翌日の教室。
「ふあぁぁ……あ、はしたない。ごめんあそばせ」
彼女にしては珍しく欠伸をしている仁美の姿があった。
「どうしたのよ仁美。寝不足?」
「ええ、昨夜は病院やら警察やらで夜遅くまで」
「えー、何かあったの?」
まどかが微妙に息をのむが、さやかは平然を装っていた。
(まあ、本当のことは言えないしな)
「何だか私、夢遊病っていうのか。それも同じような症状の方が大勢いて。気がついたら、みんなで同じ場所に倒れていたんですの」
「はは、何それ?」
本当にさやかはごまかすのがうまいと思う。
「お医者様は集団幻覚だとか何とか……。今日も放課後に精密検査に行かなくてはなりませんの。はあ、面倒くさいわ……」
「そんな事なら、学校休んじゃえばいいのに」
「ダメですわ。それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの」
さやかの言葉に仁美が反論する。
「さっすが優等生!偉いわー」
その後先生が教室に入って来て授業となった。
放課後、俺達は河川敷に来ていた。
「久々に気分良いわー。爽快爽快」
野原に寝そべっているさやかは本当に気持ちよさそうに声を出す。
「さやかちゃんはさ、怖くはないの?」
「ん?そりゃあちょっとは怖いけど…昨日の奴にはあっさり勝てたし。もしかしたらまどかと仁美、友達二人も同時に亡くしてかもしれないって。そっちの方がよっぽど怖いよね。だーかーら、何つーかな。自信?安心感?ちょっと自分を褒めちゃいたい気分っつーかね」
さやかは突然起き上がると俺達にソウルジェムを見せた。
その色は、青だった。
「まー、舞い上がっちゃってますね、私。これからの見滝原市の平和はこの魔法少女さやかちゃんが、ガンガン守りまくっちゃいますからねー!」
さやかは立ち上がってそう宣言するが、俺にはシュールな光景に見えてしまった。
「後悔とか全然ないの?」
「そうねー。後悔って言えば、迷ってたことが後悔かな。どうせだったらもうちょっと早く心を決めるべきだったなって。あのときの魔女、私と二人がかりで戦ってたら、マミさんも死なないで済んだかもしれない」
さやかは再び地面に腰かけた。
「私……」
再び泣き出しそうになるまどかの頬にさやかが指でつついた。
「さーてーは、何か変な事考えてるなー?」
「私、私だって……」
「なっちゃった後だから言えるの、こういう事は。どうせならって言うのがミソなのよ。私はさ、成るべくして魔法少女になったわけ」
さやかの言葉には多少だが、重みがあった。
「さやかちゃん……」
「願い事、見つけたんだもの。命懸けで戦うハメになったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。そう気付くのが遅すぎたって言うのがちょっと悔しいだけでさ。だから引け目なんて感じなくていいんだよ。まどかは魔法少女にならずに済んだって言う、ただそれだけの事なんだから」
こういう時に、さやかの優しさが分かる。
「うん……」
「さてと、じゃあ私はそろそろ行かないと」
突然さやかはバックを手にして立ち上がった。
「ん?何か用事があるの?」
「ん?まあね」
さやかは返事を濁してそのまま去って行った。
その後、まどかは暁美さんを呼び出して前に行ったことのあるファミレスによっていた。
「話って何?」
「あのね、さやかちゃんのこと、なんだけど……あ、あの子はね、思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったり。でもね、すっごくいい子なの。優しくて勇気があって、誰かのためと思ったらがんばり過ぎちゃって」
「魔法少女としては、致命的ね」
まどかの言葉に、暁美さんは切り捨てた。
「そう……なの……」
「度を越した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。そして、どんな献身にも見返りなんてない。それをわきまえていなければ、魔法少女は務まらない。だから巴マミも命を落とした」
「そんな言い方やめてよっ!!」
巴さんのことを言った途端、まどかが大声で叫んだ。
「そう、さやかちゃん、自分では平気だって言ってるけど、でも、もしマミさんの時と同じようなことになったらって思うと、私どうすればいいのか」
「美樹さやかのことが心配なのね」
「私じゃもう、さやかちゃんの力にはなってあげられないから。だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。さやかちゃんと仲良くしてあげて。マミさんの時みたいに喧嘩しないで。魔女をやっつける時も、みんなで協力して戦えば、ずっと安全なはずだよね」
まどかは暁美さんに必死に懇願した。
「私は嘘をつきたくないし、出来もしない約束もしたくない」
「え?」
「だから、美樹さやかのことは諦めて」
その言葉は、まどかにとってはとても残酷なものだった。
「どうしてなの……」
「あの子は契約すべきじゃなかった。確かに私のミスよ。貴女だけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった」
「なら……」
暁美さんの言葉にまどかが反論しようとする。
「でも、責任を認めた上で言わせて貰うわ。今となっては、どうやっても償いきれないミスなの。死んでしまった人が還って来ないのと同じこと。一度魔法少女になってしまったら、もう救われる望みなんてない。あの契約は、たった一つの希望と引き換えに、すべてを諦めるってことだから」
「だから、ほむらちゃんも諦めちゃってるの?自分のことも、他の子のことも全部」
「ええ。罪滅ぼしなんて言い訳はしないわ。私はどんな罪を背負おうと私の戦いを続けなきゃならない。時間を無駄にさせたわね。ごめんなさい」
暁美さんはそう言い切ると、席を立ってファミレスから出て行った。
俺は、その彼女の後をついて行った。
「ちょっと待てよ」
「……何かしら」
俺が声をかけると、少々とげのある言い回しで返された。
「一つだけ勘違いしているようだから、その指摘と謝罪だ」
俺の言葉に、暁美さんは何も反応を示さない。
「まずは謝罪な。申しわけなかった。俺は前までは巴マミが馬鹿なのかと思っていたのだが、どうやらお前も相当なバカのようだ」
「どういう意味かしら?」
「そのままの意味だ。同じ過ちを何度も何度も繰り返すのは馬鹿な奴だけだ。いや、もっと言えば愚か者か」
俺の言葉に、暁美さんが睨みつけてくる。
「最後に指摘な。巴マミが殺されたのだとすれば、殺したもしくはその幇助をしたのはお前だ。暁美ほむら」
そして俺は最後に告げた。
「そしてお前はまた同じことをしようとしている。だから言っておく。人一人守れないようでは、まどかを守るなんてことは到底無理だ。諦めんだな」
「っ!!?」
俺の言葉に暁美さんは息をのんだ。
俺はそんな事なぞお構いなしに、彼女に背を向けて歩き出した。
俺は間違ったことを言ったとは思っていない。
人を助けることのできない者が、大事な人を守るなんてことはできない。
それでも守ると言うのであれば、その人物はただの偽善者だ。
俺は偽善者がとても嫌いだ。
だからこそ……。
「もしお前が偽善者なのであれば、この俺が直々に消し去ってくれる。暁美ほむら」
俺はそう決意を口にした。
もちろん、もう少し様子を見るつもりだ。
彼女が俺の”敵”なのかを。
ほむらSide
「そしてお前はまた同じことをしようとしている。だから言っておく。人一人守れないようでは、まどかを守るなんてことは無理だ。諦めんだな」
「っ!!?」
私は彼の言葉に心がかき乱された。
(あなたに、私の何が分かるのよ)
私が味わった絶望を彼は何も知らない。
それなのにああ言われた事が悔しくて、私は両手を強く握りしめていた。
(私は、私の成すべきことをやるわ)
「邪魔するのなら容赦はしない」
私は最後にそう決心してその場を後にした。
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