健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第13話 今後と差し入れ

「それじゃ、魔族の二人がこの町に、魔法陣を設置しているので、間違いないんだよね?」
「ああ、この耳でしっかり聞いたから間違いはない」

あの後、僕と神楽は合流してお互いの結果を話した。
神楽の方は何ら異常はなかったとのこと。
まあ、図書館の方から不審な気の流れを感じると言っていたが。

「それにしても、やっぱり天使族は何も行動をしないんだね」
「仕方があるまい、もし動いたとしても、おそらく太刀打ちは出来ないだろうよ」

神楽が苦虫を潰したような表情でつぶやくのに対し、僕はそう感じていた。

「どういうこと?」
「女性の魔族は雑魚だが、男性の方は違う。あれは歴戦の戦士……いや、狂戦士と言った方が妥当なほど、強い。周囲の些細な気配だけで僕の居場所を把握できるのだからね」

僕は、あの男の人から感じた気配を説明した。
一見無防備にも見えるが、遠くの方に潜んでいた僕を見つけるという芸当を披露したのだ。

「……その男の魔族に注意すればいいんだね?」
「ああ、妨害している僕たちの事に気づかれ、ましてや正体まで気づかれたら確実に厄介だ」

神楽の確認に、僕はそう返した。
勿論、負けるからという意味ではない。
ただ、仲間などが来たり正体が敵方に知られ行動が取り辛くなってしまう可能性があるのだ。
それだけは避けなければならない。

「万が一魔族の二人、天使と遭遇したら一般人を装え」
「了解!」

とりあえず今後の計画はまとまった。
なので、僕たちは九条家のお屋敷へと戻ることにした。















10月29日

翌日、僕はいつものように料理を作って旦那様方にふるまった。

「大森、少しは慣れてきたか?」

厨房で食器を洗っている時、倉松さんが話しかけてきた。

「あ、はい。おかげさまで何とか」
「そうかそうか。その調子で頑張ってくれ」

倉松さんは僕の答えに満足げに呟くと、自分の仕事に戻って行った。
そして、僕は食器洗いを終えプリエに向かうのであった。









「よし、これで今日は終了かな」

放課後、人の来店数が落ち着いてきたので、僕は伸びをしながら呟いた。
そんな時であった。

『浩介ちゃん浩介ちゃん、理事長室まで急いできてね。来てくれないとあ~んな事や、こ~んな事をしちゃうからね~』

校内放送のようなものでヘレナさんが、僕を呼び出したようだ。

(って、あの人はまともに呼び出しもできないのか?)

あまりの内容に、僕はため息をこぼした。
そして理事長室へと向かうのであった。











「失礼します」
「お、速かったね。さすが浩介ちゃん」

理事長室に入ると、ヘレナさんがいつものように笑顔で出迎えた。

「それで、用件は?」
「少し前にプリエで買ったこのケーキを、生徒会室に届けてほしいのよ」

そう言ってデスクに置いたのは、確かにプリエで売っているものだ。

「まさか、それだけですか?」
「そうよ。やってくれるわよね?」

僕の問いかけに、ヘレナさんは当然だと言わんばかりに答えるとそう聞いてきた。
僕には、頷く以外選択肢はなかった。
そして僕は、ケーキの入った箱を手に生徒会室へと向かうのであった。










「ここが生徒会室だな」
『あのねロロットちゃん。病気で休んでたのに出てきて大丈夫なの? という発想はないのかな』

中に入ろうとしたら、中からリアさんの声が聞こえた。

(リアさんって生徒会の人だったのか)

そんな事を思っていると、再び声が聞こえてきた。

『おおっ。それは目からロココです。さすが、おっぱいが大きいだけのことはありますね』
「それを言うなら、目からウロコだ!」

思わず、扉を開けてそうツッコんでしまった。

(あーあ、みんながこっち見てる)

「あれ、大森さん? なんでここに」
「おお~、あの時のシェフさんです!」

それぞれが違う反応を示す中、僕は手にしているケーキの入った箱を机に置いた。

「色々あって、今はここのプリエで料理人として働いているんで」
「えぇ!? 浩介君って、プリエでも働いていたのッ!?」

僕の説明に驚くリアさん。
というより、なぜ驚く?

「え? お姉さまのお知り合いの方ですか?」
「これは、ズバリ! 恋人ですね!!」
「「「「こ、恋人ぉ!?」」」」

金色の髪をした女子学生の問いかけに、ローゼン・クロイクさんが、とんでもない爆弾を投下した。

「えぇ~!?」

リアさんは頬を赤くして固まっている。

「違うからっ! 彼女の家に料理人として仕えているだけだ!!」
「そ、そうだったのか―」
「そ、そうだったんですか」

頷いていたり、ほっとしていたりするものと様々だった。

「ふむふむ、これは執事とお嬢様との禁断の――「ほざくのも大概にしろよ?」――はぅわ!?」

取りあえず、クロイトさんは強引に黙らせることにした。

「と、ところで、この箱は?」
「ああ、どこぞの謀略野郎にここに持ってくるように言われたから持ってきただけ」
「謀略野郎? それって一体―――」

金色の髪の女子学生の声を遮るようにして、再び校内放送のチャイムが鳴る。

『浩介ちゃん浩介ちゃん、今すぐに理事長室に来てね』

それだけ言うと、放送を終えるチャイムを鳴らした。

「「「「………」」」」」

全員が、固まる中一番最初に口を開いたのは……

「あはは、ごめんね」

苦笑いを浮かべて謝るリアさんだった。

「はぁ……失礼」

僕はため息交じりに生徒会室を後にした。

(あ、そう言えば自己紹介とかしてなかったけど……まあいいか)

そんな事を思いながら。

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第12話 見回りと遭遇

夜、僕と神楽は九条家の屋敷の前に集まっていた。

「神楽、首尾は?」
「うん、ばっちりだよ。プリエの清掃をするって言ってきた」
「僕の方も万全だ。プリエの明日の仕込をしに行くという名目さ」

僕達は抜け出す口実を作り出し、九条家の屋敷を出てきたのだ。
だが、その旨半分は嘘だ。

「神楽は向こうにある塔の左側を、僕は右側を調べる」
「了解!」

薄っすらとではあるが見える、大きな塔の様なものを目印に、僕は見回りの領域を決める。

「ちなみに、歩きながらマッピングするのも忘れずに」
「分かってるわよ。それじゃ、終わったらここに集合ね」

そんなこんなで、僕たちは見回りを始めた。
神剣を片手に僕は道と言う道を突き進む。

「ここは噴水広場のような場所か」

少し歩くと最初にたどり着いたのは、噴水広場のような場所だった。
そこを一通り歩くが、特にこれと言って反応はなかった。
その後、教会や高い塔の周辺や、グラウンドを歩くがこれと言って問題はなかった。

【神楽、そっちの状況はどうだ?】
【こっちは順調だよ。ただ図書館の方に魔法陣が組みこまれていたんだけど、特に害のあるものじゃなかったから放置して置いたけど】

神楽の報告に、僕は少しだけ考えをめぐらす。
図書館に魔法陣を組みこむにはそれなりの理由があるはずだ。
そもそも図書館に魔法陣を組みこむ必要性は感じられない。

【そうか。こっちも順調だ。何も問題は………】

僕が念話で神楽にそう報告している時だった。
小高い丘のような場所に、その姿はあった。
黒い服に袖と襟に白い者がつけられた服を着る金色の髪の男、その前には帽子をかぶった赤い髪の女子学生、そしてその横に銀色の髪を後ろに束ねている一見女教師に見える人物の三人がいた。
僕は、とっさの判断で近くの茂みに身をひそめた。

【どうしたの? 浩ちゃん】
【悪い、ちょと切る】

僕はそう告げると、念話をうちきる。
三人は何やら話をしているようだ。

(明らかに怪しい)

僕は不審に思った。
あの三人は、明らかに場違いなのだ。

(っち、もう少し隠れられるような場所があれば)

運が悪いことに今身を潜めている場所から離れると、三人のうち一人に見つかってしまう。

(仕方ない……聴力強化でもするか)

僕はそう考えると聴力を強化して、聞き耳を立てた。

「その姿をしているということは、市街地での魔法陣の設置は終了した……ということか」

聞こえてきたのは、男の人の声

「そう。予定されている77の魔法陣のうち、市街地の44の魔方陣は設置完了よ」
「確認した」

銀色の女性が答え、それに付け足すように赤い髪の女子学生が口を開く。

(市街地に魔法陣を設置だと!? クソッ! 僕としたことが)

僕は自分の未熟さを祟った。

「残りは?」
「私とパスタが学園に潜入し、作業に当たるわ」

男性の問いかけに、銀色の女性が答える。

(そうか、パスタと言う人物と、あの女性が潜入するんだな)

僕は入手した情報を整理する。

「妨害の可能性は?」
「天界に動きはない」

男性の問いかけに、赤い髪の女子学生が答えた。

(あの女子学生が裏切り者の天使か)

僕は、女子学生の言葉からそう断定した。
やはり、タレコミは本当だったのだ。

「奴らには、争いを起こす気概などないからな」
「そうでなければ、一時とはいえお前らとは組まぬ」

どうやら、この三人は仲が悪いようだ。
だが、何だかの目的のために手を組んでいるのだろう。
その後銀色の女性は七大魔将について説明を始めた。
その過程で分かった事だが、どうやら朝あったナンパ男のメルファスさんは、七大魔将で魔族の様だ。
まあ敵でないのなら、特に拳を構える理由はないが。

「貴方の気にしている魔王が、出現した兆候はないわ」
「単なる言い伝えだ」
「いいや、魔王は実在する。リ・クリエが臨界に達した時、魔王は必ず現れる」

男の人は”魔王”という人物が現れることを待ち望む子供のような感じが声から聞き取れた。

(これは、色々と大変なことになった。すぐに神楽と対策を取らなければ)

「はぁ!!!」
「ッ!?!?」

突然男の人の声と同時に何かが真横に着弾した。
それは、魔法弾だった。

(まさか見つかってた!?)

「そこに隠れている奴。出てきたらどうだ!」
「愚かね、私達をこそこそ嗅ぎまわるなんて」

男の人声と同時に、銀色の髪の女性の声がする。
しかもどんどんと近づいてきているようだ。

(やばいな、早く逃げなければ)

僕は、そう判断すると、茂みの奥の方へと進んでいく。
地面に生えている草が当たってかなり痛いが、それを気にせずに突き進む。
そして、少し行った所で植込みがあったので、僕はそこに入り込んで息を殺す。
さらに念のために、認識阻害を施した。
それからしばらく待っても、彼らが来ることはなかった。

(早く神楽と合流して報告しよう)

僕は念のために周辺の状況を探知しながら、小高い丘の方へと戻るのであった。

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第11話 キラフェス~午後の戦いと念願の~

「すみません、遅れました!」
「いや、大丈夫。9秒前だ」

あの後、茫然としていた僕は時間を確かめて驚いた。
なんと、僕が厨房に戻る時間の5分前だったのだ。
大慌てでプリエに戻ったが、何とか間に合ったようだ。

「休めたのか?」
「はい、おかげさまでゆっくりと」

今までで入っていたシェフの問いかけに、僕はそう答えた。
実際に眠っていたらなんとかなった。

「さて、俺達も休ませてもらうとしようか」

そう言ってシェフは奥の方へと入って行った。
おそらく着替えるのだろう。

「さあ、大森君もぼけっとしない。オーダーが山のように入ってるんだ」
「はい、わかりました!!」

主任に急かされるまま、僕は奥の方に向かい服を着替えるのであった。
その後……

「カレーライス大盛りを一つ」
「野菜定食を下さい」
「贅沢イチゴのショートケーキを10個ください」

次々とオーダーが入って行く。
そして、僕は急ピッチでオーダーされた料理を作って行く。
それにしても、最後の人はそんなにケーキを頼んで何人で食べるつもりなのだろうか?
まさか全部一人で食べるなんてことはない……よな?
そんな想像をしつつ、僕は割り当てられた10品の料理を作って行くのであった。










『これをもちまして、流星学園キラキラフェスティバルを終了いたします。皆さん、お疲れ様でした』

時刻は夕方。
女子学生のアナウンスが聞こえてきた。
それと同時に、厨房にいた人たちはウエイトレスたちが拍手を上げる。
僕と神楽もそれに倣って拍手をする。
それは、僕たちの地獄のオーダーから解放されたことの証でもあった。

「皆さん、今日一日お疲れ様でした。皆さんのおかげで本日のキラキラフェスティバルは、無事に終えることが出来ました」

少しして主任に集合させられた僕たちは、主任の言葉を聞いていた。

「今後も変わらなぬ努力をし、頑張ってください。お疲れ様でした」
『お疲れ様でしたー』

主任の話が終わり、僕たちは一斉にそう声をあげた。
その時の達成感は、非常に心地よい物であった。
その後、僕たちプリエにいる者全員で、プリエや厨房の清掃をすることとなった。

【神楽、今夜動くぞ。準備をして九条家前に集合を。見つかった際にする言い訳も考えておくように】
【分かったわ】

その際、僕は念話で神楽に指示を送った。
少しずつ余裕が出てきた今しか動くタイミングはない。
今夜、ようやく念願の流星学園内の、総チェックが出来るのだ。

(さて、どういう言い訳にするか)

僕は清掃をしながら、言い訳を考えるのであった。

(そう言えば、さっきのアナウンスの女子学生の声、落ち着きなく僕にメルファスさんの居場所を聞き出そうとした人と同じ声のような………ま、気のせいか)

一瞬頭の中に浮かんだ疑問に、僕はそう結論付けると清掃をするのであった。

「西田さん! しっかりやりなさい」
「は、はい!!」

どこかでそんな声が聞こえたのは、きっと僕の幻聴だろう。

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第10話 キラフェス~新メニューとナンパ男~

10月27日

ついにこの日がやってきた。
そう、学園の行事である『キラフェス』が!!
そう言えば、このキラフェスと言う名前……正式名称があったようだけど、一体なんだったっけ?

(思い出せないんだから、大したことではないのかも)

「おはようございます。今日は『キラキラフェスティバル』です。ここに訪れるお客さんに、誠心誠意の接客を心がけるよう」
『はいっ!』

主任の朝の挨拶にウェイトレスや、僕達厨房のシェフが一斉に返事をする。

「今日のシフトは皆さんにお配りしたとおりです」

今日はどうもシフト制の様だ。
ちなみに僕は午前中が自由行動となっている。
その理由としては、僕に課せられた新メニューだ。
あの図書館での一件の後、事情をすべて話した上で、新メニューを作り完成したケーキを主任に試食してもらい、OKが出たのが午前3時。
それから朝の仕込などをして、それを終えて戻れるようになったのは、日が出た時間帯だった。
一睡もしていない僕の言葉を聞いた主任が、気を回してくれて僕に午前中の自由行動という名目の、休憩時間を与えてくれたのだ。
いや、当日にシフトが公開されることになっていて本当に助かったよ。
ちなみに、僕の考案した新メニュー『贅沢いちごケーキ』は、しっかりとメニューに大々的に乗っている。
何だか自分の考えた料理が、メニューに乗るというのは、とてもこそばゆい物だ。

「それでは、自由行動組は、時間まで学園内を見て回るなりして楽しんでください。シフトがあるものは準備を」

主任の言葉を聞いた僕は、ふらつきながらプリエを後にした。










しばらく歩いて、たどり着いた敷地内の木々が生い茂る脇道のような場所の草むらに生えている大きな木の幹に、僕は寄りかかるように腰かけた。

(ん? もう始まったのか)

それからしばらくして聞こえてきた周りの喧騒に、キラフェスが始まったのを悟った僕は、出る際に持ってきていた袋の中から、チーズケーキを一個取り出した。
それは、先日プリエで買い置きをしていた物だ。
この日の自由行動時に、ゆっくり食べようともくろんでいた。

「うーん……やっぱりチーズケーキは神の御業だ」

僕は、チーズケーキに舌鼓を打って、周りの景色を眺める。

(和やかだ)

久しぶりにのんびりとできたような気がする。
この一週間は色々とドタバタしていたからね。

「あれ……何だか眠く………なって……き――――」

突然僕を襲った睡魔に抗うことが出来ず、僕は眠りに落ちた。










「――い。君、起きてください」
「うぅ……ん」

誰かに体を揺さぶられながら掛けられる声に、僕は眠い目をこすりながら周りを見る。
すると、目の前に見える人の姿。
ゆっくりと顔を上げ、その人物の姿をしっかりと見た。

「起きたようですね」
「あ、起こしてくれたんですね。ありがとうございます」

僕は、立ち上がって男の人にお礼を言った。
その男の人は、僕のよりも少しばかり背が大きく、眼鏡をかけタキシードのようなものを着込む一見すればどこかの社長にも見える人だった。

「いえいえ。道端で眠っている君がいたので、差し出がましいとは思いましたが、お声を掛けさせていただきました」

すると、男の人はメガネを持ち上げるしぐさをして、僕を見る。

「ところで、君。お名前は?」
「………どうして名前を聞くのです? それに人に名前を尋ねるのであれば、まずは自分から名乗るのが礼儀ですよ?」

男性の問いかけに、僕は少しばかり目を細めて問い返す。

「失礼を。私が美しき女性以外に声をかけたのは、君が初めて……ぜひとも記念にお名前を伺いたいと思った次第です。私の名は、メルファスと申します。以後お見知りおきを」
「大森浩介です」

男性……メルファスさんに、名前を告げた。

「一ついいですか?」
「ご髄に」
「あなた、まさかなりふり構わず、美しい女性に声をかけていませんか?」

僕は、気になった事を聞いてみた。
すると、メルファスさんは

「ええ」
「そうですか………相手が嫌がるそぶりを見せたら、潔く引いてくださいね? しつこい男は嫌われるそうなので」

ナンパ男だと知った僕は、ため息をつきながら、忠告した。

「ご忠告ありがとうございます」
「あ、それと……起こしてくれたお礼には足りませんが、これをどうぞ」

僕はそう言って手にしていた袋をメルファスさんに差し出した。
それを見たメルファスさんは、一瞬驚いた風に僕を見る。

「よろしいのですか?」
「ええ。ご迷惑でなければ」
「それでは、ありがたく受け取らせていただきましょう」

僕の差し出した袋を受け取ったメルファスさんは、僕に一礼する。

「それでは、また縁がありましたらお会いしましょう。アディオス」

そう告げた瞬間、バラの花びらが舞い狂う。

「うがッ!? ッぺ! ッぺ!」

その花びらが口の中に入り、僕は慌ててそれを吐き出す。
そして、その光景に混ざるように、メルファスさんは走って行った。
………消えるんじゃないのか?

「すみません!!」
「のわぁ!?」

いきなり背後から掛けられた大きな声に、僕は飛び跳ねてしまった。
声のする方を見ると、金色のツインテールの女子学生と黒髪の女子学生が立っていた。
何だか、二人とも殺気立っていて怖い。

「さっきここを変な男の人が通りませんでしたか?!」
「あ、えっと……その人でしたら、あっちに」

彼女の剣幕に押されるように、僕は先ほどメルファスさんが去って行ったであろう方向に指差す。

「ありがとうございます!!」

僕の指差した方向に向かって、女子学生達は走って行った。

「………最近の女子学生は、活発だよな」

半分呆れと時代の流れを感じながら、僕はそう呟くのであった。














■おまけ■

とある日の天界……浩介達しか入ることのできない場所。

「ねえねえ、鍋料理を食べよう!」

それは、神楽の一言が始まりだった。

「鍋料理? 確かに体はあったまるだろうが、一体何の種類にする気だ? おでん?」
「闇鍋!!」

浩介の問いかけに、神楽は胸を張ってこたえる。

「はぁ!? 神楽、落ち着きたまえ。早まるな!!」
「何よ、別に死ぬわけじゃないんだから、良いじゃない」

血相を欠いた様子のノヴァの制止に耳を貸さずに、神楽は準備を進める。
既にコンロと土鍋の用意はできていた。

「後は……」

神楽が指を鳴らした瞬間、

「うわ!?」
「神楽! 周辺を黒く染めて辺りの景色を見えなくさせるのはやり過ぎだ!!」

今まで白一面の世界が、まるで闇に包まれたかのように真っ黒になっていた。

「ふふふ、これこそが闇鍋! 毒を食らわば皿までという言葉を知らないの?」
「それ、用法的に間違っているぞ!?」
「しかも自分で毒って言ってるし!?」

浩介とのヴァのツッコミが入る中、二人の目の前に闇鍋の具材が入った器が置かれた。

「さあ、召し上がれ」
「「………い、いただきます」」

戦々恐々の面持ちで、それを口にする二人。

「「ッ!? ~~~~~~~~ッ!!!」」

そして、そのあまりの味に、二人は地面をのた打ち回る。

「うーん……まだまだ足りないわね。ここはハバネロを入れて……」
「「――――――――」」

二人が気絶していることにも気づかず、神楽は淡々と料理を続けた。





その後、神楽は二人によってきついお灸が据えられたのは言うまでもない。

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第9話 地獄の先は地獄?

かくして始まった僕と神楽の追いかけっこ。
フライパンを振り回しながら僕は追いかけ続ける。

「待て! このケーキ泥棒!!」
「待たないよ!? というより、ケーキ一個で大げさだよ!!」

神楽の一言に、僕の中で、さらに何かが切れる音がしたような気がした。

「もう容赦はしない! フライパンがへし折れるまで叩き潰すッ!!!」
「もうそれただの逆恨みだから!!?」

そのまま逃げる神楽を追いかけ、大きな屋敷の前の道を伝いに、再び学園の方へと向かって行く。
後日考えればそこは九条家の屋敷前だったが、今はそんな事は頭に浮かばなかった。
そして、そのまま校舎の中に入り、階段を上がって行く。

「待て!!」
「待たないよ!!」

そう答えながら、ドアを開くと中に入った。

「待てやごらぁ!!!!」
「うおわああ!!?」

部屋のドアをけり破って中に入り、窓際にいた神楽へと突進する。
その部屋には栗色の髪の女顔の男子学生と、赤い髪をした女子学生がいたが、それにかまわずテーブルを飛び越えながら、フライパンを振りかぶる。

「チェストォォォ!!!」
「きゃああああ!!?」

当たると思ったその一撃は、神楽がその場を離れたことにより不発となった。
さらに、神楽の後ろにあった窓ガラスを思いっきり粉砕した。

「待てぇ!!!」
「ちょっと、これどうするんだ!?」

後ろから声が聞こえたが、構っている暇はない。
廊下に出ると、そこには上へと続く階段のようなものがあった。
しかも閉まりかけている。

「させるかぁ!!」

僕は豪快に階段に飛び乗ると、一気に駆け上がり3階へと足を踏み入れた。
そこは何もなく、奥の方に駆けて行く神楽の姿を見つけた。

「逃がさないぞ! 神楽!!!」

神楽を追いかけながら、僕は声の限り叫ぶ。

「もう勘弁して!!」

神楽も神楽で、そう叫びながら隠し階段を下りて行く。
僕もその隠し階段をほぼ飛び降りるように、降りていくとそこはヘレナさんが言っていた『新校舎』という場所だった。

(どこに行きやがった!)

僕はあたりを伺う。
すると、外の方に出て行く神楽の後姿があった。

「見つけたぞ!! 待て!!」

そして僕も駆けだした。
再び補足した神楽と僕との距離を、徐々に縮めながら追いかける。
敷地内を抜けると、最初に降り立った場所……高い塔のある場所にたどり着いた。

「待て神楽!! 今なら500回で勘弁してやるからさぁ!!!」
「それ勘弁してないよね!? というより、浩ちゃん目が血走ってるぅ!!」

なんだろう、こうしてるのが楽しくなってきた。
これがいわゆるランナーズハイだね!
高い塔の前を通り過ぎた僕たちは、今度は広いグラウンドのような場所に出た。
そこの長距離走などで使う、ラインが入った場所を走る。

「ほらほらほらほら!」
「もはや言葉が出せなくなってるよ!?」

グラウンドを5周ほどした後、神楽は抜けるように走り去る。
それを追いかけるようにして、僕も追いかける。

「ここの中に、かくまって貰おう!!」
「ははははは、待てぇ!!!」

西洋風の大きな建物の中に入って行った神楽を追い、僕も中に入る。
そして、僕は神楽を的確に角へと追いやって行く

「これが本当の袋の鼠だ!!」
「し、しまったぁ!? 間違えて奥の方に!!」

神楽は、慌てて周囲を伺い逃げる場所を探しているが、全ては無駄なあがきだ。

「神楽、覚悟ぉぉ――――ッ!?」
「ッ!?」

フライパンを頭上に構えた瞬間、僕は固まった。
それは神楽も同じようで、息をのんでいた。
まあ、神楽の場合は別の理由だろうが。

「そう言えば、ここってどこ?」
「えぇっと……図書館の様だね」

死に物狂いで追いかけっこをしていたことなど、すっかり頭の中から吹っ飛んでいた僕達は場所の確認をした。

「図書館内は、静かにすることがマナー……だよな?」
「ええ……私達は、見事にそれを破ってたよ」

神楽と確認し合うようにつぶやく僕たち。

「僕さ……後ろを振り向きたくないんだけど」
「同感ね。私も今は浩ちゃんの背後を視たくはないかな」

この時の僕たちの表情は、引きつっていたと思う。
何せ、僕の真後ろから鋭い槍のように怒りの感情を含んだ視線が突き刺さっているのだから。
僕は、壊れたロボットのごとく、振り返った。
そこには……

「図書館内は、お静かに」

万弁の笑みを浮かべているメリロットさんがいた。

「あれ? なんで肩を掴むの? そしてどこに連れて行くつもり!?」
「ふふふ、少しだけお話をしましょう。大丈夫、お茶菓子もたっぷり用意してありますから」

右手で神楽の腕を、左手で僕の腕をつかむと、ものすごい力で引きずって行く。

「僕は被害者ぁ~!!!!」

僕の叫びは、図書館内に虚しく響く。
そして、それから数分後……

「「ぎにゃああああああああ!!!」」

僕と神楽の悲鳴が響き渡っただろう。
それから後の事は、覚えていない。

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