健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第101話 参加!

あれからしばらくして、突然の事態に混乱していた僕たちは社長やMRたちの尽力のおかげで、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。
混乱している最中に、何か変なことを口走っていないかどうかが気になったが、今はそのことはどうでもいいだろう。

「とりあえず、落ち着いたかな?」
「ええ。何とか」
「はい」

僕は申し訳なく思いながら、社長の問いかけに頷きながら答えた。

「それにしても、こ……DKって事務所に所属してたんだな」
「私も知りませんでした」

一瞬浩介と呼びそうになった澪と梓は、驚いた様子で感想を漏らすが。

「オフィシャルサイトに書いてあるんだけど。『チェリーレーベルプロダクション所属』って」
「「うっ!?」」

ちなみに、このことはH&Pのオフィシャルサイトのメンバー紹介のページでしっかりと書いてあるので、知っていて当然だと思っていた。
だからこそ、唯たちの驚く姿を見た僕も驚いていたのだ。

「それで。僕は聞いてないぞ。彼女たちが次のライブの参加者だなんて」
「そりゃそうだろ。言ってないからな」

僕の追及に、YJは悪びれるどころか堂々とした態度で答えた。

「それに、当選に賛成したのはDKですよ」
「卑怯じゃないか? バンド名のことを伏せて決めるというのは」

RKが全くもって正しい言葉を投げかけてくるが、僕は追及の手を緩めない。
何よりも問題なのは、バンド名を隠して採決を取ったことだ。
ある意味詐欺師並みのやり口だった。
……それに何の疑問も抱かずに引っかかる僕にも問題ありだけど。

「だが、DKはそれでも賛成した。今更取り消しだとか言わないよな?」
「……………」

MRの切り返しに、僕は何も言えなくなってしまった。
完全に僕の負けだった。

「はっきり言うと、今回のライブに参加するのは反対だ」
「なぜ!?」

僕の言葉に、律が答えを求めてくる。

「君たちはまだ僕たちのライブに出られるレベルに達していない。そんな状態でライブに出したら僕たちはいい笑いものだ」

いくら新生バンドとはいえ、観客たちにとっては”あのH&Pが選んだバンド”という認識なのだ。
下手な演奏をするようであれば双方にとって不名誉なこととなる。
それだけは何が何でも避けなければならなかった。

「そんな言い方はひどいです」

僕の答えた理由に、梓が非難の言葉をあげる。

「と、思ってたんだけど」
「え?」

だが、僕の言葉は終わっていない。
梓の言葉を受けて、僕は静かに言葉の続きを口にする。

「この間の大みそかライブを見てその考え方は変わった。だから、今の僕ならば皆がライブに参加することを心の底から賛成できる」
「……っ!」
「ありがとう、浩君!」

やわらかい笑みを浮かべながら告げた僕の言葉に、唯は嬉しそうな表情でお礼を言ってきた。

「ただし、このライブは5人だけで演奏しなければいけない。そのことを承諾すること。これが僕の出す参加の条件」
「どういうこと?」

僕の言わんとすることが伝わらなかったのか、ムギは首をかしげながら詳しく聞いてきた。

「僕は放課後ティータイムのメンバーでもあり、H&Pのメンバーでもある。でも、僕はDKとしてステージに立っているから、放課後ティータイムの一員で演奏をすることは無理なんだ」
「ということは、浩介先輩抜きで……」

僕の話を理解した梓はポツリと言葉を漏らした。

「遠慮はしないでいい。僕は納得済みだし、それに例え一緒に演奏ができずとも僕は放課後ティータイムの一員であることは変わらない」
「…………」

それは僕の本音だった。
少しの間、みんなは口を閉ざしていたが、

「それじゃあ……」
「参加するぞー!」

口を開いた梓に続いて律が声を上げた。

『おー!』

(ここ、事務所なんだけど)

心の中でツッコみながら、視線を社長たちの方に向ける。
社長や他の皆も苦笑しながら肩を竦めていた。

「それじゃ、具体的な話に入ろうか」

頃合いを見計らって、僕は唯たちに声を掛けた。

「まずは最終確認だけど、演奏予定楽曲は、選考時に送ってきたリスト以外にある?」
「ないぞ」

僕の問いかけに律が答えた。
それを聞いた僕は、次の質問を投げかけることにした。

「このリスト内に、他人が作曲し尚且つその人から演奏の許可をもらっていない曲はある? ちなみに、ふわふわとかは作曲者はムギという扱いで、僕は作曲者じゃないから」
「だったら、無いかな」

澪の返答を聞いた僕はさらに続ける。
とはいえ、ほとんど問題はないのは知っているのだがこれも形式的な質問だ。

「ライブに出る際に、名前は本名で大丈夫か? 希望すれば偽名でも可能だけど」
「はいはい! それじゃあずにゃんはあずにゃんで、澪ちゃんは澪ちゃんで、ムギちゃんはムギちゃんで、それから―――」
「分かったから、唯はちょっと黙っててね」

僕の疑問に右手を挙げて偽名の案を口にする唯の肩に手を置いて律は頷きながら止めた。

(あれも天然が故か? 狙っているとしか思えないレベルなんだけど)

あれが偽名ならば、僕はDKから浩君に改名している。

「本名でいいから。偽名だと収集つかなさそうだし」
「えぇ~。偽名良いじゃん。かっこよさそうで」
「それじゃ、本名での参加で……後はこのプロジェクトの概要を説明するとしようか」

唯の言葉を切り捨てるように、僕は話を進めた。

「この企画は後半の1時間という時間を使う企画。あらかじめ登録してくれた曲を演奏するというシンプルなもの。コンテストでもないから、心置きなく演奏をしてもいいし、MCや構成もすべて自由に決められる」
「おぉ~。太っ腹どすなー」

僕の話を聞いた唯が、お茶を飲みながら和んだ口調で相槌を打った。

「この企画では、お互いの演奏曲のトレード……つまり、放課後ティータイムの曲と僕たちが演奏する曲を交換して演奏することが恒例となっているんだ」
「……………」

僕の説明に、目を瞬かせるだけの律の反応に、僕は理解していないことを把握した。

「例をあげると、僕たちが『ふわふわ|時間《タイム》』を演奏したら、唯たちは『Leave me alone』を演奏するという感じだ」
「な、なるへそ~」

分かりやすく例を取り上げたところで、ようやく律は納得したようだった。

「僕達の方はこの『ふでペン~ボールペン~』を演奏しようと思うんだけど、そっちはどう?」
「私は別にそれで構わないけど………」
「私も」
「私もです」

律の視線に促されるように唯たちも賛同していく。

「そして、僕たちがそっちに演奏してもらいたい曲は、これ」

そう言って、僕は予め用意しておいたCDを律たちの前に置いた。

「えっと……『Colors』?」

CDのラベルに書いてある曲名を、怪訝そうな表情で読み上げた。

「僕たちが作曲したわけじゃないけれど、クールな感じでかっこいい曲調が特徴の曲だよ」
「何だか難しい曲のような気がするんですけど」

僕の説明で感じ取ったのか、梓の言葉は実に的を得ていた。
この曲は音の上下が激しい曲だ。
全体的にも難しい曲だが、それは『Happy!? Sorry!!』でも同じこと。
しかもこの曲も演奏予定の曲目に書き添えられている。
ならば、僕の選曲した『Colors』も十分演奏することは可能だろう。

「確かに、少しばかりレベルは高いだろうね。でも、この曲を見事に演奏しきればみんなのレベルは一段階上がることを意味している。早い話がやってみろと言うことだ」

何事も挑戦あるのみ。
やる前から諦めていればそれは成長の停止にもあたると僕は思っている。
まあ、失敗してしまうとダメージが大きくなるのが欠点だが。

「これは、僕からの『放課後ティータイム』に対する挑戦状だ。受け取ってもらえるか?」
「やろう!」

僕の言葉に、声を上げたのは唯だった。

「大丈夫だよ。だって、大みそかのときだってちゃんとできたんだもん! きっとうまくいくよ!」
「唯………そうだな。大みそかの時も無理だと思っていたのができたんだもんな」

唯の言葉に、律は目をいったん閉じるとその眼を開いた。
そこには不安の色は全く感じられなかった。

「浩介の挑戦状……」
『受け取らせていただきます!』

先ほどまで腰かけていたソファーから立ち上がった律たちは、力強い目で僕にそう言葉を返した。

「そうか。この曲の演出はこっちで指定するから、そっちは僕たちが演奏する『ふわふわ|時間《タイム》』の演出を考えておいて」
「分かりました」

僕の申し出に、相槌を打ったのは梓だった。

「それと、ライブまでの1週間。僕は軽音部での部活を休む」
「え?」
「少し言葉が足りなかったかな。正確にはライブまでは僕は演奏をしないという意味だ」

僕の言葉に驚きと悲しげな表情を浮かべる唯たちの様子に、僕は慌てて補足説明をする。

「なんだ。そう言うことか」
「でも、どうして高月君は演奏をしないの?」

全員が納得する中、疑問を投げかけてきたのは、これまで静かに話の流れを見守って来ていたムギだった。

「………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ」
「浩君?」
「なんでもない。アドバイスぐらいはするし、ちゃんと部室にはいくけど練習には加わらない。僕抜きでちゃんと練習をすること」

一瞬の表情の変化に、唯は不思議そうに首をかしげて声を上げたが、僕は首を横に振ると再度律たちに説明をした。

「一週間後、会場には17時入り。出番は19時から。楽屋には会場の様子を中継するテレビがあるから、それでライブの模様を見るのもいいし、練習をするのもいい。それは唯たちの自由」

そして僕は当日についての説明に話を移した。

「ねえねえ、お菓子とか持って行ってもいいの?」
「別に制限はしないけど、お手洗いには行けなくなることを考えるように」

バンドメンバーで一番のネックはお手洗いだ。
途中に挟まれる休憩は、文字通りの休憩とお手洗いに行くという意味もある。
演奏中にお手洗いに行くというのは演奏家としては腕前以前の問題だ。
なので、僕たちの場合は開幕2時間前から水分以外は摂取しないようにしている。
ちなみに、大みそかライブの時、僕は紅茶は飲んだがお菓子は一切口にしていない。

「何事も常識の範囲内で」
「はーい。うーん、それじゃケーキと……うんめぇ棒を」

全く分かっていない唯に、僕はため息を漏らすことしかできなかった。










「ふぅ……」

自宅に戻った僕は、静かに息を吐き出した。
別に疲れているからではない。
体調も万全だ。
ただ、それ以上に精神的な疲れが多かった。

『………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ』

あの時、ムギの問いかけに答えた僕の言葉。
それは、僕の本心の理由だった。
あの言葉に僕は嘘偽りはないと断言してもいい。
だが、それだけが理由なのかと言われれば、それは嘘になる。
演奏に加わらないのは少なからずもう一つ別の理由もある。

「どうしたものか」

僕の視線の先にはテーブルの上に置かれた一通のエアメールがあった。
宛名はローマ字表記で僕の名前が書かれている。
封はすでに切っており、中身は確認済みだ。
別にエアメールが嫌なわけではない。
問題はその中身だった。

「どっちにしろ、ちゃんと話さないとね」

もう僕の中で答えは出ていた。
だが、それを唯たちに話す勇気がなかった。
話してしまえば、唯を悲しませる結果になるのは目に見えているからだ。
何かきっかけでもあれば、あるいは……

「まったく、僕の優柔不断なところは未だに治らず、か」

まあ、異性と付き合ったことがないのだから当然かもしれないが、ここまで来るともはや清々しく思えてしまう。

「近いうちに話さないと」

タイムリミットはあと半年。
それ以降は送り主にも迷惑をかける事態になりかねない。
それに何よりも

「今は一週間後のライブのことに集中しよう」

目先に控えたライブに向けて頑張る皆に水を差すようなまねはしたくなかった。
それがいいわけであることも重々承知している。
だが、放課後ティータイムの一員として、唯の恋人として僕はどうしてもこの時期に言うことはできなかった。

「でも、このままではいかないよね」

いずれそう言うことを話さなければいけない状態になる。
いつまでも放置しておくわけにはいかなかった。

「とにかく、今日から一週間は気合を入れよう!」

僕は自分にまとわりついてくる問題をいったん置いておくことにした。
ライブまで残り一週間。
どのようなライブになるのか。
それを楽しみにしながら、僕は眠りにつくのであった。

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第100話 訪問!

あれから数週間の時が過ぎて、ライブまで残り2週間となったある日のことだった。

「平沢さんたちがおかしい?」

昼休み、僕の切り出した相談事に、慶介は昼食(この日はお弁当)を口にしながら首をかしげた。

「ああ。最近妙にそわそわしたり内緒話をしたりしてて、あれは絶対に何かを隠しているような気がするんだ」

この間は僕の姿を見ただけで、まるで幽霊を見たかのように驚いて飛び跳ねていたし。

「ムムム…………はっ。まさか、浩介の誕生日が近いとか?!」
「残念ながら違います。というか僕の誕生日先月だし」
「それは残念だ」

慶介の名推理(?)は見事に外れた。

「ちなみに、いつだ?」
「1月1日」

父さんが言うにはあと少し早ければ12月31日だったのだとか。
まあ、僕的にはどうでもいいが。

「す、すげえじゃないか!」
「……何が?」

なぜか興奮した様子の慶介に、僕は首をかしげながら尋ねた。

「だって、ほんの一週間でケーキをまた食べることができるんだぞ! プレゼントだってもらえるんだぞ!」
「ところがどっこい。正月にケーキを食べるような家はどこにもないし、プレゼントももらえない。学校だって休みだから明けおめメールはもらえても、誕生日のお祝いのメールはもらえない。どこもいいところなんてないさ」

ちなみに、故郷にはちゃんとお正月という風習があるし、クリスマスという概念もある。
これまで、そう言ったお祝い事をされた覚えは一度もなかった。

「だったら、全世界の人が浩介をお祝いしているって思えばいいじゃないか。それに、来年は俺もお祝いのメールを送ってやるから」
「唯だけでいいからいらない」
「くっ! これが持つ者の余裕かっ!」

意味の分からないことを叫ぶ慶介に、僕は心の中でため息をついた。

「それじゃ、浩介がセクハラまがいのことを――「ほら吹くのも大概にしろよ?」――はい、すみませんでした」

慶介の全く違う答えに、どすを聞かせて止めた。

「もういい。時間が解決するだろうから。放っておく」
「なんという単純明快な解決法」

本来であれば心を読めばいいだけの話だが、あれはあまり使いたくはない。
むやみに使うのはこれまでの関係を壊すことにもなりかねないからだ。

「でも、もしかしたら平沢さんは浮気をしてるのかもしれないぜ?」
「………ん?」

慶介の言葉に、僕の手が止まった。

「ほら、平沢さんってとってもかわいいからさ。言い寄られて……的なことだったらどうす―――」
「その時は、そいつとお話をして決める」

言葉は普通だったが、心の中は尋常ではないほど怒り狂っていた。

「強引に彼女と付き合っていた時は……」
「時は?」
「潰す」

慶介に促される形で、僕はそれだけを告げた。

(まあ、唯にそんな気配は微塵も感じないんだけど)

隠れてやっていたとしても、僕ならばすぐに気づける自信があった。
それを感じないということは、慶介の言ったことはありえないということになる。

(とはいえ、唯のことでここまでむきになるなんて)

平静を保てなくなるというのは、もしかしてやきもちだろうか?
とはいえ、あまり強くすると引かれるので、自重した方がよさそうだ。

「そ、それで、今日は部活じゃないんだ?」
「ああ。ちょっと向こうの方でね」

話題を変えるように口にした慶介の問いかけに、頷きながらおかずである唐揚げを頬張る。
今日、次のライブでの”NEW STARS PROJECT”の選考で選ばれたバンドが説明を聞くために来るのだ。
中山さんたちの話では、5人の女性と1人の男性で形成されたガールズバンドのようなものらしい。
一体どんな人物でバンドなのかを考えると、楽しくて仕方がない。

「大変だよな、浩介も」
「まあね。ライブが終わったら埋め合わせをするつもりだから」

唯とのデートプランもしっかりと練っている。
本人が喜んでくれれば成功と言ってもいいだろう。

「まあ、頑張れよ。絶対に行くから」
「どうも」

慶介のエールに、僕はそう答えるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


少しだけ時間をさかのぼること数日前のお昼時の、軽音部部室。

「それじゃ、開くぞ」
「う、うん」
「な、なんだか緊張しますね」

浩介を抜いた部員全員が、律の集合の一声で部室に集まっていた。
彼女たちの視線の先……テーブルの上に置かれているのは封が開けられていない『チェリーレーベルプロダクション』という会社名が記された水色の封筒だった。
封筒には『通知書在中』と明記されていたため、中身が何なのかは容易に想像ができた。
ちなみに、この封筒は律の自宅に届いていたが、全員の前で開封すると決めていた律によって開封されなかったのだ。
尤も、一人で見るのが怖いという理由も無きにしも非ずではあるが。
部長であるため、封筒の封を開けた律は、緊張の面持ちで中に入っていたものを取り出した。
中身は三つ折りにされた、一枚の白地の用紙だけだった。
律は震える手で、紙を開いていく。

「ッ!!!?」

そして中身に目を通した律は、突然声にならない悲鳴を上げた。

「どうしたんですか!?」
「も、もしかして、落選!?」

その様子を見ていた梓達が、慌てて律に声を掛ける。

「と………」
「豆腐?」
「当選したぞっ!!」

震える声から一転、喜びにみちた声を上げた。

「う、うそ!?」
「私も見る!」
「私も」

次々と結果の書かれた紙に目を通す唯たちは、そこに記された”当選”の二文字を目の当たりにした。

「し、信じられないです」
「私も、まさか本当に選考に通ったなんて」

驚いた様子の梓の言葉に賛同するように頷きながら澪が続いた。

「でも、これでまたみんなと一緒に演奏ができるね」
「……そうだな」
「えっと、今後のことについて書いてある」

満面の笑みを浮かべながら口を開いた紬に澪が頷き、律は採用通知の方に目を通した。

「何々……『指定日時と時間帯に事務所に向かい、そこで詳細を確認してください』だって」
「それじゃ、浩介には事務所に行く時にこのことを教えるとするか」
「賛成!」

律の案に、唯は素早く賛成の声を上げた。

「それと、昼休みに浩介抜きで練習して、驚かそうぜ」
「それいいね! 高月君めったなことでは驚かなさそうだから、楽しみかも♪」
「私は音合わせで浩介先輩が対応できなくなると思うんですけど」

圧倒的な賛成に梓は控えめに手をあげると、異論を唱えた。

「それに、あまり隠しておくと怪しまれるんじゃないか」
「そこは大丈夫。根拠はないけど、うまくいくって。だって、浩介だし」
「た、確かに……」
「そうだけど……」

律の反論に、澪たちの反対意見も弱くなる。
二人でさえ納得させられる何かを持っているのが浩介のすごいところでもあり怖いところでもあるのだが。
結局、この後二人は押し切られるような形で浩介に隠れての特訓が始まるのであった。
その反動によって、放課後の練習はほとんど0に近くなったが。
そして、唯たちは指定された日を迎える。










「浩介は?」
「今日は用があるから無理だって」

学校の校門前で携帯電話を片手に唯は首を横に振った。

「驚かせる相手がいないんじゃ意味がないじゃないか!」
「しょうがないですよ、H&Pの活動なんですから」
「だから話しておけばよかったんだ」

律の不満に、梓はため息交じりに相槌を打ち、澪はジト目で隠し続けることを選んだ律を見ながら告げた。

「まあまあ。高月君は明日驚かせばいいんじゃないかな」
「それもそうだな」

紬の出した提案に、頷いた律は指定された場所である『チェリーレーベルプロダクション』へと向かうのであった。

「まるで都会みたいだね!」
「都会みたいと言うか、それだと、あそこが田舎町になるぞ」

目的の駅に到着して早々に唯が口にした言葉に、律がツッコミ口調で相槌を打った。

「ほら、バカやってないで早く行くぞ」
「「はーい」」

いつの間にか澪が引率する形で駅を後にしていた。

「唯先輩、もう少ししゃきっとしてください」
「しゃきっ!」

項垂れるように歩く唯に注意をする梓は言葉と共に姿勢を戻す唯を見て何とも言えない表情を浮かべた。

「それにしても、浩介ってライブでも控えてるのか?」
「そうみたいだぞ。2月の中旬に大きなライブをやるらしいから」

律の疑問に澪は即答で答えた。

「どうして、澪ちゃんが浩君のスケジュールを知ってるの?」
「うぇっ!?」

そんな澪に、唯は怒りに染まった目で澪をにらみつけながら問いただした。

「ゆ、唯先輩落ち着いてください。浩介先輩は自分のホームページを持っていてそこで活動について書いてあるんです」
「あ、本当だ」

そんな唯の様子に慌てながらも梓は唯にそのホームページが表示された携帯画面を見せながら説明した。
それは、H&Pの活動予定や、出演情報などが記されたサイトであり、自己紹介はもちろん、Q&Aコーナーなどと充実したコンテンツになっている。
それを知った唯から、怒りの感情は消えいつもの雰囲気に戻っていた。

「ふぅ……」
「それにしても、浩介先輩に関することだとあそこまで豹変するんですね」
「浩介も似たようなもんだけどな」

緊張の糸が切れたのか、そっと息を吐き出す澪を見て梓は意外だとばかりにつぶやく言葉に相槌を打つようにつぶやかれた律の言葉はある意味的を得ていた。
そんなひと騒動がありつつも、唯たちはついに目的地である『チェリーレーベルプロダクション』がある5階建てのビル前へと到着した。

「ここが、事務所」
「意外と大きくないね」
「…………それ、中で言ったらひどい目に合うから言わない方がいいぞ、唯」

事務所を前にした唯の怖いもの知らずの暴言に、律は冷や汗をかきながら注意した。

「とにかく、中に入りましょう」

そんな梓の言葉で、律たちはビルの階段を上っていく。
そして事務所のある3階にたどり着いた彼女たちの前に無機質なドアが立ちはだかる。
ドアの窓ガラスには『チェリーレーベルプロダクション』という文字があり、間違っていないことを唯たちは知ることができた。
律は緊張の面持ちでドアをノックした。

「どうぞ」
「し、失礼します!」

中から帰ってきた男の声に、律は声を上ずらせながら応じるとドアを開けた。

「ようこそ、チェリーレーベルプロダクションへ。『放課後ティータイム』の皆さんで相違はないかね?」

彼女たちを出迎えたのは茶色の背広を身に纏った、ちょび髭の生やした男性であった。
髪は短髪で、整った顔立ちのその姿から醸し出される雰囲気は、ダンディーとも言えなくない。

「は、はい!」
「君たちのことは彼からよく聞いている。今バンドメンバーは外に出ているんだ。時期に戻ってくると思うから、奥のソファーの方に腰掛けて待ってもらってもいいかな?」

男性は、人当たりのいい表情で唯たちに尋ねた。

「は、はい」
「それじゃ、案内しよう」

そう言って、男性は奥の方へと唯たちを案内した。

「どうぞ」
「あ、すみません」

全員が腰かけたところで、男性は人数分のお茶を律たちの席の前に置いた。

「おっと、紹介が遅れたね。私は|荻原 昌宏《おぎわら まさひろ》。ここの社長だ」
「あ、私は―――「君は田井中 律君だったね?」――え? は、はい。そうですけど」

律の自己紹介の言葉を遮るようにして、彼女の名前を呼ぶ昌宏に、律は戸惑いを隠せなかった。

「で、君が中野梓君で、その横が秋山澪君。そして琴吹紬君に平沢唯君だったね」
「あ、あの。私たちどこかでお会いしましたか?」

次々と名前を口にしていく昌宏に、梓は怪訝そうな表情を浮かべながら訪ねた。

「いいえ。ただ、貴女たちのことは”彼”から詳しく聞いていたから」
「彼?」

昌宏の口から出た”彼”という単語に、律は首をかしげながらつぶやく。

「ん? もしかして、彼は君たちに話して―――「ただ今戻りました」―――っと、どうやら戻ってきたようだね」

昌宏の言葉を遮るようにして、ドアが開かれる音と共に聞こえた男の声に昌宏は話を中断させるとドア側から見える位置に移動した。

「なあ、今よく知った声が聞こえなかったか?」
「き、気のせいだよ。きっと」

先ほど聞こえた声に聴き覚えがあった律の問いかけに、澪は冷や汗を浮かべながら答えた。
だが、彼女たちは薄々気づきかけていた。
それを必死に追い出そうとしていたのだ。
その大部分は、信じたくないという理由がほとんどだったが。

「当選者はもう?」
「ええ。こちらに」

さらに聞こえた女性の声に答える昌宏。

「大変失礼した。ちょっとした用事………で」
「え?」

声の主が彼女たちに姿を現せたところで、固まった。
それは唯たちも同じようで、目を瞬かせていた。

「ど、どうして浩介(君)がここにいるの(んだ)!!?」

事務所内がちょっとした騒ぎに包まれるまで、それほど時間はかからなかった。

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第99話 応募!

新学期も始まり、いよいよ学期末に向けて走り出した僕たちであったが、この時期は僕はいろいろと忙しかった。

「今日も浩介はまっすぐ帰るんだ?」
「ああ。本当に最近忙しくて困るよ」

HRも終わり手早く荷物をまとめた僕は、慶介に相槌を打ちながら鞄を手にする。

「でも、それも今日で終わりだろ?」
「まあね。厄介なことが終わるから」

慶介の問いかけに答えた僕は、そのまま駆け出すように教室を出ると学校を後にするのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


時をさかのぼり、新学期が始まって少し経った日のこと。
この日も軽音部の部室ではティータイムが繰り広げられていた。

「浩介も大変だよなー。ライブの準備で休むだなんて」
「でもライブって来月なんだよね? なのに、どうして準備を始めてるの?」

ひと月前からの準備に、首をかしげる唯に、声を上げたのは梓だった。

「それは当然ですよ! セッティングや音響確認の打ち合わせとかいろいろ大変なんですから!」
「しかも、浩介はバンドを引っ張っていく影のリーダー。責任だってあるんだぞ!」
「み、澪ちゃんも!?」

梓に続いて澪までもが声を荒げたことに驚く唯。

「澪はDKのことが絡むと人が変わるからな~」
「梓ちゃんもね」

からかいの意味を込めた視線を澪に送りながら相槌を打つ律に、紬も続いた。

「あ、すみません」

ふと我に返った梓はしゅんと小さくなって謝った。

「でも、この間のライブ楽しかったねー」
「そうだな。いい経験だったよな」

唯の感想に、澪も頷いた。
大みそかに開かれた、ライブハウスでのライブは彼女たちにいい影響を与えていたようだ。

「そんなあなたたちに朗報よ!」
「にゃ!?」
「うわ!? いつの間に……」
「あ、お茶入れますね」

梓の横から大きな声で叫ぶさわ子に、驚きをあらわにする梓達。
尤も、紬は驚くこともなく落ち着いていつものように、お茶を入れるべく立ち上がったが。

「ありがとね。ムギちゃん」
「いいえ」

いつもの席(浩介と梓の机の横の部分)に腰掛けたさわ子は、紅茶を淹れた紬に労いの言葉をかけた。

「それで、朗報って?」
「あ、そうそう。さっきネットでこんな催しを見つけたのよ」

律の問いかけに思い出したのか、さわ子は得意げな表情で告げるとどこからともなく一枚の紙を取り出した。
それはサイトの内容をそのまま印刷したものであった。

「えっと……『NEW STARS PROJECT』?」
「これって、一体……」

そこに記されていた名称に首をかしげる唯たちに、さわ子はにやりと笑みを浮かべた。

「腕はいいけど、デビューの場がない。ライブをする場所や機会もないという人たちに光を当てるための企画らしいわよ。有名バンドとの合同ライブという形にはなるけど所定の時間は参加希望バンドだけで、ライブができるのよ」
「へぇ……」

興味を持った律は、印刷された用紙に目を通し始めた。

「これまでは15分という短い時間だったけれど、今回はそれが4倍の1時間まで拡張された」
「おぉー、それはすごいどすなー」

4倍という数字に、唯が感嘆の声を上げる。

「1時間の使い方や曲の構成は自由。しかも、なんと! オリジナルの楽曲を相手のバンドの人に売ることもできるという特典付きっ!!」
「誰?」

興奮のあまりに、席を立ちあがって力説するさわ子に律が目を瞬かせながらツッコんだ。

「あ、書いてある。曲の演奏契約を結ぶことによって、契約バンドへ演奏するごとに演奏料を支払うんだって」
「参加方法は?」

紙に目を通していた澪に、紬が疑問を投げかけた。

「えっと、演奏した楽曲を下記住所に送付するだけだって。あとは選考があって、採用なら連絡が行くらしい」
「選考ってあるんだね」
「それはもちろんよ。新人バンドにとってみれば、一躍有名になれるチャンスだからね。応募者が増えるのは当然。倍率はかなり高いわよ。それに、有名なバンドも自分たちの看板を汚さないようにある程度のレベルは求めるだろうし」

唯の言葉に、再びさわ子が説明を始めた。

「どうする? これに出てみるか?」
「私は賛成」
「私もです」
「一応、応募するくらいなら」
「賛成~」

律の問いかけに、全員が賛成票を入れた。

「それじゃ、応募ということで。あ、どうせだから浩介には内緒にしておこうぜ」
「そうだね! 浩君をびっくりさせてみたいもんね!」

そんな律の提案に、唯が真っ先に食いついた。

「……全く」

そんな二人にため息をつく澪だったが、すぐに紙の方に視線を落とす。

「えっと、応募資格で下記事項にあてはまる方は応募できないって」
「どんなどんな?」

澪の言葉に、唯たちは澪が見えるようにおいた紙の方に集まる。


―――応募資格―――

・以前に当企画に参加したことがある者(選考落ちを除く)
・当企画の参加権を応募者の落ち度で剥奪された場合
・応募者の中に一名でも18歳に満たない者がいる場合(ただし部活動などの正規活動であり、なおかつ学校名や部活動名を明記し、監修者である顧問の承認を証明する書類が添付されている場合は可とする)
・当企画に応募する以前にライブを開いた場合、または応募から企画出場までの間に開く場合(部活動や合同ライブなどは除く)
・コピーバンドの場合(1曲でもオリジナル楽曲がある場合は除く)

――以上――


「うへぇ、厳しいなぁ~」
「それだけしっかりとしてるってことだな」

応募資格の一覧を読み終えた律のため息にも似た言葉に、澪が相槌を打つ。

「でも、応募ってどうやってするんでしょう?」
「そう思って、書類を作っておいたわ!」

梓の疑問を予想していたのか、にやりとほくそ笑むと再びどこからか一枚の紙を取り出した。
そこには”応募用紙”と書かれていた。

「それじゃ、梓書記な」
「別にいいですけど」

まるで流れ作業のように梓にゆだねた部長の律に、梓は複雑そうな表情を浮かべるものの、鞄から筆記用具を取り出した。

「えっと、バンド名は放課後ティータイム……この責任者住所ってどうするんですか?」
「バンドの責任者って、順当に考えると部長のはずだから律の住所でいいと思う。住所の方は私が書くから、貸してもらってもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」

住所を書く項目で手が止まった梓に、澪はそう口にすると梓からボールペンを受け取り、律の家の住所や連絡先を記載していく。

「バンドメンバーの氏名住所を書かないといけないみたいだから、みんなも書いて」

先に書いたのか、澪はそういいながら隣に座っていたムギに応募用紙を渡した。

「それじゃ……」

ムギはボールペンを受け取るとさらさらと必要事項を明記していく。

「はい、梓ちゃん」
「あ、ありがとうございます」

ムギから応募用紙とペンを受け取った梓は、お礼を言うと再び必要事項に記載していく。

「最後は唯先輩ですね」
「ありがと~」

最後の唯も必要事項に記入を済ませた。

「えっと、最後は楽曲情報ですね……えっと、これ全曲書いていくんですよね?」
「そうみたい」

応募の仕方の紙に目を通していた澪が頷いた。

「演奏する曲目が決まっていればその曲を。そうじゃない場合は自分の持ち曲を全部書き出すんだって。その際に作詞作曲者も記載すること」
「えっと、それじゃ、まずはふわふわ|時間《タイム》ですね」

こうして、梓たちは自分の持ち曲を書いていく。

「ふぅ。やっと終わった~」
「こうしてみると、少ないですよね」
「確かに」

梓のつぶやきに、律が頷く。
書き上げられたのはわずか6曲分だった。

「あ、でも参加者には一~五曲の楽曲の演奏課題が与えられるそうですから、大丈夫だと思います」
「後はMCとかで時間が削れるだろうし」

応募用紙に記載されていた内容を、梓が告げたことで、問題はとりあえず解決となった。

「後は、承認を証明する用紙を――「それならあるわ!」――ほ、本当に手際がいいな」

律の言葉を遮って書類を取り出すさわ子に、律は目を瞬かせながら口を開いた。
そんなこんなで、応募用の書類が出来上がり、これまたさわ子が事前に用意していた茶封筒に応募用の書類一式を入れて封をした。

「よっしゃ、帰る時にポストに投函しようぜ!」
「あ、投函するのは私がやってもいい? 昔から郵便物を投函するのが夢だったの!」
「うん、いいよー」

律の言葉に、手を上げて懇願する紬に、満面の笑みを浮かべながら唯が答えた。

「選ばれるといいね」
「そうだな」

そんな希望に胸を躍らせるようにして、彼女たちはお茶に口をつけるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「おはようございます」
「おう、今日はオフモードか」

事務所に入ると、僕の姿を見たYJがつぶやいた。
オフモードというのは変装などを一切していない状態のことを指す。

「オンにした方がいいならするけど?」
「いや、そのままでいい。今日は最終選考だからな」

YJの返事を聞いて、僕はソファーに腰掛けた。
テーブルの上には最終選考にまで上り詰めた5組のバンドがピックアップされていた。

「それじゃ、それぞれの組の提出した音源を聞いた結果、どこが相応しいか。一人ずつ言っていこうか。まずはMR」
「この中にはないね。どれも曲はいいが、パンチに欠ける」

YJに促される形でMRは首を横に振りながら答えた。

「僕も、ちょっと”これだっ”というものは」
「私もです」
「俺もだ。浩介はどうだ?」

ROやRKに続いてYJが答えると、こちらの方に振ってきた。

「僕も同意見。よさそうではあるが、いささかパンチに掛ける。盛り上がらなければ、それは失敗だ」

満場一致で不合格という結果になった。

「しかし、どうするんだ? このままだとプロジェクトの参加団体がいなくなるけど」
「それは心配には及ばない。俺たちの方で極上のバンドを見つけておいた。浩介以外の全員がそいつを合格にしている」

僕の疑問に返ってきたのは、意外なものだった。

「そうだったのか。僕は何も知らないが?」
「ちょっと事情があってな、俺達だけで選考を進めてたんだ。浩介がどうしても嫌だと言うならそこも落とすが、どうする?」

真剣な面持ちで投げかけられたYJの問いかけに、僕は頭の中で考えをめぐらせる。

(プロジェクトがご破算になるくらいなら、乗ってみてもいいか)

それに、僕以外の皆が満場一致で合格にしているのだから、間違いはないだろう。

「僕の答えは決まっている。みんなの耳を信じるよ」
「よし。それじゃ、そのバンドへの通知はこっちの方でするから、不合格通知の方を浩介の方でやってもらっていいか?」
「分かった」

YJの指示に頷いた僕は、さっそく落選した5組のバンドに不合格通知を作成して発送手続きに入るのであった。
だが、この時気付くべきだった。
皆が企んでいることを。










「浩介、今日も……またですか」
「そう言うこと。まあ、今日は家の掃除だから。例の関係で散らかってるから片づけようと思って」

翌日の放課後、ジト目で話しかけてくる慶介に、僕は苦笑しながら答えた。
本当は先日ですべてが終わっているはずなのだが、1次と2次選考の時の参考資料がまだ散らばっている状態なので、今日はそれを片づけようと思っていたのだ。

(後、壊れかけた棚の修理も)

いい加減、歩いただけで崩壊する食器棚を何とかしたかったため、僕はついでにということで食器棚の修理を一緒にすることにしていたのだ。

「本当、大変だよな浩介」
「全くだよ。おかげでここ最近唯とも話せてないし」

話せるのは昼休みのほんの数十分だけ。
そう言う意味では唯には非常に申し訳ないことをしているような気がするが、これも今日までの辛抱。
明日からはたっぷりと唯と話をすることにしよう。

「くそぉ~。こうなったらアタックをかける!」 

僕の言葉を聞いた慶介は悔しげに声をあげると、なぜかそんなことを言い出した。

「浩介、見ててくれ! この俺が成功する姿を!」
「はいはい」

拳を握りしめ、宣言する慶介に適当に返事をする僕のことを気にした様子もなく慶介はたまたま近くを歩いていた佐伯さんの方に声を掛けた。

「佐伯さんっ!」
「な、なに!?」

大声で叫んだため、飛び上がるほど驚いた様子で慶介の方に振り向いた。

「この俺と忘れられない素敵な一夜を共にしないか?」
「お断りします」

ダンディな声色で誘った慶介に、佐伯さんは清々しいほどきっぱりと断りを入れた。

「………っ!?」
「じゃあね」

一瞬で石と化した慶介に、佐伯さんはそれだけ告げると教室を去っていった。

「慶介。大丈夫だ。お前にも春は来るさ」

慶介の肩に手を置いて、僕は思いつく限りの励ましの言葉を贈る。

「ぢぐじょう~。それが一番頭にくるっ!」
「………じゃあ、勝手に固まってろよ」

じたばたじたばた暴れる慶介に、僕は冷たい視線を送りながら突き放すと立ち去ろうとした。

「のわっ!?」
「行かないでくれ! 無視しないでくれ!!」

いきなり足にしがみついた慶介によって、僕は勢い良く地面に倒れた。

「…………ふんっ!」
「ぎゃごっ!?」

僕はそんな慶介に向けて捕まれていない足で勢いよく蹴り飛ばした。

「何しやがるッ! 一生そこで眠ってろ! このタコ野郎!!」

慶介に罵声を浴びせた僕は、そのまま教室を後にするのであった

「クク……浩介のキック……いつもより、強い――――ガク」

教室ではそんなことを呟いて沈む慶介の姿があったとか。

拍手[1回]

第98話 去る年、来る年

時刻は午後1時51分。
なんだかんだあって何とかセッティングシートを書き終えた僕たちは会場の観客側の方に立っていた。
ステージの方で行われているのはリハーサルだ。
他のバンドのリハーサルを見るのは様々なところで為になる。
例えば、どのような音作りをしているのか、どのようなエフェクトを使っているか等々例を挙げればきりがない。

「うわぁ、すごいエフェクターの数です」

梓はエフェクターの数に、律はマイクの方に関心を持っているようだった。
人が違えば関心を持つ方向も違うようだ。

(あれ? そういえば、唯はどこに……)

「ねえねえ律ちゃん、浩君。お菓子が売ってるよ~!」

そんな時、唯のはしゃぐ声が響き渡った。

「あ、これはCDだ。私たち売るもがないよね~」
「…………」

唯の言葉がものすごいとげとなって突き刺さってくる。

「あずにゃん、これに私たちは移るんだね! すごいすごい~」

大はしゃぎしている唯だが、僕たちは恥ずかしさでいっぱいだった。

「律」
「おおっ」

僕の呼びかけに、律は意味をくみ取ったのかすぐさま唯を抱えた。

「はいはい、外に出ましょうね」
「えぇ~、律ちゃん?!」

律によって強引に外に連れ出されていく唯とともに、澪たちもそそくさと退散していく。

「皆さん、どうもお騒がせしました~」

僕は会場にいる全員に謝りながら、会場を後にするのであった。










「ねえねえ、『放課後ティータイム様』だって!」
「分かったから、落ち着け」

未だに興奮冷めやらぬと言った感じではしゃぎ続けている唯を落ち着かせた。

「お茶にしない?」
「…………」

(ある意味ムギもすごいかもしれない)

なぜかバスケットに飲み物(おそらくお茶だろう)が入った水筒を手にしているムギに、僕は心の中でそうつぶやいた。
そんなこんなで僕たちは、いつものお茶会をすることになった。

「はぁ~、落ち着く」
「やっぱり、これだよな~」

落ち着くことには成功したが、これはこれで落ち着きすぎな気もする。

「良い匂い~」
「おいしそうだね」

そんな中、僕たちに声を掛けてきたのはリハーサルを終えたのか、ラブ・クライシスのメンバーと、セッティングシートのアドバイスをしてくれたばかりか、シートそのものを貸してくれたバンドの人たちだった。

「皆さんもご一緒にどうですか?」
「え? ……それじゃ」
「お言葉に甘えて」

ムギの予想外の提案に、一瞬戸惑いを見せた彼女たちだったが、頷くことで答えるのであった。
こうして、お茶会は予想に反して大きくなった。

「へぇ、それじゃ色々なコンテストに応募してるんですね」
「なかなか入賞しないんだけどね」

お茶がてら、僕たちは緑色の髪を伸ばしている女性たちの話を聞いていた。
なんでも、音楽を始めたが、いまだにコンテストで入賞する機会がないとのことだ。

「それでも、諦めないよ」
「そうだよね、諦めたらそこですべて終わりだもんね」

女性の言葉にラブ・クライシスのマキさんが続く。
外見は全く違うが、彼女たちの共通点は一つ。
彼女たちは、音楽が純粋に好きなのだ。
だからこそ、入賞できなくても音楽を続けていられる。
もしかしたら、それこそがミュージシャンとしての素養なのかもしれない。

(何か僕は重要なことを忘れていないか?)

待ったりとした時間が流れる中、僕はそんな疑問にさいなまれていた。

「放課後ティータイムさん! リハ、お願いしますよ!」
「あ……」

スタッフの人の言葉で、ようやく僕は忘れていたことが何かを思いだした。










スタッフの人に急かされる形で、僕たちは急いで会場の方に向かいセッティングを始めたのだが……

「ま、ままず何から始めればっ」
「セッティングだよっ!」

あたふたとしている唯に、同じく動揺している律が答えた。

(そう言えば、初めての外でのライブだったよね)

忘れていたが、これが彼女たちにとって初めての学園外で行うライブ。
ならば、ここまでテンパっているのも納得だ。

「そ、そうねっ!!」
「誰に言ってるんですか!」

誰もいない柱に向けて受け答えするムギも十分にテンパっていた。

「こら回るなっ! というか僕にリード線を持たせてどうする気!?」

テンパっているのが極限に達したのか周りをぐるぐるとまわり始める梓達を落ち着かせようとするが、なかなか落ち着かない。

(だ、大丈夫か?)

とてもじゃないが不安になってきた。

(というより、これはネタだよな?)

なぜか僕の服のポケットにツッコまれたリード線に、心の中でつぶやいた。
僕はとりあえずリード線を、ぐるぐる回る梓の手の中に一瞬のすきを狙って戻した。

「それじゃ、お願いします」
「は、はい!」

そんな状態も女性の一言で収まった。
その後は早かった。
セッティングも終わり演奏準備を整えた。

「そ、それじゃ……2曲目のふわふわを1コーラス、いきますっ」

律の宣言の直後、リズムコールが行われ唯がギターの音色を奏で始めた。
不安していたが、緊張の割にはちゃんと曲が演奏できている。
ただ若干音が堅いが。
そして、セッティングシートで明記した希望通りに、ミラーボールが動き出した。

「唯、歌っ」
「え? あっ?!」

ミラーボールに気を取られ、ボーカルを忘れている唯に一喝すると慌てた唯はマイクを顔にぶつけた。
ハウリング音が鳴り響く中尻もちをつく形で唯が倒れそうになるのを、僕は何とか片手で受け止めた。
だが、いったん崩れると止まらないのが世の定め。

「大丈――――」
「澪先輩!?」
「澪ちゃん!?」

慌てて駆け寄ろうとした澪がいつぞやのライブと同じように何かに足を取られたのか地面に転んだ。
さらにそれを防ごうとした梓とムギも続くようにこけた。

「お、落ち着けっ」

雪崩形式でダメになっていく典型例だった。

「大丈夫! 大丈夫!」
「しっかり落ち着いてもう一回!」
「がんばってー」

そんな僕たちに声援を送ってくれたのは一緒に参加している他のバンドのメンバーだった。
このライブは僕たちだけのライブではない。
ライブ自体を成功にさせるには、僕たちやこの場にいるバンドメンバーたちの頑張りが必要なのだ。

「……皆、もう一回!」
『おー!』

僕は唯たちに声を掛けて、もう一度リハをすることにした。
先ほどの大失敗で何かが吹っ切れたのか、今度はしっかりと演奏をすることができた。
そして、ついに大みそかライブの幕が開いた。

「それじゃ、頑張るぞ」
「お、おー」

ついに本番を迎えた僕たちは、再び気合を入れた。
澪の方も気合は入っている。
そして僕たちは薄暗いステージに出た。
全てのセッティングは終わっており、演奏の準備は万全だった。
曲の入りは律のシンバルの音が合図だった。
一気に照明が灯り、僕たちを照らし出す。
テンポが速く、難易度も少し高めだがそれでも唯たちはちゃんとそれを弾いている。
僕もバッキングコードではあるが、唯のボーカルに合わせて唯のボーカルをつぶさないように注意をしながら弦を弾き、ときにはリズムパートを弾いている梓と合流したりする。
それが、僕たちなりの演奏スタイルだった。
早いテンポでメリハリが弱い曲調に、唯の甘い歌声がうまい具合に合わさる。
この曲のボーカルは唯が一番しっくりと来ていた。
そしてこの曲一番の難所でもある間奏でのリードギターのソロがやってきた。
最初は伸ばしめで、後半は速弾きにも近いスタイルでの演奏を求められる。
僕と梓はただ音を伸ばすだけで簡単だが。

(本当に本番の時はいい演奏をするんだよな)

難なくソロを乗り越えた唯に、僕は心の中でつぶやいた。
ソロさえ乗り越えれば後はサビの部分のリフなので、難易度も高くなくなる。
そして唯のギターの音色で、この曲は無事に終わった。

「どうもー! 放課後ティータイムです!」

曲のあとにMCを入れたのは、僕の意見だった。
最初よりも、しょっぱなから曲にした方がインパクトが強くなるような気がしたのだ。
決して、僕がそう言うのが好きだというわけではない。

「私は、メインボーカルでリードギターの平沢唯です!」

MCの際の照明希望通り、唯にスポットライトが当たる。
そして拍手が送られる。

「そして、サイドボーカルでベースの秋山澪ちゃん」
「ど、どうも」

唯の紹介に澪にスポットライトが当たる中澪は観客に挨拶をする。
すると、観客からも惜しみない拍手が送られた。

「そしてキーボードの琴吹 紬ちゃん」
「こんにちはー」
「次がドラムの田井中 律ちゃん」
「どうもー!」

次々と唯はメンバー紹介をしていく。
ちなみに、当初はフレーズを入れようとしていたが、僕の方で却下した。
印象度は強くなるが、かなり恥ずかしくなりそうな気がしたからだ。
特に澪が。

「リズムギターの中野梓ちゃん」
「こ、こんにちは」

梓にとってこれが二度目のライブ。
緊張の色は隠せない様子だった。

「そして最後が、もう一人のサイドボーカルでバッキングギターの高月 浩介君」
「どうも」

僕は右手を挙げて紹介に応じた。
拍手が聞こえるが、その中に慶介の姿を見つけた僕は、少しだけ心強く感じた。

「それじゃ、次の曲。ふわふわ|時間《タイム》!」

そして次の曲が始まった。










「名残惜しいですが、次で最後の曲になります。聞いてください。Don't say lazy」

唯のMCが合図となり、スティック同士が合わさる音が鳴り響く。
その直後、ドラムのフィルで曲の演奏が始まった。
キーボードの音色とパワーのあるドラムに目立たず、されど力強いビートが絡み合い、さらにそこにギターの音色が合わさる。
そして僕と澪の歌声もそれに乗っかった。
Bメロに差し掛かった瞬間、これまでのギターの音色が大きく変わった。
これまでの軽く薄い音色から、甘く深いギターの音色へと変化したのだ。
これもひとえに梓が加わったことによるものだった。
そして、間奏に入ってくる。
ピックスクラッチから始まる梓のギターソロは、僕の時とは違い優美な雰囲気を思わせるのに十分だった。
そして駆けるようにして演奏は終わった。
それは、僕たちの外での初ライブが無事に終わったことを意味していた。
そして惜しまない拍手に包まれながら、僕たちはステージを後にすると次のバンドのメンバーに、バトンタッチするのであった。










「うぅ~ん。終わったぁー」

大みそかライブも無事に終わり、星空が輝く空の元腕を伸ばしながら唯は声を上げた。

「お疲れ様」

そんな僕たちに労いの言葉をかけてくれたのは、観に来てくれていた憂達だった。

「あ、皆。待っててくれたんだ!」
「お姉ちゃん! すっごくよかったよ!」

唯の下に駆け寄った憂は感動冷めやらぬと言った様子で感想を口にしていた。

「本当、恰好よかったわよ。皆」
「……ありがとう」

真鍋さんの感想に、唯はとてもうれしそうにお礼を言っていた。

「浩介ー」
「なんだ、まだいたのか」

僕に声を掛けてきた慶介に、僕はジト目で返した。

「おいおい、せっかく来たのにそれはあんまりだぜ」
「で、どうだった?」

慶介の言葉を無視して、僕は感想を求めた。

「いやー、感慨深いと思ってな。あの浩介がいるバンドの演奏が」
「そりゃどうも」

”あの”には僕がDKであることが含まれている。
その後、外に出てきてファンに囲まれたラブ・クライシスに労いとお礼の言葉をかけるのであった。





僕は、少し離れた人気のない場所に立っていた。
目の前にはラブ・クライシスでドラムをやっているマキさんの姿があった。

「それで、話って何?」

帰り際に呼び止められた僕は、話があるということで彼女に人気のない場所まで連れてこられたのだ。

「単刀直入に言うね。君、DKさんでしょ? H&Pの」
「……………」

マキさんの言葉に、僕は無言を貫いた。
それだけでもすごいことだ。
何せ、内心動揺しまくりだったのだから。

「うまく隠したつもりだったんだけど」
「確かにね。でも、会った時からなんとなくそうじゃないかなって思ってたんだよ。だって、私の顔を見て驚いたような表情をしたし、何より口調とかが一緒だから」

いくら僕でも、口調まではごまかせない。
些細なところから気づく彼女も、十分にすごい人だった。

「決定的だったのは、リハーサルの時の君の態度」
「態度?」

マキさんの指摘に、思わず首をかしげた。

「他の皆が緊張で動揺しているのに、君だけは堂々としていて、余裕そうな感じだった。だから、かなり場慣れしてると思った」
「………」

もはやここまで来ると反論のしようもなかった。

「あ、心配しないで。君のことは誰にも話さないから」
「そうだと助かる」

僕は彼女のことを信じることにした。
律の友人だからというのもあるが、この間のライブでズバズバと切り込んでいった彼女が馬鹿げた真似をするようには思えなかったからだ。

「ただ、一つ聞いていい?」
「どうぞ」

真剣な面持ちで訊いてくる彼女に、僕は先を促した。

「どうして、プロのレベルのあなたが、アマチュアバンドで演奏をするの? もちろんだけど、彼女たちは将来プロになる可能性があるけれど、でも聞いておきたい。どうしてプロのあなたが、そこにいるのか」
「……………彼女たちは僕や君たちが知らない何かを持っている。だからだ」

マキさんの問いかけに、僕が言えたのはそれだけだった。

「それが何なのかは僕は知らないけれど、それはきっとどのバンドにも劣らないと、僕は信じてる」
「………………」

僕の返答に、しばらく無言だった彼女はゆっくりと口を開くと”そう”とつぶやいた。

「ありがとう。何となくわかったわ。それじゃ、またいつか」
「ああ。またいつか」

皆を待たせているからか、駆けていく彼女の背中を見送ると、僕は平沢家へと向かう。
律曰く、”年越しは一緒にいるぞー”とのことだった。

「はぁ……今年も終わりか」

満天の星空の中、僕は静かにつぶやくのであった。










『はーい!』
「高月だけど」
『今開けますね』

呼び鈴を鳴らした僕は、インターホンから聞こえる憂の声に名前を名乗ると、声から少ししてドアが開いた。

「遅れてすまない」
「いえ、大丈夫ですよ。あ、コートもちますね」

僕からコートを受け取った憂は横に置いてあった衣文かけにコートをかけた。

「今ちょうど年越しそばが出来上がったところなんですよ。浩介さんの分もあるので、よければ一緒に食べませんか?」
「へぇ。それじゃ、ご相伴にあずかろうかな」

憂の言葉に僕は言葉に甘えることにした。
そして、憂に言われてリビングに向かったのだが……

「ほら、虎ビキニもあるわよ」
「いやです!」

なぜか虎耳のヘアバンドをつけている梓の姿があった。

(虎耳も似合うな)

口にしたら色々な意味でまずい事を呟く。
それほどまでに似合っていたのだ。
もはや才能なのかもしれない。

「そんな才能いりません!」

そんなツッコミがありながら、僕たちは憂が持ってきた年越しそばをごちそうになるのであった。










「あぁ~、またババだ」
「そういう時は心の目で読むんだっ、唯」
「了解であります! 律ちゃん隊長!」

(ババ抜きで心の目を鍛えるって……)

出来たらすごいかもしれないが、ある意味シュールだった。
僕は開始後一番に上がってしまい、手持無沙汰だった。
そもそも最初にババを持っていたのは僕だったりする。
横が梓だったので、僕はあえて心理戦で挑んでみた。

(ババで悲しんで、それ以外の適当なカードで喜ぶ、ベタな方法に引っかかるとは)

ババをひいたときの梓の固まった表情は、今でも記憶に新しい。

(にしても、今日はいろいろなことがあったな)

ふと思い返してみる。
ライブで出会った様々なバンドメンバー。
彼女たちは、唯たちにある意味でいい影響を与えたと言っても過言ではない。

(本当に今年はいい一年だった。)

新しい部員、中野梓を中心に発生した問題。
そしてその後僕の正体で発生した二つの問題。
さらにはどうしようもない男が出てきたりしたり、時間が何度も繰り返されることになったこともあった。
これらの事件や出来事は、何がしらかの形で僕たちを成長させているのかもしれない。
だからこそ、僕は恋人を得た。
初めて、これから先の毎日を共に歩んでいこうと思える人と巡り合えた。
きっと僕は幸せだ。
それはみんなも同じだと信じたい。

(来年も、もっともっと……)

そこまで考えた僕の意識はゆっくりと黒く染まり始めた。

(そう言えば、ライブで疲れてたんだっけ)

初めての外ライブだ。
僕とて緊張くらいはする。
尤も、唯たちがちゃんと演奏ができるかどうかという意味ではあるが。
そしてそのまま僕は眠りにつくのであった。










「浩君、起きて。浩君!」
「んぅ……一体何?」

僕は唯によってたたき起こされた。
未だにしっかりとまわっていない頭で周囲を見渡す。

「初日の出を見よう!」
「…………」
「浩君! 寝るなー! 寝たら死ぬぞーっ」
「ッタッタッタ!?」

唯の言っている意味が理解できずにいると、眠ったと勘違いした律の高速ビンタが炸裂した。
ちなみに、今のは律の声帯模倣だ。
いくら僕とて、騙されない

「おはよう、浩介!」
「……おはよう、律。非常に過激なモーニングコールをどうも」

僕は律へと殺気をぶつける。

「あ、あれ……ばれていらっしゃる!?」
「後で少しお話をしましょう。田井中さん?」
「ひぃ!?」

加減を忘れたので、いつもより強い殺気を律にぶつけてしまった。
顔を青ざめさせた律をしり目に、僕はゆっくりと立ち上がった。

「唯、寝癖がついてるぞ」
「えぇ!? ホ、本当?!」

目に留まったのは寝癖なのか、髪の所々がぼさぼさになっている唯の姿だった。

「ほら、直すからじっとしてな」
「あ、うん。ありがとう」

手クシではあるが、唯の寝癖を直していく。

「年が明けてもバカップルは変わらずか」
「でも、二人とも幸せそう♪」
「はいっ」
「うるさいぞ、そこ」

周りではやし立てる澪たちに、僕はそう言い放つのであった。










最後まで起きなかった山中先生をそのままにしておき、僕たちは唯に先導される形で高台の方へと向かっていた。

「さわちゃんはあのままで良かったの?」
「いいんじゃない? あんなでも一応教師なんだし」

唯の言葉に、先に上に上がっていた僕は少し高めの段差があったので唯を引き揚げながら答えた。

「浩介ってたまに辛口だよな」
「そう?」

律に指摘されるが、僕にはそれほど自覚がなかった。

「うわぁ……」
「きれい」
「ここ穴場なんだ~」

澪たち感嘆の声を上げるので、改めて初日の出に目をやると、山々の間から日光が顔を出していた。
それは確かに幻想的な景色だった。

「それじゃ……ごほんっ」

そんな中、澪は僕たちの集中を集めるように咳払いをする。

「あけましておめでとう」

それは新年恒例の挨拶だった。

『あけましておめでとう』

そして僕たちもそれに応じた。
そんな日常の一幕だが、少しだけ気になることがあった。

「ところであずにゃん」
「はい、なんですか? 唯先輩」

それは同じだったようで、唯は笑みを浮かべながら梓に声を掛けた。
かわいらしく首をかしげている梓に、唯はそれを口にした。

「いつまで付けてるの?」
「え? ………にゃ!?」

自分の頭を指差しながら問いかける唯につられて自分の頭に触れた梓はようやく頭につけっぱなしの虎耳に気付いたようだ。

「ど、どうして誰も言ってくれないんですか!!」
「だって、似合ってたから」
「一種の才能だな。それ」
「あぅぅぅ……」

梓にとってはある意味あれな新年になってしまったが、これもある意味放課後ティータイムらしかった。





ちなみに、これは余談だが。

「どうして連れてってくれなかったのよ!!」

と、戻った時に憂特製のおせち料理を口にしながら抗議をしてくる山中先生の姿があった。

「初日の出を見れば今年こそ恋愛運アップになるかもしれなかったのに!」
「結局そこですかい」

どこまで行っても山中先生は山中先生だった。

拍手[1回]

第97話 プレゼントとセッティング

終業式の帰り道、

「あ、見てみて」

夕日が差し込む中、帰路についていると何かを見つけたのか唯が駆け出す。

「どうしたんだ?」

そこは何かのお店のガラス窓だった。
唯はそれを興味深そうに覗き込む。
お店の中というよりは、窓ガラスに張られたポスターだが。

「へぇ、こんなところにも張り出されてるんだ」
「私たち、これに出るんだよね?」
「がんばろうな、梓」
「はいっ!」

僕たちは大みそかライブの開催を告知するポスターを前に、再び心を入れるのであった。

「あ、他にはどんな人が出るんだろう」
「うっ!?」

唯の言葉に、澪のうめき声が返ってきた。

「澪先輩!?」

声の方を見ると、地面にうずくまっている澪の姿があり、それを目の当たりにした梓が驚きの声を上げる。

「あー、澪は極度の人見知りだから」

そんな梓に、律は苦笑しながら口を開いた。

(本当に大丈夫か?)

澪の姿を見ていると、そんな不安を感じてしまう僕なのであった。










それから数日が過ぎ、12月25日を迎えた。
この日はクリスマス。
恋人たちが幸せに過ごすまさに恋人のためにあるのではないかと思わせる日だ。
とはいえ、恋人がいない者にとっては拷問にも等しい。
それは、戦争を起こすほどだ。
そのような戦争が発生しても、恋人たちは楽しい一日を過ごす。
ある者は楽しげに話し、ある者は腕を組んで歩いていく。
僕たちもその例に漏れていなかった。

「えへへ~」
「全く、さっきから頬が緩みっぱなしだ」

僕と腕を組んで歩きながら笑みを浮かべている唯に、僕はため息交じりに注意した。

「だって、浩君に初めてもらったプレゼントだもん♪」
「そんなたいそうなものじゃないけど」

唯がうれしそうなのには理由があった。
それが唯の手の中にあるやや大きめの箱だった。
中には僕お手製のVシステムが内蔵された眼鏡(度なし)がと取扱説明書が入っている。
それには転送機能はついていないが、通信だけならできるようになっている。
ちなみにエネルギーは毎晩午前3時に余剰体力からひかれたものとなっている。
人間は様々な要因で体力が有り余った状態で眠ってしまう。
しかも寝ている間に体力は自然と目減りしていくので、かなりもったいなかった。
それを利用して、放出される体力を吸収してエネルギ―に変換させるようにしたのだ。
これによって、体力を強引に吸収して、朝起きたら気怠くなると言った症状は起こらない。
ちなみに、効率だが唯ぐらいならば一日で約2時間程度の通信が可能になるだろう。
使わなければ使わないだけ時間も増えていく。
当然だが、これは魔界の技術だ。
中にある物は唯には伝えていないが、注意書きの方で何度も何度も人目のあるところで使用しない旨のことを書いている。
変に技術が漏れると危険だからだ。
そんな危険を冒してまで僕が唯にそれをプレゼントしたのは、もし離れ離れになるようなことがあってもいつでも話をすることができるようにするという理由からだ。
当然だが、離れ離れになるという確証はないし、予定もない。
だが、何が起こるかがわからないのが人生。
もしかしたらそういう事態になるのかもしれない。
その時の対抗策をあらかじめ用意しておくことにしたのだ。

「あ、お姉ちゃんに浩介さん」
「あ、憂~」

そんな中、僕たちを見かけたのか、声を掛けてきたのは憂だった。

「買い物の帰り?」
「はい」

手にある買い物袋で、何をしていたのかがわかった僕の問いかけに、憂は頷いて答えた。

「あ、そうだ。憂にもクリスマスプレゼント」
「ありがとうございます。浩介さん」

僕は憂いのために用意しておいたある物を入れた小さな箱を、憂に手渡した。

「むぅ~」
「むくれるな。憂のは唯のとは意味が違うから」

憂にプレゼントを渡したことに面白くないのか頬を膨らませる唯に、僕は苦笑しながらそう告げた。

「……だったら、良い」

渋々ではあるが唯も納得したようだった。
ちなみに、憂にプレゼントしたのは『緊急呼び出し装置』だ。
これは、シンプルに黒縁の箱にてっぺんにある赤いボタンというシンプルな形状だ。
効果は文字通り、何らかの身の危険を感じた際にそのボタンを押すことで、僕の方に連絡がいくようになっているというものだ。
この装置のすごいところは、ただ連絡するわけではないことだ。
それは転送機能があるということ。
具体的には僕がこの装置のある場所まで転送ができるようになる。
もちろん、ボタンが押されないとできないが。
だからこそ『緊急呼び出し装置』なのだ。
連絡があった瞬間に、僕は転送して現場に向かい危険を排除する。
そのための装置。
色々とずるい装置ではあるが、これも恋人の家族という特権だ。
それに、もしかしたら唯の窮地の時に一緒にいるかもしれないので、悪い話ではない。
そんなこんなで、僕のクリスマスプレゼントは結局発明品ということになったのだ。

「それじゃ、僕はここで」
「うん。またね、浩君」

名残惜しくはあるが、家の前に到着してしまったため、僕はなくなく唯から離れた。
そして僕は唯たちと別れ自宅へと戻るのであった。










それから6日経った12月31日。
暦の上では大みそか……今年最後の日を迎えた。
僕たちは大みそかライブの会場でもある『LOVE PASSION』へと向かっていた。

「お疲れ様です」
「ど、どうも」

ライブハウスの前にはすでに数人の人がいて、こちらに気付いたのか礼儀正しく一礼して声を掛けてきたので、それに律が応じた。

「あれってなに?」
「たぶん、これに出場するどこかのバンドのファンだと思う」

数は少ないが、ファンを有しているのはすごいことでもありバンドのメンバーにとっては励みとなる活力の源のようなものだ。
そして僕たちは階段を下りてライブハウス内に向かう。

「おはようございます。うっ!?」

挨拶をしながらドアを開いた律は、目の前の光景に息をのんだ。
そこには出場者と思われる人物の姿があった。
顔に切れ込みのようなメイクを施していたりする者や、赤い髪の女性等々、威圧感が半端ないほど強かった。

(これはなかなかにして個性的だな)

現に澪は逃げようとしているし。

「おはよーっす」
「おはよう」

だが、外見とは裏腹にフランクな感じで帰ってきた。

(中山さんみたいなタイプかな)

中山さんの場合、外見は違うが正確はかなりフランクだったので、あながち間違いではないのかもしれない。

「律ちゃん、澪ちゃん!」

そんな中肌色のフード付きの上着を着てサングラスのようなものをつけていた青髪の女性が、眼鏡を外すとこちらに駆け寄ってきた。

「マキちゃん!」

(あ、ラブ・クライシスのドラムの人だ)

ズバズバと意見を出していた人でもある。
この人がいなければ、プロジェクトは進化しなかったはずなので、発起人のような存在だ。
しかも、何がすごいかと言えば、意見を出してくれたお礼状を送ったところ、”お礼を言われるようなことはしていない”と言った趣旨の返事が返ってきたところだろう。

「紹介するね。ラブ・クライシスでドラムのマキちゃん。今回このライブを紹介してくれた人」
「どうも、うちの律ちゃんがお世話になっています!」
「お前は律の母親かっ」

何度も頭を下げる唯に、僕はため息交じりにツッコんだ。

「こっちがベースの綾。澪ちゃんの大ファンなんだ」
「この間のライブ、澪さんの演奏はとてもかっこよかったです!」

同じベース担当だからか、それとも澪の持つ魅力か、ファンがいるというのはすごいことだ。

「え? ライブに来てくれたの!?」
「あ、遅れて来た子」

唯が驚きに満ちた声を上げると、唯の顔を見た銀色の髪の少女がそうつぶやいた。

(こんなところまで尾を引くんだね)

しょうがないとはいえ、ある意味強烈なイメージが残っているような気がした。

「すみません! すみません!」

何度も頭を下げて謝る唯だが、頭を下げる度に背中にあるギターからの風圧で髪が煽られているのだが、本人はそのことに気付いている様子はなかった。

「いえいえ、とっても楽しいライブでしたよ」
「っ!?」

そんな少女の言葉に、今度は顔をにやけだした。

「え、えっと……」
「知らない人からライブをほめられたことがないから……たぶん」
「気にしないで上げてください」

困惑するベースの少女に、僕と律はさりげなくフォローをすることにした。

「あ、そうだ。良かったら、見に来て」
「今度は単独ライブする予定だから」
「あとこれも良かったら」

二人の少女から渡されたのは次のライブを開く告知のチラシと、CDだった。

(これで彼女たちは参加権を失くすけど、既に上に向かっているようだし問題はないか)

願わくば、彼女たちもこれをきっかけに次のステップが踏めるようになってほしいものである。

「それじゃ、またあとで」
「ま、また……」

僕たちに手を振って去っていく彼女たちに、律たちは半分生返事っぽく返した。

「何だか、私たちと意気込みが違うな」

(そりゃそうだ)

僕たちはあくまでも部活レベルでの音楽活動をしている。
それはいい加減とかではなく、もっと根本的なものが違うのだ。

「そうだ! ロゴマークなんてどうかな?」
「ロゴマーク?」

突然提案する唯に首をかしげる僕をしり目に、唯は自分の手のひらにペンで何かを書いていく。

「こんなのとかどう?」
「それは温泉!」

自信満々に掲げた掌に書かれていたのは、温泉マークでおなじみのものだった。

「えぇー!?」
「だったら、ティーカップを書いてみたらどう?」

ショックを受けたような表情を浮かべる唯に、ムギが提案した。

「おぉー、待ったりお茶するいい感じになった」

改めて書き直した唯が見せたのはティーカップから湯気のようなものが出ているロゴだった。
確かに、これならいいのかもしれない。

「私のスティックにも書いて」
「それじゃ、私はピックで」
「僕もピックに書いてもらおうかな」
「皆でお揃いだね~」

次々にせがまれる唯は、みんなとお揃いなのがうれしいようだった。

「それじゃ、ミーティングを始めるわよ」

そして書き終えた頃に、案内をしてくれた女性の声が聞こえた。
僕たちはお互いに頷き合うと、手を上げて気合を入れるのであった。










「私たちは二番目だね」
「二番目か……」
「澪的には最初がよかったか?」

話し合いの際に公開された演奏バンドの順番に微妙な反応をしている澪に疑問を投げかけると、凄まじい勢いで首を横に振った。

「それじゃ、何番目がよかったんだ?」
「えっと……」

律の問いかけに、澪は視線を色々な場所に向けるだけで応えようとはしなかった。
結局、何番目だろうと緊張することに変わりはないみたいだった。

「すいません」
「あ、はい」

そんな時、ライブハウスのスタッフの人だろうか、男の人がこちらに駆け寄りながら声を掛けてきた。

「こちら、バックステージパスです」
「あ、ありがとうございます」

6枚のバックステージパスを受け取った律は、別のところにかけていく男の人の背中にお礼の言葉をかけた。
バックステージパスとは、簡単に言ってしまえばステージのそでや楽屋などに入る時に必要なものだ。
つまり、関係者であることを証明するもので、貼っていないと楽屋などに入ることすらできなくなる。

「あ、あの人すごいよ」
「あれは強者だな」

近くにいた人のギターケースに貼られている使用済みのバックステージパスの数々に律は感心したような声を上げる。
相当な場数を踏んでいる証拠だった。
ちなみに、僕の場合はバックステージパスは専用のファイルに貼ってある。
ギターケースに貼るのはさすがにあれだったからだ。

「それじゃ、これが私たちにとっては最初の一枚だね」
「そうだな……」

唯がつぶやいた言葉に、僕は静かに相槌を打った。
厳密に言えば、僕は数えきれないほど場数を踏んでいる。
だが、”放課後ティータイム”の高月浩介としては、これが最初のライブハウスでのライブとなる。
それだけに感慨深いものがあった。

「それじゃ、ペタッと」
「唯、それは自分に貼ってないと意味がないから」

ギターケースに貼る唯に、僕は苦笑しながら指摘した。

「えっと、それじゃ……」
「なぜそこに貼るっ!」

自分の足に貼った唯に、律がツッコんだ。

「それじゃ、ここにペタッと」
「「湿布かっ!」」

肩の方に貼った唯に思わず梓と突っ込むタイミングが揃った。
最終的には左腕の方に貼ることで落ち着いた。

「何だか無難な位置だよね」

本人はあまり納得していない様子ではあったが、そこがしっくりくる。
僕は唯と同じく左腕に貼っていた。

「あ、それよりもセッティングシートを書こうぜ!」

それぞれがバックステージパスを張り終えたところで、律はそう提案すると床にセッティングシートを置いた。
セッティングシートは曲名や曲調、テンポに著作権やら音響等々さまざまな事柄を明記していく必要がある。
それを基にライブハウスのスタッフが演奏中に演出をしていくのだ。
セッティングシートをバカにしていると、セッティングシートに足元をすくわれるという事態にもなりかねない。
そんな中、律はさらさらっと、曲名を書いていく。
曲順はこんな感じだ。

――

1:私の恋はホッチキス
2:ふわふわ時間(タイム)
3:ふでペンボールペン
4:Don't say lazy

――

「えっと、曲名や曲調はいいとして、照明イメージはどうしようか……」
「うーん。どう書いたらいいんだろう」

僕はあえて何も言わないようにした。
こういうのも経験だ。
頭をひねって考えれば曲に対しての理解も深まる。
そして、次のライブではさらに向上することができるかもしれないからだ。
僕がアドバイスをするのは、律たちが聞いてきたときだけだ。

「ちょっと聞いてくるね!」
「へ?」

唯の予想外の行動に、一瞬頭の中が真っ白になっている僕をよそに、唯は立ち上がるとどこかに向かっていった。
そこは先ほど入った時に一番インパクトの強かったトサカヘアの女性たちの下だった。

(怖い人のところに聞きに行くというのは勇気がいるだろうに……)

ある意味唯らしかった。

「なんだか”元気な感じで”とか”ポップな感じ”って書いてたよ!」
「それじゃ、うちもそんな感じで」

何はともあれ分からないところが無くなった律は、セッティングシートに記入をしようとしたところで、

「ちょっと待って」
「どうしたんだ? 澪」

突然それを遮った澪に、律が首をかしげた。

「うちは、全部ピンクがいいっ」
「ピ、ピンク……ですか?」

澪の提案に、梓が引きつったような声を上げる。
言いたいことは分かる。
僕だって言いたいほどだ。

「ダメ……かな?」
「そ、それじゃ、ふわふわのさびの部分はピンクで!」

うつむいた澪に、律があわてて声を掛けた。

「あ、あのミラーボールも使おうよ!」
「それじゃ、前奏とかに使おうぜ」

なんだかんだあったが、何とか形になりつつある。

「それで、私にピンスポットを当ててもらおう!」
「却下!」
「そうですよ! メンバー紹介の時に一人ずつ当ててもらいましょうよ!」

僕の反対意見に賛同するように梓も続いた。
ある意味個性的な意見だったような気がする。

「音響イメージってどんなのかな?」
「待っててっ」

(せめて僕の方に視線を向けるとかしてよっ)

知ったかふうに思われるのが嫌なのもあるけど、自分で決めたこととはいえかなりむなしかった。

「”りヴぁーぶをください”とか、”ボーカルをください”って書いてたよ」
「それじゃ、こっちもそんな感じで……MCはどこに入れるの?」

聞き終わった唯の言葉に、律はさらさらと書いていくが今度はMCの部分で躓いた。

(まさかね。三度目はないよね?)

「行ってくる!」

両腕を構えて力む唯は、そのまま先ほどのバンドのところに向かっていった。
そして再び聞いてくる唯はすぐに戻ってきた。

「なんか、書き終わったから参考にしていいだって」
「おー、それはとっても心強い! ―――――ってえぇ!?」

唯の手にあるのは数回も聞いてきたバンドのセッティングシートだった。

「「すみません、すみません」」
「ありがとー」

慌てて何度も頭を下げる僕と律とは対照的に、唯は満面の笑みでお礼を言っていた。

(な、何だかもう馴染んでる)

ある意味唯は最強かもしれない。
そんなこんなで、いろいろあったがセッティングシートを書き上げていくのであった。o

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