それは、シャルロッテの魔女が現れる数日前の事
「ここか……」
俺、小野 渉は病院のある一室の前にいた。
そこにいる人物の名前は『上条 恭介』
簡単に言えば見舞いだ。
(どんな奴だろう?)
俺が見舞いに来た理由は、さやかの契約の理由にもなる人物を見るためだ。
コンコン
「はい」
ドアをノックすると、中から返事が聞こえたので、俺はドアを開けた。
「失礼します」
「誰だい?君は」
ベッドで上半身を起こしている青年がこっちを見てそう聞いてくる。
「初めまして、上条 恭介。小野 渉だ」
「君が渉君か。初めまして、君の事はさやかからよく聞かされているよ。それと僕の事は恭介で構わないよ」
「だったら、俺も渉でいい」
まずは互いに自己紹介を済ませた。
俺はパイプいすに腰掛けた。
さやかが何を言っているのかが気になったが、それは置いておくことにして、本題に入ることにした。
「ふ~ん。君が”元”天才バイオリストか」
「………君は僕をいじめるつもりかい?」
恭介が目を細めて睨みつけてきた。
「別に。いじめている気はないさ。ただ事実確認をしたまでだ」
「………」
「なあ、恭介。もし生きている中でたった一つの奇跡が起こせるとしたら、君は何を望む?」
「そうだね……もう一度バイオリンを弾くこと……かな」
俺はその答えを聞いて、彼の人となりが分かった。
「バイオリンが好きなんだな」
「そうだね」
「そう言った面での才能は、とても素晴らしいと思う。でも、その奇跡を起こしたら一生死ぬまで、死と隣り合わせの戦いをしなければいけないとしたら、その奇跡を望めるか?」
「……」
俺の問いかけに、恭介は何も答えない。
「奇跡には、代償もあるという事を覚えておいた方がいいな」
「代償?」
「そう。例えば、恭介が遅刻しそうで走っている時に、路地裏から車が来たとしよう。でも、君は幸運にも車にひかれることはなかった……まさに奇跡だよね、これ」
「そうだね」
俺の例えに恭介がそう相槌を打つ。
「でも、この奇跡は”時間”を代償にしている。だから、君は遅刻してしまった」
それが、俺の答えだった。
「どんな奇跡にも、代償は存在する。それは、一歩間違えれば死へと導くものさ」
奇跡の代償、それはとても重くそして切ないものだ。
「それでも、お前は奇跡を望むのか?」
「………」
俺の問いかけに、恭介は何も答えない。
だが、必死に考えている様子がうかがえた。
そんな彼をしり目に、俺はパイプいすから立ち上がった。
「それじゃ、僕はこれで失礼するよ」
「あ、ごめんね、大したおもてなしが出来なくて」
「いや、こっちも変な話をして悪かった」
恭介が謝ってきたので、俺もそう謝り返すと、そのまま出口の方へ歩いていく。
「あ、そうだ」
俺は、出る寸前に言いたいことを思い出したので、振り返った。
「もし、恭介の指が動かせるようになって、コンクールかなんかに出れたら、見に行ってあげる」
「ありがとう」
「それじゃ」
それが俺と恭介が交わした、”約束”であった。
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