「時に貴様。食事は済ませたか?」
「ううん。まだ」
「向こうに露店が出ている。食べに行くか?」
「え? うわぁ、いいね! 食べに行こうか」
そんなシンクとエクレールのやり取りが聞こえる。
今俺達はユキカゼとリコと共に、木の陰から二人の様子を見ていた。
いや、俺の場合は無理矢理だが。
「ほほぅ、これは興味深げな展開でありますよ」
「ごじゃる」
リコの言葉に、食べ物を食べながらユキカゼが相槌を打つ。
そして二人について行く形で俺達も移動する。
露店の影の方で二人は、シンク達の様子を覗き見ていた。
「エクレが男の人を食事に誘えるようになるとは! リコッタ感激であります!」
「雰囲気も悪くないでござるよ~」
「はぁ……」
二人の言葉を聞きながら、俺はため息をつくと後ろを向いた。
覗き見るのはあまり好きではない。
そんな時、ジェノワーズの三人が近づいてくるのが見えた。
「よぉし、そこでござる。もっと、ぐぐっとぉ」
「ぐ~ッとぉ」
二人の背後に近づいた三人は、ユキカゼ達の肩を叩く。
「ん?」
「お?」
叩かれたことに気付いた二人は、後ろを振り返る。
「はぁい!」
「お二人揃って何されてるんですか?」
クラフティとファーブルタンが二人に声をかけた。
そんな時、ガウルの声がする。
「よぅ! シンク、たれ耳!」
「………む」
声のした方向には、ガウルがエクレールとシンクが座っている場所に向かって行く姿が見えた。
その後、合流した俺達は、色々な食べ物を用意して少し離れた場所にシートを引くと、そこで食事をとることとなった。
「しっかしおめえら、二人して大した活躍をしやがったな」
「いえ」
「まあ、色々ありました」
骨付き肉を豪快に頬張るガウルの言葉に、エクレールとシンクが答えた。
「それに魔物騒動と会見の後、うちの姉上、つきものが落ちたみたいにさっぱりしてしまってな。詳しい事情は聞いてねえけど、後で俺にも教えてくれるってさ」
「そうなんだ」
ガウルの声に、シンクが相槌を返す。
「後、バーナードに聞いたんだけど、戦興業も元のペースに戻すらしいぜ」
「それは何より」
ガウルの知らせに、エクレールが喜びながら答えた。
「戦も終わってごたごたも片付いて」
「魔物も退治されて」
「ビスコッティとガレット領国に再び平和がってことで」
クラフティとヴィノカカオ、ファーブルタンの順にまとめて行った。
………料理を頬張りながらだが。
「そうなれば何よりでござるな」
「ホントであります」
そしてユキカゼとリコッタもそれに続いた。
「戦は中途半端に終わっちまったが、結果よければすべてよしだ」
「だね、ほんとによかった」
そして、俺達は笑いあった。
(ホントに良かった。ホントに)
その光景を見ているだけで、そう思えてしまう。
失ったものもあるが、それ以上に今この光景は価値のあるものだった。
「あ、そうだ渉。ココナプッカ食べる?」
「は?」
何かの料理の名前だろうが、少しばかり意味が分からなかった。
そんな時、リコッタが不意に立ち上がった。
「リコ、どうかしたか?」
「ああ、学院のみんなが緊急で連絡が欲しいとのことで」
エクレールの問いかけに、リコッタはどこか影を落としたような表情で答えた。
「あら」
「勇者さま、ガウル殿下。自分はちょっと野暮用で出るであります」
「はーい」
「おぉ、行って来い!」
リコッタの言葉に、シンクとガウルは快く送り出す。
「………」
だが、俺にはそれが嘘であると言う事が分かった。
どことなく表情が曇っていた。
おそらくは手にしている巻物が原因だろう。
その後、俺達は姫君の臨時ライブを見るのであった。
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