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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第91話 友のため

近場にあった喫茶店に招待された僕は、女性に紅茶をごちそうになっていた。
適当な席に腰掛けた僕は、女性に聞かれるがまま事情を話していた。

「そう。貴方は日本からの留学希望生なのね」
「ええ、まあ」

話しても何の意味もないと思い、僕は紅茶に口をつける。

「もしよければ、留学用の書類を見せてもらえないかしら?」
「ええ。構いませんけど」

女性の申し出に、僕は一瞬考えたが、別に知られてまずいようなことは書かれていないので、承諾すると書類を女性に手渡した。

「留学試験を最優秀な成績でパスしたのはすごいことよ。でも……」

僕が手渡した書類に目を通した女性は、感心した様子で口を開くが、なんといえばいいか迷ったような表情を浮かべた。

「でも、ガーディアンがいないようだといくら試験をパスしても留学は無理よね」
「ええ。今日中に決まらなければ辞退するつもりです」
「諦めるの?」

紅茶に口をつけが鳴ら応える僕に、女性が疑問を投げかけた。

「諦めてはいませんよ。最後の最後まで、希望を持っていくつもりですから」
「そう。変なことを聞いてしまってごめんなさいね」
「いえ、気にしてないので」

女性の問いかけに答える僕に、その女性は申し訳なさそうに謝ってきたので、僕は首を横に振りながら答えた。
それから数分して、僕たちは別れた。










「へぇ、そんなことがあったんだ」
「さすが浩君だね♪」

感心したようにつぶやく律とは対照的に、笑顔で腕に抱きつく唯の頭をなでることで対応した。

「その女性とはそれっきりで、二度と会うことはないだろうと思っていたんだけどね」
「また会うことになったんですか?」
「しかも、すごい形で」

僕はその時のことを思い返してみた。
いきなりガーディアンが見つかったという連絡で向かったガーディアンの自宅は、まるで某国の大統領が暮らしている場所を彷彿とさせるほどの広さと大きさを誇る建物だった。
そして、そこの住人こそが、あの時の女性だったのだ。

「偶然って、あるもんなんだな」
「そんなに起こることはないと思うけどね」

澪の漏らした言葉に相槌を打つムギの言うとおり、そんなに起きるようなことではなかったのだ。
僕のはただ運が良かっただけだ。

「コウスケって、相手から行動を起こさないと何もしない癖があるからね。留学先の学校でも、僕が話しかけてようやく会話を始めたくらいだし」
「なるほど、それで佐久間と知り合ったわけか」

なんだか自分のことが分析されるのは、すごく居心地が悪く感じた。
きっと相手も同じ心境なのかもしれない。
………ジョンの言うとおりだけど。

「自分から話しかけるって、何を話せっていうんだ? 天気のことでも話せと? 知っていることをなぜ話さなければならない」
「そして、理屈派ですね」

皆が僕を見て一斉にため息をついた。

「ここに入部するのは勧誘して?」
「いえ、自分から言い出しましたよ」
「へぇ、あのコウスケが自分から入部を決めるなんて。驚きだ」

ムギの説明に、感心したようにジョンがつぶやく。
僕はただただ居心地が悪く感じながら、紅茶に口をつけるのであった。










「それにしても、まさかジョンが、日本に来ているなんて」

自宅に戻った僕は、自室のベッドの上で静かに呟いた。
ジョンは、イギリスで初めてできた僕の友人。
その出会いは、今でも鮮明に覚えている。

『君が、タカツキコウスケだね。僕は、ジョン・オルコット。ジョンって呼んでね』
『た、高月浩介。僕のことも、浩介と呼んで』

家のリビングで、自己紹介をしあい、手を握る。
それが、全ての始まりだった。

『貴方は、今日から私の家族よ。私のことを母親のように接してくれるかしら』
『……はい』

女性のその言葉があったからこそ、僕は今があるのかもしれない。
僕は、とてもうれしかった。

『コウスケって、どことなく親しみを感じるんだよ。だから、僕が兄貴分だね』
『おいおい、それは勘弁してよ』

時には、兄弟談議に花を咲かせたこともあった。
結局、誰が兄かという結論は出なかったけれど。

「………気が付けば、僕って」

ふとあることに僕は気付いた。

「僕は何もお返しができていない」

オルコット家に対して、僕は恩返しをしていなかったことを思い出したのだ。
これまでは色々と与えてもらうだけだった。
でも、それではだめなのだ。
ちゃんと自分で何かを返していかなければ。

「しかし、一体何をお返しすれば………」

浮かび上がった問題はそれだった。
僕には、どうすればいいかが全く分からなかったのだ。

「はぁ……ギターの練習でもするか」

考えていても何も始まらないと考えた僕は、ギターの練習をすることにした。
相棒でもあるGibsonのギターを構えて、次に演奏する曲のギターパートを軽く弾いていく。
弾くとは言え、アンプにはつないでいない。
なので音の迫力は皆無だが、基礎練習にはもってこいだった。

「………………そうだっ!」

そんな時、僕はある方法を導き出した。

(でも、これは………)

しかし、その明暗にはある障害があった。
それは、唯たちだ。
彼女たちの協力がなければ、僕はそれを行うことができないのだ。

「とにかく、明日の部活の時に、頼んでみよう」

僕はその方法を実現するべく、気合を入れるのであった。










「オルコット君の為に、演奏をしたい!?」
「ああ」

翌日の放課後、僕は部室で律たちに思いついた方法を告げていた。
僕が思いついたのは、演奏を聴かせることだった。
歌というのは不思議な力を持っている。
歌に乗せて、僕の感謝の気持ちを相手に伝えることができるのではないかと考えたのだ。
本人に言うのは少しばかり恥ずかしかったので、この方法が何かお返しができる気がしたのだ。
ただ、問題なのは一人ではだめなこと。
ちゃんとした曲にするには、放課後ティータイムの演奏が必要になる。

「もちろん、無理にとは言わない。これは僕の勝手な思いつきだから、みんなが嫌なら――「ちょっと待った」――律?」

僕の言葉を遮るように口を開いた律に、僕は首をかしげた。

「何でもかんでも決めつけるのが浩介の悪いところだよ」
「そうですよ。私も、先輩たちのバンドの仲間じゃないですか。その仲間が駒ていることがあって、綿地たちにそれができるのなら、私は協力しますよ」
「私も。なんだかんだで、浩介君の昔のことを教えてもらったから。何かお礼をしたいなって思ってたのよ」

澪や梓、ムギが続いて僕にとがめるように声を掛けてきた。

「……ありがとう、みんな」
「よっしゃ、それじゃどの曲にするか決めようぜ!」

律の呼びかけで、僕たちはジョンへの感謝の気持ちを込めた演奏の曲名を考えることになった。
だが、これが一番難航した。

「演奏するんなら、やっぱり誰もが知っている曲の方がいいよな」
「それじゃ、『ふわふわ|時間《タイム》』とかは除外ですよね」

澪の言うとおり、せっかく演奏するのならオリジナルではなくカバーの方がいいだろう。

「でも、あれ以外で演奏できる曲なんてあったか?」
『…………』

律のその言葉に、全員が考え込み始めた。
律の言うとおり、そのような曲は全く………

「あっ!?」
「うおっ?! びっくりした……一体どうしたんだよ、大声なんか出して」

なかったと思われたが、実はそれに該当する曲が存在したのだ。

「いや、あったんだよ。おそらくは誰でも知っていそうな曲が」
「それって、一体何? 浩君」

興味深げに聞いてくる唯に、僕アその曲名を告げた。

「『翼をください』だ」
「「「「あー」」」」

その曲名を知って唯たちはなるほどと言わんばかりに、声を上げた。

「あの曲は、軽音部の始動のきっかけになった曲だし、いいじゃんか」
「そうだったんですか!」

腕を組みながら感傷に浸る律に、梓は目を輝かせながら相槌を打った。

(まあ、アドリブでやった曲だけど)

あの時のことを思い出すと、笑い出しそうになった。
よくもまあ、無茶ぶりに応じたものだと自分でも思うほどだ。

「実は、あの時の曲にアレンジを加えてみたんだ」
「そうなんだ、でも音源は?」
「それならムギに返した音楽プレーヤーに入れてあるはずだけど」

澪の問いかけに答えると、ムギは若干慌てた様子で鞄から音楽プレーヤーを取り出すと操作していた。

「あ、本当だわ」

データを見つけたのか、驚いた表情を浮かべたムギはイヤホンの片方を自分の耳に、もう片方を梓に渡して再生を始めた。
曲の演奏を聴いていた梓は頷くとイヤホンを唯に渡し、ムギも澪に渡す。
渡された唯と澪はそれぞれ頷くと律の方に手渡した。

「おー、本当に『翼をください』なのかが不思議に思える感じだ」
「曲調をアップテンポに、メリハリのある感じにしてみただけだから」

元の曲の静かな曲調もいいが、アップテンポな曲調もとても似合っている曲に仕上がったという自信があった。

「もうすでに譜面は作ってある。今からでも練習をしよう」
「え? どうしてだ?」

僕の有無も言わせぬ口調に、首をかしげながら律が訊いてきた。

「ジョンが来るのは明日で最後。明後日にはイギリスに帰るんだ。だから練習は今日しかできない」
『あ……』

僕の返答に、ようやく気付いたのか全員が声を上げた。
交換留学は明日で最終日を迎える。
明後日にはもうイギリスでいつもの生活を送っているだろう。
だからこそ、少し焦っていたのだ。

「それじゃ、コウスケの友達の為に、頑張るぞー!」
『オー!』

こうして、僕たちはアレンジした『翼をください』の演奏を成功させるべく練習を始める………のだが、とんでもない問題が浮上した。

「浩介は本当に、バッキングパートでいいのか?」
「ああ。これが放課後ティータイムでの僕の立ち位置だよ」

最初はパートの分類。
当初は僕をメインにしようという意見が上がっていたが、僕は丁重に断ってバッキングギターになった。
それが、僕の立ち位置であり、いつもの姿なのだ。
そう言う面では、僕がバッキングパートを担当するのが通りだった。
そして、一番の問題は、演奏中だった。

(よし、ここまでは大丈夫)

順調に曲を演奏していた時にそれは起こった。

(ん?)

サビの箇所で全員で声を合わせたところで、何か違和感を感じた。
その違和感の正体に気付くことがなかった。
だが、正体はすぐに気付くことになった。
それは間奏を終え、2番の歌詞をある人物が歌い始めた瞬間だった。

(…………………)

違和感は確信へと変わった。
その歌声が程よくバランスの取れている音の調和を大きく狂わしたのだ。

「ストップ、ストップ!」
「ど、どうしたんですか?」

突然演奏を中断させたことに、驚きをあらわにする梓。

「梓、さっきの箇所、もう一回歌ってもらっていい?」
「は、はい」

僕の言葉に、快く頷いた梓は2番の歌詞を歌い始めた。

(さっきほど下手じゃない)

うまいともいえないが、それほど下手というわけではない歌声だった。
やはり、さっきの変な歌声は気のせいなのだろうか?

「それじゃ、今度はギターを弾きながら」
「は、はい!」

念のために、僕は梓にギターを弾きながら歌ってもらうことにした。

『…………』

その瞬間、部室中が痛い沈黙に包まれた。
梓が奏でた歌声は、一言でいうと”下手”だった。
音痴というわけではないが、ただただ下手なのだ。
音程は外れているし、ビブラートを効かせすぎたり、他には歌いだしのタイミングがずれていたり等々凄まじい歌声だった。
一番すごいのは、そのことに当の本人が気づいていないことくらいだが。

(これは絶対にダメだ)

改善する時間がない僕が応急処置として取ったのは、

「あ、梓のボーカルは僕がやるよ」

ボーカルの変更だった。

「え? どうしてですか?」

僕の提案に、梓が首をかしげながら聞いてくるが、本当ことを言って傷つけるのも気が引ける。

「そうだな、それがいいな。浩介にも見せ場を作らないと」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ、あずにゃん」

未だに納得していない様子の梓だったが、僕たちは強引に納得させることにした。
結局、梓は渋々ではあるがボーカルの変更を受け入れてくれた。

(今度梓にはボーカルトレーニングをすることにしよう)

このままだと遅かれ早かれすごい地獄を見ること人あるのは確実だったため、僕は心の中でそう決意するのであった。
そんなハプニングがあったものの、何とか人に聞かせられる演奏のレベルにまで僕たちはたどり着くことができた。

(あとは、演奏を成功させることだけを考えればいい)

僕は心の中でそうつぶやき、明日の本番に思いを馳せるのであった。
この後、ある問題に僕たちは直面することになるとも知らずに。
そして、僕たちは運命の日を迎えるのであった。

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第90話 旧友

「はぁ、やっと終わった」

運悪く掃除当番だった僕は、掃除を終えて部室へと向かっていた。

(全く、慶介のやつ)

僕は心の中で、慶介に毒づく。
というのも、終わるのが遅くなったのは、慶介が原因なのだ。

「皆聞いてくれ! この状況はおかしいと思う!」

掃除の最中に、突然そんなことを喚きだした慶介に、掃除をしていた僕たちはその手を止めた。

「何がおかしいんだ?」
「今、俺たちは掃除とはなんたるか……その心を忘れているような気がするんだっ!」

強い口調で持論を述べる慶介の言葉は、とても立派なものだった。

「私もそう思う! やっぱり掃除はちゃんとしないとねっ!」

慶介の言葉に、珍しく女子が同調した。
僕も慶介の意見には同意する。

「そこで今日。俺は掃除としての心を取り戻す大変すばらしい案を提案する!」
「それはどんな?」

掃除当番の女子が、慶介にその案を尋ねる。

「掃除中、女子はメイド服を着るという、大変すばらしい者だっ!!」

その言葉に、教室の音頭が一気に下がった。

「高月君、私も手伝うよ」
「私も」
「あたしもよ」

手に持っている箒を持ち直そうとしていると、女子たちが名乗り出た。
どうやら、相当慶介の馬鹿げた案が許せなかったらしい。

「あ、あれ? 皆さん目が怖いですよ?」
「タイミングを合わせて行こう」
『はいっ!』

慶介という名の敵に、僕たちは臨時のチームが出来上がっていた。
慶介の逃げ道をシャットアウトするべく、窓際に追い込んだ。

『咎人に罰を!!』
「げぼぁ、ぐぼぉ、ごほぁ!?」

女子と僕の一斉攻撃に、慶介は沈んだ。
こうして、女子の敵は退治されるのであった。

「く、ククク。男、佐久間 慶介。男の夢の前で、無残に散る………ガク」

そんな意味の分からない言葉を残して。
この騒動によって、掃除の終わる時間が遅れることになったのだ。
ちなみに慶介はそのまま放置しておいた。
どうせ少しすればケロッとして帰っていくのだから。

(ん?)

階段を上ったところで、上の方から騒がしい声が聞こえてきた。

「何を騒いでるんだろう?」

声からして律の物だというのは分かるが、詳細の方までは把握できなかったため、僕は首をかしげる。
そして階段を上りきった僕は、部室のドアを開ける。

「何だなんだ? ものすごく騒々し―――」

そう言いながら部室に入った僕を、沈黙が襲った。
それはまた僕も同じだった。
部室には慌てふためく律に唯、そしてなぜか項垂れている梓の姿があった。
そこまでは別に普通の軽音部の光景だろう。
だが、僕の前に立っている人物はそれだけではなかった。
金色の短めの髪をしたこの学校の制服を身に纏っている人物がいたからだ。

(嘘だろ?)

その人物の後姿には見覚えがあった。

「ま、まさか……お前」

それは、僕にとっては忘れられない存在。

「ジョン!?」

最初にできた友達なのだから。
ジョンと思われる男子生徒は、僕の言葉に反応しゆっくりとこっちに振り向く。
美形男子を思わせる整った顔つきは、まぎれもなくイギリスの学校に一緒に通っていたジョンだった。

「ジョン!」
「コウスケ!」

久しぶりに再会できた旧友に、僕たちは手を取り合った。

「どうして、お前がここに……まさか、交換留学生って!」
「そうだよ! 僕のことだよ!」

嬉しさのあまりに、僕たちは会話を始めるがついていけてない人物がその場にいた。

「ちょっと、マシンガントークをしてないで、説明してくれよ!」
「この人は一体誰なの?」
「あ………」

すっかり紹介する過程をすっ飛ばしていたことに気付いた僕は、何とも言えない表情を浮かべながらジョンと顔を見合わせるのであった。










「それじゃ、紹介するよ」

気を取り直した僕たちは対峙する形で立っていた。
唯たち軽音部のメンバーは横一列に並び、その前に僕とジョンが立っている。

「彼はジョン・オルコット。イギリス留学でのガーディアンでお世話になった、オルコット家の長男」
「ガーディアン?」

僕の紹介に、聞きなれない単語だったのか、唯が首をかしげた。

「ガーディアンっていうのは簡単に言えばホームステイ先のような感じで、他人を受け入れてくれる家のこと」
「確か、イギリスの留学はガーディアンが必要だったんだよね?」

さすがはお嬢様でもあるムギだ。
留学に必要な条件もしっかりと把握していた。
僕はムギの言葉に頷いて答えた。

「ちょっと、いいかな?」
「何?」

そんな中、澪が手を上げて声を上げる。
それにジョンが反応する。
ちなみに、今僕は通訳をしている状態で、ジョンの言葉を唯たちに言っている状態だ。
面倒くさいが、それをしないと伝わらないため、通訳をしている。
ちなみに、翻訳魔法というのがあり、自国言語で会話ができるようにすることができる。
だが、それでは意味がないので、全く使用していない。
とはいえ、英語以外は別だが。
閑話休題。

「オルコット家って、もしかしてオルコット楽器の……」
「ああ、御曹司だよ」
「ッ!!?」

ジョンが答えるまでもないので、僕が頷くことで答えると、澪が燃え尽きたようによろめいた。

「澪ちゃん!?」
「澪!?」

そんな澪に駆け寄る唯や律たち。

「だ、大丈夫なのかい?」
「ああ。いつものことだから。そっとしておいてあげて」

心配そうに聞いてくるジョンに、僕はそう相槌を打った。

「オルコット楽器って、音楽界では知らない人がいないとされている家ですよね?!」
「そうだね」

おそらくは梓や澪の反応が正しいのだ。
オルコット楽器グループ
それは、音楽界に置いてある種の革命をもたらせたとされている。
どのような革命なのかは、はっきりしていないが音楽評論家だったことが関係しているのではないかと言われている。
噂では、ガールズバンドの追い風となったと言われている。
バンドの中に女性が混じりことはあれど、ほとんどが女子で構成されたガールズバンドは全く存在すらしなかった。
音楽界では男女差別がないと言えばそれは嘘になる。
酷い話ではガールズバンドという理由だけで、演奏をさせずに不合格にするコンテストもあったほどなのだから。
だが、現在はガールズバンドというのもまた一つの立派なバンドという認識がされるようになり、女性の活躍の場が広がりつつある。
それはともかくとして。
またこの楽器グループの作る楽器はすべて逸品とされており、高値で売買されていたりする。

「それで、こっちの方から。キーボードの琴吹紬」
「琴吹紬です。よろしくお願いいたします」

僕の紹介に、ムギは流暢な英語で自己紹介をした。

「ん? 琴吹って……あの琴吹グループかい?」
「そうなるね」

さすがは楽器店の御曹司だ。
すぐに琴吹グループの関係者であることがわかったらしい。

「いやぁ、このようなところであなたにお会いできるとは光栄ですよ」
「ありがとうございます」

笑顔でジョンの握手に応じるムギはある意味すごかった。

「それで、横にいるのがリードギターの平沢唯。僕の恋人だ」
「なんと!? コウスケに彼女ができたのか! いやいや、とてもかわいらしいお方だ……コウスケがうらやましい」

恋人という言葉に、驚きをあらわにするジョンだが、微妙に失礼なような気がした。

「な、なんて言ってるの?」
「とってもかわいい恋人さんだねって」

唯の疑問に、誤魔化しながら通訳をしようとするが、ムギによってさえぎられてしまった。

「ッ!?」
「……その横が、リズムギターの中野 梓」
「よ、よろしくお願いします」

緊張した様子でおじぎをする梓に、ジョンが一言

「とてもかわいい子じゃないか。幼さがあって」
「……」

また通訳に困るようなコメントをするジョンに、僕はどういえばいいのかに悩んだが、最後の方をぼかして翻訳することにした。

「それで、その横がここの部長でドラムの田井中律」
「あぁー、男勝りのこだね」
「た、田井中律です。よろしくお願いします」

声を上ずらせながら、自己紹介をした。
”男勝り”と言われてもなんとも思っていない様子がある意味すごかった。

「それで、最後が………あっちの方で隠れてるのが秋山澪。かなり恥ずかしがり屋で、いつもあんな感じなんだ」
「そう言うことだったのか。嫌われているのではないかと、思って心配してしまったよ」

まあ、事情を知らない人からすればそうだろうな。

「あ、秋山澪でしゅ! よろしくお願いしましゅ!」

完全にテンパっているのか律よりも声を上ずらせて、髪ながら自己紹介をした。
ちなみに澪にはこの学校で語られている伝説、通称”秋山伝説”なる物が存在するが、それはまた別の機会に説明することにしよう。

「彼女たちが、今僕が所属している第2バンド、放課後ティータイムのメンバー」
「なるほど、なかなか個性的だね」

どうやら、彼女たちの強すぎる個性はジョンのお気に召したようだ。

「あ、一緒にお茶でもしませんか?」
「いいのかい? 僕は完全に部外者だけど」

ムギの提案に、ジョンは戸惑ったような表情で躊躇するが、

「ええ、もちろんですよ」
「それに、イギリスでの浩介先輩の事も知りたいですし」

という、皆の反応に圧されるようにして、僕たちはいつものメンバーにジョンを加えてティータイムをすることとなった。

「おいしい。イギリスで飲んだ紅茶と変わらない味だ」
「ありがとうございます」

ムギが淹れた紅茶に口をつけたジョンの間奏に、ムギは嬉しそうな表情でお礼を言った。

「あの」

そんな時、口を開いたのは律だった。

「浩介とはいったいどうやって知り合ったんですか?」
「うーん。それは、僕よりコウスケの方が詳しいと思うけど?」

そう言って僕の方に視線を向けるジョン。

「何だか恩着せがましくなるから言いたくないんだけど」

そんなジョンの視線につられるようにこちらを見る皆に、ティーカップを置きながら僕はつぶやいた。

「お願いします、浩介先輩。聞かせてください」
「私も、知り合うきっかけが気になるし」

どうやら、さらに興味をひかせてしまったようで、話すようにお願いをする皆の目は、絶対に離させるという熱意に満ちていた。

「浩君、私も聞きたいな」
「…………分かった、わかった。話しますよ」

唯の上目遣いによる懇願で、とうとう根負けした僕は、両手を上げながら降参の意を示して返事を返した。

「あれは、僕がイギリスに留学をするために向かった時のことだった」

そして、僕は当時のことをみんなに話し始めるのであった。










時間は大幅に遡り、約5年ほど前。

「ここが、イギリス」

ヒースロー空港を出た僕は、イギリスの風景に魅入られていた。
小学校を卒業したのを節目に、世界の教育というものを知っておきたいと思い、僕はイギリス留学の道を選んだ。
同級生の中には、僕の頭がいいから留学をすると言っている者もいた。
それを否定はしない。
自分でもわからないが、どこかしらかにそういう一面があるのかもしれなかったからだ。
世界の教育を知るというのも本当の理由であった。

「さて、まずはガーディアンを探さないと」

イギリス留学をするにはガーディアンという身元引受人のような人物が必要になる。
試験は問題はないにしろ、このガーディアンが問題となった。
学校側で探してもらったのだが、すべての候補先でお断りという結果になったのだ。
なんでも、小学生ぐらいの子供の面倒を見れる保証がないとのことだった。
しかも、僕には両親がいない。
この世界には親がいないために、僕の身分は完全に怪しい物となっているのだ。
それが、さらにガーディアン候補に警戒をさせてしまう要素と化していた。
そう、何もかもが早すぎたのだ。

(うーん、今日見つからなければ諦めるか)

子供の僕がホテルなどをとれるわけもなく、野宿になるのはゴメンだったため、ぎりぎりまで粘ってみるつもりだった。










「昼食はとれたけど、これからどうしよう」

近くの喫茶店で軽く昼食をとった僕だったが、この後どうするか首をかしげていた。
そんな時だった、ある悲鳴が聞こえてきたのは。

「きゃああああああ!! ひったくりよ!」

女性のかなぎり声に、僕は慌てて立ち上がると周囲を見渡す。
すると、少し先の方で走り去っていく男の姿があった。
手には女性物のバッグが見えた。

(あいつだっ!)

僕はすぐさま犯人を特定し、男の後を追う。

「待てっ! そこのひったくり野郎!」
「なっ!? ガキかよ!」

軽く走りながら、男との距離を詰めていく。

「くそッ! ガキに捕まってたまるか!」

僕の姿に男はそう吐き捨てながら走る速度を速めるが、その努力もむなしくさらに距離は詰まっていく。

「この糞ガキがっ!」

それに気づいた男は懐から銃を取り出すとそれを僕に構えた。

「ぶっ殺してやるッ!!」
「ッ!?」

銃声が鳴り響くが、僕はサイドステップでその場を離れることで銃弾を躱した。

「なっ!?」
「この私に銃を向け、発砲した度胸は認めよう。だが―――」

一瞬で僕は男の懐に潜り込む。

「それはただの無謀だっ!」
「うおおおお!!? グガっ!?」

背負い投げの要領で僕は男を投げ飛ばした。
投げ飛ばされた男はその場で昏倒した。

「ひったくったこのバックは返させてもらうよ」

男を適当な電柱に縛り付けて、手にしていたバックを奪い取った僕は、男にそう告げるとその場を後にした。
背後から歓声のようなものが聞こえたような気がしたが、それを気にせず、僕は先ほど女性がいたであろう場所にかけていった。

「失礼。貴女の取られたバックはこちらですか?」
「は、はい! これです! ありがとう、坊や」

僕の差し出したバックを大事そうに抱えた腰まで伸びた金色の髪の女性は、優しい笑みを浮かべてお礼を口にした。

「それじゃ、僕はこれで」
「待って!」

立ち去ろうとする僕を、女性が引き留めた。

「助けてくれたお礼がしたいわ。欲しいものがあったら何でも言ってちょうだい」
「………いえ」

女性からの申し出に、僕は静かに声を漏らす。

「私はべつにお礼がほしくてやったわけではありません。ですので、お礼は不要です」
「………でしたら、お茶を一杯ごちそうすると言うのはどうかしら?」

なおも食い下がる女性に、僕は根負けしてそれでいいと告げた。

「だったら、この近くにいい喫茶店を知っているの。行きましょう」

頷くや否や女性は半ば強引に僕の手を引いて行くのであった。
この時、僕は知らなかった。
この出会いが今後の運命をすべて変えることになるであろうことを。

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第89話 訪問者

日本、成田空港。
そこに、キャスター付きのスーツケースを手にする金髪の人物の姿があった。

「ふぅ……」

その人物は、成田空港を出ると、息を吐いた。

「やっと来れた」

その人物の目はとても輝いたものだった。

「彼のいる、日本に!」

その来訪者は、これから会うであろう人物のことで胸を躍らせるのであった。










一気に二つの課題をクリアしてから少しの日数が経った。
衣替えにより、全員は冬服の制服を身に纏うようになっていた。
そんなある日の休日、僕は慶介に呼び出され、佐久間家にやって来ていた。

「悪いな、休みの日に呼び出して」
「別にかまわないけど」

僕の前に差し出されたのはオレンジジュースが入っているグラスだった。
向かい側で申し訳なさげに謝る慶介の前にも、オレンジジュースの入ったグラスが置かれていた。

「実は、俺は今までのやり口を変えることにしたんだ」
「何を言ってるんだ? いきなり」

唐突に変なことを口にする慶介に、僕は目を細めながら相槌を打った。

「相手からの告白を待っていたんだが、それではだめだと思ったんだ」
「何だ、そっちのことか」

慶介の話題に、ため息を漏らしたくなったが、彼にとってはとても重要な内容だと思ったので、僕はまじめに聞くことにした。

「要は俺自身の魅力を相手に伝えさせればいいんだ」
「なるほど、考えたな」

確かに自分の魅力を相手に伝えることができれば、慶介の場合はかなり状況は一変するだろう。
その後もいろいろと力説を始める慶介の話をしり目に、僕は目の前のオレンジジュースに手を伸ばすと、口元に近づけた。

(ん?)

そんな時、違和感を感じた。

(なんか、臭い)

オレンジジュースの入ったグラスから、ものすごく臭いにおいがしたのだ。
例を挙げるとすれば、くさや並の臭さだ。

(何か入ってるのか?)

僕はそう思うとグラスを置いて慶介の方に置かれたグラスを手にすると匂いを嗅いだ。

(臭くないということは、何かを混ぜたか)

毒は体が勝手に解毒してしまうので僕には効かない。
だから、問題はないがわざわざ変なものを口にするのもいやなので、慶介がモテ論に花を咲かせているすきを狙ってグラスを入れ替えると真面目に話を聞いている態度をとって誤魔化した。
ちなみに、これは余談だが昔僕を暗殺しようと青酸カリを飲ませたバカがいたが、体調を崩すことはなかった。
このことから、”僕の暗殺は実力行使以外に方はない”という物ができてしまったことがある。

「あ、悪い。話に熱中してしまった」
「いや、中々に興味深い内容だったよ」

本当は適当に聴いていたが、とりあえず適当に感想を言っておくことにした。

「そう言ってもらえること助かるよ。あ、これ遠慮せずに飲んでくれよ」
「それじゃ」

僕は慶介に促されるまま、オレンジジュースを飲み始めた。
それを見て慶介も僕の方に置かれたものとは知らずに、口をつける。

「そこで、俺が考えたのはズバリ、惚れ薬さ!」
「…………」

思わず僕は言葉を失ってしまった。
それほどまでに慶介の口にしたアイデアが、馬鹿馬鹿しかったのだ。
僕はそれをジュースを飲み干すことで誤魔化した。
そして慶介もジュースを飲み干す。

「そしてこれがその惚れ薬だ」
「少し拝借」

僕は、慶介がテーブルの上に置いた惚れ薬と思われる透明な液体の入った小瓶を手にするとまじまじと観察する。

「それを飲むと、最初に目に入った人物のことが魅力的に見えて仕方がなくなるという、男の夢の薬さ!」
「くだらない」

まさしくその一言に尽きた。
僕は惚れ薬が入った小瓶をテーブルの上に置いた。

「それで、何か感じないか?」
「何が?」

慶介の突然の問いかけに、僕は首をかしげながら聞きかえした。

「例えば頭がボーっとしてくるとか、くらくらするとかそんな感じだよ」
「………どうして?」

無性に嫌な予感がしたが、僕は理由を聞かずにはいられなかった。

「実はな、その惚れ薬を浩介のジュースに入れたんだ。どうだ?」
「…………」

(だから、変なにおいが……いや)

安心するのはまだ早い。
もしかしたら交換したジュースの方に、それが入っているのかもしれない。

(落ち着け。まずは確認だ。僕が好きなのは、唯だ)

自分自身に問いかけ、答えを見つける。
そこに自分で思い当たるほど不自然な思考回路はない。
ということは、考えられる結果は一つだけだ。

「そっちの方はどうなんだ?」

向こうの方に入っているという結果になる。

「何を言ってるんだ………い、入れたのは浩介のだけだ」
「入ってるのはそっち」
「へ?」

僕の言葉に、慶介の顔が固まった。

「変な前ふりをするし、それにジュースから変なにおいがしたから、すり替えたんだ」
「どうしてお前はいつも俺の邪魔……ぁ……ばかり……ぁ……するんだ!」

僕の種明かしに、慶介がもう抗議するがそれは逆切れに近かった。

「惚れ薬の降下ぐらい自分で試してすればいいだろ」
「お、俺は……ぁ……理性が強いから……ぁ……惚れ薬のようなものに感情が動くようなことはないんだよ!」

何だか慶介の反論が少しずつおかしくなってきているような気がする。
このままここにいるのは危険だと悟った僕は、腰を上げて立ち上がる。

「ぁ……」

そんな僕の腕を慶介が突然つかんできた。
まるで行くなと言わんばかりに。

「な、何をするッ!」
「べ、別に何でもない」

薬のせいか、それともいつものことなのか。
とはいえ、自分の腕を驚きに満ちた表情で見ているので、おそらくは前者かもしれない。
どちらにせよ、この背筋に走る寒気は偽りではない。

「浩介、今日は何か違くない?」
「………はぁ!?」

唐突におかしな事を猫なで声で言い出す慶介に、僕は素っ頓狂な声で叫んだ。

「あぁ、髪を切ったのか」
「け、慶介?」

何だか目が血走っていて怖い。

「口づけというのは生物に共通するコミュニケーションさ。さあ、目を閉じて」
「………」

はっきり言おう。
今とてつもない寒気が体を走っている。
それは恐怖と同等の感情だった。
そんな感情に支配された僕は

「ごぼぉ!?」

思いっきり慶介の顔面を殴り飛ばした。

「薬、馬鹿効きじゃないかっ」

紛れもなく慶介に惚れ薬の効果が出ていた。

(感情が左右されないんじゃないのかよ?)

「ばーか! ゾウリムシ! 単細胞!」
「ははは……素直じゃないな、ベイビー!」

どうしてだろう、惚れ薬でおかしくなっているとわかっているのに、僕の罵倒に対する慶介の言葉を聞いていると無性に殴り飛ばしたくなるのは?

「鍵かけて、部屋に閉じこもって……牛丼でも食ってろ、このターコ!」

僕はそう言って部屋の出入り口であるドアの前に向かう。

「お、おい!」
「あ、誰にも会わない方がいい。変態がばれるぞ」

慶介に忠告した僕はドアを開けるとそのまま部屋を出た。

「ま、待ってくれ~!」

慶介のむなしい叫びをしり目に、僕はドアを閉めるのであった。

「ったく、何が惚れ薬だ」

僕は先ほど慶介の部屋から持ってきた小瓶を観察する。

「これは人目のつかないところで廃棄するか」

結局この日は、惚れ薬の廃棄という用事を抱えてしまう僕なのであった。










「へぇ、そんなことがあったんですか」
「まったく、あいつは一体何を考えてるんだか」

翌日、学校に向かっていた僕たち軽音部のメンバーに、僕は先日の慶介の一件を説明した。

「いや、効果を確かめるために浩介先輩にのませようとした佐久間先輩も佐久間先輩ですけど、それに対応する浩介先輩の方法もすごいですよね」
「だって、女子だったらまだしも、男に言い寄られて嬉しいわけないでしょ」

梓の言葉に、僕は全力で反論した。
それほど気持ち悪かったのだ。

「でも、浩介君も、うれしかったんじゃないかしら?」
「はいぃ!? 冗談は頭の中だけにして!」

うっとりしながらかけられた言葉に、僕は猛抗議した。
絶対にそういうのだけはないと断言できる。

「むぅ……」
「あの、唯さん? 本当にムギの言葉は根も葉もない冗談だからね?」

不機嫌そうに頬を膨らませる唯に、僕は恐る恐る釈明した。

「浩君は、私じゃなくて、ほかの女の子に言い寄られるのがいいんだ」
「そっち!?」

どうやら”女子ならまだしも”という単語に、唯は反応を示しているようだった。

「そんなわけないでしょ。言い寄られて本当にうれしいのは唯以外にいないから」
「本当?」

僕の言葉に、少しだけ信じる気持ちになったのか上目づかいで聞いてきた。

「ああ、もちろんだ。命をかけてもいい」
「………浩君を信じる。えへへ~」

そう言うや否いや腑抜け切った笑みを浮かべて腕にしがみついてくる唯。

「はぁ……」
「気持ちは分かるけど”またかよ”という感じでため息をつくのだけはやめてっ」

今日も平和な一日になりそうだった。










「おっす、こうす―――がほっ!?」

教室に入ってすぐに表れた慶介の顔面を僕は条件反射で殴り飛ばしていた。

「い、いぎなりなにを」
「ご、ごめん。まだ例の薬が効いているのかと思ったら反射的に」

涙目になりながら鼻を押さえる慶介に、僕は申し訳なく謝った。
どうやら薬の効果は切れているようだ。

「少ししたら切れたけど、入れ替えるはずるくねえか?」
「変なものを混ぜるからだ」

慶介の抗議に、僕はバッサリと言い返した。

「ほら、チャイムなったぞ」
「ちくしょう!!」

何やら力説しようとした慶介に、たまたま鳴り響いたチャイムに、離れるように促すと叫びながら慶介は自分の席へと戻っていくのであった。





「なあ、浩介」
「今度はなんだ?」

昼休み、珍しく教室で昼食を食べていると、前の席に慶介が腰かけながら声を掛けてきた。

「何かな、この学校交換留学生を受け入れたらしいぜ」
「へぇ、交換留学ね。それで、それがどうしたんだ?」

慶介の話に食いついた僕は、さらに先を尋ねることにした。

「今日、その留学生が来てるらしいんだ」
「それで、クラスの様子が変だったのか」

この日、クラス中が妙にふわふわと落ち付がない様子だったことが気になっていたのだが、どうやら原因はこの留学生にあるようだ。

「なんでも、珍しいんだとさ。留学生が」
「留学生はアイドルじゃないんだから。まったく、はしたない」
「俺も同感だ」

僕の吐き捨てるような意見に、慶介も賛同する。

「あぁー、高月君は仲間だって信じてたのに!」
「ショック~」

そんな中、それを聞いていたであろう女子たちがブーイングをしてきた。
しかもその中に佐伯さんの姿もある。

「大体あんたら、留学生と会話できてるのか?」
『うっ!?』

僕の言葉に、女子たちは言葉を失った。

「そもそも、僕にとってはどうでもいいことだけど、日本人ははしたない女性が多いという誤った認識を留学生には抱かせてはいけないんじゃないのか? アイドルじゃないんだから、見物にしてみたり写真をパシャパシャとったりサインを求めたりとか」
「すごい、まるで見てきたようだね」

(本当にやってたのかよ?!)

ため息よりも、驚きの方が勝った。

「僕も興味はあるから聞くけど、その留学生ってどういうやつだ?」
「なっ!? この俺を裏切るのか!!」

女子に、留学生のことを尋ねると慶介から今度は抗議の声が上がった。

「裏切るも何も、大挙して押し寄せてサイン攻めしたり、見物にする事がはしたないと言っただけであって、留学生がどういう人物かに興味があるのは彼女たちと同じだと言っているだけだ」
「っく、ここにきて裏切りか」

窓に手をついて、何かのドラマの主役になりきったように、ぶつぶつと喋る慶介に、僕はため息を漏らした。

「どうせ、”自分よりも注目されているのが悔しい”っていうしょうもない理由の嫉妬だろ」
「しょうもない言うなっ! これでも切実なんだぞっ!」
「図星だったんだ」

僕の指摘に、声を荒げる慶介に、僕の席に集まっていた女子の一人がポツリとつぶやいた。

「大体だな! もとをただせば浩介が、平沢さんという天使を――――ガブリエル!?」
「いい加減黙れ」

とりあえず、支離滅裂な言葉を聞くのが面倒になったのでいつものように潰しておくことにした。

「それで、どういうやつなんだ?」
「えっとね、金髪で、とってもかわいい感じだった。まるで王子様みたいな!」
「そうそう。なんだかまるでヨーロピアンみたいな雰囲気になってたもんね」

一人が口を開くと次々に説明を始め、しまいには留学生談義が始まってしまった。

(まあ、とりあえず身体的特徴だけは分かったからいいか)

談義の方には耳を傾けず、僕は必要な情報だけを得るのであった。
ちなみに、この女子たちの留学生談義は、昼休みが終わり先生が教室に来るまで続いていた。
ここまで話に花を咲かせられるのは、ある意味才能ではないかと感じる僕なのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「律ちゃん、オイ―ッス」
「オイ―ッス」

いつものように唯が軽音部の部室を訪れた。

「あれ、浩君は?」
「さあ? 掃除当番とかじゃないか?」

首をかしげながらいまだ来ていない浩介のことを尋ねる唯に、律が相槌を打つ。

「はい、唯ちゃん」
「ありがとー、ムギちゃんいつものようにお茶を入れたムギに、唯は嬉しそうに顔を輝かせながらお礼を言うと、お茶に手を付けた」

そんな、いつもの軽音部の風景画、この後一変することを彼女たちは知らなかった。

「Excuse Me」
「ふぇ!?」

ドアが開いたのと同時に、流暢な英語が唯たちに聞こえた。

「ここは軽音部の部室かな?」
『…………』

金髪に一件女子と見間違えるほどの美形男子の問いかけに、唯たちは固まっていた。

「り、りりりり律ちゃん!? 英語だよ! 英語の人が来た?!」
「違いますよ! 留学生じゃないですか!?」
「お、落ち着け。こういう時は私に任せておけっ!」

突然のことに動揺する唯たちに、力強く告げた律は部室を訪れた男子の前に歩み寄る。

「ハ、ハロー。マ、マイネームイズ……」

片言の英語を話しだした律に、固唾をのんで見守っていた唯たちがズッコケた。

「あーえー……ココ、ケイオンブ、デスカ?」

だが、それでも律たちの慌てている理由が伝わったのか、片言のたどたどしい日本語ではあるが、問いかけた。

「い、イエス!」

それに反応したのは、先ほどまであたふたしていた唯だった。
その答えに、男子の表情が明るくなる。

「それじゃ、ここにコウスケと言う人物はいるかい!?」
「へ?」

男子の口から出てきた意外な人物の名前に、澪が声を漏らした。

「浩介君とお知り合いですか?」
「うわ!? ムギちゃんも英語になった!?」
「ですから、英会話をしているだけです」

突然英語で会話を始めたムギに、驚きをあらわにする唯に項垂れながらツッコみを入れる梓。
そんな中、ドアの開く音が彼女たちの耳に入ってきた。

「何だなんだ? ものすごく騒々し―――」

中に足を踏み入れながら、呆れた口調で声を上げる浩介は、男子生徒の姿を見ると目を丸くして言葉を失った。

「ま、まさか……お前」

そして、目を瞬かせながら浩介はその人物の名を口にするのであった。

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第88話 悪夢と決意と

「ん……」

ふと目が覚めた。
閉められたカーテンの隙間から朝日が差し込み部屋を照らす。

「あ、起きましたか?」
「え……憂?」

声を掛けてきたのは、憂だった。
その服装はなぜかエプロン姿だった。

「どうしたんですか? 驚いたような顔をして」
「いや、だって……」

目を瞬かせる僕に、不思議そうな表情を浮かべる憂だが、そもそも根本的におかしかった。

「どうして、ここにいるんだ?」
「どうしてだなんてひどいです。それは私たちが恋人同士だからですよ」

照れ笑いを浮かべる憂の返事に、僕は自分の耳を疑った。

「もぅー、何を言わせるんですか? 浩介さん」
「何を言ってるんだ?! 僕の恋人は憂じゃないぞ!」

顔に手を当てて恥ずかしそうに相槌を打つ憂に、僕は慌てて否定した。

「ですから、本当は私のことが好きだったんですよね?」
「……は?」

憂の言葉に、とうとう僕の理解が追い付かなくなった。

「私って、こうすれば……ほら、お姉ちゃんみたいになれるんですよ」
「みたいだな。それがどうしたらそう言う結論になる?」

結んでいた髪を唯の髪形にして唯そっくりになっている憂に、僕は理屈を問いただす。

「浩介さんはお姉ちゃんを私に重ねていただけなんですよ?」
「…………お前は、何を言っているのかわかるのか?」

憂の言葉は、姉を侮辱しているとしか取れない内容だった。
病的に感じるほど、姉を立てていた憂という人物は、そこには影もなかった。

「僕が好きなのは、寸分の狂いもなく唯だ」
「私にはわからないなぁ。だって、お姉ちゃんはいつもごろごろしていて、何もできなくて、天然でいい加減な人なんだよ? だからね」

憂はそこまで言うと、僕の前まで近づく。

「私にキスして?」
「ッ!?」

思えば、ここから僕の迷走は始まった。





「澪……どうしてここに?」

家を飛び出すと、まるで僕を待っていたように立っていた澪に、僕は驚きを隠せなかった。

「浩介を正しい道に戻すためだ」
「それならちょうどいい、憂を何とかしてほしいんだ。なんだかおかしくなっちゃったみたいなんだ」

僕はこれ幸いにとばかり、澪に憂のことをお願いした。
どう見ても憂の様子は異常だ。

「おかしいのは浩介の方だよ」
「え?」

だが、返ってきたのは僕が予想してもいない言葉だった。

「いい加減で、変なあだ名をつけたりする奴のことを好きになる理由がわからない。もっと適任者はいるだろ? たとえば私とか」
「ッ!」

小悪魔を彷彿とさせるような笑みを浮かべる澪の言葉に、僕は逃げるように駆け出した。
おかしい。
何もかもがおかしい。
気が付くと、梓と合流している場所まで来ていた。

「私を袖にして唯先輩を選んだ気分はどうですか?」
「な、何を言ってるんだ!?」

梓の皮肉を隠そうともしない言葉に、僕は言葉を失った。

「唯先輩といちゃいちゃして、さぞかし気分が良くて笑ってるんでしょうね。私の気持ちも知らないで」
「ちょっと待って、梓だって言ってたじゃないか! ”お似合いだって”」

あの時の梓の言葉に、嘘などないということを僕は信じたかった。

「そう言わなければいけない状況に追い込んだんじゃないですか! 先輩に嫌われないためにがんばってきたのを見て笑わないでよ! 私は浩介先輩みたいになんでもできるわけじゃないの!」
「ッ!」

僕は走って逃げる。
何から逃げるのだろうか?

(どうしてこんなことに?)

分からない。
何もかもがわからない。





「はっ!?」

気が付くと僕はベッドの上に寝ていた。
外は夜なのかまだ薄暗かった。

(ゆ、夢?)

確信はできないが、徐々に頭がさえてくることで、理解することができた。
試しに、自分の頬をつねってみる。

「うん。痛い」

ちゃんと痛みを感じたので、これは現実だとはっきりした。

(それにしても、何であんな夢を)

僕が見たのは紛れもなく悪夢だった。

「………ダーク・ラスト・ジャッジメントか」

悪夢の原因はおそらくこの間の魔法だろう。
あの魔法は、爆発的な攻撃力を誇る魔法だが、それは闇というものを利用しているからだ。
闇とは別名邪気とも言い、人の負の感情(怒り、悲しみ、憎しみなど)によって生成されるものだ。
人間には完全なる悪人はいない。
巷にいる犯罪者は”闇”にとらわれた一種の被害者だ。
とはいえ、普通であるならば闇にとらわれても自分自身で対処することが可能などで、犯罪行為に及ぶことはないが。
僕は、その闇を無意識的に集束させて体の中に取り込む体質らしい。
そのせいで、僕の周りでは色々な事件が引き寄せられる。
この間の通り魔にしろ、内村竜輝や時間のループにしろ。
できる限りそれを防ぐため、封印を施しているのだが、この間の一件で一時的にではあるが解放してしまったため、その代償が僕に押し寄せているのだ。
その代償は一定ではない。
とてつもないほどの破壊衝動に襲われることもあれば、悪夢を見たりすることもある。
今回は後者のようだった。
悪夢の場合は、本人である僕が一番恐れる物を見させられる。
今の例でいえば、夢の中で憂達が口にした言葉は僕が無意識的にそうなることを恐れている物なのかもしれない。

(とはいえ、かなりストレスになるんぢょね)

夢の中とは言え、みんなから浴びせられる言葉の矢は、僕をこれほどかというほど痛めつけていた。

(憂に言うべきなんだけどな)

僕は、ふとそんなことを考えていた。
夢に憂が出てきたことで、これまで僕が抱えている課題を思い出してしまったのだ。
その課題は、”憂に唯と交際を始めたことを言う”というものであった。
順番が違ったり、至極簡単そうに見えるかもしれないが、実はこれが重要かつ難しいことだった。
憂は、悪く言えば、唯に依存している節がある。
そんな彼女に、交際のことを言えば修羅場に発展する可能性だってあった。
何せ、僕は憂から姉を奪った人さらいのようなものなのだから。
二人いっぺんに愛せばいいという人もいるだろうが、それはいささか幼稚だ。
一人を満足に愛せない者に二人など無理に決まっている。

(何年かかってでも、憂には快く受け入れてもらえなければ、その先のステップには行けない)

ご両親への挨拶はその後だ。

「よし、頑張ろう!」

僕は、改めて決意を固めるのであった。
皮肉にも代償で見させられた悪夢が、僕の背中を後押しすることになったのであった。










「突然だが、決議を取る!」

放課後、軽音部部室でいきなりそんな話題を切り出したのは、部長の律だった。

「いきなりどうしたんだ?」
「そうですよ、決議って言っても一体何の議題何ですか?」

律の言葉に、澪と梓が首をかしげる。

「議題はもちろん! 我が部のバカップルのことだ!!」
「あー」
「納得です」

議題がわかるや否や、二人は僕に呆れたような視線を送りながら頷いた。

「ほえ?」
「な、何?」

間の抜けたような唯の返事をしり目に、僕は二人の視線の真意を尋ねる。

「二人とも、ここ最近その……毎日い、いちゃいちゃ……してるだろ。そのことを律は言ってるんだよ」

よほど恥ずかしかったのか、頬を赤くして僕から視線をそらせながら説明してくれた。

「いちゃいちゃって、それほどひどくはないと思うけど」
「そうだよ、私たちがやったのはせいぜい―――」

唯の言葉で、僕はこれまでの部活中のやり取りを思い起こす。





ある日の軽音部、その1。

「今日はカップケーキよ」
「おいしそうだな、おい」

ムギがテーブルに置いたカップケーキに律は感嘆の声を上げながら一つ手にした。
それに続くように、それぞれがカップケーキを手にしていく。

「はい、浩君。あーん」
「あ、あーん」

最近、僕は進歩して”はい、あーん”に普通に応じられるようになった。
まだ多少は恥ずかしいが、それでも取り乱したりすることはほとんどない。

「うん。やっぱりおいしい」
「でしょ~♪」
「それ、ムギが持ってきたのだぞー」

唯の笑みの前では、律のツッコミなどただの雑音でしかなかった。





またある日の軽音部、その2。

「浩君~。すりすり」
「唯、さすがにこれは恥ずかしいぞ」

座るや否や、いきなり僕の腕にしがみつく唯に、僕はそう口にした。

「でも、気持ちいいよ~」
「ったく、この甘えんぼさんめ」

唯の幸せそうな表情の前では、僕は実に無力だった。
それから唯が離れるまでの間、僕たちはずっとくっついていた。
ちなみに、これは余談だが。

「ムギちゃん、悪いんだけどお茶を――――」
「もふもふ~」

山中先生が部室を訪れた際も、唯は僕の腕に抱きついていたため、

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

発狂した山中先生は、部室を飛び出して行ってしまった。





「―――くらいしか思いつかないよ」
「それだけ思いついて”くらい”じゃないぞー」

確かに律の言うとおりだった。
考えてみればたくさん思い当たるようなことをしていた。
最後のに限れば、ものすごくひどいことをやっているような気がした。

(今度、山中先生に謝ろう)

心の中でそう決める僕なのであった。

「それで、二人の席を離そうと思うんだけど、賛成の人」

律の呼びかけに、手を上げたのは以外にも提案した律本人だけだった。

「な、なぜ!?」
「だって、人の恋路を邪魔するのも悪いし」
「それに、下手に刺激すると悪化しそうですし」
「仲がいいのが一番だから」

澪と梓にムギと理由を口にするが、なんとなく腫れ物に触るように扱われているような気がするのは気のせいだろうか?
結局、この律の提案は”僕たちが程度を守ること”という結論になるのであった。
とはいえ、それから数秒後には”はい、あーん”をしていたので、全く意味はなかったが。










「ただいま~」
「お、お邪魔します」

夕方、僕は唯に連れられていく形で平沢家を訪れていた。
目的はもちろん、憂に僕たちのことを話すためだ。

「おかえりなさい、お姉ちゃん。どうぞ、スリッパです」
「あ、ありがとう」

あいも変わらず憂は心配りができているが、あの悪夢を見ると裏があるのではないかと変に勘ぐってしまう。

「浩介さんだけが来るなんて珍しいですね」
「そ、そういえばそうかも」

憂の言葉に、僕はたどたどしく返した。
確かに、今まで律や澪たちと一緒にここを訪れたことしかなかった。

(怪しまれたかな?)

少しだけ不安に思てしまう。
唯には僕が今日ここに来た目的を事前に説明しておいた。
表向きは夕食をごちそうになること。
裏の目的は、憂に交際していることを話すためだ。
唯の役割は、僕が話を切り出せる状況に追い込むこと。
そうでないと確実に切り出すことなく、終えてしまうような気がするからだ。
ちなみに、僕が来ることは唯がメールで連絡していたので、憂は事前に知っている。

「それじゃ、お夕飯の準備をするので、浩介さんはリビングで待っていてください」
「あ、僕も配膳を手伝うよ」

唯が私服に着替えるために自室へと向かって行く中、リビングに案内された僕は、配膳の手伝いを買って出た。
何もしないでいるのは、さすがに気まずく感じたからだ。

「あ、すみません。お願いします」

こうして僕は、料理の配膳を手伝うこととなった。

「これで、最後ですね」
「な、なんだか量が多いね」

テーブルに並べられた料理の数々に、僕は苦笑しながら感想を漏らした。
どう見ても三人分の料理ではなかった。

「そうですか? これでも足りないような気もするんですけど」
「………………」

(僕ってどれだけ大食漢に思われてるんだろう?)

あながち間違いではないけど。
準備は終えたが、唯はまだリビングに来る兆しがなかった。

「遅いな、唯のやつ」
「浩介さん」

ふとつぶやいていると、憂に声を掛けられた。

「何?」
「浩介さん、何か大事な話があるんじゃないですか?」

憂の目からは決して誤魔化させないという強い意志を感じた。
僕は、それを正面から受け止める。

「………少し前から、唯と真剣に交際している。平たく言えば、付き合っている」
「…………」
「もちろん、遊び半分ではないし、唯のことを幸せにできるように努力するつもりだ。今日、ここに来たのはその挨拶をするため」

憂は表情を変えずに僕の言葉を聞いていた。

「だから、僕たちの交際を許してほしい。この通りだ」

土下座をするわけにはいかず、頭を深々と下げた。

「それって、いずれはお姉ちゃんと結婚するということですか?」
「そのつもりだ。今は無理だけど、行くべき所に行って、しっかりと落ち着いたらになるけど」

憂からの切り込んだ問いかけに、少しばかり意外に思いながら、僕は冷静に答えていった。
実際、そこまで深くは考えていない。
というのも、唯は進路がある。
その進路がはっきりするまでは、僕は今の立ち位置でいるつもりだった。

「そうですか。だったら安心だよね、お父さん、お母さん」
「へ?」

憂の口から出た単語に、僕はその意味が理解できなかった。

「ああ、君になら私の娘を任せても大丈夫だろう。ねえ、母さん?」
「ええ。それに何より娘が選んだ男の子ですもの。しっかりしていて優しそうだから、私は大賛成よ」

そう言いながら現れたのは、唯の両親だった。

「えっと…………」
「えへへ、浩君そこまで私のことを考えてくれてたんだね」

混乱している状態の僕に、畳み掛けるようにして頬を赤くしながら体をくねらせている唯が姿を現した。
そんな、サプライズにとうとう頭の処理能力を大幅に超えてしまった僕は

「……………きゅぅ~」
「こ、浩介さん!?」
「こ、浩君!?」

気を失うのであった。










「う……ん」
「あ、目が覚めた」

気が付くと、僕はどこかに横たえられていた。

(あ、そうか。僕気を失ってたのか)

何だかとてつもなく恥ずかしいところを見せてしまったような気がする。
少しだけ冷静になると、頭にやわらかい物の感触があった。

「大丈夫? 浩君」

真上には唯の顔があった。
どうやら、僕は膝枕をされていたようだ。
キスや食べさせあいっこをしているのだ、膝枕程度で照れるわけがない。

「大丈夫。唯もごめんね、重かったでしょ?」
「ううん。重くなかったよ。とてもかわいい寝顔だったし」
「か、可愛い……」

前言撤回。
唯の前では慣れなど関係がない。

「あらあら。ふふふ」
「こうして娘は自立していくのだな」
「「ッ!?」」

横からかけられた両親の声に、僕は素早く土下座した。

「大事な娘さんにひざまくらをさせて本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」

それからしばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した僕たちは夕食に舌鼓を打っていた。

「ということは、憂もご両親方も知っていたんですか?」
「うん。ごめんなさい。学校の方で噂になっていて」

食事の際に、全ての事情を知らされた僕に憂は申し訳なさそうに謝ってきた。
要約すると、僕と唯の交際はすでに憂は知っていたそうだ。
そしてそれは両親もで、僕の本心を聞くために、わざと知らないふりをしていたのだ。
ちなみに、ご両親方がいたのは本当に偶々だとか。

「どうか、娘のことをよろしく頼むよ。高月君」
「はい。この命に代えても、娘さんを幸せにします」

そして僕はご両親にもう一度自分の覚悟を告げる。
修羅場は展開しなかったが、自分にとってはものすごくいい決意ができたことを考えれば、これはとてもいいことなのかもしれない。
一気に二つの課題をクリアするのは少しばかり予想外だったが。
そんなこんなで、この日の夕食は、今までよりも楽しい物となるのであった。

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第87話 変化する日常

「……」

月曜日の朝、僕は茫然としていた。

(夢?)

ふと昨日のことを思い出してみる。
確かにはっきりと覚えている。
唯に告白をしたこと。
そしてそれを唯が受け入れたこと。
僕たちが恋人関係になったということを。

「~~~~~ッ!」

思い出した瞬間、僕は恥ずかしさのあまり頭を思いっきり振った。

「………顔洗お」

未だにぼーっとした頭を覚ませるために、僕は顔を洗うべく洗面所へと向かうのであった。










「本当に夢かもしれない」

顔を洗いいつものように朝食を食べ、いつものように家を後にする。
そんな”いつも”通りの生活パターンが告白のことを夢だと思い込ませていく。
そもそも、僕が告白など大それたことができるわけないのだ。

(唯に対する好きという思いが夢になって出てくるとは……何と恥ずかしいことなんだ)

僕はどうも変に浮かれているのかもしれない。
ここは気をもう一度引き締め直す必要がありそうだ。

「ん?」

そんな時、ふと視線の端の方に平沢姉妹の姿が見えた。

「っ!」

向こうもこっちを見つけたようで、憂は丁寧にお辞儀をして挨拶をするが、その姉である唯は顔を赤らめて僕を見ていた。

(やっぱり、今日もダメか)

事態は何も解決していない。
問題をどう解決しようかと考えをめぐらせていた時だった。

「浩君!」
「うわ!?」

突然体に衝撃が走った。
それは唯が体当たりにも近い形で突進してきたからだ。

「危ないじゃない――――」

注意をしようとした僕は思わず言葉を失ってしまった。
それもそのはずだ。
なぜなら僕の腕と組むように、唯の腕に抱えられているのだから。

「おはよう、浩君♪」
「おはよう唯」

満面の笑みで挨拶をする唯に釣られるようにして、僕も挨拶を返した。
すでに僕の理解できる範囲を超えてはいるものの、一つだけわかったことがある。

(夢じゃなかったんだ)

それは、あの夢だと思っていたことは真実で

「もう、お姉ちゃん。いきなり浩介さんに抱きついたら危ないよ」
「えへへ~」

僕と唯の関係はいい方向に変わったのだということだった。

(まあ、これも夢じゃなければ……だけど)

そんな嫌な予想を立てたものの、これは夢ではないということは十分にわかっている。

「早くしないと遅刻するのでは?」
「っと、そうだった! 浩君、憂走ろう~~~!」

僕の言葉に気が付いた唯は元気よく声をあげると走り出した。
……僕の腕を抱えたまま。

「ちょっ!? 危ないから! 前もこれで痛い目にあって――――」

もう一つだけわかったことがある。
恋人になったからと言って唯の天然は変わってはいなかった。
だが、どこかに憎めないのは、恋人が故なのだろうか?










「おは―――」
「確保―っ!!」

教室に入った瞬間、何者かに体をつかまれた。

「カマンベール!!」

とりあえず、その何者かの頭にかかと落としを決めた。

「何だ慶介か」

慶介がバカなことをするのはいつものこと。
僕は特に気にも留めずに、慶介の上を歩きながら自分の席に向かう。

「いきなり激しいな」
「バカなことをするからだろうが」

数秒で回復した慶介が、僕に抗議の声を送るが僕はさらっと返した。

(前から思うけど、慶介の回復力には目を見張るものがあるな)

先ほどの攻撃もそうだが、慶介相手にはかなりの力を込めて叩き潰しているはずなのだが、数秒で元通りになるというのはどう考えても不自然だった。

(一回、慶介の身体でも解剖して調べてみようかな?)

そんな恐ろしいことを頭の中で考えていた。

「それはそうと、聞いたぜ」
「………それはいいけど、その気持ち悪い笑みをやめろ」

にやにやしながら僕に声を掛ける慶介に、僕は目を細めながら告げた。

「気持ち悪い言うな!」
「はいはい。で、一体何を聞いたんだ?」

慶介の抗議の声を適当にあしらいながら、僕は先を促すことにした。

「それはだな、浩介と平沢さんが恋人同士になったという噂だZE!」
「……………へ?」

慶介の口から出てきた言葉に、僕は思わず固まってしまった。

「いや~、この俺を差し置いて先に彼女を作るとは。くぅ~、お前もやるじゃないか!」
「いやいや、待て待て待て! なぜそんな噂が流れる!!」

軽快に笑いながら冷やかす慶介に、僕は少しばかり慌てて尋ねた。
どう考えても時間的におかしかった。

「なんでも、浩介と平沢さんが仲良く腕を組んでいるのをこの学校の生徒が見たらしいぜ? ほら、浩介ファンクラブ持ってるから、情報が早かったんだよ」
「な、なんという……それで、クラスの雰囲気があれだったのか」

教室内の雰囲気が微妙におかしかった理由が、このような形で分かるというのはとても複雑な心境だった。

(それにしても、誰に見られていたんだ?)

昨日もそれなりに警戒していたつもりだが、デートと言うことと、告白をどうやってするかで頭がいっぱいだったので、見られていてもおかしくはなかった。

「それにしても、観覧車に乗っている間に告白とはやるじゃないか。まあ、強風で観覧車の運転が止まったんだから、時間はたっぷりあったんだしな」
「まあな」

30分で一周する観覧車は、強風により運転を中止したというアクシデントによって50分かかってしまった。
まあ、それのおかげで告白することができたのだから、問題は特にはない―――――

(ん?)

その時、ふと僕の脳裏に疑問がよぎった。
慶介の言葉が、少しばかりおかしかったのだ。

「なあ、慶介。ひとつ聞いていい?」
「おう! この天才と呼ばれた男、佐久間 慶介に何でも聞いてくれ」

変に胸を張る慶介に、僕は核心をつくことにした。

「何で、観覧車が止まったことを知ってるんだ?」
「え?」
「しかも、観覧車に乗っている間に告白したことまで知ってるし」
「…………………」

僕の問いかけに、慶介は固まっていた。
それがすべてを物語っていた。

「貴様、僕たちの後を尾行したな?」
「い、いや―――」
「尾行、してたよな?」

有無も言わせない僕の問いかけに、慶介は周囲を見る。

「咎人に報いをっ! 散!!」
「うげぼるふぁ!!!?」

尾行していた慶介に、お仕置きをした僕は慶介を自分の席に座らせた。

「よし、これでいいだろう」
「高月君」
「ん? 佐伯さんか」

一作業を終えた達成感に浸っている僕に、声を掛けてきたのは佐伯さんだった。

「おめでとう!」
「……………」

頬を少し赤らめた佐伯さんのお祝いの言葉に、僕はなんとなく今日一日が大変なことになりそうな予感をするのであった。
ちなみに、これは余談だが。

「佐久間……は休みでいいか」

HRの出席確認で、気を失っていた慶介は問答無用で欠席にされていた。










「はぁ……やっとお昼だ」
「何だなんだ、いつもならぴんぴんしている浩介が珍しいな」

昼休みを告げるチャイムが鳴り響き、周りが昼食の準備をする中僕は机の上に突っ伏していた。

「当たり前だろ。休み時間のたびに質問攻めにされるのは、正直堪える」

休み時間になるとファンクラブの会員だろうか、僕の方に訊きにくるのだ。
3年から1年生まで。
そして事実を知ると卒倒(分かりやすく言うと、気絶だけど)するという光景が何度も繰り返されたのだ。
これにはさすがに堪えた。

「モテモテで何よりだな」
「こんな形のモテはいらない」

慶介の嫌味にも、僕は力なく答えるしかなかった。

「高月君、お客さんだよ」

そんな時、クラスの女子から声が掛けられた。

「また、ファンクラブの連中か」

ため息交じりに僕は席を立つ。

「浩君~♪」
「って、唯?!」

尋ねてきたのは唯だった。
唯の笑みが僕の中にあった疲労をすべて弾き飛ばしてくれたような気がした。

「いきなりどうしたんだ?」
「あのね、一緒にお弁当を食べない?」

そう言って僕の前に出したのは、二つのお弁当箱だった。
一つは唯のだとして、もう一つのお弁当箱は一体……

「あのね、私浩君の為にお弁当を作ってきたの」
「唯が?」

顔を赤くしながら頷く唯。

「あまりうまくないかもしれないけれど」
「いや、それでもいいよ。唯が作ってくれたのだったら」
「浩君……」

僕の言葉に、不安そうな表情から一転して、うれしそうな表情を浮かべる唯の頬はもう真っ赤だった。
もしかしたら僕の顔も十分赤いのかもしれない。
僕は何て幸せな……

「はっ!?」

ふと自分がいる場所に気付いた僕は、周囲を見渡す。
そこには僕に微笑みを送るクラスメイトの姿があった。
全員顔を赤くして、目を輝かせていた。

「ぢぐじょう。どうして浩介ばがりが!!」

……約一名ほどは涙を流していたが。

「場所を移そうか」
「了解であります!」

うん、全く何も変わっていない。
天然なところとかが(以下略)
そんなこんなで、僕たちは逃げるように教室を―――

「こうなったら佐伯さんと今度こそサタデーナイトフィーバーでムフフな――――ぎゃごっ!?」

出る前に意味の分からないことを喚く慶介に鉄拳制裁を施しておいた。










「それじゃ、いただきます」
「召し上がれ」

人気のない場所を探したが、結局どこに行っても人がいるので、面倒くさくなった僕はこの時期に絶好の昼食を食べるスポットとして名高い中庭のベンチに腰掛けていた。
そして僕たちは手を合わせて昼食をとり始めた。
唯の手作り弁当のふたを開ける。

「……………」
「ど、どう……かな?」

不安そうな表情で訊いてくる唯。
お弁当の内容は白いご飯に足が2本のタコさんウインナーもどき、そしてなぜか目玉焼きというどう判断すればいいのか、評価に悩むものだった。
はっきり言って見た目的には、おいしそうには見えなかった。
僕は見た目のことを忘れ、謎のタコさんウインナーもどきに手を付けることにした。

「………うん。おいしいよ」
「ほ、本当? お世辞とかじゃなくて?」

お世辞を言っていると思ったのか、不安そうな表情を浮かべ僕の方に顔を寄せながら聞いてきた。

「お世辞じゃないよ。僕は世辞が苦手なの。見た目はあれだけど、とてもおいしいよ」
「ありがとう、浩君♪」

最初に見た目のことを悪く言っておいたことで本当のことだと思ったのか、唯は満面の笑みを浮かべた。

「それじゃ……」
「え、ちょっと!?」

何かを思い立ったのか、唯は唐突に僕の手からお弁当箱を取り上げた。

「はい、あーん」
「ッ!?」

その時、僕はとんでもない現場を目の当たりにした。
笑みを浮かべたまま、僕に差し出されるのは残っていたタコさんウインナー。

(これが噂の”はい、あーん”か。カップルの十八番とは聞いていたけれど、本当だったんだ)

僕も僕で感心する方向が微妙にずれていた。

「あ、あーん」

しかし、食べる側としてはとても恥ずかしい。

「どう?」
「うん。おいしいです」
「えへへ~」

分かったことがある。
食べさせてもらうと、どのような料理もさらにおいしくなる物だということが。

「それじゃ、次は浩君の番!」
「了解。それじゃ、これで行こうか」

僕に差し出された自分の箸を受け取った僕は、目玉焼きを手にする。

「はい、あーん」
「あ、あーん。はむ……おいしい♪」

恥ずかしげに口を押えながら味わっていた唯は笑みを浮かべる。

「でも、なんだか恥ずかしいね」
「バカ言え。これ、やる方もかなり恥ずかしいぞ」

変な発見をした僕たちは、その後”普通に”昼食をとるのであった。










「あの、浩介先輩」
「何?」

放課後、いつものように部室でティータイムと洒落こんでいると、向かいの席に座っていた梓が声を掛けてきた。

「浩介先輩と唯先輩は、付き合っているんですか?」
「ッ!?」

いきなりの問いかけに、思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえた。

「な、なぜに!?」
「もうクラス中で噂になってますよ? 昼休みに食べさせあいっこをしていた……とか」

顔を赤くして僕から顔をそらせながら答える梓に、僕はすべてを悟った。
どうやら、昼休みの一件はいい意味でも悪い意味で周囲に知らせるきっかけになったのかもしれない。

(通りで午後から質問する人が来ないわけだ)

知られさえすれば、確認すること自体が無駄になるのだから。
きっとファンクラブの人が直接見たことが大きいのかもしれない。

「そうだぜー。観覧車の中で熱烈な告白をしたんだぜー」
「まあまあ♪ とてもロマンチックね」
「……どうして律は観覧車だって知ってるんだ?」

相槌を打つ律に、ムギが目を輝かせながら僕に言ってくる中、僕は律に疑問を投げかけた。

「え!? そ、それは噂で……」
「あんた、慶介と結託してたよな。唯を誘い出したのは律だったようだし」
「あは、あはははは……」

今度は笑ってごまかそうとする。
そんな彼女に、僕は魔力で編み出したナイフを律に目がけて投げ飛ばした。

「今度はもう少し違うやり口に変えたほうがいいか?」
「あの! 食い込んでる! 服が食い込んでるから!!!」

律が喚きだす。
それもそのはずだ。
何せ、食いこむように投げ飛ばしてるんだから。

「しばらくそこで反省でもしておけ」
「ちょっと!?」

僕の突き放す言葉に、律が叫んだ。

「浩君、さすがに律ちゃん隊長がかわいそうだよ」
「………唯がそう言うんなら」

僕は唯の言葉を受けて律に刺さっているナイフを消した。

「ゆ、唯の言葉ですんなりと」
「何か言ったか、澪?」
「あ、な、何でもない!」

何かを呟く澪に声を掛けた僕に、澪は頬を赤くしながら慌てて反応した。

「でも、浩介先輩と唯先輩ならとてもお似合いだと思いますよ」
「もぉ~、恥ずかしいよ、あずにゃん」

照れた風に相槌を打つ唯に、和やかな雰囲気が流れた。

「うぅー」

そんな中、一人哀愁を漂わせる人物がいた。

「さ、さわちゃん。そんな恨めしそうに浩介達を睨まなくても。まあ、気持ちは分かるけど」

恨めしそうな目で僕たちをにらんでいたのは、顧問の山中先生だった。
何となく理由は分かるけれど。

「本当に、二人は付き合ってるの?」
「はい」

何の躊躇もなく答える唯は、ある意味大物だった。

「も、もしかして……き、キスとかも!?」
「……は、はい」

その問いかけにはさすがに頬を赤くして答える唯。

「にゃ~」
「はぅわぁ~」
「あ、梓ちゃん!? 澪ちゃん!?」

そんな唯のカミングアウトに、とうとう許容量をオーバーしたようで梓と澪が顔を赤くしてダウンした。
そんな中、山中先生はというと

「うぅ……今日はとことん飲んでやるぅぅぅぅ~~~~~!!!!」

涙ながらに、部室を飛び出して行ってしまった。

「一番の被害者はさわちゃんのような気がする」

その律の言葉が一番的を得ていた。










「それじゃ、また明日だね。浩君」
「ああ」

夕方、日も暮れ薄暗くなる中、僕は平沢家前まで唯を送り届けていた。
結局、あれから練習をすることはかなわなかった。
何となく原因がわかるだけに、僕も強く言うことができなかった。
でも、なんなのだろうか?
この、無性に離れたくない気持ちは。

「唯」
「なに―――んむ!?」

言い訳になるかも、それは衝動だった。
気が付けば、僕は唯の唇に自分の唇を重ねていた。

「はむ……ちゅ……ぷはぁ………もう、強引だよ。浩君」
「あはは……ごめん」

照れたような、少しだけ怒ったような表情で言ってきた唯に、僕は苦笑しながら謝った。
僕の自惚れだろうか?
唯はそれほどいやだというような印象は感じなかった。

「じゃあね、浩君」
「うん、また」

そして、僕たちは今度こそ別れるのであった。

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