目の前に現れた九尾の狐のようなもの。
それは明らかに魔物の類いだ。
ならば俺達のすることなど単純明快。
目の前の魔物を排除すればいい。
ただそれだけのことだ。
「どうして……」
俺はそこから先の言葉を口にすることをためらった。
口にしてしまえば、目の前で起こっていることが現実になるから。
なにより、認めたくはなかったのかもしれない。
「ユキカゼ……なのか?」
ユキカゼが来ていた服を身にまとっている時点で、ユキカゼであることは疑いの余地もなかった。
でも、俺は聞かずにはいられなかった。
「クッ!」
だが返ってきたのは火炎による攻撃だった。
「大丈夫でござるか!? 渉殿」
「ああ。問題ない」
攻撃自体は風神の加護によって防いだが、体から力が抜けるような感覚に苛まれる。
「俺達の言葉は、ユキカゼには届いていないようだな」
「そうでござるな」
俺の呟きに神妙な面持ちでブリオッシュが応える。
あえて俺は”ユキカゼ”と呼称した。
それが現実を受け入れる事なのだから。
(しかし、何なんだこの力は? 普通のパワーじゃない)
驚くべきところはそこだった。
ずば抜けているのは身体能力だけかと思ったが、それだけではない。
今の彼女は”攻撃力”の面でも格段に強くなっているのだ。
それも、俺にも匹敵するほど。
いくら魔物化したとはいえ、これはおかしい。
(まさか)
「ブリオッシュ、聞きたいことがある」
「何でござる?」
目の前にいるユキカゼから視線をそらすことなく、横にいるであろうブリオッシュに声をかけた。
「ユキカゼはもしかして……」
「そうでござる」
俺の聞きたい内容が分かったのかブリオッシュは俺の考えを肯定する。
「そうか……」
それで彼女の正体は分かった。
――土地神
それはその土地にて奉られる神様のことだ。
階級としては下級でも、その力は普通(リコや姫君たち)よりも強い。
(となると厄介だな)
問題なのはこの後の対処法。
どうやっても彼女は助からない。
一番手っ取り早いのは浄化だ。
だが、浄化をすればユキカゼは消滅する。
浄化と言うのは負の物をプラスに変える効果があるが、それに彼女の”核”は耐えきれない。
今も強すぎる力によって核自体が負荷が掛かっているのだ。
核が壊れればもう二度と目覚めることはない。
それは”死”と同じだ。
(だとすれば)
一番可能性が低い方法がある。
「少しずつ攻撃を加えてダメージを蓄積させてユキカゼの意識を表に出す。ブリオッシュ、出来るか?」
「うむ。大丈夫でござるよ」
俺は確実に不可能だと思いながら、作戦決行を告げた。
例え99%不可能でも、1%だけでも可能性があるのなら。
俺はその可能性を信じてみたい。
それが俺の過去の過ちから学んだことだった。
「それじゃ、始めるか」
俺は風神の加護を止める。
「■■■ッ!!!」
魔物と化したユキカゼが声を荒げる。
それだけで空間そのものが揺れたような錯覚に囚われる。
「「はぁッ!!」」
そして、俺達は一斉に魔物の元へと迫る。
それは俺達の戦いの始まりを告げる物でもあった。
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