健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第89話 訪問者

日本、成田空港。
そこに、キャスター付きのスーツケースを手にする金髪の人物の姿があった。

「ふぅ……」

その人物は、成田空港を出ると、息を吐いた。

「やっと来れた」

その人物の目はとても輝いたものだった。

「彼のいる、日本に!」

その来訪者は、これから会うであろう人物のことで胸を躍らせるのであった。










一気に二つの課題をクリアしてから少しの日数が経った。
衣替えにより、全員は冬服の制服を身に纏うようになっていた。
そんなある日の休日、僕は慶介に呼び出され、佐久間家にやって来ていた。

「悪いな、休みの日に呼び出して」
「別にかまわないけど」

僕の前に差し出されたのはオレンジジュースが入っているグラスだった。
向かい側で申し訳なさげに謝る慶介の前にも、オレンジジュースの入ったグラスが置かれていた。

「実は、俺は今までのやり口を変えることにしたんだ」
「何を言ってるんだ? いきなり」

唐突に変なことを口にする慶介に、僕は目を細めながら相槌を打った。

「相手からの告白を待っていたんだが、それではだめだと思ったんだ」
「何だ、そっちのことか」

慶介の話題に、ため息を漏らしたくなったが、彼にとってはとても重要な内容だと思ったので、僕はまじめに聞くことにした。

「要は俺自身の魅力を相手に伝えさせればいいんだ」
「なるほど、考えたな」

確かに自分の魅力を相手に伝えることができれば、慶介の場合はかなり状況は一変するだろう。
その後もいろいろと力説を始める慶介の話をしり目に、僕は目の前のオレンジジュースに手を伸ばすと、口元に近づけた。

(ん?)

そんな時、違和感を感じた。

(なんか、臭い)

オレンジジュースの入ったグラスから、ものすごく臭いにおいがしたのだ。
例を挙げるとすれば、くさや並の臭さだ。

(何か入ってるのか?)

僕はそう思うとグラスを置いて慶介の方に置かれたグラスを手にすると匂いを嗅いだ。

(臭くないということは、何かを混ぜたか)

毒は体が勝手に解毒してしまうので僕には効かない。
だから、問題はないがわざわざ変なものを口にするのもいやなので、慶介がモテ論に花を咲かせているすきを狙ってグラスを入れ替えると真面目に話を聞いている態度をとって誤魔化した。
ちなみに、これは余談だが昔僕を暗殺しようと青酸カリを飲ませたバカがいたが、体調を崩すことはなかった。
このことから、”僕の暗殺は実力行使以外に方はない”という物ができてしまったことがある。

「あ、悪い。話に熱中してしまった」
「いや、中々に興味深い内容だったよ」

本当は適当に聴いていたが、とりあえず適当に感想を言っておくことにした。

「そう言ってもらえること助かるよ。あ、これ遠慮せずに飲んでくれよ」
「それじゃ」

僕は慶介に促されるまま、オレンジジュースを飲み始めた。
それを見て慶介も僕の方に置かれたものとは知らずに、口をつける。

「そこで、俺が考えたのはズバリ、惚れ薬さ!」
「…………」

思わず僕は言葉を失ってしまった。
それほどまでに慶介の口にしたアイデアが、馬鹿馬鹿しかったのだ。
僕はそれをジュースを飲み干すことで誤魔化した。
そして慶介もジュースを飲み干す。

「そしてこれがその惚れ薬だ」
「少し拝借」

僕は、慶介がテーブルの上に置いた惚れ薬と思われる透明な液体の入った小瓶を手にするとまじまじと観察する。

「それを飲むと、最初に目に入った人物のことが魅力的に見えて仕方がなくなるという、男の夢の薬さ!」
「くだらない」

まさしくその一言に尽きた。
僕は惚れ薬が入った小瓶をテーブルの上に置いた。

「それで、何か感じないか?」
「何が?」

慶介の突然の問いかけに、僕は首をかしげながら聞きかえした。

「例えば頭がボーっとしてくるとか、くらくらするとかそんな感じだよ」
「………どうして?」

無性に嫌な予感がしたが、僕は理由を聞かずにはいられなかった。

「実はな、その惚れ薬を浩介のジュースに入れたんだ。どうだ?」
「…………」

(だから、変なにおいが……いや)

安心するのはまだ早い。
もしかしたら交換したジュースの方に、それが入っているのかもしれない。

(落ち着け。まずは確認だ。僕が好きなのは、唯だ)

自分自身に問いかけ、答えを見つける。
そこに自分で思い当たるほど不自然な思考回路はない。
ということは、考えられる結果は一つだけだ。

「そっちの方はどうなんだ?」

向こうの方に入っているという結果になる。

「何を言ってるんだ………い、入れたのは浩介のだけだ」
「入ってるのはそっち」
「へ?」

僕の言葉に、慶介の顔が固まった。

「変な前ふりをするし、それにジュースから変なにおいがしたから、すり替えたんだ」
「どうしてお前はいつも俺の邪魔……ぁ……ばかり……ぁ……するんだ!」

僕の種明かしに、慶介がもう抗議するがそれは逆切れに近かった。

「惚れ薬の降下ぐらい自分で試してすればいいだろ」
「お、俺は……ぁ……理性が強いから……ぁ……惚れ薬のようなものに感情が動くようなことはないんだよ!」

何だか慶介の反論が少しずつおかしくなってきているような気がする。
このままここにいるのは危険だと悟った僕は、腰を上げて立ち上がる。

「ぁ……」

そんな僕の腕を慶介が突然つかんできた。
まるで行くなと言わんばかりに。

「な、何をするッ!」
「べ、別に何でもない」

薬のせいか、それともいつものことなのか。
とはいえ、自分の腕を驚きに満ちた表情で見ているので、おそらくは前者かもしれない。
どちらにせよ、この背筋に走る寒気は偽りではない。

「浩介、今日は何か違くない?」
「………はぁ!?」

唐突におかしな事を猫なで声で言い出す慶介に、僕は素っ頓狂な声で叫んだ。

「あぁ、髪を切ったのか」
「け、慶介?」

何だか目が血走っていて怖い。

「口づけというのは生物に共通するコミュニケーションさ。さあ、目を閉じて」
「………」

はっきり言おう。
今とてつもない寒気が体を走っている。
それは恐怖と同等の感情だった。
そんな感情に支配された僕は

「ごぼぉ!?」

思いっきり慶介の顔面を殴り飛ばした。

「薬、馬鹿効きじゃないかっ」

紛れもなく慶介に惚れ薬の効果が出ていた。

(感情が左右されないんじゃないのかよ?)

「ばーか! ゾウリムシ! 単細胞!」
「ははは……素直じゃないな、ベイビー!」

どうしてだろう、惚れ薬でおかしくなっているとわかっているのに、僕の罵倒に対する慶介の言葉を聞いていると無性に殴り飛ばしたくなるのは?

「鍵かけて、部屋に閉じこもって……牛丼でも食ってろ、このターコ!」

僕はそう言って部屋の出入り口であるドアの前に向かう。

「お、おい!」
「あ、誰にも会わない方がいい。変態がばれるぞ」

慶介に忠告した僕はドアを開けるとそのまま部屋を出た。

「ま、待ってくれ~!」

慶介のむなしい叫びをしり目に、僕はドアを閉めるのであった。

「ったく、何が惚れ薬だ」

僕は先ほど慶介の部屋から持ってきた小瓶を観察する。

「これは人目のつかないところで廃棄するか」

結局この日は、惚れ薬の廃棄という用事を抱えてしまう僕なのであった。










「へぇ、そんなことがあったんですか」
「まったく、あいつは一体何を考えてるんだか」

翌日、学校に向かっていた僕たち軽音部のメンバーに、僕は先日の慶介の一件を説明した。

「いや、効果を確かめるために浩介先輩にのませようとした佐久間先輩も佐久間先輩ですけど、それに対応する浩介先輩の方法もすごいですよね」
「だって、女子だったらまだしも、男に言い寄られて嬉しいわけないでしょ」

梓の言葉に、僕は全力で反論した。
それほど気持ち悪かったのだ。

「でも、浩介君も、うれしかったんじゃないかしら?」
「はいぃ!? 冗談は頭の中だけにして!」

うっとりしながらかけられた言葉に、僕は猛抗議した。
絶対にそういうのだけはないと断言できる。

「むぅ……」
「あの、唯さん? 本当にムギの言葉は根も葉もない冗談だからね?」

不機嫌そうに頬を膨らませる唯に、僕は恐る恐る釈明した。

「浩君は、私じゃなくて、ほかの女の子に言い寄られるのがいいんだ」
「そっち!?」

どうやら”女子ならまだしも”という単語に、唯は反応を示しているようだった。

「そんなわけないでしょ。言い寄られて本当にうれしいのは唯以外にいないから」
「本当?」

僕の言葉に、少しだけ信じる気持ちになったのか上目づかいで聞いてきた。

「ああ、もちろんだ。命をかけてもいい」
「………浩君を信じる。えへへ~」

そう言うや否いや腑抜け切った笑みを浮かべて腕にしがみついてくる唯。

「はぁ……」
「気持ちは分かるけど”またかよ”という感じでため息をつくのだけはやめてっ」

今日も平和な一日になりそうだった。










「おっす、こうす―――がほっ!?」

教室に入ってすぐに表れた慶介の顔面を僕は条件反射で殴り飛ばしていた。

「い、いぎなりなにを」
「ご、ごめん。まだ例の薬が効いているのかと思ったら反射的に」

涙目になりながら鼻を押さえる慶介に、僕は申し訳なく謝った。
どうやら薬の効果は切れているようだ。

「少ししたら切れたけど、入れ替えるはずるくねえか?」
「変なものを混ぜるからだ」

慶介の抗議に、僕はバッサリと言い返した。

「ほら、チャイムなったぞ」
「ちくしょう!!」

何やら力説しようとした慶介に、たまたま鳴り響いたチャイムに、離れるように促すと叫びながら慶介は自分の席へと戻っていくのであった。





「なあ、浩介」
「今度はなんだ?」

昼休み、珍しく教室で昼食を食べていると、前の席に慶介が腰かけながら声を掛けてきた。

「何かな、この学校交換留学生を受け入れたらしいぜ」
「へぇ、交換留学ね。それで、それがどうしたんだ?」

慶介の話に食いついた僕は、さらに先を尋ねることにした。

「今日、その留学生が来てるらしいんだ」
「それで、クラスの様子が変だったのか」

この日、クラス中が妙にふわふわと落ち付がない様子だったことが気になっていたのだが、どうやら原因はこの留学生にあるようだ。

「なんでも、珍しいんだとさ。留学生が」
「留学生はアイドルじゃないんだから。まったく、はしたない」
「俺も同感だ」

僕の吐き捨てるような意見に、慶介も賛同する。

「あぁー、高月君は仲間だって信じてたのに!」
「ショック~」

そんな中、それを聞いていたであろう女子たちがブーイングをしてきた。
しかもその中に佐伯さんの姿もある。

「大体あんたら、留学生と会話できてるのか?」
『うっ!?』

僕の言葉に、女子たちは言葉を失った。

「そもそも、僕にとってはどうでもいいことだけど、日本人ははしたない女性が多いという誤った認識を留学生には抱かせてはいけないんじゃないのか? アイドルじゃないんだから、見物にしてみたり写真をパシャパシャとったりサインを求めたりとか」
「すごい、まるで見てきたようだね」

(本当にやってたのかよ?!)

ため息よりも、驚きの方が勝った。

「僕も興味はあるから聞くけど、その留学生ってどういうやつだ?」
「なっ!? この俺を裏切るのか!!」

女子に、留学生のことを尋ねると慶介から今度は抗議の声が上がった。

「裏切るも何も、大挙して押し寄せてサイン攻めしたり、見物にする事がはしたないと言っただけであって、留学生がどういう人物かに興味があるのは彼女たちと同じだと言っているだけだ」
「っく、ここにきて裏切りか」

窓に手をついて、何かのドラマの主役になりきったように、ぶつぶつと喋る慶介に、僕はため息を漏らした。

「どうせ、”自分よりも注目されているのが悔しい”っていうしょうもない理由の嫉妬だろ」
「しょうもない言うなっ! これでも切実なんだぞっ!」
「図星だったんだ」

僕の指摘に、声を荒げる慶介に、僕の席に集まっていた女子の一人がポツリとつぶやいた。

「大体だな! もとをただせば浩介が、平沢さんという天使を――――ガブリエル!?」
「いい加減黙れ」

とりあえず、支離滅裂な言葉を聞くのが面倒になったのでいつものように潰しておくことにした。

「それで、どういうやつなんだ?」
「えっとね、金髪で、とってもかわいい感じだった。まるで王子様みたいな!」
「そうそう。なんだかまるでヨーロピアンみたいな雰囲気になってたもんね」

一人が口を開くと次々に説明を始め、しまいには留学生談義が始まってしまった。

(まあ、とりあえず身体的特徴だけは分かったからいいか)

談義の方には耳を傾けず、僕は必要な情報だけを得るのであった。
ちなみに、この女子たちの留学生談義は、昼休みが終わり先生が教室に来るまで続いていた。
ここまで話に花を咲かせられるのは、ある意味才能ではないかと感じる僕なのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「律ちゃん、オイ―ッス」
「オイ―ッス」

いつものように唯が軽音部の部室を訪れた。

「あれ、浩君は?」
「さあ? 掃除当番とかじゃないか?」

首をかしげながらいまだ来ていない浩介のことを尋ねる唯に、律が相槌を打つ。

「はい、唯ちゃん」
「ありがとー、ムギちゃんいつものようにお茶を入れたムギに、唯は嬉しそうに顔を輝かせながらお礼を言うと、お茶に手を付けた」

そんな、いつもの軽音部の風景画、この後一変することを彼女たちは知らなかった。

「Excuse Me」
「ふぇ!?」

ドアが開いたのと同時に、流暢な英語が唯たちに聞こえた。

「ここは軽音部の部室かな?」
『…………』

金髪に一件女子と見間違えるほどの美形男子の問いかけに、唯たちは固まっていた。

「り、りりりり律ちゃん!? 英語だよ! 英語の人が来た?!」
「違いますよ! 留学生じゃないですか!?」
「お、落ち着け。こういう時は私に任せておけっ!」

突然のことに動揺する唯たちに、力強く告げた律は部室を訪れた男子の前に歩み寄る。

「ハ、ハロー。マ、マイネームイズ……」

片言の英語を話しだした律に、固唾をのんで見守っていた唯たちがズッコケた。

「あーえー……ココ、ケイオンブ、デスカ?」

だが、それでも律たちの慌てている理由が伝わったのか、片言のたどたどしい日本語ではあるが、問いかけた。

「い、イエス!」

それに反応したのは、先ほどまであたふたしていた唯だった。
その答えに、男子の表情が明るくなる。

「それじゃ、ここにコウスケと言う人物はいるかい!?」
「へ?」

男子の口から出てきた意外な人物の名前に、澪が声を漏らした。

「浩介君とお知り合いですか?」
「うわ!? ムギちゃんも英語になった!?」
「ですから、英会話をしているだけです」

突然英語で会話を始めたムギに、驚きをあらわにする唯に項垂れながらツッコみを入れる梓。
そんな中、ドアの開く音が彼女たちの耳に入ってきた。

「何だなんだ? ものすごく騒々し―――」

中に足を踏み入れながら、呆れた口調で声を上げる浩介は、男子生徒の姿を見ると目を丸くして言葉を失った。

「ま、まさか……お前」

そして、目を瞬かせながら浩介はその人物の名を口にするのであった。

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