11月9日
土曜日の午後、仕事も早く終わり九条家の料理人としての役目も無事に終了した夜。
「よし、出来た!」
僕は目の前のテーブルに置かれた仮面を手にしながら声を上げた。
(神楽を呼んでくるか)
僕はこの魔導具を見て貰おうと、神楽に割り当てられた部屋へと向かうのであった。
「それで、何が出来たのよ?」
「ああ、これだ!」
ゆっくりとしていた時に呼ばれたためか、若干不機嫌な様子で聞いてくる神楽に、僕はテーブルの上に置かれた狐のお面を神楽に渡した。
「何よこれ?」
「変装用の魔導具だ」
僕の答えに、神楽は今までの態度から一変し手渡された仮面をまじまじと見つめる。
「それを付けると礼装に変わるけど、顔や魔力、霊力に声までをも変えることが出来る代物だ。尤も、誤認させると言った方が正しいとは思うが」
「礼装って……大丈夫なの?」
不安そうに聞いてくる神楽の言葉の意味は、すぐに分かった。
「理論上は大丈夫だ。でも、確実に大丈夫だとは言えない。だから明日辺りにでもテストをしてみようと思う」
「テスト?」
「それを持って流星町を歩き、魔族が現れたらそれを装着して魔族を倒す」
僕の提案に首を傾げる神楽に、僕はテストの内容を告げる。
「魔族を倒したら、すぐにその場を離れて再びその場を通る。周囲に一目があった場合、じろじろと見られたりしなければ性能は確か。見られれば改良の余地があり、ということになる」
「ねえ、もし余地がある時に見られたらどうすればいいの?」
神楽の疑問に、少しばかり考えた僕は静かに告げた。
「記憶操作でもすれば?」
それはある意味一番手っ取り早く、論理的な答えだった。
この後、歩く区域を割り当てて解散となった。
11月10日
とうとうテストの日がやってきた。
昼食の後片付けも終わり、あと5,6時間は時間がある。
「そっちは大丈夫だったのか? 抜け出してきて」
「勿論。今日はゆっくりしなさいってメイド長が言ってた」
僕の問いに頷きながら答える神楽の答えを聞いた僕は表情を引き締める。
「それじゃ、神楽は商店街側。僕は反対の住宅地側を歩く。テスト内容についても問題はないな?」
「特には」
神楽の答えに、僕は頷くと説明を次のステップに進む。
「歩く際は普通に歩くこと。魔族と戦う場合は、出来る限り情報を相手に渡さないようにする事。もっとも対抗策が出来ても勝てるという自信があるのなら、止めないが」
「分かった。浩ちゃん、気を付けて」
「そっちもな」
お互いに掌でタッチをすると、割り当てた区域を歩き出す。
神楽は商店街の方面へ。
僕は住宅街の方面へと。
それが、今後の自分の運命を大きく変えるということを知らぬまま。
[0回]
PR