ!!」」
「うわっ!!?」

二人に押され数歩前に出た俺に、逃げ道はなかった。

(そういえば俺、一番苦手なのがスピーチだったな)

現実逃避ともとれる考えをしながら、俺は眼鏡をかけた女性の人からマイクを受け取ると、壇上に上がった。

「えっと……ご紹介に授かりました、小野渉です」

まずは無難に自己紹介から始めた。

「自分は、あまりこういう場でのスピーチは得意ではないので、つまらないかもしれないですが、ご辛抱ください」

俺は、一言一句間違えないように、不慣れな敬語で話す。
それを聞いていたシンク達は、静かに笑っていた。
それを見ていると、体中の緊張がふっと柔らんだような気がした。

「姫君の先ほどの紹介に間違いがあるので、訂正します。この国の危機を救ったのは、あくまでも勇者シンクです」

俺の言葉に、周りがざわついた。
姫君の言葉を真っ向から否定するのはかなり失礼に値する。
だが、シンクの活躍と言う真実が捻じ曲げられるのは、俺としても後味が悪いので、しっかりと意見を告げたのだ。

「最初にここに来たのは、本当に偶然が重なった事故でした。困っている私を助けてくれたパネトーネ筆頭を始め、ビスコッティの皆さんにはお礼を言っても言い切れません」

(もしかしたら必然だったのかもしれないな)

俺はスピーチの中でそう考えていた。
あの時、俺はここに来るべくして巻き込まれたのだ。
そうであれば、きっと俺は……

「なので、助けて頂いた皆さんに、少しでもお返しが出来ればなと思います。ビスコッティの……特に隠密部隊の人には迷惑を掛けますが、どうぞよろしくお願いします」

俺はそう言うと、もう一度お辞儀をした。
そして、再び広間は、拍手が響き渡った。
それがとても居心地がよく、楽しかった。





その後食事会となったが、その頃にはすっかり公式の場と言うものに対する苦手意識はなくなっていた。

「はい、渉殿。あーん、でござる」
「あ、あーん……」

会場の隅の方で、俺はダルキアンに野菜を食べさせてもらっていた。
俺の名誉の為にも言おう。
俺がやらせているのではなく、向こうがやっているのだ。

「ど、どうでござる?」
「お、おいしい」

俺の答えに、ダルキアンは花が咲いたように笑顔になった。

「そうでござるか。では次は――「お館さまっ!」――」

ダルキアンが別の料理を取ろうとした時、それを遮るようにして駆け寄ってきたのは、ユキカゼだった。

「お館さまばかりずるいでござる! 次は拙者の番でござる!」

そう言うと、ユキカゼは徐に何かの肉を箸で撮ると俺に差し出してきた。

「わ、渉殿。あーんでござる」
「あ、あーん」

そしてまたダルキアンと同じ要領で食べさせてもらう。

「どうでござる?」
「……おいしい」

俺の答えに、ユキカゼは嬉しそうに料理を取るべく駆けて行った。

(絶対に、ダルキアンに対抗したよな。今)

一品しかお皿に乗ってなかったことと、駆ける速度の速さから、俺はそう考えていた。

(ああ、これなら噂にもなるか)

俺はあたりの好奇にも似たような雰囲気を感じながら、しみじみとそう感じていた。
こうして、お食事会は無事に幕を閉じることができたのであった。
ちなみに、俺のスピーチの時に笑っていたシンクには、たっぷりと”お礼”をしておいた。

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IF-H 第14話 正体

翌日、俺とダルキアンは縁側でのんびりしていた。
ユキカゼは掃除をしている。
時たまこっちに送る恨めしい視線に、俺はどうしたものかと考えをめぐらせていた時だった

「こんにちはー」
「いらっしゃーい!」

シンクの声に気付いたユキカゼが片手を振る。
俺は縁側から立ち上がった。

「お邪魔しまーす! 子狐、元気になりました?」
「ああ、もうだいぶな」

シンクはダルキアン卿の元に駆けよると、今はぐっすりと眠っている子狐を覗き込む。
俺も、シンクにつられるようにして、子狐を見た。

「同じ土地神の同胞として、この子は拙者がちゃんと躾けるでござるよ」
「そっかぁ」

いつの間にか俺の横にいたユキカゼが、そう言った。

「って、えぇ!? 土地神?

少しだけ遅れて、シンクはユキカゼの口にした事実に、驚いた。
かくいう俺もだが。

「あれ? 言ってなかったでござるか? 拙者土地神の子でござるよ」
「ユッキー、神様?」
「うむ。尊敬して良いでござるよ」

そう言ってユキカゼは胸を張った。
それを見ていたダルキアン卿は、静かに笑っていた。
その後、ユキカゼは静かに語り出した。
昔、魔物によって村を荒らされ母親を失くしてしまった時に、ダルキアン卿に拾われたらしい。

「フロニャルドでも、国が亡びる事ってあるんですね」
「まあ、かれこれ150年以上も前の事故な」
「ひ、百!?」

ダルキアン卿の言葉に、驚きを隠せないシンクをよそに、二人は話を進めていく。

「ここ百年あまりは魔物も現れず、危険な争いもなく、太平の世でござるよ」
「拙者とユキカゼは魔物封じの技を持つゆえ、ここ数十年はビスコッティを拠点に、時より諸国を旅し、魔物を封じて回っているのでござるよ」
「もしかしてダルキアン卿も?」
「いや、拙者は人でごある。ちょっと訳があってな」

シンクの問いかけの意図が分かったのか、ダルキアン卿は答えた。
その”訳”がどういうものなのかは分からないが、本人としても言いたくはないことだと思った俺は、考えないようにした。
もしその時が来れば、話してくれるだろうと信じて。










その後、シンクはダルキアン卿と共に、彼女以外には扱えない”神狼滅牙”と言う剣術を教わっていた。

「それにしても、ユキカゼが土地神か………まんまと騙されたものだ」
「あはは……申し訳ないでござるよ」

俺の皮肉交じりの言葉に、ユキカゼは苦笑しながら謝ってきた。

「まあ、俺もそうだけどな」
「ふぇ?」

俺の呟きに反応したユキカゼが、首を横に傾けた。
その姿に一瞬胸が高鳴ったのを俺は感じた。

「俺もユキカゼと同じような存在だ」
「……………」
「ユキカゼ?」

俺の言葉にいつまでたってもリアクションが帰ってこないのをおかしいと思った俺は隣を見た。

「きゅぅ~」
「ゆ、ユキカゼ!?」

そこには頭から煙を出しているユキカゼの姿があった。
どうやらそれほどまでに俺の正体が、衝撃的だったようだ。
その後、技の練習を終えた二人は気絶しているユキカゼを見て違った反応をした。
シンクはとにかく慌てて。
ダルキアンは「おやおや、大変でござるな。これは」と言いながらユキカゼを屋敷の中へと運んで行った。
その後戻ってきたダルキアンに、「ユキカゼは疲れて寝ているだけでござる。心配しなくても大丈夫でござるよ」と言われ、シンクは安心した様子で帰って行った。
だが、それが本当でないことは分かっていた。
俺を見るダルキアンの目が「後で話てもらうでござるよ」と告げていたからだ。










夜、夕食を終えた俺は正座でダルキアン達と対峙していた。

「それで、話してくれるでござるか? ユキカゼに話したことを」
「ああ」

ダルキアンの言葉に頷いて、俺は自分のことを話した。
俺が世界の意志の神であることを。
二人の表情は最初は驚いた様子だったが、次第に納得したものへと変わっていた。

「ふむ、渉殿の今までの技を見ていれば、それも頷けるでござる」
「まさか拙者の上位の存在だったとは……驚きでござる」

それぞれ違うが、二人はうんうんと頷いていた。

「二人は、世界の意志の俺に幻滅したりとかしないのか?」
「「しないでござる」」

俺の問いかけに、二人は同時に答えた。

「渉殿がどんな存在であっても、拙者は渉殿の事が好きでござる」
「拙者もでござるよ!」
「ユキカゼ……ダルキアン」

二人の言葉が、俺にはとてもうれしかった。

「あ」
「わ、渉殿ッ!?」

だから俺は二人を抱きしめた。

「ありがとう」

そして俺はお礼を言いながら、二人の唇に自身の唇を合わせるのであった。
そしてまた1日が終わりを迎える。

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