健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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IF-Y 第10話 脱出

「ん……」

気が付くと、俺は見覚えのない場所で寝ていた。
そこはまるで何だかの紛争でもあったのかと思うほどひどい状態だった。
何かが燃えたような匂い。
あちらこちらでは白煙が立ち込めていた。

(って、どうして俺は動ける?)

次に気づいたのは疑問だった。
記憶が正しければ俺は天照を使ってユキカゼを救ったはず。
天照は、相手が神だろうが関係なしに命を代償にする。
ならば俺は動けるはずもない。

「俺自身も、死んだという実感がない」

まさか失敗したのか?
俺の願いは聞き入れてもらえずに、全てが滅ぼされたとでも言うのか?

「いや……」

決めつけるのはよくない。
あらゆる可能性を頭に入れて、動かなくてはいけない。

(取りあえず、歩いてみるか)

俺はそう考え付くと、そのまま足を進めた。











「人っ子一人もいないな」

どのくらい歩いただろうか?
俺は思わず愚痴をこぼした。
歩いても歩いても景色に変化がない。
というより、人の姿もない。

(ここは一体どこなんだ?)

ここでは何故か因果律を読み取ることが出来なかった。
それどころか体力や霊力共に満ち溢れている感覚まであった。
明らかに、この空間は異常だ。

「……ん?」

そんな時、俺は人の気配を感じたような気がした。

(……)

「行ってみるか」

感じたのはほんの一瞬だったため、人が本当にいるかどうかの確証はなかったが、俺は感じたであろう方向へと足を向けた。
元々、目的地などは無かったのだから、迷うこともないし。
そう思って足を進める。
そして歩くこと数分。

「…………ひっく」

不意に聞こえてきた誰かの嗚咽のような声。
それは俺にとっては非常に聞き覚えのある声だった。
俺はその声の方向へと足を向ける。
その声の主はすぐに姿を見せた。

「何、泣いてんだ?」
「ふぇ?」

俺の言葉に、その人物は泣くのをいったん止めると俺の方へと顔を向けた。
そして俺の姿を見るや、信じられないとばかりに目を見開かせる。

「いや、こういう時は”どうして泣いてるか?”だったか。……ユキカゼ」

目の前で蹲りながらじっと俺の事を見ているユキカゼに、俺はさらに声をかけるとユキカゼはゆっくりとではあるが立ち上がった。

「ど、どうして渉殿がここに?」
「さあ? 俺も気づいたらここにいた」

ユキカゼの疑問に、俺は肩をすくめて答えた。

「で、ここはどこなんだ?」
「ここは拙者の故郷でござる」

俺の問いにユキカゼはそう答えると辺りを見回した。
焼け焦げているだけの空間を。

「昔、拙者が暮らしていたところに魔物が襲ってきたのでござる」

ゆっくりと語られるその言葉には、悲しみが感じられた。

「村の者も、親でさえも魔物に殺されたのでござる」
「……」

それは、ユキカゼにとっては一番つらい記憶。
であるのならば、ここは彼女の精神世界なのかもしれない。

「それであそこの方で泣いていた時に、お館さまに拾われたのでござるよ」

最後は明るく言った。

「それじゃ、どうして泣いてたんだ? ここにいて過去の事を思い出したのか?」
「違うでござる」

俺の問いに対して、ユキカゼはきっぱりと否定した。

「昔のことは、もう区切りをつけているでござる。ただ、もうお館さまにも渉殿にも会えないと思ったら、なんだか悲しくなってきて……」

そういうと、ユキカゼは俯いてしまった。

(どうして俺はここにいる?)

俺が思った疑問はそれだった。
でも、なんとなくわかるような気がする。
それはきっと……俺に与えられた”時間”なのだと。

「ユキカゼ」
「何でござる?」

俺は、言おうと思っていたことを告げることにした。

「前に、話したいことがあるって言ったの覚えてるか?」
「勿論でござる」
「それを今話そうと思う」

俺は頷くユキカゼに、そう切り出した。

「ユキカゼ、俺は一人の女性としてお前のことが好きだ」
「ッ!?」

俺の告白を聞いた瞬間、ユキカゼは声にもならない悲鳴を上げた。
それと同時に”空間”そのものも揺らぐ。

「う、嬉しいでござる」

ユキカゼは顔を赤らめながらも口を開いた。

「拙者も、渉殿の事が好きでござる!」
「うわッ!?」

そう言って笑顔で抱き着いてきたユキカゼを、俺はよろけながらも受け止めた。

「あ、空が……」

ユキカゼの言葉と同時に、曇り空が青空へと変わって行った。
やはりここはユキカゼの精神世界。
ユキカゼの心理状態とリンクして、この空間自体の様子も変わって行く。

(だとすれば……)

俺はなんとなく予感していた。
この後起こるであろうことを。

「ユキカゼ」
「何でござる?」

抱き着いたままの姿勢で、俺は言葉を続けた。

「どうやらお待ちかねのようだ」
「へ?」

俺の言葉に首を傾げながらもユキカゼは俺から離れると俺の見ている方向へと視線を向けた。
そこにあったのはあの時の妖刀だった。

「な、なんでこれがここに……」
「覚えてないのか? あの妖刀はお前の中に入って行った。ユキカゼの心の中に芽生えたプラスのエネルギーに感化されて姿を現しているんだろう」
「………」

俺の説明にユキカゼは何も答えない。
目の前にある妖刀は只々怪しげな光を発しているだけだ。
妖刀や魔物などにとって、プラスのエネルギーは邪魔な存在だ。
だとすればそれを消そうとするために現れるのは当然のことだった。

「拙者たちはどうなるのでござる?」
「奇跡的に、向こうから攻撃を加える意思はないようだ。だが、このまま放置していればここからは出ることはできないだろう」

それは奇跡だった。
何故か妖刀自体にこちらに危害を加える意志を感じない。
表を操ることでこちらに危害を加えるようなものはないのか、それとも俺達に危険性を感じないのか。
だが、それはどうでもいいことでもあった。
はっきりしているのは、ここから出なければいけないということなのだから。

「ど、どうやってあれを封印すれば……ここでは紋章術も使えないでござるし」
「果たしてそうだろうか?」
「わ、渉殿?」

不思議そうな顔で見てくるユキカゼに、俺はさらに言葉を続ける。

「ここはユキカゼが作り出した世界。ならば、それはユキカゼ自身が作れる」
「拙者自身……でござるか?」

良く分からないのか頭にはてなマークを浮かべているような様子で聞き返してくるユキカゼに、俺はさらに噛み砕いて説明する。

「要するに、ユキカゼが剣を出したいと念ずればそれが出てくるということ」
「な、なるほど~。それじゃ、やってみるでござるよ」

俺の説明の意味が分かったユキカゼは、感心した様子で頷くと目を閉じた。
何かを心の中で念じているのかと思った次の瞬間、突然周囲に光が迸る。

「うおっ!?」
「ほ、本当でござる」

俺とユキカゼの両手にあるのは大きな太刀だった。
それは言葉では表現しづらいほどの美しさを持っていた。
剣自体が発する気も凄まじい物だった。
とはいえ……

「これでは戦いには不向きだな」
「うぅぅ、お恥ずかしい限りでござる」

剣の刃先がジグザグ状になっているため、ダメージを加えにくい。
それどころか、本気で切りかかったら折れるのではないかと思えるほど、薄かった。

「きっとこれが出てきたことには意味がある。それを考える時間はないから………」

俺はさっきとは別の理由で顔を真っ赤にしているユキカゼにフォローを入れつつ、目を閉じて霊力を剣に流し込む。
すると俺の手にする剣の刃先を包み込むようにして霊力で形成された刃先が現れる。

「おぉ~、なるほど。輝力で包み込んで補強すればいいのでござるな」

俺のやっているからくりが分かったユキカゼもまた同じようにして刃を形成する。

「でも、どうやってあれを封じ込めると良いでござろうか……」
「あの時のあれで十分だと思うが?」
「あれは、お館さまやみんなの助けがあって出来る術でござるゆえ」

文言に、ブリオッシュが入っていたりするのはそういった理由なのかもしれない。
あくまであれは、ブリオッシュとユキカゼの二人で成り立つ技なのだろう。

「だったら、俺の持っている紋章術で良ければ使うか?」
「え? 良いでござるか?」

ユキカゼの問いに俺は”もちろん”と頷いて答える。

「使い方と詠唱は覚えてるか?」
「勿論でござるよ!」

ユキカゼの自信に満ちた答えを聞いた俺は、妖刀に向き直る。

「それじゃ、始めるぞ!」
「はい!」

そして、俺達は一気に駆け出した。

「天高く舞い上がれ」

最初の先陣を切ったのは俺だった。
ユキカゼの創り出した剣は、数回切り付けても折れることはなかった。

「点に轟く一筋の光は!」

続いてユキカゼが妖刀を斬りつける。

「絶望の闇を打ち消す光となる!!」

止めとばかりに斬りつけると、ユキカゼは大きく舞い上がり、俺はバックステップでユキカゼと合流した。

「渉殿!」
「あ、行くぞ! ユキカゼ」

ユキカゼからの合図に、俺はユキカゼが天高く掲げる剣の腹に自分の持つ剣の腹を重ねる。
すると、二本の剣は剣先を伸ばし数mの大きさとなった。

「「紋章術、終焉の幻想郷!」」

タイミングを合わせて妖刀に向けて振るったその一撃が決め手となった。
妖刀に走る罅は徐々に広がって行き、やがてそれは光を放ちながら消滅していった。
そして光が俺達へと降り注いだ。

「うわぁ……」

その光に害のようなものはなく、神秘的な物となっていた。
ユキカゼも時を忘れて光に魅入っている。

「わ、渉殿。体が!」
「……大丈夫だ」

ユキカゼに言われて自分の手を見ると、透けていて地面が見えた。
俺は特に気にすることもなく冷静にユキカゼを安心させる。

「俺はここではお尋ね者だから、外に追い出されるだけだ」
「追い出されたら渉殿はどうなるのでござる?」

そのユキカゼの問いには、俺はどう答えればいいかと頭を悩ませた。
おそらく、これで俺の願いは成就したことになる。
そんな俺に来るのは”消滅”だ。

「どうにもならない。現実世界に戻されるだけだ」
「そうでござるか。ならば安心でござるな」

ユキカゼの安心した表情を見ると、胸が痛くなる。

「それじゃ、またな」
「またでござるよ。渉殿」

そのユキカゼの答えを聞きながら、俺はこの空間を経由してある術を施し終えるのとほぼ同時に意識は再び闇へと沈んだ。

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IF-Y 第9話 覚悟

「やぁッ!」
「■■■■■■ッ!!」

神剣を振りかざし迫る俺にそいつは火炎を放つとその場から飛び去る。
俺はしゃがみこむことで火炎をやり過ごす。

「ッく!」

着地していたそいつが猛スピードで俺に迫る。

「しゅんこうれんてんほう!」

俺とそいつの中間付近に衝撃波が放たれる。
それによってそいつの動きは少しではあるが止まった。
その隙を狙い俺は体制を整えるとそれを放ったであろう人物の元に飛んでいく。

「大丈夫でござるか? 渉殿」
「助かった!」

声をかけてくるブリオッシュに俺はお礼を言う。

「しかし、まったく変わらないでござるな」
「そうだな」

戦いを初めてどのくらいの時間が経っただろうか?
何度も攻撃を加えてダメージを入れたはずだ。
なのに、目の前にいるそいつはダメージが入っていることなどを微塵も感じさせない。
動きに陰りもなければ威力が落ちることもない。
逆に上がって行ってるようにも思える。

「紋章術を使えないのが痛いでござるな」

ブリオッシュがぼやく。
なによりもきついのはそれだ。
乗っ取られている状態とはいえ、媒体はユキカゼなのだ。
大ダメージを与えすぎれば、”核”に著しい負荷が掛かる。
それを避けるために、大ダメージを与える紋章術自体を封じ手にしているのだ。
霊術が残された効率的ダメージを与える方法だが、俺の霊力も残りわずかだ。
霊石は残りひとつだが、ここぞという時の為に霊力は温存したい。
その理由でこれも控えるようにしている。
であるならば残された手はただ一つ。
自身が持つ武器で地道にダメージを与えて行く。
それしかない。
ブリオッシュは言葉こそ余裕そうだが、声に余裕がない。
俺自身もだが。
さっきから感じる変な倦怠感によって、俺の動きは遅くなる一方だ。
おそらくは霊力が不足しているために起こる物質化への抵抗現象だろう。

「唯一の救いは、紋章術とかを使えないということぐらい……か」
「そうでござるな」

もしここで紋章術まで使われたら、もはや希望の光もないだろう。

「とにかく、もう一度”あれ”をやろう」
「あれ、でござるか……渉殿大丈夫でござるのか?」

俺の指示を聞いたブリオッシュが心配そうな表情を浮かべて訪ねてくる。

「大丈夫だ。さっきみたいにはならないさ」

そんなブリオッシュを安心させるように、俺は出来る限り笑顔で答える。
”あれ”とは俺が囮となり、ブリオッシュが一撃を加えるという戦法だ。
さっきは危なかったが二度も同じ失態はしない。

「よし、それじゃ行くか」

俺はそう気合を入れながら呟くと地面を蹴る。
向かうは魔物の元。
俺が見たのは、迫る俺を冷たく見つめる目と、振り下ろされた青色の炎を纏う右手だった。










「いつッ!」

気が付けば、俺は地面に倒れていた。
最初に感じたのは体中の痛み。
次に感じたのは周囲でぱちぱちとまるで気が燃えているかのような音と、燃えたぎる炎の音。

「一体何が……ッ!」

俺は痛む体に鞭を打って起き上がると、息をのんだ。
周囲はまるで地獄のようであった。
そこら中で燃える木々、草が生い茂っていた芝生も俺の周囲のみで焼き払われていた。
奥の方に目を凝らしてみると、そこにはこれを起こしたであろう魔物が立っていた。

「そうだ、ブリオッシュは……ッ!?」

慌ててブリオッシュを探した俺は、少し離れた場所で倒れている彼女の姿を見つけた。

「ブリオッシュ!!」

俺は攻撃をしないかに気を配りながら、ブリオッシュの元に駆け寄る。

「おい、しっかりしろ!」

ブリオッシュを抱き起して体を揺するが、反応がない。
俺は嫌な予感がして首筋に手を添える。

「脈はある……生きてる」

どうやら気絶しただけのようだ。
俺はほっと胸をなでおろした。

(大失態だ)

浮かぶのは後悔の念。
あの魔物は紋章術が使えないのではなかった。
ただ使わなかった・・・・・・だけなのだ。
それを俺は勝手に決めつけていた。
戦場で決めつける事こそ一番危険。
それは俺が一番よく理解していたはずだ。
あの魔物は少なくとも知恵がある。
最も効率的な場面で紋章術を使ったのだから、疑いの余地もない。

「…………」

周囲で聞こえる木々の燃える音。
それは嫌でも俺の最期を思い起こさせる。
自分に自惚れ、そして傲慢だったがために味方から止めを刺された時のことを。

「……はは」

出てきたのはなぜか笑いだった。
最早俺に残された道はない。
これは絶望なのだろうか?
もう、無理なのだろうか?

(いや、まだある)

俺が絶対に使わないと決めてかなり前に封じた”神具”を思い起こした。
それは先がさすまた状に分かれている杖。
あまりの危険さが故に封じていた神具だ。

(このまま何もできないんだったら……)

俺は覚悟を決めた。

「目覚めろ、”天照”!!」

その叫びに呼応するようにして、俺が掲げた掌の上に一本の銀色の杖が現れた。
それを人が見れば”美しい”、”神々しい”という感想になるだろう。
だが、これは見た目とは裏腹に最凶の神具なのだ。

――天照。

その昔、神が人へと手渡した万物の神具と言い伝えられている。
別名聖杯とも呼ばれ、どのような願いでも叶えることが出来る。
まさに夢の道具だ。
だが、甘い話には裏がある。
この神具は願い事をかなえるのと同時にその人物の命を代償にするのだ。
しかも、この神具は度のような神であろうともキャンセルすることもできない。
更に不老長寿の願いは無条件で叶えることが出来ないという問題点が付いて回る。
主に使われる用途は生贄などだ。
その為、偶然なのか俺の手元に現れた時、自分で神具に封印をかけておいたのだ。
だが、それを自分自身で解いたのだ。

「神具、天照よ。俺の命を以ってこの願いを叶えろ」

俺が選んだ手段。
それは、自分の命と引き換えにユキカゼを救うことだった。
きっと俺の願いは聞き入れられるだろう。

「目の前の人物……土地神、ユキカゼ・パネトーネを元に戻せ!」

俺の願いが最後まで言い切ったのと同時に、天照が眩い光を発した。
それは俺には”了承した”と告げているようにも感じた。
やがて、発し続けていた光は不意に消えた。

「………」

それと同時に、俺自身も地面に倒れる。
体中の力が一気に無くなったのだ。
全ての感覚がどんどん無くなって行くのを感じているのに、何故か恐怖心は湧いてこなかった。

(ああ、そうか)

俺の意識がどんどんと黒に染まってゆく中、俺は恐怖心がわかない理由が分かったような気がした。
それはきっと……

(ユキカゼが、助かるからなのかもしれな………)

そして、完全に俺の意識は途切れた。

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IF-Y 第8話 現れた敵と躊躇い

目の前に現れた九尾の狐のようなもの。
それは明らかに魔物の類いだ。
ならば俺達のすることなど単純明快。
目の前の魔物を排除すればいい。
ただそれだけのことだ。

「どうして……」

俺はそこから先の言葉を口にすることをためらった。
口にしてしまえば、目の前で起こっていることが現実になるから。
なにより、認めたくはなかったのかもしれない。

「ユキカゼ……なのか?」

ユキカゼが来ていた服を身にまとっている時点で、ユキカゼであることは疑いの余地もなかった。
でも、俺は聞かずにはいられなかった。

「クッ!」

だが返ってきたのは火炎による攻撃だった。

「大丈夫でござるか!? 渉殿」
「ああ。問題ない」

攻撃自体は風神の加護によって防いだが、体から力が抜けるような感覚に苛まれる。

「俺達の言葉は、ユキカゼには届いていないようだな」
「そうでござるな」

俺の呟きに神妙な面持ちでブリオッシュが応える。
あえて俺は”ユキカゼ”と呼称した。
それが現実を受け入れる事なのだから。

(しかし、何なんだこの力は? 普通のパワーじゃない)

驚くべきところはそこだった。
ずば抜けているのは身体能力だけかと思ったが、それだけではない。
今の彼女は”攻撃力”の面でも格段に強くなっているのだ。
それも、俺にも匹敵するほど。
いくら魔物化したとはいえ、これはおかしい。

(まさか)

「ブリオッシュ、聞きたいことがある」
「何でござる?」

目の前にいるユキカゼから視線をそらすことなく、横にいるであろうブリオッシュに声をかけた。

「ユキカゼはもしかして……」
「そうでござる」

俺の聞きたい内容が分かったのかブリオッシュは俺の考えを肯定する。

「そうか……」

それで彼女の正体は分かった。

――土地神
それはその土地にて奉られる神様のことだ。
階級としては下級でも、その力は普通(リコや姫君たち)よりも強い。

(となると厄介だな)

問題なのはこの後の対処法。
どうやっても彼女は助からない。
一番手っ取り早いのは浄化だ。
だが、浄化をすればユキカゼは消滅する。
浄化と言うのは負の物をプラスに変える効果があるが、それに彼女の”核”は耐えきれない。
今も強すぎる力によって核自体が負荷が掛かっているのだ。
核が壊れればもう二度と目覚めることはない。
それは”死”と同じだ。

(だとすれば)

一番可能性が低い方法がある。

「少しずつ攻撃を加えてダメージを蓄積させてユキカゼの意識を表に出す。ブリオッシュ、出来るか?」
「うむ。大丈夫でござるよ」

俺は確実に不可能だと思いながら、作戦決行を告げた。
例え99%不可能でも、1%だけでも可能性があるのなら。
俺はその可能性を信じてみたい。
それが俺の過去の過ちから学んだことだった。

「それじゃ、始めるか」

俺は風神の加護を止める。

「■■■ッ!!!」

魔物と化したユキカゼが声を荒げる。
それだけで空間そのものが揺れたような錯覚に囚われる。

「「はぁッ!!」」

そして、俺達は一斉に魔物の元へと迫る。
それは俺達の戦いの始まりを告げる物でもあった。

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IF-Y 第7話 終わりと新たな災禍

俺達がいるのは、周りが木々に囲まれた森の中だ。
あの後、魔物の元となった妖刀が落ちて行った場所を追いかけたのだ。
そして今目の前にあるのは、紅い蔦のようなものを不気味に動かしている妖刀だった。
その妖刀は近づく俺達に気付いてその動きを遅くさせる

「それにしても、我らの姫君と勇者殿には驚かされる。妖刀の贄となった子をああも見事に退治成されるとは」
「拙者は存じ上げておりましたよ。姫様もシンクも、ちゃんとできる子だと」

ブリオッシュの言葉に、ユキカゼが続く。
そう、あの大きな魔物は勇者シンクと、姫君によって退治されたのだ。
正確には元凶に戻すことが出来たということだが。
それでもすごい物はすごい。

「さすがは勇者と言った所か」
「そうであったな。さて、ここからは拙者のお役目でござる」
「「はいっ!」」

大剣を握りしめながら告げるブリオッシュに、俺とユキカゼは答える。
その瞬間、妖刀が牙をむく。
俺達に目掛けて赤い蔦のようなものを使って攻撃してくる。
それを俺達は巧みにかわす。

「天封!」

隙を狙って俺は蔦の攻撃を止める。

「浮き世に仇なす外法の刃。封じて廻るが、我らの努め……大地を渡って幾千里、浮き世を巡って幾百年」

ユキカゼの詠唱が進むにつれて地面に金色の紋章が描かれる

「天狐の土地神ユキカゼと、討魔の剣聖ダルキアン! 流れ巡った旅のうち、封じた禍太刀……五百と九本! 天地に外法の華は無し!」

短剣から放たれた金色の小さな何かが妖刀の蔦に突き刺さる

「……朽ちよ禍太刀!!!」
「神狼滅牙、天魔封滅!!!」

ブリオッシュの大剣に纏った紫色の光によって、辺りは包まれる。
その力でさえも、妖刀は耐えている。

「天高く舞い上がれ」

そこに俺の一撃が加わる。
その言葉と同時に、俺は背中に生えているであろう翼を使い斬り伏せるように動かした。
それだけでも空刃となって届くため、有効な一撃なのだ。

「点に轟く一筋の光は!」

再び、言葉を切り刻みながら両翼で2回切り刻む。

「絶望の闇を打ち消す光となる!!」

そう叫び両翼で一斉に切り込むように動かすと、俺は神剣二本を頭上で合わせる。
次の瞬間、二本だった神剣は一本の大きな剣に姿を変えた。
白銀の光に包まれたそれは、前に使った時よりも膨大な威力を発揮するだろう。
だが、その時それは起こった。

「っ!?」

体中に走った鈍い痛み。
そして力が無くなって行く喪失感。
それは、まるで霊力が付きかけているような感じだ。

(そういう事か)

俺は悟った。
今までやりすぎたのだ。
守護結界を構築したりフロニャ力を高めようとしたり。
その為に一時的に補給された俺の霊力は再び尽きかけているのだ。
妖刀は、止めの一撃が差されないため、まだ健在。
だが、もはや虫の息だ。
ユキカゼ達の一撃で十分に停止させることが出来る。

――――はずだった。

「渉殿!!」

聞こえてきたのはユキカゼの声。
見えたのは俺に向かって飛んでくる妖刀と、慌てて駆け寄るユキカゼの姿。
その二つはほぼ同時に俺の前に重なった。
そして走ったのは眩いほどの閃光だった。
その光が消えて行く頃には、発作的に起こった俺の痛みも無くなっていた。

「大丈夫でござるか! 渉殿」
「あっ……ああ。俺は大丈夫。ユキカゼは?」

慌てて駆け寄ってきながら身を案じてくれるブリオッシュに何とか答えつつも、俺はユキカゼの事を聞く。

「ユキカゼは……っ!!」
「風神っ!」

ブリオッシュが応えようとした次の瞬間、俺達を炎が襲う。
その炎は橙色の物ではなく、青白い物だった。
それを俺は風神によって防いだ。
俺はすぐに攻撃を放ったとされる方角を睨みつける。

「……は?」
「何っ?!」

その瞬間、俺は言葉を失いブリオッシュは驚きの声を上げた。
なぜなら、そこにいたのは俺とほぼ同じ背丈の九尾の狐だったのだから。

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IF-Y 第6話 真明が解放される時

走り出してどのくらいたっただろうか?
少しずつグラナ砦に近づいて来ていた。
ブリオッシュとは少し前に分かれた。
何でも気になることがあるとの事らしいが。

「曇り空に雷………明らかに何かが出る気配全開だな」
「……そのようでござるな」

俺の軽口に対し、ユキカゼの声は緊迫感に包まれていた。
俺でもわかる。
今まで数は少ないものの、何体もの魔物と対峙していた俺でも。

―――今回出てこようとしている魔物は、今まで対峙してきた中で最強であると。

『グラナ浮遊砦攻略戦に参加中の皆様にお知らせします』
「ん?」

突然聞こえてきたアナウンスに、俺は耳を傾ける。
若干聞こえずらいが、聞こえないことはない。

『雷雲の影響か、付近のフロニャ力が、若干ではありますが弱まっています。また落雷の危険もあることから、いったん戦闘行動を中断してください。繰り返します――――』
「これも……」
「うむ、魔物が出てくる前兆でござるよ。急ぐでござ――「止まれッ!」――ッ!?」

フロニャ力の低下が魔物出現の前兆であると告げてさらに速度を上げようとしたところで、俺はユキカゼに止まるように大きな声で叫んだ。
それは本当にとっさの判断だった。
ユキカゼは驚きはしたものの、徐々に速度を落として止まった。

「どうしたでござるか? 渉殿」
「良くは分からないが、これ以上進んだらまずい気がしたんだ」

突然の俺の言葉に戸惑いを隠せない様子のユキカゼをしり目に、俺は一点を見つめる。

「それに、あれが魔物何だよな?」
「……おそらくは」

俺の疑問にユキカゼが答えるのと、地を揺さぶるような雄たけびが響き渡るのとはほぼ同時だった。

「ッ!?」
「おいおい」

雄たけびの次の瞬間に、あちこちで立ち上がる火柱に俺は冷や汗をかいてしまった。

「風神!」

俺は慌てて神剣を地面に突き刺す。
それと同時に俺達が立っている場所が白銀の光で覆われる。

「渉殿、これは?」
「守護結界……フロニャ力をさらに濃くしたようなもので、この中にいれば魔物の類は俺達に手も足も出せない」

ユキカゼの質問に、俺は答えながら次の一手を打つ。

「星流風神砲!」

上空に向けて神剣を掲げてそう叫んだ瞬間、空に向かって白銀の光が放たれる。
その白銀の光は空で弾け、星のように降り注ぐ。
だが、それでも……

「フロニャ力に変化はなし。下がり続けているだけか」

フロニャ力の減少は止まらない。

(どうする? どうすればいい)

俺は必死に考える。
だが、考える必要などなかった。
答えなど既に最初から出ていたのだから。

(真名解放……)

そう、真名解放をすれば、神の力を完全に開放することのが出来る。
そうすれば、この事態はすぐに解決するだろう
解決できなかったとしても、この土地の浄化が出来、フロニャ力を従来の値にまで増加させて魔物を弱らせることくらいはできる。
だが問題は二つ。

一つは俺の余力。
真名解放は強大な力を解き放つとともに、膨大な霊力を必要とする。
今の状況で、それを行うのは自殺行為。
霊力を込めておいた、霊力石を使えば持つかもしれない。
石の数は二つで余裕もある。

そして二つ目が、俺自身の問題。
真名解放は神としての力を前面に出すこととイコールだ。
つまり、どう取り繕っても俺の正体がユキカゼに知られる。

(はは、本当に変わったな俺って)

自分の思考に、苦笑を浮かべる。
今までは、『正体を知られてはいけない』という掟の為に言いたくはなかったのが、それが今ではユキカゼに嫌われるのが怖いからという物に変わっているのだ。

「渉殿」

ユキカゼの静かな声で俺は思考の海から抜け出す。
目に見えた光景はものすごく巨大な魔物が歩いている姿だった。

「大丈夫でござる。拙者は、渉殿がどんな存在であったとしても受け入れるでござるよ」

俺の心の不安を見透かしたようなその言葉に、俺の心の中にあった”何か”がゆっくりと崩れて行った。

「はははっ!」

そして口から洩れたのは笑いだった。
魔物がいて世界全体が負のオーラに満ちているかもしれないこの状況で、笑えるのはもはや異常だろう。

「本当に変わったよ、俺は!」

俺は首にかけていた巾着袋から霊石を一個取り出すと、それを口に入れ飲み込んだ。
すると、今までほぼ空に近かった霊力が体中に満ちて行くのを感じた。

「ふぅ………我が、世界統括せし三神が一人、小野 渉の名の元に命ず。真名解放!」

その力強い言葉と同時に、体の中にあった霊力が一気に弾けた。
体中が熱い。
何でもできるという、根拠のない気持ちが溢れだす。
体中の熱がふっと下がったのは時間にしてほんの数十秒程度でも、俺にはその倍以上の長さに感じられた。

「ユキカゼ、大丈夫か!」
「う、うむ」
「なんとか………」

真名解放時の突風で吹き飛ばされたのか、最後に見た時よりも距離があるユキカゼに声をかけたが、無事のようだった。
風神が衝撃緩和の役割を果たしたのかもしれない。

「ユキカゼ」
「何でござるか? 渉殿」

俺に声を掛けられて要件を尋ねてくるユキカゼに、俺はゆっくりと告げた。

「これが終わったら、話したいことがある」
「………ッ!?」

俺の言葉に、ユキカゼが息をのんだ。
俺の言葉の意味はユキカゼには伝わったようだ。

「分かったでござるよ。
俺の言葉に、ユキカゼが頷くと構え始めた。

「その話を聞くためにも、早く終わらせるでござる!」

何だかユキカゼに闘志が漲っている。
しかも何だか不純な理由で。
そんな彼女に苦笑を浮かべながら、俺はもう一度神剣を空に向けて構える。

「わが名のもとに、この地に祝福の恵みを。天宝の恵み!」

その言葉と同時に、神剣から白銀の光が天空に目がげて放たれる。
その光は荒々しい物ではなく、周りを包み込む柔らかい物へと姿を変え地面に降り注ぐ。

「これで、周囲の危険なものは排除できたな」

周囲の安全を確認しながら俺はそう呟く。
フロニャ力も、少しではあるが上昇したようだった。

「すごいでござるよ渉殿」
「さあ、早く片を付けるぞ!」
「はい!」

称賛の声を上げるユキカゼに声をかけ、俺達は魔物を退治するべく動き出すのであった。

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