健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

IF-H 第3話 励ましとキスと

「ぅ………」

目が覚めると、そこは天界ではなくよく見る天井だった。
周囲を見回すと、やはりフィリアンノ城内の俺に宛がわられた部屋だった。

「ッぐ!?」

体を動かすと、体中に痛みが走るがそれを無視して起き上がるとベッドから出た。
上半身は白い包帯が巻かれていた。

「服は………あった」

俺はベッドの横に置かれた椅子の背もたれに掛けられていた服(とはいってもシンクが来ているジャージと、色違いの物だが)を着込んだ。
すると、扉が開く音がしたので、その方向を見る。
そこには桶のようなものを手にしたブリオッシュの姿があった。
ブリオッシュは俺の姿を見るや否や、信じられない物を見たように目を見開いた。

「渉殿ッ!」
「ブリオッシュか」

そして大きな声で叫ぶ彼女に、顔をゆがめながら声を上げた。

「何をしているでござるか!! 今日は絶対安静でござる!」

どうやら目を見開いたのは、俺が立っていたからのようだ。

「それは結構ですもうほとんど完治しました………分かりました」

俺の言葉を遮るように、ブリオッシュから無言のプレッシャーが襲う。
それに勝てるような俺ではなく、素直に従うことにした。
ベッドに横になった俺を見て、安心したのかほっと安堵の息を漏らすと、ベッドの横に会った椅子に腰かけた。

「渉殿が目覚めてくれてよかったでござる。もし私のせいで渉殿が死んだら、私は………」

ブリオッシュの表情は見えなかったが、両手が力強く握りしめられていた。

「あれはブリオッシュが悪いわけじゃない。単に俺が気を抜いていただけだ。あ、体調管理もできていなかったも加わるか」

後半はジョークのつもりで言ったが、ブリオッシュの表情は変わることはなかった。

「………はぁ。過ぎたことで後悔するのなら、先の事を考えよ」
「え?」

俺の言葉に、ブリオッシュはどういう意味だと言わんばかりに首を傾げた。

「失敗で後悔している時間があるのなら、しないようにしておけと言う意味。俺にとっての師匠が言った言葉」

本当は少しだけニュアンスが違うのだが、別にかまわないだろうと考えながら意味を説明した。

「渉殿は、優しいでござるな」

だが、ブリオッシュを励ますことはほんの少しであっても出来たのだから、考えないでおこう。

「あ、今果物を持ってくるでござるから少し待っていて――キャッ!?」
「あぶなッ!」

徐に椅子から立ち上がったブリオッシュは、何かに躓いたのか前のめりに倒れようとしていた。

「うわッ!?」

俺は慌てて彼女の前に回り込むと倒れようとする体を支えようとするが、受け止める体制が出来ていなかったためかそれとも体が感知していないために、力が抜けているのか俺共々地面に倒れた。

「不覚でござる……渉殿、大丈夫で――」

ブリオッシュの言葉が、途中で途切れた。
何故かと思えば俺の目の前に、ブリオッシュの顔があった。
眼は潤い頬を赤く染めたその姿は、何時もの大人の風貌を纏わせる彼女には似つかわしくない”一人の少女”を感じさせる物だった。

「渉殿……」

慌てて退くかと思ったが、ブリオッシュは俺の名前をか細い声でつぶやくと目を閉じて逆に近づけてきた。

「え? んむっ!?」

驚いた瞬間には、俺の口はブリオッシュの唇に塞がれていた。

(これって、まさか……)

俺はそれが何なのかが分かったが、引き離すことが出来なかった。
まるで金縛りにあったかのように、体が固まってしまったのだ。

「ッ!?」

正気に戻ったのか、ブリオッシュは慌てて俺から離れた。

「こ、これは……その、えっと……」

慌てた様子で視線を俺から逸らすブリオッシュの姿に、俺は声も出なかった。

「も、申し訳ない渉殿ッ! わ、私急用を思い出したゆえ、失礼するでござるッ!!」

そして、そう言って逃げるように部屋を飛び出して行ってしまった。

「………」

俺に出来たのは、立ち上がって彼女が去った扉を見ている事だけだった。

拍手[1回]

PR

IF-H 第2話 魔物退治

「渉殿」
「何だ?」

ロランさんに言われた場所へ向かう途中、ブリオッシュが俺に声をかけてきた。

「どうして渉殿だけ歩きでござる?」
「そうでござるよ。セルクルに乗れば楽でござるよ」

(またか)

前に同じ疑問を親衛隊長に投げかけられたのを思い出して、俺は思わずため息をつきそうになった。

「もしよかったら拙者のセルクルに乗らないでござるか?」
「む……それか私のセルクルはどうでござる?」

ユキカゼの提案に、不満げに表情を変えると、ブリオッシュも提案してくるが、一種のこれは闘争心か?

「どっちも却下! セルクルに乗らないのは、乗ることによって出来る危険を防ぐためだ!」

これ以上続けられて変な方向に話が進む前に、俺は理由を話した。

「危険……とは?」
「動物の足を狙った攻撃は乗っているものに不意打ちをする一番手っ取り早い方法。確かに動物に乗れば移動労力は軽減できるけど、危険が伴う」

首を傾げているユキカゼに、俺は出来るだけ分かりやすく説明をした。

「なるほど」
「さて、セルクルはそろそろ降りた方がいいかもな」

俺の説明にすごいとばかりに頷いているユキカゼをしり目に、俺は静かに二人に告げた。

「………そうでござるな。この先は空気が違う……確実に魔物がいるでござる」

ブリオッシュも先から漂うよどみを感じているのか、真剣な面持ちで答えた。
その表情は言うのであれば”剣士”を思わせる物だった。
そして、少しばかり開けた場所で二人はセルクルから降りた。

「行くでござるよ」
「はいっ!」
「了解」

ブリオッシュの合図に、ユキカゼと俺は気を引き締めて返事をした。
そして奥へと足を踏み入れるのであった。










開けた場所から進んだ場所は芝生で覆われ、脇には草木が生い茂るという、一種のジャングルのような場所だった。

「これはいかにも出そうな場所でござるな」
「お館さま、周囲に魔の気配がします」

辺りを見回しながらその感想を述べるブリオッシュに、ユキカゼは何かを感じ取ったのか静かに告げた。

「渉殿、気を付けるでござるよ。今回のは今までの比ではないでござるゆえ」
「分かりました」

ブリオッシュから注意され、俺は静かに返事をした。
確かにこちらに向けての敵意を感じる。
だが、分かるのはそこまで。
今の俺(・・・)に分かるのはそれだけだ。
まあ、普通はそれだけでもすごいと言われるほどのレベルだが。

「二人とも、無茶だけはしないように」
「その言葉」
「そっくりそのまま返すでござるよ」

俺の注意に、ブリオッシュとユキカゼが反論した。

「私は、渉殿の方が心配でござる」
「そうでござるよ。渉殿の方が見ていて危なっかしく感じるでござるよ」

ブリオッシュに続いてユキカゼが言ってきた。

「………俺が無茶するのはお前たちを守る時か、仲間を守る時ぐらいだ」
「ッ!? そ、そうでござるか」
「お、恐れ入ったでござる」

俺の言葉に、なぜか頬を赤らめ視線を俺から逸らしながら答える。
その時、ふっと敵意が強まった。

「どうやらあちらさんはせっかちさんだな。自分から来たようだ」
「そうでござるな」

俺の軽めの言葉に、ブリオッシュとユキカゼは武器を構えながら返すと、来るであろう魔物に備えた。
そしてその魔物は俺達の前に躍り出た。

「グゥゥゥゥ」

その魔物は犬ぐらいの大きさで、色はグレーだった。
爪先は非常に鋭利で引っ掻かれでもしたら、下手すれば致命傷だけは避けられない。
おまけに牙ときた。
噛まれたら大ダメージだ。
どちらにせよ、この二点にだけ気を付ければいいだろう。

「数は5匹。どうやら、一瞬で片が付きそうだ」
「いや、それはまだ早いでござる」
「来るッ!」

ブリオッシュとユキカゼが言いきった瞬間、さらに俺達の背後や周辺に魔物が姿を現した。
どうやら前方にいた魔物と同じタイプらしいが、数がものすごく増えた。

「どうやら敵は数で攻めてきたようだ」
「うむ、私たちはものの見事に囲まれているでござるな」
「油断は禁物でござる」

俺達は互いに背中を合わせ、意識を集中する。
勝負は一瞬。
判断を誤ればただでは済まない。
そして……

「グオオオオっ!」

魔物たちは雄叫びを上げると、一気に襲い掛かってきた。
ブリオッシュとユキカゼが動き出す中、俺は一歩前に出た。

「紋章剣……」

冷静に、無駄のない動きで神剣に輝力を集める。
後は魔物たちをひきつけるだけ。
俺から見て右側の魔物をユキカゼが、真後ろの魔物をブリオッシュがそして真正面の魔物を俺が狩る。
息を集中していると、見えるはずのない二人の行動が手に取るようにわかった。
目まぐるしい速さで魔物たちを対峙していくユキカゼ、紋章剣で一気になぎ倒すブリオッシュ。
そして、目の前まで迫る魔物たちの姿。

(今だッ!)

「裂空一文字ッ!!」

一気に正宗を横に薙ぎ払うように振るう。
魔物たちは断末魔を上げることなく消滅した。

「ふぅ………二人ともお見事でござる」
「お館さまこそ」
「それを言うなれば二人の方がだ」

ブリオッシュの労いの言葉に、ユキカゼと俺はそう返した。
俺がやったのはあくまで真正面の魔物だけだ。
実際ブリオッシュは二方向の魔物を相手にしたのだ。
だからこそ、俺達はそう返したのだ。

「いやいや、渉殿の方が見事でござるよ」
「お館さまの使っていた紋章剣を、あそこまで再現できるとは羨ましいでござるよ~」
「そ、そこまですごくはない」

ブリオッシュとユキカゼの称賛の言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
すると、それを見ていた二人はからかうような目で俺を見てきた。

「いや~渉殿が照れるのを、始めて見たでござるよ」
「顔真っ赤っかでござるよ」
「二人とも、人をからかうのも大概に――ッ!!」

二人の言葉に、注意をしようとした俺の目に信じられない光景が見えた。

「……? そんなに目を見開いて、どうしたのでござる?」
「ブリオッシュ、後ろだッ!!!」

俺の変化に気付いたブリオッシュが首を傾げて訪ねてくるが、俺は大きな声で答えた。
俺が見た光景、それは草むらから飛び出てブリオッシュを狙う魔物の姿だった。
魔物をすべて狩ったという事実が、俺達に油断を生んでしまったようだ。

「後ろでござる―――ッ?!」

俺に言われて後ろを見た時、すでに魔物がブリオッシュに目掛けて飛び掛かっていた時だった。
その足にある鋭利な爪を、振り上げながら。
ブリオッシュもその光景に固まって動けなかった。

「クソッ!」

俺は一気に駆け出す。
距離にして約1m。
今の速度なら2秒でブリオシュの前に出られる。
後は0.5秒で武器を構えて受け止められれば、彼女を守れる。
でも、どう見ても残された時間は1秒もなかった。

(やるしかないか)

俺は慌てて魔物に向けて手をかざすと意識を集中した。

(戻せるのは2秒。猶予時間は0.5秒か)

俺がやることそれは、時間操作。
相手の行動時間を戻すものだ。
一種の逆再生のようなもので、やられた者は時間が戻されたことに気付かず、同じ軌道と速度で行動する。
戻せる時間の限度は5秒。
そこまで戻せる余裕がないため、2秒だけなのだ。
時間を操作するのはかなりの集中力を要する。
それ故、今の状況ではこれでも精一杯なのだ。

「なッ!?」

魔物がまるで巻き戻されていくかのように後退するのを見ていたブリオッシュは、驚きに満ちた声を上げる。

「はぁッ!!」
「きゃ!?」

俺はブリオッシュを突き飛ばすような形でその場から離れさせる。
後は半回転して魔物の方を向いて、神剣で受け止めればいい。
その後は軌道をそらし、怯んだ隙に一気に斬り込む。
それが俺の立てたプランだった。
だが……

(体がッ!)

体は俺の考えに反して、まるで鉛のように動かなかった。

(体中を襲うこの倦怠感……まさか)

俺は、その原因に心当たりがあった。
しかし、そんな事を考える時間はなかった。

「渉殿ッ!!!!」

俺を呼ぶ、ブリオッシュの悲痛な声が聞こえた。
何故か背中が痛かった。
そして、足から力が抜けて俺は地面に倒れた。

(何でだ?)

疑問に思って視線を動かす。
口元に手を当てて普通な表情を浮かべるユキカゼの姿が見えた。
ユキカゼが見ている方向を見てみた。
そこには真っ赤な”何かが”見えた。

(ああ、そういう事か)

それで俺はこの理由が分かった。
俺は、背後から来た魔物の爪によって貫かれたのだと。
それを理解したのと同時に、意識が遠のいて行く。

(まあ、女を守って死ぬんだから、少しは自慢できるかな)

そんな事を思いながら、俺は意識を手放す。

「いやあぁぁぁッ!!!」

その寸前に誰かの叫び声を聞きながら。

拍手[0回]

IF-H 第1話 渉の選択

来てしまった。
いや、ここに来るのが嫌な訳ではない。
だが、なんとなく嫌なんだよな。

(絶対のこの前の事で文句を言われる)

そう思った時両肩を掴む人物がいた。
同時に、ものすごいオーラを背後から感じる。

「渉殿?」
「私たちに、何か言う事はないでござる?」

うん、やっぱり怒ってた。
声は穏やかなのに、二人が放つオーラは全く穏やかじゃない!!

「わ、悪かったって。でもあんな状態で寝られるほど、俺は図太い神経はしてないんだ!」
「「……イクジナシ」」

二人は俺に向かって呆れた風に言った。

(二人同時に言わなくても良いだろうに)

俺はため息を一つつくと、後ろを振り向いた。

「二人に頼みがある」
「「た、頼みでござるか!?」」

俺の切り出した言葉に、二人が驚いた様子で叫んだ。
………なぜか頬を赤らめて。

「な、何でござるか? (渉殿の頼み……これってもしかしてデートの誘いでござるか!?)」
「私達に出来る事だったら何でもするでござるよ(デートの誘いでござろうか? でも二人一緒だなんて……複雑でござる)」

(………)

何でだろう、二人の心の声が聞こえてきそうな気がする。
きっと俺の思い違いだろう。
俺も疲れてるのかもしれない。

「魔物関連の事だ」
「「………」」

俺の言葉に、二人の表情が変わった。
決して、がっかりとした表情はしていない。










「なるほど……事情は分かった。ユキカゼ、準備を」
「はい! お館さま」

ロランさんから聞いたことをそのままブリオッシュに告げると、ユキカゼに指示を出した。

「悪い。こういう魔物関連については二人の方がエキスパートだから、頼らせてもらったが、迷惑だったか?」
「まったく。逆にうれしいでござるよ」

ブリオッシュは、微笑みながら答えた。

「嬉しい?」
「うん。だって――「お館さま―! 早く来てください!」――それじゃ、私も失礼するでござるよ。ちょっとだけ待ってて欲しいでござる」

何かを言おうとしたブリオッシュの言葉を遮るように、ユキカゼが早く来るように促すと、ブリオッシュは少しばかり急いだ様子で、屋敷の中に入って行った。
その後、二人が出てくるまで、俺は静かに待つのであった。

拍手[0回]

IF第16話 特別任務/選択の時

風月庵に言った二日後、俺は宛がわれた部屋で目を覚ました。

「………」

だが、最初に感じたのは、倦怠感だった。
体がまるで鉛のように重い。
しかも何だか体がほてっているような気も。

(風邪か?)

俺はそう解釈すると、自分の体に治癒能力を高める術式を組むとベッドから起き上がった。
風邪程度でどうにかなるほど、俺は軟じゃない。
そして俺は礼装を着ると外に出た。










朝食を食べ終えた俺が、エクレールに連れて行かれたのは、騎士団長でもありエクレールの兄でもあるロランさんの所だった。

「魔物退治!?」

そして唐突に告げられた内容に、エクレールが声を上げた。

「そうだ。姫様によると、ここから少々離れた森の方で大きめの魔物が姿を現したようだ。まあ、野生動物とは思うが、危険であるため退治する様にとの事だ」

ロランさんが説明するが、俺はちっとも頭に入ってこない。
なぜならば体の調子が起きた時よりさらに悪くなっているのだ。
体が重くてまっすぐ歩けなく、体がふらふらする。

(これってもしかして……)

俺はその症状に心当たりがあった。
だが、それは今の俺にとっては最悪な事態でしかない。

「――――る、渉!!」
「な、何だ!?」

考えに耽っていると、突然耳元で大きな声で呼ばれ、俺は驚きのあまり飛び退いた。

「『何だ』ではない! 話を聞いていたのか?」
「悪い、聞いて――――ごふぁ!?」

答えるよりも前に、エクレールに頭を殴られた。

「魔物退治だ! お前が向かうのだ!!」
「なぜに?」
「生憎、人員が割けないのだ。勇者殿も主席と共にお城内を歩いている。エクレールも、この後訓練が合って手を離せない。そこで君に頼みたいのだ。引き受けてくれるか?」

俺の疑問に、ロランさんが答えてくれた。
俺の答えなど、既に決まっている。

「勿論ですよ。その任務、引き受けさせてもらいます」
「そうか。では、早速で悪いが準備を整え次第向かってくれ」
「はい!」

俺はロランさんに威勢よく返事をする。
俺の体調の事が心配だ。
何も起こらなければいいが。

「あの、ロランさん」
「何かな?」
「この魔物退治に、ダルキアン卿たちを連れて行っても良いでしょうか?」

俺はロランさんに訪ねた。
魔物退治であれば人員も多い方がいい。
あの二人はそれに最適だった。

「勿論だ。二人が快く引き受けてくれたら、だが」

ロランさんもOKを出してくれた。
俺は微妙にOKを出さない場面が想像できなかった。

「それでは、失礼します」

俺は、ロランさんに一礼するとそのままフィリアンノ城を後にする。
神剣はすでに持っているので、問題はない。
問題があるとすれば……誰を誘うかだ。
ユキカゼかブリオッシュか、それとも二人か。
ユキカゼを誘えば機動力を生かした戦いが出来そうだ。
逆にブリオッシュを誘えば、同じ剣の使い手として相性的にはいいだろう。
もしくは二人を誘えば、人員的にはこれ以上ないほど万全だろう。

(さて、どうするか………)

俺は、誰を誘うかを考えながら風月庵へと向かうのであった。
こうして、突如湧いて起こった魔物退治が始まった。

拍手[1回]

IF第15話 戸惑いとお風呂

「ん………」

あれから数日が経ち、俺はフィリアンノ城の一室で目を覚ました。
あの後、ブリオッシュさんから事情を聞かされた姫君によって、部屋が用意されたのだ。

「う……ぐ……」

起き上がろうとした瞬間、頭に痛みが走った。
だが、それもほんの一瞬の事で、すぐに痛みはなくなっていた。

(一体なんなんだ?)

首を傾げながらも、俺は起き上がって礼装に着替えると、表に出た。










「はぁ……」

外に出ると、思わずため息が漏れた。
それもこれも原因は数日前の夜の出来事だ。

『拙者、渉殿の事が………好きでござるっ!!!』

それはユキカゼさんの告白だった。

(本来なら断るべきだよな?)

今更ながら自分を責める。

(俺が人に恋をする資格なんてないんだ。俺みたいなやつが幸せになるなんてもってのほか。なのに……どうしてッ!!)

俺に資格がないというのは自分が一番分かっている。
だから、すぐさま断るべきだったのだ。
それなのに、俺は何も言えなかった。
断ることも、受け入れることもせずに。
断ってしまえばユキカゼさんが悲しむ。
だから断らなかったのかもしれない。

(ホントに、俺って最低だな)

自分の弱さを他人のせいにしている自分が、本当に嫌になってくる。

(しっかりと、考えないとな……)

先延ばししていても、いずれは選ばなければいけない時が来る。
その時に、後悔をしないように選ばなければいけない。
例えそれが、どのような結果になろうとも。





3人称Side

同日、風月庵の境内。
そこには手に箒を持って、掃き掃除をしているユキカゼの姿があった。

「はぁ……」

ユキカゼは、ため息をこぼした。

(どうして、拙者はあんなことを)

彼女も渉と同じ内容で悩んでいた。

(うぅー。今考えても分からないでござる)

彼女が突然してしまった告白。
その理由に彼女は首を傾げていたのだ。

(どうしてか、あの時に告白したほうがいいと思ったのでござるが………どうしてでござるか)

同じような問いかけが、頭の中でぐるぐると駆け巡っていた。

「渉殿と話が出来る自信がないでござるぅ」

頭を抱えるユキカゼを見つめるのは、狐たちだった。











所変わって、フィリアンノ城に続く道。
そこを歩く茶色の髪をした女性がいた。

(渉殿に、この服を返さないといけないでござるな)

そう思っての行動だったが、この時、彼女はセルクルに乗って行くという考えはすっぽりなかった。

(渉殿、ユキカゼと話していたが、あれは………)

女性は、渉とユキカゼが告白をしている時、それを見ていた。
尤も、声までは聞き取れなかったが、彼女の表情から何を言っていたのかが分からない彼女ではなかった。

(私は、彼女に勝てるのでござるか?)

その時、彼女を知っている人が彼女の表情を見ていたら、きっと別人のように見えただろう。
それほどまで、彼女は一人の恋する乙女の表情をしていたのだ。

(ッと、ダメでござるな。弱気になったら負けでござる)

女性は、内心で苦笑いを浮かべると、そのままフィリアンノ城へと向かって行くのであった。

Side out





しばらく散歩をして、部屋に戻ろうとした時だった。

「渉殿~!」

俺を呼び止めた声の主は、ブリオッシュさんだった。

「ようやく見つけたでござるよ」
「どうしたんだ? いったい」
「これを返しに来たでござるよ」

そう言って差し出してきたのは、青地の礼装だった。

「ありがと」
「どういたしましてでござるよ」

ブリオッシュさんの頬が少しばかり赤いが、俺も人のことを言えないぐらい赤くなっているだろう。

「ところで――「ダルキアン卿!」―」

遠くの方で少女の声がした。
声のした方を見れば、その人物はエクレールだった。

「何かご用ですか?」
「い、いや用と言うものではなくて、ちょっとした野暮用でござる」

ブリオッシュさんが若干動揺しながら答える。

「ん? ダルキアン卿、顔が赤いですが大丈夫ですか? 渉! ダルキアン卿に何をした!!」
「いや、してないから!!」

だが顔の赤さまでは隠せなかったのだろう、エクレールはブリオッシュさんに尋ねると、俺を問い詰めてきた。

「そ、そうでござるよ。渉殿は何もしてないでござる。ここまで走ってきた故でござるよ」
「走ってッ!? ダルキアン卿、どうしてセルクルに乗られなかったんですか?」

ブリオッシュさんの言葉に、エクレールが目を見開いた。
対する俺もだが、驚いていた。

「そ、その運動でござるよ」
「そ、そうですか……」

エクレールが不審がっている。
俺とブリオッシュさんを交互に見合わせると、エクレールは口を開いた。

「渉、ダルキアン卿を風月庵に送ってやれ」
「へ!?」

エクレールの指示に、俺は思わず声を上げてしまった。

「女性を一人で返すというのかお前は? それにこの間の姫様の謁見をさぼった罰だ」

若干怒りを込めたような表情で俺に告げるエクレール。
やっぱりこの前の事を、相当怒っているようだ。
謁見とか公の式典とかは、俺はどうも苦手なんだよな。

「分かりました。ありがたく拝命しましょう」
「最初から素直であればよいのだ、全く。………では、ダルキアン卿、こんなので申し訳ないですが失礼します」
「う、うむ。心遣い感謝するでござるよ」

ブリオッシュさんがそう答えると、エクレールは一礼して去って行った。

(悪かったな! こんなので)

俺は、心の中で吼えた。

「ふぅ………それにしても、渉殿とエクレールは随分と仲が良いことで」
「あれが良いように見えるのか? 俺にからすれば煙たがられているような気がするんだが?」

ジト目で俺を見ながらそう言ってくるブリオッシュさんに、俺はそう返した。

「はぁ………それよりも、行くでござるよ」
「………了解です」

何時ものように左腕に抱きつくブリオッシュさんに、ツッコまずに風月庵に向かって歩き出した。
その道中会話はなく、曲がる場所は彼女が事前に言ってくれたので、迷うことなく送って行くことが出来た。
そして、後は帰るだけなのだが……

「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」

俺は風月庵の居間に置かれたちゃぶ台を前に座っていた。
帰ろうとしたところ、お礼にでもと夕食をごちそうになることになったのだ。

「………」
「……」
「……」

食事中、俺達の間で会話はなかった。

「わ、渉殿。その料理どうでござる?」
「おいしい」

沈黙を破るように聞いてきたユキカゼさんの問いかけに、俺はそのままの感想を口にした。

「そ、そうでござるか……~~~~ッ!!」

おいしいと言われたことがよっぽど嬉しいのか、体をくねらせて喜びを表現していた。
だが、食事中であることを思えば、ちょっとばかり落ち着かない。

「ユキカゼさん。うるさい」
「あぅ……って、渉殿!」

俺の注意に、一瞬しゅんとなるユキカゼさんだったが、何かに気付いたのか身を乗り出してきた。

「な、何だ?」
「拙者の事をさん付けではなく”ユキカゼ”と、呼び捨てで呼んでほしいでござるよ」

何かと思えば、呼び方の問題だった。
どうやらさん付けがよっぽど嫌だったらしい。
まあ、俺の自意識過剰でなければ、別の意味もあるような気もするが。

「分かったから。ユキカゼ……これでいいだろ?」
「はぅわ!? 渉殿に、呼び捨てで………~~~~ッ!!!」

再び体をくねらせるユキカゼさん……でわなくユキカゼ。
注意する気も起こらず、俺は黙々と料理を口に運ぶ。

「渉殿、だったら私の事も、呼び捨てで呼んで欲しいでござる!!」
「二人とも、今は食事中――「よ・ん・で!」――………ブリオッシュ」

ブリオッシュさん………ではなくて、ブリオッシュの背後に竜のようなものが見えそうな勢いに、俺は言われた通りに呼び捨てで呼んだ。
もう俺は、二人を注意することを諦め、料理を黙々と口にするのであった。











その後夕食も終わり、食器の後片付けが終わるとユキカゼはお風呂に入った。

「お館さま、上がったでござる」

そう言って入ってくる彼女の姿は、ピンク色の寝る時用の浴衣のようなものを着込んでいた。
髪をストレートに伸ばされており、まるで別人に感じられた。

「うむ。それじゃ私も入るとしよう」

ブリオッシュは、そう口にすると、お風呂の用具一式を手に去って行った。

「………」
「………」

ブリオッシュがいなくなった途端に、部屋は静かになった。
狐たちはすでに眠りについている。

「あのさ」
「ッ!?」

俺が話しかけると、横にいたユキカゼが体を震わせた。

「この間のあれの事だけど……」
「そ、それはその何と言うか………その」

俺の言いたいことが分かったのか、ユキカゼはドモリながら答えようとしていた。

「返事を少しだけ、待ってほしい」
「え?」

俺の言ったことが予想外の事だったのか、ユキカゼは驚いた様子で俺を見た。

「俺はユキカゼの事が好きだ。でも、それはもしかしたら友人としての”好き”かもしれない。ユキカゼの方もまた然りだ。だから、もう少し考える時間が欲しい。ちゃんと答えは出すつもりだ。その時に、もう一度ユキカゼの気持ちを聞かせてほしい」
「渉殿……」

それは、俺が導き出した答えだった。
結局、先延ばしになった。
でも、急いては事をし損じる。
だからこそ、しっかりと考えなければいけない。
しっかりと、でもできるだけ早くに答えを導き出す。
それが、俺の答えだった。

「分かったでござる。渉殿が答えを出すまで、待つから、ちゃんと聞かせてほしいでござる」
「ああ、約束だ」

取りあえず、話はまとまった。

「上がったでござる~」

ちょうどそのタイミングで、ブリオッシュが上がってきた。
ユキカゼと同じく紫色の寝る時用の浴衣を着ていた。

「さて、最後は渉殿でござるよ」
「浴場は、そこを出て少し歩いた場所にあるから」

ユキカゼとブリオッシュが口々に、浴場に入れと言ってくる。

「一応聞くが、拒否権は?」
「「ないよ(でござる)」」

俺の問いかけに、二人同時に返ってきた。

「はぁ……わかりました」

俺は、ため息をつきながら部屋を出るのであった。










ブリオッシュたちの言った通りに行くと、浴場はあった。

「こりゃまた、桁違いなもんだな」

そこは露天風呂であった。
地面も壁も、岩で形成されていた。
俺は、とりあえず霊術を行使してバスタオルなどを出すと、服を脱いだ。

(一応やっておくが)

そして俺は念のために出入り口付近に、入ろうとするとビリッとする(人体に影響はない)電撃系のトラップを仕掛けた。
体を洗い、お湯につかった。

「ふぅ~。これは中々だ」

体の疲れが取れるような気がして、俺は久々にリラックスしていた。
一歩間違えればこのまま眠ってしまうくらいに。

「「わきゃ!?」」

よく知る二人の悲鳴が聞こえた。
そう、出入り口付近で。

「………放っておこう」

気絶はせずに、ただビリッとくるだけなので、放っておいても問題はないだろう。
というより、本当に来るとは思わなかった。
そんなこんなで、俺は、一時の入浴タイムを味わうのであった。










「お前ら、何をやってんだ? 一体」
「本当に、申し訳ないでござる」
「反省しているでござる」

お風呂から出て就寝用のトレーナーを着込んでいる俺の前には、正座をしている二人の姿があった。
どうしてかは簡単だ。
俺がお説教中だからだ。

「今回は電撃だったが、次やった時はどっかの川の中に出るようにするからな」

話を聞く限り、俺と一緒に入ろうとしたのだとか。
嬉しいような、恥ずかしいような。
そんな複雑な心境が、さらに俺の口を軽くしていた。

「さて、俺はそろそろ帰るよ」
「駄目でござる」

立ち上がろうとした俺を足止めする様に言うユキカゼ。

「………なぜ?」

俺は理由を尋ねた。

「もう夜も遅いでござるし」
「夜になると魔物が出てきたりして、色々と危険だから。今晩はここで止まって行って」

魔物とかはある程度であれば俺単体で対処可能だ。
だが、拒否権はないような気もするので、俺は素直に厚意に甘えることにした。
するとどうだろうか?
二人は目にもとまらぬ速さで布団を引くと、俺に横になるように言ってきた。

「それじゃ、渉殿。お休みでござる」
「お休みでござる、渉殿」
「………お休み、ブリオッシュ、ユキカゼ」

俺の右側にはブリオッシュが、左側にはユキカゼがいるという、もはや両手に花状態。

(これで寝れるか!!)

俺は心の中でそう叫んだ。
この中で眠れるのは能天気野郎か、鈍感かバカかのどれかだろう
俺は、目を閉じて二人が寝静まるのを待った。
数分して、二人は何とか眠りに落ちてくれたようだ。
後は、俺が静かに起きて布団をたたんで礼装に着替えてから、風月庵を後にするだけだ。
そう、たったそれだけだった。

「すぅ……すぅ……」
「………はぁ」

心地よさそうに寝ている二人をよそに、俺はため息をついた。
ユキカゼは俺の左腕を、ブリオッシュは右腕を掴んでいる。
動けば絶対に起こしてしまう。
なので俺は、静かにユキカゼの手を俺の腕から離す。
そして、ブリオッシュの手も同じように俺の腕から離すと起き上がった。
そして、素早く布団をたたむと、礼装を着込み逃げるように風月庵を後にした。

「はぁ………」

どうしても、ため息が出る俺であった。





余談ではあるが、その後俺がフィリアンノ城に戻れたのは、夜が明けてから数時間経った時だった。

拍手[1回]

カウンター

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R