放課後、俺達は近場のファーストフード店にいた。
「ええ!?何それ?」
「わけわかんないよね……」
まどかの話を聞いたさやかがすっとんきょな声を出した。
「文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん。くー!どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだ?あの転校生は!?萌えか?そこが萌えなのかぁ!?」
「まどかさん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」
「うん…常識的にはそうなんだけど」
項垂れていたさやかは、まどかの言葉に反応して顔を思いっきりあげた。
「何それ?非常識なところで心当たりがあると?」
「あのね…昨夜あの子と夢の中で会った……ような……」
「あははは。すげー、まどかまでキャラが立ち始めたよ」
まどかの言葉に、さやかと仁美は大きな声で腹を抱えながら笑い出した。
「ひどいよぅ。私真面目に悩んでるのに」
「仕方ないでしょ。いきなり夢で会ったなんて言われれば、ねぇ?」
俺は苦笑いを浮かべながら答えた。
「あー、もう決まりだ。それ前世の因果だわ。あんた達、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」
「夢って、どんな夢でしたの?」
前世の因果とまで言われたまどかに仁美が尋ねる。
「それが、何だかよく思い出せないんだけど……とにかく変な夢だったってだけで」
「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ」
「え?」
仁美の仮定に、まどかが驚いたような声を上げる。
「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」
「それ出来過ぎてない?どんな偶然よ?」
「そうね」
さやかの言葉に、仁美は苦笑いを浮かべながら答えた。
その後お稽古事で帰る仁美を見送り、さやかがCDショップに行くので、それに付き合うことにした。
【助けて!】
「ん?」
そんな時、突然頭の中に声が響いた。
【助けて!だれか!!】
「え?え?」
隣にいたまどかも反応している。
「まさか今の聞こえたのか?」
「え!?渉君も聞こえたの!?」
驚いた様子で、まどかが聞いてくる。
【僕を、助けて】
「とりあえず行ってみよう!」
「う、うん!」
そして俺達は声のする方へと走っていった。
「誰?誰なの?」
【助けて……】
声を頼りに誰もいないフロアに来てしまった。
どうやら改装中らしい。
「ねえ渉君。なんで金属の棒を持ってるの?」
「何が出るかわからないからね。一応護身用だ」
俺は右手に金属の棒を持っていた。
【助けて……】
「どこにいるの?あなた……誰?」
「………来る!」
俺は気配を感じ、そう呟いた次の瞬間。
「きゃ!?」
天井から落ちてきたのは、傷だらけの見たことのない生き物だった。
「あなたなの?」
「助けて……」
どうやらその通りらしい。
そんな時、俺達の前に立つ人がいた。
「ほむら…ちゃん?」
暁美さんだった。
何だか服装が見たことのないものであった。
それが彼女を冷酷な風貌に、仕立て上げていたのだ。
「そいつから離れて」
「だ、だって……この子、怪我してる」
俺は、やれやれと演じながらまどかの前に立つ。
「おいおい、小動物を痛めつけるのが趣味なのかい?恐ろしい性格だな」
「邪魔しないで」
暁美さんが目を細めてこっちを睨みつける。
「はっ!俺は小動物虐待を見逃せない性質でね。どうしても退かせたいのなら、力づくでやってみな!」
俺はそう挑発して手にした金属の棒を構えた。
言葉では言えない緊張感が漂った時だった。
突然、暁美さんが白い煙に覆われた。
「まどか、渉!こっち!!」
「さやかちゃん!」
「ナイスだ、さやか!!」
頼もしい援軍に、俺達はさやかの背後に移動すると、さやかは手にしていた消火器を暁美さんに投げつけ俺達は走って逃げた。
「何よあいつ。今度はコスプレで通り魔かよ!つーか何それ、ぬいぐるみじゃないよね、生き物?」
「わかんない。わかんないけど……この子、助けなきゃ」
そんな時、またぞっと背筋に寒気が走った。
さっきのよりはかなり強い。
「気を付けろ!来るぞ!!!」
「え?」
俺の警告と同時に、周りの景色が一変した。
「あれ?非常口は?どこよここ」
「変だよ、ここ。どんどん道が変わっていく」
二人は周りを見回す。
「あーもう、どうなってんのさ!」
「やだっ。何かいる」
確かに何かの気配が強くなる。
そして出てきたのは、毛玉に髭の生えた生物だった。
何かを呟いている。
「冗談だよね?私、悪い夢でも見てるんだよね?ねえ、まどか!渉!」
「いや、冗談でもない。こいつら俺達を殺す気だ」
俺が奴らの言葉が理解できていた。
「い、いや……」
二人は俺の背中にぴったりしがみ付いていた。
「二人とも、逃げろ」
「え?」
「聞こえなかったか?俺が囮になる、だからお前らは逃げろ」
俺は二人に声をかけた。
「そ、そんな!!」
「そんなことしたら渉が!!」
「それがなんだ?女の一人も守れねえ男なんて、生きる価値なんてない!!!」
「あ、あれ?!」
「これは?」
そんな時、突然俺達の周りをオレンジ色の明かりが包み込むと、あの生物が消えていた。
「とても素晴らしいわ」
凛々しく透き通る声と拍手の音に、俺達は振り返ると、そこには金色の髪をぐるぐる巻きにした少女が、向かってきていた。
「あら、キュゥべえを助けてくれたのね、ありがとう。その子は私の大切な友達なの」
「私、呼ばれたんです。頭の中に直接この子の声が」
「ふぅん……なるほどね。その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね。2年生?」
言われてみれば、彼女の来ている服は俺達の通っている見滝原の制服だった。
「あ、あなたは?」
「そうそう、自己紹介しないとね」
その瞬間、断ち切りばさみの音が聞こえる。
「でも、その前に」
少女は華麗なステップを踏んで、胸の前の卵のような何かを構えた。
「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」
その瞬間、突風が吹きつけ思わず目を閉じた。
そして目を開けた瞬間、上空にまるで別人だと思うほど服装が変わった少女が浮いていた。
「はッ!」
少女が手を横に振るのと同時に、展開されていたライフル銃のようなものが一斉に火を噴く。
「す……すごい」
その手際の良さにまどかが感嘆の声を上げた。
そう、それはまさに一言で言ってしまえば”魔法”そのものだった。
すると、再び景色が揺らぎ元いた場所の風景に戻った。
「も、戻った!」
「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」
突然現れた暁美さんに、少女はそう告げる。
俺は二人の一歩手前に出て、金属の棒を構えた。
「私が用があるのは……」
「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
なおも食い下がる暁美さんに少女はあからさまに、口調を変えた。
少女の言葉に、緊張感が漂う。
「?」
俺は違和感を感じた。
睨み合いの末、暁美さんが立ち去ったのだが、その時一瞬ではあったがとても悔しそうな表情をしているように見えた。
「「ふぅ」」
二人は暁美さんが引いたのを見て体の力を抜いていた。
そして少女はキュゥベえと呼ばれた動物を受け取ると 回復魔法のようなものをかけた。
「ありがとうマミ、助かったよ」
キュゥベえと呼ばれた動物は、突然立ち上がって真美と呼ばれた少女にお礼を言った。
「お礼はこの子たちに。私は通りかかっただけだから」
「どうもありがとう。僕の名前はキュゥべえ」
「あなたが、私を呼んだの?」
まどかはキュゥべえに尋ねる。
「そうだよ、鹿目まどかと美樹さやか、それと小野 渉」
「なっ!?」
「何で、私たちの名前を?」
俺とさやかはきぅべえが俺達の名前を知っていたことに驚いて声を上げた。
「僕、君たちにお願いがあって来たんだ」
「お、おねがい?」
キュゥべえの言葉に、まどかがオウム返しに聞く。
そしてキュゥべえは俺達に告げる。
「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」
それは今思えば、悪魔の契約のようなものだったのかもしれない。
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