健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第22話 テスト

同日、浩介が歩き出してからしばらく経った時、周囲に樹が生えている通学路を歩く一人の少女の姿があった。
「まったく紫央ったら。いきなりなのよね」

愚痴をこぼしながら歩く聖沙の手には、手提げ袋があった。
その中身は、全て小説だったりする。

「はぁ……咲良クン達に見つかったらどうしよう」

聖沙の不安点はそこだった。
彼女の目的地、『飛鳥井神社』へと向かうためには通学路を通らなければいけない。
そこは彼女のライバルでもあり生徒会長でもあるシンの通る道でもあるため、ばったり鉢合わせをしないかが不安なのだ。

「とにかく早く行きましょう」

聖沙は自分に言い聞かせるように口にすると、早足で歩く。
そんな彼女の姿を後ろで見ている存在にも気づかずに。










「にゅっふっふ」

彼女より背後の方で猫魔族三体を従えて立っている少女―パスタ―は、聖沙の後姿を見て不敵の笑みを浮かべる。

「クルセーダースを見つけたにゃ。この間のお返しをしてやるにゃ!」

パスタはそう口にすると、従えている猫魔族三体にGoサインを出す。

「「「ニャー!」」」

Goサインを出された猫魔族三体は、一気に聖沙へと迫る。

「「「ニャー!!!」」」
「えっ!?」

突然背後からしたその声に振り返る聖沙は、自分へと迫る複数の攻撃魔法が目に留まった。

(当たるっ!)

「っ!!」

もうだめだと思い、来る衝撃に備えようと目を閉じた。

(あれ? 痛く……ない)

いつまでも来ない痛みを不審に思い、恐る恐る目を開ける。

「え?」
「大丈夫か? お嬢さん」

彼女の目に見えたのは、風になびく白いマントを付けた男だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


(そうそういるわけではないよな)

歩き出してから早、小一時間経った。
戦果は全くなし。
というより戦いすらもない。
まあ、それはいいことなのだが。

「………っ!」

そんな時、僕の本能の部分に来る”何か”を感じた。
これは……千年以上の遥か昔に味わった間隔。

(魔族が出た!!)

僕は周囲に気を配る。
監視されてはいないようだ。
僕はそれを確認すると走りながら素早く、自分の作った白い仮面をつける。
次の瞬間、僕の体中に力が漲る。
それこそ、この仮面の力。
一時的に限定ではあるが、神としての能力を解放できるのだ。
だが、あくまでも情報を与えないという観点から、使える技にも縛りを付けなければいけない。
一番恐ろしいのは、自分が使った技で今の僕とイコールになること。

(ならば、僕のやることは一つに決まってる)

出来る限り技を隠す。
幸い、僕には魔族の時と神の時に使う技を区切っている。
プリマテリアライズ・オーバードライブを使わなければ、問題はそんなにないだろうし。

(見えた……って、あれは聖沙さんッ!?)

直感で走ると、そこには三体の猫魔族の攻撃を受けそうになっている聖沙さんの姿があった。

(生身で攻撃魔法なんて喰らったらっ!)

最悪の場合怪我では済まない。
僕は飛び込むように聖沙さんの前に移動すると、瞬発的に高濃度の霊力を放つ。
それだけで攻撃魔法は打ち消された。
霊力は、魔力に対して高い抵抗力を持つ。
濃度さえ濃ければ、霊力を放っただけで魔法の相殺が出来るほどだ。

「え?」
「大丈夫か? お嬢さん」

すると、背後から聖沙さんの驚きに満ちた声がした。
僕は、聖沙さんにそう尋ねる。

「は、はい。大丈夫です」

僕は聖沙さんの答えにほっと胸をなでおろした。

「さて、お嬢さん。危ないからここから離れてて」
「え? でも……」
「「「ニャー!!」」」

僕の指示に聖沙さんは何かを言いかけるが、猫魔族達は一斉に鳴くと攻撃を仕掛けてくる。

「どうやら、向こうは待てないようだ。嬢さん、僕の後ろを離れないで!」
「え、あ、はい」

相手の攻撃を相殺しながら聖沙さんにそう告げた僕は答えを聞いて、応戦する。

「ファントム・クリスチャー!」
「ニャー!」

僕の攻撃を、猫魔族は軽やかにかわす。
だが……

「我が前に跪け! ペインティング・ショッカー!」

次に僕が放ったのは必殺字だ。
白銀の光が当たりに走った瞬間、変化は訪れた。

「「「にゃっ!?」」」

僕が放った必殺技によって、地面に叩き付けられるとまるで地面に縫い付けられたかのように、身動きが取れなくなる。

「我が最強の一撃。ルーイング・セイヴァ―!」
「「「ニャー!!!」」」

僕が放った白銀の光に包まれた猫魔族は、光が晴れた頃には姿はなかった。

(魔界に戻ったようだな。それに)

僕は猫魔族がいた場所のさらに奥の方に視線を向ける。
僕には見えないが魔族がいる気配はまだある。
来るかと思い身構えると、その気配はどんどんと遠ざかって行く。
どうやら、撤退したようだ。

(テストの第一段階は成功だな)

仮面をつけていても、若干レベルは落ちるが満足のできる戦力を発揮することが出来た。
あとは、僕と存在がイコールにならないかだ。

「怪我はないか?」
「あ、はい」
「それでは、失礼」
「あのッ!」

その場を去ろうとした僕を引き留めたのは、聖沙さんだった。

「助けていただいて、ありがとうございました! 出来れば、お名前を」
「……」

聖沙さんの予想外の言葉に、僕は反応に困った。
本名を言っては元も子もないし。

「ブレイド」
「ブレイド様……」

何だかいつもの聖沙さんじゃない!。
というより、僕は彼女の事を全くと言っていいほど知らないからかもしれないが。

「それでは、さらばだ。可憐な御嬢さん」

僕は最後にそう告げると、その場から瞬間移動で離れた。
さらに、そこで仮面を外しさっき自分がいた方へと向かう。
かなり歩いたところで、

「あら、高月君じゃない。何してるのよ?」
「僕は散歩だ。そっちこそ何をしてるんだ?」

僕に気が付いた聖沙さんは話し掛けてきた。
疑うような眼差しは今の僕にとっては不安をあおるだけだからやめてほしい。

「私はお使いよ」
「そうか。っとあまり引き留めても悪いな」

僕はわざとらしく分かれるきっかけを作る。

「それじゃ」
「あ、ちょっと待って」

聖沙さんが僕を引き留めた時、僕は心臓が口から出そうなほど驚いた。

「さっき、白い仮面にマントを着た男の人とすれ違わなかった?」
「何だそりゃ? そんな珍妙な奴は会ってもいないけど」
「そう………」

僕の答えに、聖沙さんは残念そうに返した。

(自分で言っていて悲しくなってきた)

本当に珍妙そうなだけに、僕は泣きそうだった。

「そいつがどうしたんだ?」
「ちょっと助けてもらったから、お礼をしっかりと言おうと思っただけよ」
「そうか。それじゃ、僕は失礼させて貰うよ」

僕の問いに答える聖沙さんの様子を見て、僕は第二段階も合格だと心の中でガッツポーズを取りながら、集合場所でもある九条家前へと向かうのであった。

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第23話 結果

九条家へと戻った僕は、神楽が戻ってくるのを待っていた。

「浩ちゃん!」
「帰ってきたか」

どれほど待ったのだろうか。
僕の姿を見つけるとパタパタと手を振りながら駆け寄ってくる神楽の姿に、僕は今まで寄りかかっていた柱から離れると神楽の方に向かう。

「お疲れ。 どうだった?」
「こっちは全然。魔族の魔の字も出なかった。浩ちゃんの方は?」
「猫魔族が三体ほど出た」

神楽の問いかけに答えた僕は、その時の状況を告げた。

「なるほどね~。それだったら十分問題はないかな」
「ああ。だから今後、魔法陣の作成にはこれを使って行こうと思う」

神楽の反応を見た僕は、そう答える。

「あれ? それじゃ私がこれを持つ意味は?」
「………緊急用という事で」

神楽に言われてようやく僕は気が付いた。
これを神楽が持つ意味がないことに。

「今の間は何っ!?」
「それじゃ、コスプレ用で」
「投げやりに言った!? って、私にそんな趣味はないわよ! あの人じゃないんだから!!」

乗りツッコミを返すあたり、神楽も色々な意味で成長しているようだ。
最初は首をかしげるだけで終わりだったから。

「彼女に送ったら……」

あの人に贈った事を想像してみた。

『そうね! これは露出プレイなのねッ!!』

「………緊急用で持っておけ」
「そ、そうだね! 今嬉々として仮面を受け取る姿が目に浮かんだわ」

体をくねらせながら仮面を受け取る彼女の姿を思い浮かべた僕は、神楽に手渡した。

「今後、これを持っていることは秘密という事で」
「ええ。このままだと神様としての威厳が無くなっちゃう。……まあ、元からないんだけど」

神楽もなんとか納得してくれたようだ。
それよりも、いつから腹黒くなったんだ?

「さあ、仮の仕事に戻ろう。そろそろお昼だ」
「そうだね。あー、こうして休日は終わって行くのね」

ため息交じりに言う神楽の背中には、哀愁が漂っていた。
そんな神楽の方を優しくたたきながら、僕たちは九条家の中に入って行くのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「また失敗にゃ」

前にいた場所から人気のない場所の方に移動したパスタは、肩を落としながら呟いた。

「一体なんなのにゃ! あの白仮面は」

パスタは突如現れた白仮面―浩介―に憤怒する。

「あいつ、今度会ったらズタズタにしてやるにゃ!!」
「「「にゃー!!」」」

パスタの気合の入った言葉に、周りにいた猫魔族も声を上げた。

「うぅー、またソルティアに嫌味を言われるにゃ」

そんな哀愁を漂わせながら、パスタはその場を後にする。
パスタは知らない。
倒そうとしているものが、どれほど強いのかを。
そして、何者であるかを。
こうして、それぞれの休日は幕を閉じる。

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第20話 約束

夜、九条家内で僕は厨房へと向かっていた。
それは次の日に前にした約束を果たすためだった。

「あれ、浩介君?」
「リアさん」

そんな僕に声をかけてきたのは、リアさんだった。

「何をしてるの?」
「ちょっと用がありまして。内容に関しては聞かないで頂けると幸いです」
「分かった。聞かないでおくね」

リアさんの追究にお願いすると、リアさんはすんなりと退いてくれた。
とてもありがたかった。

「あ、そうでした。リアさんは生徒会のクリキントンさんの連絡先って知っていますか?」
「く、クリキントン?!」

僕の問いにリアさんが目を丸くして驚きに満ちた声を上げる。

「えっと……確か名前はみ……が最初に来る人なんですけど」
「もしかして聖沙ちゃんのこと?」
「はい。そうです」

リアさんの告げた名前に、僕は頷いて答えた。

「えっと、聖沙ちゃんの名前はクリキントンじゃなくて、クリステレスだからね」

苦笑を浮かべながら指摘するリアさんに、僕は失礼と頭を軽く下げる。

「連絡先なら知ってるけど、どうして?」
「えっと。『明日大丈夫なので、話した場所で待っています』という伝言を頼みたいんです」

僕は理由と伝言の内容を簡潔に説明した。

「聖沙ちゃんに今のを伝えればいいんだね。分かったよ。お姉ちゃんに任してね」
「えっと、お願いします」

エヘンと胸を張るリアさんに、僕はもう一度頭を下げて頼むとその場を後にした。

(さて、バランスのいい昼食を作りますか)

僕は昼食のメニューを考えながら、厨房へと向かうのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


その頃、クリステレス家。
多忙な両親がいない中、聖沙は一人で自室で勉強をしていた。

「あれ、誰から………っ!?!?」

電話の着信を告げるメロディーに勉強を中断すると、その相手を見て聖沙は声にもならない悲鳴を上げた。

(お、お姉さまが私に電話してくださるなんて!)

憧れでもあるリアからの電話に胸を躍らせる聖沙は、通話ボタンを押すと受話口を耳にあてた。

「は、はいっ! クリステレスですッ!」

若干声が上ずっているが、聖沙はそのことに気付いていない。

『えっと、この間生徒会に差し入れをしてきてくれた大森 浩介君って、知ってる?』
「え? え、ええ。知ってます」

突然リアから告げられた名前に、聖沙は一瞬驚くがすぐに答える。

『その浩介君からね、伝言を預かってるの』
「伝言ですか?」

(もしかして)

聖沙はリアの口から出た”伝言”の意味が分かった。

『うん。えっとね、「明日は大丈夫だから、話した場所で待っている」って言うのが伝言だよ』
「伝言、確かに聞きました。ありがとうございます。お姉さま」
『ううん。気にしないで。それじゃ、お休みなさい聖沙ちゃん』
「は、はい! おやすみなさい、お姉さま」

電話を切り、携帯電話を机に置いた聖沙は今まで座っていた椅子から立ち上がると、閉めていたカーテンを少し開けて窓から空を見る。
夜空には依然流れ星が流れている。

(変な人)

聖沙は心の中で浩介の事をそう思っていた。
強引に昼食をごちそうするというのは、いい意味でも悪い意味でも変わった人だというのは当然だった。

(でも、なんだか不思議な気持ち)

聖沙は自分が抱いている気持が理解できなかった。
それは、浩介に対する憐みなのか、それとも別の感情なのか。

「はぁ……勉強しよ」

聖沙はため息を付くと、カーテンを閉めて机の方へと足を進める。

(一体どんなものを作る気なのかしら?)

そんな事を気にしながら。


★ ★ ★ ★ ★ ★


11月7日

この日、は何時ものように時間が流れて行く。
プリエでは相変わらずパスタの乱暴な言葉遣いが原因でのいさかいが起こっている。
そのたびに謝罪に回っている僕の身にもなってほしい。
……本当に。
そして10時30分を迎えた頃、

「大森君」

主任が声をかけてきた。

「休憩に入っても良いよ」
「それじゃ、失礼します」

僕は主任に一礼すると、厨房着から私服(とは言っても九条家内で着るスーツだが)に着替えるために更衣室へと向かう。

「これでよし」

手早く私服(とはいえ九条家にいる時に着る執事服だが)に着替え、ロッカーに入れておいた風呂敷を手にすると更衣室を後にした。










生徒会室に到着して、ソファーに腰かけて待つこと2時間。

「ほ、本当にいたわ」
「……」

生徒会室のドアを開けて恐る恐るといった様子で姿を現したクントリさん。

「本当に作ってきたの?」
「当然。僕は一度した約束は守る男だからな」

クリスさんの問いかけに、僕は胸を張ってこたえる。

「それ、人として当然だと思うわよ」
「確かに。でも、ちゃんと実現できる人は少ないと思うが?」

クリアさんの返しに僕が続けるように聞くと、確かにといった様子で頷いていた。
……身近にそういう人でもいるのか?

「それは置いといて、これがそのバランスのとれた昼食だ」
「……」

クリステレンサさんはこの世の終わりのような表情で、お弁当の中身を見つめていた。

「食事でのダイエットで重要なのは制限をしすぎないこと。適度な野菜や肉類を食べることが健康的なダイエットをする秘訣」

そんな彼女に、僕は静かに説明を始める。
ちなみにこれは母さんからの受け売りだ。

「無理なダイエットをして痩せると襲ってくる悪魔がリバウンド。痩せたと思って安心していたらまた太り、また痩せたらまた太るの繰り返し」
「………」

僕の説明に、クリステンサさんはうんうんと頷いていた。

「これを繰り返していると体にもよくない。よってリバウンドが怒りにくい減量法をすればいい。例えば毎日同じ寮の食事でご飯を抜く。これだけでもかなりの効果がある」
「なるほど………」

ついに言葉に出して頷いた。

「それをもとに作ったのがこのお弁当。ご飯の量を標準より半分減らし、ハンバーグに見えるそれはひき肉ではなく豆腐を使用。これでカロリーは従来の9分の1カット。更に野菜では緑葉野菜などをバランスよく取り入れカロリーが高くなる原因にもつながるドレッシングはなし。これでざっと200カロリー以下。どう? これでは多いかな」
「ち、ちっとも……ほ、本当にこのおかずで200以下なの?」

信じられないのか不安の色を隠そうとせずに、お弁当を見ているクリンスさんに僕は自信満々に告げる。

「大丈夫。30回ほど計算して明日数字だから」
「そ、そう」

若干引き気味に答える彼女に、僕は少し強引だと思いつつも促すことにした。

「さあ、早く食べちゃわないと、昼休みも終わるよ」
「わ、分かってるわよ………ごくり」

鬱陶しそうに答えながらも目の前にあるお弁当を見て喉を鳴らすクリステンサさんに、僕は苦笑しそうになったのを必死に堪える。
彼女の中には僕には計り知れないほどの葛藤が起こっているのだから。

「いっ、いただきます」

そして彼女は料理に口を付け始めた。










一口食べれば、後は次から次へと進んでいく。、

「………♪」

僕の向かいの席でご機嫌そうにお弁当(豆腐ハンバーグ)に舌鼓を打つクントさん。
美味しいという感想はなかったが、彼女の表情からその料理の評価は手に取るように分かった。

「………♡」

(それにしても、本当に幸せそうな表情をしてるな)

自分が作った料理で人が嬉しそうな表情を浮かべているのを見ていると、何故か自分まで嬉しくなってくる。

(これがあの人・・・が言っていた料理を作る人としての喜びなのか)

そう思いながらふと時間が気になった僕は、主任から借りていた時計を見る。

(げっ!? あと5分しかない)

休憩の終わりは、13時30分。
今の時間は25分だ。
ここからプリエまで、走っても2,3分は掛かる。
そして向かい側の彼女を見る。

「………♪」

幸せそうな表情でお弁当の料理に舌鼓を打っていた。
量もあと少しだが、待つ時間はもう0に等しい
だからと言って早く食べるように急かすという手段はない。
それをやったら、僕は人としては最低の部類に入るだろう。

(だったら、僕がやることは)

僕はすぐさま近くにあった紙に素早く文字を書くと静かに、されど素早く生徒会室を後にした。
その後は全力疾走でプリエへと向かった。





ちなみにその結果は……

「すみません、すみません、すみません、すみません」
「いや、もういいから。1分遅れたくらいで私は怒らないから」

ものの見事に遅れ、僕は謝りとおすことになった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「……ごっくん♪」

浩介が去って数分後。

「ふぅ~。………ご馳走様でした」

浩介の用意したお弁当の料理をすべて平らげた聖沙は幸せそうな表情で息を吐き出すと、そう口を開いた。

「……あら?」


そこで聖沙はようやく浩介の姿がないことに気付き、辺りを見回す。

「これは、メモかしら?」

浩介が据わっていたであろう席に置かれた一枚の紙を手にすると、そこに走り書きされた文面に目を通す。

『クリスファンさんへ。
休憩終了時間間近なので、声を掛けずに先に失礼します。
お弁当箱はリアさんに、渡しておいてください。
事情を知られるのが嫌な場合はお手数ですが、プリエの方までお越しください
追伸:リクエスト等があればまた何か作ります。
大森』

「どこの誰よ! クリスファンって!」

目を通した聖沙がツッコむように声を上げる。

「………」

どこか目が据わったような表情を浮かべながら一度頷くと、聖沙は弁当箱を片づけるとそのまま生徒会室を後にした。










放課後、聖沙はプリエにやって来ていた。

「お前にゃんか、水で十分にゃ」

中に入った瞬間、パスタの暴言が耳に入るがその後何が待ち受けているかを知っている聖沙は、それを横目に厨房の方へと向かった。

「あら、どうかしたのかい?」
「あの、厨房の大森さんはいますか?」

聖沙の接近に気付いた厨房の従業員の一人が尋ねると、聖沙が尋ねた。

「ああいるよ。呼んでくるからちょっと待っててね」

そういうと、従業員は奥の方へと移動する。
聖沙の目は自然とその先へと向けられる。
その視線の先には、慌ただしい様子で料理を調理する浩介の姿があった。
従業員に声を掛けられ、聖沙の方を見た浩介は自ずと聖沙の方へと向かってきた。

「はいこれ」
「っと、明日かと思っていたんだが、速いな。まあ、ありがたいことには変わりはないが」

複雑そうな表情で付きだされたお弁当箱を受け取る。

「その…………あ、ありがとう」
「…………どういたしまして。お気に召していただけたか?」

若干照れた様子でお礼を言う聖沙に、浩介が尋ねた。

「ええ。とってもおいしかったわ」

聖沙の答えに浩介は”そうか”と、ほっと胸をなでおろしながら答えた。

「……で」

次の瞬間、聖沙の表情からどこか殺気めいたものがにじみ出始めた。
それを悟った浩介は、突然の変化に目を見開かせて驚く。

「クリスファンって、どこの誰よ!」
「……………」
「私は聖沙・B・クリステレス! クリスファンではないわ!!」

聖沙の問いにじっと見つめることで答える浩介に、聖沙は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。

「悪い。どうも僕は横文字の名前が苦手なんだ。特にファミリーネームは高確率で間違えるほどに」
「なによ、その都合のいい欠点は」

浩介の答えに、聖沙はため息交じりに言葉を返す。

「分かったわ。お弁当のお礼に、名前で呼んでも良いわよ」
「それは光栄の極みだね、聖沙さん」

聖沙の言葉に、浩介はどこかおどけるように口を開く。

「い、良いこと。お礼だからね! あくまでもお礼で許してるんだからね!」
「はいはい。分かってますよ」

何も言っていない浩介に、言い聞かせるように言う聖沙に、浩介はやれやれといった様子で応じる。

「っと。僕は厨房の方に戻るけど?」
「あ、ごめんなさい。……まあ、頑張るのね。コックさん」

浩介の言葉の意図を読み取った聖沙は謝ると、まるで仕返しとばかりに皮肉を込めて応援の言葉を贈る聖沙に、浩介は苦笑しながら厨房の方へと戻って行った。

(………戻りましょう)

聖沙は、浩介の姿を見ていて湧き上がる自分の感情に気付かぬまま、プリエを後にするのであった。

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第21話 完成

11月9日

土曜日の午後、仕事も早く終わり九条家の料理人としての役目も無事に終了した夜。

「よし、出来た!」

僕は目の前のテーブルに置かれた仮面を手にしながら声を上げた。

(神楽を呼んでくるか)

僕はこの魔導具を見て貰おうと、神楽に割り当てられた部屋へと向かうのであった。










「それで、何が出来たのよ?」
「ああ、これだ!」

ゆっくりとしていた時に呼ばれたためか、若干不機嫌な様子で聞いてくる神楽に、僕はテーブルの上に置かれた狐のお面を神楽に渡した。

「何よこれ?」
「変装用の魔導具だ」

僕の答えに、神楽は今までの態度から一変し手渡された仮面をまじまじと見つめる。

「それを付けると礼装に変わるけど、顔や魔力、霊力に声までをも変えることが出来る代物だ。尤も、誤認させると言った方が正しいとは思うが」
「礼装って……大丈夫なの?」

不安そうに聞いてくる神楽の言葉の意味は、すぐに分かった。

「理論上は大丈夫だ。でも、確実に大丈夫だとは言えない。だから明日辺りにでもテストをしてみようと思う」
「テスト?」
「それを持って流星町を歩き、魔族が現れたらそれを装着して魔族を倒す」

僕の提案に首を傾げる神楽に、僕はテストの内容を告げる。

「魔族を倒したら、すぐにその場を離れて再びその場を通る。周囲に一目があった場合、じろじろと見られたりしなければ性能は確か。見られれば改良の余地があり、ということになる」
「ねえ、もし余地がある時に見られたらどうすればいいの?」

神楽の疑問に、少しばかり考えた僕は静かに告げた。

「記憶操作でもすれば?」

それはある意味一番手っ取り早く、論理的な答えだった。
この後、歩く区域を割り当てて解散となった。















11月10日

とうとうテストの日がやってきた。
昼食の後片付けも終わり、あと5,6時間は時間がある。

「そっちは大丈夫だったのか? 抜け出してきて」
「勿論。今日はゆっくりしなさいってメイド長が言ってた」

僕の問いに頷きながら答える神楽の答えを聞いた僕は表情を引き締める。

「それじゃ、神楽は商店街側。僕は反対の住宅地側を歩く。テスト内容についても問題はないな?」
「特には」

神楽の答えに、僕は頷くと説明を次のステップに進む。

「歩く際は普通に歩くこと。魔族と戦う場合は、出来る限り情報を相手に渡さないようにする事。もっとも対抗策が出来ても勝てるという自信があるのなら、止めないが」
「分かった。浩ちゃん、気を付けて」
「そっちもな」

お互いに掌でタッチをすると、割り当てた区域を歩き出す。
神楽は商店街の方面へ。
僕は住宅街の方面へと。
それが、今後の自分の運命を大きく変えるということを知らぬまま。

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第19話 夜と昼の一幕

流星学園内の高台の広場。
そこには四人の姿があった。
一人は、赤い髪に帽子をかぶっているのが特徴の女子学生、アゼル。
七大魔将が一人でもある金髪の男、バイラス。
同じく七大魔将が一人の銀色の髪の女性、ソルティア。
そして七大魔将が一人でやや赤っぽい髪に猫耳を生やしている、パスタの四人だ。
彼女たちは無言だった。
そんな彼女たちの視線の先には、小さなモニターが映し出されていた。
そこには、シン達クルセイダースと猫魔族との戦闘の様子が映し出されていた。

「ソルティア!」

やがて、映像が終わると、パスタが大きな声でソルティアに吼えた。

「人間の時間単位で2時間3分前に行われた、クルセイダースとの戦闘記録よ」
「こんなのいつの間に記録してたにゃ!」

無用上で告げるソルティアに、パスタが問いただす。

「見事なまでの敗北ね、パスタ」

ソルティアが目を閉じて告げるその言葉には、嘲笑するような物が含まれていた。

「『今日は計画通り順調で、特に報告するようなこともない』と、あなたは言ってたわよね?」
「あ、そ、それは……にゃ」

ソルティアの言葉にパスタは徐々に追い詰められ、語尾が弱くなる。

「あなたの部下たちがクルセイダースに敗北したのも、計画通りというのかしら?」

それを見ていたソルティアは目を細めて見下すような笑みを浮かべてパスタを問い詰める。

「だ、だから……それは」

パスタはちらっとバイラスの表情を伺う。
バイラス至上主義のパスタにとって、バイラスに会いそうつかされることだけは避けたいようだった。

「あ……あの」
「隠そうとしたのは、無能と言われるのが怖かったから?」

そのソルティアの一言に、パスタは再び威勢を取り戻す。

「なにおう! パスタは隠そうとなんてしてないのにゃ! 魔法陣の構築は予定通りに進んでいるのにゃ!」
「今日までは」

今まで無言を貫いていたアゼルが口を開く。

「でも、これからはどうかしら? 彼らの妨害で予定が狂ってくるかもしれないわよ?」
「そ、それは……」

パスタの威勢は、ソルティアの一言により再び消え失せた。

「リ・クリエまで二か月を切ったというのに………先が思いやられるわね」
「そこまでにしてやれ」

あきれ果てた声色のソルティアの言葉を遮ったのはバイラスだった。

「記録を見た限り、彼我との戦力差は僅かだ。今回は敗北したが、次やれば勝てる可能性はあるだろう」
「ふん。戦力差は僅か……ね。これを見てもそう言えるのかしらね」

バイラスのフォローに、ソルティアは再び映像を流した。
だが、その映像はクルセイダースとの戦闘記録ではなかった。

「なんだ、これは?」
「人間の時間単位で、1時間前に行われた戦闘記録よ」

バイラスの疑問の声に、ソルティアは無表情で答える。
そこに映し出されていたのは、浩介と猫魔族たちとの戦闘の様子だった。

「こ、こいつはただの人間にゃ。それに尻尾撒いて逃げたのにゃ!」
「そうかしら? 私には、戦略的撤退にも見えるわよ」

パスタの切り返しに、ソルティアが疑問を投じる。

「俺にもそう見えるな」
「ば、バイラスにゃま」

ソルティアの意見に賛同するバイラスに、パスタはすがるような声色で名前を呼ぶ。

「確かに、彼は逃げている。だが、自分の力量を弁え、さらに手短にあるものを武器にして隠れる判断能力は、称賛に値する」
「あら、やけにこの男の肩を持つのね」

バイラスの称賛の言葉に、ソルティアが意外だと言わんばかりの表情でバイラスに言う。

「客観的分析だ。クルセイダースへの対処は、パスタ。君に任せるよ」
「任されたのにゃ!」

パスタの元気な返事に、その集会はお開きとなった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「なるほど。未知の敵に監視……ね」

学園の敷地内で起こったことを説明し終えると、神楽は顎に手を当てて考え込むポーズをとる。

「私達も迂闊には動けないわね」
「ああ。魔法陣に対して干渉をしていないとはいえ、相殺用の魔法陣を描いた。僕たちのことが知られたら一味に対処されるのは確実だ」
「魔法陣には印は結んであるのよね?」

神楽の問いに僕は頷くことで答えた。

「確かに、自分の上位の者が絡んでいることが知られるのはまずいわよね」

そして神楽もそう呟いた。
上位の者が魔法陣を描いた⇒天界から誰かが来ている⇒僕の事を知られる⇒対応策を取られる。
その図式だけは避けたい。
特に僕の事を知られることから先は。

「しかも、監視されている可能性がある以上、敵の迎撃もできない」
「そうだな。あくまで僕は”一般人”もしくは、ちょっと力の強い”一般人”だと、相手に思わせておかなければいけない。情報戦はすでに始まってる」

僕たちの情報は出来る限り与えず、相手から情報を得る。
そういう観点では、こっちの方が一歩リードしている。
この状態をしばらくは保ちたい。

「だから、対策を考えておくから、それが出来るまで魔族退治はしないで、魔族が現れたら素早く逃げろ」
「分かった」

今後の方針を決めた僕たちは、そのまま寝ることになった。










11月6日

翌日、何時ものようにリアさんたちに朝食を用意した後、プリエで厨房の仕事をしていた。
パスタの教育係の就任期間は先日で終わった。
今日はからはいつものように厨房で料理人だ。

「あ、大森君」
「はい。何でしょうか?」

昼休みに向けて下準備を進める僕に声を掛けてきたのは、主任だった。

「来週初め……11日から放課後シフトを外すことになった」
「放課後のシフトですか?」

放課後のシフトというのは、16時以降の事だ。
僕にとってはシフトから外れることはある意味嬉しいことだ。

「何でも理事長命令とのことだが」
「あ~」

それだけでシフト変更の理由が分かってしまった。

「そう言えば、さっき理事長室に向かうようにと呼び出されていたようだが、君何かやったのかい?」
「いえ、特にこれと言って何もしてないんですが……ちょっと行ってきます」

主任に一礼すると、僕は厨房着を脱いで、プリエを後にしようとする。

「あ、待ちなさい」

そんな僕を呼び止めるようにして、主任が声をかけてきた。

「明日の昼の時間帯はオフシフトだから、休んでおくように」
「ありがとうございます」

ひょんなことから明日の昼食時に約束が果たせそうになった。

「それでは失礼します」

僕は主任に一礼してから、理事長室へと向かうのであった。










「失礼します。大森です」
「どうぞー」

理事長室のドアをノックすると、中から入るように返ってきたため僕はドアを開けた。

「いらっしゃい、浩介ちゃん」
「呼び出しのご用件は何ですか?」

僕はさっそく本題を切り出した。

「ぶーぶー、ちょっとは構ってくれてもいいじゃないー」
「すみません。仕事があるので」

ヘレナさんの文句にも、毅然とした態度で対応する。
僕は絶対に付き合わないという意思をはっきりするためだ。

「もう知ってると思うけど、11日から放課後のシフトが無くなったわ」
「ええ。あなたがそのようにさせたということも存じ上げております」
「その言い方だと、まるで私が悪の代官みたいに聞こえるんだけど」

僕の言い方に苦笑を浮かべながら問いかけてくるヘレナさんに僕は無言で頷いた。

「どうしてそのような事を?」
「そうね……浩介ちゃんは変な生き物を見たことはない?」
「ええ。何度か見かけました」

ヘレナさんの突然の問いかけに、僕は魔族の事だと思いながらも答えた。

「その生き物……魔族って言うんだけど、それが悪さをしないようにする退魔族専門機関に『流星クルセイダース』というのがあるのよ」
「はぁ……」

ヘレナさんの説明に、僕はどうしても生返事になってしまった。
どうしてその説明を今するのかが理解できない。

(何か、いやな予感がする)

僕は何となくだがそんな気を感じていた。

「最近は未確認の魔族まで出てきたりしてもう大変大変。そこで浩介ちゃんには『流星クルセイダース』と生徒会のサポートの任を命ずる!」
「ちょっと待ってください!」

ヘレナさんの指示に僕は待ったをかけた。

「僕はただの料理人です! 魔族とかと戦うなんて無理です!」
「知ってるわ。でも浩介ちゃんすごい体術があるじゃない」
「っ!?」

ヘレナさんの言葉に、僕は息をのんだ。
毎朝誰にも気づかれないようにやっているトレーニングを見られていたからだ。

「あの様子を見れば、十分浩介ちゃんも戦力になるわ」
「………分かりました。足手纏いにならないよう、精一杯頑張ります」

もはや僕に逃げ道などなかった。

「あ、生徒会へは11日に伝えておくわね」
「分かりました。では」

僕はヘレナさんに一礼すると、理事長室を後にした。
こうして僕は、『流星クルセイダース』の一員となることが決まったのであった。

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