健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第103話 新学期!

季節も冬から春へと過ぎ、始業式の日を迎えた。
世間では入学式や入社式などが行われる時期だ。

「…………」

今日は始業式。
僕は一人で橋の付近で腕を組みながら立っていた。
道行く人が時よりこちらに視線を向けてくるが、すぐにそらしていく。

「遅い」

口に出たのはその言葉だった。
そう、僕はある人物を待っていたのだ。
その相手は

『明日は橋のところで待ち合わせだよ! 遅れてこないでね』

と先日言っていた唯だ。

「あれ、浩介先輩?」

そんな僕に声を掛けてくる少女がいた。

「梓。おはよう」
「おはようございます。ところで、何をしてるんですか?」

挨拶をすると梓は不思議そうな表情を浮かべながら、疑問を投げかけてきた。

「唯を待ってる。今日は一緒に登校しようって言ってきたんだけど……」
「来ていませんね」

少しだけ周りを見回した梓が、何とも言えない表情でつぶやいた。

「ものの見事に遅刻だな」

思わずため息が漏れてしまった。

「梓、一緒に学校に行くか」
「え? でも唯先輩は?」
「知らん。遅れるのが悪い」

梓の問いかけに、僕は一刀両断した。
ここで30分ほど待たされたのだから、

「そ、それじゃ行きましょう」
「そうだな」

こうして僕と梓は先に学校へ行くことにした。

「何だか暖かくなってきましたね」
「そりゃ春だからな。でも時期にこの暖かさが暑さに変わっていくけど」

桜並木はないけれど、温かさは季節を張るだと伝えてくれる。
あと数か月でこれが暑く感じるようになるのだから四季とは不思議なものだ。

「あ、浩介先輩。実は新しい曲で、わからないところがあるので教えてほしいんですけど」
「構わないよ。部活の時に分からないところとかを詳しく聞かせて」
「はいっ」

最近、梓から尊敬光線(目に見えるわけじゃない、ただの比喩だけど)が出ることは少なくなった。
尊敬されなくなったということではなく、ただ単に普通に接してもらえるようになったということだ。
僕としてはそっちの方がやりやすいので願ったり叶ったりでもあるが。

(ん? 何か後ろから気配が)

そんな時、後ろの方からこちらに向かってくる気配がした。
ここは普通の道だ。
人が後ろから来る気配がしても当然だ。
だが、その気配はその普通とは違っているところがあった。

(足音を消しているなんて普通じゃない)

どうして普通に歩いているのに足音を消す必要があるのだろうか?
つまり、この気配の人物は僕たちに危害を加えようとしているということだ。

(だったら)

やられる前にやってしまえばいい。
気配は僕の方に近づいていく。

(このぐらいならば後ろ蹴りで十分か)

ちょうど後ろ蹴りの射程内に入ってきたので、僕は行動に移すことにした。

「せいっ!」
「ぎゃ!?」

全力で後ろ蹴りを食らわした僕は、素早く反転して僕の方に近づいてきた人物を確認した。

「って、律!?」

後ろの方で倒れていたのはなんと律だった。

「大丈夫か? というより生きてるか?」
「――――――」

律から反応がない。
慌てて首筋に手を当ててみたところ脈はあるようなので生きてはいるようだ。
どうやら気絶しているだけらしい。

「一体どうして律先輩が?」
「そ、それが……梓と浩介の姿を見つけたから驚かそうとして」
「僕が返り討ちにしてしまったというわけか」

二,三歩ほど後ずさりながら答える澪の説明で、ようやく何が起こったのかが理解できた。

(後は、律をどうするかだな)

問題は今のびている律だ。

(このまま放置するわけにもいかないし、背負っていく―――――っ?!)

気絶している律を背負うということを考えた瞬間、背筋に寒気のようなものが走った。
それは間違いなく殺気のようなものだった。

(これって、唯の殺気か? まさか唯がいるのか?)

気になった僕は周囲の気配を念入りに確認してみるが、それらしい気配や人影はなかった。

(気のせいか? それにしては妙にタイミングが良かったけれど)

どちらにせよ、背負うのはやめておいた方がいいかもしれない。

(だとすると……)

残された方法は一つしかなかった。

「澪、律の左腕を持ち上げてくれる?」
「う、うん」

僕から距離を取っていた澪に指示を出すと、澪は律の左腕を持ち上げた。
そして僕も逆の右腕を持ち上げる。

「気を取り戻すまで、引きずって行く」

僕が取った行動は、律を引きずることだった。
そんなこんなで、数メートルほど引きずったところで、

「あのー、いい加減引きずるの辞めてくれませんか?」

と、律の方から声が掛けられた。

「やっとお目覚めか」
「大丈夫ですか? 律先輩」

目を覚ました律に、僕はため息をつきながら腕を離した。
ちなみに、澪も僕に遅れてだが腕を離していた。
そして、梓は健気にも律の容態を案じていた。

「二人を驚かそうとしてまさかけりを入れられるなんて驚いた……っていうか、浩介謝れよ!」
「あー、悪い悪い」
「むきー! それは絶対に本気で悪いと思ってない!!」

謝れと要求してくる律に、僕は投げやりに謝ると癇癪を起したように声を荒げた。

「足音消して、こっちに向かってきたもんだから、暴漢かと思って」
「いやいやいや! 足音消しただけで暴漢にされたら命いくつあっても足りんわ!!」
「そう?」

律の言うことも尤もだが、僕の感覚からすれば律の言っている方がおかしく思えてしまった。

「まあ、いきなり後ろ蹴りをした浩介も悪いけど、驚かそうとした律も悪いと言えるかな」
「そうですね」

二人に尋ねてみると、意外にもこちらよりの答えだった。

「……まあ、痛み分けということでここは穏便に解決ということにしよう」
「そうだな」

このままではらちが明かないと感じた僕は、お互いが悪いということで和解することにした。
握手をすれば和解は成立だ。

「あれ? 浩介に対する痛みって何?」

そんな律をしり目に、僕たちは歩き出す。
その途中でムギとも合流した僕たちは、学校に向かっていくのであった。










「何か音が聞こえないか?」
「あ、本当だ」

校舎内に入った僕たちは、微かに聞こえる何かの音に首をかしげていた。

「というより、これって」
「あ、待ってよ。浩介君」

僕はその音色が何なのかを知っていた。
ムギの声を無視した僕は、導かれるように音色が聞こえてくる方向に足を向ける。
階段を上り最上階に到着したところで、音色は非常に大きくなっていた。

「これって、ギターだよな?」
「と、言いながらドアを開けても意味がないと思うんだけど」

疑問の声を上げながら部室のドアを開けるという、ある意味矛盾した行動をしている律にツッコみを入れた僕は、開いたドアから中の様子を確認する。

「…………」

部室内では、右腕を風車のように回している唯の姿があった。

(ウインドミル奏法か)

昔、あるギターリストが用いていた演奏奏法をする唯の姿に、僕は唖然としていた。

「なにやってんだ? お前」

僕は、未だに回し続けている唯に、声を掛けた。
今の僕は、きっとあきれ果てたような表情を浮かべているに違いない。

「新歓ライブに向けて新しい必殺技を開発中!!」
「へぇー」

力強い唯の説明に、律は何とも言えない表情を浮かべながら相槌を打つ。

「必殺って……」

(殺してどうするんだよ?)

そんなことを考えてしまう僕は、きっと心が荒んでいるに違いない。

「にしても、ずいぶんと早かったな」
「えへへ。目覚まし時計を一時間早く見間違えてしまいまして」

頭に右手を当てながら照れ笑いをする唯の表情に、僕は怒気を抜かれてしまった。
本来ならば、何の連絡もせずに先に学校に行っていた唯に断罪をするべきなのだが、まあいいだろう。

「あれ? 何か口元についてるわよ?」
「え?」

そんな中、ムギの指摘に唯は自分の顔を手で軽くたたきながら確認していた。

「じっとしてろ。取るから」
「あ……ありがとう、浩君」

満面の笑みでお礼を言ってくる唯を見ていると、心が洗われるような気がする。

「はいはい。朝からいちゃいちゃしないでくださいね。そちらのお二人さん」
「イチャイチャなんてしてない!」
「そうだよ! 律ちゃん。私たちはイチャイチャなんてしてないよ!」

ジト目で注意をしてくる律に、僕と唯はもう反論した。
見れば梓達もジト目で僕たちを見ていた。

「イチャイチャっていうのは……ん」
「んむ!?」

いきなりのことに、僕は一瞬何が起こったのか理解ができなかった。

『なっ!?』

全員が驚きに満ちた声を上げるのも当然だろう。
何せ今、僕と唯はキスしてるのだから。

「えへへ~、久しぶりにすると恥ずかしいね」
「………ノーティンバーヤ!!(何をしてるんだ!!)」

いきなりのことに気が動転した僕は、思わず母国ではるか昔に使われていた言葉を使ってしまった。

「な、ななな、何をしてるんですか!!」
「そ、そそそ……そうだよ! キスなんて……キキキキスなんて……ぷしゅぅ~」
「み、澪!? 大丈夫か?! おーい、澪!」
「まあ、まあ、まあ☆ あれが”キス”なのね。私、初めて見たわ~」

動転のあまりかなりドモリながら声を荒げる者や、あまりの衝撃的な光景に気を失う者、そんな彼女を解放する者に、なぜかうっとりとした表情で感心している者など、軽音部部室は一瞬にして混沌に包まれた。

「えへへ~浩君、大好き!」

そんな混沌の中でも、元凶である唯だけはいつもと変わることはなかった。





「さ、さて。準備完了」
「わ、私もです」
「私もよ」
「わ、私も」
「終わったよー。ふんすっ」

あれからしばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した僕たちは、演奏の準備を整えていた。
最後は未だに朝食の食パンを食べ終えていない唯だった。
全員がそろい、ようやく練習をすることができるようになった。

「それじゃ、軽く流していこう。まずはふわふわからな」

そんな律の掛け声のもと、僕たちは通しで練習をしていくのであった。





練習を終えた僕たちはクラス振り分けを確認するべく、昇降口へと向かっていた。
ちなみに梓達二年生とは場所が違うので途中で別れたのでいない。

「それにしても、三年生か~」
「どうしたんだよ?」

不意にしみじみとした口調で話す唯に、律が声を掛けた。

「三年生と言えば一番上だよ!? うーん、私はどうすればいいんだろう?」
「まず目覚まし時計を正しくセットできるようにしろよ」
「というより、慎みを持てば?」

唯の言葉に、僕と律は半ば投げやりに答えた。
ちなみに、部室内でのキスの話は、完全にタブー扱いになっていた。

「ねえねえ、見て見て!」

そして廊下を歩いて昇降口へと向かい歩き出していた僕達を止めるように唯の声が聞こえた。

「どうしたんだよ?」
「これで、上級生っぽく見えるかな?」

そう言ってくる唯だが、

「どこが変わったんだよ?」

律の言葉通りだった。
全く変わっているところなど見受けられなかった。

(って、待てよ?)

もしかしたらそれかもしれないという答えが浮かんできた。

「まさか、髪留めを逆にしたとかじゃないよな?」
「ふんすっ!」
「あ、本当だ」

どうやら正解だったようで、胸を張りながら髪を右側にかき分けた。

(確かに変わってはいるけど、絶対にわからないだろう)

「分かりずらいから、却下」
「えぇ~~!!?」

どうやら律も僕と同意見だったようで、律の一言で却下となった。
そんなこんなで、僕たちはクラス発表が張り出されている昇降口前へと向かうのであった。





「うわー、すごい人だかり」

クラス発表が張り出されている掲示板の前にたどり着くと、そこにはすでに大勢の生徒たちの姿があった。

「クラス分けどうなってるんだろうね」
「さあ?」

ムギの問いかけに、僕は首をかしげながら答えた。

「また浩君と澪ちゅゃんが別のクラスだったりして」
「っ!?」

律の言葉に、澪の肩が震えた。

「律、あとでお話をしような?」
「ひぃ!?」

とりあえず、”浩君”と口にした律に制裁を下すことを決めた僕は、目の前の人だかりに視線を向けた。

「どちらにしても、これじゃ見えないよな」
「もう帰りたい……」

クラス分けをどうやってみるのか首をかしげている横で、澪は項垂れながら呟いていた。

(暗すぎるぞ、澪)

そんな澪に、僕は心の中でツッコんだ。

「それじゃ、ちょっと私が見てくるよ」
「おう、頼んだぜ!」

どうしようかと頭を悩ませている僕にをしり目に、唯は自信に満ちた表情でそう告げると両手を前方で重ねて人と人の間をかき分けるようにして飛び込んでいった。

(まるでカンチョウでもしそうな感じだな)

ものすごく下品なことを考えてしまった僕は、それを頭の片隅に(というより完全に抹消したい)追いやった。

(あそこの下駄箱を登れば見えるか)

僕もただ待つわけではない。
下駄箱の方によじ登ってクラス発表の掲示物に目を凝らした。

(3-1にはない)

左側から順番に名前を確認していくが、それらしきものはなく隣のクラスの名前を確認していく。

(なっ!?)

その瞬間、僕の体に電気が走ったような衝撃を感じた。
僕はゆっくりと地面に降りたところで、

「っと!?」
「えぇ!?」

後ろ向きに戻ってきた唯の背中を支えることで転ばないようにした。

「ありがとう、浩君」
「大丈夫か? 唯」

お礼を言ってくる中、転びそうになった唯に心配そうに声を掛ける律。

「そ、それでどうだったの?」
「それがね―――」

そして唯の口から衝撃のクラス構成が告げられるのであった。

拍手[1回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カウンター

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R