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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第15話 壊れゆく心

翌日、いつもの通りを歩いていると、前方にさやかの姿があった。

「あ、さやかちゃんだ」
「あら、本当ですわ」

さやかの姿に気付いたまどかと仁美がそう言うと、さやかの元に駆けよって行った。
俺も、彼女たちの後をついて行く。

「さやかちゃん、おはよう」
「おはようございます、さやかさん」
「おはよう。さやか」

俺達はさやかに挨拶する。

「あ、ああ。おはよう」

そんな俺達にさやかはぎこちなく挨拶を返す。

「昨日はどうかしたんですの?」
「ああ、ちょっとばかり風邪っぽくてね」

心配そうに昨日休んだ理由を聞く仁美に、さやかはそう答えた。

「さやかちゃん……」
【大丈夫だよ。もう平気。心配いらないから】

まどかの心配そうな言葉に、さやかはテレパシーでまどかに言った。

(立ち直ったみたいだな)

さやかの様子に、俺はほっと一安心した。

「さーて、今日も張り切って―――」

さやかはそう言いかけると前方を見た瞬間、表情が曇った。
そこには、杖のような物を手に歩いている上条の姿だった。

「あら……上条君、退院なさったんですの?」

仁美は、上条の姿を見つけると、驚いた風に言った。
その後、さやかの表情はずっと曇りっぱなしだった。

「よかったね。上条君」
「うん」

教室でも、さやかの表情は曇っていてまどかの言葉に暗い感じで答えた。
俺達の視線の先には、クラスメイトと楽しげに話している上条の姿があった。

「さやかちゃんも行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょ?」
「私は……いいよ」

まどかの言葉に、さやかはそう答えた。
その時、俺は仁美がさやかの事を真剣なまなざしで見ているのに気付いた。





3人称Side

放課後、ファミレスでさやかと仁美は向かい合って座っていた。

「それで……話って何?」
「恋の相談ですわ。私ね、前からさやかさんや渉さん、まどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」
「え?あ、うん」

さやかの言葉を聞いて仁美は、言葉を続けた。

「ずっと前から、私……上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」
「そ、そうなんだ。あはは、まさか仁美がねえ……あ、なーんだ、恭介の奴、隅に置けないなあ」

さやかは仁美の突然の言葉に、動揺を隠せない様子だった。

「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」
「あーまあ、その。腐れ縁って言うか何て言うか」

仁美の言葉に、さやかは視線をそらす。

「本当にそれだけ? 私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって。あなたはどうですか? さやかさん。あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
「な、何の話をしてるのさ」

仁美の言葉に、さやかはそれしか答えることが出来なかった。

「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの。上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですわ。だから、あなたには私の先を越す権利があるべきです」
「仁美……」
「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
「あ、あたしは―――」

さやかの答えを聞かず、仁美は一礼すると、さやかの前から去って行った。
それは、言うなれば、さやかの心の崩壊を始めさせるきっかけであった。

Side out





夜、俺とまどかはさやかのマンションの出入り口の前にいた。

「まどか、渉……」

すると、キュウベぇを引き連れて出てきたさやかが僕たちの姿を見つけた。
その表情は、とても暗かった。

「付いてっていいかな?さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくないの。だから」
「あんた、何で?何でそんなに優しいかな?あたしにはそんな価値なんてないのに」

まどかの言葉に、さやかは俯いて肩を震わせながら呟いた。

「そんな―――」
「あたしね、今日後悔しそうになっちゃった。あの時、仁美を助けなければって。ほんの一瞬だけ思っちゃった。正義の味方失格だよ…。マミさんに顔向け出来ない。仁美に恭介を取られちゃうよ…。でも私、何も出来ない。だって私、もう死んでるもん。ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ」

涙を流しながら悲痛に叫ぶさやかを、まどかは優しく抱きしめた。

(人間か人間じゃないかは、自分で決める物だろ)

俺はそう言おうとしたが、それを口に出すことはできなかった。
それを言う権利は、俺にはなかったからだ。

「俺って、最低だ」

俺のつぶやきが、むなしく感じた。










しばらくたつと、落ち着いたのかさやかは泣きやんでいた。

「ありがと。ごめんね」
「さやかちゃん……」
「もう大丈夫。スッキリしたから。さあ、行こう。今夜も魔女をやっつけないと」
「うん」

さやかの言葉に、まどかは頷いた。

「俺も、微力ながらまどかの守護に徹する」

この時、俺はまだ気づけなかった。
さやかの心が少しずつ、壊れかけているということに。





いつものように結界に入った俺達が見たのは、一面が白くて何かの模様があるところで一番奥の方に赤い何かが立っているものだった。
俺達は、なぜか真っ黒になっていた。
しかし、問題は……

「はぁ……はぁ」

苦しげに息を切らしているさやかだ。

「ふん!!」

俺も助けに行きたいところだが、こっちにくる黒い何かを切ってまどかの方に来ないようにするので精一杯だ。
さやかの方に迫ってきた黒い何かを切ると、さやかは一気に駆け出す。
そしてさやかの周りを取り囲むように現れた黒い何かを、さやかは上空に飛んで回避し、空中で一回転すると一気に魔女へと迫る。

「はぁぁ!!!」

思いっきり切りつけようとしたさやかだが、それは、魔女から出てきた黒い何かによって遮られると、一気にその黒いものに飲み込まれた。

「さやかちゃんっ」

その光景に、まどかが思わずさやかの名前を呼んで、黒い物体に近づこうとした時だった。
何かによって、黒い物体が切り飛ばされた。

「まったく。見てらんねぇっつうの。いいからもうすっこんでなよ。手本を見せてやるからさ」

それは、佐倉 杏子の物だった。
佐倉杏子はさやかを地面に降ろすと、武器である槍を魔女に向ける。
だが、ふわりとさやかが立ち上がると地面に剣を置いた。。

「おいッ」
「邪魔しないで。一人でやれるわ」

さやかは冷たい声でそう言うと、一気に魔女へと迫る。
そして思いっきり魔女を切りつけると、黒いひものようなものによってさやかが地面に叩き付けられた。

「さやかちゃん!?」
「ふふ……ふふふふ」

だが、さやかの口から出てきたのは、不気味でぞっとするような笑い声だった。

「アンタ、まさか……」

佐倉杏子の声を遮るように、一気に黒いひも状のものが吐き出され、それはさやかの体をとらえて持ち上げる。
だが、さやかはそれを剣で乱暴に切り払っていくと魔女の上に馬乗りになる。

「あははは、ホントだ。その気になれば痛みなんて……あはは。完全に消しちゃえるんだ」

気が狂ったかのように笑いながら、魔女を何度も何度も剣で殴りつける。

「やめて……もう、やめて」

まどかの声が、とても悲しげに感じられた。

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