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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第22話 テスト

同日、浩介が歩き出してからしばらく経った時、周囲に樹が生えている通学路を歩く一人の少女の姿があった。
「まったく紫央ったら。いきなりなのよね」

愚痴をこぼしながら歩く聖沙の手には、手提げ袋があった。
その中身は、全て小説だったりする。

「はぁ……咲良クン達に見つかったらどうしよう」

聖沙の不安点はそこだった。
彼女の目的地、『飛鳥井神社』へと向かうためには通学路を通らなければいけない。
そこは彼女のライバルでもあり生徒会長でもあるシンの通る道でもあるため、ばったり鉢合わせをしないかが不安なのだ。

「とにかく早く行きましょう」

聖沙は自分に言い聞かせるように口にすると、早足で歩く。
そんな彼女の姿を後ろで見ている存在にも気づかずに。










「にゅっふっふ」

彼女より背後の方で猫魔族三体を従えて立っている少女―パスタ―は、聖沙の後姿を見て不敵の笑みを浮かべる。

「クルセーダースを見つけたにゃ。この間のお返しをしてやるにゃ!」

パスタはそう口にすると、従えている猫魔族三体にGoサインを出す。

「「「ニャー!」」」

Goサインを出された猫魔族三体は、一気に聖沙へと迫る。

「「「ニャー!!!」」」
「えっ!?」

突然背後からしたその声に振り返る聖沙は、自分へと迫る複数の攻撃魔法が目に留まった。

(当たるっ!)

「っ!!」

もうだめだと思い、来る衝撃に備えようと目を閉じた。

(あれ? 痛く……ない)

いつまでも来ない痛みを不審に思い、恐る恐る目を開ける。

「え?」
「大丈夫か? お嬢さん」

彼女の目に見えたのは、風になびく白いマントを付けた男だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


(そうそういるわけではないよな)

歩き出してから早、小一時間経った。
戦果は全くなし。
というより戦いすらもない。
まあ、それはいいことなのだが。

「………っ!」

そんな時、僕の本能の部分に来る”何か”を感じた。
これは……千年以上の遥か昔に味わった間隔。

(魔族が出た!!)

僕は周囲に気を配る。
監視されてはいないようだ。
僕はそれを確認すると走りながら素早く、自分の作った白い仮面をつける。
次の瞬間、僕の体中に力が漲る。
それこそ、この仮面の力。
一時的に限定ではあるが、神としての能力を解放できるのだ。
だが、あくまでも情報を与えないという観点から、使える技にも縛りを付けなければいけない。
一番恐ろしいのは、自分が使った技で今の僕とイコールになること。

(ならば、僕のやることは一つに決まってる)

出来る限り技を隠す。
幸い、僕には魔族の時と神の時に使う技を区切っている。
プリマテリアライズ・オーバードライブを使わなければ、問題はそんなにないだろうし。

(見えた……って、あれは聖沙さんッ!?)

直感で走ると、そこには三体の猫魔族の攻撃を受けそうになっている聖沙さんの姿があった。

(生身で攻撃魔法なんて喰らったらっ!)

最悪の場合怪我では済まない。
僕は飛び込むように聖沙さんの前に移動すると、瞬発的に高濃度の霊力を放つ。
それだけで攻撃魔法は打ち消された。
霊力は、魔力に対して高い抵抗力を持つ。
濃度さえ濃ければ、霊力を放っただけで魔法の相殺が出来るほどだ。

「え?」
「大丈夫か? お嬢さん」

すると、背後から聖沙さんの驚きに満ちた声がした。
僕は、聖沙さんにそう尋ねる。

「は、はい。大丈夫です」

僕は聖沙さんの答えにほっと胸をなでおろした。

「さて、お嬢さん。危ないからここから離れてて」
「え? でも……」
「「「ニャー!!」」」

僕の指示に聖沙さんは何かを言いかけるが、猫魔族達は一斉に鳴くと攻撃を仕掛けてくる。

「どうやら、向こうは待てないようだ。嬢さん、僕の後ろを離れないで!」
「え、あ、はい」

相手の攻撃を相殺しながら聖沙さんにそう告げた僕は答えを聞いて、応戦する。

「ファントム・クリスチャー!」
「ニャー!」

僕の攻撃を、猫魔族は軽やかにかわす。
だが……

「我が前に跪け! ペインティング・ショッカー!」

次に僕が放ったのは必殺字だ。
白銀の光が当たりに走った瞬間、変化は訪れた。

「「「にゃっ!?」」」

僕が放った必殺技によって、地面に叩き付けられるとまるで地面に縫い付けられたかのように、身動きが取れなくなる。

「我が最強の一撃。ルーイング・セイヴァ―!」
「「「ニャー!!!」」」

僕が放った白銀の光に包まれた猫魔族は、光が晴れた頃には姿はなかった。

(魔界に戻ったようだな。それに)

僕は猫魔族がいた場所のさらに奥の方に視線を向ける。
僕には見えないが魔族がいる気配はまだある。
来るかと思い身構えると、その気配はどんどんと遠ざかって行く。
どうやら、撤退したようだ。

(テストの第一段階は成功だな)

仮面をつけていても、若干レベルは落ちるが満足のできる戦力を発揮することが出来た。
あとは、僕と存在がイコールにならないかだ。

「怪我はないか?」
「あ、はい」
「それでは、失礼」
「あのッ!」

その場を去ろうとした僕を引き留めたのは、聖沙さんだった。

「助けていただいて、ありがとうございました! 出来れば、お名前を」
「……」

聖沙さんの予想外の言葉に、僕は反応に困った。
本名を言っては元も子もないし。

「ブレイド」
「ブレイド様……」

何だかいつもの聖沙さんじゃない!。
というより、僕は彼女の事を全くと言っていいほど知らないからかもしれないが。

「それでは、さらばだ。可憐な御嬢さん」

僕は最後にそう告げると、その場から瞬間移動で離れた。
さらに、そこで仮面を外しさっき自分がいた方へと向かう。
かなり歩いたところで、

「あら、高月君じゃない。何してるのよ?」
「僕は散歩だ。そっちこそ何をしてるんだ?」

僕に気が付いた聖沙さんは話し掛けてきた。
疑うような眼差しは今の僕にとっては不安をあおるだけだからやめてほしい。

「私はお使いよ」
「そうか。っとあまり引き留めても悪いな」

僕はわざとらしく分かれるきっかけを作る。

「それじゃ」
「あ、ちょっと待って」

聖沙さんが僕を引き留めた時、僕は心臓が口から出そうなほど驚いた。

「さっき、白い仮面にマントを着た男の人とすれ違わなかった?」
「何だそりゃ? そんな珍妙な奴は会ってもいないけど」
「そう………」

僕の答えに、聖沙さんは残念そうに返した。

(自分で言っていて悲しくなってきた)

本当に珍妙そうなだけに、僕は泣きそうだった。

「そいつがどうしたんだ?」
「ちょっと助けてもらったから、お礼をしっかりと言おうと思っただけよ」
「そうか。それじゃ、僕は失礼させて貰うよ」

僕の問いに答える聖沙さんの様子を見て、僕は第二段階も合格だと心の中でガッツポーズを取りながら、集合場所でもある九条家前へと向かうのであった。

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