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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第11話 夕暮れ時に現れる者(前)

暁美さんと別れた足で、俺はまどかに連れて行かれる形であるアパートの入り口に来ていた。
彼女の話だとさやかの部屋があるらしい。
そしてしばらくして、入り口からさやかが出てきた。

「まどか?それに渉まで」
「よ!」
「さやかちゃん、これから、その……」
「そ、悪い魔女を探してパトロール。これも正義の味方の勤めだからね」

まどかの問いかけに、さやかは笑いながら答えた。

「一人で…平気なの?」
「平気平気。マミさんだってそうして来たんだし。後輩として、それぐらいはね」
「あのね、私、何もできないし、足手まといにしかならないってわかってるんだけど。でも、邪魔にならないところまででいいの。行けるところまで一緒に連れてってもらえたらって」

手にしてあるバッグを落としてまで必死にさやかに決意を告げていた。

「………」
「………」

お互いに無言で緊張感が漂う中、俺はさやかの答えを待った。

「頑張り過ぎじゃない?」
「ごめん……ダメだよね、迷惑だってのはわかってたの」
「ううん。すっごく嬉しい」

さやかはそう言うと、まどかの手を握った。

「ねえ分かる?手が震えちゃってさ。さっきから止まらないの。情けないよね。もう魔法少女だってのに、一人だと心細いなんてさ」
「さやかちゃん……」

さやかの言葉に、まどかが心配そうに名前を言う。

「邪魔なんかじゃない。すごく嬉しい。誰かが一緒にいてくれるだけで、すっごく心強いよ。それこそ百人力って感じ」
「私……」
「必ず守るよ。だから安心して私の後についてきて。今まで見たいに、一緒に魔女をやっつけよう」
「うん」

(……とりあえずは、大丈夫……かな)

さやかの決意を聞いてひとまずは安心した。
彼女が巴さんのような馬鹿だったらどうしようかと思ったので、そうではなくてよかった。

「危険は承知の上なんだね?」
「あたしバカだから、一人だと無茶なでたらめやらかしかねないし。まどかもいるんだって肝に銘じてれば、それだけ慎重になれると思う」

キュウベぇの言葉にさやかは歩きながら答える。

「そっか。うん、考えがあっての事ならいいんだ」
「キュゥべえ?」

まどかはキュウベぇの方を見た。

【君にも君の考えがあるんだろう?まどか。さやかを守りたい君の気持ちは分かる。実際、君が隣に居てくれるだけで、最悪の事態に備えた切り札を一つだけ用意できるしね】
「………」

キュウベぇのテレパシーに俺は無言で考えた。

(今のは間接的に契約させようとしてるよな?)

【私は……】
【今は何も言わなくていい。さやかもきっと反対するだろうし。ただ、もし君が心を決める時が来たら、僕の準備は、いつでも整ってるからね】
【うん……】
「ここだ」

しばらく歩き続けると、下に続く階段の所でソウルジェムが眩い位に輝いていた。
すると次の瞬間、結界が展開された。

「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔のものだね」
「楽に越した事ないよ。こちとらまだ初心者なんだし」

キュウベぇの言葉にさやかはそう言いながら階段を下りていく。

「油断は禁物だよ」
「分かってる」
「まあ何かあったら巴さんの時のように、微力ながらサポートさせてもらうよ」
「うん。ありがとう?」

いや、なぜに疑問形だ?
その時だった。

ゾクッ!!

「あっ」
「ブーン、ブーン」

俺達の上空に、電車のようなものに乗った子供のような使い魔が現れた。

「あれが」

使い魔はそのままどこかに行こうとする。

「逃げるよ」
「任せて!」

さやかはそう言うと、変身した。
前の時はよく見れなかったが、その服は、青を基調としたドレスのようなものだった。
そして自分の体をマントで包むと、複数の剣を召喚した。
そしてそれを使い魔に向けて放り投げた。
二本の剣が使い魔の行く手を塞ぎ、残った剣が使い魔に突き刺さろうとした時だった。
突然現れた何かの武器によって剣が弾かれた。
止めを刺せなかった使い魔は、そのまま逃げて行った。
そして降り立ったのは赤いドレスのようなものを着て、後ろで束ねられた赤髪の少女だった。
その手には武器である長めの槍が握られていた。

「ちょっとちょっと。何やってんのさ、アンタたち」
「逃がしちゃう」

結界が閉じようとする中、まどかがそう告げてさやかが走り出す。
だが……

「見てわかんないの?ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ。グリーフシードを持ってるわけないじゃん」

赤い髪の少女はさやかの喉元に槍を突き付け言い放った。

「だって、あれほっといたら誰かが殺されるのよ?」

なぜかたい焼きを食べながらそう言い放つ。

「だからさぁ、4~5人ばかり食って魔女になるまで待てっての。そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだからさ。アンタ、卵産む前の鶏シメてどうすんのさ」

赤い髪の少女はそう言いながらさやかに突き付けた槍を元に戻した。

「な……魔女に襲われる人たちを……あんた、見殺しにするって言うの?」
「………」

俺は嫌な予感を感じたため2,3m下がった。

「アンタさぁ、何か大元から勘違いしてんじゃない?食物連鎖って知ってる?学校で習ったよねぇ、弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食う。これが当たり前のルールでしょ、そういう強さの順番なんだから」

赤い少女はさやかの元に迫り、さやかは背後へと下がって行く。
そこは俺のいる方向だった。

(お願いだから厄介ごとには巻き込まないでくれよ)

その時だった。

「なっ!!?」

俺の横に、区切りが展開された。
つまり俺は危険区域に閉じ込められたのだ。

「そんな……」
「おいおい、マジかよ」

俺は自分の運のなさを恨んだ。

「あんたは」
「まさかとは思うけど。やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かますために……アイツと契約したわけじゃないよね?アンタ」

赤い少女のいう事は正しい。
この世界は正義だけでは成り立たない。
正義と言う単語は、俺が二番目に嫌いな言葉でもある。
だからと言って、彼女のやり方は肯定できないが。

「だったら、何だって言うのよ!」

さやかはそう叫び赤い少女を切ろうと剣を振り上げる。
だが、地面に突き刺された槍の棒に阻まれる。

「ちょっとさ、やめてくれない?」

赤い髪の少女は余裕そうな表情でそう呟く。

(剣の力加減がおかしい。あれじゃいくらなんでも押し切れない)

「遊び半分で首突っ込まれるのってさ、ホントムカつくんだわ」

赤い髪の少女はそう言うと、槍を強く押してさやかを後ろに吹き飛ばすと、槍の形を楔状に変えた。

「うわああ!!」
「さやかちゃん!!」

それは複雑に渦巻くとさやかを跳ね飛ばした。

「のわぁ!?」

それはこっちにもやって来て、危うく当たりそうになる。

「あぶねぇだろ!!!」

俺の怒鳴り声にも、まったく反応しない。

「ふん、トーシロが。ちっとは頭冷やせっての」

赤い髪の少女はそう言ってさやかに背を向ける。
だが、さやかはゆっくりとだが立ち上がろうとする。

「おっかしいなぁ。全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったはずなんだけど」
「さやかちゃん、平気なの?」

まどかがキュウベぇに聞く。

「彼女は癒しの祈りを契約にして魔法少女になったからね。ダメージの回復力は人一倍だ」

俺はその説明に納得がいった。

「誰が……あんたなんかに。あんたみたいな奴がいるから、マミさんは!!」
「ウゼェ。超ウゼェ」

さやかの言葉に赤い髪の少女は槍を再び構える。

「つうか何。そもそも口の利き方がなってないよね。先輩に向かってさぁ」

さやかの足元には、青い五線譜が浮き出ている。

「黙れえええ!!!」

さやかが剣を振り上げる。
それが始まりだった。

「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!」

さやかの剣を槍でうまくいなし、時には攻撃に転じさらには槍を楔状に変える。

「さやかちゃん!!」
「まどか、近づいたら危険だ」

いや、今その危険な場所に俺はいるんだけど!?

「うわああ!」

そしてさやかは楔状の槍にまきつかれ、壁際に放り投げられた。

「言って聞かせてわからねえ、殴ってもわからねえバカとなりゃあ…後は殺しちゃうしかないよねッ!?」

赤い髪の少女はそう言ってさやかの方へと迫る。

「ッ!?」

その瞬間、さやかの剣の先が赤い髪の少女の槍の先とぶつかり合う。

「負けない。負けるもんかあ!」

さやかは剣を押しやる。
さやかは赤い髪の少女を切りつけようとするが、彼女は上空へと舞い上がった。
そして、上空からさやかにめがけて、槍を振り下ろす。
その衝撃で、地面が得くれるが、さやかは少しばかり後ろに追いやられただけだった。
さやかは赤い髪の少女に迫る。

「どうして?ねえ、どうして?魔女じゃないのに。どうして味方同士で戦わなきゃならないの?」
「どうしようもない。お互い譲る気なんてまるでないよ」

それを見ていたまどかの言葉に、キュウベぇが答えた。

「お願い、キュゥべえ、渉君、やめさせて。こんなのってないよ」
「僕にはどうしようもない」
「だったら俺が何とかしようか?」
「え!?」

俺の言葉に、まどかが声を上げた。

「なんとかできるの!?」
「ああ、もちろんだ。逆にあの少女をぶちのめすことだってな」
「それじゃ――――」

俺はまどかの言葉を区切った。

「ただとは言わせないぜ?」
「え……」

俺の言葉に絶望交じりの声を出す。

「当り前だ。かなり危険な状況だ。そんなところにただで行くやつはあるか」

俺はそう言って、報酬を何にしようか考えた。

「イチゴのショートケーキを一個おごる。それでどうだ?」

俺が掲示した条件はそれだった。

「分かった」

俺の条件にまどかが頷いた。

「よし、契約成立!!!」

俺はそう答え、手元のバックから神剣を取り出した。
俺はこの時を待っていたのだ。

「終わりだよ」

さやかたちの状況を見れば、少女の槍によってさやかが地面に倒され飛び上がっていた。
おそらくあの槍でさやかを貫くのだろう。
俺は地面を思いっきり蹴る。
距離にして約70m。
さやかを貫くまでの残り時間は、約4秒。
普通では間に合わない。

「そんなこと、この俺には……」

俺はさやかの前に回り込み二本の神剣を交差させる。

「関係ねえ!!!!」

カキン!!

その次の瞬間、交差した神剣から衝撃が伝わった。

「なっ!!?」
「え?」

俺が顔を振り上げると、そこには槍を突き刺そうとする驚いた様子の赤い髪の少女の姿があった。

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第10話 人助けと偽善者

翌日の教室。

「ふあぁぁ……あ、はしたない。ごめんあそばせ」

彼女にしては珍しく欠伸をしている仁美の姿があった。

「どうしたのよ仁美。寝不足?」
「ええ、昨夜は病院やら警察やらで夜遅くまで」
「えー、何かあったの?」

まどかが微妙に息をのむが、さやかは平然を装っていた。

(まあ、本当のことは言えないしな)

「何だか私、夢遊病っていうのか。それも同じような症状の方が大勢いて。気がついたら、みんなで同じ場所に倒れていたんですの」
「はは、何それ?」

本当にさやかはごまかすのがうまいと思う。

「お医者様は集団幻覚だとか何とか……。今日も放課後に精密検査に行かなくてはなりませんの。はあ、面倒くさいわ……」
「そんな事なら、学校休んじゃえばいいのに」
「ダメですわ。それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの」

さやかの言葉に仁美が反論する。

「さっすが優等生!偉いわー」

その後先生が教室に入って来て授業となった。





放課後、俺達は河川敷に来ていた。

「久々に気分良いわー。爽快爽快」

野原に寝そべっているさやかは本当に気持ちよさそうに声を出す。

「さやかちゃんはさ、怖くはないの?」
「ん?そりゃあちょっとは怖いけど…昨日の奴にはあっさり勝てたし。もしかしたらまどかと仁美、友達二人も同時に亡くしてかもしれないって。そっちの方がよっぽど怖いよね。だーかーら、何つーかな。自信?安心感?ちょっと自分を褒めちゃいたい気分っつーかね」

さやかは突然起き上がると俺達にソウルジェムを見せた。
その色は、青だった。

「まー、舞い上がっちゃってますね、私。これからの見滝原市の平和はこの魔法少女さやかちゃんが、ガンガン守りまくっちゃいますからねー!」

さやかは立ち上がってそう宣言するが、俺にはシュールな光景に見えてしまった。

「後悔とか全然ないの?」
「そうねー。後悔って言えば、迷ってたことが後悔かな。どうせだったらもうちょっと早く心を決めるべきだったなって。あのときの魔女、私と二人がかりで戦ってたら、マミさんも死なないで済んだかもしれない」

さやかは再び地面に腰かけた。

「私……」

再び泣き出しそうになるまどかの頬にさやかが指でつついた。

「さーてーは、何か変な事考えてるなー?」
「私、私だって……」
「なっちゃった後だから言えるの、こういう事は。どうせならって言うのがミソなのよ。私はさ、成るべくして魔法少女になったわけ」

さやかの言葉には多少だが、重みがあった。

「さやかちゃん……」
「願い事、見つけたんだもの。命懸けで戦うハメになったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。そう気付くのが遅すぎたって言うのがちょっと悔しいだけでさ。だから引け目なんて感じなくていいんだよ。まどかは魔法少女にならずに済んだって言う、ただそれだけの事なんだから」

こういう時に、さやかの優しさが分かる。

「うん……」
「さてと、じゃあ私はそろそろ行かないと」

突然さやかはバックを手にして立ち上がった。

「ん?何か用事があるの?」
「ん?まあね」

さやかは返事を濁してそのまま去って行った。





その後、まどかは暁美さんを呼び出して前に行ったことのあるファミレスによっていた。

「話って何?」
「あのね、さやかちゃんのこと、なんだけど……あ、あの子はね、思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったり。でもね、すっごくいい子なの。優しくて勇気があって、誰かのためと思ったらがんばり過ぎちゃって」
「魔法少女としては、致命的ね」

まどかの言葉に、暁美さんは切り捨てた。

「そう……なの……」
「度を越した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。そして、どんな献身にも見返りなんてない。それをわきまえていなければ、魔法少女は務まらない。だから巴マミも命を落とした」
「そんな言い方やめてよっ!!」

巴さんのことを言った途端、まどかが大声で叫んだ。

「そう、さやかちゃん、自分では平気だって言ってるけど、でも、もしマミさんの時と同じようなことになったらって思うと、私どうすればいいのか」
「美樹さやかのことが心配なのね」
「私じゃもう、さやかちゃんの力にはなってあげられないから。だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。さやかちゃんと仲良くしてあげて。マミさんの時みたいに喧嘩しないで。魔女をやっつける時も、みんなで協力して戦えば、ずっと安全なはずだよね」

まどかは暁美さんに必死に懇願した。

「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束もしたくない」
「え?」
「だから、美樹さやかのことは諦めて」

その言葉は、まどかにとってはとても残酷なものだった。

「どうしてなの……」
「あの子は契約すべきじゃなかった。確かに私のミスよ。貴女だけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった」
「なら……」

暁美さんの言葉にまどかが反論しようとする。

「でも、責任を認めた上で言わせて貰うわ。今となっては、どうやっても償いきれないミスなの。死んでしまった人が還って来ないのと同じこと。一度魔法少女になってしまったら、もう救われる望みなんてない。あの契約は、たった一つの希望と引き換えに、すべてを諦めるってことだから」
「だから、ほむらちゃんも諦めちゃってるの?自分のことも、他の子のことも全部」
「ええ。罪滅ぼしなんて言い訳はしないわ。私はどんな罪を背負おうと私の戦いを続けなきゃならない。時間を無駄にさせたわね。ごめんなさい」

暁美さんはそう言い切ると、席を立ってファミレスから出て行った。
俺は、その彼女の後をついて行った。

「ちょっと待てよ」
「……何かしら」

俺が声をかけると、少々とげのある言い回しで返された。

「一つだけ勘違いしているようだから、その指摘と謝罪だ」

俺の言葉に、暁美さんは何も反応を示さない。

「まずは謝罪な。申しわけなかった。俺は前までは巴マミが馬鹿なのかと思っていたのだが、どうやらお前も相当なバカのようだ」
「どういう意味かしら?」
「そのままの意味だ。同じ過ちを何度も何度も繰り返すのは馬鹿な奴だけだ。いや、もっと言えば愚か者か」

俺の言葉に、暁美さんが睨みつけてくる。

「最後に指摘な。巴マミが殺されたのだとすれば、殺したもしくはその幇助をしたのはお前だ。暁美ほむら」

そして俺は最後に告げた。

「そしてお前はまた同じことをしようとしている。だから言っておく。人一人守れないようでは、まどかを守るなんてことは到底無理だ。諦めんだな」
「っ!!?」

俺の言葉に暁美さんは息をのんだ。
俺はそんな事なぞお構いなしに、彼女に背を向けて歩き出した。
俺は間違ったことを言ったとは思っていない。
人を助けることのできない者が、大事な人を守るなんてことはできない。
それでも守ると言うのであれば、その人物はただの偽善者だ。
俺は偽善者がとても嫌いだ。
だからこそ……。

「もしお前が偽善者なのであれば、この俺が直々に消し去ってくれる。暁美ほむら」

俺はそう決意を口にした。
もちろん、もう少し様子を見るつもりだ。
彼女が俺の”敵”なのかを。





ほむらSide

「そしてお前はまた同じことをしようとしている。だから言っておく。人一人守れないようでは、まどかを守るなんてことは無理だ。諦めんだな」
「っ!!?」

私は彼の言葉に心がかき乱された。

(あなたに、私の何が分かるのよ)

私が味わった絶望を彼は何も知らない。
それなのにああ言われた事が悔しくて、私は両手を強く握りしめていた。

(私は、私の成すべきことをやるわ)

「邪魔するのなら容赦はしない」

私は最後にそう決心してその場を後にした。

Side out

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第9話 新たな魔法少女現る

正宗と吉宗を取りに言った俺は、引き返して急いでまどかと別れた場所へと向かった。

「えっと、こっちか!!」

地面を見ると水がこぼれた跡があった。
俺はそれを頼りに走って行く。





「ここか」

やがてたどり着いたのは、人気のない工業地区だった。

「水跡がここで途切れてるから、ここで間違いないだろうけど、これじゃ」

その中の一つの工場に水跡が続いていたが、そこはシャッターが閉じられていて、入れる状態ではない。

(とにかく、入れそうな場所を探そう!)

俺はそう思い、工場の周りを走った。

(あ、あそこの窓から入れるかも!)

俺はそう思い、窓のそばまで駆け寄る。

ガチャン!

「へ?」

突然窓ガラスの割れる音がしたかと思うと、何かが降ってきた。

バシャン!

「っ~~~~~~~!!!!!!」

降ってきた液体をかぶった瞬間、体中がとてつもない痛みに襲われた。

「おりゃアアア!!!!」

ガシャン!!!

「きゃぁ!」

俺は怒りにまかせて窓をけり破って中に入った。

「誰だッ!!人に向かってバケツを放り込んだ馬鹿は!!!」
「わ、渉君!!」

中にいたやつらにいきり立てる俺に、背後からまどかの声がした。

「遅れてすまない。大丈夫だったか?」
「あ、う、うん」

なぜか申し訳なさそうな表情をしているまどか。
そんな時、何かが落ちる音がした。

「うわ!?」

振り返ると、そこには大人の人達がいたが、目が尋常ではない。
俺はとてつもない恐怖感に苛まれた。
まどかは窓を開けようとしているが、開ける方向を間違えているために開かず、少しずつ奥へと追い詰められていった。
すると、運のいいことに背後にドアがあった。

「まどか!そのドアを開けろ!」
「う、うんッ!!」

俺は前から押し寄せてくる人たちを抑えながら、まどかに指示を出すとドアが開いたので、俺は抑えていた人たちを押しのけてドアを通った。
そしてドアを閉めようとすると、大人たちの手がこっちに入ろうとドアを開けようとするので、俺とまどかで何とかドアを閉めて鍵をかけることに成功した。

「ふぅ……」

俺は何とか一息ついた。
そこは金網に囲まれていて、外に出られる場所はない。

「……ど、どうしようっ……どうしようっ」

その時だった。

「まどか、結界が!!」

背筋に寒気が走った瞬間、変なものがこの部屋に広がって行った。

「炎天の輝きよ。全てを守りし、盾となれ!」

俺はとっさの判断で正宗と吉宗を地面に突き刺して結界を形成した。

「や、やだっ……こんな……」

だが、俺達は魔女の結界内に取り込まれた。





そこは不思議な空間だった。
周りに走るのはメリーゴーランドの馬か?
今は何とか結界で大丈夫だがこのままではいつ殺されるかも時間の問題だ。

「い、嫌……」

まどかの呟きに、横を見ると何かを見ておびえているまどかの姿があった。
そして俺もつられてその方向を見ると、そこには白い人形のようなものが持っているテレビに映し出された巴さんの姿があった。

(まさか……)

嫌な予感がした。

「まどか!気をしっかり持て!!」
「………」

まどかは何も答えない。

(クソッ!結界が)

俺は分かっていた。
結界が少しずつ弱り始めているのを。
このまま結界が破れれば、俺達に待っているのは”死”だ。

(結界の補強をしないと)

俺はそう思い精神を集中する。
しかし……
上空から降りてきたテレビのようなものから出てきた人形たちが、結界に攻撃を仕掛けてきた。

「っくぅ!?」

もろい状態の結界が今にも破られそうになる。

ピキッピキ!!

ひびの入る音がやけにくっきりと聞こえた。

(ここまでか)

俺はそう思い、死を覚悟した時だった。

ガシュン!ガシュン!!パキン!!

突然の青い閃光により人形とテレビが破壊された。
そのおかげで、結界の状態が回復した。

「……さやかちゃん!?」

その閃光を放った人物は、白地のマントに身を包み、青髪が特徴の少女だった。
青い閃光を放った少女の姿を見た時、まどかがそう口にした。
俺にも目の前にいる少女がさやかに見えた。
一瞬さやかと思われる少女はこちらを見ると、白い人形を次々に斬り伏せていく。

「これでとどめだぁ!!」

そして本体なのか、テレビに向けて手にした剣を突き刺す。
それによって目の前の景色が揺れ、元の場所に戻った。





「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったね」

さやかの第一声はそれだった。

「さやかちゃん……その格好」
「ん?あー、んーまあ何、心境の変化って言うのかな?」

まどかの心配そうな声色にさやかは笑いながら答えていた。

「ん?あ、大丈夫だって!初めてにしちゃあ、上手くやったでしょ?私」
「でも……」

その時、靴音が響いた。

「!?」

その音を出したのは、暁美さんだった。

「貴女は……」

その眼にあるのは、さやかに対する怒りにも見えた。

「ふん、遅かったじゃない。転校生」

そして暁美さんはそのまま姿を消した。

「さやか、ありがとう。助かった」
「な、何よ……照れるじゃない」

さやかにしては珍しく顔を赤くしていた。

「って、どうしたの?!体中びしょ濡れじゃん」
「あ~!?そうだった!!窓からポリバケツを投げて変な液体をかけた馬鹿がいるんだ!!」

俺はさやかの言葉で思い出した。

「あ、あの渉君」
「ん?どうしたまどか。まさか投げたやつを知ってんのか?」
「ごめんね。投げたの、私なの……」

俺はまどかの言葉に息をするのも忘れた。

「ま~ど~か~?」
「ヒィ!?」

俺が呻るように名前を呼ぶと、怯えた様子でさやかの背中に隠れた。

「まあ、いいや。遅れた僕も悪かったんだし」
「にしても、よく無事だったよね」
「あ、私も気になってたんだ。渉君、さっきのあれ何?」

まどかの言うあれは、俺が展開した結界だ。

「あれは結界」
「へぇ……って!結界!?」
「渉君、魔法が使えたの?!」

俺の答えにまどかが聞いてくる。

「まさか。俺が使ったのは気法だよ」
「気法?」

まどか達が首を傾げる。
まあ、当然だが。

「合気道のようなものだよ。気の力で色々なことが出来る奴」
「なるほど~」
「さっきは本当にビビったぞ。あれは外部からのマイナスエネルギーには強いけど、内部からのマイナスエネルギーにはとても弱いから。まどかは絶望してマイナスエネルギーを放っているから強度がどんどん弱くなるし」

俺のボヤキに二人は笑うだけだった。





3人称Side

「あむ」

とある鉄塔に腰かける少女の姿があった。
その手に持っているクレープを食べながら。

「まさか君が来るとはね」
「マミの奴がくたばったって聞いたからさぁ、…わざわざ出向いてやったっていうのに。何なのよっ!?ちょっと話が違うんじゃない?」

赤髪の少女の言葉に、キュウベぇは顔色を変えずに答える。

「悪いけど、この土地にはもう新しい魔法少女がいるんだ。ついさっき契約したばかりだけどね」
「何ソレ?超ムカつく」

赤髪の少女は不快感をあらわにする。

「でもさあ、こんな絶好の縄張り、みすみすルーキーのヒヨッ子にくれてやるってのも癪だよねぇ」
「どうするつもりだい? 杏子」
「決まってんじゃん」

杏子と呼ばれた少女はキュウベぇの問いかけに答える。

「要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?……その子」

それは、新たなる波乱を告げる物でもあった。

Side out

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第8話 風穴

翌日、俺達はいつものように通学路を歩いていた。

「でもってー、ユウカったらさー、それだけ言ってもまだ気付かないのよ。『え、何?また私変な事言ったー?』とか半べそになっちゃってー。こっちはもう笑い堪えるのに必死でさー!」
【さやかちゃん、昨日のこと……】
【ゴメン、今はやめよう。また後で】

まどかのテレパシーにさやかはそう返すと仁美の横を歩く。
たった一つ変わったのは、巴さんがいない事だろう。





昼休み、俺とまどかは屋上のベンチに腰かけていた。

「………」
「………」

二人は無言だった。

「ん?」
「何か……違う国に来ちゃったみたいだね。学校も仁美ちゃんも、昨日までと全然変わってないはずなのに。何だかまるで、知らない人たちの中にいるみたい」

まどかがぽつぽつと話し始めた。

「知らないんだよ、誰も」
「え?」

するとさやかが突然そんな事を言い始めた。
「魔女の事、マミさんの事、あたし達は知ってて、他のみんなは何も知らない。それってもう、違う世界で違うものを見て暮らしているようなもんじゃない」
「さやかちゃん……?」
「とっくの昔に変わっちゃってたんだ。もっと早くに気付くべきだったんだよ、私達」
「……う、うん……」

さやかの言葉にまどかは頷いた。

「まどかはさ、今でもまだ魔法少女になりたいって思ってる?」

さやかの問いかけに、まどかは地面を見るだけだったが、それには強い拒否を示していた。

「……そうだよね。うん、仕方ないよ」
「ずるいってわかってるのに……今さら虫が良すぎだよね。でも……無理……私、あんな死に方…今思い出しただけで息が出来なくなっちゃうの。怖いよ……嫌だよぅ」

まどかは涙を流しながら呟いた。
俺は無言でまどかの頭に手を置いた。

「マミさん、本当に優しい人だったんだ。戦う為にどういう覚悟がいるのか、私達に思い知らせる為に……あの人は……ねえキュウべえ?この町、どうなっちゃうのかな?マミさんの代わりに、これから誰がみんなを魔女から守ってくれるんだろう」
「長らくここはマミのテリトリーだったけど、空席になれば他の魔法少女が黙ってないよ。すぐにも他の子が魔女狩りのためにやってくる」

さやかの問いかけにキュウベぇが答えた。

「でもそれってグリーフシードだけが目当てな奴なんでしょ?あの転校生みたいに」
「確かにマミみたいなタイプは珍しかった。普通はちゃんと損得を考えるよ。誰だって報酬は欲しいさ」

暁美さんの事を未だに転校生と言っていることのが、さやかが暁美さんを嫌っていることの表れだった。

「じゃ――――」
「でも、それを非難できるとしたら、それは同じ魔法少女としての運命を背負った子だけじゃないかな」

続きを言おうとしたさやかに、キュウベぇの厳しい言葉がかけられた。

「君たちの気持ちは分かった。残念だけど、僕だって無理強いはできない。お別れだね。僕はまた、僕との契約を必要としてる子を探しに行かないと」
「ごめんね、キュゥべえ」

キュウベぇにまどかが謝った。

「こっちこそ。巻き込んで済まなかった。短い間だったけど、ありがとう。一緒にいて楽しかったよ、まどか」

キュウベぇはそう言って姿を消した。





放課後、俺とまどかは巴さんのマンションに来ていた。

ピ~ンポ~ン

まどかはチャイムを鳴らすが、部屋の主がいないので、誰も出てこない。
そのまままどかはドアノブを回して部屋に入った。
台所には洗いかけなのか、水につけてあるティーカップが、そしてリビングのテーブルには雑誌と飲みかけの紅茶があった。
まどかはその雑誌の上に、あの黒歴史と化したノートを置いた。
外から聞こえる子供の声が、やけに虚しさを感じさせた。

「ごめんなさい…。私、弱い子で…ごめんなさい」

まどかは涙を流しながら誰にかは分からないが謝り続ける。

「大丈夫。お前は弱い子ではない」

そんなまどかに出来ることは、ただ頭を撫でて声をかけるだけだった。

「でも!でも!」
「まどかは今でも前に進んでいる。それはとてもすごいことだ。普通はあんなことがあったら前になんか進めない」
「…………」
「弱いのは俺だ」
「そんな事!」

まどかが俺の言葉に反論する。

「あるんだよ。俺の時間は、あの時から、ずっと動いてないんだ」

そう、俺がすべてを失うことになるあの時から、俺の時間はすべてが止まってしまった。

「だから、まどかは自分を責めないことだ。責めたところで、何ができるわけでもないんだから」
「………うん」

俺の言葉に、か細い声だが、頷いた。

(第一、巴マミの為に悲しむなんて無駄だ)

俺はそう考えていた。
彼女の死は確かに悲しいものだ。
だが、それは悪く言ってしまえば自業自得。
あの時、暁美さんと俺を拘束していなければ、彼女は死ななかったかもしれない。
もちろん絶対に死なないという保証はない。
だが、可能性を少なくすることはできたはずだ。
人が心配しているのを無視したり、人の言葉を聞かないようなものを俺は馬鹿と言っている。

(とにかく、今後も頑張ろう。俺の目的のために)

俺は再び、そう決心するのだった。





「あっ……ほむら……ちゃん……」

マンションを出ると、そこにいたのは暁美さんだった。

「貴女は自分を責めすぎているわ。鹿目まどか」
「えっ……?」

暁美さんの突然の言葉に、まどかが声を上げた。

「貴女を非難できる者なんて、誰もいない。いたら、私が許さない」
「え……?」
「忠告、聞き入れてくれたのね」
「……うん」

暁美さんの言葉に、まどかは頷いた。
その後俺とまどかは暁美さんと帰ることになった。

「私がもっと早くにほむらちゃんの言うこと聞いていたら」
「それで、巴マミの運命が変わったわけじゃないわ。でも、貴女の運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい」

暁美さんの言葉に、まどかも呆然としていた。

「ほ……ほむらちゃんはさ、何だかマミさんとは別の意味でベテランって感じだよね」
「そうかもね。否定はしない」

暁美さんの声色が少しだけ変わった。
言うなれば少しだけとげが生えたような感じだ。

「昨日みたいに……誰かが死ぬとこ何度も見てきたの?」
「そうよ」
「……何人くらい?」
「数えるのを諦める程に」

(だからそんなに絶望に満ちた目をしているのか)

俺はようやく彼女の雰囲気に納得がいった。

「あの部屋、ずっとあのままなのかな」
「巴マミには、遠い親戚しか身寄りがいないわ。失踪届けが出るのは、まだ当分先でしょうね」
「誰も……マミさんが死んだこと、気づかないの?」
「仕方ないわ。向こう側で死ねば、死体だって残らない。こちらの世界では、彼女は永遠に行方不明者のまま。魔法少女の最期なんてそういうものよ」
「ひどいよ……」

暁美さんの言葉に、まどかは立ち止まると涙を流した。

「みんなのためにずっと一人ぼっちで戦ってきた人なのに、誰にも気づいてもらえないなんて、そんなの……寂し過ぎるよ」

死んだことを気付いてもらう。
それは人類に与えられた権利だ。
それすらも果たされないことが、俺には悲しかった。

「そういう契約で、私達はこの力を手に入れたの。誰のためでもない。自分自身の祈りのために戦い続けるのよ。誰にも気づかれなくても、忘れ去られても、それは仕方のないことだわ」
「私は覚えてる。マミさんのこと、忘れない。絶対に!」

まどかの一言に、暁美さんが驚いたような表情でまどかを見た。

「そう。そう言ってもらえるだけ、巴マミは幸せよ。羨ましい程だわ」

暁美さんはまどかから眼をそらしてそう言った。

「ほむらちゃんだって!ほむらちゃんのことだって、私は忘れないもん!昨日助けてくれたこと、絶対忘れたりしないもん!」
「……ほむらちゃん?」
「貴女は優し過ぎる」
「え?」

暁美さんの言葉に、まどかは驚いた風に声を上げた。

「忘れないで、その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せることもあるのよ」

最後にそう言うと、暁美さんは俺達の前から去って行った。





広場にやってくると、すでに夜だった。

「ほむらちゃん、ちゃんと話せばお友達になれそうなのに。どうしてマミさんとは喧嘩になっちゃったのかな?」

まどかが俺にそう聞いてきた。

「それは二人が馬鹿だからだよ」
「え?」

俺の答えに、まどかがこっちを見た。

「二人して一歩も近寄ろうとしないんだもの。仲良くなれるはずがない。もし二人が半歩でも歩み寄れば、少しはこの未来は変わっていたのかもしれないな」
「……うん」

俺の言葉に、まどかはただ頷くだけだった。

「あれ?仁美ちゃん……」
「ん?あ、本当――――」

俺は仁美の姿を見つけた時、何とも言い難い寒気を感じた。
この感じはあの時に似ている。

「仁美ちゃ~ん!今日はお稽古事……あ」

まどかが走りながら仁美に声をかけるので、俺もそれについて行く。
すると、俺達は見てしまった。
その首筋にあるテレビのようなマークを。

「あれ……あの時の人と同じ」

そう、あえて言うのであれば。

「魔女の口づけ」
「仁美ちゃん。ねぇ、仁美ちゃんってば!」

まどかが仁美の前に回り込んで、肩を揺らすと、彼女はまどかの方を見た。

「あら、鹿目さん、渉さん御機嫌よう」

彼女の俺達を見る目から、操られていることがはっきりとわかった。

「ど、どうしちゃったの?ねえ、どこ行こうとしてたの?」
「どこって、それは……ここよりもずっといい場所、ですわ」
「仁美ちゃん」
「ああ、そうだ。鹿目さんもぜひご一緒に。ええそうですわ、それが素晴らしいですわ」

仁美はそう言うと、俺達の横を通って行った。

「どうしよう……これってまさか……」
「まどか、仁美の後を付けてくれるか?」
「え、渉君は?」

俺の提案に、まどかが聞いてくる。

「俺は正宗と吉宗を取ってくる。幸いここから家は近いし、すぐに行ける。あの二本の剣があでば、大抵の事は何とかなる」
「でも、それだと私たちがどこにいるのかわからないんじゃ」

まどかはもっともなことを言ってくる。

「だから、まどかにはこれで目印を残してもらいたいんだ」

そう言って俺が渡したのは、水が入った2Lのペットボトル。

「これをこぼしながら歩いて貰えれば、それを頼りに行けるから」
「う、うん!分かった」

まどかの答えを聞いて俺は自宅に向かって走った。

(早く行かないとやばい!!)

そう思いながら、俺はひたすらに走るのだった。

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第7話 悲劇

巴さんを探すこと数十分。
比較的早くに見つけることが出来た。
病院に戻った時にはすでに夕方になっていた。
巴さんは昨日の事でまだ起こっているようだったがそのことを口には出さなかった。
まあ視線がかなり痛かったが。

「ここね」

バッグを地面に置いてグリーフシードがあった場所を見る。
そして巴さんはそこに手をかざした。
すると、グリーフシードがあった壁にあの門のような物が現れた。

【キュゥべえ、状況は?】
【まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ】

キュウベぇから現状を聞いた。
それによれば、まだ予断は許さない状態らしい。

【さやかちゃん、大丈夫?】
【平気平気。退屈で居眠りしちゃいそう】

まどかの心配そうな声に、心配させまいとわざとか、それとも素でそうなのかは分からないが、元気そうに答えた。

【むしろ、迂闊に大きな魔力を使って卵を刺激する方がマズい。急がなくていいから、なるべく静かに来てくれるかい?】
【分かったわ】

キュウベぇの指示を聞いて、俺達は結界内に入った。





結界内はいつもと同じように異色だった。
瓶の中に入っているはさみやら周りがお菓子だらけと言う事やらがそれを物語っていた。

「間に合ってよかった」

まどかの手を引きながら、巴さんは前へと進む。

「無茶し過ぎ……って怒りたいところだけど、今回に限っては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃がす心配も……」

巴さんがこっちを振り向くと、話すのをやめた。
俺とまどかは巴さんにならって後ろを振り向くと……

「え?あっ」

そこにいたのは暁美さんだった。

「言ったはずよね?二度と会いたくないって」

巴さんは敵意をむき出しに声をかけた。

「今回の獲物は私が狩る。貴女達は手を引いて」
「そうもいかないわ。美樹さんとキュゥべえを迎えに行かないと」

暁美さんの提案を巴さんが退けた。

「その二人の安全は保証するわ」
「信用すると思って?」

巴さんがそう言って暁美さんに手をかざすと、黄色のロープのようなものが現れて、暁美さんを縛り上げた。

「ば、馬鹿。こんなことやってる場合じゃ」
「もちろん怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保障しかねるわ」
「今度の魔女は、これまでの奴らとはわけが違う」
「おとなしくしていれば帰りにちゃんと解放してあげる」
「お、おいちょっと待ってよ!!」

俺は巴さんに慌てて話し掛けた。

「今日は彼女を信用してみたらどうだ?それで今後の対応を考えても遅くないと思うけど」
「………」

俺の言葉を聞いた巴さんは初めて俺に対して敵意をむき出しにして睨みつけた。

「なっ!?ぐぅッ!!」

そして俺に手をかざしたかと思うと、俺は暁美さんのように縛られていた。

「ごめんなさいね。時間がないの。ちょっと邪魔だからそこでおとなしくしていれば彼女と一緒に開放してあげるわ。行きましょう、鹿目さん」
「え……あ、はい」

俺は二人が去っていくのを見ていることしかできなかった。





(何だか頭に来た)

待っているとどんどんと怒りがわいてきた。
俺はさっき何をした?

――彼女を信用しろと説得した。

それなのに、この仕打ちは俺の怒りを沸かせるのに十分だった。

「……はっ!!!」

俺は気を放って体中にまきつくロープを砕いた。

「なっ!?」

暁美さんが驚く声が聞こえるが、俺は暁美さんに『彼女の事は任せて』と告げるとそのまま二人の歩いて行った方向へと、全速力で走った。





勘で走ってすぐに魔女がいる場所へと辿り着いた俺が見たのは

「ティロ・フィナーレ!!」

彼女の十八番でもある『ティロ・フィナーレ』を放った巴さんだった。

(よし、戻ったら文句でも言ってやる)

俺はそう心の中で考えている時だった。
巴さんが打ち抜いた魔女から大きな生命体が現れて、それが一気に巴さんの目前に迫った。

「なっ!!?」

そしてその生命体は、口を大きく開いて巴さんを飲み込もうとしていた。
俺は慌てて巴さんの方へと掛けて行った。









3人称Side

結界の中にマミとまどかが入って数十分。
結界のあった場所には人影があった。
しかし、その中に巴 マミと小野 渉の姿はなかった。

Side out

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