健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第6話 悲劇の前触れ

あの魔女退治体験ツアー初日から数日後、俺達は今日もまた何度目かもわからないツアーに参加していた。

「ティロ・フィナーレ!!」

そして今夜も、巴さんの必殺技『ティロ・フィナーレ』により魔女は消滅し、元の景色へと戻った。

「いやー、やっぱマミさんってカッコイイねえ!」
「もう、見世物じゃないのよ。危ないことしてるって意識は、忘れないでいてほしいわ」

さやかにそう言いながら街灯の上から飛び降りた。

「いえーす!」

そしてさやかはさやかで全く分かってないようだし。
と、その時キュウベぇがこちら側に走ってくると、自然な動作でまどかの肩の上に移動した。

「あ、グリーフシード、落とさなかったね」
「今のは魔女から分裂した使い魔でしかないからね。グリーフシードは持ってないよ」
「魔女じゃなかったんだ」
「何か、ここんとこずっとハズレだよね」

確かにさやかの言うとおりだ。
あの初日以来魔女ではなく使い魔が出てきていた。
どうやらグリーフシードは魔女だけが持っているらしく、使い魔は持っていないらしい。

「使い魔だって放っておけないのよ。成長すれば分裂元と同じ魔女になるから」
「……とりあえず、お疲れ様でした」

俺は巴さんに労いの言葉をかけた。

「ふふ、ありがとね、渉君。さぁ、行きましょう」

笑みを浮かべた巴さんの言葉で、俺達はその場を後にした。

「二人とも何か願いごとは見つかった?」

しばらく歩くと、巴さんはまどか達に尋ねた。

「んー……まどかは?」
「う~ん……」
「まあ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら」

答えられずに悩んでいる二人に、巴さんは苦笑いを浮かべながらフォローした。

「マミさんはどんな願いごとをしたんですか?」

まどかがそう尋ねた瞬間、巴さんは歩くのをやめた。

「いや、あの、どうしても聞きたいってわけじゃなくて」
「私の場合は……考えている余裕さえなかったってだけ 」

そして巴さんは、自分の願い事について話し始めた。
巴さんが小さいころ、家族での旅行の時に巻き込まれた事故。
両親は即死、巴さんは重症だった。
そんな時に現れたのがキュウベぇで、彼女は助かることを願い契約した。

「後悔しているわけじゃないのよ。今の生き方も、あそこで死んじゃうよりはよほどよかったと思ってる。でもね……ちゃんと選択の余地のある子には、キチンと考えたうえで決めてほしいの。私にできなかったことだからこそ、ね」
「ねえ、マミさん。願い事って自分の為の事柄でなきゃダメなのかな?」

少々暗くなった雰囲気の所に、さやかが疑問を投げかけた。

「え?」
「例えば、例えばの話なんだけどさ、私なんかより余程困っている人が居て、その人の為に願い事をするのは……」
「それって上条君のこと?」

さやかの例えと言う言葉に、まどかが誰の事かが分かったのか名前を言った。

「上条って……あぁ、さやかのす―「た、例え話だって言ってるじゃんか!」 ―」

今ので絶対に図星だと思う俺なのであった。

「別に契約者自身が願い事の対象になる必然性はないんだけどね。前例も無い訳じゃないし」
「でもあまり関心できた話じゃないわ。他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておかないと。美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも彼の夢を叶えた恩人になりたいの?
「マミさん……」

巴さんのきつい言葉に、まどかは少しばかり驚いているようだった。

「同じようでも全然違うことよ。これ」
「その言い方は……ちょっと酷いと思う」
「ごめんね。でも今のうちに言っておかないと。そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」

さやかの反論に、巴さんはそう返した。

「別に人のためにすることが悪いとは言わないが、無名の偉人のようにはなるなよ」

ついでに俺も忠告しておいた。
無名の偉人。
それは前に二人に話した、最悪と言ってもいい英雄の事だ。
目の前の利益に飛びつき、友すらも蔑ろにした奴のだ。

「……そうだね。私の考えが甘かった。ゴメン」
「さやかの考えが甘いの何て、いつもじゃないか」
「何だとっ!!」

俺の茶々にさやかは過敏に反応した。

「やっぱり、難しい事柄よね。焦って決めるべきではないわ」
「僕としては、早ければ早い程いいんだけど」
「ダメよ。女の子を急かす男子は嫌われるぞ」

巴さんの一言で、笑いが俺達を包んだ。
と言うより、キュウベぇって、オスなのか?
こうして、俺達は帰路へと着くのであった。





さて、今俺が何をしているのかと思えば、巴さんへのストーキングだ。
もちろん理由はある。
彼女に暁美さんと話し合う機会を設けるように、提言するためだ。
話し合いもせずに敵にするというのは、あまりにも愚かで馬鹿げたことだからだ。
しかし、話し掛けようにも彼女は魔女の探測中。
声をかけることもできないまま、公園の広場まで来ていた。

「………」

すると、巴さんはソウルジェムを指輪の姿にした。

(気づかれたか!?)

そう思った時だった。

「分かってるの?」

その声は、暁美さんの物だった。

(どういうことだ?さっきまで彼女はいなかったはず)

「貴女は無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ。もう無関係じゃないわ」

俺の動揺を無視して二人はさらに話を進める。

「貴女は二人を魔法少女に誘導している」
「それが面白くないわけ?」
「ええ、迷惑よ。特に鹿目まどか」

暁美さんから再びまどかの名前が出てきた。

「ふぅん……そう、あなたも気づいてたのね。あの子の素質に」

まどかの名前が出た瞬間、巴さんは目を細めた。
それが俺には、挑発のようにも見えた。

「彼女だけは、契約させるわけにはいかない」
「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね」

その瞬間、暁美さんを中心に、とてつもない威圧感が湧き上がった。

「貴女とは戦いたくないのだけれど」

自分の髪を払いながらそう告げた。

「なら二度と会うことのないよう努力して。話し合いで事が済むのは、きっと今夜で最後だろうから」

そう言って巴さんは暁美さんに背を向けて歩き出した。

「あはははは!!!!」
「「ッ!!?」」

俺はそれを見て、自分の状況も忘れて思わず笑ってしまった。

「話し合いって……それが話し合いに入ると思ってるのか?」
「……渉君、どうしてここに?」
「巴 マミよ、今のお前、完全に悪役だぞ。暁美 ほむらの言葉に耳を傾けず、彼女を最初から悪者として話している。こんなんじゃどこまで行っても平行線だ。まあ、彼女は彼女で何かを隠しているようだけど」

俺は巴さんの疑問を無視して話した。

「……女の子の後を付けるのは、あまり褒められた行為じゃないわね。今日は許すから、次は気を付けてね」

巴さんは俺の言葉に、論点をすり替えて注意をすると、そのまま去って行った。

「……んで、お前にも聞きたいことがある」
「………」

俺の言葉に、暁美さんは何も反応をしない。

「なぜそこまで彼女にこだわる?」
「………」

俺の問いかけに、暁美さんは何も言わない。

「………はぁ。言う気はないってか」

俺はその様子にため息を付きながら言った。

「彼女……まどかを守ってあげて」
「…………まあ、できる限りは努力しよう」

突然の暁美さんの頼みに俺はそう答えた。
俺にはこの願いが彼女の目的の本質だと悟ったからだ。

「そう」

そして次の瞬間には、彼女の姿はなかった。

「………帰るか」

そして、俺も帰路に就くのであった。










翌日、俺とまどかはさやかの上条と言う奴へのお見舞いに付き合うために、病院のロビーにいた。

「はあ……。よう、お待たせ」

しばらくして、ため息をつきながらさやかが戻ってきた。

「あれ?上条君、会えなかったの?」
「何か今日は都合悪いみたいで」

外に出ても文句を言っているさやかだが、突然まどかが立ち止まると、一点を見ていた。

「わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうわよね」
「あそこ……何か……」

まどかの言葉に、俺達はまどかの見ている方を見る。

「グリーフシードだ!孵化しかかってる!」
「嘘……何でこんなところに」

キュウベぇの言葉に、俺達はさらに近づくと、それは確かに魔女の卵のグリーフシードだった。

「マズいよ、早く逃げないと! もうすぐ結界が出来上がる!」
「またあの迷路が?………まどか、マミさんの携帯、聞いてる?」
「え?ううん」

さやかの問いかけにまどかは顔を横に振った。
そういえば俺達はいつも放課後に合流していたし、有事の際はとテレパシーで事足りていたから携帯の番号を聞くのを忘れていたのだ。

「まずったなぁ。まどか、渉。先行ってマミさんを呼んで来て。あたしはこいつを見張ってる」
「そんな!」

さやかの提案にまどかが声を上げた。

「無茶だよ! 中の魔女が出てくるまでにはまだ時間があるけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる。マミの助けが間に合うかどうか……」
「あの迷路が出来上がったら、こいつの居所も分からなくなっちゃうんでしょ?放っておけないよ。こんな場所で」

キュウベぇの反対にさやかは頑なに意見を変えなかった。

「まどか、渉。先に行ってくれ。さやかには僕が付いてる。マミならここまで来れば、テレパシーで僕の位置が分かる。ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるよう、マミを誘導できるから」
「ありがとう。キュウべえ」
「私、すぐにマミさんを連れてくるから」
「死ぬなよ!」

俺とまどかはそう言って巴さんを探しに走った。

「まどか!そこを右!!」
「え!?なんで?!」

俺の指示にまどかが驚いた様子で聞いてきた。

「勘だ!俺の勘は良く当たる!!」

俺はそう答えて、曲がり角を右に曲がった。
俺達は巴さんを探すために走った。





だが、俺は知らなかった。
これが巴さんにとって最後の戦いになるという事を。

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第5話 魔女退治体験ツアー

喫茶店を後にした俺達は、昨日魔女がいた場所まで来ていた。

「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡。基本的に、魔女探しは足頼みよ。こうしてソウルジェ
ムが捉える魔女の気配を辿ってゆくわけ」

「意外と地味ですね」
「地味だからこそ意味があるんだろ?」

すぐに見つかったら楽だけど、なんかつまらないし。
そんなもの犯人がすでに分かっている、推理小説を見ているようなものだ。

「そりゃそうだけどさ……」
「さ、行くわよ」

巴さんの一声で俺達は魔女の捜索を始めるべく、巴さんの後をついて行く。
ちなみにさやかの片手には武器である金属バットが握られていた。
俺はと言えば、さすがにあれは危険だということでOKが出るまでバックの中で出番待ちだ。





「光、全然変わらないっすね」
「取り逃がしてから、一晩経っちゃったからね。足跡も薄くなってるわ」
「あの時、すぐ追いかけていたら……」

巴さんの言葉にまどかが申し訳なさそうに声を上げた。

「仕留められたかもしれないけど、あなたたちを放っておいてまで優先することじゃなかったわ」
「ごめんなさい」
「いいのよ」
「そうそう、胸を張って生きろよ」
「いや、それ微妙に意味違うから」

俺にさやかのツッコミが入った。

「うん、やっぱりマミさんは正義の味方だ!それに引き換えあの転校生……ホントにムカつくなぁ!」
「………」

おそらくだが、暁美さんとさやかは確実に相性が合わないのだろう。

「ねえ、マミさん。魔女の居そうな場所、せめて目星ぐらいは付けられないの?」
「魔女の呪いの影響で割と多いのは、交通事故や傷害事件よね。だから大きな道路や喧嘩が起きそうな
歓楽街は、優先的にチェックしないと。あとは、自殺に向いてそうな人気のない場所。それから、病院とかに取り憑かれると最悪よ。ただでさえ弱っている人たちから生命力が吸い上げられるから、目も当てられないことになる」

さやかの疑問に、魔力反応を探しながら巴さんが答えた。
その時、巴さんのソウルジェムの輝きが増した。

「かなり強い魔力の波動だわ。近いかも」
「このあたりで自殺に向いてそうな場所は……」
「そういえば、向こうの方に取り壊しが決定された廃墟ビルがあったような」

俺はこの間道に迷っていた時に見た廃墟ビルを思い出した。

「そこだ!」
「急ぎましょ!!…渉君、案内をお願い」

こうして俺を先頭に、廃墟ビルへと向かった。





「間違いない。ここよ」

廃墟ビルの前にたどり着き、ソウルジェムの輝きを確認した巴さんがそう呟いた瞬間だった

「あ、マミさんあれ!」

さやかが屋上の方に指を指す。
その方向を見ると、飛び降りてくる人影があった。

「うわ!?」
「きゃーー!!」

最悪な結果を想像したまどかが悲鳴を上げながら目を閉じた。
しかし、巴さんだけは変身しながら落ちてくる場所まで移動していた。

「はッ!」

そして片手を上空に掲げると落ちてくる人―女性―を守るかのように黄色いリボンが女性を受け止めた。
そして俺達は女性の元に駆け寄った。

「魔女の口づけ……やっぱりね」

首筋に複雑な模様が描かれていた。
どうやらこれが魔女の口づけらしい。

「この人は?」
「大丈夫。気を失っているだけ。行くわよ」

まどかの問いかけに答えると、巴さんはビル内へと向かったため、俺達もそれについて行く。
中は特に変わったところもない。
しかし、正面の階段のところに何かがあった。

「今日こそ逃がさないわよ。それと、渉君もそろそろ出してもいいと思うよ」
「あ、それじゃ」

俺は巴さんのOKが出たのはバックの中から二本の神剣を取り出した。
すると、巴さんは片手で二本の神剣とさやかのバットに手を添えた。
その瞬間さやかのバットがカラフルな武器に変わり、俺の神剣は神々しい光を発した。

「うわ、うわー」
「すご~い」

そのあまりの変わりようにさやかとまどかが感嘆の声を上げた。
俺はと言えば、別に強化しなくても平気なんだがと思っていたりした。

「気休めだけど。これで身を守る程度の役には立つわ。絶対に私の傍を離れないでね」
「はい」
「はい!」
「分かりました」

巴さんの注意に俺達は一斉に頷いた。
そして巴さんとさやかにまどかは蝶のような模様のある光の中へと姿を消した。

「ん?」

そんな中、俺はある人物の気配を感じていたが、すぐに光の中へと入った。





結界内で俺達を待っていたのは、蝶のようなものだった。
目の前に現れた蝶を巴さんはマスケット銃で撃っていく。
一方こっちにいる蝶は。

「うわ!来るな!来るな!!

さやかがビビり腰でバットをふるう。

「伏せてさやか、まどか!」

俺はさやかたちにそう告げると、神剣の一本正宗を横に一閃した。
一瞬の光の後、俺達の周りにいた蝶は姿を消していた。

「す、すごい」
「なかなかやるわね」
「素質はあるんだけどね」

三者三様の称賛の声が、微妙に心地よい。
だが、こんなもの俺にとってみればお遊戯会レベルだ。

「どう?怖い?三人とも」
「な、何てことねーって!」

走りながらかけられた巴さんの言葉に、さやかは若干ドモリながら答えた。
そして再び俺達を片手で制すとその先には複数の蝶がいた。
それを巴さんは先ほどと同じように、マスケット銃で撃っていく。
しかしその撃ち逃したものが俺達の背後で集まるが、俺の一閃で消滅させた。

「頑張って。もうすぐ結界の最深部だ」

走っているとキュウベぇから声がかけられた。
あと少しで大ボスの場所らしい。
そして髭動物を巴さんのマスケット銃の連発により一気に消し去ると複数のドアをくぐり、広場にたどり着いた。
そこに存在していたのは、言葉では語れない程不気味な生命体だった。
おそらくあれが魔女なのだろう。

「見て。あれが魔女よ」
「う…グロい」

どうやらさやかも俺と同じことを感じていたようだ。
と言うよりこれが可愛いっていう奴はいないだろうが。

「あんなのと……戦うんですか?」
「大丈夫。負けるもんですか」

巴さんはそう言うと、さやかからバッドを取るとそれを思いっきり地面に叩き付けた。
その瞬間俺達の周りに、膜のようなものが形成された。

「下がってて」

そして巴さんは魔女の前に躍り出た。
そして何かを踏んづけると、魔女は巴さんの方を見た。
巴さんがスカートの裾を持ち上げると、そこからマスケット銃が二丁出てきた。
その銃で魔女が投げつけた椅子のようなものを避けて撃った。
さらに帽子から大量のマスケット銃を出すと、空中を飛んでいる魔女に向けて撃っては捨て、また別の銃を手にして打つというのを繰り返す。
しかし魔女に集中していたため、地面にある何かが黒いロープへと姿を変えて巴さんを逆さづりにする。
その状態で巴さんは魔女に向けてマスケット銃をで撃つが、それはすべて外れてしまった。
そしてそのまま壁に叩き付けられる。

「あっ……マミさ~ん!」

それを見たさやかが悲痛な声を上げる。
だが、当の巴さんは

「大丈夫。未来の後輩に、あんまり格好悪いところ見せられないものね」
まだその表情には余裕があった。
その次の瞬間、先ほどの銃の着弾場所から黄色のひものようなものが伸びた。
それはやがて、魔女を縛りつけた。

「惜しかったわね」

一気に有利となった巴さんは胸元のリボンを解くとそれを使ってロープを切った。
さらにそれを使って巨大なマスケット銃を作り出した。

「ティロ・フィナーレ!!」

そしてそれを魔女に向けて容赦なく撃った。
そして魔女は消滅した。
巴さんは地面に優雅に着地すると、どこから出したのかティーカップをキャッチした。
そしてそれに口を付ける。

「あ、勝ったの?」
「すごい……」

その瞬間、周りの景色がぐにゃりと揺れると元の場所なのか、景色が元に戻った。
すると、巴さんは一人で歩いて、腰をかがめると何かを拾った。

「これがグリーフシード。魔女の卵よ」
「た、卵」
「運がよければ、時々魔女が持ち歩いてることがあるの」

魔女の卵と聞いてさやかが顔をしかめるが、巴さんは説明を続けた。
グリーフシードと言うものは真っ黒の物だった。

「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」

怯えているさやかに気付いたのか、キュウベぇがそう説明した。

「私のソウルジェム、ゆうべよりちょっと色が濁ってるでしょう?」
「そう言えば……」
「確かに」

巴さんのソウルジェムは心なしか、先日より輝きが無くなっているようにも見えた。

「でも、グリーフシードを使えば、ほら」
「あ、キレイになった」

ソウルジェムから黒い靄……おそらく穢れが浮き上がると、それはグリーフシードに吸い込まれた。

「ね。これで消耗した私の魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」

巴さんはそう説明すると、誰もいない場所に向けてグリーフシードを投げつけた。
すると、誰もいないはずなのにキャッチした音が聞こえた。

「あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ。暁美ほむらさん」

姿を現したのは 暁美さんだった。

「あいつ……」

先ほど感じた気配は彼女の物だったようだ。

「それとも、人と分け合うんじゃ不服かしら?」
「貴女の獲物よ。貴女だけの物にすればいい」

巴さんの言葉に、暁美さんはそう答えると、グリーフシードを投げ返した。

「そう。それがあなたの答えね」

それを受け止めた巴さんはいつになく険しい表情で暁美さんを睨みつける。
そして暁美さんはそのまま姿を消した。

「くぅー!やっぱり感じ悪いやつ!」

姿が消えるのと同時にさやかが声を上げる。

「仲良くできればいいのに」
「お互いにそう思えれば、ね」

まどかの呟きに、巴さんが苦笑いを浮かべながら答えた。

「思う努力もしてないくせに」

俺はついつい本心を口に出してしまった。

「何かしら?渉君」
「あ、言え、こっちの話です」

その後、自殺をさせられた女性が目を覚まし、巴さんは体を震わせている女性を宥めているのを見ていた。

「一件落着、って感じかな」
「うん」

こうして俺達の魔女退治体験ツアー第1回目は幕を閉じたのだった。

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第4話 それは過去の偉大な人物の物語

昼休み、屋上に移動した俺とまどかにさやかの3人は、優雅に昼食を摂っていた。

「はい」
「あむ」

いや、3人と1匹だった。

「ねえ、まどか。願い事、何か考えた?」

そんな時、唐突にさやかが口を開いた。

「ううん。さやかちゃんは?」
「私も全然。何だかなぁ。いっくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ。欲しい物もやりたい事もいっぱいあるけどさ、命懸けって所で、やっぱ引っ掛かっちゃうよね。そうまでする程のもんじゃねーよなーって」
「うん……」
「意外だなあ。大抵の子は二つ返事なんだけど」

さやかの答えにキュウベぇは顔色一つ変えずにそう反応した。

「まあきっと、私達がバカなんだよ」
「え……そうかな?」

さやかはベンチから立ち上がると、そのまま金網の所まで行った。

「そう、幸せバカ。別に珍しくなんかないはずだよ?命と引き換えにしてでも、叶えたい望みって。そう言うの抱えている人は、世の中に大勢いるんじゃないのかな。だから、それが見付からない私達って、その程度の不幸しか知らないって事じゃん。恵まれ過ぎてバカになっちゃってるんだよ。何で……私達なのかな?不公平だと思わない?こうゆうチャンス、本当に欲しいと思っている人は他にいるはずなのにね」

「さやかちゃん……」

その時だった。
突然暁美さんが現れたのだ。
俺とさやかはまどかをかばうように立ち上がる。

【大丈夫】

突然のテレパシーに俺達はふと横を見ると、少し離れた建物に巴さんらしき人影と光が見えた。
どうやら向こうが何かをしようとしたときは、攻撃をするという事だ。
そして一瞬暁美さんが横に目を配るとそのままスタスタと俺達の元に歩いてきた。

「昨日の続きかよ」
「いいえ、そのつもりはないわ。そいつが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけれど、今更それも手遅れだし。で、どうするの? 貴女も魔法少女になるつもり?」
さやかの言葉に暁美さんはキュウベぇを見やるとそう答え、まどかに問いかける。

「私は……」
「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」

まどかの言葉を遮ってさやかが叫ぶ。
俺は事の成り行きを静観しているだけだ。

「昨日の話、覚えてる?」
「うん」

暁美さんの問いかけに、まどかは頷いた。

「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる」

その答えに満足したのか、暁美さんはそのまま踵を返した。

「ほ……ほむらちゃん。あの……あなたはどんな願いごとをして魔法少女になったの?」

まどかの疑問に、暁美さんは一瞬こっちの方を見る。

「あ……」

まどかが声を上げた。
俺にもわかった。
彼女の表情がものすごく、悲しげだったことに。
しかし、すぐにそのまま背を向けて去って行った。

「何なの?あいつ」

さやかがふとつぶやく。
見れば巴さんの姿もなかった。

「………二人に歴史の話でもしようか?」
「ふぇ!?」
「な、なぜにそこで歴史?」

俺の突然の提案に、すかさずさやかのつっこみが入る。

「いやいや、悩んでいる二人にはいい道しるべになるものだ」

二人はお互いに顔を見合わせると、そのままさっきのようにベンチに腰かけたのを見て、俺はそれを承諾と捉えもといた場所に座ると、話を始めた。

「何かしらかの偉大な事をした者は、歴史に名を刻むことになる」
「それって坂本○馬みたいな?」

さやかの返しに、俺は苦笑いを浮かべながら頷く。

(なんでそこで出てくるのが竜○なんだ?)

「これは、偉大なことをやったのに名を残せなかった無名の偉人の話だ」

そして俺は歴史を話し始める。










時代は古代ヨーロッパ時代。
とある国にある孤児院のような場所にとある少年がいた。
少年は幼いころに両親を亡くし、友達もいないという孤独だった。
周りの者たちも彼に近づく者はいなかった
そんな少年にある転機が訪れる。
それは少年のいる孤児院を襲った立てこもり事件だ。
犯人の数は3人。
全員がライフル銃を構えていた。
人質になったのは孤独な少年だった。
それ以外の者達は、少年をおいて逃げ出してしまったのだ。
警察も人質の安全のために、突入が出来ずにいた。
そんな膠着状態を崩したものがいた。
それが人質になっていた少年だった。
とは言え、何をしたのかと言えば、隠し持っていたはさみを無我夢中で突き刺したことだった。
突き刺したのは立てこもり犯の首謀者。
首謀者は瀕死の重傷を負ったが、それによって形成の崩れた犯人グループは一網打尽で逮捕された。
そして少年はそのまま病院へと収容されたが、それからしばらくして、彼の周囲は一変した。
少年をほめたたえる物がいたのだ。
その理由は少年の勇猛果敢なところと、逮捕した犯人グループがその国で最も脅威となっていたグループであったことにあった。
少年はそれを見て、こう思った。
『悪い人をいっぱい倒せば、孤独じゃなくなる』と。
そして少年はその後トレーニングを欠かさなかった。
体を鍛え、剣術を学んでいった。
そして頼まれるがままに少年は、悪人を殺していった。
殺した悪人の数に応じて集まる人が激増した。
そして何時しか彼は”英雄”と称えられた。










「英雄かぁ」
「いいよね~、あたしも呼ばれてみたいな~英雄って」

俺の話を途中まで聞いていたまどかとさやかが英雄と言う単語に反応した。

「……だったら良かったのだがな」
「??」
「それってどういう―――」

俺の呟きに反応した二人をしり目に、俺は話を続けた。










英雄と呼ばれた彼はさらに悪人を消していった。
そして少年が18才になった時、彼の周りは常に人であふれていた。
だからこそ少年は天狗になってしまった。
大を救うためならば小を切り捨てるという考え方になっているのに気付かなくなってしまったことが、転落の幕開けだった。
そんなある日だった。
それはあるテロ組織が役場のような場所に対する攻撃事件だった。
少年は当然のごとくそのテロ組織の殲滅を命じられたのだ。
そして少年がテロ組織の一味と接触した時だった。
その中に少年の友人が武装をしていたのだ。
これは後程分かったことだが、このテロ組織は洗脳をして人員を増やしていったらしい。
つまり、その友人は操られていたのだ。
この時少年は考えた。
一人の友人を失ってもこのテロ組織を撃退すれば寄ってくる人は、数十人にも及ぶ、と。
そして少年は何のためらいもなく友人を切り捨てた。
その後、任務を無事に終え戻ってきた少年を待っていたのは、周りの者達からの畏怖の目だった。
それもそのはずだ。
ほんのちょっとしたことが理由で自分たちまでもが殺されるのが怖いからだ。
そしてそれからしばらくして少年は村人たちに暗殺された。










「――――――――――そしてその少年は、どことも知れない土地に無造作に埋められたのだった。めでたしめでたし」
「あぅぅ………」
「………」

俺の話を聞き終えたまどか達は何も言わない。
いや、周りの雰囲気が重い。

「ゴホンッ!!つまり俺が言いたいのは、願い事をするときはその後のマイナスも考えろと言うことだ」
「いやそれだけの為にここまで雰囲気を暗くしたのかい!?」

さやかがツッコんでくる。
「そうだけど何か?重くさせないと実感わかないでしょ?」
「いや、だからってあんたね――」

その時、予鈴が鳴った。

「あ、昼休み終わった。」
「そうだね、ってあたしお昼食べてない!!!?」

学校中にさやかのむなしい叫び声が響き渡った。





放課後、俺とまどかにさやかの3人は先日寄ったファミレスで巴さんと合流した。

「さて、それじゃ魔法少女………魔女退治体験コース第一弾、張り切っていってみましょうか。

俺がいるのに気付いて言い直してくれた巴さんの優しさに、俺は涙が出そうだった。

「みんな準備はいい?」
「準備になってるかどうか分からないけど……持って来ました!何もないよりはマシかと思って」

さやかが取りだしたのは、金属バットだった。

「まあ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」
「でも、あんましそう言うのはこういうところで出すのはやめような」

俺はさらっと注意した。
こんな所で物騒なものを掲げるなんて、信じられない。

「ま、まどかは何か、持って来た?」
「え?えっと。私は……」

そう言ってまどかが取りだしたのは一冊のノート。
そこに書かれていたのは、何とも言い難いイラスト集だった。

「うーわー」

それを見たさやかと巴さんが呆然としているほどだ。

「と、とりあえず、衣装だけでも考えておこうと思って」

その瞬間、二人は思いっきり笑い始めた。

「え?!ふぇぇ!?」

それを見たまどかは恥ずかしさのあまりに、俯いていた。

「うん、意気込みとしては十分ね」
「こりゃあ参った。あんたには負けるわ」
「どうやらまどかは形から入るタイプらしいな」
「っ~~~~~~~!!!!」
「そういう渉は何か持ってきたの?」

笑いを収めながらさやかが聞いてきたので、俺は待ってましたと言わんばかりにバックからある物を取り出し、それをテーブルの上に置いた。

「……それは?」

俺はその問いかけに答えるように包みを解いていった。

「神剣です♪」
「いやいやいや!?!あんたの方がよっぽど物騒だよ!!と言うより真剣!!?」

さやかのツッコミが入った。
他の二人も唖然としていた。

「いや~剣術だったら自信があるんですよ俺。と言うことで、まどかいる?」
「い、いらないよ!!」

剣を差し出したら拒否された。

「あ、大丈夫だよ。だって……」

俺はそう言いながら、カバンの中に手を入れた。

「もう一本あるし」
「二本もあるんかい!?」

この日何度目か分からないさやかのツッコミが入った。
ちなみに、この日のまどかのノートは完全な黒歴史と化してしまった。
まあ当然だろうけど。
こうして俺達の魔法少女もとい、魔女退治体験ツアーは幕を開けた。

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第3話 魔法少女

「私は巴マミ。あなたたちと同じ、見滝原中の3年生。そして……」

目の前にいる巴先輩は言葉を区切ると、駆け寄ってきたキュウベぇを抱きかかえて告げた。。

「キュゥべえと契約した、魔法少女よ」

確かに言葉通りだった。

「さてと、ここじゃなんだし、ちょっと私と一緒に来て貰っていいかしら?」
「あ、はい!!」
「右に同じく」

と言うことで、俺達は彼女についていくのであった。





「あの、巴先輩」
「私は先輩っていうがらじゃないから普通に巴でいいわよ」
「そ、それじゃ巴さん。一体どこに行く気ですか?」

俺の問いかけに、巴さんはにこやかな笑顔で振り返ると

「それはついてからのお楽しみよ」

と言われたので、俺はただ静かについて行く事にした。
そして到着したのが、巴さんの自宅だった。

「うわぁ……」
「素敵なお部屋……」
「これは何とも……」
「独り暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」

そこはまさに豪邸だった。
いやマンションの一室だとは想像もできないほど広かった。
そして巴さんは紅茶とケーキを4人分用意するとテーブルに置いて、俺達に座るように促してきた。

「マミさん。すっごく美味しいです」
「んー、めちゃうまっすよ」
「ありがとう。キュゥべえに選ばれた以上、あなたたちにとっても他人事じゃないものね。ある程度の説明は必要かと思って」

まどかとさやかの感想に、巴さんは嬉しそうに言うと本題を切り出した。

「うんうん、何でも聞いてくれたまえ」
「さやかちゃん、それ逆」

さやかの言葉に、まどかは苦笑いを浮かべながら突っ込む。

「というより、さっき一番怖がっていた奴―わー!わー!わー!それ以上言うな!!―」

俺のため息交じりの言葉に、さやかは喚きながら遮った。

「わあ、きれい」
「これがソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ」

そういって巴さんが俺達の前に差し出したのは黄色の卵の形をした、宝石のようなものだった。

「魔力の源であり、魔法少女であることの証でもあるの」
「契約って?」
「僕は、君たちの願いごとを何でも一つ叶えてあげる」

さやかの疑問にキュウベぇは表情を変えずに答えた。

「え、ホント?」
「願いごとって……」
「なんだって構わない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」

まどかの言葉にキュウベぇが答えた。

「金銀財宝とか、不老不死とか、満漢全席とか?」
「いや、最後のはちょっと」
「お前どんだけ貪欲だよ」

俺はたまらず突っ込んだ。

「でも、それと引き換えに出来上がるのがソウルジェム。この石を手にしたものは、魔女と戦う使命を課されるんだ」

俺の突っ込みを無視して淡々とキュウベぇが説明を続けた。

「魔女?」
「魔女って何なの?魔法少女とは違うの?」
「願いから産まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望を蒔き散らす。しかもその姿は、普通の人間には見えないから性質が悪い。不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ。そういう災いの種を世界にもたらしているんだ」

さやかの疑問にキュウベぇが答えた。

(プラスとマイナスか)

俺は心の中でそう考えていた。
もしかしたら魔女と言う存在は”世界にとって”必要なものなのかもしれない。
陰陽学がいい例だ。
同じ数だけの陰と陽があれば世界が安定すると言われているそれによるが。
でも言えない。
言ってしまえばおそらくこの場にいる全員の冷たい視線が贈られるからだ。

「理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ。形のない悪意となって、人間を内側から蝕んでゆくの」

真剣な面持ちで巴さんが説明する。

「そんなヤバイ奴らがいるのに、どうして誰も気付かないの?」
「魔女は常に結界の奥に隠れ潜んで、決して人前には姿を現さないからね。さっき君たちが迷い込んだ迷路のような場所がそうだよ」
「結構、危ないところだったのよ。あれに飲み込まれた人間は、普通は生きて帰れないから」

俺はその言葉を聞いてぞっとした。
俺がどうなるかよりも、もしまどか達まで犠牲になった時の事を考えたからだ。

「マミさんは、そんな怖いものと戦っているんですか?」
「そう、命懸けよ。だからあなたたちも、慎重に選んだ方がいい。キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある。でもそれは、死と隣り合わせなの」

まどかの言葉に、巴さんは表情を崩さずに忠告してきた。

「ふぇ……」
「んー、悩むなぁ」
「そこで提案なんだけど、二人ともしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

悩んでいる二人に巴さんは突然そう提案してきた。

「「えぇ?」」
「魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみればいいわ。そのうえで、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えてみるべきだと思うの」
「ところでさ」

さやかはそう切り出して、話題を変えた。

「あの転校生も、えっとその……魔法少女なの?マミさんと同じ」
「そうね。間違いないわ。かなり強い力を持ってるみたい」

さやかの仮説を巴さんは肯定した。

「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?それがなんで急にまどかを襲ったりしたわけ?」
「彼女が狙ってたのは僕だよ。新しい魔法少女が産まれることを、阻止しようとしてたんだろうね」

さやかの疑問にキュウベぇが答えた。
確かにそれなら頷ける。

「何で?同じ敵と戦っているなら仲間は多い方がいいんじゃないの?」
「それが、そうでもないの。むしろ競争になることの方が多いのよね」
「そんな……どうして?」

俺はもうすでに読めていた。
競争になるということは倒したことに対しての報酬関連だろう。

「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの。だから、時と場合によっては手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね」

巴さんは目元を細めて不快なオーラを全開で答える。

「つまりアイツは、キュウべえがまどかに声掛けるって最初から目星を付けてて、それで朝からあんなに絡んできたってわけ?」
「たぶん、そういうことでしょうね」

巴さんはそう言いながらソウルジェムに手をかざして、指輪のようなものに形を変えた。

「………でもさ」

とここで、俺は口を開いた。

「本当にあいつは悪いやつなのか?」
「何を言ってんの?あの転校生はキュウベぇを襲ってたじゃないか!」

俺の言葉に、さやかが反論してくる。

「それはそうなんだが……何だかこう、引っかかるんだよな」

もしかしたらあの一瞬の表情を見たからかもしれない。
俺はあの表情を見て、彼女が三人が想像しているような存在ではないと思っているのだ。

「確かに、渉君の言うとおりね。何でもかんでも疑ってかかるのは良くないわね」

すると、巴さんが俺の言葉に賛同した。

「あ、いや。もしかしたら俺の気のせいかもしれないですから」

俺はそう言ったものの、暁美ほむらと言う存在が気になるのであった。
そしてこの日は別れることになった。
魔女退治が実際に始まるのは、明日の放課後らしい。










「まどか遅いな~」
「また寝坊じゃないの?」

翌日、俺達はいつものように学園へと向かっていた。

「おっはよう~」
「おはよ……うわっ!?」

さやかがまどかを見た瞬間に声を上げた。
俺も一瞬あげそうになったぐらいだ。
なぜなら………

「おはよう、さやか」

まどかの方に乗っているキュウベぇがいたのだから。

「どうかしましたか?さやかさん」

驚いているさやかの様子を気にした仁美が、心配そうに声をかける。

「やっぱそいつ、私達にしか見えないんだ」
「そうみたい」

ものすごい速さでまどかに近づくと、小声で話した。
と言うより、こっちにまで聞こえてるぞ。

「あの……」
「ああ、いや、何でもないから!いこ、いこ!!」

不思議がる仁美を、さやかは強引に連れて歩き出す。

【頭で考えるだけで、会話とかできるみたいだよ】

頭の中にまどかの声が響いてきた。

【ええ?私達、もう既にそんなマジカルな力が?】

さやかは体を引きつかせていた。
まあ突然聞こえれば驚くよな。
ちなみに念のために言うが、俺は驚いてないぞ?

【いやいや、今はまだ僕が間で中継しているだけ。でも内緒話には便利でしょう?】
【何か変な感じ】

まどかとさやかは俺と仁美を置いて歩いて行こうとした。

【でも慣れれば便利じゃないか?】

ここぞとばかりに俺も参加する。
意外と面白い。

「お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目配せしてますけど」
「え?いや、これは……あの……その……」

仁美の言葉にまどかはあからさまに動揺する。
それだと何かありましたって言ってるもんだよ?

バタン!

すると、案の定仁美はバッグを地面に落とした。

「まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?!まあ!たった一日でそこまで急接近だなんて。昨日はあの後、一体何が!?」
「いや、そりゃねーわ。さすがに」
「確かに色々……あったんだけどさ」

二人の否定ともいえない否定が飛んでくる。

「でもいけませんわ、お二方。渉さんと言う心に決めた人がいるのに、女の子同士で。それは禁断の、恋の形ですのよ~!!」

仁美が走り出す。
それはまあいいとしよう。
しかしなぜか俺をの手をつかんで、だ。

「って、なんで俺の手をつかむ!?そして俺を引きずるな~!!!!」

俺はまるで人形のように引きずられていくのであった。

「バッグ忘れてるよー!」
後ろからさやかの声が聞こえる。
それを言う前に助けてよ……。
ちなみにこの後……

「あぁ……。今日の仁美ちゃん、何だかさやかちゃんみたいだよ」
「どーゆー意味だよ、それは」

と言うやり取りがあったとかなかったとか。
ちなみに仁美が俺を引きずっていることに気付いたのは、学校のクラスについた時だった。
彼女曰く、バッグと勘違いしていたらしい。

(俺の存在意義って、バックなのか?)

この時、本当に泣きそうになったのは秘密だ。





それからしばらくしてやってきたまどか達は仁美の方に駆け寄ると、謝っていた。
彼女は彼女でお怒りモード全開だし。

「災難だったねぇ~」
「大丈夫?渉君」

二人の真逆の言葉がかけられる。
ちなみに名誉のために言うと、上からさやか、まどかだ。

「ああ大丈夫だ。人間ジェットコースターを体験できたしね」

俺は皮肉交じりに答えた。

「ふぅ……」
【つーかさ、あんた、のこのこ学校までついて来ちゃって良かったの?】

席に着くや否やキュウベぇにさやかがテレパシーで話し掛ける。

【どうして?】
【言ったでしょ?昨日のあいつ、このクラスの転校生だって。あんた命狙われてるんじゃないの?】
【さやか、少しは考えろよ】

俺はたまらずにさやかにツッコんだ。
理由なんて簡単だ。

【渉、それってどういう―――――】
【むしろ、学校の方が安全だと思うな。マミもいるし】

さやかの言葉を遮ってキュウベぇが答えた。
つまりはそういう事だ。

【マミさんは3年生だから、クラスちょっと遠いよ?】
【ご心配なく。話はちゃんと聞こえているわ】

すると、突然巴さんの声が聞こえた。

【この程度の距離なら、テレパシーの圏内だよ】

なるほどな、そういう事か。

【あ、えっと……おはようございます】

まどかはあたりさわりのない挨拶をした。

【ちゃんと見守ってるから安心して。それにあの子だって、人前で襲ってくるようなマネはしないはずよ】
【なら良いんだけど……】
「あっ!?」

その時、教室に暁美さんが入ってきた。

【げ、噂をすれば影】

そして暁美さんは席に着くや否や、まどかの方を……具体的には胸に抱かれているキュウベぇを睨みつけた。

【気にすんなまどか。アイツが何かちょっかい出してきたら、私がぶっ飛ばしてやるからさ。マミさんだってついてるんだし】
【そうよ。美樹さんはともかくとして、私が付いているんだから大丈夫。安心して】

さやかの言葉に反応して巴さんが安心させるように言った。

【ともかくってゆーな!】
【ふ、結界で怖がっていた奴が――――】
【わ~た~る~?後でちょっとお話ししようか?】
【ぜ、全力でお断りさせていただくです!!!】

そんなこんなで、この日の授業が始まるのであった。

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第2話 訪れた異変

放課後、俺達は近場のファーストフード店にいた。

「ええ!?何それ?」
「わけわかんないよね……」

まどかの話を聞いたさやかがすっとんきょな声を出した。

「文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん。くー!どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだ?あの転校生は!?萌えか?そこが萌えなのかぁ!?」
「まどかさん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」
「うん…常識的にはそうなんだけど」

項垂れていたさやかは、まどかの言葉に反応して顔を思いっきりあげた。

「何それ?非常識なところで心当たりがあると?」
「あのね…昨夜あの子と夢の中で会った……ような……」
「あははは。すげー、まどかまでキャラが立ち始めたよ」

まどかの言葉に、さやかと仁美は大きな声で腹を抱えながら笑い出した。

「ひどいよぅ。私真面目に悩んでるのに」
「仕方ないでしょ。いきなり夢で会ったなんて言われれば、ねぇ?」

俺は苦笑いを浮かべながら答えた。

「あー、もう決まりだ。それ前世の因果だわ。あんた達、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」
「夢って、どんな夢でしたの?」

前世の因果とまで言われたまどかに仁美が尋ねる。

「それが、何だかよく思い出せないんだけど……とにかく変な夢だったってだけで」
「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」
「え?」

仁美の仮定に、まどかが驚いたような声を上げる。

「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」
「それ出来過ぎてない?どんな偶然よ?」
「そうね」

さやかの言葉に、仁美は苦笑いを浮かべながら答えた。
その後お稽古事で帰る仁美を見送り、さやかがCDショップに行くので、それに付き合うことにした。

【助けて!】
「ん?」

そんな時、突然頭の中に声が響いた。

【助けて!だれか!!】
「え?え?」

隣にいたまどかも反応している。

「まさか今の聞こえたのか?」
「え!?渉君も聞こえたの!?」

驚いた様子で、まどかが聞いてくる。

【僕を、助けて】
「とりあえず行ってみよう!」
「う、うん!」

そして俺達は声のする方へと走っていった。





「誰?誰なの?」
【助けて……】

声を頼りに誰もいないフロアに来てしまった。
どうやら改装中らしい。

「ねえ渉君。なんで金属の棒を持ってるの?」
「何が出るかわからないからね。一応護身用だ」

俺は右手に金属の棒を持っていた。

【助けて……】
「どこにいるの?あなた……誰?」
「………来る!」

俺は気配を感じ、そう呟いた次の瞬間。

「きゃ!?」

天井から落ちてきたのは、傷だらけの見たことのない生き物だった。

「あなたなの?」
「助けて……」

どうやらその通りらしい。
そんな時、俺達の前に立つ人がいた。

「ほむら…ちゃん?」

暁美さんだった。
何だか服装が見たことのないものであった。
それが彼女を冷酷な風貌に、仕立て上げていたのだ。

「そいつから離れて」
「だ、だって……この子、怪我してる」

俺は、やれやれと演じながらまどかの前に立つ。

「おいおい、小動物を痛めつけるのが趣味なのかい?恐ろしい性格だな」
「邪魔しないで」

暁美さんが目を細めてこっちを睨みつける。

「はっ!俺は小動物虐待を見逃せない性質でね。どうしても退かせたいのなら、力づくでやってみな!」

俺はそう挑発して手にした金属の棒を構えた。
言葉では言えない緊張感が漂った時だった。
突然、暁美さんが白い煙に覆われた。

「まどか、渉!こっち!!」
「さやかちゃん!」
「ナイスだ、さやか!!」

頼もしい援軍に、俺達はさやかの背後に移動すると、さやかは手にしていた消火器を暁美さんに投げつけ俺達は走って逃げた。

「何よあいつ。今度はコスプレで通り魔かよ!つーか何それ、ぬいぐるみじゃないよね、生き物?」
「わかんない。わかんないけど……この子、助けなきゃ」

そんな時、またぞっと背筋に寒気が走った。
さっきのよりはかなり強い。

「気を付けろ!来るぞ!!!」
「え?」

俺の警告と同時に、周りの景色が一変した。

「あれ?非常口は?どこよここ」
「変だよ、ここ。どんどん道が変わっていく」

二人は周りを見回す。

「あーもう、どうなってんのさ!」
「やだっ。何かいる」

確かに何かの気配が強くなる。
そして出てきたのは、毛玉に髭の生えた生物だった。
何かを呟いている。

「冗談だよね?私、悪い夢でも見てるんだよね?ねえ、まどか!渉!」
「いや、冗談でもない。こいつら俺達を殺す気だ」

俺が奴らの言葉が理解できていた。

「い、いや……」

二人は俺の背中にぴったりしがみ付いていた。

「二人とも、逃げろ」
「え?」
「聞こえなかったか?俺が囮になる、だからお前らは逃げろ」

俺は二人に声をかけた。

「そ、そんな!!」
「そんなことしたら渉が!!」
「それがなんだ?女の一人も守れねえ男なんて、生きる価値なんてない!!!」
「あ、あれ?!」
「これは?」

そんな時、突然俺達の周りをオレンジ色の明かりが包み込むと、あの生物が消えていた。

「とても素晴らしいわ」

凛々しく透き通る声と拍手の音に、俺達は振り返ると、そこには金色の髪をぐるぐる巻きにした少女が、向かってきていた。

「あら、キュゥべえを助けてくれたのね、ありがとう。その子は私の大切な友達なの」
「私、呼ばれたんです。頭の中に直接この子の声が」
「ふぅん……なるほどね。その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね。2年生?」

言われてみれば、彼女の来ている服は俺達の通っている見滝原の制服だった。

「あ、あなたは?」
「そうそう、自己紹介しないとね」

その瞬間、断ち切りばさみの音が聞こえる。

「でも、その前に」

少女は華麗なステップを踏んで、胸の前の卵のような何かを構えた。

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

その瞬間、突風が吹きつけ思わず目を閉じた。
そして目を開けた瞬間、上空にまるで別人だと思うほど服装が変わった少女が浮いていた。

「はッ!」

少女が手を横に振るのと同時に、展開されていたライフル銃のようなものが一斉に火を噴く。

「す……すごい」

その手際の良さにまどかが感嘆の声を上げた。
そう、それはまさに一言で言ってしまえば”魔法”そのものだった。
すると、再び景色が揺らぎ元いた場所の風景に戻った。

「も、戻った!」
「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」

突然現れた暁美さんに、少女はそう告げる。
俺は二人の一歩手前に出て、金属の棒を構えた。

「私が用があるのは……」
「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

なおも食い下がる暁美さんに少女はあからさまに、口調を変えた。
少女の言葉に、緊張感が漂う。

「?」

俺は違和感を感じた。
睨み合いの末、暁美さんが立ち去ったのだが、その時一瞬ではあったがとても悔しそうな表情をしているように見えた。

「「ふぅ」」

二人は暁美さんが引いたのを見て体の力を抜いていた。
そして少女はキュゥベえと呼ばれた動物を受け取ると 回復魔法のようなものをかけた。

「ありがとうマミ、助かったよ」

キュゥベえと呼ばれた動物は、突然立ち上がって真美と呼ばれた少女にお礼を言った。

「お礼はこの子たちに。私は通りかかっただけだから」
「どうもありがとう。僕の名前はキュゥべえ」
「あなたが、私を呼んだの?」

まどかはキュゥべえに尋ねる。

「そうだよ、鹿目まどかと美樹さやか、それと小野 渉」
「なっ!?」
「何で、私たちの名前を?」

俺とさやかはきぅべえが俺達の名前を知っていたことに驚いて声を上げた。

「僕、君たちにお願いがあって来たんだ」
「お、おねがい?」

キュゥべえの言葉に、まどかがオウム返しに聞く。
そしてキュゥべえは俺達に告げる。

「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」

それは今思えば、悪魔の契約のようなものだったのかもしれない。

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