何気ない朝は本当に素晴らしいと思う。
何せ、どんなにお金を出しても平和と言うのは得ることはできないのだから。
「おっはよう!」
俺達のいるところに、ピンク色の髪を両端に束ねている少女が駆け寄ってきた。
「おはようございます」
「まどかおそーい」
今駆け寄ってきた少女の名前は、鹿目 まどかそして彼女の横にいる青髪の少女は、美樹 さやか、最後が緑色の髪をしている大人の雰囲気をした少女が志筑 仁美(しずきひとみ)だ。
この3人はいつも仲がいいのかよく集まって話をしている。
かくなる僕も今はそのグループに入っているわけだが。
「お?可愛いリボン」
「そ、そうかな?派手すぎない?」
「とても素敵ですわ」
「そうそう、恥ずかしがることはないって」
一人がリボンの話題になれば、僕もついていく。
女子の話についていくのは微妙に大変だ。
そして俺たちは学校へと向かうのだった。
「――――でね、ラブレターでなく直に告白できるようでなきゃダメだって」
「相変わらずまどかのママはカッコいいなあ。美人だしバリキャリだし」
「そんな風にきっぱりと割り切れたらいいんだけど……はぁ」
さやかの言葉に、今まで先を歩いていた仁美がこちらの方に振り返った。
彼女の悩みは、ラブレターだ。
何でもたくさんもらってしまうのだとか。
一部の女子にはかなりの確率で妬まれる悩みだが。
「羨ましい悩みだねぇ」
「良いなぁ、私も一通ぐらいもらってみたいなあ。ラブレター」
まどかが頬に手を当ててそんな事を呟く。
「ほぅ?だったら渉にでも書いて貰ったら?」
「え、えぇ!?」
突然俺の名前が出てきたな。
ッと、そういえば自己紹介がまだだった。
俺の名前は、小野 渉(おのわたる)どこにでもいる普通の中学生です。
「おやおや? これは脈ありですなぁ」
「あぅぅ~」
まどかは顔を赤くして下を向いていた。
「さやか、からかうのもそこまでに」
俺の注意にさやかは『は~い』と生返事をした。
「それにしても、昨日転校してきて知り合ったばかりだっていうのに本当に馴染んでいますね」
「そう? 今でもあなた達の話題についていくので精一杯なんだけどね」
どうでもいいことだが、俺は昨日転校してきたのだ。
そこで俺について話していた3人を見つけて、声をかけたということだ。
最初は訝しんでかなり警戒していたが、今ではこう自然に話せるようになっていた。
そして俺たちは、今度こそ学園へと向かう。
―これがもし僕たちにとって何気ない1日と言うのであれば……―
今この時が最後だったのかもしれない。
「ごほんっ、皆さんに大事なお話があります。心して聞くように」
HR、教室でそう切り出したのは眼鏡をかけた、俺達のクラスの担任の早乙女先生だった。
「目玉焼きとは固焼きですか? それとも半熟ですか? はい、中沢君!!」
「え、えぇっと、どっちでもいいんじゃないかと」
「その通り! どっちでもよろしい! たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違いです!」
そういって早乙女先生は思いっきり指揮棒のようなものを割った。
「女子の皆さんは、くれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!」
「だめだったんだ」
「だめだったんだね」
先生の様子に、さやかとまどかは苦笑いを浮かべていた。
「そして、男子のみなさんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!」
「それって、先生の男を見る目がな―駄目だよ言っちゃ!!―んんぅう!?」
俺の静かな突込みに、隣に座っていたまどかが思いっきり口を塞いできた。
「はい、あとそれから、今日はみなさんに転校生を紹介します」
まどかの拘束を説いた俺は、そのままの体制で固まった。
「じゃ、暁美さん、いらっしゃい」
先生に促されて一人の少女が教室に入ってくる。
「うわ! すげぇ美人」
「うそっ、まさか」
まどかはその少女を見て信じられないといった表情で見ていた。
俺も、少女を見やる。
長い黒髪で、確かにさやかの言う通り見かけならば美人だ。
だが……
(寂しそうな目だ。何もかもに絶望しきっている、悲しい感じだ)
俺は転校生のあまりの冷酷な雰囲気に冷や汗をかいていた。
「はい、それじゃあ自己紹介と行きましょう」
「暁美ほむらです」
暁美さんはそれだけしか自己紹介をしなかった。
そして固まっている先生をしり目に彼女は自分の名前を、ホワイトボードに書くと丁寧に礼をした。
そのあまりのことに、クラスも固まっていたが、たどたどしくではあるが拍手の音が場を包んだ。
「え? えっと……あの」
暁美さんはまどかの方をじっと睨みつけていた。
休み時間、暁美さんはクラスのみんなから質問攻めにあっていた。
「不思議な雰囲気の方ですわね、暁美さん」
「ねえまどか、あの子知り合い? なんかさっきすんごいガン飛ばされてなかった?」
「え? えっと……あの……」
さやかの問いかけに、まどかは何かを言い渋っていた。
すると、暁美さんがこっちに向かってきた。
「鹿目まどかさん。あなたがこのクラスの保健委員よね。連れてってもらえる? 保健室」
「あ……あのぅ……その……私が保健係って……どうして」
彼女から放たれるオーラにまどかは、完全にたじたじだった。
「早乙女先生から聞いたの」
「あ、そうなんだ」
「俺も、同伴させてもらうよ」
俺は念のために、まどかについていくことにした。
「え? あ、うん。え、えっと保健室は……あぁっ」
「こっちよね」
突然歩き出した暁美さんは、まるで保健室を知っているように歩いていく。
「あ、あの、暁美……さん」
「ほむらでいいわ」
そんなやり取りを俺は横で一緒に歩きながら静かに聞いていた。
そして人通りの少ない場所に来るや否や、こちらに振り返った。
「鹿目まどか。貴女は自分の人生が、貴いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」
「え? えっと……わ、私は……大切……だよ。家族も、友達のみんなも。大好きで、とっても大事な人達だよ」
突然の問いかけに、まどかはたじろぎながらもこたえる。
俺はそれを静観する。
「本当に?」
「本当だよ! 嘘なわけないよ」
「そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね」
暁美さんはそこで話を切った。
「さもなければ、全てを失うことになる」
「え?」
突然の宣告にまどかは声を上げて驚いた。
「貴女は、鹿目まどかのままでいればいい。今までどおり、これからも」
そう言って俺たちに背を向けると、すたすたと歩いて行った。
「それと……」
だが、数歩歩いたところで、もう一度こちらに振り返った。
今度は俺を見た。
しかしその目線は、とても冷たくかなりの敵意を感じるものだった。
「私の邪魔をするなら、容赦はしない……それだけは覚えておいて」
「は? それってどういう――――」
俺の疑問に答えることなく、暁美さんは今度こそ去って行った。
『………』
俺達は只々そこに立ち尽くすだけだった。
(一体どういう意味だ? 彼女の言葉と”あれ”とは関係があるのか?)
俺は心の中でただそのことを考えているのであった。
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