流星学園内の高台の広場。
そこには四人の姿があった。
一人は、赤い髪に帽子をかぶっているのが特徴の女子学生、アゼル。
七大魔将が一人でもある金髪の男、バイラス。
同じく七大魔将が一人の銀色の髪の女性、ソルティア。
そして七大魔将が一人でやや赤っぽい髪に猫耳を生やしている、パスタの四人だ。
彼女たちは無言だった。
そんな彼女たちの視線の先には、小さなモニターが映し出されていた。
そこには、シン達クルセイダースと猫魔族との戦闘の様子が映し出されていた。
「ソルティア!」
やがて、映像が終わると、パスタが大きな声でソルティアに吼えた。
「人間の時間単位で2時間3分前に行われた、クルセイダースとの戦闘記録よ」
「こんなのいつの間に記録してたにゃ!」
無用上で告げるソルティアに、パスタが問いただす。
「見事なまでの敗北ね、パスタ」
ソルティアが目を閉じて告げるその言葉には、嘲笑するような物が含まれていた。
「『今日は計画通り順調で、特に報告するようなこともない』と、あなたは言ってたわよね?」
「あ、そ、それは……にゃ」
ソルティアの言葉にパスタは徐々に追い詰められ、語尾が弱くなる。
「あなたの部下たちがクルセイダースに敗北したのも、計画通りというのかしら?」
それを見ていたソルティアは目を細めて見下すような笑みを浮かべてパスタを問い詰める。
「だ、だから……それは」
パスタはちらっとバイラスの表情を伺う。
バイラス至上主義のパスタにとって、バイラスに会いそうつかされることだけは避けたいようだった。
「あ……あの」
「隠そうとしたのは、無能と言われるのが怖かったから?」
そのソルティアの一言に、パスタは再び威勢を取り戻す。
「なにおう! パスタは隠そうとなんてしてないのにゃ! 魔法陣の構築は予定通りに進んでいるのにゃ!」
「今日までは」
今まで無言を貫いていたアゼルが口を開く。
「でも、これからはどうかしら? 彼らの妨害で予定が狂ってくるかもしれないわよ?」
「そ、それは……」
パスタの威勢は、ソルティアの一言により再び消え失せた。
「リ・クリエまで二か月を切ったというのに………先が思いやられるわね」
「そこまでにしてやれ」
あきれ果てた声色のソルティアの言葉を遮ったのはバイラスだった。
「記録を見た限り、彼我との戦力差は僅かだ。今回は敗北したが、次やれば勝てる可能性はあるだろう」
「ふん。戦力差は僅か……ね。これを見てもそう言えるのかしらね」
バイラスのフォローに、ソルティアは再び映像を流した。
だが、その映像はクルセイダースとの戦闘記録ではなかった。
「なんだ、これは?」
「人間の時間単位で、1時間前に行われた戦闘記録よ」
バイラスの疑問の声に、ソルティアは無表情で答える。
そこに映し出されていたのは、浩介と猫魔族たちとの戦闘の様子だった。
「こ、こいつはただの人間にゃ。それに尻尾撒いて逃げたのにゃ!」
「そうかしら? 私には、戦略的撤退にも見えるわよ」
パスタの切り返しに、ソルティアが疑問を投じる。
「俺にもそう見えるな」
「ば、バイラスにゃま」
ソルティアの意見に賛同するバイラスに、パスタはすがるような声色で名前を呼ぶ。
「確かに、彼は逃げている。だが、自分の力量を弁え、さらに手短にあるものを武器にして隠れる判断能力は、称賛に値する」
「あら、やけにこの男の肩を持つのね」
バイラスの称賛の言葉に、ソルティアが意外だと言わんばかりの表情でバイラスに言う。
「客観的分析だ。クルセイダースへの対処は、パスタ。君に任せるよ」
「任されたのにゃ!」
パスタの元気な返事に、その集会はお開きとなった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「なるほど。未知の敵に監視……ね」
学園の敷地内で起こったことを説明し終えると、神楽は顎に手を当てて考え込むポーズをとる。
「私達も迂闊には動けないわね」
「ああ。魔法陣に対して干渉をしていないとはいえ、相殺用の魔法陣を描いた。僕たちのことが知られたら一味に対処されるのは確実だ」
「魔法陣には印は結んであるのよね?」
神楽の問いに僕は頷くことで答えた。
「確かに、自分の上位の者が絡んでいることが知られるのはまずいわよね」
そして神楽もそう呟いた。
上位の者が魔法陣を描いた⇒天界から誰かが来ている⇒僕の事を知られる⇒対応策を取られる。
その図式だけは避けたい。
特に僕の事を知られることから先は。
「しかも、監視されている可能性がある以上、敵の迎撃もできない」
「そうだな。あくまで僕は”一般人”もしくは、ちょっと力の強い”一般人”だと、相手に思わせておかなければいけない。情報戦はすでに始まってる」
僕たちの情報は出来る限り与えず、相手から情報を得る。
そういう観点では、こっちの方が一歩リードしている。
この状態をしばらくは保ちたい。
「だから、対策を考えておくから、それが出来るまで魔族退治はしないで、魔族が現れたら素早く逃げろ」
「分かった」
今後の方針を決めた僕たちは、そのまま寝ることになった。
11月6日
翌日、何時ものようにリアさんたちに朝食を用意した後、プリエで厨房の仕事をしていた。
パスタの教育係の就任期間は先日で終わった。
今日はからはいつものように厨房で料理人だ。
「あ、大森君」
「はい。何でしょうか?」
昼休みに向けて下準備を進める僕に声を掛けてきたのは、主任だった。
「来週初め……11日から放課後シフトを外すことになった」
「放課後のシフトですか?」
放課後のシフトというのは、16時以降の事だ。
僕にとってはシフトから外れることはある意味嬉しいことだ。
「何でも理事長命令とのことだが」
「あ~」
それだけでシフト変更の理由が分かってしまった。
「そう言えば、さっき理事長室に向かうようにと呼び出されていたようだが、君何かやったのかい?」
「いえ、特にこれと言って何もしてないんですが……ちょっと行ってきます」
主任に一礼すると、僕は厨房着を脱いで、プリエを後にしようとする。
「あ、待ちなさい」
そんな僕を呼び止めるようにして、主任が声をかけてきた。
「明日の昼の時間帯はオフシフトだから、休んでおくように」
「ありがとうございます」
ひょんなことから明日の昼食時に約束が果たせそうになった。
「それでは失礼します」
僕は主任に一礼してから、理事長室へと向かうのであった。
「失礼します。大森です」
「どうぞー」
理事長室のドアをノックすると、中から入るように返ってきたため僕はドアを開けた。
「いらっしゃい、浩介ちゃん」
「呼び出しのご用件は何ですか?」
僕はさっそく本題を切り出した。
「ぶーぶー、ちょっとは構ってくれてもいいじゃないー」
「すみません。仕事があるので」
ヘレナさんの文句にも、毅然とした態度で対応する。
僕は絶対に付き合わないという意思をはっきりするためだ。
「もう知ってると思うけど、11日から放課後のシフトが無くなったわ」
「ええ。あなたがそのようにさせたということも存じ上げております」
「その言い方だと、まるで私が悪の代官みたいに聞こえるんだけど」
僕の言い方に苦笑を浮かべながら問いかけてくるヘレナさんに僕は無言で頷いた。
「どうしてそのような事を?」
「そうね……浩介ちゃんは変な生き物を見たことはない?」
「ええ。何度か見かけました」
ヘレナさんの突然の問いかけに、僕は魔族の事だと思いながらも答えた。
「その生き物……魔族って言うんだけど、それが悪さをしないようにする退魔族専門機関に『流星クルセイダース』というのがあるのよ」
「はぁ……」
ヘレナさんの説明に、僕はどうしても生返事になってしまった。
どうしてその説明を今するのかが理解できない。
(何か、いやな予感がする)
僕は何となくだがそんな気を感じていた。
「最近は未確認の魔族まで出てきたりしてもう大変大変。そこで浩介ちゃんには『流星クルセイダース』と生徒会のサポートの任を命ずる!」
「ちょっと待ってください!」
ヘレナさんの指示に僕は待ったをかけた。
「僕はただの料理人です! 魔族とかと戦うなんて無理です!」
「知ってるわ。でも浩介ちゃんすごい体術があるじゃない」
「っ!?」
ヘレナさんの言葉に、僕は息をのんだ。
毎朝誰にも気づかれないようにやっているトレーニングを見られていたからだ。
「あの様子を見れば、十分浩介ちゃんも戦力になるわ」
「………分かりました。足手纏いにならないよう、精一杯頑張ります」
もはや僕に逃げ道などなかった。
「あ、生徒会へは11日に伝えておくわね」
「分かりました。では」
僕はヘレナさんに一礼すると、理事長室を後にした。
こうして僕は、『流星クルセイダース』の一員となることが決まったのであった。
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