あの後、ガジェットを全機破壊した俺達は、ガジェットの残証物の回収をしていた。
そんな中、俺はなのはに連れて行かれるティアナを見た。
(………ティアナがなのはの言葉を聞いてくれればいいんだが)
俺は心の中でそう思う。
仲間割れは起こしたくないのが、俺の本心だ。
今俺達がやるべきことは、任務を無事にこなしていくことだ。
ならば………
(なら、俺は何をすべきなんだろうな)
ついつい考えてしまうこと。
俺はスパイ活動をしている。
この活動は平和のためだと思う自分もいれば、はやてへの罪悪感を感じる自分もいる。
ついついはやてのいる目の前で土下座をしてすべてを懺悔をしたくなってしまう。
それが出来れば、俺はどれだけ幸せなのだろうか。
(でも、悩んではいられないんだよな)
俺はなるべく早く、結論を出そうと思うのであった。
夕暮れ時、六課に戻った俺は、森の木に寄り掛かるようにして座っていた。
「ふう……」
そこは、何気に俺の休憩スポットになっていた。
(それにしても、なんでティアナは無茶を……)
俺の感じたティアナの姿からは到底想像もできないミスだった。
ティアナの精密射撃の精度はすごいと言うのは俺も知っている。
だとすれば、あのような凡ミスを犯すだろうか?
(それに何だか焦っていたような……)
俺は目の前にモニターを展開すると管理局のデータベースにアクセスする。
そして閲覧したのは、ティアナのデータだった。
俺の知りたい答えが、そこにあるような気がしたのだ。
「別にこれと言った点はない……ッ!?」
俺はとうとう見つけた。
経歴の備考欄に書かれていた一文を。
『ティアナ・ランスター氏の兄ティーダ・ランスター死去。享年21』
俺はすぐに彼について調べた。
名前:ティーダ・ランスター
階級:一等空尉
所属:首都航空隊
年齢:21(死去)
「逃走中の違法魔導師を追跡中に殉職か………しかしそれだけでもない様な気が……」
俺はどんどんと詳細データをあぶりだしていく。
やがて………
「これは、音声データ?」
俺は、極秘事項の音声データを見つけ、それを開いた。
『えー、ティーダ・ランスター氏の件に関しては、犯人を追いつめながらも取り逃がすのは、首都航空隊の魔導師ではあるまじき失態であり、たとえ死んででも取り押さえるべきであると申し上げたい所存でございます』
聞こえてきたのは、死人を冒涜するようなコメントだった。
おそらく、彼の上司なのだろう。
しかし、えげつなく冷酷な言葉だ。
他にも『任務を失敗するような役立たずは死んで当然だ』と言う極悪非道なコメントもあった。
「こんな事を言われてたら、ああもなるな」
俺はようやく理解できた。
彼女がそこまで無茶をする理由が。
そして考えた。
(俺の時は、プラス評価だったけど、もしそれが………)
あの事故の後、俺の階級は上がり、そして周りから褒め称えられた。
”エース・オブ・エースを、身を挺して守った騎士のような魔導師”と。
もしそれが、彼のようなコメントだったら、俺はどうなっていたのだろうか。
「………」
俺は目を閉じて考え込むのであった。
「ん………」
俺は不意に意識がはっきりとした。
どうやら考えている時に寝ていたようだ。
すぐさま目に魔力を通して、視力を得る。
「夜……か」
辺りはすでに真っ暗だった。
そんな時、草を踏むような音がしたので、俺は立ち上がった。
「誰だッ!!」
「お、俺だよ」
姿を現したのは、健司だった。
「どうしたんだよ? こんなところで」
「俺はちょっと気になることがあってな。そう言うお前は何でここにいる?」
俺の問いかけに答えながら、健司は尋ねてくる。
「休憩してたら寝ちまったんだよ」
「時々抜けてるよな。お前って」
健司の言葉に、俺は”うっさい”と答えそっぽを向く。
そんな時、三人目の足音がした。
「あれ、山本副隊長に、井上副隊長じゃないですか。どうしたんすか? こんなところで」
姿を現したのは、ヴァイスだった。
「ティアナの様子を見に来たんだ。まだやってるのか?」
「ああ、戻ってからずっとだ。俺の言葉も聞きやしねえ」
健司の問いかけに、ヴァイスがお手上げと言った様子で答えた。
どうやら、ティアナはいまだに無茶をしているようだった。
「だったら、ティアナは俺達に任せてくれないか? これでも上司だし」
「………そんじゃ、よろしく頼むぜ」
俺の言葉にそう言い残し、ヴァイスは去って行った。
「健司、行くんでしょ?」
「ああ」
俺と健司はヴァイスが出てきた方へと向かって行く。
彼女の姿はすぐに見つかった。
白色の球体にただひたすらにクロスミラージュを向けるティアナ。
俺はそんな彼女に声をかける。
「訓練とは精が出るね」
「………山本副隊長」
突然かけられた俺の声に、ティアナは疲労からか息を切らしながら俺の方を見てくる。
「何の用ですか?」
「今日ミスショットしたばかりだろ。悔しいのは分かるがよ、詰め込んでも意味はない。今日は一日ゆっくりとして明日からまた頑張ると良い」
冷たいティアナの声に、俺は明るく話す。
「詰め込んで練習しないと意味がないんです。凡人な物で」
「そうか? 俺は凡人だとは思わねえけど、そんなんでいくらやっても無駄だからやめとけ」
ティアナの答えを聞いた健司が彼女にそう返した。
その瞬間、ティアナがこっちを睨みつけるように見てきた。
「なんですか! 私を見下してるんですかッ!? 山本副隊長はにやにやして、そんなに凡人を見下して楽しいんですか!!」
ティアナが喚き散らす。
「違う! 俺は決してティアナを見下しては――――」
「ええ、そうでしょうね!! あなたのような天才に、私の様な凡人の気持ちなんか分かるわけないですよね!!!」
ティアナの言葉に、俺はショックを隠せなかった。
俺はただ仲間割れを起こさないようにと笑顔で話していただけで、そのようなことはない。
(言葉で通じ合える時代は終わった……か)
執行人の言葉を思い出した。
それは俺が一番認めたくないものであった。
だからこそ、俺は限界だった。
「おい、ティアナ! そんな言い方はねえだろ! こいつはお前のためを思って――――」
「健司、いいよ」
俺はまくし立てる健司の言葉を遮る。
「だが―――――」
「良いって言ってんだろ!!」
「ッ!?」
健司が信じられないと言った様子で、俺を見てくる。
そう言えば、声を荒げるのはこれが初めてだった様な。
「確かに俺には凡人の気持ちは理解できない。だがな、ティアナ。お前は天才の気持ちは分かるのか?」
「え?」
ティアナが驚いた様子で声を上げた。
「まさか天才だから何の苦悩もないと思ってた? だとしたら相当なバカだよ、お前は。気持ちが分かりっこない? それはそっちじゃねえのか?」
俺は心の奥底でせき止めていた想いが口を出て行く。
「俺が下半身不随の後遺症を負った時の気持ちが、お前たちはわかるのかよ!! 分かるわけないよな、だってお前は俺じゃないもん―――――」
「真人! そこまでにしておけ」
俺の罵声を遮るように体を揺らす健司。
「ッ!! もう良い。好きにすればいいよ」
俺は自分の言っていたことの愚かさに気付き、そう言い捨てるとそのまま二人に背を向けて歩き出す。
(俺も、まだまだ……だな)
今まで言わないようにしていた気持ちがこみ上げてくる自分の未熟さに、俺は情けなかった。
「ごめん」
誰にも伝わらないその謝罪は、俺自身の罪悪感から逃れるための物だったのか、それは俺にもわからない。
そして俺は隊舎に戻るのであった。
『定時連絡。本日、ホテル・アグスタにて警護任務があった。途中ガジェットの襲撃があったが新人や部隊長の活躍で全機撃墜、任務は無事成功した。新人たちの成長をうかがい知るものとなった』
―――俺は何時まで、自分を偽ればいいのだろうか?―――
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