上昇を続ける武道台。
上には紫色の球体がある。
「あれは、このあたりの土地神さま?」
姫君がその球体を見て声を上げるが、それはないと思った。
土地神がこのような邪気に包まれているはずがないからだ。
「いや、違う」
俺の予想は当たっていたようで、レオ閣下が否定した。
おそらくこれは………
「昔ダルキアンに聞いたであろう? おそらくは、あれが昔地に封じられたである禍々しき魔物であろうよ」
その次の瞬間だった。
「グオオオオ!!!」
獣のような雄たけびが俺達を襲った。
俺達は耳をふさぐ。
その次の瞬間、いたるところから炎柱が立ち上がる。
「ッ!?」
さらに俺達の後ろの方でもそれが上がり、その衝撃で姫君が前のめりに倒れた。
「ミルヒ!」
レオ閣下の声を遮るように魔物は雄叫びを上げる。
その雄叫びにはどこか苦しみのようなものが感じられた。
そしてとうとう魔物の姿が露わになった。
その姿はまるで狐を醸しだたせる姿だが、魔物と言う言葉にふさわしく、とてつもない邪気が発せられていた。
さらにその周りにはまるで魔物を守るように、紫色の何かが浮かび上がる。
姫君が横にある宝剣を手にした瞬間だった。
「グオオオオオオ!!!!」
宝剣に反応した魔物が雄たけびを上げると、地面から草の茎のようなものが現れた。
その先端は鋭い刃物となっていた。
「はぁぁ!!」
突然の事で硬直していた姫君の前に立ち、レオ閣下は攻撃を防ぐ。
「でやああああ!!」
そして斧で茎を切り裂いた。
「ミルヒ、無事か!?」
「は、はい――――ッ!?」
ミルヒの安否を確かめるレオ閣下だが、その背後には先ほどの茎が再び姿を現していた。
「レオ様! 危ない」
それを見た姫君は俺よりも早くレオ閣下の前に回り込むと、宝剣を横に構えて茎の攻撃を防ごうとする。
「駄目じゃ! ミルヒ!」
俺は急いで姫君の前に回り込み、防ごうとする。
だが……
「「ッ!?」」
半歩届かず姫君は二本の茎によって切り裂かれた。
さらに横からも茎が迫る。
「障壁!」
俺は急いで姫君を覆うように障壁を構築する。
そのことによって茎の先端に貫かれなかったが、跳ね飛ばされてその先にあった紫色のベールに飲み込まれてしまった。
(くそッ!)
俺は不甲斐なさから心の中で舌打ちをした。
(いや、あれがあるからまだ大丈夫)
しかし俺はすぐにそう結論を出した。
姫君やそのほかの者達には”保険”を渡してある。
それがある限り問題はない。
(こっちから治癒をかけるか)
俺はそう考えると姫君がつけている腕輪を経由して治癒を施す。
「貴様ぁぁああ!!」
そんな時姫君がさらわれたことに憤ったレオ閣下が、黄緑色の気力を上げながら叫び声を上げた。
「れ、レオ閣下落ち付―――ぐあ!?」
必至に止めようとした俺は、突如膨れ上がった気力に吹き飛ばされた。
そのままレオ閣下は魔物に向かって突進する。
様々な攻撃をかわして魔物に一発攻撃をするが、紫色の何かによって下の方に叩き付けられた。
「レオ閣下!? ッ!?」
俺は慌ててその場から離れた。
次の瞬間轟音を立てて紫色の帯が俺の立っていた場所に振り落された。
もし少しでも回避が遅れていたら、俺はあれに叩き潰されていたかもしれない。
「俺に攻撃したな? ならば、貴様の末路は決まってる!!」
神剣が夥しい光に包まれる。
「轟け!! 最終審判、レクリエム!!」
俺は必殺級の大技を魔物に放つ。
「グオオオオオオ!!!?」
レクリエムを食らった魔物は悲鳴のようなものを上げるが、倒れる気配がない。
「何!? なぜ倒れない!」
俺は驚きを隠せなかった。
最高威力を持つあれを食らっても、びくともしないのはあの短剣以来だ。
(まさか、あいつの邪気が濃すぎるのか!?)
それ以外に思い付かなかった。
邪気の量ではなく質が濃いために、俺のレクリエムは通用しなかったのだ。
「グオオオオ!!!」
思考に耽っていたために、俺の目の前にまで茎のようなものが迫っていたのに気が付かなかった。
「ッ!? 炎天よ、我を守る盾となれ!!」
俺は急いで盾を形成し、攻撃を防ぐ。
(よし、まだいける。質が高いのならそぎ落とすまで)
俺は起死回生を狙い、神剣に霊力を込めようとした時だった。
「ッ!?」
体の内側から揺さぶられるような揺らぎが起こった。
(こんな時に物質化現象かよ!)
「ッ!? しまっ―――――」
俺はさっきの揺らぎで盾が消えたことに気が付いた。
それに気が付いた時には、茎の先端にある刃物が目の前に迫っていた時だった。
俺はそれを躱すが、その先には紫色の帯が振り下ろされようとしていた。
「がああ!?」
俺は体を切り裂かれ、そのまま地面へと落下する。
それは先ほどのレオ閣下を彷彿とさせるものであった。
薄れゆく意識の中、俺が見たのは魔物が下に降りて行く姿。
そして、地面に叩き付けられたときの背中の痛みだった。
覚醒まで残り、40分
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