正宗と吉宗を取りに言った俺は、引き返して急いでまどかと別れた場所へと向かった。
「えっと、こっちか!!」
地面を見ると水がこぼれた跡があった。
俺はそれを頼りに走って行く。
「ここか」
やがてたどり着いたのは、人気のない工業地区だった。
「水跡がここで途切れてるから、ここで間違いないだろうけど、これじゃ」
その中の一つの工場に水跡が続いていたが、そこはシャッターが閉じられていて、入れる状態ではない。
(とにかく、入れそうな場所を探そう!)
俺はそう思い、工場の周りを走った。
(あ、あそこの窓から入れるかも!)
俺はそう思い、窓のそばまで駆け寄る。
ガチャン!
「へ?」
突然窓ガラスの割れる音がしたかと思うと、何かが降ってきた。
バシャン!
「っ~~~~~~~!!!!!!」
降ってきた液体をかぶった瞬間、体中がとてつもない痛みに襲われた。
「おりゃアアア!!!!」
ガシャン!!!
「きゃぁ!」
俺は怒りにまかせて窓をけり破って中に入った。
「誰だッ!!人に向かってバケツを放り込んだ馬鹿は!!!」
「わ、渉君!!」
中にいたやつらにいきり立てる俺に、背後からまどかの声がした。
「遅れてすまない。大丈夫だったか?」
「あ、う、うん」
なぜか申し訳なさそうな表情をしているまどか。
そんな時、何かが落ちる音がした。
「うわ!?」
振り返ると、そこには大人の人達がいたが、目が尋常ではない。
俺はとてつもない恐怖感に苛まれた。
まどかは窓を開けようとしているが、開ける方向を間違えているために開かず、少しずつ奥へと追い詰められていった。
すると、運のいいことに背後にドアがあった。
「まどか!そのドアを開けろ!」
「う、うんッ!!」
俺は前から押し寄せてくる人たちを抑えながら、まどかに指示を出すとドアが開いたので、俺は抑えていた人たちを押しのけてドアを通った。
そしてドアを閉めようとすると、大人たちの手がこっちに入ろうとドアを開けようとするので、俺とまどかで何とかドアを閉めて鍵をかけることに成功した。
「ふぅ……」
俺は何とか一息ついた。
そこは金網に囲まれていて、外に出られる場所はない。
「……ど、どうしようっ……どうしようっ」
その時だった。
「まどか、結界が!!」
背筋に寒気が走った瞬間、変なものがこの部屋に広がって行った。
「炎天の輝きよ。全てを守りし、盾となれ!」
俺はとっさの判断で正宗と吉宗を地面に突き刺して結界を形成した。
「や、やだっ……こんな……」
だが、俺達は魔女の結界内に取り込まれた。
そこは不思議な空間だった。
周りに走るのはメリーゴーランドの馬か?
今は何とか結界で大丈夫だがこのままではいつ殺されるかも時間の問題だ。
「い、嫌……」
まどかの呟きに、横を見ると何かを見ておびえているまどかの姿があった。
そして俺もつられてその方向を見ると、そこには白い人形のようなものが持っているテレビに映し出された巴さんの姿があった。
(まさか……)
嫌な予感がした。
「まどか!気をしっかり持て!!」
「………」
まどかは何も答えない。
(クソッ!結界が)
俺は分かっていた。
結界が少しずつ弱り始めているのを。
このまま結界が破れれば、俺達に待っているのは”死”だ。
(結界の補強をしないと)
俺はそう思い精神を集中する。
しかし……
上空から降りてきたテレビのようなものから出てきた人形たちが、結界に攻撃を仕掛けてきた。
「っくぅ!?」
もろい状態の結界が今にも破られそうになる。
ピキッピキ!!
ひびの入る音がやけにくっきりと聞こえた。
(ここまでか)
俺はそう思い、死を覚悟した時だった。
ガシュン!ガシュン!!パキン!!
突然の青い閃光により人形とテレビが破壊された。
そのおかげで、結界の状態が回復した。
「……さやかちゃん!?」
その閃光を放った人物は、白地のマントに身を包み、青髪が特徴の少女だった。
青い閃光を放った少女の姿を見た時、まどかがそう口にした。
俺にも目の前にいる少女がさやかに見えた。
一瞬さやかと思われる少女はこちらを見ると、白い人形を次々に斬り伏せていく。
「これでとどめだぁ!!」
そして本体なのか、テレビに向けて手にした剣を突き刺す。
それによって目の前の景色が揺れ、元の場所に戻った。
「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったね」
さやかの第一声はそれだった。
「さやかちゃん……その格好」
「ん?あー、んーまあ何、心境の変化って言うのかな?」
まどかの心配そうな声色にさやかは笑いながら答えていた。
「ん?あ、大丈夫だって!初めてにしちゃあ、上手くやったでしょ?私」
「でも……」
その時、靴音が響いた。
「!?」
その音を出したのは、暁美さんだった。
「貴女は……」
その眼にあるのは、さやかに対する怒りにも見えた。
「ふん、遅かったじゃない。転校生」
そして暁美さんはそのまま姿を消した。
「さやか、ありがとう。助かった」
「な、何よ……照れるじゃない」
さやかにしては珍しく顔を赤くしていた。
「って、どうしたの?!体中びしょ濡れじゃん」
「あ~!?そうだった!!窓からポリバケツを投げて変な液体をかけた馬鹿がいるんだ!!」
俺はさやかの言葉で思い出した。
「あ、あの渉君」
「ん?どうしたまどか。まさか投げたやつを知ってんのか?」
「ごめんね。投げたの、私なの……」
俺はまどかの言葉に息をするのも忘れた。
「ま~ど~か~?」
「ヒィ!?」
俺が呻るように名前を呼ぶと、怯えた様子でさやかの背中に隠れた。
「まあ、いいや。遅れた僕も悪かったんだし」
「にしても、よく無事だったよね」
「あ、私も気になってたんだ。渉君、さっきのあれ何?」
まどかの言うあれは、俺が展開した結界だ。
「あれは結界」
「へぇ……って!結界!?」
「渉君、魔法が使えたの?!」
俺の答えにまどかが聞いてくる。
「まさか。俺が使ったのは気法だよ」
「気法?」
まどか達が首を傾げる。
まあ、当然だが。
「合気道のようなものだよ。気の力で色々なことが出来る奴」
「なるほど~」
「さっきは本当にビビったぞ。あれは外部からのマイナスエネルギーには強いけど、内部からのマイナスエネルギーにはとても弱いから。まどかは絶望してマイナスエネルギーを放っているから強度がどんどん弱くなるし」
俺のボヤキに二人は笑うだけだった。
3人称Side
「あむ」
とある鉄塔に腰かける少女の姿があった。
その手に持っているクレープを食べながら。
「まさか君が来るとはね」
「マミの奴がくたばったって聞いたからさぁ、…わざわざ出向いてやったっていうのに。何なのよっ!?ちょっと話が違うんじゃない?」
赤髪の少女の言葉に、キュウベぇは顔色を変えずに答える。
「悪いけど、この土地にはもう新しい魔法少女がいるんだ。ついさっき契約したばかりだけどね」
「何ソレ?超ムカつく」
赤髪の少女は不快感をあらわにする。
「でもさあ、こんな絶好の縄張り、みすみすルーキーのヒヨッ子にくれてやるってのも癪だよねぇ」
「どうするつもりだい? 杏子」
「決まってんじゃん」
杏子と呼ばれた少女はキュウベぇの問いかけに答える。
「要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?……その子」
それは、新たなる波乱を告げる物でもあった。
Side out
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