健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第90話 旧友

「はぁ、やっと終わった」

運悪く掃除当番だった僕は、掃除を終えて部室へと向かっていた。

(全く、慶介のやつ)

僕は心の中で、慶介に毒づく。
というのも、終わるのが遅くなったのは、慶介が原因なのだ。

「皆聞いてくれ! この状況はおかしいと思う!」

掃除の最中に、突然そんなことを喚きだした慶介に、掃除をしていた僕たちはその手を止めた。

「何がおかしいんだ?」
「今、俺たちは掃除とはなんたるか……その心を忘れているような気がするんだっ!」

強い口調で持論を述べる慶介の言葉は、とても立派なものだった。

「私もそう思う! やっぱり掃除はちゃんとしないとねっ!」

慶介の言葉に、珍しく女子が同調した。
僕も慶介の意見には同意する。

「そこで今日。俺は掃除としての心を取り戻す大変すばらしい案を提案する!」
「それはどんな?」

掃除当番の女子が、慶介にその案を尋ねる。

「掃除中、女子はメイド服を着るという、大変すばらしい者だっ!!」

その言葉に、教室の音頭が一気に下がった。

「高月君、私も手伝うよ」
「私も」
「あたしもよ」

手に持っている箒を持ち直そうとしていると、女子たちが名乗り出た。
どうやら、相当慶介の馬鹿げた案が許せなかったらしい。

「あ、あれ? 皆さん目が怖いですよ?」
「タイミングを合わせて行こう」
『はいっ!』

慶介という名の敵に、僕たちは臨時のチームが出来上がっていた。
慶介の逃げ道をシャットアウトするべく、窓際に追い込んだ。

『咎人に罰を!!』
「げぼぁ、ぐぼぉ、ごほぁ!?」

女子と僕の一斉攻撃に、慶介は沈んだ。
こうして、女子の敵は退治されるのであった。

「く、ククク。男、佐久間 慶介。男の夢の前で、無残に散る………ガク」

そんな意味の分からない言葉を残して。
この騒動によって、掃除の終わる時間が遅れることになったのだ。
ちなみに慶介はそのまま放置しておいた。
どうせ少しすればケロッとして帰っていくのだから。

(ん?)

階段を上ったところで、上の方から騒がしい声が聞こえてきた。

「何を騒いでるんだろう?」

声からして律の物だというのは分かるが、詳細の方までは把握できなかったため、僕は首をかしげる。
そして階段を上りきった僕は、部室のドアを開ける。

「何だなんだ? ものすごく騒々し―――」

そう言いながら部室に入った僕を、沈黙が襲った。
それはまた僕も同じだった。
部室には慌てふためく律に唯、そしてなぜか項垂れている梓の姿があった。
そこまでは別に普通の軽音部の光景だろう。
だが、僕の前に立っている人物はそれだけではなかった。
金色の短めの髪をしたこの学校の制服を身に纏っている人物がいたからだ。

(嘘だろ?)

その人物の後姿には見覚えがあった。

「ま、まさか……お前」

それは、僕にとっては忘れられない存在。

「ジョン!?」

最初にできた友達なのだから。
ジョンと思われる男子生徒は、僕の言葉に反応しゆっくりとこっちに振り向く。
美形男子を思わせる整った顔つきは、まぎれもなくイギリスの学校に一緒に通っていたジョンだった。

「ジョン!」
「コウスケ!」

久しぶりに再会できた旧友に、僕たちは手を取り合った。

「どうして、お前がここに……まさか、交換留学生って!」
「そうだよ! 僕のことだよ!」

嬉しさのあまりに、僕たちは会話を始めるがついていけてない人物がその場にいた。

「ちょっと、マシンガントークをしてないで、説明してくれよ!」
「この人は一体誰なの?」
「あ………」

すっかり紹介する過程をすっ飛ばしていたことに気付いた僕は、何とも言えない表情を浮かべながらジョンと顔を見合わせるのであった。










「それじゃ、紹介するよ」

気を取り直した僕たちは対峙する形で立っていた。
唯たち軽音部のメンバーは横一列に並び、その前に僕とジョンが立っている。

「彼はジョン・オルコット。イギリス留学でのガーディアンでお世話になった、オルコット家の長男」
「ガーディアン?」

僕の紹介に、聞きなれない単語だったのか、唯が首をかしげた。

「ガーディアンっていうのは簡単に言えばホームステイ先のような感じで、他人を受け入れてくれる家のこと」
「確か、イギリスの留学はガーディアンが必要だったんだよね?」

さすがはお嬢様でもあるムギだ。
留学に必要な条件もしっかりと把握していた。
僕はムギの言葉に頷いて答えた。

「ちょっと、いいかな?」
「何?」

そんな中、澪が手を上げて声を上げる。
それにジョンが反応する。
ちなみに、今僕は通訳をしている状態で、ジョンの言葉を唯たちに言っている状態だ。
面倒くさいが、それをしないと伝わらないため、通訳をしている。
ちなみに、翻訳魔法というのがあり、自国言語で会話ができるようにすることができる。
だが、それでは意味がないので、全く使用していない。
とはいえ、英語以外は別だが。
閑話休題。

「オルコット家って、もしかしてオルコット楽器の……」
「ああ、御曹司だよ」
「ッ!!?」

ジョンが答えるまでもないので、僕が頷くことで答えると、澪が燃え尽きたようによろめいた。

「澪ちゃん!?」
「澪!?」

そんな澪に駆け寄る唯や律たち。

「だ、大丈夫なのかい?」
「ああ。いつものことだから。そっとしておいてあげて」

心配そうに聞いてくるジョンに、僕はそう相槌を打った。

「オルコット楽器って、音楽界では知らない人がいないとされている家ですよね?!」
「そうだね」

おそらくは梓や澪の反応が正しいのだ。
オルコット楽器グループ
それは、音楽界に置いてある種の革命をもたらせたとされている。
どのような革命なのかは、はっきりしていないが音楽評論家だったことが関係しているのではないかと言われている。
噂では、ガールズバンドの追い風となったと言われている。
バンドの中に女性が混じりことはあれど、ほとんどが女子で構成されたガールズバンドは全く存在すらしなかった。
音楽界では男女差別がないと言えばそれは嘘になる。
酷い話ではガールズバンドという理由だけで、演奏をさせずに不合格にするコンテストもあったほどなのだから。
だが、現在はガールズバンドというのもまた一つの立派なバンドという認識がされるようになり、女性の活躍の場が広がりつつある。
それはともかくとして。
またこの楽器グループの作る楽器はすべて逸品とされており、高値で売買されていたりする。

「それで、こっちの方から。キーボードの琴吹紬」
「琴吹紬です。よろしくお願いいたします」

僕の紹介に、ムギは流暢な英語で自己紹介をした。

「ん? 琴吹って……あの琴吹グループかい?」
「そうなるね」

さすがは楽器店の御曹司だ。
すぐに琴吹グループの関係者であることがわかったらしい。

「いやぁ、このようなところであなたにお会いできるとは光栄ですよ」
「ありがとうございます」

笑顔でジョンの握手に応じるムギはある意味すごかった。

「それで、横にいるのがリードギターの平沢唯。僕の恋人だ」
「なんと!? コウスケに彼女ができたのか! いやいや、とてもかわいらしいお方だ……コウスケがうらやましい」

恋人という言葉に、驚きをあらわにするジョンだが、微妙に失礼なような気がした。

「な、なんて言ってるの?」
「とってもかわいい恋人さんだねって」

唯の疑問に、誤魔化しながら通訳をしようとするが、ムギによってさえぎられてしまった。

「ッ!?」
「……その横が、リズムギターの中野 梓」
「よ、よろしくお願いします」

緊張した様子でおじぎをする梓に、ジョンが一言

「とてもかわいい子じゃないか。幼さがあって」
「……」

また通訳に困るようなコメントをするジョンに、僕はどういえばいいのかに悩んだが、最後の方をぼかして翻訳することにした。

「それで、その横がここの部長でドラムの田井中律」
「あぁー、男勝りのこだね」
「た、田井中律です。よろしくお願いします」

声を上ずらせながら、自己紹介をした。
”男勝り”と言われてもなんとも思っていない様子がある意味すごかった。

「それで、最後が………あっちの方で隠れてるのが秋山澪。かなり恥ずかしがり屋で、いつもあんな感じなんだ」
「そう言うことだったのか。嫌われているのではないかと、思って心配してしまったよ」

まあ、事情を知らない人からすればそうだろうな。

「あ、秋山澪でしゅ! よろしくお願いしましゅ!」

完全にテンパっているのか律よりも声を上ずらせて、髪ながら自己紹介をした。
ちなみに澪にはこの学校で語られている伝説、通称”秋山伝説”なる物が存在するが、それはまた別の機会に説明することにしよう。

「彼女たちが、今僕が所属している第2バンド、放課後ティータイムのメンバー」
「なるほど、なかなか個性的だね」

どうやら、彼女たちの強すぎる個性はジョンのお気に召したようだ。

「あ、一緒にお茶でもしませんか?」
「いいのかい? 僕は完全に部外者だけど」

ムギの提案に、ジョンは戸惑ったような表情で躊躇するが、

「ええ、もちろんですよ」
「それに、イギリスでの浩介先輩の事も知りたいですし」

という、皆の反応に圧されるようにして、僕たちはいつものメンバーにジョンを加えてティータイムをすることとなった。

「おいしい。イギリスで飲んだ紅茶と変わらない味だ」
「ありがとうございます」

ムギが淹れた紅茶に口をつけたジョンの間奏に、ムギは嬉しそうな表情でお礼を言った。

「あの」

そんな時、口を開いたのは律だった。

「浩介とはいったいどうやって知り合ったんですか?」
「うーん。それは、僕よりコウスケの方が詳しいと思うけど?」

そう言って僕の方に視線を向けるジョン。

「何だか恩着せがましくなるから言いたくないんだけど」

そんなジョンの視線につられるようにこちらを見る皆に、ティーカップを置きながら僕はつぶやいた。

「お願いします、浩介先輩。聞かせてください」
「私も、知り合うきっかけが気になるし」

どうやら、さらに興味をひかせてしまったようで、話すようにお願いをする皆の目は、絶対に離させるという熱意に満ちていた。

「浩君、私も聞きたいな」
「…………分かった、わかった。話しますよ」

唯の上目遣いによる懇願で、とうとう根負けした僕は、両手を上げながら降参の意を示して返事を返した。

「あれは、僕がイギリスに留学をするために向かった時のことだった」

そして、僕は当時のことをみんなに話し始めるのであった。










時間は大幅に遡り、約5年ほど前。

「ここが、イギリス」

ヒースロー空港を出た僕は、イギリスの風景に魅入られていた。
小学校を卒業したのを節目に、世界の教育というものを知っておきたいと思い、僕はイギリス留学の道を選んだ。
同級生の中には、僕の頭がいいから留学をすると言っている者もいた。
それを否定はしない。
自分でもわからないが、どこかしらかにそういう一面があるのかもしれなかったからだ。
世界の教育を知るというのも本当の理由であった。

「さて、まずはガーディアンを探さないと」

イギリス留学をするにはガーディアンという身元引受人のような人物が必要になる。
試験は問題はないにしろ、このガーディアンが問題となった。
学校側で探してもらったのだが、すべての候補先でお断りという結果になったのだ。
なんでも、小学生ぐらいの子供の面倒を見れる保証がないとのことだった。
しかも、僕には両親がいない。
この世界には親がいないために、僕の身分は完全に怪しい物となっているのだ。
それが、さらにガーディアン候補に警戒をさせてしまう要素と化していた。
そう、何もかもが早すぎたのだ。

(うーん、今日見つからなければ諦めるか)

子供の僕がホテルなどをとれるわけもなく、野宿になるのはゴメンだったため、ぎりぎりまで粘ってみるつもりだった。










「昼食はとれたけど、これからどうしよう」

近くの喫茶店で軽く昼食をとった僕だったが、この後どうするか首をかしげていた。
そんな時だった、ある悲鳴が聞こえてきたのは。

「きゃああああああ!! ひったくりよ!」

女性のかなぎり声に、僕は慌てて立ち上がると周囲を見渡す。
すると、少し先の方で走り去っていく男の姿があった。
手には女性物のバッグが見えた。

(あいつだっ!)

僕はすぐさま犯人を特定し、男の後を追う。

「待てっ! そこのひったくり野郎!」
「なっ!? ガキかよ!」

軽く走りながら、男との距離を詰めていく。

「くそッ! ガキに捕まってたまるか!」

僕の姿に男はそう吐き捨てながら走る速度を速めるが、その努力もむなしくさらに距離は詰まっていく。

「この糞ガキがっ!」

それに気づいた男は懐から銃を取り出すとそれを僕に構えた。

「ぶっ殺してやるッ!!」
「ッ!?」

銃声が鳴り響くが、僕はサイドステップでその場を離れることで銃弾を躱した。

「なっ!?」
「この私に銃を向け、発砲した度胸は認めよう。だが―――」

一瞬で僕は男の懐に潜り込む。

「それはただの無謀だっ!」
「うおおおお!!? グガっ!?」

背負い投げの要領で僕は男を投げ飛ばした。
投げ飛ばされた男はその場で昏倒した。

「ひったくったこのバックは返させてもらうよ」

男を適当な電柱に縛り付けて、手にしていたバックを奪い取った僕は、男にそう告げるとその場を後にした。
背後から歓声のようなものが聞こえたような気がしたが、それを気にせず、僕は先ほど女性がいたであろう場所にかけていった。

「失礼。貴女の取られたバックはこちらですか?」
「は、はい! これです! ありがとう、坊や」

僕の差し出したバックを大事そうに抱えた腰まで伸びた金色の髪の女性は、優しい笑みを浮かべてお礼を口にした。

「それじゃ、僕はこれで」
「待って!」

立ち去ろうとする僕を、女性が引き留めた。

「助けてくれたお礼がしたいわ。欲しいものがあったら何でも言ってちょうだい」
「………いえ」

女性からの申し出に、僕は静かに声を漏らす。

「私はべつにお礼がほしくてやったわけではありません。ですので、お礼は不要です」
「………でしたら、お茶を一杯ごちそうすると言うのはどうかしら?」

なおも食い下がる女性に、僕は根負けしてそれでいいと告げた。

「だったら、この近くにいい喫茶店を知っているの。行きましょう」

頷くや否や女性は半ば強引に僕の手を引いて行くのであった。
この時、僕は知らなかった。
この出会いが今後の運命をすべて変えることになるであろうことを。

拍手[1回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カウンター

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R