「ここからは私一人で行きます」
レオ閣下の挑戦状を聞いた姫君が、突然そう言い出した。
(自分で話し合う気か。だが……)
俺は嫌な予感がしてならない。
だからこそ、少しだけ意見をすることにした。
「それは承認できませんね、姫君」
「え!?」
俺の言葉に驚いた様子で見てくる姫君。
「私もご一緒に行かせていただきます」
「私一人で大丈夫なので、渉さんは」
「でしたらお聞きしますが、上に到着した際に攻撃されたらどうするのですか? 奇襲攻撃に対応できるのですか?」
俺は性格が悪いなと思いつつ問い詰める。
「今のレオ閣下は宝剣を奪うために躍起になっている。どのような事が起こるかは予測も出来ない。そんな状況で姫君を一人で行かせるなど、大問題だ。護衛役として一人つく必要がある」
「おい、渉! 姫様に何ていう事を――「親衛隊長は黙ってろ!」――ッ!?」
俺に怒鳴ってくるエクレに怒鳴り返して黙らした。
「護衛には自分が付きます。もし嫌な場合でしたら、貴方には眠って頂きます」
「ッ!?」
俺は神剣の吉宗を展開して姫君に向けて構える。
吉宗なので、切ることはできない。
よってただの脅しだ。
「分かり……ました」
姫君は声を震わせながら了承した。
(こりゃ、後で謝った方がいいな)
姫君が上に向かう準備をしながら俺はそう考えるのであった。
昇降機に乗り、武道台へと向かう中、姫君は大剣を手に俺は神剣二本を手に無言となっていた。
「先ほどは無礼の数々、申し訳なかった」
「え?」
俺の謝罪に、姫君が驚いたような声を上げた。
「俺も衣食住を見て貰っている恩もあるのでな、これくらいしなければ罰が当たる」
「そんな、もともとは私のせいで……」
「確かにそれはあれだが、いい出会いもたくさんあった。だからこそ今の俺は姫君の懐刀。姫君の身を守り、姫君の命を聞く……ただそれだけだ」
俺は自分に言い聞かせるように姫君に告げた。
そうだ、今の俺は懐刀だ。
相手が向かってくるのであれば、手を汚してでも主を守らなければいけない。
「勿論、二人の話し合いを邪魔する気はありません。到着し次第、自分は離れた場所で待機します」
「ありがとうございます」
「お礼を言われるほどの事ではないですよ」
お礼を言ってきた姫君に、俺は苦笑い交じりに答えた。
「貴方とこうしてお話ししたのは初めてですね」
「そうですね、自分も姫君とまともに話すのは、これが初めてです……と、到着しましたよ」
昇降機が一番右側を指示したのを見て、俺は気を引き締めた。
そして、扉が開く。
「お邪魔いたします。レオンミシェリ閣下」
姫君が前を見据えて声を上げると、昇降機を降りた。
俺も一歩遅れて昇降機を降り、奇襲に対応できる位置に立った。
「レオ様が国の宝剣を賭けて戦われるのであれば、私も宝剣を手にこの場に来ないといけないと思い、失礼ながら勝手に推参しました」
レオ閣下の表情は目が見開かれており、かなり動揺しているようにも見えた。
(俺と姫君の二人で来ることが予想外だったのか、それとも……)
俺が思考に耽っていた時、レオ閣下のそばにいたメイドのような人が、短剣を手に姫君に向かって行くのが見えた。
「はぁ!!」
間一髪のところで姫君の前に立ち神剣二本で防ぐことに成功した。
「分かりやすい奇襲どうも!!」
「お叱りは後でいくらでも! 今は説明している時間がありません!!」
神剣と相手の持つ短剣に火花が散る。
「なッ!? しま――――」
俺は支点をずらされ、そのまま前のめりになってしまった。
倒れるのは免れたが、相手は姫君の所に向かって行こうとした。
「きゃあ!?」
その瞬間、姫君から発せられるエネルギーによって吹き飛ばされた。
そして姫君の手にはピンク色の、二回り小さな短剣が握られていた。
だが、その剣からは異様なものを感じることから宝剣であることはすぐに分かった。
俺はすぐに奇襲を仕掛けてきたメイドの人に剣を突き付け、身動きを制限する。
その間、俺は考える。
(どうも嫌な感じがする。これは空模様のせいなのか?)
周りの雰囲気が少しずつではあるが、悪くなっているのに俺は気付いていた。
それは、姫君とレオ閣下が言い合っているからではない。
(まさかとは思うが、プラスのエネルギーが消えかけているのか?)
それならば今の雰囲気にも説明がつく。
(だとすれば――――)
「ッ!?」
突然動悸と激しい眩暈が俺を襲った。
まるで、体の奥底から揺さぶられたかのような気持ち悪さを感じる。
しかしそれもほんの一瞬の事だった。
『グラナ浮遊砦攻略戦に参加中の皆様にお知らせします』
「ん?」
突然聞こえてきたのはそんなアナウンスだった。
『雷雲の影響か、付近のフロニャ力が、若干ではありますが弱まっています。また落雷の危険もあることから、いったん戦闘行動を中断してください。繰り返します――――』
(フロニャ力が弱まっている………俺の思った通りか)
俺はアナウンスを聞きながら自分の推測があっていたことを確認した。
「あの皆さん、屋根のあるところへ」
青髪のメイドの人が提案するとゆっくりと歩いて行った。
「二人とも」
俺は対峙している二人にそう告げる。
この時俺は、説明がつかないほど焦っていた。
二人はゆっくりとだがメイドの人のいる所に向かって行く。
そんな時、突如としてマイナスエネルギーが増幅した。
「「「ッ!?」」」
その次の瞬間、地震が発生した。
(これはまずい!!)
増幅し続けるマイナスのエネルギー、総称邪気。
その瞬間、武道台が宙に浮かび始めた。
「ミルヒ!」
「レオ様!」
名前を呼びあう二人だが、俺は空を見ていた。
(あれが、邪気の原因か)
俺の視線の先にあったもの、それは
―――とてつもない邪気と闇の力を秘めている漆黒の球体だった。
覚醒まで残り、1時間
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