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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第101話 参加!

あれからしばらくして、突然の事態に混乱していた僕たちは社長やMRたちの尽力のおかげで、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。
混乱している最中に、何か変なことを口走っていないかどうかが気になったが、今はそのことはどうでもいいだろう。

「とりあえず、落ち着いたかな?」
「ええ。何とか」
「はい」

僕は申し訳なく思いながら、社長の問いかけに頷きながら答えた。

「それにしても、こ……DKって事務所に所属してたんだな」
「私も知りませんでした」

一瞬浩介と呼びそうになった澪と梓は、驚いた様子で感想を漏らすが。

「オフィシャルサイトに書いてあるんだけど。『チェリーレーベルプロダクション所属』って」
「「うっ!?」」

ちなみに、このことはH&Pのオフィシャルサイトのメンバー紹介のページでしっかりと書いてあるので、知っていて当然だと思っていた。
だからこそ、唯たちの驚く姿を見た僕も驚いていたのだ。

「それで。僕は聞いてないぞ。彼女たちが次のライブの参加者だなんて」
「そりゃそうだろ。言ってないからな」

僕の追及に、YJは悪びれるどころか堂々とした態度で答えた。

「それに、当選に賛成したのはDKですよ」
「卑怯じゃないか? バンド名のことを伏せて決めるというのは」

RKが全くもって正しい言葉を投げかけてくるが、僕は追及の手を緩めない。
何よりも問題なのは、バンド名を隠して採決を取ったことだ。
ある意味詐欺師並みのやり口だった。
……それに何の疑問も抱かずに引っかかる僕にも問題ありだけど。

「だが、DKはそれでも賛成した。今更取り消しだとか言わないよな?」
「……………」

MRの切り返しに、僕は何も言えなくなってしまった。
完全に僕の負けだった。

「はっきり言うと、今回のライブに参加するのは反対だ」
「なぜ!?」

僕の言葉に、律が答えを求めてくる。

「君たちはまだ僕たちのライブに出られるレベルに達していない。そんな状態でライブに出したら僕たちはいい笑いものだ」

いくら新生バンドとはいえ、観客たちにとっては”あのH&Pが選んだバンド”という認識なのだ。
下手な演奏をするようであれば双方にとって不名誉なこととなる。
それだけは何が何でも避けなければならなかった。

「そんな言い方はひどいです」

僕の答えた理由に、梓が非難の言葉をあげる。

「と、思ってたんだけど」
「え?」

だが、僕の言葉は終わっていない。
梓の言葉を受けて、僕は静かに言葉の続きを口にする。

「この間の大みそかライブを見てその考え方は変わった。だから、今の僕ならば皆がライブに参加することを心の底から賛成できる」
「……っ!」
「ありがとう、浩君!」

やわらかい笑みを浮かべながら告げた僕の言葉に、唯は嬉しそうな表情でお礼を言ってきた。

「ただし、このライブは5人だけで演奏しなければいけない。そのことを承諾すること。これが僕の出す参加の条件」
「どういうこと?」

僕の言わんとすることが伝わらなかったのか、ムギは首をかしげながら詳しく聞いてきた。

「僕は放課後ティータイムのメンバーでもあり、H&Pのメンバーでもある。でも、僕はDKとしてステージに立っているから、放課後ティータイムの一員で演奏をすることは無理なんだ」
「ということは、浩介先輩抜きで……」

僕の話を理解した梓はポツリと言葉を漏らした。

「遠慮はしないでいい。僕は納得済みだし、それに例え一緒に演奏ができずとも僕は放課後ティータイムの一員であることは変わらない」
「…………」

それは僕の本音だった。
少しの間、みんなは口を閉ざしていたが、

「それじゃあ……」
「参加するぞー!」

口を開いた梓に続いて律が声を上げた。

『おー!』

(ここ、事務所なんだけど)

心の中でツッコみながら、視線を社長たちの方に向ける。
社長や他の皆も苦笑しながら肩を竦めていた。

「それじゃ、具体的な話に入ろうか」

頃合いを見計らって、僕は唯たちに声を掛けた。

「まずは最終確認だけど、演奏予定楽曲は、選考時に送ってきたリスト以外にある?」
「ないぞ」

僕の問いかけに律が答えた。
それを聞いた僕は、次の質問を投げかけることにした。

「このリスト内に、他人が作曲し尚且つその人から演奏の許可をもらっていない曲はある? ちなみに、ふわふわとかは作曲者はムギという扱いで、僕は作曲者じゃないから」
「だったら、無いかな」

澪の返答を聞いた僕はさらに続ける。
とはいえ、ほとんど問題はないのは知っているのだがこれも形式的な質問だ。

「ライブに出る際に、名前は本名で大丈夫か? 希望すれば偽名でも可能だけど」
「はいはい! それじゃあずにゃんはあずにゃんで、澪ちゃんは澪ちゃんで、ムギちゃんはムギちゃんで、それから―――」
「分かったから、唯はちょっと黙っててね」

僕の疑問に右手を挙げて偽名の案を口にする唯の肩に手を置いて律は頷きながら止めた。

(あれも天然が故か? 狙っているとしか思えないレベルなんだけど)

あれが偽名ならば、僕はDKから浩君に改名している。

「本名でいいから。偽名だと収集つかなさそうだし」
「えぇ~。偽名良いじゃん。かっこよさそうで」
「それじゃ、本名での参加で……後はこのプロジェクトの概要を説明するとしようか」

唯の言葉を切り捨てるように、僕は話を進めた。

「この企画は後半の1時間という時間を使う企画。あらかじめ登録してくれた曲を演奏するというシンプルなもの。コンテストでもないから、心置きなく演奏をしてもいいし、MCや構成もすべて自由に決められる」
「おぉ~。太っ腹どすなー」

僕の話を聞いた唯が、お茶を飲みながら和んだ口調で相槌を打った。

「この企画では、お互いの演奏曲のトレード……つまり、放課後ティータイムの曲と僕たちが演奏する曲を交換して演奏することが恒例となっているんだ」
「……………」

僕の説明に、目を瞬かせるだけの律の反応に、僕は理解していないことを把握した。

「例をあげると、僕たちが『ふわふわ|時間《タイム》』を演奏したら、唯たちは『Leave me alone』を演奏するという感じだ」
「な、なるへそ~」

分かりやすく例を取り上げたところで、ようやく律は納得したようだった。

「僕達の方はこの『ふでペン~ボールペン~』を演奏しようと思うんだけど、そっちはどう?」
「私は別にそれで構わないけど………」
「私も」
「私もです」

律の視線に促されるように唯たちも賛同していく。

「そして、僕たちがそっちに演奏してもらいたい曲は、これ」

そう言って、僕は予め用意しておいたCDを律たちの前に置いた。

「えっと……『Colors』?」

CDのラベルに書いてある曲名を、怪訝そうな表情で読み上げた。

「僕たちが作曲したわけじゃないけれど、クールな感じでかっこいい曲調が特徴の曲だよ」
「何だか難しい曲のような気がするんですけど」

僕の説明で感じ取ったのか、梓の言葉は実に的を得ていた。
この曲は音の上下が激しい曲だ。
全体的にも難しい曲だが、それは『Happy!? Sorry!!』でも同じこと。
しかもこの曲も演奏予定の曲目に書き添えられている。
ならば、僕の選曲した『Colors』も十分演奏することは可能だろう。

「確かに、少しばかりレベルは高いだろうね。でも、この曲を見事に演奏しきればみんなのレベルは一段階上がることを意味している。早い話がやってみろと言うことだ」

何事も挑戦あるのみ。
やる前から諦めていればそれは成長の停止にもあたると僕は思っている。
まあ、失敗してしまうとダメージが大きくなるのが欠点だが。

「これは、僕からの『放課後ティータイム』に対する挑戦状だ。受け取ってもらえるか?」
「やろう!」

僕の言葉に、声を上げたのは唯だった。

「大丈夫だよ。だって、大みそかのときだってちゃんとできたんだもん! きっとうまくいくよ!」
「唯………そうだな。大みそかの時も無理だと思っていたのができたんだもんな」

唯の言葉に、律は目をいったん閉じるとその眼を開いた。
そこには不安の色は全く感じられなかった。

「浩介の挑戦状……」
『受け取らせていただきます!』

先ほどまで腰かけていたソファーから立ち上がった律たちは、力強い目で僕にそう言葉を返した。

「そうか。この曲の演出はこっちで指定するから、そっちは僕たちが演奏する『ふわふわ|時間《タイム》』の演出を考えておいて」
「分かりました」

僕の申し出に、相槌を打ったのは梓だった。

「それと、ライブまでの1週間。僕は軽音部での部活を休む」
「え?」
「少し言葉が足りなかったかな。正確にはライブまでは僕は演奏をしないという意味だ」

僕の言葉に驚きと悲しげな表情を浮かべる唯たちの様子に、僕は慌てて補足説明をする。

「なんだ。そう言うことか」
「でも、どうして高月君は演奏をしないの?」

全員が納得する中、疑問を投げかけてきたのは、これまで静かに話の流れを見守って来ていたムギだった。

「………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ」
「浩君?」
「なんでもない。アドバイスぐらいはするし、ちゃんと部室にはいくけど練習には加わらない。僕抜きでちゃんと練習をすること」

一瞬の表情の変化に、唯は不思議そうに首をかしげて声を上げたが、僕は首を横に振ると再度律たちに説明をした。

「一週間後、会場には17時入り。出番は19時から。楽屋には会場の様子を中継するテレビがあるから、それでライブの模様を見るのもいいし、練習をするのもいい。それは唯たちの自由」

そして僕は当日についての説明に話を移した。

「ねえねえ、お菓子とか持って行ってもいいの?」
「別に制限はしないけど、お手洗いには行けなくなることを考えるように」

バンドメンバーで一番のネックはお手洗いだ。
途中に挟まれる休憩は、文字通りの休憩とお手洗いに行くという意味もある。
演奏中にお手洗いに行くというのは演奏家としては腕前以前の問題だ。
なので、僕たちの場合は開幕2時間前から水分以外は摂取しないようにしている。
ちなみに、大みそかライブの時、僕は紅茶は飲んだがお菓子は一切口にしていない。

「何事も常識の範囲内で」
「はーい。うーん、それじゃケーキと……うんめぇ棒を」

全く分かっていない唯に、僕はため息を漏らすことしかできなかった。










「ふぅ……」

自宅に戻った僕は、静かに息を吐き出した。
別に疲れているからではない。
体調も万全だ。
ただ、それ以上に精神的な疲れが多かった。

『………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ』

あの時、ムギの問いかけに答えた僕の言葉。
それは、僕の本心の理由だった。
あの言葉に僕は嘘偽りはないと断言してもいい。
だが、それだけが理由なのかと言われれば、それは嘘になる。
演奏に加わらないのは少なからずもう一つ別の理由もある。

「どうしたものか」

僕の視線の先にはテーブルの上に置かれた一通のエアメールがあった。
宛名はローマ字表記で僕の名前が書かれている。
封はすでに切っており、中身は確認済みだ。
別にエアメールが嫌なわけではない。
問題はその中身だった。

「どっちにしろ、ちゃんと話さないとね」

もう僕の中で答えは出ていた。
だが、それを唯たちに話す勇気がなかった。
話してしまえば、唯を悲しませる結果になるのは目に見えているからだ。
何かきっかけでもあれば、あるいは……

「まったく、僕の優柔不断なところは未だに治らず、か」

まあ、異性と付き合ったことがないのだから当然かもしれないが、ここまで来るともはや清々しく思えてしまう。

「近いうちに話さないと」

タイムリミットはあと半年。
それ以降は送り主にも迷惑をかける事態になりかねない。
それに何よりも

「今は一週間後のライブのことに集中しよう」

目先に控えたライブに向けて頑張る皆に水を差すようなまねはしたくなかった。
それがいいわけであることも重々承知している。
だが、放課後ティータイムの一員として、唯の恋人として僕はどうしてもこの時期に言うことはできなかった。

「でも、このままではいかないよね」

いずれそう言うことを話さなければいけない状態になる。
いつまでも放置しておくわけにはいかなかった。

「とにかく、今日から一週間は気合を入れよう!」

僕は自分にまとわりついてくる問題をいったん置いておくことにした。
ライブまで残り一週間。
どのようなライブになるのか。
それを楽しみにしながら、僕は眠りにつくのであった。

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