健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第18話 敵

「それじゃ、僕はこっち側の魔法陣を破壊してくる」
「私はこっち側ね」

夜、僕たちは久しぶりに魔法陣の破壊に動くことになった。
互いに拳を合わせて、僕たちはそれぞれ別の方向に足を進める。
その結果、僕はひどい現状を目の当たりにした。

「これで10個目……広範囲に仕掛けているようだな」

千軒院やほかの魔族たちの話では44の魔法陣が市街地に仕掛けられている。

「もう2時間30分。リミットは30分か」

たった10個だけでこれほど時間が掛かるということも想定外だった。
その理由は、魔法陣にあった。
この魔法陣はリ・クリエを加速させる可能性のあるものだということが分かった。
それと同時に、リ・クリエを安定させて発動できるようにする効果があることも。

(リ・クリエの加速の効果はともかく安定化の方は残しておいた方がいいな)

リ・クリエは強大な力を秘めている。
何よりリ・クリエは、代行者として天使・魔族・人間を憑代にする。
その為、普通では強大な力は手に余る。
それを安定化させることで、リ・クリエの成就がされやすくなると向こうは考えたのだろうが、それは逆にリ・クリエを止める際にこちらに有利になる。
暴走状態だと、止めるのに苦労するからだ。
よって僕が取った判断はそばにリ・クリエの進行を遅らせる効果等を持つ魔法陣の構築だった。
幸い、魔法陣の生成するスキルを持っていた僕は、それが可能だった。
神楽にはそれが分かったのと同時に念話で伝えた。
神楽には魔法陣の生成スキルが皆無だったため、九条家で待機してもらうことにした。

「天使の印を施せば……よし完成」

魔法陣に天使の印を結ぶことによって、誰にも破壊されないようにする。
天使の印は別名封印とも呼ばれ、その効果は人間にはもちろん魔族が破壊はおろか読み取ることが出来ない。
そして天使の文言(天界語)は、編んだ人物より下の者には解読こともできない。
僕は天使のさらに上の神族、更にその中でも最上級の力を持つ。
故に、これを破壊するのは神楽か創造の神であるノヴァの二人しか不可能だ。

「っと、タイムリミット」

時計を確認した僕は、合流予定時刻になったこと気付いた。
この日は結局10個の魔法陣の対処しかできなかった。

(最高神が聞いて呆れるな)

効率の悪さに、自己嫌悪を覚えながら僕は帰路につく。
そう、付くはずだった。










「「「「にゃー!」」」」
「っ!?」

流星学園に入って九条家の方に足を進めて行くと、僕は4体の魔族に囲まれた。

(姿が今までの魔族とは違う……第三勢力か)

その魔族は頭に耳、後ろの方には尻尾までついている、所謂猫のようなものだった。
何時もであれば一瞬でけりをつけるだろう。
4体程度で後れを取るほど弱くはないのだ。
だが……

(監視されてるな)

視られているような感覚が、僕に行動させるのを止める。

(今ここで天使の力も、魔族の力も使えない)

もし天使だということが知られれば、向こうは確実に動き出すだろう。
何せ、向こうには”天使”という仲間がいるのだから。
僕の事を知っているとは限らないが、知っていたとしたらまずい。
魔族の場合も同様だ。
僕はただの人間だと思わせておく必要がある。
そうすれば、相手には油断が生まれ、敵対した際に戦況はこっちに有利となる。

「だったら、やることは一つだけだ」

僕は懐から二本の刀を抜いた。
その刀は耐久力を少しばかり上げただけの、ただの刀だ。

「さあ、掛かってこい!」
「「「「にゃー!!」」」」

僕の声と同時に、猫魔族たちが鳴き声をあげて動き出す。
僕に迫るは紅く燃え上がる炎の魔弾と雷。

「ふっ!」

僕はそれを刀で捌く。
すると魔弾と雷はまるで最初から無かったかのように相殺された。

「「にゃ!?」」

攻撃してきた猫魔族たちは、驚きをあらわにする。

「高の月武術、」

その隙に僕は魔族たちの背後に移動する。

「斬っ!」

目にも留まらぬ速さで剣を数回振りきる。
それは僕が昔使っていた武術であった。

「やっ!」

その隙を狙っていた他の猫魔族たちの攻撃も、同様にさばくと素早く元いた場所に移動する。

(相手は隊列を組んでいるか。少々厄介だが何の問題もない)

相手にダメージを少しでは与えられているのだから、それは間違いなく言える。
だが、このままではじり貧だ。

(他に仲間を呼ばれでもしたら今のままでは戦局は大きく不利になる)

そう判断した僕は、撤退を取る。
神である僕が敵から尻尾を巻いて逃げるというのは、少々はばかられたが戦略的観点からとると、背に腹は代えられない。

「見なさいッ!」

僕は威勢よく叫ぶと、懐からカメラを取り出した。
それはポンポコというお店の主人の人から、ただで頂いたインスタントカメラだった。
最初は遠慮したが、『処分置き場所がなくて処分しようと思ってたところなんだ』という言葉でお言葉に甘えて頂くことにした。
ちなみにさすがにそれで帰るのは申し訳なかったので、他にも役に立ちそうなものをいくつかかったが。

閑話休題。

今、猫魔族たちの視線は僕の手にあるカメラに向けられている。
僕はそのカメラのシャッターを押す。

「「「「ニャー!!」」」」

次の瞬間辺りに走った閃光に、猫魔族たちは悲鳴を上げた。
それはカメラが発したフラッシュによるものだった。
その閃光によって猫魔族たちの視界は一瞬ではあるが塞がれた。
その一瞬が僕にとってはかなりの好機となった。
僕は素早く近くの茂みに飛び込んで身をひそめる。

(それにしても、監視されているとは………これは今後の活動方式を変える必要があるな)

近くをうろついている猫魔族に見つからないように息をひそめながら、僕はそう考えをめぐらすのであった。

拍手[0回]

PR

第17話 変化

11月2日

金曜日のこの日、プリエである変化が起きていた。

「今日ここでウエイトレスをやることになった……」
「パスタにゃ」

赤い髪に赤い目をした小さな女の子がウエイトレスとして来ていた。
来ている服はウエイトレスとしてふさわしいだろうが、耳としっぽが異様すぎる。

(ここまであからさまに”魔族”が来ると拍子抜けするな。もしくはばれないと思ってるのか?)

考えても答えは出ないので、僕はそこで考えるのを打ち切った。

「彼女の教育係は西田さん……は無理だから大森君。貴方に頼むわ」
「酷ッ!?」
「自分がですか?」

神楽の言葉をスルーしつつ、僕は主任に聞き返した。
自分は厨房で料理を作るのが仕事。
ウエイトレスではない。

「貴方の言葉使いとかから判断したのよ。普段それだけ礼儀が出来るのなら、彼女の教育もできるはずよ」
「……分かりました」

主任の評価に、喜んでいいのか迷いながら頷くことにした。

「あ、そうだ。しばらくの間厨房の仕事は休んでくれてもかまわないわ。そうね………3日ぐらいあれば十分よね」
「分かりました」

どうやら、僕は3日限定のウエイターになったようだ。
こうして僕は新人ウエイトレスである、パスタの教育係を務めることになった。










パスタにはウエイトレスとしての態度や流れを説明していった。
飲み込みはいい方であったが……

「何だお前ら。金がないなら出て行くにゃ、貧乏人はいらにゃいのにゃ!」
「お前なんか水で十分にゃ!」
「ここではお金を払う人だけが偉いのにゃ!」

これはパスタのお客さんへの暴言の一部だ。
もう一度言おう、一部・・だ。
そしてそのたびにいさかいが起きる。

「なッ!? あなた何様よ!」
「うるさいにゃ、注文しないのならとっとと出て行くにゃ!」

今もこうやっていさかいが起きている。

「こっちの方からお断りよ!」

そう言って立ち上がろうとする女子学生のテーブルの方に、僕は慌てて駆け寄る。

「すみません。すみません。私に免じてお許しください。彼女には私の方からきつく言いますので」
「ま、まあ……許してあげるわ。だからA定食をお願い」
「申し訳ありません。お詫びにA定食の代金は結構ですので」

何度も何度も頭を下げ続ける僕に、相手の怒りも収まったのか注文をしてきた。

「パぁスぅタぁ!」
「何だにゃ?」

僕はパスタにお仕置きをすることにした。
頭のこめかみに両手の拳を当てる。
そして一気に力を込める。

「この大馬鹿者がぁッ!!」
「うんにゃああああああっっっ!!」

梅干し攻撃に、パスタは絶叫を上げて気を失った。

「西田さん。馬鹿を仮眠室に」
「う、うん」

神楽は引きつった表情を浮かべながら、パスタを抱いて仮眠室に向かって行った。

(これで大丈夫なのか?)

「すみませーん」
「あ、はい!」

一概の不安を抱きながら、僕はオーダーを取りに向かうのであった。















11月5日

生徒会室では、リ・クリエの話が行われていたが、それはやがて苦情の話へと変わった。

「あ、そう言えば何か苦情が来てたって話が」
「プリエの新人アルバイトが横暴で、ウエイターがかわいそう……だそうよ」
「なにそれ?」

シンの疑問に答えるように聖沙が苦情の内容を口にすると、ナナカは首をかしげる。

「取りあえず、行ってみよう」

リアの一言で、生徒会メンバーはプリエへと向かうのであった。










浩介がパスタの教育係になってから、三日ほど経った。
パスタに対する教育は形式上一通り終わった。
そう、形式上・・・は。

「すみません。すみません。私に免じてお許しください。彼女には私の方からきつく言いますので」

今日もまた浩介hは、パスタの暴言の尻拭いに奔走していた。
彼女の暴言は、どんなに日が経っても無くなることはなかった。
いや、さらにひどくなってると言っても過言ではない。

「何だお前ら。金がないなら出て行くにゃ。貧乏人はいらないのにゃ」
(……次から次へとトラブルを招き入れる。不幸の招き猫か? あいつは)

再び浩介の耳に聞こえてきたパスタの暴言に、思わずため息が漏れそうになる。
もっとも、実際に猫ではあるが。

「うーん、美味しい! これ早く新メニューになると良いにゃあ。そうしたら毎日たかるのに!」

そんな浩介の心情など知らないとばかりに、パスタはさらにすごいことを言い放っていた。

「こらそこの貧乏人。がっくりしてる場合じゃない! お前の権力で1月を明日からにするにゃ!」
「ごめん、それは無理」
「本当に役立たずなのにゃ!」

肩を落とすシンにパスタは容赦なくそう言うと、プリエに来ていた彩錦が口を開く。

「パスタはん」
「なんだ良い人間? もう一つくれるにゃ?」

パスタは背後に潜む”それ”に気付くことなく聞くなか、彩錦はパスタの背後を見ながらこう告げた。

「厨房のおばちゃんと後ろの料理人がメンチきってはりますえ」
「っ!?」

彩錦が言い切るのと同時に、ぽふっと音がたてながらパスタの肩に手が置かれる。

「ふふ……ふふふ」

とても低く、冷たい笑い声にシンたちは一歩後ずさる。

「今日で僕の教育係の任もおしまいだ。どうだ? 今日でお前の命も終わらせてくれようか?」

パスタが感じたのは凄まじい怒気と殺気。
後ろを振り返らなかったのは、ある意味正解だろう。
今振り返れば、そこにあるのは狂気に満ちた浩介の顔なのだから。

「明日はねこ鍋定食か。そうだ。どうせなら暴言を吐いたお客様の目の前で解体ショーでも開いてくれようか? パスタ君」

ぞっとするようなことを告げる浩介に、パスタが取った行動は……

「ぎにゃああああ!! また折檻されるにゃあ! 絶壁悶絶唐辛子は嫌なのにゃ!」

大きな声で叫びながら、逃走を図ることだった。
だが、そのかいも空しくパスタはあっさりと厨房の主任に掴まり、そして

「ふにゃああああっっっっ!!!」

凄まじい悲鳴と共に、折檻された。

「お疲れ様どす」
「本当に申し訳……ありません」

それを見ていたシンたちをよそに、彩錦は浩介に労いの言葉を掛ける。
浩介は疲れ切った表情で謝っていた。

「ん? お前たちは……どうしたんだ?」
「あ、うん。ちょっとウエイトレスさんが横暴だって苦情が入ったからね」
「……本当に申し訳ない」

シンたちの存在に気付いた浩介の問いかけに、シンがここに来た理由を告げると浩介はさらに小さくなって謝罪の言葉を口にした。

「あ、いや、大森君が謝ることじゃないよ」
「そう言ってもらえるとありがたい」

浩介のため息は、彼の苦労を把握させるのに十分な物であった。

「彼女は物覚えはいいし、根は優しいんだが………」
「………苦労してるんだね」

浩介の言葉に、シンはその大変さを感じながら浩介に声をかけるのであった。
一方、その頃厨房では

「と、撮るな……ガク」

四肢を震わせているパスタを無情にも写真に収めている、アゼルの姿があったとかなかったとか。

拍手[0回]

第16話 昼休み

11月1日

もう流星町に来て2週間ぐらいは経った。
朝は旦那様たちの朝食を作り、学園のプリエでは料理を作ったりする。
昼休みの地獄はなんとか慣れてきた。

「うぅ、なんで私がこんなことを……あ、いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」

神楽も何だかんだ言いつつ、ウエイトレスをそつなくこなしていた。
そして今日も、いつも通りの一日が幕を開ける。

「あぁ、大森君」
「はい、何でしょうか?」

朝の連絡が終わり、各自準備に取り掛かっている中、僕は主任に呼び止められる。

「今日の10時から13時まではオフシフトで構わないよ」
「え? いいんですか?」

突然の休憩の連絡に、僕は嬉しさ半分不安が半分の心境で主任に尋ねた。

「構わないよ。いつも頑張っている君へのご褒美だよ」
「ありがとうございます」

僕は主任に頭を下げてお礼を言うと『さあ、早く支度をなさい』と言いながら去って行った。
そして僕も準備に取り掛かるのであった。










「それじゃ、休憩入ります」
「ゆっくりしてってね」
「ごゆっくりどうぞ」

主任に言われたオフシフトでもある十時、僕の呼びかけに、厨房にいたおばさんたちが口々に返してくれた。

「むぅ、浩ちゃんだけずるい」
「西田さん! てきぱきと動きなさい!」

神楽の恨み言とウエイトレスの先輩に当たる人の声を背中に受けながら、僕はプリエを後にするのであった。









「この辺りに来ると、静かになるんだな」

旧校舎の二階の廊下。
僕は休憩を取るべく静かな場所を探し求めていたらここにたどり着いた。
ちょうど生徒会室などがある校舎だ。
本当は図書館に行こうとしたが、あそこは逆に危険だ。
主に司書の人に怒られるという意味でだが。

「お、ここは鍵がかかってないな」

近くにあったドアに手を掛けるとすんなり開いたため、僕は中に入った。
そしてドアを閉める。
その部屋は奥の窓のそばにホワイトボードが置かれ、その左側には色々なファイルが敷き詰められている棚と、反対側にはポットの置かれたテーブル、その手前にはノートパソコンが置かれたテーブルがありさらに手前側にはソファーが置いてあった。

(どっかで見たような構図の部屋だけど、まあいいか)

疑問はあったが、今は眠気が勝っていたため、僕はソファーで横になると黒いマントを体に掛けて目を閉じた。
僕の意識は、すぐさま闇へと落ちて行った。


★ ★ ★ ★ ★ ★


浩介が眠りについた場所は、生徒会室。
生徒会の活動拠点の場所だ。
もしそのことを知っていれば、浩介はそこで仮眠をとるなどの事はしなかっただろう。
もっとも、知っていても浩介ならば平然と仮眠を取っていただろうが。
そして案の定、生徒会室に訪れる人物が現れた。
その人物は、黒いリボンでツインテールに結ばれた金髪の髪の女子学生だった。
腕には生徒会の腕章がつけられている。
その女子学生の名は聖沙・B・クリステレスだった。

「あれ? この人は……」

野菜スティックが入った容器を片手に入ってきた聖沙は、ソファーに横になっている浩介の顔を覗き込む。

「って、ここは生徒会室なのに、よく寝れるわよね」

あまりにも堂々と寝ている浩介に、聖沙は怒りを通り越して、呆れた表情でつぶやく。

「あの、起きてください。ここは生徒会室ですよ」
「すぅ……すぅ」

聖沙の呼びかけに浩介は起きるそぶりを見せなかった。

「………」

(きっと疲れてるのね。お姉さまの所で料理人をやってプリエの厨房で働いているんですものね)

無理矢理起こすのは川そうだと思った聖沙はいつも自分が座る椅子に、浩介を起こさないように静かに腰かける。
そして適当な資料を引っ張り出してそれに目を通しながら、野菜スティックを頬張る。
時々視線をソファーで規則正しい寝息を立てている浩介の方に向ける。

(本当に起きないわね)

そう心の中でつぶやく聖沙だが、その時浩介の様子が変化した。

「んぅ………」

どうやら眠りが浅くなっていたのか、紙の捲れる音に浩介は上半身を起こした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「んぅ………」

髪の捲れるような音に、僕は目を覚ました。

(人はいなかったはずだけど?)

そんな疑問を抱きながらも、時間を確認しようと時計を探す。

「起きたんですね」
「ん?」

突然かけられた声に、僕はその声のした方へと顔を向けた。
そこには椅子に腰かけて野菜スティックのようなものを手にしている金色の髪の女子学生だった。

「ここは生徒会室ですけど、何か用事でも?」
「生徒会室?」

女子学生の言葉に僕の中にあった疑問が解けた。
一度僕はここを訪れていた。
理事長に言われて差し入れを持って行ったときにだ。

「あの」
「あぁ、悪い。用はない。ただ仮眠を取ろうと思っただけだ」

いつまでも応えない僕を不審に思ったのかおずおずと女子学生が声をかけてきたので、僕は単刀直入に答えた。

「はい? でも、プリエにも仮眠室はありますよね?」
「勿論ある。それと、僕には敬語は不要だ。敬語を使うほどでもないからいつも話している風に話して」

女子学生の問いかけに答えつつ、僕は女子学生にそうお願いをした。
敬語を使われると、なんとなく居心地が悪くなるからだ。

「分かりました……じゃなくて、わかったわ」
「仮眠室にいても外が賑やかすぎて眠れない」
「な、なるほど……」

僕の言葉に、女子学生は困ったような表情で相槌を打つ。

「ここなら近くに理事長室があるから、相当な馬鹿ではない限り騒ぐようなものは来ないかと思ったんだが、生徒会室だったとは」
「あなた、一度ここに来たことがあるはずよ」

女子学生に言われて、ふと記憶をたどってみた。

「ああ、確かにそうだった」
「……忘れてたのね」
「忘れてはいない。ただ思い出せなかっただけだ」

女子学生のジト目に僕は反論する。

「人はそれを忘れていたというのよ」
「確かに」
「ふふふ」

女子学生の言葉に頷くと、クスクスと女子学生は笑った。

「ところで」
「何かしら?」

僕は今まで気になっていたことを女子学生に聞くことにした。

「昼食は、野菜スティックだけか?」
「え? そうよ」

一瞬呆けた女子学生は、頷いた。

「極端な食事制限ダイエットは、体に悪いぞ」
「なッ!?」

僕の指摘に、女子学生が声を上ずらせた。

「バランスのいい食事制限の方が無理のないダイエットが出来る」
「か、勝手にダイエットって決めつけないでッ!」

僕の言葉に女子学生が反論する。

「だったら……趣味か? 食事を制限して自分を虐げる」
「違うわよ!」

さっきよりも強い否定の声が帰ってきた。

「オーケー、理由は聞かないようにしよう」
「わ、分かればいいのよ」

素直に認めればいいのにと思いながら、僕は折れることにした。

「ところで、今何時かわかるか?」
「えっと、13時10分前よ」

どうやら話し込んでいたら頃合いの時間になったようだ。

「それじゃ、休憩時間が終わるから僕はお暇するとしよう」

僕はそう呟いてソファーから立ち上がると、出入り口のドアまで歩いていく。

「そうだ」
「何かしら?」

僕の呟きに、女子学生が首を傾げる。

「バランスのいい昼食を今度持っていく」
「え?」
「だから、バランスのいい昼食を持っていくと言ったんだ」

固まっている女子学生に、僕はもう一度言い直した。

「別に、恩を着せようという物じゃない。ただここを勝手に使ったペナルティーだ」
「い、いいわよ。貴方に悪いし」

変なところで謙虚だなと思いつつ、僕はさらに食い下がる。

「今のままの食生活を続けたら体調を崩す。バランスのとれた食事がどういったものか、見た方が分かりやすいだろ。まあ、僕のエゴだが」
「………分かったわ。お願いするわね」

今度は女子学生が折れた。

「了解。次に昼休みに休憩が取れる日程は、分かり次第、リアさんに伝言を頼む」
「お、お姉さまに!?」

僕の言葉に、女子学生は複雑な表情をした。

「安心しろ。リアさんには詳しくは話さない。ただ単に、休憩が合う日だけを伝える」
「そ、それならいいのだけど」

やはり、あまり人には知られたくないようだ。
まあ、当然だろうけど。

「それじゃ」
「ちょっと待って」

今度は僕が呼び止められた。

「貴方の名前、聞かせてくれるかしら? 私は聖沙・B・クリステレスよ」
「僕の名前は、浩介。大森浩介。それじゃ」

時間がないことから、僕はクリストさんに一礼すると生徒会室を後にした。

(さて、午後もしっかり頑張りますか)

僕はそう気合を入れながら、プリエへと向かうのであった。

拍手[0回]

第15話 図書館の恐怖と違和感

10月30日

僕は、放課後でプリエに来る生徒の数も落ち着いたため早上がりをさせてもらった。
そしてたまには読書でもと思い、図書館に向かうことにした。
そう、この後に恐怖が待ち受けるとも知らずに。










「ん?」

図書館に入ると、読書用のテーブルの前で紫色の髪をした女性……メリロットさんに生徒会長と会計の三人が集まっていた。

「何をしてるんだ?」
「あ、君は確か大森君だったよね」
「ちょっとねCDを探してるんだ」

声をかけると、会計と生徒会長が答えた。
テーブルの方を見ると、確かにCDのジャケットがあった。
ものすごくオロオロした感じのだが。

「ちょっと、拝見」

そして僕はCDジャケットを覗き見た。
『狂乱する神の下僕』、『呪われた床屋に刻まれし三つの聖痕』、『腐乱する不死者』、『道端の殺戮』、『豚殺しの朝を迎えよ』

「………」

一言で言えば、物騒なタイトルだった。
残っているCDジャケットの方も見てみた。

『聖なる虐殺』、『人類殴殺』、『殺戮の朝をおろがめ』、『黒大福教正義』
「生徒会長と会計は物騒な曲が好みなんだね」

おそらく今の僕の表情は引きつっているだろう。
というより、これはいくらなんでも物騒すぎるだろ。

「あ、僕の事はシンでいいよ」
「同級生なんだし、私はナナカで」

二人は苦笑いを浮かべながら、呼び方を言ってきた。

「にしても、これ一体何?」
「デスメタル……多分」

夕霧さんが微妙そうな表情を浮かべている。

「それにしてもタイトルもそうだが、ジャケットもあれなのばっかり」
「デスメタだからな」

僕のボヤキに、パンダが相槌を打った。

「………最近のパンダのぬいぐるみは、喋るようになったのか?」
「いや、そうじゃなくて……」

僕の問いかけにシンはどう説明したらいいのか分からない様子で答える。

「俺様は大賢者、パッキー様だぜ!」
「大森浩介、よろしく」

俺はとりあえずパッキーに自己紹介した。

「それじゃ、僕はこれで」
「あ、うん。また」

すんなりと慣れている僕に驚いた様子だったが、それを気にせず僕は本棚の方へと歩いていく。

(大賢者パッキーか。たしかあいつら・・・・がよく口にしていた名前だったっけ)

天界にいた頃に知り合った神としての年数では、先輩に当たる人物が時たま口にしていたので、よく覚えていたのだ。
尤も、ぬいぐるみの姿だとは思ってもいなかったが。
そんな時だった。
僕は赤い髪の女子学生とすれ違った。

「ッ!?」

その瞬間、彼女から”何か”を感じた僕は女子学生の向かった方向へ振り返った。
そこには同じように振り向く女子学生の姿があった。

「お前……」

女子学生は何かを言いかけたが、突然興味を失くしたように目を閉じると歩き出した。

(何だったんだ? 今の)

彼女から感じたのは、天使の気配でも人間や魔族の物でもなかった。
よく分からない感覚に僕は首を傾げる。

「ま、いいか」

僕は疑問を振り払うようにつぶやくと、本を探すべく本棚へと目を向けるのであった。

拍手[0回]

第14話 任務

理事長であるヘレナさんに、校内放送で呼ばれた僕は、理事長室前に来ていた。

「失礼します」

ノックをして一声をかけてから数秒置いてドアを開けた。
そこは理事長室だった。
いつも思うがビリヤード台は似合わないような気がする。
そんな理事長室にいかにも、な教師服を着込んだ銀色の服を着込み、銀色の長い髪を後ろの方で赤いリボンで泊めている女性が立っていた。

「来たわね」

そう言いながら、座っていた椅子から立ち上がると僕に近くまで来るように合図を出した。
僕は理事長席のテーブルの前まで歩み寄り女性の横に立った。

「紹介するわね。彼女は千軒院(せんげいん) 清羅(きよら)先生よ。彼女は来月から教育実習で教鞭をとるわ」
「千軒院です。よろしく」

ヘレナさんの紹介に、千軒院さん(ここは先生と呼んだ方がいいか)は興味がないのか、簡潔に自己紹介をした。

(って、あの人ッ!)

僕には千軒院先生に見覚えがあった。

「浩介ちゃん、自己紹介」
「あ、すみません。大森浩介です。宜しくお願いします」

ヘレナさんに促されるように、僕は自己紹介をした。

「それで、用件と言うのは?」
「君を呼んだのはほかでもない。彼女の校舎案内をして貰いたい」

僕の問いかけに、ヘレナさんはどこかのセリフのごとく答えた。

「あ、案内!?」

僕は思わず声を荒げてしまった。

「一応尋ねますが、僕はまだここに来たばかりですよ?」
「ええ、分かってるわ」

僕の問いかけに、ヘレナさんは表情一つ変えずに頷いた。

「そんな僕が、先生の校舎案内をするというのは無理があります。生徒会長殿に案内させればいいではないですか」
「シンちゃんは今、忙しいのよね~。それに浩介ちゃんにも十分に案内できると思うわよ。あなたが必要だと思う場所を案内するだけでいいわ」

『だからお願いね』とヘレナさんは最後に付け加えた。
拒否したら何をされるかわかったもんではない。

「分かりました。校舎案内の役割……拝命いたします」

だからこそ、僕はヘレナさんのお願いを聞くことにした。
尤も、最初から僕には拒否権はあって無いようなものだが。

「うむ、健闘を祈る」

こうして、僕は教育実習生の校舎案内と言う、無理難題の任務を与えられるのであった。










「ここがプリエです。学生や教師の大半がここで昼食を取っています」
「そう」

最初にやってきたのは、僕にとってはお城のような場所の食堂であった。
僕の説明に、千軒院先生は興味な下げに答える。
そこを後にして、次に向かったのは教会だった。

「ここは教会です。日曜日になると一般開放されるらしいですよ」
「………」

今度は無言だった。
そして再び歩き出す。
今度来たのは高い塔の様なものがある広場だった。

「この塔は『フィーニスの塔』と言いまして、天高く建てられているので名づけられたらしいです」
「なるほど」

どうやら今度は少しだけ興味を持ってもらえたのか、千軒院先生は塔を見上げている。
その後、新校舎は旧校舎等々、必要最低限の学園内を案内して回った。

「ここがグラウンドです。主に部活動などで使われたりします」

そして、今来ているのがグラウンドだ。
ここが最後の場所だ。

「それじゃ、理事長室に戻りましょう」

僕は千軒院先生にそう告げる。
千軒院先生はゆっくりとした足取りで、歩き出した。
それを見た僕はその後を追うように歩き出した。










(やっぱり似ている)

理事長室に向かう道中、横目で彼女の姿を見るがこの間の女魔族にそっくりだった。
魔力の波動パターンを取っていないので断言はできないが、目の色から彼女は魔族だろう。

(僕の知り合いで魔族はこれで6人か)

一人は図書館の司書。
二人目は生徒会長
三人目は会計
四人目はお蕎麦屋さんの主人
五人目はナンパ男
そして六人目がこの千軒院先生だ。

(ここまでくれば偶然を通り越して策略を感じるな)

思わず苦笑いをしそうになるのを必死に堪えた。
とりあえず今後は彼女を要注意人物にしようと、一通り考えをまとめた時だった。

「あなた」
「はい、なんでし―――ッ!」

突然声を掛けられ僕が返事をしようとした瞬間、僕の顎に千軒院先生が手をかけると顔を持ち上げて僕を覗き込むように見た。
そんな状態に、鼓動が早くなるのを感じた。

「あなた、何者?」
「な、何者……とは?」

千軒院先生の問いかけに、さらに鼓動が早くなるのを感じた。
僕は表情一つ変えずに千軒院先生に聞き返した?

「あなた、人間じゃないわね」
「な、何を言ってるんですか? そりゃ人より運動神経は良いですけど、人間ですって」

冷や汗を流しながら、僕は千軒院先生の言葉に反論した。
僕の反論を聞いた千軒院先生は妖しげに笑うと、そっと僕の顎から手を離した。

「あなた、名前は?」
「え?」

突然の千軒院先生の問いかけに、僕は聞き返してしまった。

「名前を聞いているのよ」
「大森浩介です」

前にも自己紹介しただろという言葉は胸の奥に留めておいて、僕は名前を告げた。

「そう。覚えておくわ」

そう言うと、口を噤んでしまった。
僕たちは再び歩き出すと、理事長室へと向かうのであった。
こうして、僕の無理難題な任務は無事(?)幕を閉じるのであった。

拍手[0回]

カウンター

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R