翌日、俺とダルキアンは縁側でのんびりしていた。
ユキカゼは掃除をしている。
時たまこっちに送る恨めしい視線に、俺はどうしたものかと考えをめぐらせていた時だった
「こんにちはー」
「いらっしゃーい!」
シンクの声に気付いたユキカゼが片手を振る。
俺は縁側から立ち上がった。
「お邪魔しまーす! 子狐、元気になりました?」
「ああ、もうだいぶな」
シンクはダルキアン卿の元に駆けよると、今はぐっすりと眠っている子狐を覗き込む。
俺も、シンクにつられるようにして、子狐を見た。
「同じ土地神の同胞として、この子は拙者がちゃんと躾けるでござるよ」
「そっかぁ」
いつの間にか俺の横にいたユキカゼが、そう言った。
「って、えぇ!? 土地神?
少しだけ遅れて、シンクはユキカゼの口にした事実に、驚いた。
かくいう俺もだが。
「あれ? 言ってなかったでござるか? 拙者土地神の子でござるよ」
「ユッキー、神様?」
「うむ。尊敬して良いでござるよ」
そう言ってユキカゼは胸を張った。
それを見ていたダルキアン卿は、静かに笑っていた。
その後、ユキカゼは静かに語り出した。
昔、魔物によって村を荒らされ母親を失くしてしまった時に、ダルキアン卿に拾われたらしい。
「フロニャルドでも、国が亡びる事ってあるんですね」
「まあ、かれこれ150年以上も前の事故な」
「ひ、百!?」
ダルキアン卿の言葉に、驚きを隠せないシンクをよそに、二人は話を進めていく。
「ここ百年あまりは魔物も現れず、危険な争いもなく、太平の世でござるよ」
「拙者とユキカゼは魔物封じの技を持つゆえ、ここ数十年はビスコッティを拠点に、時より諸国を旅し、魔物を封じて回っているのでござるよ」
「もしかしてダルキアン卿も?」
「いや、拙者は人でごある。ちょっと訳があってな」
シンクの問いかけの意図が分かったのか、ダルキアン卿は答えた。
その”訳”がどういうものなのかは分からないが、本人としても言いたくはないことだと思った俺は、考えないようにした。
もしその時が来れば、話してくれるだろうと信じて。
その後、シンクはダルキアン卿と共に、彼女以外には扱えない”神狼滅牙”と言う剣術を教わっていた。
「それにしても、ユキカゼが土地神か………まんまと騙されたものだ」
「あはは……申し訳ないでござるよ」
俺の皮肉交じりの言葉に、ユキカゼは苦笑しながら謝ってきた。
「まあ、俺もそうだけどな」
「ふぇ?」
俺の呟きに反応したユキカゼが、首を横に傾けた。
その姿に一瞬胸が高鳴ったのを俺は感じた。
「俺もユキカゼと同じような存在だ」
「……………」
「ユキカゼ?」
俺の言葉にいつまでたってもリアクションが帰ってこないのをおかしいと思った俺は隣を見た。
「きゅぅ~」
「ゆ、ユキカゼ!?」
そこには頭から煙を出しているユキカゼの姿があった。
どうやらそれほどまでに俺の正体が、衝撃的だったようだ。
その後、技の練習を終えた二人は気絶しているユキカゼを見て違った反応をした。
シンクはとにかく慌てて。
ダルキアンは「おやおや、大変でござるな。これは」と言いながらユキカゼを屋敷の中へと運んで行った。
その後戻ってきたダルキアンに、「ユキカゼは疲れて寝ているだけでござる。心配しなくても大丈夫でござるよ」と言われ、シンクは安心した様子で帰って行った。
だが、それが本当でないことは分かっていた。
俺を見るダルキアンの目が「後で話てもらうでござるよ」と告げていたからだ。
夜、夕食を終えた俺は正座でダルキアン達と対峙していた。
「それで、話してくれるでござるか? ユキカゼに話したことを」
「ああ」
ダルキアンの言葉に頷いて、俺は自分のことを話した。
俺が世界の意志の神であることを。
二人の表情は最初は驚いた様子だったが、次第に納得したものへと変わっていた。
「ふむ、渉殿の今までの技を見ていれば、それも頷けるでござる」
「まさか拙者の上位の存在だったとは……驚きでござる」
それぞれ違うが、二人はうんうんと頷いていた。
「二人は、世界の意志の俺に幻滅したりとかしないのか?」
「「しないでござる」」
俺の問いかけに、二人は同時に答えた。
「渉殿がどんな存在であっても、拙者は渉殿の事が好きでござる」
「拙者もでござるよ!」
「ユキカゼ……ダルキアン」
二人の言葉が、俺にはとてもうれしかった。
「あ」
「わ、渉殿ッ!?」
だから俺は二人を抱きしめた。
「ありがとう」
そして俺はお礼を言いながら、二人の唇に自身の唇を合わせるのであった。
そしてまた1日が終わりを迎える。
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